Nov 17, 2007

2001.11.29 「ウェルカム/グラクソ v. 沢井製薬(アシクロビル事件)」 東京高裁平成13年(ネ)959

購入製剤から有効成分を抽出して製剤を製造販売する行為は再生産?それとも消尽?(アシクロビル事件): 東京高裁平成13年(ネ)959

【背景】

アシクロビルをカバーする化学物質発明の特許権(特公昭56-033396; 登録番号1090820)の存続期間が延長された。原告(グラクソ)は、本件特許権の独占的通常実施権者である。一方、被告(沢井製薬)は、特許権の延長期間中に、原告が製造販売する製剤を購入した上で、その製剤から有効成分であるアシクロビルを抽出・精製し、被告製剤を製造・販売した。原告は、被告が製造販売した製剤が特許権を侵害するとして損害賠償を請求した。

アシクロビルは、帯状疱疹等を効能効果とする抗ウイルス化学療法剤(販売名: ゾビラックス(Zovirax))の有効成分である。

【要旨】
裁判所は、
「被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出し,精製し,再結晶させた前記の行為が,控訴人グラクソが販売した原告製剤に含まれるアシクロビルをその同一性の範囲内で単に使用し,譲渡等する行為とみられる限り,本件特許権の効力は,前記のとおり,消尽により消滅しているため,これには及ばないものであり,本件特許権の効力が及ぶのは,被控訴人沢井製薬の上記行為が,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを生産したものと評価される場合のみであることは,前記のとおりである。
しかし,~被告製剤に含まれるアシクロビルは,原告製剤に含まれていたアシクロビルそのものであって,アシクロビルについて何らかの化学反応が生じたり,何らかの化学反応によりアシクロビルが新たに生成されたりしたわけではないのであるから,被控訴人沢井製薬の行為についてみると,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを新たに生産したものと評価することはできないのである。
以上によれば,被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出して,これを含有する被告製剤を製造した行為は,本件特許発明の実施対象となるアシクロビルを生産する行為ではなく,単にこれを使用する行為というべきであるから,本件特許発明の実施対象という側面からみる限り,これを新たな生産行為ということはできず,したがって,被控訴人沢井製薬による被告製剤の製造行為についても,被控訴人らがこれを譲渡した行為についても,本件特許権の効力は及ばないものという以外にない。」
と判断した。また、
「本件は,特許製品の部品を交換した事例ではないが,あえて部品交換の事例に例えていえば,特許発明の実施対象であるアシクロビルを部品として使用した製品(原告製剤)から,その部品そのものを取り出し,これを他の製品(被告製剤)の部品として使用しただけのことであり,実施対象であるアシクロビルは,その同一性を維持しつつ,その本来の目的に供されているだけのことである。」
「本件特許発明の対象となる部分は、アシクロビルであり、原告製剤全体でも、被告製剤全体でもないのであるから、~アシクロビルについてのみ、本件特許発明の実施品としての同一性を検討したのは正当であり、原告製剤と被告製剤との間でその同一性を判断する必要は無い。」
と言及した。

特許権の効力は消尽により消滅しているため及ばないし、また、被告の行為は、本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを新たに生産したものと評価することはできないので、特許権の効力は及ばない。控訴棄却。

【コメント】
化学分野で、消尽と再生産が争点とされた数少ないケース。後発品メーカーが、特許侵害せずに販売義務を履行するためやむを得ず行った行為(薬価の高い先発品をわざわざ購入して、薬価の低い後発品を販売するという採算の合わない行為)であり、レアなケースではなかろうか。アシクロビルという物質(有効成分)にしか特許権が成立しておらず、製剤そのものについては特許権は成立していない。従って、発明の対象であるアシクロビルを再生産していない限り、消尽であるという裁判所の判断は妥当だろう。
原告は、「アシクロビルを含有する医薬組成物」のようなクレームもセットで特許を取得していたならば、被告行為が製剤の再生産に該当するから侵害であるという主張を発展できたかもしれない。

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