Dec 29, 2007

2007.12.27 「アステラスのセフゾン®カプセル特許侵害訴訟で最高裁が大洋薬品の上告を棄却」

アステラスと大洋薬品との間で争われていた経口用セフェム系製剤セフゾン®カプセル(Cefzon、一般名:セフジニル(Cefdinir))の特許侵害訴訟について、最高裁が大洋薬品の上告を棄却したため、アステラスの勝訴が確定した。

参考:

Dec 28, 2007

2007.12.27 「米国におけるアリセプト® 口腔内崩壊錠の後発品申請に対する連邦地方裁判所の判断」

Mutual社によるアリセプト(Aricept、一般名: 塩酸ドネペジル(donepezil hydrochloride))口腔内崩壊錠のANDA申請がエーザイ(Eisai)の米国物質特許(4,895,841)を侵害するとして、エーザイが米国ニュージャージー州連邦地方裁判所に提訴していた件について、同裁判所は、Mutual社が特許に関して争うANDA申請をせず、またFDAの許可を未だ取得していないことから、両社間に訴訟要件を満たすような争いがないとの判断により、現時点におけるエーザイの提訴を却下した。

参考:

Dec 25, 2007

2007.11.22 「アンジオテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10303

発明の構成要素の用途は発明を特定する要素となり得るか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10303

【背景】
「抗-血管形成性組成物およびそれにより被覆されたステント」に関する発明の特許権者(共有者)である原告が、特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許(特許第3423317号)を取り消す旨の決定がされたため、同決定の取消しを求めた。

請求項1:
身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体通路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステント。
(他請求項は省略)

決定の理由の要点は、刊行物記載の発明に基づき進歩性を有しないから取り消されるべきであるとしたものである。

【要旨】
裁判所は、
「本件第1発明の要旨のうち
「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,」
の部分は,端的に
「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであり,」
と規定するのと何ら変わりはない。
この点につき,原告は,タキソールは,抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆されるのであり,その点が,本件発明1の要旨の「ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されて」おり,かかる「抗血管形成ファクタがタキソール」であるという規定に反映されているとか,タキソールといっても,薬剤としての用途が異なれば,別の物であることは我が国の特許法における確立した考え方であると主張する。
しかしながら,物の発明である本件発明1において,ステントを被覆する物質として構成されているタキソールの用途ないし作用が何であるかは,本来,発明を特定する要素とはなり得ないものである。仮に,原告の上記主張の趣旨が,タキソールを抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆する場合と,他の作用を奏する薬剤として(例えば,抗増殖性を有する薬剤として)ステントに被覆する場合とでは技術思想が異なるというものであったとしても上記用途ないし作用の相違は単に身体通路の再発性狭窄を予防する機序に関係するのみであって,同一構成から成る発明を別発明と評価し得るほど,その技術思想において異なるということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
そしてそうであれば,ことさら「抗血管形成性」に着目しなくとも「再発性狭窄を処置または予防するため」に使用される血管ステントに,タキソールを被覆することが,引用各刊行物から容易に想到することができれば,相違点に係る本件発明1の構成は容易想到ということができる。」
と判断し、結論として進歩性なしとした特許庁の判断を支持した。
請求棄却。

【コメント】
発明の構成要素のひとつ(たとえば、本件での"タキソール")が有する特徴的な用途または作用(たとえば、本件での"抗血管形成性")によってその構成要素をクレームのなかで特徴づけても、その構成要素のみに対する特徴づけは発明全体を特定する要素とはなり得ない。従って、用途または作用によってある構成要素を特徴づけても、発明全体の特許性判断においては、その構成要素自体で(特徴づけに関係なく)評価されることに注意が必要である。

参考:


Dec 23, 2007

2005.11.16 「千寿製薬・大塚製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10184

既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10184

【背景】
先発メーカーの先の薬事承認処分(オキシグルタチオン、眼手術時の洗浄)の後、別メーカーが本件薬事承認処分(オキシグルタチオン含有キット、販売名:オペガードネオキット(Opeguard neo kit))に基づいて、新規包装体特許(特許第3116118号)の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。先の処分に対応する特許権者が別人であろうと関係ない。請求棄却。

【コメント】
存続期間の延長登録要件として、延長登録の特許権の効力に関する規定(特68条の2)から、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から判断するという判決。既存薬の有効成分及び効能・効果に変更が無い限り、新規製剤に関する承認を得るために該製剤をカバーする製剤特許権を実施できなかったとしても、該製剤特許権の存続期間を延長することはできない。

個人的な感想であるが、登録要件を権利の効力の規定(特68条の2)を持ち出して判断し、さらに「用途」という要件を一義的に「効能・効果」であると解釈するという、存続期間延長登録要件に関する下記一連の判決内容にはいまいち納得いかない感じを受けるのは私だけであろうか? 既存薬の毒性を低減させたり、有効性を持続させたり、医師・患者の使い勝手を向上させたりするための改良薬は、益々強く望まれるようになってきている一方、多大な開発費用を要するのは事実である。存続期間延長制度の立法当時には、このような実情を想定していなかったとしても、登録要件を権利の効力の規定から説き起こすのはやはり乱暴ではなかろうか? また、既存薬の組成や用法・用量等を改善した用途発明の特許権も、承認が得られるまで実施できないという点では同様であるのだから、その処分が既存薬の効能・効果と同一だからという理由によって存続期間延長登録の対象にならないとするのは、そもそもの存続期間延長制度の趣旨に反するのではなかろうか? 用途発明として、効能・効果に限らず、用法用量や製剤に特徴がある"用途"発明が医薬発明として認められている(「医薬発明」の審査基準においても明記されいるところである)ことを踏まえれば、仮に延長登録出願の登録要件として"用途"の同一性を判断するとしても、その"用途"を一義的に医薬品の"効能・効果"とする解釈は、医薬発明の"用途"の解釈と食い違っている。

参照:

Dec 20, 2007

2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389

公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な合剤の発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10389

【背景】
「トラネキサム酸及びエテンザミドを含有する解熱鎮痛消炎剤」の出願に対して、特許庁は、トラネキサム酸と他の解熱鎮痛消炎剤との併用が記載されており、その一例としてエテンザミドが記載されていた引例に基づいて、進歩性なしとする拒絶審決を下した。本願明細書には、トラネキサム酸と、エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤との配合例の記載がなく、比較して格別に顕著な効果を奏するとの記載もなかった。しかし、エテンザミドとの併用が相乗効果を示すことを本願明細書中に示しており、且つ、出願人は、審査中、試験成績証明書にて他の組み合わせでは抗炎症効果の増強作用が認められないことを示していた。

