Sep 26, 2008

2007.07.19 「武田 v. 特許庁長官(長期徐放型マイクロカプセル事件)」 知財高裁平成18年(行ケ)10311

特許権の存続期間延長登録要件の解釈: 知財高裁平成18年(行ケ)10311

【背景】
原告(武田薬品)は、先の薬事承認処分(販売名:リュープリン注射用3.75、酢酸リュープロレリンを有効成分とし効能・効果を前立腺癌とする1ヵ月製剤)の後、本件薬事承認処分(販売名:リュープリンSR注射用キット11.25、酢酸リュープロレリンを有効成分とし効能・効果を前立腺癌とする3ヵ月製剤)に基づいて新規製剤特許(「長期徐放型マイクロカプセル」、特許第2653255号)の存続期間延長登録を試みた。しかし、特許庁は、有効成分と効能・効果が前処分と同じである本件処分は、物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点からは、本件発明の実施のために本件処分を受けることが必要であったということができないから、本件延長出願は「政令で定める処分を受けることが必要であった」という要件を欠き、延長登録を受けることができない、という拒絶審決を下した。本事案は、その審決取消訴訟である。

【要旨】
原告の主張を極めて簡単に要約すると・・・

「そもそも、延長後の特許権の効力が「物」と「用途」によって限定されると規定した特68条の2の権利の効力に関する条項が、審査において影響するということ自体特許法の予定しているところではない(取消事由3:特67条の3の解釈において同法68条の2を援用することの誤り)。しかも、特68条の2の「処分の対象となった物」とは、薬事法上の製造承認の対象となった物である「医薬品」を指すと解すべきであって、「有効成分」を意味するという解釈を導くことはできないし、「用途」は「効能・効果」であるとは何処にも規定されていない(取消事由1:特68条の2の文言解釈の誤り)。従って、前処分の対象となった1ヵ月製剤と本件処分の対象となった3ヵ月製剤を比較すると、その組成も用途も異なる(取消事由2:特67条の3第1項1号の解釈の誤り)ので、本件発明の実施のために本件処分を受けることが必要であったのだから、延長登録を受けることができる。」

というものであった。

裁判所は、

「特許法67条の3に従って特許権の存続期間の延長登録出願を認めるかどうかの判断に当たっては,延長後の特許権の効力について規定した特許法68条の2の規定を考慮することによって,特許権の存続期間の延長制度全体について統一的な解釈が可能になるというべきである。」

と判断した上で、

「特許法68条の2にいう「物」が「有効成分」を,「用途」が「効能・効果」を意味するものとして立法されたことは,明らかであるというべきである。そして,その理由としては,新薬の特許は「有効成分」又は「効能・効果」に与えられることが多いので,薬事法上,医薬品の品目の特定のために要求されている各要素のうち,新薬を特徴付けるものは「有効成分」と「効能・効果」であることが多く,そのため,それらについて「物」と「用途」という観点から特許権の存続期間延長制度を設けることとしたものと解することができる。そして,前記2のとおり,特許法は,同法67条2項の政令で定める処分の対象となった品目ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採用しておらず,処分の対象となった「物」及び「用途」ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採用しており,存続期間が延長された特許権は,処分の対象となった品目とは関係なく,「物」と「用途」の範囲で,その効力が及ぶのであるから,「物」と「用途」の範囲は明確でなければならないところ,これらを「有効成分」と「効能・効果」と解すると「物」と「用途」の範囲が明確になるということができる。「物」と「用途」を「有効成分」と「効能・効果」と解さないと「物」と「用途」の範囲は極めてあいまいなものになるといわざるを得ず,法的安定性を欠くことになる。
したがって,特許法68条の2にいう「物」は「有効成分」を,「用途」は「効能・効果」を意味するものと解するのが相当である。」
と判断した。

本件特許権につき、原告の「延長が認められないのは、不合理である」との主張に対し、
裁判所は、

「特許法は,このような場合は,特許権の存続期間延長の対象としていないのであるから,本件特許権について存続期間の延長が認められないとしても,法解釈論としてはやむを得ないものというほかない。」

と言及した。

請求棄却。

【コメント】
製剤に関する一変承認に基づいて、その新規製剤特許の延長登録を試みた事案。武田薬品がかなり頑張ったが、知財高裁を説得することができず、立法趣旨・法的安定性という観点から判決が下された。
2005.10.11 「ロシュ(参加人:武田薬品) v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10345から更に議論が詰められた。これまで不明確のまま運用されてきた延長登録出願の登録要件の規定に関する解釈について、知財高裁の判断(①特67条の3の判断に、特68条の2の権利の効力に関する規定が考慮されること、②その規定中の「物・用途」は「有効成分・効能効果」として解釈すること)が示されたという点は非常に意義深い。

しかし、・・・本判決内容にはいまいち説得力のなさを感じるのは私だけであろうか?

