Jan 28, 2008

2008.01.28 「テバが協和発酵を相手取って特許権侵害訴訟を提起(メバロチン)」

Pravastatin - Teva Pharmaceutical Industries Ltd. has filed a patent infringement lawsuit against Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd. selling a generic version of Pravastatin in Japan.

テバ(Teva)が協和発酵工業(Kyowa Hakko Kogyo)を相手取ってメバロチン(プラバスタチンナトリウム(Pravastatin Sodium))の後発品製造に関して特許権侵害訴訟を東京地裁に提起したというニュース(NIKKEI NET)。

後発品メーカーの間で、とうとう特許侵害係争が起きました。後発品メーカーは、先発品メーカーの特許だけではなく、当然ですが、競合後発品メーカーの特許にも注意しなければなりません。また、見方を変えれば、先発品メーカーである三共(現、第一三共)は、有用と思われる製造関連特許をTevaに取られてしまっただけでなく、さらに三共の代わりに、他の後発品メーカーの参入を阻止してもらっているかたちに。

製造方法の改良が製造コスト等の面において非常に重要であることはもちろんですが、改良した製造関連発明の特許化によって後発品排除効果が望めるのか、製品寿命にとって価値があるのか、について検討する必要があります。テバはプラバスタチンの製造関連発明をいくつも出願していることからも(下記)、製造関連特許で他の後発品メーカーを牽制し、優位に立とうという意図が見えます。

参考:
出願人/権利者: テバ
要約+請求の範囲: プラバスタチン
という条件でJPOのIPDLで公報テキスト検索したところ、13件がヒット。

1. 特開2006-273861: 高純度スタチンナトリウム

2. 特開2006-055174: 塩析によるスタチン化合物の単離精製方法

3. 特開2006-036781: プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウムの製造方法

4. 特開2005-120105: プラバスタチンナトリウムの新規フォーム

5. 特表2007-533663: プラバスタチンナトリウムの製造方法

6. 特表2007-526319: 酸不安定性薬物を含んでなる安定な医薬組成物

7. 特表2007-520464: ANTIに対するSYN比率が高いスタチンの製造方法

8. 特表2007-512366: プラバスタチンの精製方法

9. 特表2006-524190: 薬剤のメントール溶液

10. 特表2005-500382: カルシウム塩型スタチンの製造方法

11. 特許3881240: 醗酵ブロスからスタチン化合物を回収するための方法

12. 特許3740062: 培養液の精製方法

13. 特許3737801: プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物

Jan 27, 2008

ED治療薬バイアグラ(Viagra)とレビトラ(Levitra)

「ED治療薬として知られている下記化合物:
  • バイアグラ(Viagra)の有効成分 "Sildenafil citrate" (Pfizer)



  • レビトラ(Levitra)の有効成分 "Vardenafil" (Bayer)





は、両者ともPDE5 inhibitorであって、構造も酷似しているのに、両者間で"特許的"な問題は生じなかったのか?」 という趣旨のご質問を頂きました。 ありがとうございました。 バイアグラの有効成分である"Sildenafil citrate"をカバーする米国特許として、Orange Bookには2つの特許(US 5,250,534及びUS 6,469,012)がリストされています。 US 5,250,534のクレームを見てみると、カバーされているものは、窒素原子の位置が限定されたピラゾロピリミジノン骨格を有する化合物です(出願当初からこのピラゾロピリミジノン骨格のクレームです)。また、US 6,469,012でカバーされているものも、同じピラゾロピリミジノン骨格で限定された化合物の医薬用途です。 しかし、レビトラの有効成分である"Vardenafil"は、上図のようにイミダゾトリアジノン骨格ですから、上記2つの米国特許は"Vardenafil"をカバーしていないことになります。つまり、Orange bookにリストされたバイアグラをカバーする2つの米国特許に限ってだけ言えば、いずれの特許も、レビトラにとってfreedom to operate(FTO)の問題とはなりません。 一方、レビトラの有効成分である"Vardenafil"をカバーする米国特許として、Orange Bookにリストされているのは1つの特許(US 6,362,178)で、これは上記Pfizer特許のクレームでカバーされていないイミダゾトリアジノン骨格をクレームしています。 他の米国特許の存在や米国以外の特許状況はここでは検討していませんので、上記米国特許に限った考察でしかありませんが、互いの化合物をカバーする上記特許の先後願関係を見ると、バイアグラの有効成分をカバーする特許(US 5,250,534)が成立(1993.10.05)した後にレビトラの有効成分をカバーする特許(US 6,362,178)が出願(priority date: 1997.11.12)されていますので、Bayerは、上記Pfizer特許により権利行使されることのないイミダゾトリアジノン骨格を有する化合物を採用することによって、Pfizer特許が将来の事業に支障とならないことを見極めたうえで、研究・開発を進めたはずです。 自社の開発候補化合物と構造が酷似していると研究者が感じるような第三者特許が存在していたとしても、その特許クレームにカバーされていない限り(将来権利行使される可能性がない限り)、その開発候補化合物にとってfreedom to operate(FTO)の問題とはなりません。また、competitorの先願クレームでカバーされていない隙間に有望な化合物がないか合成展開するということもあり得ます。レビトラがその良い例でしょう。但し、freedom to operate(FTO)の問題と、自社の特許取得可能性とは別問題ですが。 ところで、日本においては、レビトラの有効成分をカバーする特許(特許3356428)は特に拒絶理由を受けることなく特許査定を受けており、第三者からの無効審判も請求されていません(JPO のIPDLより)。

