Apr 21, 2008

2007.10.10 「USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness」

USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness in Light of the Supreme Court’s KSR v Teleflex Decision

KSR事件における最高裁判決を受けて、USPTOは自明性判断の審査ガイドライン公表しました。このガイドラインでは、発明が自明であるとする理論的根拠として下記項目を列挙しています。

III. Rationales To Support Rejections Under 35 U.S.C. 103
Rationales
(A) Combining prior art elements according to known methods to yield predictable results;
(B) Simple substitution of one known element for another to obtain predictable results;
(C) Use of known technique to improve similar devices (methods, or products) in the same way;
(D) Applying a known technique to a known device (method, or product) ready for improvement to yield predictable results;
(E) "Obvious to try"—choosing from a finite number of identified, predictable solutions, with a reasonable expectation of success;
(F) Known work in one field of endeavor may prompt variations of it for use in either the same field or a different one based on design incentives or other market forces if the variations would have been predictable to one of ordinary skill in the art;
(G) Some teaching, suggestion, or motivation in the prior art that would have led one of ordinary skill to modify the prior art reference or to combine prior art reference teachings to arrive at the claimed invention.
なかでも注目すべきは、(E) "Obvious to try"において、下記の医薬品に関する判決が例示されている点です。現時点では、これら事件で下された論理が、医薬品における"塩の発明"及び"製剤の発明"が"Obvious to try"により自明であるか否かを判断するための道しるべであると言えるでしょう。


医薬品において、有効成分の許容される塩の種類が限られていること、医薬品の添加剤の種類も当局のガイドライン等で制限されていることなど、医薬品のライフサイクルパテントに関する発明が医薬品当局の規制という限られた枠の中で創作されなければならないことを考えれば、米国の自明性判断(特に、"Obvious to try")の方向性が新薬メーカーにとって厳しい状況に進んだことは間違いないでしょう。

Apr 20, 2008

2008.03.31 「メリアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10221

動物の種を超えて薬剤を適用することは困難?: 知財高裁平成18年(行ケ)10221

【背景】
「家畜抗菌剤としての9a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「パスツレラ種,アクチノバシラス種,ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)又はマイコプラズマ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌,トレポネーマ・ハイオディセンテリー(Treponema hyodysenteriae)又はサルモネラ種に起因するウシ又はブタの腸内感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とするウシ又はブタに治療又は予防的に有効な量の式Iの化合物を投与することを特徴とし,
式I は下記:
【化1】(省略)
である化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
である前記方法。」

引用発明との一致点・相違点:
(一致点)
パスツレラ種に起因する哺乳動物の感染,又は大腸菌に起因する哺乳動物の感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の式Iの化合物を投与する治療方法。
(相違点)
本願補正発明は,パスツレラ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌に起因するウシ又はブタの腸内感染をその治療の対象とするのに対し,引用例1,4ではこの点の記載がされていない点。

【要旨】
ウシ又はブタへの適用の困難性について、
裁判所は、
「原告は,甲9を根拠として,動物の種間における薬理学上及び代謝上の相違の理由について説明できない以上は,マウス等の生体内における抗菌活性のデータからウシやブタのような家畜動物における抗菌活性を推論することはできないと主張する。
しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり失当である。
確かに,甲9には,動物種間で薬剤の排泄及び消失半減期が異なることや,同類の動物種間においてさえ,既知の薬剤の薬物動態学的データを置き換えるのは不可能であって,合理的な投与スケジュールの設定は,臨床的な使用が意図されている動物の種ごとに得られたデータに基づくべきであることが記載されているが,同記載の趣旨は,全体をみれば,抗菌剤等の薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提として,動物種の違いに応じて製剤の処方や形態,投与量,投与期間,投与間隔などを適宜設定すべきであるとの留意点に言及したものと理解するのが相当である。したがって,甲9の記載をもって,ウシやブタに適用することが困難であるとする原告の主張は,採用できない。」
と判断した。
容易想到性の判断の誤りについての原告のその他主張を認めず。
進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
ある薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提としているのであれば、当然ながら異種の動物に適用することには積極的な動機づけがあるということになるだろう。

Apr 17, 2008

明細書記載要件としての選択発明の効果の記載の程度(韓国)

I.P.R. vol.22, No.3, p194-195, 2008
選択発明の効果が明細書にどの程度記載されていなければならないかの判決情報(大法院2007.9.6言い渡し2005フ3338判決、特許法院2008.1.18言い渡し2006ホ6303判決)が掲載されている。

参考:


Apr 15, 2008

2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10820

当業者に過度の試行錯誤を強いる: 知財高裁平成17年(行ケ)10820

【背景】
本発明(特願平4-507654)は、骨形成用の活性剤複合体を生成する方法であり、明細書中には、具体的手段や操作に関する記載がなかったため、実施可能要件違反を理由に拒絶査定、拒絶審決を受けたため、原告は審決取消訴訟を提起した。原告は、周知慣用技術を用いて当業者であれば試行錯誤して容易に実施できる等主張した。

請求項1:
「骨形成用の活性剤複合体を生成するための方法であって,
骨から,コラーゲン,エラスチン,プロテオグリカン及びその混合物の形態における少なくとも一種の構造成分,少なくとも一種の走化学性ペプチド又はアラキドン酸代謝物の形態における少なくとも一種の補充成分,フィブロネクチン,テネイシン,ラミニン,コラーゲンタイプⅠⅤ型,Ⅴ型,ⅤⅠⅠ,L-CAM,N-CAM又はインテグリンの形態における少なくとも一種の接着成分並びに少なくとも一種のサイトカインの形態における少なくとも一種の増殖及び成熟成分を含んでなる少なくとも一の初期複合体を調製し,そしてそれを次の工程に従って処理する,
a)当該初期複合体に変性手段を供給するか,又は当該初期複合体を変性手段で処理して,当該初期複合体の前記成分の少なくとも一部を変性させて均質相を獲得し;
b)このようにして形成された均質相を二以上の部分に分割し;
c1)当該均質相を二部に分けたなら,当該均質相の一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
c2)当該均質相を二部超に分けたなら,当該均質相の少なくとも一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
d)当該均質相の少なくとも一の部から前記選定した成分を分画し;
e)このようにして獲得した画分の少なくと(も)一部を前記均質相の他の部と混合し;
f)工程eにより得られた混合均質相を,前記変性手段を取り除くことにより,又は前記変性剤による処理を停止させることにより再生し,これにより
g1)前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;又は
g2)前記工程a)ないしf)を1又は複数回繰り返して前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;
ことを特徴とする方法。」

【要旨】
裁判所は、
明細書中に具体的手段や操作に関する記載がなければ、当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たさない、
と判断した。
請求棄却。

【コメント】
当業者に過度の試行錯誤を強いることとならないように、発明を実施できるように記載しなければならない。

Apr 13, 2008

2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219

病態部位と微生物を特定した細菌感染治療法: 知財高裁平成18年(行ケ)10219

【背景】
「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:
【化1】(省略)
をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
であることを特徴とする前記方法。」

引用発明1との一致点・相違点:
(一致点)
「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の,引用例1記載の式(Ⅱ)の化合物を投与する治療方法」である点。
(相違点)
本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。

【要旨】
裁判所は、
「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている。」
と認定した審決に誤りはなく、
引用例1の記載部分は、
「当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である。」
と判断した。

これに対し原告は、
「8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由がある」
との阻害要因の存在を主張した。

しかし裁判所は、
「原告が根拠とする甲23~27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の①安定性,②浸透性,③リボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない。」
と判断し、阻害事由があるとの主張は採用することができないとした。

格別の作用効果について

原告は、8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,顕著な治療効果をもたらすものであると主張した。

しかし、裁判所は、
「本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
進歩性判断における有利な効果の参酌の可否について、明細書の記載を問題としている。
本願発明は引例と有効成分である化合物の点で一致しており、病態部位を限定している点(呼吸器又は腸内)、及び微生物を特定している点で相違しているのであるから、示すべき格別の作用効果についての考え方として、そもそも従来の化合物と比較しても意味が無く、相違点に注目して、他の部位や、他の微生物と比較した効果があるか否かを検討するのが正しい筋道ではなかろうか。

Apr 10, 2008

進歩性のための明細書記載要件


日本における進歩性の判断において、引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、
(1) 「引用発明と比較」という観点、及び
(2) いわゆる「後出しデータ」の許容性という観点で、
当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされるのでしょうか?

"進歩性のための明細書記載要件"(勝手にそう呼んでます)なるものは、特許法上規定されていませんが、これまでの判決を見ているとどうも一定の要件として存在するようです(個人的には疑問を感じていますが)。これは欧米とは異なる日本特有の要件なのでしょうか。

具体的な事例として参考になりそうな最近の判決(特に医薬に関する判決)を下記に列挙しつつ、判決間の整合性を検討していく予定です。

参考事例:


本記事は、画面右「TOPICS」欄にリストしています(→)。


参考:

  • パテント2013 第66巻第3号(別冊第9号)21-55頁 「進歩性要件の判断にあたり出願後の実験データの参酌が許される明細書の記載の程度」
  • 特許・実用新案審査基準 第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性
    (抜粋)
    2.5 論理づけの具体例
    (3) 引用発明と比較した有利な効果

    引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。

    ①引用発明と比較した有利な効果の参酌

    請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。
    (中略)
    しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。
    例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発明の発明特定事項とが類似していたり、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される。
    特に、後述する選択発明のように、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属するものについては、引用発明と比較した有利な効果を有することが進歩性の存在を推認するための重要な事実になる。

    ②意見書等で主張された効果の参酌

    明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。

Apr 9, 2008

2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10834

「精製及び滅菌濾過」は当業者が適宜することができる範囲内の事項: 知財高裁平成17年(行ケ)10834

【背景】
依存性薬物に対するワクチンの製造方法に関する本発明(特表平5-502871号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
引例との相違点は、「精製及び滅菌濾過後、ワクチンの長期持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用する」点であったが、原告は、「精製及び滅菌濾過」が引例に言及されていない点、「1回投与量及び投与回数」について本願実施例と引例とでは大きな差がある点等を主張した。

請求項1:
「ハプテン-担体複合体を得るためにハプテンとして担体化合物に結合させた依存性を起こしうる1種またはそれ以上の薬物を含有するワクチンの製造方法であって,該複合体は,精製及び滅菌濾過後,該ワクチンの長持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用するためのものである,上記方法。」

【要旨】
「精製及び滅菌濾過」は医薬品であれば通常行われる事項である。また、クレームにおいて、具体的投与量や投与回数は特定されていないし、実施例に限定されるものでもない。従って、当業者にとって容易に相当し得るので進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
「1回投与量及び投与回数」について、本願実施例と引例とでは大きな差があるという点を主張するのであれば、少なくとも実施例に限定したクレームを作っておくべきだったのでは。

Apr 8, 2008

2008.03.19 「フランシスカス v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10270

鼻内投与製剤の形態をパウダーにすること、賦形剤として糖類又は糖アルコールを含有すること: 知財高裁平成19年(行ケ)10270

【背景】
アポモルヒネの鼻内投与製剤に関する発明(特表平8-508472号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「鼻内投与用のパウダー状の薬剤組成物であって,アポモルヒネ又はアポモルヒネ塩と賦形剤とを含有しており,前記賦形剤が糖類または糖アルコールを含んでいる,薬剤組成物。」

(引用発明Aの内容)
パーキンソン病の患者に対しアポモルヒネ1%溶液が鼻腔内投与用の薬剤組成物として使用されたこと。
(一致点)
いずれも「アポモルヒネを含む鼻内投与用の薬剤組成物」である点。
(相違点1)
本願発明はパウダー状であるのに対し,引用発明Aは溶液状である点。
(相違点2)
本願発明は賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むのに対し,引用発明Aは賦形剤についての記載がされていない点。

【要旨】
取消事由1(相違点1の判断の誤り)について

裁判所は、
「鼻内投与用の薬剤組成物についてパウダー状組成物の構成を採用することは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであることは明らかである。」
と判断した。

これに対し原告は、引用例A中の副作用の存在(阻害要因1)や、粉末形態投与による不快感(阻害要因2)、刺激性のリスク(阻害要因3)、治療効率を悪化させる可能性(阻害要因4)といった阻害要因を主張したが、裁判所は、阻害要因になるというほどのものではないとして採用せず。

取消事由2(相違点2の判断の誤り)について

裁判所は、
「アポモルヒネを含有する薬剤組成物をパウダー状とするに当たり,賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むものとする相違点2の構成は,当業者において容易想到である」
と判断した。
これに対し、原告は、
「既知の多くの物質群の中から本願発明と同様の賦形剤を選択することは,当業者にとって容易ではなかった」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願の優先日前において糖又は糖アルコールの賦形剤自体が一般的であったと認められるのであるから,賦形剤として他に多くの物質が既知であるからといって,そのことから直ちに糖又は糖アルコールを賦形剤として用いることが困難となるものではない。」
として原告主張を採用しなかった。

取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤りに)について

原告は、
「甲4~6実験を挙げつつ,本願発明は①副作用が少なく②生物学的利用能が高いという顕著な効果を有する」
旨主張した。
しかし裁判所は、
「甲4~6実験の内容は本願明細書に開示されておらず,いずれも本願の出願後に公表ないし実験されたものであるから~同実験の結果をもって本願発明についての効果を論ずることは失当といわなければならない。
そして,本願明細書(甲16)には,~具体的に適用した試験例は記載がなく,ただ,「…この水溶液の最大欠点は,アポモルヒネに安定性が欠けていることである。」(10頁11行~12行)として従来技術の液剤の欠点を述べた上で,「…本発明によると,…アポモルヒネの驚くほど高い生物学的利用能及び優れた安定性を得ることができる。」と記載されているにすぎない(10頁15行~18行)のであるから,このような記載をもって本願発明が顕著な効果を有すると認めることはできない。なお,原告が提出した甲4~甲6実験は,~原告主張の上記①,②の効果が格別顕著であることを示すものではない。」
と判断し、原告主張は採用することができないとした。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
鼻内投与製剤の形態の選択肢として、
パウダーが知られている点、及び
鼻内投与製剤の賦形剤の選択肢として、糖類又は糖アルコールが知られている点
を考慮すれば、それらを採用するのには動機付けが存在するだろうから、予測できない効果を主張できるか否かが進歩性のハードルをクリアできるかどうかの一番のポイントであった。
残念ながら、明細書には顕著な効果を有すると認めることのできる試験例は開示されていなかったようである。また、原告主張の阻害要因は、動機付けを否定できる(当業者であれば試してみようと思わないといえる)ほどの強いものではなかった。

参考:

Apr 5, 2008

2007.06.28 「Takeda v. Alphapharm」 CAFC Docket No.06-1329

ACTOS(アクトス)米国特許侵害訴訟: CAFC Docket No.06-1329

【背景】
武田薬品が販売するチアゾリジンジオン系糖尿病治療薬である塩酸ピオグリタゾン(pioglitazone hydrochloride、商標名:ACTOS、アクトス)について、ジェネリックメーカーであるAlphapharm社がFDAにANDA申請したことに対し、特許権者である武田薬品が侵害訴訟を提起した。Alphapharm社は、該特許(US4,687,777)は自明であり、特許は無効である等を主張した。地裁は特許は有効であると判断、Alphapharm社は控訴した。
争われたクレームは下記の一般式



で表されるピオグリタゾンをカバーする化合物等であり、公知化合物は、ピリジン環の6位にメチル基を有する点のみが構造上異なるチアンゾリンジオン誘導体(化合物b)であった。



【要旨】
CAFCは、
「化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)を判断する際に、
"prior art would have suggested making the specific molecular modifications necessary to achieve the claimed invention"
であることを明示するよう要求してきた判断は、KSR事件で最高裁が出した法理に一致しており、従って、
"in cases involving new chemical compounds, it remains necessary to identify some reason that would have led a chemist to modify a known compound in a particular manner to establish prima facie obviousness of a new claimed compound."
である」
と言及した。

Alphapharm社は、
「当業者なら化合物bをリード化合物として選択するだろうし、そうすれば、
"one of ordinary skill in the art would have made two obvious chemical changes: first, homologation, i.e., replacing the methyl group with an ethyl group, which would have resulted in a 6-ethyl compound; and second, “ring-walking,” or moving the ethyl substituent to another position on the ring, the 5-position, thereby leading to the discovery of pioglitazone"」
と主張し、また、
「KSR事件での判断に依拠して、"homologation"及び "ring-walking"の技術を使用することは"obvious to try"であった」
と主張した。

しかし、CAFCは、化合物bの副作用の懸念を示唆した文献を考慮して、
"Significantly, the closest prior art compound (compound b, the 6-methyl) exhibited negative properties that would have directed one of ordinary skill in the art away from that compound."
と認定し、当業者なら化合物bをリード化合物として選択するであろうとのAlphapharm社の主張に同意しなかった。

さらに、CAFCは、武田薬品が毒性という点でピオグリタゾンと化合物bとは有意に異なる旨を示している点を挙げ、たとえ上記のAlphapharm社の主張が認められたとしても、
"Takeda rebutted any presumed expectation that compound b and pioglitazone would share similar properties."
であると判断した。

Alphapharm社はクレームされた化合物がprima facie obviousであったであろう点を証明できておらず、特許は有効であるとの地裁判断に誤りはないとし、特許有効判決を支持した。

【コメント】
化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)が争われた事例。判決文中にKSR事件での最高裁の判断を明確に考慮している点でも注目すべき判決。
但し、補足意見で指摘されているように、ピオグリタゾン以外の6-ethyl compoundについては予期できない結果を示す証拠は示されておらず、ピオグリタゾンに限定されていないgenus claimであるクレーム1及び5を有効とした判断については果たして妥当なのかどうか疑問である。
Orange Bookによれば、本件特許の存続期間は2011年1月17日までとのこと。

CAFC判決を不服としてAlphapharm社は米国最高裁判所に上告していたが、2008年3月31日、同裁判所は上告を棄却する決定を下した。

参考:

Apr 2, 2008

2006.10.26 「Takeda事件」 EPO審決T0512/02

ピオグリタゾンの併用特許の進歩性: EPO審決T0512/02

【背景】
「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼインヒビターとの医薬組成物」に関する出願(出願番号EP96304570.3/公開番号EP0749751)について、進歩性無しを理由に拒絶査定となったことに対して、出願人は審判部へappealした。
出願人は、審判手続きにおいて、比較実験データとともにnew main request(下記独立クレーム1)を提出した。

1. A pharmaceutical composition which comprises pioglitazone or a pharmacologically acceptable salt thereof in combination with acarbose or voglibose.

Closest prior artとして引用された文献(1)には、α-グルコシダーゼインヒビター、好ましくはinsulin sensitivity enhancerとの併用、は非インスリン依存型糖尿病の治療に有用である旨が記載されており、α-グルコシダーゼインヒビターとしてacarbose、voglibose及びmiglitol、そしてinsulin sensitivity enhancerとしてciglitazone、pioglitazone及びtroglitazoneが具体的に例示されていた。

【要旨】
審判部の判断
2.5
However, the provision of further pharmaceutical compositions for the treatment of NIDDM does not involve an inventive step over document (1) for the following reasons: as was mentioned in paragraph 2.2 above, document (1) teaches to use an insulin sensitivity enhancer in combination with an α-glucosidase inhibitor for the treatment of certain forms of NIDDM. As far as specific active agents are concerned, it is noted that (1) describes three α-glucosidase inhibitors, namely acarbose, miglitol and voglibose and three insulin sensitivity enhancers: pioglitazone, troglitazone and ciglitazone which yields nine possible combinations altogether. From this very limited number of options, the applicant chose two combinations: pioglitazone plus acarbose and pioglitazone plus voglibose. In this context, it is worthwhile to analyse the expermental data submitted by the appellant as annex to the statement of the grounds of appeal. In said tests the performance of a combination of active agents of the invention is compared with each of the individual compounds but not with combinations outside the present invention but encompassed by document (1).

To summarise the results of the tests: said tests show effects which are not mentioned in the closest prior art as defined by document (1), but the effects are not related to the selection of the two combinations as claimed out of the nine possible combinations of document (1). Therefore, they are considered to be inherent in said combinations of (1). There is no evidence at all that the two alternatives of the present invention are in any way advantageous over, e.g., the combination ciglitazone + voglibose or pioglitazone + miglitol.
It follows therefrom that the subject-matter as claimed in claim 1 merely constitutes an arbitrary selection out of the nine possible combinations of document (1) which cannot give rise to an inventive step.
請求棄却。

【コメント】
併用療法の発明において、併用の組み合わせを示唆する引例からの進歩性を主張するためには、有効成分単独効果との比較ではなく、該組合せ以外の組合せと比較したデータが要求される。要求される比較データが、単独効果と比較した効果ではなく、他の併用の組み合わせと比較した効果である点は、日本の実務と同じ(参考:2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389;2007.05.16 「ロレアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10291)と思われるが、下記に示すように日本特許庁の審査官は特許査定を出してしまっている。

ピオグリタゾン:

武田薬品が開発した2型糖尿病治療薬(商品名:アクトス、ACTOS、一般名:塩酸ピオグリタゾン)で、他の薬剤との併用・合剤を開発することによる製品のライフサイクルマネージメントを積極的に進めている。2006年度のアクトスの売り上げは対前年38%増の約3400億円。また、武田薬品の平成20年3月期第3四半期財務・業績の概況(2008.01.31公表)によれば、アクトスの売り上げは、2008年度第3四半期累計で既に約3100億円に達している。

esp@cenet®及びIPDL (JPO)により本特許出願のファミリー(日米欧)を調べたところ、状況は現時点で下記のとおり。日米欧それぞれの審査状況を比較すると興味深い。

  • EP749751:本件出願
  • EP861666:本願の分割出願、メトフォルミンとの併用クレームとして特許となったが、異議申立がなされ、その決定に対して審判請求されている(T1357/06)。
  • EP1174135:本願の分割出願、glibenclamide又はglimepirideとの併用クレームであり、審査係属中。
  • EP1764110:本願の分割出願、biguanideとの併用クレームであり、審査係属中。
  • JP3148973:α-グルコシダーゼインヒビターであるacarbose、voglibose、miglitolとの併用クレームとして特許となり、存続期間延長登録もされている(出願番号2002-700098、2002-700099)。
  • JP3973280:上記出願の分割出願。ビグアナイド剤、スタチン系化合物との併用クレームとして特許。
  • JP2007-191494:上記出願の分割出願。
  • US:多くの併用特許が成立。


Apr 1, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年3月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

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