Jun 29, 2008

2006.12.26 「Eli Lilly v. Zenith, Teva, Dr. Reddy's」 CAFC Docket No.05-1396, -1429, -1430

臨床試験の実施は公然実施(public use)なのか?: CAFC Docket No.05-1396, -1429, -1430

【背景】
Eli Lillyが販売する統合失調症治療薬であるolanzapine(オランザピン、商標名Zyprexa(ジプレキサ))について、後発医薬品を後発メーカーがFDAにANDA申請したことに対し、特許権者であるEli Lillyが侵害訴訟を提起した。後発メーカーは、特許の新規性及び非自明性を攻撃、なかでも臨床試験(Phase I)はpublic useであり、新規性を失っているとして、特許無効を主張した。

【要旨】
公知文献中に新規性を否定できる開示は明確には認められないし、示唆もない。さらに、特許権者は、本発明が、長く要望されていた点、他者は成功していなかった点、予期しない効果等を立証している。従って、新規性及び非自明性は否定されないと判断された。
臨床試験がpublic useか否かについては、Eli LillyのPhase Iの臨床試験は、(患者治療目的ではなく)安全性・有効性のテストを目的としており、Eli Lilly自身のクリニックにおいてconfidentiallyに実施されたのであるから、本件における臨床試験はpublic useではなく、「public use」の適用除外である「experimental use」にあたる、との地裁判断に誤りはないと判断。
CAFCは地裁の特許有効判決を支持した。

【コメント】
臨床試験がpublic useに該当するか否かが争われた点に注目したい事例。
本判決に従えば、患者治療目的ではなく、安全性・有効性のテストを目的とするPhase Iの臨床試験は、原則、「public use」に該当しないと考えられる。もちろんconfidentialな状況で実施されるという点も重要である。
患者へ投与する臨床試験(Phase II)は「public use」の適用除外である「experimental use」に該当せず「public use」とされるのか?今後の判例の積み重ねが期待される。

参考:臨床試験が「public use」か否かが争点となった判決



Jun 22, 2008

2006.12.25 「富田製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10366

長期に安定なさらさらした顆粒剤: 知財高裁平成18年(行ケ)10366

【背景】
「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」に関する本件特許(特許第2769592号)につき、無効審決取消訴訟(知財高裁平成17年(行ケ)10736)係属中、原告から明細書の訂正を求める訂正審判請求がされたが、本件訂正が独立特許要件違反とされたため、その取消訴訟が提起された。

本件訂正は下記のとおり。
(訂正前)
「塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層~からなる顆粒状~剤」

(訂正後)
「塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが均一に形成されたコーティング層~からなる長期に安定なさらさらした顆粒状~剤」

【要旨】
「取り込んだ」という文言が、コーティング層の組成を、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムのみに限定したり、これらの物質相互の量的大小関係や酢酸ナトリウム中における存在形態を規定したものと解することもできない。
「長期に安定なさらさらした」という文言自体、物の性状を抽象的に表すにとどまり、技術的に明らかになる表現ではないといわざるを得ない。
請求棄却。

【コメント】
製剤を構成する成分の存在形態を表現する際には文言に注意。

Jun 17, 2008

2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563

除くクレームとする補正・訂正と新規事項追加の解釈: 知財高裁平成18年(行ケ)10563

【背景】
「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」に関する特許(特許番号:第2133267号)について、いわゆる「除くクレーム」とした訂正が認められるのかどうか、がひとつの争点。

【要旨】
「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の解釈について、
裁判所は、
「「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。そして,同法134条2項ただし書における同様の文言についても,同様に解するべきであり,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」
との一般的な解釈を示し、これを前提として、下記のように本件各訂正について検討した。

すなわち、
「引用発明の内容となっている特定の組合せを除外することによって,本件明細書に記載された本件訂正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件各訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件各訂正は,当業者によって,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。したがって,本件各訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると認められる。」
と判断した。