既存薬の毒性を低減させたり、有効性を持続させたり、医師・患者の使い勝手を向上させたりするための改良薬は、益々強く望まれてきている。存続期間延長制度の立法当時には、このような実情をほとんど想定していなかった(?)としても、登録要件を権利の効力の規定から説き起こすのはやはり乱暴ではないだろうか?

特67条2項の政令で定める処分とは薬事法上の処分を意味していることは明らかである。そして、薬事法上の処分の対象となる「物」は、「有効成分」ではなく、「医薬品」である。つまり、仮に、特67条の3の判断に、特68条の2の権利の効力に関する規定を持ち出すことができたとしても、「物」を「医薬品」としてではなく「有効成分」と限定的に解釈することは、薬事法上の解釈自体を無視することにならないだろうか。

この点、特68条の2の「物」という用語自体を限定的に解釈することは特2条3項の「物」の解釈との間で不整合が生じる懸念もあるかもしれない。特2条3項の「物」とは、医薬有効成分のみならず、製剤を含むあらゆる"もの"の概念を包含している(もちろん、「物」としての製剤発明は認められている)。

また、既存薬の組成や用法・用量等を改善した用途発明の特許権も、承認が得られるまで実施できないという点では同様であるのだから、その処分が既存薬の効能・効果と同一だからという理由によって存続期間延長登録の対象にならないとするのは、存続期間延長制度を設けたそもそもの根底となる趣旨に反するのではないだろうか?

効能・効果に限らず、用法用量や製剤に特徴がある用途発明が「医薬発明」として認められている(「医薬発明」の審査基準においても明記されいるところである)ことを踏まえれば、仮に、特67条の3の判断に特68条の2の権利の効力に関する規定を持ち出して延長登録出願の登録要件として「用途」の同一性を判断するとしても、その「用途」とは医薬品の「効能・効果」であると一義的に狭く解釈することは、「医薬発明」の「用途」の解釈と矛盾するのではないだろうか。

最高裁での判断に期待したが、残念ながら不受理(平成20年09月02日) 。

参考:
  • リュープリンSR注射用キット11.25は、武田薬品が販売しているLH-RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)誘導体である酢酸リュープロレリン(5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-D-Leu-Leu-Arg-Pro-NHCH2-CH3・CH3COOH)を有効成分とするマイクロカプセル型徐放性製剤で、前立腺癌及び閉経前乳癌を効能効果としている。


Sep 24, 2008

2007.03.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10588

ランソプラゾールの効能・効果である「ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」は「抗菌」用途と実質的に違うのか: 知財高裁平成17年(行ケ)10588

タケプロンカプセル30の承認に基づく事件であり、2007.03.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10587の判決内容と同じ。

Sep 23, 2008

2007.03.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10587

ランソプラゾールの効能・効果である「ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」は「抗菌」用途と実質的に違うのか: 知財高裁平成17年(行ケ)10587

【背景】
ランソプラゾール(Lansoprazole、プロトンポンプインヒビター、販売名タケプロンカプセル15)の一変承認に基づく特許権存続期間延長登録出願(2000-700166)の拒絶審決取消訴訟。本件処分は、「効能及び効果」について、「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」を追加するものであり、本件特許発明(特許第1997968号)は「抗菌剤」であった。審決の理由は、「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」と「抗菌(剤)」とは文言上一致しないし、実質的にも重複しないとして、本件処分は本件特許発明の「抗菌剤」という用途についてなされたものでないから、本件特許発明を実施するために本件処分が必要であったと(特67条2項)は認められない、とするものであった。本件処分は、ランソプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法によるヘリコバクター・ピロリ除菌作用において、ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が、アモキシリン及びクラリスロマイシンの胃酸による分解を抑制し、アモキシリン及びクラリスロマイシンの抗菌作用を高め、アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤の除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすことを認めてなされたものであった。