【要旨】
格別顕著な効果を示すには、単なる相乗的効果では足りず、他では得ることのできない固有の効果があるという根拠を明細書に記載しなければならない。試験成績書でデータを示しても、明細書には格別顕著な効果を奏するものであることをうかがわせる記載は無いことから、出願人の主張は、明細書の記載に基づかないものである、とされ、進歩性なし。請求棄却。

【コメント】
組み合わせの上位概念が公知だが、公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な併用に関する発明(選択発明)において、進歩性ありと主張するためには、明細書中に、その構成や効果を単に記載するだけでは足りず、引用発明となるべき他の組み合わせと比較した(つまり格別に)顕著な効果を記載する必要がある。

2007(平成19)年3月26日、特許庁審判部から進歩性検討会報告書が公表され、その中で本事案が検討されている。
引用発明と比較した効果は明細書で主張する必要があるとの結論が導かれているかと思われるが、思わぬ引例により進歩性が否定された場合、明細書中に、その引例と比較した効果を主張していなかったがために拒絶理由を覆せなくなってしまうことが危惧される。そもそも審査官が果たすべき進歩性があるか否かを判断する負担を、出願人に過度に課すことになるのではなかろうか?本事案及び本検討会報告書の内容をよく吟味して、出願する際には、進歩性の引例となる先行技術をしっかり調査し、明細書に引例との比較結果を記載すべきか否かを慎重に検討する必要があるだろう。

参考:資料室(答申・報告書・講演録) >研究会・懇談会等 >進歩性検討会報告書(平成19年3月 特許庁審判部)より抜粋。
(1)本願明細書における顕著な効果の記載の有無について
本願明細書の記載を見ると,エテンザミドとトラネキサム酸を併用した実施例しか記載されておらず,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を使用した実験例は一切ない。また,本願明細書に「エテンザミドが特に好ましい」との記載はあるものの,その記載だけで,この効果が技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるか否か判断できない以上,本願明細書に他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて顕著な効果について記載があるとするには無理があるのではないかとの結論となった。

(2)顕著な効果の認定における実験成績証明書の参酌について
審査基準には,「引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは,意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。」と記載されており,実験成績証明書を参酌して顕著な効果を認定することは可能である。しかしながら,同時に「明細書に記載されていなく,かつ,明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。」とされており,明細書に構成が記載されていれば,どのような場合でも,その効果を事後的に実験成績証明書で補充できるわけではない
したがって,本願明細書の「エテンザミドが特に好ましい」との記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるかどうかということが問題になるわけであるが,上で述べたように,この記載のみから当業者が他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果があると推論するには無理があると考えられる。
なお,特36条の改正(平成6年法改正)に伴い,請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載する必要はなくなった(委任省令要件として扱わない)のに,明細書にその効果が記載されていないことで進歩性が否定されることについて疑問視する意見もあったが,法改正の趣旨は明細書の記載要件として,従来技術との関連において有する有利な効果を不要としただけであって,請求項に係る発明が引用発明に比較して有利な効果によって進歩性の存在を肯定的に推認しようとするのであれば,明細書にその効果が記載されている必要がある

(3)本願発明と引用発明との対比判断(顕著な効果の判断)について
エテンザミドを含むサリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸との組み合わせと両者の協力作用が引用例1に記載されており,また,同種薬剤の組み合わせであるイブプロフェンとトラネキサム酸との併用による効果が引用例2に記載されている以上,本願発明が効果として比較する引用発明は,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤とトラキネム酸との組み合わせであり,この組み合わせの効果と比較して,本願発明の組み合わせにさらに顕著な相乗効果が認められなければ進歩性は否定されてもやむを得ないとの結論となった。

Dec 19, 2007

2005.10.26 「メルク・ホエイ v. 三共」 知財高裁平成17年(行ケ)10418

「メバスタン」は「メバロチン」と混同するか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10418

【背景】
メルク・ホエイ(原告)は、「メバスタン」の片仮名文字と「MEVASTAN」の欧文字とを上下二段に書してなり、指定商品を第5類「薬剤」とする登録商標の商標権者であったが、登録商標「メバスチン」(引用E商標)及び登録商標「MEVASTIN」(引用F商標)(いずれも指定商品「薬剤」含む)と商4条1項11号に該当し、三共(被告)が使用する登録商標「メバロチン」等(引用A~D商標)(いずれも指定商品「薬剤」含む)と商4条1項15号に該当するとした無効審決に対して取消訴訟を提起した。

【要旨】
裁判所は、
商4条1項11号該当性について、「称呼において互いに相紛らわしい類似した商標ということができる。なお,原告は,特許庁の審査基準を引用して,本件商標と引用E,F商標は,審査基準に照らしても称呼上明らかに非類似の商標であると主張する。しかし,当該審査基準の趣旨はともかくとして,審査基準は審査官による審査の際の一つの目安,指針を示したものにすぎず,商標の類否はあくまで個々具体的に判断すべきものであるから,審査基準に依拠してその類否を云々する原告の主張は失当である。原告は、本件商標に接する取引者・需要者は医師,薬剤師等の医薬品の取引に相当の注意力を有する専門家であるから,混同されるおそれは皆無であると主張する。確かに,医師や薬剤師は,医薬の知識を有する専門家であり,薬剤の投与等について高度の注意力が要求されている者であるが,だからといって,およそ薬剤の取引者・需要者である医師,薬剤師など医療関係者であれば,一般的に薬剤について混同するおそれはないということはできないのであって,現に,後記のとおり,我が国の医療現場で,医師や薬剤師等の医療関係者において,名称の似た薬剤を誤って処方してしまう例が報告され,その数も決して少なくないことが認められる(乙52号証の1,53号証の1,2)のであるから,原告の主張は採用することができない。」
と判断した。
また、裁判所は同条項15号該当性の点についても検討しており、「メバ」の文字及び音部分が、取引者・需要者の注意を引く特徴的な部分に当たるとみることを妨げるべき事情は見当たらないとして、原告の主張を採用しなかった。
請求棄却。

【コメント】
三共(第一三共)のメバロチン®(Mevalotin、一般名: プラバスタチンナトリウム(pravastatin sodium)、高脂血症治療薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤)の日本での特許切れが2002年であり、後発品が既に参入している。 後発品の商標を無効にしたとしても焼け石に水なのかもしれないが・・・。また、不正競争として訴えても良かったのでは(?)。ちなみに、第一三共株式会社の2008年3月期中間決算短信及び補足資料(2007年11月6日発表)によると、メバロチンの売上高は、2006年度において935億円であり、前年に比べ497億円減、2007年度も売上減となる予測である。米国での特許切れによるジェネリック参入の本格化が大きく影響したようである(海外ではBristol-Myers Squibbが販売。販売名はPravachol®)。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。