裁判所は、審査基準の記載についても触れ、
「審査基準の上記記載は,「除くクレーム」とする補正について,「例外的に」明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正と取り扱うことができる場合について説明されたものであるが,「例外的」とする趣旨は,上記「基本的な考え方」に示された考え方との関係において「例外的」なものと位置付けられるというものであると認められる。しかしながら,上記アにおいて説示したところに照らすと,「除くクレーム」とする補正が本来認められないものであることを前提とするこのような考え方は適切ではない。」
とした。

(他の争点は省略)

結論は請求棄却。

【コメント】
医薬に関する判決ではないが、「除くクレーム」とする補正・訂正が許容されるかどうかの基準が示された大合議判決なので取り上げた。
「明細書又は図面に記載した事項」の範囲内においてする補正・訂正かどうかの判断は、「除くクレーム」とする補正・訂正も含めて、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを(も?)基準とすることになる。
従って、「除くクレーム」とする補正・訂正については、例外扱いをすることなく、基本的に、他の補正・訂正と同じ土俵で「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものであるかどうかを判断することになる。
「『除くクレーム』とする補正」について例外的な取扱いとする審査基準の記載は、特許法の解釈に適合しないものであるとされたため、審査基準の記載内容は修正されることになるだろう。

参考
"現在の"特許・実用新案審査基準 第Ⅲ部 第Ⅰ節 新規事項

4.特許請求の範囲の補正
4.2 各論
(4) 除くクレーム
「除くクレーム」とは、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される。
なお、次の(i)、(ii)の「除くクレーム」とする補正は、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。
(i)請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正。
(ii)請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、特許法第29条柱書の要件を満たさない、あるいは、同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該「ヒト」のみを除く補正。

Jun 15, 2008

2006.11.30 「シンジェンタ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10737

化学物質発明のパリ優先権に必要な記載要件: 知財高裁平成17年(行ケ)10737

【背景】
化学物質発明である本出願は、パリ優先権主張の利益を享受できず、特29条の2により、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟が提起された。基礎出願明細書には、化合物の名称、構造式が記載されていたが、具体的な確認データが記載されていなかった。

国際公開番号:WO1992/013830
公表番号:H06-504538
優先権基礎出願1:英国特許出願No.9102038.8

【要旨】
「本願発明は化学物質の発明であるが、化学物質につきパリ条約による優先権主張の利益を享受するためには、第1国出願に係る出願書類において単に化学構造式や製造方法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけでは足りず、当該出願書類全体から当該化学物質が現実に存在することが実際に確認できることを要するものと解するのが相当である。けだし、化学構造式や製造方法を机上で作出することは容易であるが、それだけでは単に理論上の可能性を示唆するにとどまるものであって、現実に製造できることが確認されない限り、実施可能な発明として完成しているものと評価することはできないからである。」

本件において、基礎出願明細書には、本願発明化合物の名称、化学構造式が記載されていたが、具体的な物性値が記載されていなかったことから、これを現実に製造することができ、実際に確認することができるものとして記載されているということはできないし、また、明細書の記載から当業者にとってその製造方法が自明であるとも認められないことから、パリ優先権の利益を享受することはできないと判断された。

また、原告は、先願明細書の化学構造式中の結合手の数が異常であることから引例適格性がないこと及び先願発明の成立性は否定されるべきでものであることを主張したが、裁判所は、引用された先願明細書の誤記は当業者にとって明らかなものであるとして採用せず。