【要旨】
原告は、審決は著しい理由不備があり、また、本件処分において特定された用途が「抗菌(剤)」と実質的に重複しないと誤って判断したものであるから取り消されるべきである、と主張した。
また、ある論文の記載から、
「プロトンポンプインヒビターに含まれるランソプラゾールの胃内pHの調節作用も、抗菌作用をもたらすメカニズムの一つであり、ランソプラゾールの「除菌の補助」の意義を、「胃内pHの調節作用のみによってもたらされる除菌の補助」と解した場合であっても、本件処分によって承認された効能、効果(用途)は、本件特許発明の用途と重複する。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本件処分に係る「除菌の補助」との文言と、用途発明である本件特許発明の用途である「抗菌(剤)」との文言が一致しない場合に、これが実質的に重複するか否かを判断するために、ランソプラゾールの「除菌の補助」という効能、効果をもたらす作用機序について検討することを要する」
と言及し、
「本件処分が、3剤併用療法による除菌作用において、ランソプラゾールによる胃内pHの上昇が、アモキシシリンの胃内での分解を抑制し、クラリスロマイシンの抗菌作用を高め、アモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤の除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすことを認めてなされたものであることは、上記のとおりであり、本件審査報告書及び本件添付文書情報には、ランソプラゾールの胃内pHの調節作用が、ヘリコバクター・ピロリの抗菌作用をもたらし、その作用がアモキシシリン及びクラリスロマイシン2剤の除菌に係る相加・相乗的効果をもたらすというような作用機序については記載も示唆もされておらず、他に、本件処分がそのような作用機序を認めてなされたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、ランソプラゾールの胃内pHの調節作用が、ヘリコバクター・ピロリの抗菌作用をもたらすメカニズムの一つであるとしても、本件処分におけるランソプラゾールの「除菌の補助」という効能、効果が、「抗菌作用によってもたらされる除菌の補助」を概念上包含するということはできず、原告の上記主張も失当である。」
とした。
請求棄却。

【コメント】
承認された効能・効果「抗菌の補助」と、本件発明の用途「抗菌剤」は文言上ぴったり一致しないまでも、「抗菌」という言葉は重複、また、適応症患者も重複するであろうと想定されることから、特許権者としては実質上同一としてもらいたいところである。しかし、本件一変承認は、ランソプラゾールが抗菌剤として認められたのではなく、他の抗菌剤の分解を抑えることにより抗菌活性を高める用途が認められたというのが本質であるとされてしまった。「除菌の補助剤」との用途クレームにすれば良かったのかもしれない。
クレームの用途に関する文言が、将来の承認されるであろう効能・効果とできるだけ文言上一致するように注意しなければならない。

参考:
  • タケプロンカプセル15(タケプロンカプセル35)添付文書情報より↓
    【効能 ・ 効果】
    〇カプセル15
    胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、非びらん性胃食道逆流症、胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
    〇カプセル30
    胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
    【用法・用量】
    〇胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助の場合
    通常、成人にはランソプラゾールとして1回30㎎、アモキシシリンとして1回 750㎎(力価 )及びクラリスロマイシンとして1回200㎎(力価)の3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、1回400㎎(力価)1日2回を上限とする。
  • 2007.03.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10588
    はタケプロンカプセル30の承認に基づく事件であり、本判決内容と同じ。

Sep 18, 2008

2007.03.15 「X v. 大塚製薬」 知財高裁平成18年(ネ)10074

物質発明において生物系研究者が発明者たるには?: 知財高裁平成18年(ネ)10074

【背景】
抗血小板剤プレタール®(Pletaal®、一般名: シロスタゾール(Cilostazol)に関する職務発明対価請求事件。
テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体とそれを含有する医薬成分に関する米国特許権にかかる発明(抗血小板薬プレタール)について、元従業員である控訴人(原告)が、控訴人は本件発明の発明者として被控訴人(大塚製薬)に特許を受ける権利を承継させたものであるとして、特35条3項に基づいて職務発明譲渡対価支払いを求めた事案。原判決は、主位的請求については外国の特許を受ける権利について特35条3項の適用はないと判断し、予備的請求については控訴人は本件発明の発明者でないとして、控訴人の請求を棄却した。元従業員である控訴人は、生物系研究者であり、本件発明は物質発明及び用途発明であった。