Jan 24, 2008

2006.07.04 「シェーリング・プラウ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10715

モメタゾンフロエート(Mometasone furoate)吸入剤の発明は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10715

【背景】
吸入用エアゾール組成物に関する発明について、進歩性なし、との拒絶審決に対してが提起した審決取消訴訟。出願人はSchering-Plough。
引例発明との相違点は、含有する医薬が、本願発明ではモメタゾンフロエート(Mometasone furoate)であるのに対し、引用例1ではモメタゾンフロエートに特定されていない点のみであった。

請求項5:
「吸入用エアゾール組成物であって:
A.モメタゾンフロエート;
B.1,1,1,2-テトラフルオロエタン;および
C.賦形剤;界面活性剤;保存剤;バッファー;酸化防止剤;甘味料;
および風味マスキング剤から選択される,場合により存在してもよい一つ
あるいは複数の成分
から本質的に成る組成物。」

【要旨】
引例1の吸入用エアゾール製剤に使用する医薬として、ステロイド系副腎皮質ホルモンのベクロメタゾン等に代えて、ステロイド化合物で抗炎症剤として使用することのできる引例2記載のモメタゾンフロエートを用いることは、本願優先日当時、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
原告は、
「引例2は、モメタゾンフロエートという特定化合物の安定性を考慮することなしに、化合物全般についてエアゾールへの製剤化の可能性に言及したに過ぎないから、引例1のベクロメタゾンをモメタゾンフロエートに置き換えようとは考えない」
との阻害要因の存在を主張したが、
裁判所は、
「モメタゾンフロエートが吸入用エアゾール組成物に適さないことをうかがわせる記載はなく、不安定で使用できないとの技術常識も認められない。」
として主張を退けた。
また、原告は、
「薬剤回収率が高いという顕著な効果」
を主張したが、
裁判所は、「実施例には、原告が主張するような薬剤回収率に関する記載はなく、また、本願明細書には、薬剤としてモメタゾンフロエートを使用した場合に、にベクロメタゾンジプロピオネートを使用した場合と比べて、顕著な効果を奏する旨の記載もない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。」
として、認めなかった。
請求棄却。

【コメント】
技術常識の存在を動機付けの阻害要因として主張するのであれば、しっかり技術常識として認められるよう主張しなければならないだろう。また、顕著な効果を主張するのならば、客観的に。

参考:


Jan 22, 2008

2006.06.27 「ヴィアトリス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10630

公知化合物(フリー体)に対する塩体の進歩性は?:知財高裁平成17年(行ケ)10630

【背景】
「R-チオクト酸の固体塩を含有する服用形」の発明について、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起した。引例とは「R-チオクト酸を含有する固体形状の服用形」で一致、本件発明は塩であるが、引例はフリー体である点で相違していた。

請求項1:
R-チオクト酸と,
アルカリ金属又はアルカリ土類金属,水酸化アンモニウム,塩基性アミノ酸,例えばオルニチン,シスチン,メチオニン,アルギニン及びリジン,式:NR1R2R3[式中,基R1,R1及びR3は同一又は異なるものであり,水素,C1-C4-アルキル又はC1-C4-オキシアルキルを表わす]のアミン,C-原子数2~6のアルキレン鎖を有するアルキレンジアミン,例えばエチレンジアミンまたはヘキサメチレンテトラミン,ピロリドン,モルホリン;N-メチルグルカミン,クレアチン及びトロメタモール
から選択された塩基
とから成る固体塩を含有する,経口適用のための服用形。