従って、特29条の2により拒絶とした審決を支持。

請求棄却。

【コメント】
殺虫剤のケースであるが、化学物質発明に関するパリ優先権主張時の優先日認定の考え方について参考になる。本件においては、そもそも基礎出願明細書には、化合物の名称・構造式の記載のみで、確認データ(物性値)及び薬理活性値の記載も無く、製造法は文献を引用するのみで当業者が製造可能な程度に記載されているとはいえなかったため、優先権の利益を享受できないと判断された。たとえ、出願を急いでいるという事情があったとしても、化合物ひとつひとつが製造できるように明細書に記載されているか(当業者が理解できるか)という点に注意しないと(当たり前のことであるが)、優先権を失う羽目になりかねない。また、判決では、化学物質発明の出願においてパリ優先権の利益を享受するためには、基礎出願の「出願書類全体から当該化学物質が現実に存在することが実際に確認できることを要するものと解するのが相当である。~現実に製造できることが確認されない限り、実施可能な発明として完成しているものと評価することはできない」と言及している。確認データを記載したからといって直ちに製造できるように記載したということにはならないはずだが、判決文では、化学物質発明の優先権を享受するための基礎出願における記載要件として、確認データの記載の重要性を示唆しているようである。化学物質発明の出願明細書には、全化合物について確認(物性)データを記載するのがベストなやり方だろう。本件の審決では、確認データの考え方について2000.09.05 「杏林製薬 v. 特許庁長官」 東京高裁平成11(行ケ)207が引用された。

参考

Jun 9, 2008

2008.05.15 「ニプロ v. 富田製薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10347

まだ終わっていなかった、ニプロ v. 富田製薬: 知財高裁平成19年(行ケ)10347

【背景】
「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」に関する富田製薬(被告)の特許(特許第2769592号)に対して、ニプロ(原告)が起こした無効審判請求において、無効とする旨の審決をしたが、これに不服の富田製薬(被告)が審決取消訴訟を提起し、知財高裁は請求項9及び10に係る発明についての特許を無効にするとの部分を取り消す判決をし(第2次判決)、同判決は確定した。そこで特許庁はさらに審理し、請求項9及び10に係る発明についての無効審判請求に対し請求不成立の審決をした。本事案はその審決を不服として、ニプロ(原告)が取消しを求めた事案である。

請求項9(本件発明3):
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

請求項10(本件発明4):
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

【要旨】

2 取消事由1(本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との相違点の誤認)について

(4) 以上の(1)~(3)に照らせば,第2次判決は,刊行物2(甲2)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであること,かかる第2次判決が確定したことが認められる。しかるに,このような場合は,前記(1)に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第2次判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物2〔甲2〕)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないこととなる。
そうすると,差戻し後の審判官が,本件審決において「本件発明3は,甲第9号証(本判決注:刊行物2〔甲2〕)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとする請求人の主張は採用できない。」(7頁1行~2行),「本件発明4が,…甲第9号証(本判決注:甲2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。」(8頁24行~26行)と判断したことに誤りはないから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がない。

(5) 原告は,第2次判決は,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断について及ぶことになるが,取消事由1は,そもそも,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるから,第2次判決の拘束力は及ばないと主張する。
しかし,たとえ第2次判決が,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであり,また取消事由1が,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるとしても,確定した第2次判決の判断が,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消した場合に当たることに変わりはない。そうすると,このような場合は,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例たる刊行物2から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないというべきである。そして,再度の審決取消訴訟ぁw)€スる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決(本件審決)の認定判断を誤りである(同一の引用例〔刊行物2〕から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として,これを裏付けるための新たな立証として甲3,4を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないところである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。

3 取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との対比の誤り)について

本件発明3は刊行物1発明と同一であるということはできず,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたということもできない。このことは,本件発明3の構成に欠くことのできない事項の全てを含み,さらに,酢酸を含むものである本件発明4についても,同様に当てはまるものである。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2は理由がない。