参考:メバロチンの世界売上高推移

2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)

Dec 18, 2007

2005.10.11 「ロシュ(参加人:武田薬品) v. 特許庁長官(酢酸ブセレリン徐放性製剤事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10345

既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10345

【背景】
先の薬事承認処分(一般名:酢酸ブセレリン(buserelin acetate)、販売名:スプレキュア(Suprecur)、子宮内膜症)の後、本件薬事承認処分(スプレキュアMP1.8(酢酸ブセレリン徐放性製剤)、子宮内膜症)に基づいて、新規製剤特許の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
特許法としては、薬事法による承認が得られた品目に限定して延長に係る特許権の効力が及ぶとするものではなく、延長に係る特許権の効力は、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶとしたものであり、このような概念によって、薬事法の規定とは別に、処分という概念を画そうというものである、と裁判所は解釈した。従って、本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。棄却。

【コメント】
製剤に関する一変承認に基づいて、その新規製剤特許の延長登録を試みた事案。補助参加した武田薬品が非常に明快な主張を展開、裁判所もやむなく権利の効力の規定(特68条の2)から登録要件の規定に関する解釈を説き起こさざるを得なかった。現法律では問題がある点も言及され、制度の歪みについて一応の認識がなされた。なお、有効成分以外の製剤処方を変えたジェネリック医薬品に対しても、先発品の延長登録特許権の効力は、有効成分及び効能・効果が同一であればその権利範囲内で及ぶ点は変わりなし。
上告受理申立てたが不受理(2006.03.07)。

本件承認医薬品であるスプレキュアMP1.8は、Aventis(現Sanofi-aventis)社と販売契約を締結した持田製薬が販売。同じくLH-RH誘導体である「リュープリン」を販売する武田薬品が競合製品「スプレキュア」の存続期間の延長登録に協力した理由を考えてみることは興味深い。

参考:

Dec 16, 2007

2007.11.13 「ホーファーリサーチ v. 東洋新薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10098

動機付けは、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10098

【背景】
被告(東洋新薬)は「皮膚外用剤」に関する特許(第3533392号)の特許権者である。本件は、無効審判請求人である原告(ホーファーリサーチ)が、審決のうち請求不成立とされた部分についての取消しを求めた事案である。
争点は、進歩性及びサポート要件。

請求項1:
松樹皮抽出物および平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲンペプチドを含有する,皮膚外用剤であって,該松樹皮抽出物はカテキン類を5重量%以上および2~4量体のプロアントシアニジンを20重量%以上含有し,かつ,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し,そして,プロアントシアニジンが0.001重量%~2重量%含有され,コラ-ゲンペプチドが0.0001重量%~5重量%含有される,皮膚外用剤。

争点となった引用発明との相違点1:
引用発明には平均分子量3,000以上7,000以下の加水分解コラーゲンを用いることが記載されていない点

【要旨】
進歩性に関する争点について、裁判所は、
「甲12には,実施例1において,平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤に皮膚の抗老化効果,しわ抑止効果が認められたことが記載されている。そうすると,平均分子量7000以下との記載はないものの,上記のとおり甲12に平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤において,皮膚の抗老化等の効果が認められたことからすれば,審決が,甲2発明と本件発明2との相違点1に関し,甲12に記載ないし示唆がないと認定した点(14頁23行~27行9行)については誤りである。なお,審決は,上記に関し,保湿性に優れた効果を示す範囲として平均分子量3000以上7000以下のコラーゲンペプチドを使用することが示唆されていないことをその理由としているが,化粧品等の皮膚外用剤において,相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして,保湿性の観点でなければならないということはなく,上記甲12のように抗老化効果,しわ抑制効果等の観点であっても差し支えないから,上記認定を左右するものではない。」
また、
「甲36の上記記載によれば,平均分子量3,000~7,000の範囲を含むコラーゲンペプチドが保湿性を目的として皮膚外用剤に配合されることが技術常識であることが推認できる。よって,甲36を適用する動機付けはあるということができる。」
と判断し、結論として、
「原告主張の取消事由4に関し,本件発明2と甲2発明との相違点1に関しても,当業者にとって甲12の記載,甲36の技術常識から当業者にとり容易想到であると判断すべきである。
そうすると,審決は甲2発明と本件発明2との相違点1,2のいずれについての判断も誤ったことになり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
とした。

また、サポート要件に関する争点について、裁判所は、
「本件明細書に開示された内容(上記化粧水2,3が化粧水6,7等に比べ保湿効果,血流改善効果がある等)からは,本件発明2における「該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点につき,本件明細書の発明の詳細な説明にこれを十分裏付ける記載がないというほかなく,いわゆる原告のいうサポート要件を欠くというべきである。」
と判断した。

特許庁がした審決のうち請求不成立とされた部分を取り消す。

【コメント】
審決が取り消された事案。
引用発明との相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないということはない(異なる効果の観点であっても差し支えない)と判断した点に注意。
サポート要件についても、当たり前のことではあるが、特許庁は言いくるめることが出来ても、第三者からの攻撃に耐えることができるように客観的に見てつじつまの合うデータの記載が必要である。

See also:

Dec 15, 2007

2005.08.30 「アステラス(藤沢) v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10312

医薬用途発明に薬理データは必要か?: 知財高裁平成17年(行ケ)10312

【背景】
原告(藤沢薬品)は、「ピラゾロピリジン化合物の新規用途(透析時低血圧症)」に関して、拒絶査定となり、拒絶査定不服審判を請求した。しかし、本願化合物が本願疾病の治療剤に利用できることを裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載は明細書中に存在しないことは明らかであるから、本願発明の詳細な説明が特36条4項に反するとする審決を受けた。原告は、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
本願明細書の記載によれば、本願発明の詳細な説明には、本願化合物が記載されているほか、本願化合物が本願疾病の治療剤の有効成分であること、同治療剤の有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されているものの、本願化合物が本願疾病の治療剤に利用できることを裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載は存在しないことは明らかである。発明の詳細な説明に、治療剤の有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されているだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において有効性があるか否かを知ることができないことは、前記判示(東京高裁平成8年(行ケ)201同平成15年(行ケ)104)のとおりである。よって、本願発明の詳細な説明が特36条4項に反するとした審決の判断に誤りはない。請求棄却。

【コメント】
医薬の用途発明に必要な記載用件としての薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないとして、明細書の記載不備で拒絶した審決が支持された事例。薬理データは明細書に記載しなければならない。審査過程で薬理データを主張しても、記載要件違反は解消できない(審査基準)。

