Apr 13, 2008

2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219

病態部位と微生物を特定した細菌感染治療法: 知財高裁平成18年(行ケ)10219

【背景】
「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:
【化1】(省略)
をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
であることを特徴とする前記方法。」

引用発明1との一致点・相違点:
(一致点)
「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の,引用例1記載の式(Ⅱ)の化合物を投与する治療方法」である点。
(相違点)
本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。

【要旨】
裁判所は、
「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている。」
と認定した審決に誤りはなく、
引用例1の記載部分は、
「当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である。」
と判断した。

これに対し原告は、
「8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由がある」
との阻害要因の存在を主張した。

しかし裁判所は、
「原告が根拠とする甲23~27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の①安定性,②浸透性,③リボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない。」
と判断し、阻害事由があるとの主張は採用することができないとした。

格別の作用効果について

原告は、8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,顕著な治療効果をもたらすものであると主張した。

しかし、裁判所は、
「本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
進歩性判断における有利な効果の参酌の可否について、明細書の記載を問題としている。
本願発明は引例と有効成分である化合物の点で一致しており、病態部位を限定している点(呼吸器又は腸内)、及び微生物を特定している点で相違しているのであるから、示すべき格別の作用効果についての考え方として、そもそも従来の化合物と比較しても意味が無く、相違点に注目して、他の部位や、他の微生物と比較した効果があるか否かを検討するのが正しい筋道ではなかろうか。

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