【要旨】
医薬品の技術分野において、「R-チオクト酸」が、他の医薬品と同様に製薬学的に使用可能な塩の形を用い得ることは周知の技術事項であり、本件塩基は常用の塩基である。安定性や製剤のしやすさ、バイオアベイラビリティーの観点から製剤に好ましい塩の形態のものを選択することは容易である。
原告は、引例との課題の相違を主張したが、課題が相違しているからといって動機付けがないということにはなりえないとされた。また、溶解速度が10倍高まる点について顕著な作用効果を主張したが、技術常識であり、当業者の通常の応用力の発揮の範囲内とされた。進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
新規な塩体を発明したとしても、進歩性のハードルは非常に高いといえる。
米国の話ではあるが、USPTOがKSR事件における最高裁判決を受けて2007年10月10日に公表した自明性判断の審査ガイドラインにも、"Obvious to try"により自明とされる発明の例として、塩体の非自明性が争われたPfizer v. Apotex事件が挙げられている。
フリー体を開示した化合物特許出願が公開された後、その特定の塩体を見出し、その塩体を有効成分として開発を進めていくこととなった場合、その塩体の発明を"特許的"にどのように扱っていくか、注意深く検討する必要があるだろう。
ちなみに、チオクト酸(α-リポ酸)は、日本では、従来、医薬品としてのみ使用が許可された成分だったらしいが、2004年に食品としての使用も許可され、現在は、サプリメントに配合されて健康食品としても販売されているようである。
欧州では、チオクト酸(α-リポ酸)は糖尿病患者の末梢神経障害の治療薬として使用されているらしい(Thioctacid®)。

参考:


Jan 20, 2008

2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は公知プロダクトにより新規性を失うか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10781

【背景】
製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の原告(三共)の特許発明(特許第3463875号)について、先願明細書(国際出願PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。出願人はテバであり、日本では特表2004-510817号公報として公表、登録となった(特許3737801))に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとされ無効とされた審決の取消訴訟。

請求項1:
「菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,
式CH3CO2R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)

[化1]
を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」

【要旨】
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり、結局、組成物そのものの発明ということになる。従って、先願明細書に記載された発明と同一であり、特29条の2違反である。三共は、発明未完成等を理由に引例は29条の2先願の適格性が無い旨主張したが、裁判所は認めなかった。
請求棄却。

【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
一方、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)の権利解釈についても同様に、特許権の効力がクレームの製法に限定されるとする「限定説」よりも、製法がどうであれプロダクトそのものが同一であれば特許権の効力が及ぶとする「同一性説」が原則と考えた方がよいだろう。
本件は、不純物が議論された点でも興味深い。

参考:
  • 特許・実用新案審査基準 第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性: 「1.新規性、1.5.2 特定の表現を有する請求項における発明の認定の具体的手法」より抜粋。

    (3) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)

    請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。

    (注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。
  • 2006.02.24 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.04-1522
  • メバロチン: 三共(第一三共)のメバロチン®(Mevalotin、一般名: プラバスタチンナトリウム(pravastatin sodium)、高脂血症治療薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤)の日本での特許切れが2002年であり、後発品が既に参入している。 ちなみに、第一三共株式会社の2008年3月期中間決算短信及び補足資料(2007年11月6日発表)によると、メバロチンの売上高は、2006年度において935億円であり、前年に比べ497億円減、2007年度も売上減となる予測である。米国での特許切れによるジェネリック参入の本格化が大きく影響したようである(海外ではBristol-Myers Squibbが販売。販売名はPravachol®)。
    スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。

    メバロチンの世界売上高推移

    2003年度:2054億円
    2004年度:1667億円
    2005年度:1432億円
    2006年度: 935億円
    2007年度: 790億円(予測)

Jan 17, 2008

2006.03.29 「X v. ファイザー」 知財高裁平成17年(ネ)10117

共同発明者とは ? : 知財高裁平成17年(ネ)10117

【背景】
製剤研究室長だった原告Xは、本件特許権(特許第3015677号)に係る発明「ノルバスク分割錠」と同一の形状を着想していたと主張し、職務発明について特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に相当の対価を請求した。本件特許公報中の発明者欄には、原告 X の氏名も記載されていた。