ところで、医薬として有用な新規化合物発明の出願において、「医薬用途(例えば「~化合物を含有する~剤」)クレーム」は薬理データが全く示されていないことを理由に拒絶される一方、用途クレームと同じ化合物範囲をスコープする「化合物クレーム」は薬理データが無いことを理由に拒絶を受けないという審査事例が見受けられる。その用途において有用だと認められたうえで新規化合物クレームが登録されるのに、その用途クレームが拒絶されるというこのような事例に、違和感を感じるのだが・・・。

参考:
(財)知的財産研究所 知的財産権関連判決の英文データベースに英文判決要旨あり

Dec 14, 2007

2005.06.17 「住商エレクトロニクス v. A」 最高裁平成16年(受)997

専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使は制限される?: 最高裁平成16年(受)997

【背景】
「生体高分子-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」に関する特許発明(第2621842号)についての専用実施権者である医薬分子設計研究所及び特許権者であり代表取締役でもあるAが、住商エレクトロニクスが輸入販売しているCD-ROMに記録されているプログラムの複合体探索方法が上記特許発明の技術的範囲に属する等主張して、販売差止を求めた。範囲を全部とする専用実施権を設定した特許権者も差止請求権を行使し得るとした高裁の判断(平成15年(ネ)1223)に対して住商エレクトロニクスは最高裁に上告した。

【要旨】
(判決文そのまま)
主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告代理人中野憲一ほかの上告受理申立て理由第5について
 1 本件は,発明の名称を「生体高分子-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する被上告人が,本件特許権の侵害を理由として,上告人に対し,原判決別紙ロ号物件目録記載の物件の販売の差止めを求める事案である。被上告人は,本件特許権について,専用実施権者を株式会社A,範囲を全部とする専用実施権を設定している。
 2 特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 特許権者は,特許権の侵害の停止又は予防のため差止請求権を有する(特許法100条1項)。そして,専用実施権を設定した特許権者は,専用実施権者が特許発明の実施をする権利を専有する範囲については,業としてその特許発明の実施をする権利を失うこととされている(特許法68条ただし書)ところ,この場合に特許権者は差止請求権をも失うかが問題となる。特許法100条1項の文言上,専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はない。また,実質的にみても,専用実施権の設定契約において専用実施権者の売上げに基づいて実施料の額を定めるものとされているような場合には,特許権者には,実施料収入の確保という観点から,特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があることは明らかである上,一般に,特許権の侵害を放置していると,専用実施権が何らかの理由により消滅し,特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があること等を考えると,特許権者にも差止請求権の行使を認める必要があると解される。これらのことを考えると,特許権者は,専用実施権を設定したときであっても,差止請求権を失わないものと解すべきである。
 3 以上によれば,被上告人が本件特許権に基づく差止請求権を行使することができるとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

【コメント】
専用実施権者が侵害行為を放置することはまずあり得ないであろうから、専用実施権者を差し置いて特許権者のみが差止請求権を行使するという状況は実際のところ非常にレアである。最高裁判決ではあるが、実務上それほど重要な判決ではないだろう。

参考:

Dec 13, 2007

2007.12.13 「EPC2000 enters into force today」

EPC2000が本日発効。

EPO website:
13.12.2007 New convention for European patents
The revised European Patent Convention (EPC) enters into force today, providing Europe with a new legal framework for patent protection.

Dec 12, 2007

2007.12.11 「塩野義(シオノギ)製薬が米国における「クレストール」後発品申請に対して特許侵害訴訟を提起」

2007年12月11日、塩野義(シオノギ)製薬は、AstraZenecaに導出している高コレステロール血症治療薬「クレストール(Crestor)®」(一般名:ロスバスタチンカルシウム(Rosuvastatin Calcium)、HMG-CoA 還元酵素阻害剤)のANDAを行った後発品メーカー7社に対して、米国特許(RE 37,314)に基づき、AstraZenecaと共同で米国デラウェア州地区連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起した。
後発品メーカーは、クレストールをカバーするOrenge Book収載の3つの特許US6,316,460/US6,858,618/USRE37,314)について、いずれも非侵害か、無効であるか、権利行使不能であると主張している。Orange Bookによれば、RE37,314特許存続期間は2016年1月8日まで。  

塩野義(シオノギ)製薬プレスリリース:
米国における「クレストール®」後発品申請に対する特許侵害訴訟の提起について

AstraZenecaプレスリリース:
AstraZeneca Files Patent Infringement Actions in Response to Crestor™ ANDAs

2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10459

各々効果が確認されている有効成分の配合剤に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10459

【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明が進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟(2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458)が係属しつつ、特許権者は本件特許につき訂正審判を請求したが、訂正後の発明は特29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるとされ、審判請求は成り立たないとされた。その審決取消訴訟である。

訂正審判請求による特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%を含有することを特徴とする点鼻剤。

本件訂正発明と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると,両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%、マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%の配合剤であるのに対し,後者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度2%の単剤である点で相違していた。

【要旨】
(1) 配合自体の容易性の判断

ゼファーマ(参加人)は、
「刊行物に3剤(クロモグリク酸ナトリウム,抗ヒスタミン剤,血管収縮剤)から選ばれる2剤の配合(併用)の例が記載されていても,当業者は,3剤を配合して初めて生じる物理的変化や化学的変化,副作用,拮抗作用等の有害現象が生じ得ると考える。したがって,2剤配合剤を組み合わせて,単純に3剤配合剤を容易に想到し得るものではない。また,刊行物6によれば,クロモグリク酸ナトリウム単剤と,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合剤との間では治療効果に相違がなく,かえって配合剤には副作用(鼻内への強烈な感触,鼻の灼熱感と痛み,鼻のほてり)が見られる。~むしろ,刊行物6の上記報告によれば,当業者はクロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合を避けようと動機付けられる。」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「A意見書(甲13)は,~3剤配合における有害現象の発生可能性に言及するものではあるが,その言及は一般論としてのものであって,~その薬効低下・有害現象の発生が懸念されるべき具体的事情があることに言及しているものではなく,むしろ~安全性については,少なくとも,濃度の観点からは,直ちにその配合を躊躇するべきであるといえるような格別の事情はない,との理解を排斥するものではないと解される。」
さらに、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。

(2) 配合量の容易性の判断

裁判所は、
「A意見書(甲13)は,「医療用の半分の濃度であって,有効濃度範囲と証明されていない1%クロモグリク酸ナトリウム」というだけであって,1%は有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでない。~してみると,「出願当時,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムの濃度を1%に設定することを避け,1%よりも高濃度に設定しようと動機付けられたことは明らかである」とする参加人の主張は,理由がない。そして,~単剤として有効であることが確認されている濃度2%のクロモグリク酸ナトリウムに基づいて,配合剤の濃度として1%をその候補値の1つとすることを想到することが,医薬業界の技術常識に反するものであるということもできない。」
と判断した。

