Dec 2, 2007

2004.09.16 「シャイアー バイオケム v. 特許庁長官」 東京高裁平成15年(行ケ)405

薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明に進歩性は認められるか?: 東京高裁平成15年(行ケ)405

【背景】
「オキサチオラン誘導体を含む3TC耐性HIVの感染治療用医薬調合物」に関する発明についての、進歩性なしとの拒絶審決に対する審決取消訴訟。
引用刊行物記載の発明は、本願化合物1であるオキサチオラン誘導体と一致するものの、立体配置の限定が無い点、及び3TC耐性というHIVの限定が無い点で、本願発明とは相違していた。
原告は、本願化合物1と3TCとで構造がきわめて類似していることから、当業者が、本願化合物1が交差耐性を持つと考えるのは当然であり、3TC耐性HIV株が本願化合物1に対して感受性を有することを確認する実験を行うことは容易に想到できるものではない、と主張した。

【要旨】
裁判所は、
「本願化合物1と3TCとの構造の間で,ペントース環の酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わったという差しかないとしても,それが,交差耐性の発生の蓋然性にどの程度影響するのかについて,原告は具体的な主張をせず,これを認定できる証拠もない。~構造が非常に類似した化合物が多くの場合に交差耐性を示すと一般に考えられていることを踏まえたとしても,本件において,原告が主張するように,酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わっただけであるとか,糖部分の構造が類似している,との事実をもって,二種の薬剤間で交差耐性が生じると当業者が当然に考え,実験して確認することに思い至らない,ということはできない。~本件優先日当時,本願化合物1において交差耐性が生じる可能性がどの程度高いものと考えられていたかは,本件証拠上明らかではない。しかし,~その治療薬の研究開発は喫緊の課題であった。~このような状況の下では,交差耐性が生じる蓋然性があっても,薬剤の候補となるべき新規な化学物質を製造したとき,その薬剤が効果を発揮するかどうか実験して確かめるきわめて強力な動機付けが当業者にあることは,明らかである。~HIVウイルスの薬剤に対する(交差)耐性を確認する実験方法は,本件優先日当時,周知かつ確立しており,これを実施することに特段技術的困難はなかった,と認めることができる。
~以上のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことに強力な動機付けがあり,実験をすることを選択することは何ら困難なことでもなく,その実験方法も周知なものであって実施に何ら困難はなく,実験を行いさえすれば,交差耐性を示すか否か容易に分かる,すなわち,本願化合物1が効用を有するか否か分かるものである以上,当業者が本願発明を推考するのが容易であることは当然である。審決の相違点についての判断に誤りはない。~本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであり,また,実験をすることに格別の困難もないのであるから,その実験が成功することが予測できないということだけから,進歩性を認めることができないことはいうまでもないのであって,原告の主張は採用できない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】
薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明についての進歩性が判断された事件。
ちなみに、米国及び欧州では、対応特許が成立しており(US6,228,860B1、EP756595B1)、この点、日本の進歩性の判断が比較的厳しのか、出願人の主張が足りなかったのかは不明であるが、本出願に対応する米欧出願の審査履歴を参考に比較検討することは、薬剤耐性という観点で医薬発明の進歩性を主張する上で、さらには薬剤耐性という知見が得られた際にライフサイクルパテントの可能性を検討する上で非常に有用だろう。

3TC:
  • グラクソ・スミスクライン社が販売している、HIV感染症おける他の抗HIV 薬との併用療法を効能・効果とする抗ウイルス化学療法剤(核酸系逆転写酵素阻害剤、一般名:ラミブジン(Lamivudine)、略号:3TC、販売名:エピビル錠(Epivir tablets))である。
参考: 「耐性」関連で進歩性が争われた最近の判決
  • 2006.10.25 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10773

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