Aug 30, 2008

2008.08.20 「AstraZeneca v. Apotex and Impax」 CAFC Docket No. 2007-1414, -1416, -1458, -1459

臨床試験(clinical study)は公然実施(public use)?: CAFC Docket No. 2007-1414, -1416, -1458, -1459 (In re omeprazole patent litigation)

【背景】
Astrazenecaが販売するPrilosecの有効成分omeprazole(オメプラゾール、プロトンポンプインヒビター)製剤をカバーする特許に関するANDA訴訟。
いくつかの争点のうちのひとつとして、本件特許出願前1年を超えて前に、本件特許発明である製剤を用いてPhase IIIの臨床試験が開始されていた(public useとなっていた)ことを理由に、原告(Impax)は、Astraの本件特許は102(b)に基づき無効とされるべきものであると主張した。

地裁は、下記2つの観点からImpaxの主張を退けた。

First, the court ruled that the studies constituted experimental uses, and therefore not public uses, of the claimed invention.

Second, the court ruled that the patented formulation was not ready for patenting until after the studies were completed.

【要旨】
CAFCは、上記地裁判断の1点目についてImpaxを支持した。

We agree with Impax that the district court misapplied this circuit’s law with respect to the experimental use exception. The district court found that, even if Astra’s formulation had been reduced to practice before or during the clinical studies, the studies were experimental and therefore negated the public-use bar to patentability. Impax correctly points out, however, that it is clear from this court’s case law that experimental use cannot negate a public use when it is shown that the invention was reduced to practice before the experimental use.

つまり、

「"reduction to practice"に至ったのであればその後は"experimental use"を主張することはできない。」

のであって、

「たとえ臨床試験前に発明の"reduction to practice"に至っていたとしても、臨床試験は"experimental use"である(つまり、public useの適用除外である。)、という地裁のロジックは不適切である。」

と判断したようである。

しかしながら、CAFCは、上記地裁判断の2点目については、地裁判断を支持した。

The district court found that the claimed formulation was not reduced to practice before the clinical trials were completed, and we uphold that finding.
:
:
The district court found that the Phase III formulation was not reduced to practice before the trials because the evidence showed that at that time the inventors believed only that the formulation “might solve the twin problems of in vivo stability and long-term storage.” The district court found that “the Phase III formulation still required extensive clinical testing and real-time stability testing to determine whether it could treat gastric acid diseases safely and effectively.”
:
:
Impax’s challenge to the district court’s finding begins with its assertion that the Astra scientists had conceived and produced the Phase III formulation before the clinical trials. It is not disputed that the Phase III formulation had been produced before the trials. The existence of the formulation, however, does not establish that the Astra scientists had determined that the invention would work for its intended purpose.

つまり、

「Phase III開始前に、本願発明であるPhase III製剤が存在したとしても、その発明がその意図通りにin vivoでworkするかどうかを確かめるまでには至っていなかった(つまり、臨床試験をやってみないとわからない)ので、臨床試験前に本願発明の"reduction to practice"が完了していたということはできない。」

と判断したようである。

結論として、Astraの臨床試験行為はpublic useに該当しない(102(b)による無効ではない)と判断した。

【コメント】
臨床試験(clinical study)が公然実施(public use)に該当するのかどうかが争点となった興味深いCAFC判決。
Public useの除外規定である"experimental use"に関しての考え方は、以前と変わりないようだが、一般的な概念として、また具体的な各発明ごとに当てはめた場合における"reduction to practice"とは何なのか、整理される必要があるように感じる。
特許保護期間を最大化するためにライフサイクルパテントの出願時期を臨床試験開始後に遅らせる戦略をとる場合、公然実施(public use)を理由に新規性なしとの攻撃をされないためにも、その発明が臨床試験結果によって初めてwork するかどうか判明する類のものなのかどうかを検討する必要があるだろう。

参考:

Wikipedia: Omeprazole

臨床試験と公然実施(public use)に関するCAFC判決↓


Aug 28, 2008

2007.02.27 「味の素 v. 中外」 知財高裁平成17年(行ケ)10732

味の素 v. 中外 「生理活性タンパク質の製造法」: 知財高裁平成17年(行ケ)10732

【背景】
「生理活性タンパク質の製造法」とする発明(特許第2576200号)の特許権者であった原告(味の素)が、特29条2項等により無効とすべきものであるとした無効審決について、その取消訴訟を提起した。

【要旨】
原告は、審決が進歩性の引例とされた論文について周知技術の認定等の進歩性の判断を誤ったものであると主張したが、裁判所は原告の主張を採用することはできないとして、原告の請求には理由がないと判断。
請求棄却。

【コメント】
同日に、中外の腎性貧血症治療剤「エポジン(遺伝子組換えヒトEPO)」と白血球減少症治療剤「ノイトロジン(遺伝子組換えヒトG-CSF)」の製造・販売行為が本件特許権を侵害するとして味の素が損害賠償を請求した事件についての知財高裁判決(2007.02.27 「味の素 v. 中外」 知財高裁平成18年(ネ)10038)がなされている。