(3) 訂正発明の効果に関する判断

ゼファーマ(参加人)は、訂正発明の濃度の特異性を示すデータを補充して訂正発明の「ピーク的効果」を主張した。
しかし、裁判所は、
明細書に記載された事項としては,その最終的な算出結果である「有効率」の数値のみであって,前記9つの諸症状の各々の改善度や,濃度の特異性を示すピーク的効果を看取し得る根拠となるデータは,具体的に記載されていない。~本件明細書には,9つの症状ごとの改善度が一切記載されておらず,具体的にどの症状が「飛躍的に改善」するものであるのかを確認することもできない。したがって,参加人が主張する訂正発明のピーク的効果も9つの症状の飛躍的改善も,本件明細書の記載からは具体的に確認することができないというほかない。」
また、
「3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。~さらに,塩酸ナファゾリン及びマレイン酸クロルフェニラミンの配合量に関して,訂正発明以外の他の態様が容易に想定されるところ,本件明細書中には訂正発明の組成以外に,訂正発明に係る3剤が配合された他の態様は記載されていない。したがって,従来公知の単剤である比較例1の有効率との比較のみをもって,訂正発明の実施例の有効率が格別顕著であるということはできない。」
と判断した。

進歩性ないため訂正発明は独立特許要件を満たさず。
請求棄却。

【コメント】
格別顕著な効果は、当業者に予測不可能であることを客観的に示したデータを明細書に記載して主張しておく必要があるだろう。
一般的な意味での「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。具体的事情を主張する必要がある。

脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。

本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。

Dec 11, 2007

2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458

各々効果が確認されている有効成分の配合剤に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10458

【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明の進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟である。

特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする点鼻剤又は点眼剤。
2. 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の点鼻剤又は点眼剤。
3. 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の点鼻剤又は点眼剤。

本件発明1と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると、両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、以下の点で相違していた。
(A) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの他に抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤も含有するのに対し、後者は有効成分はクロモグリク酸ナトリウムのみである点
(B) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%であるのに対し、後者はその倍の2%である点

【要旨】
1. 相違点(A)に関する進歩性判断について
ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても鼻炎治療効果に差が見られず,逆に,抗ヒスタミン剤を配合することは副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物6,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、
裁判所は、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。
また、同様に、ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合しても鼻炎治療効果が増大せず,逆に,血管収縮剤を配合することが副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物3,4,8,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、裁判所は、
「特に留意すべき副作用が確認されなかったことも踏まえると,これを阻害するべき個別具体的な事情はないといわざるを得ない。」
と判断した。

2. 相違点(B)に関する進歩性判断について
裁判所は、
「「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。」とした決定の判断に誤りはない。」
と判断した。

ゼファーマ(参加人)は、明細書記載の試験例等で示された有効率の上昇が当業者の予想を超える顕著な効果である旨主張したが、
裁判所は、
「訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロモグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,いずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されているものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階では,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。」
と判断した。

進歩性無し。
請求棄却。

【コメント】
「効果に差が認められない」とか、単に「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。容易に想到することを妨げる具体的事情を主張する必要がある。

脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。

本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。

Dec 10, 2007

2005.05.30 「シャイアー・バイオケム v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10012

併用療法が承認済みの場合、合剤承認に基づく合剤特許の存続期間延長は可能か?: 知財高裁平成17年(行ケ)10012

【背景】
原告は抗ウィルス薬ラミブジン及びそれと他の抗ウィルス薬との併用剤に関する特許の特許権者であり、ラミブジンとジドブミンとの合剤(販売名コンビビル錠)の薬事法上の承認を得たことに基づき同特許の存続期間延長登録の出願をしたが拒絶審決を受けたため審決取消訴訟を提起した。審決理由は下記のとおり。
(1)ラミブジンが、ジドブミンとの併用を用法・用量として、かつ、併用療法を効能・効果として既に承認されていることから、本出願に係るものと先の承認の対象となったものとの違いは、単に、単剤を併用するか、又は合剤にするかの違いに過ぎず両者は実質的に同一であるため、特許発明を実施することが出来なかったという要件(特67条の3第1項1号)を満たしていない。
(2)原告提出の資料からでは、米国治験計画書の提出日から我が国での製造承認の日までの間、必要な手続きが引き続いてされていたものとは直ちには認めることができないから、請求人(原告)が請求する特許発明の実施をすることができなかった期間が適切であるということが出来ない。

【要旨】
存続期間の延長制度の趣旨及び特68条の2の文言に照らせば、期間延長後の特許権の効力は、当該品目に限定されず、成分により特定される「物」及び効能、効果により特定される「用途」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとし、それ以外には効力は及ばないとしたものであると解される。そうすると、当該処分の対象である成分により特定される「物」と当該処分で定められた「用途」によって画される範囲において特許発明が実施できるようになっているというべきであるから、その物の使用の形態等に変更があるため、重ねて同様の処分を受けることが必要であるとされていても、「特許発明の実施に67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」と認めることはできないと解するのが相当である。本件において、先の承認は、実質的には、今回の承認に係る承認書の有効成分の欄に記載されているラミブジンと既に先の承認により製造承認を受けているエピビル錠の有効成分であるジドブジンの両方を有効成分とする抗ウィルス剤の製造承認と同一視できるものというべきである。従って、ラミブジンとジブドミンの両方の有効成分の併用という形態を、その両者を組み合わせた錠剤にするため、すなわち剤形の変更のため、改めて薬事法上の製造承認を受ける必要があったからといって、「特許発明の実施に67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」と認めることはできないと判示した。請求棄却。

【コメント】
裁判所は、「期間延長後の特許権の効力は、用法、用量、使用方法等を特定した具体的な品目に限定されず、有効成分により特定される「物」及び効能,効果により特定される「用途」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとし,それ以外には効力が及ばないとしたものであると解される。」としているが、そもそも特許権の効力を規定する特68条の2に規定されている「処分の対象となった物」及び「特定の用途」が、そのまま登録要件に適用すること、さらにそれぞれ製造承認書中の「有効成分」及び「効能・効果」によってのみ特定されると解釈する根拠は乏しい。この点については、後の下記裁判でも争点となり、知財高裁において一応の判断が出されている。

2007.07.19 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10311

また、被告である特許庁は訴訟の中で、海外での臨床期間の算入の要件について下記のように言及している。我が国での医薬品の製造承認申請に外国における治験の結果等を使用した場合には,(1)そもそもその外国における治験が我が国で承認を得ることを目的としていたものであることが必要であり、かつ、(2)外国で承認申請をした者が我が国で承認申請をした者と同一であるか,あるいはその意思を受けて治験を行ったものであって,その後遅滞なく我が国における承認申請を行ったものであること、が必要となる。言い換えれば,外国での治験及び承認は我が国における承認を得るための手続の一部として我が国における手続と継続性を有するものである必要がある。この点については裁判所の判断はされていない。