【要旨】
米国特許を受ける権利の承継による対価の支払請求については、当事者争わず、準拠法は日本法とされるべきであると判断された。

発明者の認定について、裁判所は、
「発明者と認められるためには、当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり、~補助をしたにすぎない場合には、創作行為に現実に加担したということはできない。」
と一般原則を示し、本件発明について、
「本件発明は、物質発明及び用途発明であるところ、本件用途発明は物質発明に基づく用途発明であり、その本質は物質発明の場合と同様に考えることができる。」
と捉え、"加担した者"といえるかどうかは
「①本件発明に係る化合物の構造の研究開発に対する貢献、②生物活性の測定方法に対する貢献、③本件研究における目標設定や修正に対する貢献、を総合的に考慮し、認定されるべきである。」
とした。
具体的には、
上記①について、「生物系研究者である控訴人が本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したというには、単に化合物の生物活性の測定及びその分析等に従事しただけでは足りず、その測定結果の分析・考察に基づき、新たな化合物の構造の選択や決定の方向性について示唆を与えるなど、化合物の創製に実質的に貢献したと認められることを要するというべきである。」とされ、本件において、その点を認めるに足る的確な証拠は存在しないと判断された。
上記②について、控訴人が研究開発した測定方法が独自の工夫に基づくものであると主張したが、当業者が通常行う程度の工夫であり、独自に考案したと評価することはできないと判断された。
上記③について、本件研究の目標は既に知られていたのであり、控訴人が新たに着想し、提唱したものということはできないと判断された。
控訴棄却。

【コメント】
医薬分野における物質発明の発明者認定において、生物系研究者をどのように扱うべきかが示された。
米国特許を受ける権利の承継による対価の支払請求については、準拠法は日本法とされる判断については、2006.10.17 「X v. 日立製作所」 最高裁平成16年(受)781を参照。

Sep 15, 2008

2008.07.30 「ファルマシア・アンド・アップジョン v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10377

用途発明の引用適格: 知財高裁平成19年(行ケ)10377

【背景】
「高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビターおよびその使用方法」に関する発明(特表2003-503450)は引例との関係で進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1(本願補正発明1):

ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための医薬組成物であって,該組成物は存在する(S,S)および(R,R)レボキセチンの総重量に基づき,少なくとも90重量%の場合により医薬上許容される塩の形態の(S,S)-レボキセチン,および10重量%未満の場合により医薬上許容される塩の形態の(R,R)-レボキセチンを含むことを特徴とする上記医薬組成物。

引例との相違点:

本願補正発明1が「ノルエピネフリン再取込みの選択的阻害は望まれるが,セロトニン再取込みの阻害は望まれない慢性疼痛の治療または予防のための」ものであるのに対し,引用発明には,このような医薬用途が記載されていない点。

原告は、相違点についての判断の誤り(取消事由1)及び作用効果に関する判断の誤り(取消事由2)を主張した。

【要旨】

1. 相違点についての判断の誤り(取消事由1)について

原告は、

「引用例8(甲4)には,ノルエピネフリン再取込み阻害剤が疼痛症候群に対し有用であることを示す臨床試験結果や動物試験結果等は何ら記載されておらず,この点を裏付ける理論的な説明もないから,引用例8をもってノルエピネフリン再取込み阻害剤が「慢性疼痛の治療または予防のため」に有用であることの示唆があるということはできない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例8~の内容は,前記のとおり,新しい抗アドレナリン性再取込み阻害抗うつ薬であるレボキセチンの臨床試験の概説に続いて,選択的抗うつ作用をよりよく理解するための発見的な理論上の枠組みを提示するというもので,多くの臨床試験の報告や論文を引用するものである。このような論文の性質及び内容に鑑みれば,引用例8に接した当業者は,著者が,根拠のない単なる希望や空想ではなく,専門家として,レボキセチンに関する多くの臨床例や論文を検討した上で,ノルエピネフリン再取込み阻害剤が疼痛症候群に対し有用である旨の見解を記載していると考えるのが自然であり,このことは,引用例8に上記見解に至った具体的臨床試験結果や動物試験結果,論理的な説明の記載があるかどうかにより左右されるものではない。~

また、~甲14文献には,抗うつ剤は長い間慢性疼痛症候群に用いられ,有効性が示されているが,抗うつ剤が鎮痛作用をもたらす詳細なメカニズムは不明であること,ノルエピネフリンとセロトニンの両方の再取込みを阻害する抗うつ剤とSSRIの実験結果の対比から,疼痛症候群におけるそれらの使用を支持するのはノルエピネフリン性構成要素であることが示唆されていること,ノルエピネフリン再取込み阻害剤であるレボキセチンにおける更なる研究により,この問題が明らかにされ得るものと考えられていることが記載されているのであって,その発行当時,抗うつ剤の慢性疼痛症候群に対する鎮痛効果についての有効性が確認されており,抗うつ剤が鎮痛作用をもたらす詳細なメカニズムが不明であるとしても,今後,ノルエピネフリン再取込み部位を選択的に阻害するノルエピネフリン再取込み阻害剤を用いた更なる研究により解明が進むことが期待されていたことが認められる。そして,このような状況は,これと時期を接した本願優先日(1999年〔平成11年〕7月)当時においても同様に当てはまるというべきである。
そうすると,抗うつ剤として用いられるノルエピネフリン再取込み阻害剤が慢性疼痛症候群に対して有効であることは,本願の優先日当時,十分可能性のあるものとして理解されていたものというべきであるから,引用例8における上記記載は根拠を有するものというべきである。」

