Oct 19, 2008

2007.09.27 「スリーエム(3M) v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10017

プロピオン酸ベクロメタゾンの存続期間延長登録出願: 知財高裁平成19年(行ケ)10017

【背景】
原告(スリーエム)は、

処分の対象になった物: プロピオン酸ベクロメタゾン、
処分の対象となった物について特定された用途: 
気管支喘息
ただし、
「下記の気管支喘息
・全身性ステロイド剤依存の患者におけるステロイド剤の減量又は離脱
・ステロイド剤以外では治療効果が十分得られない患者」
を除く。

とする薬事承認処分(申請者は大日本製薬、販売名:キュバール50エアゾール)に基づいて
「ベクロメタゾン17,21ジプロピオネートを含んで成るエアロゾン剤」に関する特許(特許第2769925号)の存続期間延長登録を試みた。

しかし、特許庁は、本件承認前に、同有効成分(プロピオン酸ベクロメタゾン)について、効能・効果を

「下記の気管支喘息
・全身性ステロイド剤依存の患者におけるステロイド剤の減量又は離脱
・ステロイド剤以外には治療効果が十分得られない患者」

とする医薬品を承認(「先の承認」)する処分が既にされているから、本件発明の実施のため本件承認を受けることが必要であったとはいえない、という拒絶審決を下した。本事案は、その審決取消訴訟である。

【要旨】
原告は、
「本件承認の効能効果は,何らの限定も付されていない「気管支喘息」であるから、軽症の気管支喘息,中等症の気管支喘息,重症の気管支喘息の全てを含んでいる。これに対し,先の承認の効能効果は,「下記の気管支喘息…ステロイド剤以外では治療効果が十分得られない患者」であるから,~本件効能効果と先の承認の効能効果は,上位概念と下位概念の関係に立つものといえる。
したがって,本件承認によって,先の承認によっては未だ薬事法上の禁止が解除されていなかった,気管支拡張薬で治療効果が十分得られる気管支喘息患者における気管支喘息という用途について,新たに同禁止が解除されたものであり,少なくとも,かかる用途について本件発明を実施するために本件承認が必要であったことは明らかである。」
と主張(取消事由1)、
また、特68条の2に基づいて特67条の3を判断するという解釈は誤りであるとも主張した(取消事由2)。

しかし、先の承認の気管支喘息と、本件承認の気管支喘息との違いについて、裁判所は、
「喘息症状の程度と症状の頻度との組み合わせで判定される重症度の違いに止まるものである~ことが認められる。これらに照らすと~両者の病態が実質的に異なる疾患であることを導くことはできない。~また,医薬品の薬理作用の点でも~異なるものであるとも認められない。以上によれば,先の承認と本件承認に係る医薬品は,いずれも「気管支喘息」を適用対象としており,疾患名が同一であって,先の承認及び本件承認に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態,薬理作用等を考慮して実質的な見地から判断すると,両者の用途(効能・効果)は,同一であるというべきである。したがって,両者の用途(効能・効果)が同一である旨判断した審決に誤りはないから,取消事由1は理由がない。」
と判断した。

また、特68条の2に基づいて特67条の3を判断するという解釈は誤りであるとの原告の主張(取消事由2)に対して、裁判所は、
「延長後の特許権の効力について規定した法68条の2の規定を考慮することによって,特許権の存続期間の延長制度全体について統一的な解釈が可能になるというべきであるところ,法68条の2にいう「物」は「有効成分」を,「用途」は効能・効果を意味するものと解するのが相当である。このように解することは,新薬の特許が「有効成分」又は「効能・効果」に与えられることが多いという実情にかなうものであるし,またこれによって,「物」と「用途」の範囲が明確になるということができる。」
と判断し、
「原告の上記主張は,特許法上の観点からの解釈ではなく,~特許発明の実施が薬事法上の禁止が解除されたことにより同法上可能になったかどうかという観点から判断すべきとするものである。しかし~特許法は,薬事法が承認の対象としている医薬品にかかわる各要素のうち,物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から承認が必要であったときに限って,特許権の存続期間の延長を認めることとしているものであって,特許法としての独自の観点から,特許権の存続期間の延長の要件を定めていると解されるものである。原告の上記主張による解釈は,かかる見地からすると,採用することができない。」
と補足した。
請求棄却。

【コメント】
特許権の存続期間の延長登録出願について、先の処分との用途(効能効果)の異同が争われた。
本件における裁判所の判断によれば、先の処分と用途が異なると認められるには、
1) 疾患の病態
2) 薬理作用
の点で異なるといえることがポイントのようである。
「症状の程度と症状の頻度との組み合わせで判定される重症度の違いに止まるもの」は、用途(効能効果)は同一とされるようだ。

裁判所の判断は理解できるが、両処分の効能効果を違うものとした薬事行政当局の処分をある意味無視して、知財高裁が「実質的に同一だ」とする独自の判断をしたことにはやはり違和感を感じる。

また、「用途(効能・効果)」の異同について裁判所は、2007.01.18 「エーザイ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10724等において、承認書の形式的な記載により直ちに決することができるものではないとも言及している。

薬事法上の処分の同一性と特許権存続期間延長の登録要件として適用される同一性との間に、形式的にしろ実質的にしろ食い違いが生じており、このことが薬事法に対する存続期間延長制度の整合性及び法的安定性に問題を生じさせている。特許権存続期間延長制度自体を、制度の趣旨との整合性を失わせること無く、より画一的で且つより実情に即したものに改正するための検討をすべき時期が来ているのではないだろうか。

特68条の2に基づいて特67条の3を判断するという解釈は誤りであるとの原告の主張に対する裁判所の判断は、2007.07.19 「武田 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10311と同様の結論である。

本件処分は「キュバール50エアゾール」承認番号21400AMY00146000に対してのもの。「気管支喘息」を効能効果とする吸入ステロイド喘息治療剤として大日本住友製薬が製造販売(外国製造元は3M pharmaceuticals)しているプロピオン酸ベクロメタゾン吸入用エアゾールである。
なお、「キュバール100エアゾール」承認番号21400AMY00147000については、
2007.09.27 「スリーエム(3M) v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10016
で同様の判決が下された。

2 comments:

Anonymous said...

エーザイ アリセプトの特許について延長登録が認められたようですが、新旧の効能(認知症)の違いは正に重症度の違いだけのようです。
一方、レボフロキサシンの事例では、「肺炎」の効能はそのままで、気炎菌としてレジオネラが追加されただけです。
特許庁の実務にブレがあるような気がしてなりません。

Fubuki said...

コメントありがとうございます。
特許庁の審査実務にブレがあることは間違いありません。形式的に異なる効能効果であっても、それが実質的に異なるのかどうかを判断する明確なガイドラインがないためでしょう。日本の特許権存続期間延長登録制度はまだまだ未熟です。特許庁の審査にブレがあるからこそ特許権者はアグレッシブに出願すべきですし、反対にジェネリックメーカーはどんどん無効審判を請求してほしいと個人的には思っています。その結果、延長登録制度が成熟したものになっていくことを期待しています。