コンビビル錠(Combivir tablets):
グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)が販売する抗ウイルス化学療法剤(有効成分としてジドブジン(Zidovudine)とラミブジン(Lamivudine)を含有する合剤)であり、HIV感染症を効能・効果とする。

Dec 9, 2007

2007.10.31 「エフ エム シー v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10031

補正却下・拒絶査定は、クレームごとに処分されるのか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10031

【背景】
「カデュサホスのマイクロカプセル化製剤」に関する特許出願(特願2000-561829号)についての拒絶査定不服審判において、特許庁は、原告が審判請求時にした請求項13についての補正は、特17条の2第4項第2号に掲げる『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものではないとした上で、補正を却下し、本件出願にかかる発明は特29条2項の規定により特許を受けることができないことを理由に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。

【要旨】
補正却下の違法性について、原告は、
「特許法53条には補正書全体を却下するとの記載は存在せず,同条の「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,・・・補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは・・・決定をもってその補正を却下しなければならない。」との規定における後者の「その補正」が同法17条の2第3項から第5項までの規定に違反している補正を意味し,違反していない補正を意味しないことは文理解釈上明らかである」
旨主張した。

これに対し、裁判所は、
「上記規定における補正は,補正事項ごと又は請求項ごとのものをいうものではなく,同法53条において却下しなければならない補正も,特定の補正事項に係る補正部分ではないと解され,原告が主張するような解釈が文理上当然に認められるものではないから,原告の主張は採用できない。」
とした。

次に、本件補正を却下した特許庁の処分に誤りはないとした上で、本件補正前の本願発明1の進歩性について争われたが、結局、裁判所は特許庁の判断を支持する結論を下した(詳細は判決文参照)。

そこで、原告は、
「請求項2以下の請求項に係る発明について判断をしていないとして,審決に判断の遺脱がある」
旨主張した。

これに対して、裁判所は、
「特許法は,特許出願の場面においては,一つの特許出願に対して,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定していると解することができるのであり,複数の請求項に係る発明が含まれている場合には,そのうちの一つの請求項に係る発明について,特許をすることができないものであるときには,当該出願を拒絶査定することができると解し得る。本件においては,請求項1に係る発明である本願発明1が特許法29条2項の規定に基づき特許をすることができないものであることは,前記2のとおりであり,そうすると,本件出願は拒絶されるものであるから,本件出願における他の請求項である,請求項2以後の請求項2ないし14に係る発明について,審決が特許をすることができないものであるかの判断をしなかったことに,原告主張の違法な点はない。」
とした。

【コメント】
補正却下又は拒絶査定は、クレームごとではなく補正書全体又は一つの特許出願に対しての処分である。原告の主張によれば、代理人が誤って補正したらしい。補正が却下され、それが原因で、他のクレームについてした補正が全く生かされず、審決となってしまった。思わず"ゾッ"としてしまう事件である。万が一を考えてわざわざ分割出願しておくという安全策も考える必要があるのかもしれない。

カズサホス(cadusafos):
有機リン系殺虫剤。アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害することにより殺虫活性を持つ。

Dec 7, 2007

2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313

必然的に生成してしまう場合には、"inherently anticipated"?: CAFC Docket No.03-1285, -1313

【背景】
1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする'196特許を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)は該特許のライセンスを受け、より安定な結晶性の塩酸パロキセチン半水和物を見出し、該結晶形に関する米国特許第4,721,723('723特許)を取得、FDA認可を得て販売(抗うつ薬、商標名Paxil)していた。Apotexは塩酸パロキセチンの無水物をANDA申請、パラグラフIV証明を提出した。これに対しSKBは271(e)(2)に基づく侵害を主張し、連邦地裁に訴訟を提起。非侵害の略式判決に対してSKBが控訴した。SKB社は、'196特許に従って塩酸パロキセチン無水物を製造すると、必然的に半水和物が製造されるので、少なくとも微量の半水和物を生産することになり、Apotex社は'723特許のクレーム1(量的限定のない塩酸パロキセチン半水和物結晶クレーム)を侵害することになると主張した。

【要旨】
PHC hemihydrateの存在は知られていなかったが、'196特許に従ってPHC anhydrateを製造すると、必然的にPHC hemihydrateが製造されるので、'723特許のクレーム1(量的限定のないPHC hemihydrateクレーム)は'196特許により新規性なく(inherently anticipated)、無効であるとされた。

【コメント】
2004.04.23 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285について再審理され、上記判決内容に差し替えられた。
結晶特許で後発品の参入を阻止しようと試みたが失敗した事例。
新規結晶であっても公知結晶が変化して必然的に生成してしまう場合には、inherently anticipatedとされ、新規性なしと判断されかねないので注意。本事件のような場合では、量的限定のないクレームだけでなく、結晶純度について段階的なクレームを立ておくのもひとつの有効策なのでは。

パロキセチン(パロキセチン塩酸塩水和物、Paroxetine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)であり、うつ病等の治療薬(商品名: パキシル, Paxil)としてグラクソ・スミスクライン社により販売されている。

Dec 6, 2007

2005.02.24 「長生堂 v. 三共」 東京高裁平成16年(行ケ)341

「メバラチオン」は「メバロチン」と混同するか?: 東京高裁平成16年(行ケ)341

【背景】
長生堂(原告)は、「メバラチオン」の片仮名文字と「MEVALATION」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、指定商品を第5類「薬剤」とする登録商標の商標権者であったが、三共(被告)が使用する登録商標「メバロチン」等(引用A~D商標)(いずれも指定商品「薬剤」含む)と商4条1項15号に該当するとした無効審決に対して原告は取消訴訟を提起した。

【要旨】
裁判所は、
(1)引用商標の周知著名性、(2)引用商標の独創性の程度、(3)本件商標と引用商標の類似の程度、(4)商品環の関連性、需要者、(5)取引者の共通性、(6)混同を生ずる恐れを検討し、
「原告が本件商標を薬剤,特に高脂血症用薬剤に使用した場合には,その需要者,取引者において,被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品等と混同するおそれがあるということができる。本件商標が商標法4条1項15号に該当し,無効であるとの審決の判断には誤りはない。」
と判断した。
請求棄却。