請求項 1:
「盤状の素錠の上面に錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の溝からなる割線を設け,該上面は対向する縁部から割線へ向けて徐々に凹ませ,素錠の下面は周辺部から中心部に向けて徐々に盛り上げ,凹ませた上面および盛り上げた下面には各々曲面を形成させるが,上面の曲率半径を下面の曲率半径より小さくすることによって,周辺部より中心部の方が薄肉となるようにした上記素錠に,フィルムコーティングを施してなる,分割錠剤。」

【要旨】
「本件発明は、錠剤の形状についての着想を得ただけでは、期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく、実際に実験等を繰り返すことによって、初めて発明が具体化し、完成したものであるから、本件発明における発明者を認定するに当たっては、実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。」と裁判所は言及。実際、控訴人Xは、本件発明の着想を提案したり、伝えたりしたとの事実は認められず、真の共同発明者と認めることはできないとされた。
控訴棄却。

【コメント】
化学発明(製剤)の発明者の認定について言及した判決。製剤の発明者認定において、着想よりもむしろ実験を経た創作に重きをおいた観点が示されている。しかし、原審(2005.09.13 「X v. ファイザー」 東京地裁平成16年(ワ)14321)の判決文中に記載されている双方の主張を読んだほうが、むしろ実務には参考になる部分が多い。
発明の対価を請求するケースが増えてきたが、医薬に関する発明は通常研究グループのチームワークによって生み出されるので、単なる助言者~発明者~単なるテクニシャンの線引きをすることは困難な作業である。しかし、将来の争いに備えるという点で、出願時の発明者決定プロセスにおいて誰が発明者なのかという合理的・客観的な証拠資料を残しておくことは、企業側としては非常に重要なことであろう。

参考:
  • ノルバスク(Norvasc): ベシル酸アムロジピン(amlodipine besilate)を有効成分とする高血圧症薬(持続性Ca拮抗薬)であり、1993年12月からその非分割錠が発売開始され、1996年以降は分割錠に一本化して販売されている。

Jan 16, 2008

2006.03.27 「ユーローセルティーク v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10303

投与期間に特徴のある医薬の進歩性は?: 知財高裁平成17年(行ケ)10303

【背景】
「ブプレノルフィンによる持続的痛覚消失」の発明(特願平10-536980号)について、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起。引例とは「ブプレノルフィンの経皮送達システムの皮膚への適用により疼痛を治療する」という点で一致、本件発明は、3日間にさらに少なくとも2~6日の追加の投与期間を維持するとの構成要件であったが、引例は投与期間については言及されていなかったという点で相違していた。

請求項35:
ブプレノルフィンを含む経皮送達システムをヒト患者の皮膚上に適用し,3日間の投与期間にわたって該経皮送達システムの皮膚への接触を維持することによる中程度から重篤な疼痛を有するヒト患者を治療する方法のための薬剤の製造におけるブプレノルフィンの使用であって,前記経皮送達システムが適当な相対放出速度を維持して約3日間だけヒト患者に有効な痛覚消失を与えるのに十分なブプレノルフィンの量を含み,前記経皮送達システムは前記3日間の投与期間の後の少なくとも2~約6日の追加の投与期間,前記ヒト患者の皮膚への接触が維持され,これによりヒト患者が有効な痛覚消失を受け続けるものである,前記使用。

【要旨】
薬物動態を確認することは当業者が当然に思考する作業であり、本件投与期間を適用することも周知技術に照らして容易に相当することができる。皮膚への適用を継続すれば所定の効果が一定期間持続することは当業者であれば当然に予測したといえる。
請求棄却。

【コメント】
投与期間を持続すれば効果も持続することは、当業者が当然に予測できるといえる。本件投与期間の維持によって、何か予想できない効果があれば良かったのでは。
投与方法等で限定されたクレームが一定の条件のもと用途発明として認める旨を明確化した「医薬発明」の審査基準が「第VII部 特定技術分野の審査基準」の第3章として2005年4月に公表されたが、米国に比べ日本においては、まだまだこの点で争われた判決の蓄積が少ないので、本事案は今後の用法・用量に関する進歩性主張を検討する題材として参考になる。