Aug 26, 2008

2007.02.27 「味の素 v. 中外」 知財高裁平成18年(ネ)10038

先使用権の判断はされず: 知財高裁平成18年(ネ)10038

【背景】
中外の腎性貧血症治療剤「エポジン(遺伝子組換えヒトEPO)」と白血球減少症治療剤「ノイトロジン(遺伝子組換えヒトG-CSF)」の製造・販売行為が味の素の「生理活性タンパク質の製造法」とする発明の特許権(特許第2576200号)を侵害するとして味の素が損害賠償請求訴訟を提起した。

請求項1:
「生理活性タンパク質をコードする遺伝子及びジヒドロ葉酸還元酵素(以下dhfr とする。)遺伝子を発現可能な状態で有するプラスミドを元来付着性であるチャイニーズ・ハムスターオバリージヒドロ葉酸還元酵素欠損株(CHO dhfr-)細胞に予め形質転換して得られた形質転換細胞を培地中に懸濁させ,浮遊攪拌培養を継代して行うことにより浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を樹立し,当該浮遊攪拌培養に適した形質転換細胞を浮遊攪拌培養し,培養液中に目的生理活性タンパク質を生産させ,そして目的生理活性タンパク質を取得することを特徴とする生理活性タンパク質の製造法。」

【要旨】
裁判所は、進歩性の欠如により本件特許は無効にされるべきものと認められるから権利行使することはできないと判断した。
従って、他の争点である、先使用権による通常実施権の有無等は判断されなかった。
控訴棄却。

【コメント】
知財高裁では判断されなかったが、地裁では、中外の治験薬製造のための設備稼働等の一連の行為を、「製造販売する意図を有し、かつ、その意図が客観的に認識されうる態様、程度において表明されている」として、中外は先使用権を有すると判断された(東京地裁平成16年(ワ)8682)。客観的に認識されるのであれば、治験薬製造のための設備稼働は、先使用権における「事業の準備」に該当する可能性が高い。
同日に、本件特許権の無効審決の取消を請求した事件についての知財高裁判決(2007.02.27 「味の素 v. 中外」 知財高裁平成17年(行ケ)10732)がなされている。

Aug 24, 2008

2008.07.03 「新日鐵化学 v. エア・ウォーター」 知財高裁平成19年(行ケ)10160

副生成物の技術的意義: 知財高裁平成19年(行ケ)10160

【背景】
「フェノール性化合物及びその製造方法」に関する特許(特許第3403178号)の無効審決(無効2005-80195号)を不服として、特許権者である原告(新日鐵化学)が審決の取消しを求めた事案。

そもそも「主成分」でる一般式(1)化合物(nが0)には新規性に問題があったため、主な争点は、一般式(1)化合物製造時の副生成物である「少量成分」を含有するという構成要件を加えた従属クレーム(請求項3)の新規性・進歩性の判断であった。


請求項3:
請求項1に記載のフェノール性化合物を主成分とし,一般式(1)において,nが1~15の整数のフェノール性化合物を少量成分として含有するフェノール性化合物。

【要旨】
(1) 本件発明3と甲1発明における各少量成分の相違点
について裁判所は、

「甲1の記載からは,反応生成物である上記黄褐色の粉末には,n=0体(のうちのp,p'-体)であるBP-DIPBP が主成分として含まれており,BP-DIPBP 以外の化合物(副生成物)も少量含まれていることは理解できるが,少量含まれている化合物が何であるかについては不明である。したがって,甲1の記載からは,n≧1体を含むことは明らかとはいえず,甲1には,n=1体を含有する組成物に関する発明が開示されているということはできない。」

として、新規性を否定した審決判断には誤りがあるとした。

しかしながら、

(2) 本件発明3の樹脂の効果の顕著性
について裁判所は、

「上記1(1)のとおり,本件発明3においては,n≧1体が少量成分として存在することの技術的意義が,本件訂正明細書の記載をみても不明であるということができる。その実施例で,n≧1体が少量成分として含むものが用いられているとしても,そのことをもって,n≧1体を少量成分として含むことに意義を見いだしたということもできないものである。したがって,本件発明3が,n≧1体を少量成分として含むことにより,格別顕著な効果を奏するものということはできない。
ちなみに,請求項3にはn≧1体の含有量についての規定がなく,原告がいうところの実質的な量のn≧1体を含んでいないものも請求項3の記載に包含され,エポキシ樹脂の原料として,原告が主張するような所定の効果を奏さないものも請求項3は除外していないものと認められるところである。」

と判断し、

「本件発明3につき,甲1発明であるということはできないが,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである」