【コメント】
三共(第一三共)のメバロチン®(Mevalotin、一般名: プラバスタチンナトリウム(pravastatin sodium)、高脂血症治療薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤)の日本での特許切れが2002年であり、後発品が既に参入している。 後発品の商標を無効にしたとしても焼け石に水なのかもしれないが・・・。ちなみに、第一三共株式会社の2008年3月期中間決算短信及び補足資料(2007年11月6日発表)によると、メバロチンの売上高は、2006年度において935億円であり、前年に比べ497億円減、2007年度も売上減となる予測である。米国での特許切れによるジェネリック参入の本格化が大きく影響したようである(海外ではBristol-Myers Squibbが販売。販売名はPravachol®)。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。

参考:メバロチンの世界売上高推移

2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)

Dec 5, 2007

2005.02.10 「メレル v. 特許庁長官(ターフェナジン事件)」 東京高裁平成16年(行ケ)233

特定患者に対する限定が新たな医薬発明として認められるか?: 東京高裁平成16年(行ケ)233

【背景】
「ターフェナジンカルボキシレートを含有する、ターフェナジンのすすめられる投与量でQT延長及び/又は心室頻拍の心臓の異常を起こすヒトの患者用の抗ヒスタミン剤」に関する発明(特表平7-506828)についての、拒絶審決取消訴訟。審決の内容は、引用例に記載された発明であるから、特29条1項3号により特許を受けることができないとするものであった。
引用例記載の発明とは、ターフェナジンカルボキシレートを含有する抗ヒスタミン剤である点において一致していたが、「ターフェナジンのすすめられる投与量でQT延長及び/又は心室頻拍の心臓の異常を起こすヒトの患者用」という点が引用例には記載されていなかった。この特定患者に対する限定事項が加わったことにより、新たな用途発明(選択発明)が提供されたといえるのか、それとも実質的相違は無いのかが争われた。

【要旨】
裁判所は、
「引用例においては、ターフェナジンについての適用対象患者を特に除外していないのであるから、審決が、「引用例記載の発明は「ターフェナジンのすすめられる投与量でQT延長及び/又は心室頻拍の心臓の異常を起こすヒトの患者に使用すること」を特に除外するものではない」とした点に誤りは無い。~本件優先権主張日当時の技術水準からすると、ターフェナジンよりも、その代謝物であるターフェナジンカルボキシレートが、「ターフェナジンのすすめられる投与量でQT延長及び/又は心室頻拍の心臓の異常を起こすヒトの患者」用の抗ヒスタミン剤として有利であることは、当業者にとって自然に理解しえたというものであるべきである。そうすると、~引用例との関係で選択発明として認められるべきであるとすることはできず、引用例記載の発明との対比において新規性を欠くものではないとすることはできない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】
患者を限定した医薬発明についての新規性の有無が判断された事件。
この事件の後、2005年4月15日に特許庁が「医薬発明の審査基準」を新設しており、その「医薬発明」の審査基準2.2.1.1 (3-2)には下記のような記載がされている。

(c) 引用発明の医薬用途が請求項に係る医薬発明の医薬用途の上位概念で表現されており、本願出願時における技術常識から、下位概念で表現された請求項に係る医薬発明の医薬用途が導き出せるときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される

仮に、ターフェナジンの心毒性が知られていなかった場合には、本クレームの特許性はどのように判断されただろうか?
ターフェナジンカルボキシレートを含有する抗ヒスタミン剤が知られていたわけで、引用発明との違いは、「ターフェナジンのすすめられる投与量でQT延長及び/又は心室頻拍の心臓の異常を起こすヒトの患者用」との下位概念への限定のみであるから、患者を特定した選択発明として特許性を有するか否かが問題になるだろう。選択発明の進歩性が認められるためには、その選択部分(ターフェナジンで心毒性を起こす患者)に限定したことにより本発明の(抗ヒスタミン剤としての)効果が、それ以外の部分(ターフェナジンで心毒性を起こさない患者)に対する効果よりも、顕著であるか、または異質なものであることを主張しなければならないから、本件の場合には無理があろう。

また、裁判所は、
「本願発明は,ターフェナジンカルボキシレートにはターフェナジンが有する副作用がないことを確認したものであるとしても,抗ヒスタミン剤に関する本件優先権主張日までの既知の用途を拡大したものでもないし,新たな用途を見いだしたものでもない。本願発明は,引用例に記載の抗ヒスタミン剤であるターフェナジンカルボキシレートに関して,ターフェナジンによる副作用が観察されない範囲を特定したものにすぎないものである。」
と判断していることから、患者の特定のみを特徴とする医薬発明の特許性のハードルは高そうである。ちなみに、医薬発明の審査基準2.2.1.1 (3-3)及び3.3〔事例 8〕には、投与間隔・投与量等の治療の態様等による特定を伴う対象患者群を特定した医薬発明の特許性について記載されている。司法の場で、本出願のように医薬用途の態様を様々な視点からクレームした「医薬発明」の出願についての判断が蓄積されていくことを期待するところである。

なお、本願のファミリー出願が欧米では特許となっており、この点、日本の実務と比較し、検討することは非常に興味深い。日本で特許化が困難そうでも、欧米で取得できる可能性も出願戦略上考慮する必要があるだろう。

  • EP0639976 B1
  • US6037353 A
  • US6187791 B1
  • US6399632 B1
参考:ターフェナジンカルボキシレート

ターフェナジン(一般名:テルフェナジン、販売名:トリルダン、抗アレルギー薬として販売されていた。)の活性代謝物であり、製剤化が検討され、抗アレルギー薬(一般名:塩酸フェキソフェナジン(Fexofenadine)、販売名:アレグラ(Allegra))としてサノフィ・アベンティス(sanofi-aventis)が販売に至っている。活性代謝物の製剤化によって製品のライフサイクルマネージメントに成功した事例である。そのような背景から考えると、本件出願は、アレグラに関するライフサイクルパテントのひとつだったと考えられ、非常に参考になる事例である。

Dec 4, 2007

2005.01.27 「Vertex v. Guilford」 EPO審決T134/01

ディスクレーマーの許容性(EPOの判断): EPO審決T134/01

【背景】
本件発明は医薬に有用な化合物(Novel immunosuppressive compounds having an affinity for FK-506 binding protein)のクレーム。ある化合物(especially used as analeptics)を開示した文献(5)による新規性欠如を回避するために、ディスクレーマーを行った。しかし、文献(5)が、ディスクレーマーの要件となるaccidental anticipationに該当するか否かが争われた。

【要旨】
文献(5)は医薬分野、すなわち本件発明と同じ技術分野に属する。従って、文献(5)は、ディスクレーマーが許される要件のうち、accidental anticipationには該当しない。従って、ディスクレーマーはArt.123(2)EPCに反し、認められない。