とし、原告の主張は採用することができないと判断した。


2. 作用効果に関する判断の誤り(取消事由2)について

裁判所は、

「Ki値比が高いことから本願補正発明1の医薬組成物が治療上有用なものである可能性があることは理解できるのであるが,このような可能性は引用例3において既に示された知見であって,本願補正発明1の進歩性を肯定する根拠となるものではない」
そして、
「Ki値比の差がそのまま薬理効果又は副作用の差を示すものとして評価できるものとまでは認められないから,このような本願明細書の記載を前提としては,(S,S)-レボキセチンが,主要なセロトニン症候群を引き起こさない点で顕著な効果を奏するということはできない。」

とし、原告の主張は採用することができないと判断した。

請求棄却。

【コメント】
一般的に、引例に用途が示唆されているに足るといえるには、どの程度の根拠が必要とされるのか。引例が示唆する用途の記載が、「根拠のない単なる希望や空想」なのか、「根拠のある見解」なのか、そのボーダーラインはいつも問題となるところである。
本事案において、裁判所は、「選択的抗うつ作用をよりよく理解するための発見的な理論上の枠組みを提示するというもので,多くの臨床試験の報告や論文を引用するものである。」
というような「論文の性質及び内容」を鑑みて、引用例8を「根拠のある見解」と判断している。
出願人は分割出願しており、現時点ではまだ最終決着には至っていないようだ。

一方、日本と異なり、欧米では、同引例が特許庁に提出されているにもかかわらず、慢性疼痛用途で特許化に成功している。

  • US6,465,458B1

    What is claimed is:
    1. A method of treating an indivisual suffering from chronic pain, the method comprising the step of administering to the indivisual a therapeutically effective amount of a composition comprising an optically pure (S,S) reboxetine, or a pharmaceutically acceptable salt thereof, said compound being substantially free of (R,R) reboxetine.


  • EP1196172B1

    Claims
    1. The use of optically pure (S,S)-reboxetine, or a pharmaceutically acceptable salt thereof, in the manufacture of a medicament for the treatment or prevention of chronic pain, wherein the optically pure (S,S)-reboxetine or pharmaceutically acceptable salt thereof comprises at least 90 wt.% of (S,S)-reboxetine and less than 10 wt.% of (R,R)-reboxetine, based on the total weight of the (S,S) and (R,R) reboxetine present.


参考:



Sep 10, 2008

2008.07.30 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10224

内面の被覆に特徴があるサルメテロール吸入器の発明: 知財高裁平成19年(行ケ)10224

【背景】
「サルメテロール用計量投与用吸入器」に関する請求項1に係る本願発明(特表平11-509434号)は、引例および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。


【要旨】
アルブテロールで争われた
2008.07.30 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10223
と同内容。

参考:


Sep 9, 2008

2008.07.30 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10223

内面の被覆に特徴があるアルブテロール吸入器の発明: 知財高裁平成19年(行ケ)10223

【背景】
「アルブテロール用計量投与用吸入器」に関する請求項1に係る本願発明(特表平11-509433号)は、引例および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:

「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで内面の一部または全部が被覆された計量投与用吸入器であって,アルブテロールまたはその生理学的に許容される塩と,フルオロカーボン噴射剤と,場合によっては一以上の他の薬理学的に活性な薬剤または一以上の賦形剤とを組み合わせて含む吸入薬剤配合物を投与するための計量投与用吸入器。」

引例との主な相違点(相違点2):

本願発明は、計量投与用吸入器の内面を,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで被覆しているのに対し、
引用発明1は、一以上のフルオロカーボンポリマーのみで被覆している。

原告は、当該相違点2について、周知技術の認定及びその周知例を引用発明1に適用したことに誤りがあること(取消事由2)、ならびに手続違背(取消事由1)を主張した。

【要旨】

1. 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 「周知技術」の認定について

原告は、
「わずか2つの公報の存在をもって『周知技術』を認定することはできない」,「相互に関連した出願に係る公報を多数引用しても『周知技術』を認定することはできない」
などと主張した。