ちなみに、現在、日本では、塩酸ブプレノルフィン(buprenorphine hydrochloride)は、鎮痛剤「レペタン注」、「レペタン坐剤」として大塚製薬から市販されており、既にジェネリック医薬品が参入している。本件出願人であるEuro-Celtique SAは、徐放性製剤技術に強いNapp/Purdue/Mundipharma independent associated companiesのpatent holding agentであり、ブプレノルフィン経皮吸収剤の臨床試験が現在実施中のようである。

参考:
  • Euro-Celtique SA website: http://www.euro-celtique.com/
  • Mundipharma website: History and Timeline
  • 久光製薬ニュースリリース: 2007.8.6 「Norspan®」の独占的な販売権に関するプレスリリース
  • 審査基準: 「第VII部 特定技術分野の審査基準、第3章 医薬発明、2.3 進歩性」
  • (4) 投与間隔・投与量等の治療の態様により特定しようとする医薬 特定の対象患者群、又は特定の適用範囲に対して、薬効増大、副作用低減といった当業者によく知られた課題を解決するために、医薬の使用の態様(投与間隔・投与量等)を好適化させることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。したがって、請求項に係る医薬発明において、引用発明との比較で新規性が認められるとしても、引用発明と比較した有利な効果が当業者の予測し得る範囲内である場合は、その進歩性は否定される。しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであること等、他に進歩性の存在を推認できる場合は、その発明の進歩性は肯定される(事例8)。

Jan 15, 2008

2007.12.06 「Novopharm v. Janssen-Ortho, Daiichi」 Supreme Court of Canada Docket No. 32200

Levofloxacin(レボフロキサシン)特許の有効性は?(カナダ最高裁上告棄却): Supreme Court of Canada Docket No. 32200

Levaquin(一般名:levofloxacin(レボフロキサシン)、ニューキノロン系抗生物質、日本での販売名はクラビット)の後発品をカナダで販売するNovopharm(Tevaの子会社)に対して、その特許権者である第一製薬(現・第一三共)とそのライセンシーであるJanssen-Ortho(Johnson&Johnsonの子会社)が特許権(CA1,304,080)侵害を主張。カナダ最高裁がNovopharmの上告を棄却したことによって、特許は有効であって特許権侵害であるとした連邦控訴裁判所の判断が確定した。

カナダ最高裁websiteより:

Summary

Intellectual property - Patents - Medicines - Whether the law of selection patents confers a second monopoly to a compound on the basis of properties that are the same as those of the genus from which the compound was selected - Whether “motivation” to select a previously disclosed compound should be imported into and given central importance in the test for obviousness - Whether the unpredictability of the properties of a previously disclosed compound permit an otherwise obvious invention to be the subject of a second monopoly - Whether a second monopoly may be granted for a compound disclosed in the prior art on the basis that routine testing is required to enable the invention - Whether a selection patent should be exempt from the requirement that the claims be unambiguous.

Daiichi Pharmaceutical Co., Ltd. (“Daiichi”) discovered ofloxacin, an antimicrobial drug used in the treatment of infections and obtained a patent for it in the early 1980s that expired in 2001. Ofloxacin is a racemic compound with a single chiral centre, a junction where there are two identical, three-dimensional molecules called enantiomers or optical isomers that are mirror images of each other. The right hand or dextro version is called (+) ofloxacin and the left or levo side is called (-) ofloxacin or “levofloxacin”. Further, the configuration of the enantiomers can be chemically described as being either “S” or “R”. After the discovery of ofloxacin, researchers at Daiichi experimented with techniques to isolate or resolve its enantiomers from the racemic compound. Their research indicated that the “S(-)” enantiomer had twice the antimicrobial activity, was less toxic, and was more soluble than the racemic compound. In 1986, Daiichi filed a patent application for levofloxacin which became Canadian Patent 1,304,080 (the “080” patent in 1992. This patent will expire in June 2009. Janssen-Ortho Inc. (“Janssen”), Daiichi’s Canadian licencee, markets and sells levofloxacin in Canada. In 2004, the Applicant, Novopharm Limited (“Novopharm”), obtained a notice of compliance from the Minister of Health, which allowed it to market its generic version of levofloxacin in Canada. In Daiichi’s prohibition proceedings launched under the Patented Medicines (Notice of Compliance) Regulations, Novopharm was successful in establishing that the 080 patent was void for obviousness and anticipation. When Novopharm began marketing its product, however, Janssen and Daiichi commenced infringement proceedings. In dispute was the validity of claim 4 of the 080 patent.