請求棄却。

【コメント】
まだ終わっていなかった、ニプロ v. 富田製薬。
本件については特許権者である富田製薬に軍配。

参考

Jun 5, 2008

2008.05.14 「X v. 三菱化学」 知財高裁平成19年(ネ)10008

アルガトロバン(argatroban)の製法に関する職務発明の相当対価: 知財高裁平成19年(ネ)10008

原審: 2006.12.27 東京地裁平成17年(ワ)12576; 別紙

【背景】
一審原告(X)は,一審被告(三菱化学)在社中に、「N2-アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類の製造方法」(本件発明)を職務上発明した。同発明は、抗血液凝固剤(選択的抗トロンビン剤)「ノバスタン(Novastan)注」の有効成分であるアルガトロバン(argatroban)を工業的な規模で効率的に製造する方法等に関する発明(ただし,物質発明や用途発明ではない。)であり、欧米で特許取得、日本で審査係属中(特開平10-101649号)である。
本件訴訟は、一審原告が一審被告に対し上記職務発明について,相当対価の支払を求めた事案である。
対価の額の算定方法が争われた。
本件発明に関連する出願として、物質特許など計6つの特許が存在している。

<日本>
1980年: 原告は一審被告(三菱化学)在社中、本件発明を職務上発明。
1986年12月24日: 三菱化学は、本件発明の製造方法に基づくアルガトロバンを有効成分とする抗血液凝固剤「ノバスタン注」を製造承認申請。
1990年1月23日: 承認。
同年6月: 三菱化学が販売開始。
1997年8月1日: 本件発明に係る出願日
1999年9月30日: 三菱化学は、100%子会社であるティーティーファーマに対し、独占的実施権を許諾。
同年10月1日: ティーティーファーマは社名を三菱東京製薬に変更。
2001年10月: 三菱東京製薬はウェルファイドと合併、その後「三菱ウェルファーマ」に商号変更(被告が100%親会社でないが同社が被告の医薬部門であることは、被告「決算短信(連結)」で明らか)。
2003年12月: 被告は三菱ウェルファーマの58.94%親会社に。
2005年10月: 被告と三菱ウェルファーマを完全子会社とする三菱ケミカルホールディングが設立。被告と「三菱ウェルファーマ」は完全な兄弟会社に。

<欧米含む海外事情は省略>

【要旨】
1. 自社実施期間(1990年6月~1999年9月)における算定

ア 売上高
「合計314億2140万円である。」

イ 超過売上高
「上記アの売上高のうち,一審被告が競業他社にアルガトロバン関連6発明及び本件発明により得ることができた超過売上高(競業他社に発明の実施を禁止していることによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上額)は,原判決と同じくその4割と認めるのが相当である。」

ウ 独占的利益の算定
(ア) 利益率算定方式か仮想実施料率か
裁判所は、
「a 本件発明についての一審被告の独占的利益の算定方法としては,上記イに認定した超過売上高に対し,①現実の利益率を乗じて算定する方式(利益率算定方式)と,②仮に本件発明を他社に実施許諾した場合に得られるであろう実施料率を乗じて算定する方式(仮想実施料率算定方式)が考えられるところ,原判決認定(68頁下9行~69頁5行)のとおり,自社実施期間において本件発明に係る一審被告の医薬事業部門における現実の利益率を認定することは困難であるから,本件においては仮想実施料率算定方式によるのが相当である。」
と原判決を支持しつつも・・・
(イ) 仮想実施料率方式に基づく算定
において、
「このような本件発明の意義を考慮すれば,実施料相当分の割合が少ないとは評価し難いのであって,これに上記のような第1ライセンス契約の内容,医薬品分野における実施料の実例,三菱ウェルファーマや他の医薬品業界における売上高営業利益率等を併せて総合考慮すれば,上記原薬供給の対価に占める実施料相当分の割合は5%と認めるのが相当である」
として、仮想実施料率を3%とした原判決を相当でないとした。
(ウ) 本件発明の寄与度
裁判所は、
「自社実施期間における本件発明の寄与度は20%を下らない(原判決と同旨)ものと認めるのが相当である。」
として原判決の判断を支持、100%であるとする原告主張も、一般的に製造方法発明は物質発明・用途発明に比べ後発品排除効果が弱いとする被告主張も認めなかった。