しかしながら、裁判所は、
「刊行物により周知技術を認定する場合においては,認定に供する刊行物の数のみならず,当該刊行物の種類や当該刊行物の頒布の日からの経過年数,当該刊行物に記載された技術に係る技術分野等を総合考慮してこれを行うことが必要であると解すべきである。しかるところ,上記のとおり,基材への接着性の向上等を目的として本件技術を採用することの周知性は,少なくとも周知例2及び乙1公報ないし乙5公報の6つの刊行物から認定し得るものであり,かつ,上記各刊行物は,いずれも特許出願に係る公開公報又は公告公報であって,多数の当業者が接するものである。しかも,これらの刊行物の頒布時期は,周知例2が本件優先日の5年余り前であるほかは,いずれも本件優先日より19年ないし26年以上前であり,さらに,後記のとおり,これらの刊行物に記載された技術に係る技術分野は,本願発明の属する技術分野と同一ないし密接に関連しているものと認められる。そうすると,これらの事実を総合すれば,周知例2及び乙1公報ないし乙5公報により,基材への接着性の向上等を目的として本件技術を採用することの周知性は十分に認であるから,原告の上記主張を採用することはできない。」
と判断した。

原告は、
「審査手続及び審判請求手続において引用されていなかったことを根拠に,周知例2及び乙1公報ないし乙5公報を本件認定の証拠とすることはできない」
旨主張したが、

裁判所は、
「周知技術や技術常識の立証のため,審査手続及び審判請求手続において引用されていなかった新たな証拠を審決取消訴訟において提出することは許されると解するのが相当である(最高裁第一小法廷昭和55年1月24日判決・民集34巻1号80頁参照)」
として、原告の主張を認めなかった。

(2) 周知技術である本件技術を引用発明1に適用して,相違点2に係る本願発明の構成に想到することの容易性について

裁判所は、
「周知例~の各記載によれば,コーティング被覆の基材への接着性を向上させることは,引用発明1及び本願発明が属する技術分野を含むコーティング被覆を必要とする各種技術分野において,ごく一般的な課題であったものと認められ,また~コーティング被覆の基材への接着性を向上させることと,当該被覆に外接する物質(引用発明1における薬学的に活性な物質)の当該被覆への付着を防止することは,相互に矛盾する課題ではなく,むしろ,フルオロカーボンポリマーを用いて,これら両課題の解決を同時に追求することは,上記各技術分野において,一般的に行われていたものと認められ,さらに,~阻害要因があったものとも認められないから,~周知技術である本件技術を引用発明1に適用して,相違点2に係る本願発明の構成を得ることは,当業者が必要に応じてなし得た設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到し得るものであったと認めるのが相当である。」
と判断した。

そして、本願発明が奏する作用効果についても、

裁判所は、
「本願発明が,当業者が予測することのできる範囲を超えた格別顕著な作用効果を奏するものと認めることはできないから,「本願発明の作用効果も,・・・当業者が予測できた範囲のものである。」との審決の判断に誤りはないというべきである。」
と判断した。


2. 取消事由1(手続違背)について

裁判所は、
「審査手続段階において告知された周知技術を例示するものとして,審決前に引用されていなかった文献(周知例)を審決において追加挙示しても,新たな技術事項を周知技術として採用し,これにより拒絶の理由を変更することにはならないから,そのような例示文献(周知例)を審決において追加挙示することは許されると解するのが相当である。~原告は,本件審判請求の理由として,「~」と適切に主張していたのであるから,少なくとも本件においては,~審決の結論に影響を及ぼすべき手続違背があったということはできない。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
周知技術の認定及びその周知例の適用可否が争われた。
喘息治療用吸入剤においては、その製剤のみならず吸入用デバイスの性能が競合品との差別化に重要であるから、製剤に適したデバイスに関する発明の特許化は、製品のライフサイクルマネージメントにとって大きな価値があるだろう。しかし、GSKは、自社品のプロピオン酸フルチカゾン、サルメテロール、アルブテロール(サルブタモール)を有効成分とする本件発明デバイスの特許化を失敗したことになる。現時点で、日本で販売されているこれら同社喘息治療吸入剤のうちいくつかは、添加物として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを用いているようである。

参考:




Sep 7, 2008

2007.03.01 「ブリストルマイヤーズスクイブ v. 日本ケミカルリサーチ」 知財高裁平成17年(行ケ)10818

臨床試験プロトコールと引例適格: 知財高裁平成17年(行ケ)10818

【背景】
BRISTOL MYERS SQUIBB(原告)は「タキソールを有効成分とする制癌剤」に関する特許(特許第2848760号)の特許権者であったが、新規性、進歩性、及びサポート要件を満たさないとの理由で無効審決とされたため、取消訴訟を提起した。
問題となった請求項1は、
「固形癌、白血病または卵巣癌~患者を治療するためのタキソールを含有する薬剤であって、約135~275mg/m2のタキソールが約3時間に渡り投与されるように、非経口投与用に包装された薬剤。」
であり、
請求項2は、
固形癌または白血病患者を限定するとともに用量を175より大で275mg/m2以下に限定した請求項1の従属クレーム、
請求項3は、卵巣癌患者を限定するとともに用量を175より大で275mg/m2以下に限定した請求項1の従属クレーム。
新規性を否定する引例は、卵巣癌患者に135又は175mg/m2のタキソールを3時間投与するというプロトコールで臨床試験が行われている旨を記載した文献であり、その有効性及び安全性に関する結果は記載されていなかった。
また、サポート要件に関して、明細書には、具体的には、タキソールの投与量として135及び175mg/m2、投与時間として3及び24時間を組み合わせた卵巣癌患者に関するデータしか記載されていなかった。

【要旨】
原告は、
新規性を否定するとされた引例は、臨床試験の途上における発表であり、有効かつ安全な投与という技術効果を挙げる程度にまで具体的、客観的なものとしては構成されていないから、発明未完成であり、引用発明とはなりえない、
と主張した。
しかし裁判所は、
「特29条1項3号においては、当該発明に対応する構成を有するかどうかのみが問題とされるべきであるところ、その有効性及び安全性は臨床試験においても当然に期待されてているものであり、その記載どおりの効果が得られることを確認する試験として進行中のものであって、確立した態様としては記載されていないとしても、それだけでは、本件発明の構成要件を充足する態様が記載されていると認定することの妨げにならないというべきであるから、引用文献としての適格性を欠くものではない。」
として、新規性を否定した審決の認定に誤りは無いと判断した。

また、原告は、
データとして明細書に記載のない175mg/m2を超える投与量の範囲について、明細書全体の記載から見て自明のことであると主張し、また試験結果を証拠として提出した。
しかし裁判所は、
発明の詳細な説明には3時間のタキソール投与量が175mg/m2を超えるものについては具体的な薬理データが記載されていない、そして、下位クレームがサポート要件違反なので、その範囲を包含する上位クレームもサポート要件違反であるとして審決の判断に誤りは無い、
と判決した。

請求棄却。

【コメント】
臨床試験プロトコールを公開してしまい、新規性を失った事例。情報発信をコントロールすることは重要である。
また、試験結果が何も開示されていないプロトコールが引用発明の適格性を有すると判断された。この点については、

審査基準第VII部第3章「医薬発明」2.2.1.1新規性の判断の手法(2)
「当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に多数列挙されている場合は、技術的に意味のある医薬用途が明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず、その発明を引用発明とすることはできない。」

における「裏付け」とは何なのか、「裏付け」は必ずしもデータ(試験結果)の有無だけで決するものではないということを明確化する必要があるのでは。ファミリー特許である欧州特許(EP0584001)においても、成立後の異議申立で無効に。同様に新規性の引例適格性が争点の一つとなったようである。

サポート要件に関しては、医薬用途発明には明細書に薬理データが必要であるとするこれまでのプラクティスに変更はない(審査基準でも同様。)。しかし、卵巣癌のデータだけでは他の癌をサポートしないのか、そんなに細かく病態別のデータが必要とされるのか、という意見もあるようだ。

それにしても原告は何故裏付けデータのない用量範囲で争わなければならなくなったのかを想像すると、各国の事情・重要性を踏まえたライフサイクルパテントの出願戦略を考える上で興味深い。

参考:
  • タキソール(パクリタキセル)注射液の添付文書情報(日本):

    【効能又は効果】
    卵巣癌,非小細胞肺癌,乳癌,胃癌,子宮体癌
    <効能・効果に関連する使用上の注意>
    子宮体癌での本剤の術後補助化学療法における有効性及び
    安全性は確立していない。
    【用法及び用量】
    卵巣癌,非小細胞肺癌,胃癌及び子宮体癌にはA法を使用し,乳癌にはA法又はB法を使用する。
    A法:通常,成人にはパクリタキセルとして,1日1回210mg/m2(体表面積)を3時間かけて点滴静注し,少なくとも3週間休薬する。これを1クールとして,投与を繰り返す。
    B法:通常,成人にはパクリタキセルとして,1日1回100mg/m2(体表面積)を1時間かけて点滴静注し,週1回投与を6週連続し,少なくとも2週間休薬する。これを1クールとして,投与を繰り返す。
    なお,投与量は,患者の状態により適宜減量する。
  • TAXOL® (paclitaxel) INJECTIONの添付文書情報(米国):