として、進歩性の判断の誤りについての原告の主張は認めなかった。

請求棄却。

【コメント】
「少量成分」の技術的意義を主張するには、明細書に情報が不足していた。
「少量成分」とはいえ、有用性があるのであれば、きっちりその効果を記載しておくべきだった。その上で、さらには「少量成分」として含有させたクレームではなく、それら自体をそれぞれ化合物としてクレームすることも重要だろう。
原告は、「少量成分」を含有するという点において、引例発明と相違するとの主張は認められたが、進歩性の主張は認められなかった。
裁判所は、進歩性判断として、少量成分として存在することの技術的意義が不明だから、引例発明に比較して顕著な効果を奏するものということができないとしている。
しかし、進歩性判断として、裁判所は、引例の追試により少量成分が生成する可能性が高いことに言及しつつも、本件発明が少量成分を敢えて含ませたことへの動機付けの検討をしていない。この点、いきなり効果の顕著性を判断する前に、もう少しきっちり判示してほしかった。

Aug 17, 2008

2008.06.30 「シオノケミカル v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10378

特29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」とは?: 知財高裁平成19年(行ケ)10378

【背景】
原告(シオノケミカル)が、被告(ファイザー)を特許権者とする「結晶性アジスロマイシン2水和物及びその製法」に関する特許(第1903527号)につき無効審判請求(無効2007-800042号)をしたが、審判請求は成り立たないとの審決がなされたため、同審決の取消しを求めた事案。
原告は、甲第2号証に記載されている結晶Aはアジスロマイシン2水和物とは明記されていないが、物性データ(格子定数)が、アジスロマイシン2水和物のそれと一致するから、甲第2号証に記載されている結晶Aはアジスロマイシン2水和物と特定されることは明らかである等、本件特許は特29条1項3号により新規性を欠くと主張した。

請求項1:
結晶性アジスロマイシン2水和物。

【要旨】
2008.04.21 「藤川 v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10120
の内容とほぼ同じ。

裁判所の判断を抜粋すると下記のとおり。

「特許法29条1項3号所定の「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該発明の技術的思想が開示されていることを要するという以前に,まず,当該物の発明の構成が開示されていることが必要である。」

「原告は,特許法29条1項3号の適用においては,本件発明と同一の物が本件優先日前に存在したか否かが問題となるのであって,その事実が,本件優先日後に頒布された刊行物を参照することにより左右されるものではないと主張するが,同号の適用については,本件優先日前において,甲第2号証に本件発明と同一の物が記載されていると理解できたかどうかが問題となるのであって,本件発明と同一の物が本件優先日前に存在したか否かが問題となるものではない。原告の上記主張は,その前提を誤ったものであって失当であるというべきである。」

「甲第2号証に,結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることについて明示的な記載がなく,また,記載された結晶学的データから結晶Aがアジスロマイシン2水和物であることが特定されないとしても,本件優先日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能であり(すなわち,甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能であり),かつ,その結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるのであれば,甲第2号証は,本件優先日当時において,たとえその名称や化学構造が不明であれ,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたということができる。」

そして、

「甲第7号証の追試及び甲第17号証の追試は,いずれも甲第2号証記載の結晶Aの製造方法についての追試と認めることはできず,他に,本件優先日当時における当業者の技術常識ないし技術水準に基づいて,甲第2号証の結晶Aの製造方法に関する記載から実際に結晶Aを製造することが可能である(甲第2号証の結晶Aの製造方法が追試可能である)と認めるに足りる証拠もない。
したがって,結晶Aが現時点における客観的な資料に基づき,アジスロマイシン2水和物と認められるか否かにつき判断するまでもなく,甲第2号証が,本件優先日当時において,製造方法によりアジスロマイシン2水和物という物そのものを特定していたと認めることもできない。」

請求棄却。

【コメント】
特29条1項3号所定の「刊行物」に「物」の発明が記載されているというためには、

同刊行物に当該発明の「技術的思想が開示されていること」を要するという以前に、まず、当該「物」の発明の「構成が開示されていること」が必要である。

当該物の発明の構成が開示されているというためには、

1) その「物」であることについての明示的な記載(名称や化学構造)があること、

2) 同刊行物に記載されたデータからその「物」であることが特定されること、または

3) 同刊行物の記載内容及び出願時の技術常識に基づいて、その「物」を製造でき、且つ、それが現時点における客観的な資料に基づき、その「物」と認められること

を要する。

2つ目の要件である「発明の技術的思想が開示されていること」については本判決では判断されなかったが、2008.04.21 「藤川 v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10120の内容と合わせて、審査基準がさらに明確になるよう検討されることを期待する。

参考:

  • 特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性):
    1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
    (3) 刊行物に記載された発明
    ②また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用発明」とすることができない。
    したがって、例えば、刊行物に化学物質名又は化学構造式によりその化学物質が示されている場合において、当業者が本願出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「引用発明」とはならない(なお、これは、当該刊行物が当該化学物質を選択肢の一部とするマーカッシュ形式の請求項を有する特許文献であるとした場合に、その請求項が第36条第4項第1号の実施可能要件を満たさないことを意味しない)。
  • アジスロマイシン水和物(azithromycin hydrate): ジスロマック®(Zithromac®)としてファイザーが製造・販売するマクロライド系抗生物質。2水和物である。
  • 2008.04.21 「藤川 v. ファイザー」 知財高裁平成19年(行ケ)10120
  • 記載要件/引例適格/データは必要か


Aug 3, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年7月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

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