Feb 12, 2008

2006.07.19 「X v. 和光純薬」 知財高裁平成18年(ネ)10020

着想を提出した者は発明者か?: 知財高裁平成18年(ネ)10020

【背景】
営業の職務に従事していた原告Xは、着想を記載した検討依頼書を研究所に提出していたことを理由に、本件発明「洗浄処理剤」(特許第3219020号)は原告の職務発明であって、特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に譲渡の対価を請求した(原審: 2006.01.31 東京地裁平成17年(ワ)2538)。

請求項1:
(a)モノカルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸,没食子酸以外のオキシカルボン酸,及びアスパラギン酸及びグルタミン酸から選ばれたアミノカルボン酸から成る群より選ばれた有機酸及び(b)エチレンジアミン四酢酸及びトランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸から選ばれたアミノポリカルボン酸,ホスホン酸誘導体,縮合リン酸,ジケトン類,アミン類,及びハロゲン化物イオン,シアン化物イオン,チオシアン酸イオン,チオ硫酸イオン及びアンモニウムイオンから選ばれた無機イオンから成る群より選ばれた錯化剤を主に含んで成る,金属配線が施された半導体基板表面の洗浄処理剤。

【要旨】
控訴人は、
「控訴人が「本件検討依頼書」に記載した有機酸と錯化剤とを含む洗浄処理剤という着想(本件着想)は本件発明そのものであるから,控訴人が本件検討依頼書の起案をした以上,控訴人は,本件発明の発明者である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「発明者(共同発明者を含む。)に当たるというためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり,単なるアイデアや研究テーマを提示したにすぎない者などは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,発明者ということはできない。のみならず,化学の技術分野に属する発明については,一般に,ある物品を構成する有効成分の物質名やその化学構造のみから,当該物品の有用性を予測することが困難であるため,これを構成する物質についての着想のみから,直ちに当業者において実施可能な発明が完成するものではなく,有用性を確認するための実験を繰り返し,有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得るものも数多く存在する。そして,そのような場合においては,上記着想を示したのみでは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,当該着想を示したのみの者をもって発明者ということはできない。~本件発明は,化学の技術分野において,実験により有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得る発明というべきであるから,そのような実験以前の,洗浄処理剤を構成する物質についての単なる着想それ自体は発明ということができず,したがって,そのような着想を示したにすぎない者は,これを発明者と認めることはできない。」
と判断した。

控訴棄却。

【コメント】
医薬に関する事例ではないが、化学分野の発明者(共同発明者)の認定についての判決。
化学の技術分野において、技術的思想の創作(発明)をしたか否かの判断には、「着想」よりも「実験」に重きが置かれているといえる。

2 comments:

ぎっちょん said...

上位概念の組み合わせに関する着想が提供された場合に、1対1のスペシフィックな組み合わせを見つけたんなら、実施者も発明者だと思うけど、本件発明なら、下位概念を当業者であれば挙げられるだろうから、この裁判所の判断にはちょっと違和感を覚えます。
「有用性が認められる範囲のものを明確に」する実験自体、どの程度難しいんでしょうねえ。

Fubuki said...

ぎっちょんさん
コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、実験の易しさ・難しさは発明者の認定に考慮されるべきと感じます。

「実験により有用性が認められる範囲を明確にして初めて技術思想の創作をしたといいうる発明・・・(であれば)・・・実験以前の・・・(上位概念)・・・についての単なる着想それ自体は発明ということができず」
という裁判所の言葉に従えば、
逆に、上司の指示に従って、派遣社員のおばさんがルーティーンワークで化合物群の薬理データを提出した(有用性の範囲を明確にした)場合には、派遣社員のおばさんのみが発明者
ということになってしまうのではないでしょうか?

そもそも発明とは何なのでしょうか?
特許性の要件である有用性が、そもそも発明の完成自体に必要とされるのでしょうか?

職務発明の対価請求事件がますます増えてきているし、発明者(発明)とは何なのか、裁判所の判断がぶれないように努めて欲しいものです。