エ 一審被告の貢献度
「 なお原判決は~創薬事業においては失敗に終わる研究開発が多数存在するという事情があることから,相当対価の算定に際し「成功確率による減額」を行うべきであるとするが,上記のような事情は,独立の減額事由ではなく,一審被告の貢献度を考慮する際の1要素と把握すべきものである。
以上述べた,本件発明がなされるに至った経緯,一審原告がこれに関与するに至った事情,本件発明の他の発明との比較における位置付け,一審被告の販売努力の内容,新薬開発における研究開発の事情等を総合的に考慮すると,一審被告の貢献度は90%と認めるのが相当である。」
として、原判決では被告の貢献度75%を差し引いたうえで、さらに成功確立による減額(10%)を乗じて算出(x 25% x 10%)するとしたが、知財高裁は成功確立を考慮した被告貢献度として90%を差し引いて算出(10%)するした。

オ 小括
自社実施期間における本件発明の相当対価額は1218万0481円となるとして、原判決の183万円から大幅アップした。
(売上高314億2140万円 x 超過売上高40% x 仮想実施料率5% x 本件発明の寄与度20% x 被告の貢献度(100-90=10)% x 中間利息= 1218万0481円)

2. 実施権付与期間(1999年10月~2017年7月)における算定

裁判所は、
「これによれば,本件実施許諾契約に基づき三菱ウェルファーマが一審被告から承継したアルガトロバン事業等による利益は,単に本件実施許諾契約に基づく実施料として一審被告に直接的に還元されるだけではなく,これに加えて,一つの企業グループにおける親子ないし兄弟会社間における利益配分の過程を通じて,間接的に一審被告に還元されることも予定されているものと解することができ,上記(ア)に述べた本件実施許諾契約における実施料の経済的合理性も,このような間接的な利益の還元を加味して初めて合理的に説明できるものというべきである。そうすると,実施権付与期間に係る本件発明の相当対価額を算定するに当たっては,上記のように直接的及び間接的に還元される利益の総体をもって一審被告の利益と解し,これをもって一審被告の得た実施料相当額であると解すべきであり,本件実施許諾契約に基づく実施料のみを基礎として本件発明の相当対価額を算定することは相当でない。そして,本件において上記のような間接的に還元される利益の額を個別具体的に確定することは困難であるから,相当対価額の基礎となる実施料相当額の認定は,三菱ウェルファーマの売上額のうちアルガトロバン事業に係るものを抽出した上で,これに他社にライセンスした場合の実施料率に相当する仮想実施料率を乗じることにより算定するのが相当である。」
と判断した上で、
実施権付与期間における本件発明の相当対価額は、3359万8198円となる、とし、
原判決の957万円から大幅アップした。

3. まとめ

裁判所は、自社実施期間に係る相当額1218万0481円と実施権付与期間に係る相当額3359万8198円との合計4577万8679円に、原告が補償金等として合計1万3000円を受領していること及びこれまでに原告が被告から受けた処遇等の一切の事情を総合考慮すると,本件における対価額は4500万円と認めるのが相当である、と結論付けた(原判決は1200万円。)。

【コメント】
1999年までは実施品は物質特許や用途特許などでもカバーされていた。被告主張のように、確かに後発品排除効果という側面では、物質・用途特許に比べて製法特許は"弱い"という点は一般的な考えである。しかし、発明の寄与度に影響するファクターとして、後発品排除効果だけではなく、製品化にどれだけその発明が貢献したかという点も重要ということだろう。日本において、本件出願は審査に係属中であり、未だ権利化されていないにもかかわらず、本件発明の寄与度が「20%を下らない」と判断された点は、本件製造方法の発明が、後発品排除効果というよりも製品化への寄与が重要視されたあらわれではなかろうか。
ところで、いくつかの発明で製品がカバーされている場合、そのうちひとつの発明の寄与度を定量的に算出することは困難だとしても、裁判所が示した本件発明の寄与度20%という数値は唐突すぎないだろうか?どのようにして導いたのだろう?。

Jun 3, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年5月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

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