Apr 8, 2008

2008.03.19 「フランシスカス v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10270

鼻内投与製剤の形態をパウダーにすること、賦形剤として糖類又は糖アルコールを含有すること: 知財高裁平成19年(行ケ)10270

【背景】
アポモルヒネの鼻内投与製剤に関する発明(特表平8-508472号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「鼻内投与用のパウダー状の薬剤組成物であって,アポモルヒネ又はアポモルヒネ塩と賦形剤とを含有しており,前記賦形剤が糖類または糖アルコールを含んでいる,薬剤組成物。」

(引用発明Aの内容)
パーキンソン病の患者に対しアポモルヒネ1%溶液が鼻腔内投与用の薬剤組成物として使用されたこと。
(一致点)
いずれも「アポモルヒネを含む鼻内投与用の薬剤組成物」である点。
(相違点1)
本願発明はパウダー状であるのに対し,引用発明Aは溶液状である点。
(相違点2)
本願発明は賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むのに対し,引用発明Aは賦形剤についての記載がされていない点。

【要旨】
取消事由1(相違点1の判断の誤り)について

裁判所は、
「鼻内投与用の薬剤組成物についてパウダー状組成物の構成を採用することは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであることは明らかである。」
と判断した。

これに対し原告は、引用例A中の副作用の存在(阻害要因1)や、粉末形態投与による不快感(阻害要因2)、刺激性のリスク(阻害要因3)、治療効率を悪化させる可能性(阻害要因4)といった阻害要因を主張したが、裁判所は、阻害要因になるというほどのものではないとして採用せず。

取消事由2(相違点2の判断の誤り)について

裁判所は、
「アポモルヒネを含有する薬剤組成物をパウダー状とするに当たり,賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むものとする相違点2の構成は,当業者において容易想到である」
と判断した。
これに対し、原告は、
「既知の多くの物質群の中から本願発明と同様の賦形剤を選択することは,当業者にとって容易ではなかった」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願の優先日前において糖又は糖アルコールの賦形剤自体が一般的であったと認められるのであるから,賦形剤として他に多くの物質が既知であるからといって,そのことから直ちに糖又は糖アルコールを賦形剤として用いることが困難となるものではない。」
として原告主張を採用しなかった。

取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤りに)について

原告は、
「甲4~6実験を挙げつつ,本願発明は①副作用が少なく②生物学的利用能が高いという顕著な効果を有する」
旨主張した。
しかし裁判所は、
「甲4~6実験の内容は本願明細書に開示されておらず,いずれも本願の出願後に公表ないし実験されたものであるから~同実験の結果をもって本願発明についての効果を論ずることは失当といわなければならない。
そして,本願明細書(甲16)には,~具体的に適用した試験例は記載がなく,ただ,「…この水溶液の最大欠点は,アポモルヒネに安定性が欠けていることである。」(10頁11行~12行)として従来技術の液剤の欠点を述べた上で,「…本発明によると,…アポモルヒネの驚くほど高い生物学的利用能及び優れた安定性を得ることができる。」と記載されているにすぎない(10頁15行~18行)のであるから,このような記載をもって本願発明が顕著な効果を有すると認めることはできない。なお,原告が提出した甲4~甲6実験は,~原告主張の上記①,②の効果が格別顕著であることを示すものではない。」
と判断し、原告主張は採用することができないとした。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
鼻内投与製剤の形態の選択肢として、
パウダーが知られている点、及び
鼻内投与製剤の賦形剤の選択肢として、糖類又は糖アルコールが知られている点
を考慮すれば、それらを採用するのには動機付けが存在するだろうから、予測できない効果を主張できるか否かが進歩性のハードルをクリアできるかどうかの一番のポイントであった。
残念ながら、明細書には顕著な効果を有すると認めることのできる試験例は開示されていなかったようである。また、原告主張の阻害要因は、動機付けを否定できる(当業者であれば試してみようと思わないといえる)ほどの強いものではなかった。

参考:

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