See also:


Jan 13, 2008

2008.01.01 「Croatia and Norway join the EPO 」

クロアチアとノルウェーのEPC加盟が2008年1月1日で発効。
EPC加盟国は34ヵ国になった。

EPO website: 2008.01.01 Croatia and Norway join the EPO


クロアチアについては、以前はEPC拡張国だったため、出願手続の面では今回のEPC加盟による大きな影響は無いだろう。




一方、ノルウェーについては、以前はEPC拡張国でもなかったため、PCTルートからの国内段階手続きをEPCルートとは独立して進める必要があった。今回のEPC加盟は、欧州で広く権利化を進めたい出願人にとっては手続的負担が軽減されるという点で非常に喜ばしいことである。

  • ジェトロによると、2004年医薬品市場におけるジェネリック医薬品のシェア(%(数量ベース))国別ランキングで、ノルウェーはOECD加盟国のなかで10位(28.2%)とのこと。ちなみに米国は51.0%、日本は16.8%(2004年)である。


  • Statistisk sentralbyråより 「ノルウェーデータ


Jan 9, 2008

2006.02.24 「SmithKline v. Apotex」 CAFC Docket No.04-1522

プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うか?: CAFC Docket No.04-1522

【背景】
パロキセチン塩酸塩(paroxetine hydrochloride)を抗うつ剤として販売(販売名: パキシル(Paxil)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI))しているSmithKlineは、ANDA申請したApotexに対して、新規な方法により製造されるパロキセチンをプロダクトバイプロセスによりクレームした米国特許(6,113,944)を侵害しているとして訴訟を提起した。

Claim 1. A pharmaceutical composition in tablet form containing paroxetine, produced on a commercial scale by a process which comprises the steps of:
a) dry admixing paroxetine and excipients in a mixer to form a mixture; or
b) dry admixing paroxetine and excipients, compressing the resulting combination into a slug material or roller compacting the resulting combination into a strand material, and milling the prepared material into a free flowing mixture; and
c) compressing the mixture into tablets.

該特許が、パロキセチンに関する先願米国特許(4,721,723)により新規性を失っているか否かが争われた。

【要旨】
たとえ、プロダクトクレームが製法限定されていたとしても、特許性はプロダクト自身で判断される。従って、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知技術からプロダクトを取り戻すことはできない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うと判断された。

【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。

参考:

Jan 8, 2008

2006.02.16 「イナルコ v. 森永乳業(結晶ラクチュロース三水和物事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10205

添加した種晶が何なのか争われた事案: 知財高裁平成17年(行ケ)10205

【背景】
森永乳業は「結晶ラクチュロース三水和物とその製造法」とする特許第2848721号の特許権者。実施例には、結晶ラクチュロース三水和物を製造するのに、当該新規物質を種晶として用いる方法が記載されており、原料物質となる結晶ラクチュロース三水和物が、既に得られたことを前提とした書きぶりになっていた。無効審判を請求されたが、請求棄却されたため、審決取消訴訟が提起された。森永は、明細書記載の種晶は、公知であった結晶ラクチュロース無水物のことであり、当業者もそう理解するはずだと主張した。

【要旨】
明細書の記載から、「ラクチュロースを種晶添加し」の「ラクチュロース」は「三水和物」を意味するものと認められる。また、無水物を種晶として添加した場合に、無水物は結晶として析出せず、三水和物が析出すると予想することができるという主張は採用できない。本明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が種晶として使用するラクチュロース三水和物を容易に製造できる特段の事情が存在すると認めることはできないから、旧36条4項(実施可能要件)違反であるとして、審決を取り消した。

【コメント】
種晶を用いた製造方法を記載しなければならない場合には、当然のことながら当業者が実施可能なように、種晶をどのようにして得るのかまで記載する必要がある。

参考:

Jan 7, 2008

2006.01.25 「メディカライズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10438

限られた数の組合せの中から選択した発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10438

【背景】
「ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品」の発明に関して、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起。引例との相違点は、デルマタン硫酸がその上位概念であるムコ多糖類となっている点のみであった。原告は選択発明であると主張した。