【コメント】
化合物クレームと公知文献との技術分野が医薬分野として共通していれば(たとえ、具体的な作用メカや医薬用途が異なっていたとしても)、accidental anticipationに該当しないと判断され、ディスクレーマーをすることはできない。
日本には無い要件である。しかもaccidental anticipationは非常に狭く解釈されている。
出願前の新規性調査は念入りに。また、ディスクレーマーに頼らなくても補正できるようにクレーム・明細書には十分な措置を施しておくことに留意すること。

参考:ディスクレーマーの許容性が示されたEPO審決

Dec 2, 2007

2004.09.16 「シャイアー バイオケム v. 特許庁長官」 東京高裁平成15年(行ケ)405

薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明に進歩性は認められるか?: 東京高裁平成15年(行ケ)405

【背景】
「オキサチオラン誘導体を含む3TC耐性HIVの感染治療用医薬調合物」に関する発明についての、進歩性なしとの拒絶審決に対する審決取消訴訟。
引用刊行物記載の発明は、本願化合物1であるオキサチオラン誘導体と一致するものの、立体配置の限定が無い点、及び3TC耐性というHIVの限定が無い点で、本願発明とは相違していた。
原告は、本願化合物1と3TCとで構造がきわめて類似していることから、当業者が、本願化合物1が交差耐性を持つと考えるのは当然であり、3TC耐性HIV株が本願化合物1に対して感受性を有することを確認する実験を行うことは容易に想到できるものではない、と主張した。

【要旨】
裁判所は、
「本願化合物1と3TCとの構造の間で,ペントース環の酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わったという差しかないとしても,それが,交差耐性の発生の蓋然性にどの程度影響するのかについて,原告は具体的な主張をせず,これを認定できる証拠もない。~構造が非常に類似した化合物が多くの場合に交差耐性を示すと一般に考えられていることを踏まえたとしても,本件において,原告が主張するように,酸素原子と硫黄原子の位置が入れ代わっただけであるとか,糖部分の構造が類似している,との事実をもって,二種の薬剤間で交差耐性が生じると当業者が当然に考え,実験して確認することに思い至らない,ということはできない。~本件優先日当時,本願化合物1において交差耐性が生じる可能性がどの程度高いものと考えられていたかは,本件証拠上明らかではない。しかし,~その治療薬の研究開発は喫緊の課題であった。~このような状況の下では,交差耐性が生じる蓋然性があっても,薬剤の候補となるべき新規な化学物質を製造したとき,その薬剤が効果を発揮するかどうか実験して確かめるきわめて強力な動機付けが当業者にあることは,明らかである。~HIVウイルスの薬剤に対する(交差)耐性を確認する実験方法は,本件優先日当時,周知かつ確立しており,これを実施することに特段技術的困難はなかった,と認めることができる。
~以上のとおり,本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことに強力な動機付けがあり,実験をすることを選択することは何ら困難なことでもなく,その実験方法も周知なものであって実施に何ら困難はなく,実験を行いさえすれば,交差耐性を示すか否か容易に分かる,すなわち,本願化合物1が効用を有するか否か分かるものである以上,当業者が本願発明を推考するのが容易であることは当然である。審決の相違点についての判断に誤りはない。~本件においては,薬剤の有効性を確認するための実験を行うことは,当業者にとって容易に想到し得ることであり,また,実験をすることに格別の困難もないのであるから,その実験が成功することが予測できないということだけから,進歩性を認めることができないことはいうまでもないのであって,原告の主張は採用できない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】
薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明についての進歩性が判断された事件。
ちなみに、米国及び欧州では、対応特許が成立しており(US6,228,860B1、EP756595B1)、この点、日本の進歩性の判断が比較的厳しのか、出願人の主張が足りなかったのかは不明であるが、本出願に対応する米欧出願の審査履歴を参考に比較検討することは、薬剤耐性という観点で医薬発明の進歩性を主張する上で、さらには薬剤耐性という知見が得られた際にライフサイクルパテントの可能性を検討する上で非常に有用だろう。

3TC:
  • グラクソ・スミスクライン社が販売している、HIV感染症おける他の抗HIV 薬との併用療法を効能・効果とする抗ウイルス化学療法剤(核酸系逆転写酵素阻害剤、一般名:ラミブジン(Lamivudine)、略号:3TC、販売名:エピビル錠(Epivir tablets))である。
参考: 「耐性」関連で進歩性が争われた最近の判決
  • 2006.10.25 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10773

Dec 1, 2007

2007.11.29 Takeda's PCT Publication (WO2007/136129)

ORAL PREPARATION COMPRISING PIOGLITAZONE (WO 2007/136129)2007.11.29公開の武田薬品のPCT出願。ピオグリタゾンの苦味を抑えた新製剤の発明。ピオグリタゾンのライフサイクル延命戦略における新製剤をカバーする特許となるかどうか、今後の動向に期待。

Abstract:
The present invention provides an oral preparation sufficiently masking the bitter taste of pioglitazone and a salt thereof. The present invention provides an oral preparation containing pioglitazone or a salt thereof and alkali metal chloride.

形式面において、この出願で興味深い点としては、優先権の基礎出願は日本語、発明者も日本人であるにもかかわらず、PCT出願が英語で行われている点である。武田は時々このような出願戦術を取っているようだが、どのような場合にその戦術を実行するのかは不明。考えられるメリット/デメリットは下記のようなところだろうか?


メリット:
1) 米国においてより強い後願排除効(102(e))の獲得。

2) 早期の英語明細書作成により、パリ優先権を主張してPCT非加盟国へ出願することが可能。
3) EPOによる国際調査報告が得られる。

デメリット:
1) 早期に英語での明細書作成(翻訳)作業が必要とな(時間的制限)。
2) 基礎出願の日本語と、本願の原文となる英語の微妙なニュアンスの違いが、優先権の利益を享受できないリスク(第三者による特許無効の攻撃リスク)を高めるかもしれない。

参考:

  • ピオグリタゾン塩酸塩は武田薬品が販売している2型糖尿病治療剤(インスリン抵抗性改善剤、販売名: アクトス錠(ACTOS tablet))の有効成分。アクトス錠には、有効成分であるピオグリタゾン塩酸塩以外の添加剤として、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、乳糖水和物を含有。
  • ACTOS website~キャラクターの説明がなんとも愛らしい。

2007.11.28 「Croatia accedes to the European Patent Convention」

EPO websiteで、クロアチアのEPC加盟へ向けて(現在は拡張国)、発効日となる2008年1月1日前後における出願の取り扱いがされている。

クロアチアには50社以上の国際医薬会社が存在するらしい。なかでも世界トップクラスのジェネリック企業のひとつであるPliva社(ジェネリック大手のBarr社の子会社)が存在する。

参考: