Sep 9, 2008

2008.07.30 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10223

内面の被覆に特徴があるアルブテロール吸入器の発明: 知財高裁平成19年(行ケ)10223

【背景】
「アルブテロール用計量投与用吸入器」に関する請求項1に係る本願発明(特表平11-509433号)は、引例および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:

「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで内面の一部または全部が被覆された計量投与用吸入器であって,アルブテロールまたはその生理学的に許容される塩と,フルオロカーボン噴射剤と,場合によっては一以上の他の薬理学的に活性な薬剤または一以上の賦形剤とを組み合わせて含む吸入薬剤配合物を投与するための計量投与用吸入器。」

引例との主な相違点(相違点2):

本願発明は、計量投与用吸入器の内面を,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで被覆しているのに対し、
引用発明1は、一以上のフルオロカーボンポリマーのみで被覆している。

原告は、当該相違点2について、周知技術の認定及びその周知例を引用発明1に適用したことに誤りがあること(取消事由2)、ならびに手続違背(取消事由1)を主張した。

【要旨】

1. 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 「周知技術」の認定について

原告は、
「わずか2つの公報の存在をもって『周知技術』を認定することはできない」,「相互に関連した出願に係る公報を多数引用しても『周知技術』を認定することはできない」
などと主張した。

しかしながら、裁判所は、
「刊行物により周知技術を認定する場合においては,認定に供する刊行物の数のみならず,当該刊行物の種類や当該刊行物の頒布の日からの経過年数,当該刊行物に記載された技術に係る技術分野等を総合考慮してこれを行うことが必要であると解すべきである。しかるところ,上記のとおり,基材への接着性の向上等を目的として本件技術を採用することの周知性は,少なくとも周知例2及び乙1公報ないし乙5公報の6つの刊行物から認定し得るものであり,かつ,上記各刊行物は,いずれも特許出願に係る公開公報又は公告公報であって,多数の当業者が接するものである。しかも,これらの刊行物の頒布時期は,周知例2が本件優先日の5年余り前であるほかは,いずれも本件優先日より19年ないし26年以上前であり,さらに,後記のとおり,これらの刊行物に記載された技術に係る技術分野は,本願発明の属する技術分野と同一ないし密接に関連しているものと認められる。そうすると,これらの事実を総合すれば,周知例2及び乙1公報ないし乙5公報により,基材への接着性の向上等を目的として本件技術を採用することの周知性は十分に認であるから,原告の上記主張を採用することはできない。」
と判断した。

原告は、
「審査手続及び審判請求手続において引用されていなかったことを根拠に,周知例2及び乙1公報ないし乙5公報を本件認定の証拠とすることはできない」
旨主張したが、

裁判所は、
「周知技術や技術常識の立証のため,審査手続及び審判請求手続において引用されていなかった新たな証拠を審決取消訴訟において提出することは許されると解するのが相当である(最高裁第一小法廷昭和55年1月24日判決・民集34巻1号80頁参照)」
として、原告の主張を認めなかった。

(2) 周知技術である本件技術を引用発明1に適用して,相違点2に係る本願発明の構成に想到することの容易性について

裁判所は、
「周知例~の各記載によれば,コーティング被覆の基材への接着性を向上させることは,引用発明1及び本願発明が属する技術分野を含むコーティング被覆を必要とする各種技術分野において,ごく一般的な課題であったものと認められ,また~コーティング被覆の基材への接着性を向上させることと,当該被覆に外接する物質(引用発明1における薬学的に活性な物質)の当該被覆への付着を防止することは,相互に矛盾する課題ではなく,むしろ,フルオロカーボンポリマーを用いて,これら両課題の解決を同時に追求することは,上記各技術分野において,一般的に行われていたものと認められ,さらに,~阻害要因があったものとも認められないから,~周知技術である本件技術を引用発明1に適用して,相違点2に係る本願発明の構成を得ることは,当業者が必要に応じてなし得た設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到し得るものであったと認めるのが相当である。」
と判断した。

そして、本願発明が奏する作用効果についても、

裁判所は、
「本願発明が,当業者が予測することのできる範囲を超えた格別顕著な作用効果を奏するものと認めることはできないから,「本願発明の作用効果も,・・・当業者が予測できた範囲のものである。」との審決の判断に誤りはないというべきである。」
と判断した。


2. 取消事由1(手続違背)について

裁判所は、
「審査手続段階において告知された周知技術を例示するものとして,審決前に引用されていなかった文献(周知例)を審決において追加挙示しても,新たな技術事項を周知技術として採用し,これにより拒絶の理由を変更することにはならないから,そのような例示文献(周知例)を審決において追加挙示することは許されると解するのが相当である。~原告は,本件審判請求の理由として,「~」と適切に主張していたのであるから,少なくとも本件においては,~審決の結論に影響を及ぼすべき手続違背があったということはできない。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
周知技術の認定及びその周知例の適用可否が争われた。
喘息治療用吸入剤においては、その製剤のみならず吸入用デバイスの性能が競合品との差別化に重要であるから、製剤に適したデバイスに関する発明の特許化は、製品のライフサイクルマネージメントにとって大きな価値があるだろう。しかし、GSKは、自社品のプロピオン酸フルチカゾン、サルメテロール、アルブテロール(サルブタモール)を有効成分とする本件発明デバイスの特許化を失敗したことになる。現時点で、日本で販売されているこれら同社喘息治療吸入剤のうちいくつかは、添加物として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを用いているようである。

参考:




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