請求項1: 少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする健康食品。

【要旨】
裁判所は、
組合せの容易想到性について、
「引用例1が示唆するところに従って,限られた数の組合せの中から,ヒアルロン酸と組合せて使用する効果を確認しつつ,適するものを特定し,結果的にデルマタン硫酸を含有する組合せを特定するに至ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっては容易であるというべきである」
とし、
本願発明の効果については、
「このような発明が,常に格別顕著な効果を奏するものであることを裏付けるためには,本願発明1に包含される任意の組合せの任意の配合比率の態様が,引用例1に示唆された31通り又は15通りの全組合せのうちの,本願発明1に相当しない15通り又は7通りの組合せの任意の配合比の態様と比較しても,また,引用例1に明示されたムコ多糖類の各々を単独に含有する態様と比較しても,常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要がある
~前記のとおり,その格別顕著な効果を主張するための根拠となるべき比較試験が記載されていないことに変わりはないから,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及び刊行物2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を有するものであるということができないことにも変わりはない。
~したがって~本願発明1が,任意の含有量において,格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできないというほかない」
と判断した。
請求棄却。

【コメント】
ムコ多糖類の成分の一つとしてデルマタン硫酸が知られていることから、その組み合わせは当業者にとって容易であり、格別顕著な効果を奏するとの証拠もない、と判断され進歩性なしと判断された。組み合わせの上位概念が公知だが、公知物質同士の新規な特定の組合せを選択発明として進歩性を主張するためには、該選択発明以外の全ての組合せの任意の配合比と比較しても、常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要があることに注意。

Jan 6, 2008

2007.11.29. 「イエダ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10105

実験的に実証されていないから進歩性があるのか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10105

【背景】
「溶解型TNF受容体のマルチマー,その製造方法,およびそれを含有する医薬組成物(特開平7-145068号)」に関する発明が引例との関係で進歩性を有しないとの拒絶審決に対して取消しを求めた事案。

請求項1:
TNFのその受容体への結合の妨害能を有しTNFの作用を遮断できる,溶解型TNF-Rのマルチマーまたはその塩であって,該マルチマーはTBP-Iからなる,あるいはTBP-IとTBP-IIの混合物からなる,溶解型TNF-Rのマルチマーまたはその塩。

【要旨】
裁判所は、
「引用例1には,「溶解型TNF-Rのマルチマー」につき,TNF依存性応答を抑制するために投与され,TNFによって引き起こされる病気や疾患を治療するために使用されることも記載されている。そして,以上の事実に,前記4のとおり,TNFに特異的に結合する2種類のタンパク質として,TBP-IとTBP-IIがあり,これらは,TNFの細胞破壊作用に対して防護作用を有することが,本願優先日前から知られていたことからすると,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,引用例1に記載された「溶解型TNF-Rのマルチマー」について,「TBP-Iからなる,あるいはTBP-IとTBP-IIの混合物からなる」ものを用いてみようと発想する十分な動機付けがあるということができるのであり,相違点①を容易に想到することができたものというべきである。」
と判断した。
この点、出願人は、
「TNFが結合するTNF-Rの形態について,~まだ何もわかっていない。~その「多価形態」におけるその「結合能力」についても実証されていない」
等の主張をしたが、裁判所は十分な動機付けがあるとしてその主張を採用することはできないと補足的に言及した。
請求棄却。

【コメント】
実験的に実証されていないことを証明したからといって、進歩性があるということにはならない。

完全ヒト型可溶性TNFα / LTα レセプター製剤としてエンブレル(Enbrel、一般名:エタネルセプト(Etanercept))が既に販売されいるが、これは、遺伝子組換えにより産生された、 ヒトIgG1のFc領域とヒトTNFⅡ型レセプターの細胞外ドメインのサブユニット二量体からなる糖蛋白質であり、本願のTBP-I(TNFⅠ型レセプターに相当)からなるマルチマーとは相違するものである。

参考:

Jan 3, 2008

2007.12.28 「Mitsubishi Tanabeが米国における「Argatroban」後発品申請に対して特許侵害訴訟を提起」

2007年12月28日、Mitsubishi Chemical Corporation, Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation, Encysive及びGlaxoSmithKlineは、選択的抗トロンビン剤(注射剤)「アルガトロバン(Argatroban)」(日本での田辺三菱製薬による販売名は、ノバスタン(NOVASTAN)HI注。)のANDAを行った後発品メーカーであるBarr社に対して、米国特許(5,214,052)に基づき米国ニューヨーク州南地区連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起した。
Barr社は、Argatrobanをカバーする該特許について、非侵害か、無効であるか、権利行使不能であると主張している。Orange Bookによれば、米国特許5,214,052の存続期間は2014年6月30日まで。

参考: