May 26, 2008

2006.11.29 「花王 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10227

「シワ形成抑制」という用途は新たな用途か?: 知財高裁平成18年(行ケ)10227

【背景】
請求項1:
「アスナロ抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤。」

とする本願発明について、「シワ形成抑制」という用途が、新たな用途を提供したといえるかどうか争われた拒絶審決取消訴訟。審判では、同抽出物を有効成分とする美白化粧料組成物を引例として、特29条1項3号(新規性なし)により特許性を否定された。

(引例との一致点)
「アスナロ抽出物を有効成分とする皮膚外用組成物」である点。

(引例との相違点)
本願発明は当該組成物が「シワ形成抑制剤」であるのに対し,引用発明は「美白化粧料組成物」である点。

【要旨】
引用発明を皮膚に適用すれば、「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」を奏しているとしても、本出願までにその旨を記載した文献が認められないことからすると、「シワ形成抑制作用」を奏していることが知られていたと認めることはできない。「シワ」と「美白」が異なることは前記のとおりであって、皮膚適用との共通点があるからといって、当業者が、出願当時、引用発明につき、「シワ」についても効果があると認識できたとは認められない。「シワ形成抑制」という用途は、「美白化粧量組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。
審決取消。

【コメント】
審決が取り消された事例。

皮膚に外用する化粧料として一致しているため、一見新たな用途を提供していないかのようであるが、実際のところは、「シワ形成抑制」と「美白」は独立した作用であったということ。
用途発明の捉え方について参考になる。

特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性)には、具体例として、「美白用」ではなく「保湿用」と「シワ防止用」との用途の区別が、当該分野における技術常識に基づいてどう判断されるか記されている。


1.5.2 特定の表現を有する請求項における発明の認定の具体的手法
(2) 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合

例6:「成分Aを有効成分とする肌のシワ防止用化粧料」
「成分Aを有効成分とする肌の保湿用化粧料」が、角質層を軟化させ肌への水分吸収を促進するとの整肌についての属性に基づくものであり、一方、「成分Aを有効成分とする肌のシワ防止用化粧料」が、体内物質Xの生成を促進するとの肌の改善についての未知の属性に基づくものであって、両者が表現上の用途限定の点で相違するとしても、両者がともに皮膚に外用するスキンケア化粧料として用いられるものであり、また、保湿効果を有する化粧料は、保湿によって肌のシワ等を改善して肌状態を整えるものであって、肌のシワ防止のためにも使用されることが、当該分野における常識である場合には、両者の用途を区別することができるとはいえない。したがって、両者に用途限定以外の点で差異がなければ、後者は前者により新規性が否定される。

May 20, 2008

2008.04.21 「藤川 v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10120

特29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」とは?: 知財高裁平成19年(行ケ)10120

【背景】
原告(藤川)が、被告(ファイザー)を特許権者とする「結晶性アジスロマイシン2水和物及びその製法」に関する特許(第1903527号)につき無効審判請求(無効2006-80058号)をしたが、審判請求は成り立たないとの審決がなされたため、同審決の取消しを求めた事案。

請求項1:
結晶性アジスロマイシン2水和物。

【要旨】
1. 取消事由1(新規性判断の誤り)について

裁判所は、
「特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については,特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該物の発明の構成が開示されていることに止まらず,当該刊行物に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易にその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。そして,当該物が,例えば新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は,一般に製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというために,製造方法を理解し得る程度の記載があることを要することもあるといわなければならない。」
との一般原則について言及した。

本事案については、まず、甲第2号証に本件発明(結晶性アジスロマイシン2水和物)の構成が開示されているといえるかどうかについて検討された。

裁判所は、
原告主張の刊行物記載の結晶が、アジスロマイシンの結晶であることはうかがえるものの、本願発明である「結晶性アジスロマイシン2水和物」という構成が開示されているものではなく、また、
記載されていた結晶学的データに基づいても「結晶性アジスロマイシン2水和物」が開示されていたものと認めることはできないと判断した。

さらに、
裁判所は、
「本件特許出願に係る優先権主張日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能であり(すなわち,甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能であり),かつ,その結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるのであれば,甲第2号証は,本件特許出願に係る優先権主張日当時において,たとえその名称や化学構造が不明であれ,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたということができる。」
とまで踏み込んだものの、
「甲第5号証の試験を,甲第2号証記載の結晶Aの製造方法についての追試と認めることもできないから,結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるか否かにつき判断するまでもなく,甲第2号証が,本件特許出願に係る優先権主張日当時において,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたと認めることもできない。」
と判断した。

結局、裁判所は、
「以上によれば,甲第2号証には,その記載上,アジスロマイシン2水和物と特定し得る物が記載されているとはいえず,本件発明の構成が開示されているということはできない。したがって,発明の技術的思想の開示という見地から,甲第2号証に,本件発明の製造方法を理解し得る程度の記載がされていることが必要であるかどうかについて判断するまでもなく,本件発明との関係で,甲第2号証を特許法29条1項3号の刊行物に当たると認めることはできず,審決の理由4についての判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。」
と結論付けた。

2. 取消事由2について

原告は、進歩性判断における再結晶操作への適用に関して主張したが、裁判所は認めず。

3. 取消事由3について

原告は、明細書記載の融点と添付文書記載の融点との整合性を攻撃する等により、本願発明が公知のアジスロマイシン1水和物と区別できていないから記載不備であると主張したが、裁判所は認めず。

請求棄却。

【コメント】
特29条1項3号における化学物質発明の引例適格性に関する一般原則が示された。
本判決によれば、特29条1項3号の「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには、原則下記の要件が満たされる必要がある。

・要件(1) 同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていること、に止まらず、
・要件(2) 当該刊行物に接した当業者が,特別の思考を経ることなく、容易にその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていること。
そして、当該「物の発明」が新規の「化学物質の発明」である場合には、要件(2)を満たすために、製造方法を理解し得る程度の記載があることを要する。

特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性)によれば、特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について下記のように記されている。

1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
(3) 刊行物に記載された発明
②また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用発明」とすることができない。
したがって、例えば、刊行物に化学物質名又は化学構造式によりその化学物質が示されている場合において、当業者が本願出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「引用発明」とはならない(なお、これは、当該刊行物が当該化学物質を選択肢の一部とするマーカッシュ形式の請求項を有する特許文献であるとした場合に、その請求項が第36条第4項第1号の実施可能要件を満たさないことを意味しない)。

本判決で示された特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」とは何かについての一般原則は、上記審査基準に示された内容にほぼ沿った内容である。
そして、本件で具体的に問題となったのは、上記審査基準の記載部分で相当するところの「刊行物に~その化学物質が示されている」か否かという点であり、裁判所は、刊行物の記載からでは「化学物質名又は化学構造式」が不明であったとしても、出願時点(優先日)での製造可能性及び現時点での客観的同一性が認められれば、その刊行物はその「化学物質」そのものを特定していたということができるとはっきり判示した点は評価できる(ただし、裁判所は上記要件(1)のなかで製造可能性を考慮しており、上記要件(2)と重複してしまうことから、製造可能性という点を上記要件(2)との関係でどのように整理したかったのか、個人的には裁判所の判決ロジックに少々混乱。)。

ところで、本事案は、公知アジスロマイシン1水和物結晶を引例としてアジスロマイシン2水和物結晶の進歩性が争われた結果、裁判所が進歩性を認めたケースでもあり、今後の結晶多形出願における進歩性主張の参考になる。

また、第三者から、実際のプロダクトと明細書記載のものとのデータが食い違っているとの攻撃材料を与えないためにも、明細書の記載内容は可能な限り将来の製品情報(例えば添付文書情報等)と一致するように勤めなければならないといういう点も本判決からの教訓だろう。

参考:


May 17, 2008

2006.11.21 「X v. 大塚製薬」 知財高裁平成17年(ネ)10125

職務発明対価請求における用途発明の実施の認定は具体的使用状況で判断: 知財高裁平成17年(ネ)10125

【背景】
抗血小板剤プレタール®(Pletaal®、一般名: シロスタゾール(Cilostazol)、

効能・効果:
・慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善
・脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制)

をカバーする特許(特許第1471849号(物質特許権)及び特許第2548491号(用途特許権))に関する職務発明相当対価請求訴訟。
物質発明に係る職務発明の相当対価の請求については相当対価請求権が時効消滅し、また、用途発明に係る職務発明の相当対価については受けるべき利益が存しない、ということで職務発明の対価の支払いの請求を棄却した原判決を不服として、原告である元(生物系)研究者が控訴した。

特許第2548491号(用途特許権)の特許請求の範囲

請求項1:
式(I)~で表されるテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物を有効成分とする内膜肥厚の予防、治療剤。

請求項2:
該有効成分が6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリルである請求項1に記載の薬剤。

請求項3:
該有効成分が6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリルであるPTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療剤。

【要旨】
裁判所は、

物質発明に係る相当対価請求権については、消滅時効が完成(消滅時効の起算点を認め、そこから10年以上経過)しているとした。

一方、用途発明に係る相当対価請求権については、

「被控訴人は,本件製剤について,「PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療剤」と明示的に表示して販売していたものでないにしても~本件製剤に再狭窄予防効果等があることをその特性として積極的に位置付けた販売活動を行っていたものであり,~医師等の間でシロスタゾールがPTCA後の再狭窄予防の薬剤として広く認知されるようになったことからすれば,~本件製剤の販売の中には,本件製剤が~本件用途発明の「PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療」の用途に使用されるものとして販売されたものが一定量含まれているものと認めるのが相当であり,そうすると,本件においては,その一定量の販売の限度で,本件用途発明に係る「PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療剤」なる発明の実施があったというべきである。そして,本件製剤の後発品を製造販売する会社を含め第三者において,その後発品等を「PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療」の用途に使用されるものとして販売することは,本件用途特許権の効力により禁止されているというべきであるから,被控訴人において本件製剤を上記用途に使用されるものとして販売した上記一定量には,第三者が本件用途発明の実施を禁止されていることに起因して販売することができた分が含まれているといえるから,その限りでは本件用途発明を排他的,独占的に実施したものということができる。」

と判示し、原告の相当対価請求を認め、原判決を覆した。

【コメント】
相当対価請求権の消滅時効の起算点は、職務発明規定に拠る。対価請求における用途発明の実施の認定は、具体的な使用状況で判断される。

May 13, 2008

2008.04.24 「ディー・エフ・ビー v. サムヤン・ジェネックス」 知財高裁平成19年(行ケ)10054

顕著な効果の整合性・客観性: 知財高裁平成19年(行ケ)10054

【背景】
「タクスス属種の細胞培養によるタキソールおよびタキサンの増強された生産」に関する特許(第3513151号)に対する無効審判(無効2005-80355号)係属中にした訂正請求について、特許庁は、訂正を認めたが、本件訂正発明は、進歩性が無いとして特許無効審決を下したため、特許権者である原告(ディー・エフ・ビー)が審決取消訴訟を提起した。

訂正後請求項1:

下記工程を含むことを特徴とする,タクスス・シネンシスの細胞培養から高収率でタキソールおよびタキサンを回収する方法;
(a) タクスス属種由来の細胞を,1つ以上の栄養培地で,天然のタクスス・シネンシスにより生産される量より少なくとも10倍量のタキソールとタキサンとを生産する条件下で培養する工程であって,
(i) タクスス・シネンシス細胞を,培養細胞の迅速な成長に有利な懸濁液の成長栄養培地に植菌して植菌懸濁物を形成する工程,
(ii) 前記工程(i)の植菌懸濁物を成長させ,バイオマスを増殖させる工程,
(iii) 前記工程(ii)の懸濁培養物をタキソール及びタキサンの生合成に有利な生産栄養培地に継代培養して生産培養物を形成する工程,ここで,前記生産栄養培地は生産物形成のために独立して最適化され,前記成長栄養培地と異なる,
(iv) 前記工程(iii)の生産培養物をタキソール及びタキサンを形成するための条件下で培養する工程,
を含む工程;及び
(b) 前記工程(iv)の培地,細胞,または生産培養物の培地及び細胞から前記タキソールおよびタキサンを回収する工程。

【要旨】

取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について、

原告は、
「本件訂正発明1の実施例9において,生産栄養培地でのタキソールの容積生産量が,引用発明に比べて顕著なことから,この作用効果は,タクスス属の中からタクスス・シネンシスを選択し,それを二段階培養することによってはじめて得られたものであるから,本件訂正発明1は,引用発明から容易に想到し得るとはいえない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本件訂正明細書の実施例8によると~容積生産量が少ないことが認められる。原告は,実施例8は実施例9とは細胞接種量が異なると主張するが,本件訂正発明1には細胞接種量の限定はないので,実施例8もまた本件訂正発明1の実施例というに妨げず,原告の主張は採用の限りでない。~実施例9の効果が得られる場合があるとはいえても,上記構成によってその効果が直ちに得られるということはできない。~したがって,本件訂正発明1の構成を充足すれば,必然的に実施例9記載の効果が得られるということはできないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

また、原告提出の実験結果について、裁判所は、本件訂正発明と引用発明とが同一条件下で対比されていないこと等から、本件訂正発明の構成によって引用発明と比べて顕著な作用効果が得られるとは認められないと判断した。

請求棄却。

【コメント】
顕著な効果を主張する際には、クレーム範囲に含まれる具体的な実施例の各々の効果と本願発明(クレーム)として主張する効果との間に整合性があるかどうか注意深く検討しなければならない。
引用発明と比較して顕著な効果を有していることを当業者が見て客観的に理解できるよう、提示する実験条件が適切かどうかは注意が必要(サイエンスとして当然のことである)。

May 11, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年4月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

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