    For patients with carcinoma of the ovary, the following regimens are recommended (see
    CLINICAL STUDIES: Ovarian Carcinoma):
    1) For previously untreated patients with carcinoma of the ovary, one of the following recommended regimens may be given every 3 weeks. In selecting the appropriate regimen, differences in toxicities should be considered (see TABLE 11 in
    ADVERSE REACTIONS: Disease-Specific Adverse Event Experiences).
    a. TAXOL administered intravenously over 3 hours at a dose of 175 mg/m2 followed by cisplatin at a dose of 75 mg/m2; or
    b. TAXOL administered intravenously over 24 hours at a dose of 135 mg/m2 followed by cisplatin at a dose of 75 mg/m2.
    2) In patients previously treated with chemotherapy for carcinoma of the ovary, TAXOL
    has been used at several doses and schedules; however, the optimal regimen is not yet
    clear. The recommended regimen is TAXOL 135 mg/m2 or 175 mg/m2 administered intravenously over 3 hours every 3 weeks.

    他、ほとんどの国で認められている用法・用量は、175mg/m2の投与量で点滴時間が3時間のようである。
  • Wikipedia: Paclitaxel
  • 1998.10.28 「Pfizer/Sertraline事件」 EPO審決T0158/96

Sep 2, 2008

2007.02.28 「エスエス v. 東光薬品」 知財高裁平成18年(行ケ)10375

「イブペイン」と「EVEPAIN」と「EVE」と「PAIN」: 知財高裁平成18年(行ケ)10375

【背景】
被告(東光薬品)は「イブペイン」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を第5類「薬剤」等とする商標権者。原告(エスエス)は、被告を被請求人として、本件商標権の通常使用権者が指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって、原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとして、商53条1項の規定に基づき、使用権者の不正使用による商標登録取消審判を請求したが、請求は成り立たないとの審決だっため、審決取消を求め訴訟を提起した。審決では、本件通常使用権者による商品「解熱・鎮痛剤」についての本件商標に類似する「EVEPAIN」の使用は、他人の業務に係る商品(具体的には原告の解熱・鎮痛剤「EVE/イブ」)と混同を生ずるものをしたとは認められないから、本件商標登録は、商53条1項の規定により取り消すことはできないとし判断していた。

【要旨】
審決は、「EVEPAIN」は不可分一体に構成され「EVE」と「PAIN」とが分離不能なほどに一体的な強い結合状態をなしていると判断したが、裁判所は、その判断は肯定し難いとした。
「EVEPAIN」に接した取引者、需要者は、「EVE」と「PAIN」とからなるものと理解し、「EVE」の部分においては、周知著名な引用商標を想起するとともに、「PAIN」の部分は、「痛み」との観念を生じ、その商品の特性に係る部分であり、周知著名な引用商標に係る原告商品の関連商品の特性を示す部分として認識され、それ自体としては自他識別力を欠くものと認めるのが相当であるとし、出所につき混同を生ずる恐れがあるというべきである、と判断した。
被告は、「イブペイン」の名称で医薬品製造承認を得、「一般薬/日本医薬品集」に掲載され、市販している事実から、本件使用商標は広く知られているものであり、引用商標と混同することはないと主張したが、裁判所はその主張を認めなかった。
審決を取り消す。

【コメント】
審決が取り消された事例。
本件のように、片仮名文字の場合には、言葉の区切れがわかりにくいため一体不可分な造語として判断されやすいが、ローマ字の場合において、そこに観念が生じれば、分離して判断され、本件のような結論に至る可能性があることに注意が必要だろう。
また、不使用による商標登録取消審判(商50条)は、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商標は、登録商標の使用の概念に含まれるが、本件のような不正使用による商標登録取消審判(商53条)における登録商標の使用の概念に、そのような表示の変換は含まれないので、この点についても注意が必要だろう。
片仮名だけでなく、ローマ字との二段併記にして商標を登録させておけば(片仮名及びローマ字の二段併記の登録商標において、併記使用のみならず、片仮名、ローマ字各々の単独使用も登録商標の(類似使用でない)使用と判断されるかについては勉強不足のため自信ないが)、本件のような類似使用を防げたのかもしれない。
とにかく、原則として、商標は使用する態様のものを取得すべき。
「イブ」という先願先登録商標が存在することから商4条1項11号違反を理由に無効審判を請求するというオプションもあったのかもしれないが、もともと「イブペイン」という一体の造語として登録が許されたのかもしれない。

Sep 1, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年8月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

2008年8月中に「医薬系"特許的"判例」ブログにアクセスされた検索ワード/フレーズのランキング及びコメントです。

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