Dec 27, 2008

2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

Prior artとは?

「結晶性アジスロマイシン2水和物」事件は、引用文献中の化合物(結晶)の製法又は物性データの開示の有無が新規性を拒絶するprior artとしての採否判断の争点となった。文献にどのような記載があれば先行発明として開示されていることになるのか。



「高純度アカルボース」事件は、引用文献中にその純度が明記されていないとしても、純度で限定した組成物クレームの新規性・進歩性を否定しうるprior artになるのかが問題となった。



「高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビター」事件では、文献中において必ずしもデータで裏付けられていると言うことはできない疾患用途への言及が根拠のあるものかどうかが進歩性を拒絶するprior artとしての採否判断の争点となった。引例として採用されるべき"根拠のある"記載とは。



「オメプラゾール(omeprazole)」事件は米国のケースだが、臨床試験の実施が公然実施に該当するのかどうかが問題となった。ライフサイクルパテントにとって、臨床試験の実施が特許性に与える影響を注意深く検討する必要があるだろう。



Dec 25, 2008

2008.10.29 「X v. 三菱化学」 知財高裁平成20年(ネ)10039

職務発明の相当の対価請求権の消滅時効: 知財高裁平成20年(ネ)10039

原判決: 2008.02.29 「A v. 三菱化学」 東京地裁平成19年(ワ)12522

【背景】
被控訴人(三菱化学)の元従業員である控訴人(X)が、被控訴人に対し、職務発明に係る特許権について相当対価の支払を求めた。被控訴人は、相当の対価請求権は時効により消滅したと主張した。
本件発明は、職務発明であり、被控訴人は控訴人ら共同発明者から特許を受ける権利を承継、特許出願をし、特許(第1466481号;第1835237号)を得た。本件発明に係る医薬品は、商品名「アンプラーグ」(ANPLAG、一般名: 塩酸サルポグレラート(Sarpogrelate Hydrochloride)、5-HT2ブロッカー)であり、被控訴人は、製造承認を受け、平成5年10月7日に発売を開始していた。

原審の東京地裁は、控訴人の本件発明に係る相当の対価請求権は、その時効起算点から既に10年以上が経過しており、消滅時効が完成したとして、控訴人の請求を棄却した。これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

【要旨】
裁判所は、
「勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。そして特許法旧35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,同条により認められた法定の債権であるから,権利を行使することができる時から10年の経過によって消滅する(民法166条1項,167条1項)。」
との一般原則を示し、以上の見地に立って本件について検討した。

裁判所は、
「~実績補償は本件発明等取扱規則9条が定めるように「会社が…発明等を実施し,その効果が顕著である」ときに支払時期が到来するものであるが,会社が発明を実施し,その効果を判定するためには一定の期間経過を必要とすることは道理であるから,上記規則9条は,会社が発明を実施しその効果を判定できるような一定期間の経過をもって実績補償に係る対価請求債権の支払時期が到来することを定めたものと解するのが相当である。」
とし、
本件社内規則の記載内容から解釈して、
「~本件発明等取扱規則9条における実績補償の支払時期を決する前提となる発明の客観的価値を認定するために必要とされる期間は5年ということになる。以上によれば,本件発明等取扱規則9条における実績補償に係る相当対価の支払請求債権は,各職務発明の実施から5年を経過した時点が消滅時効の起算点となる」
と判断した。

従って、
「控訴人の本訴請求債権は時効消滅しておらず,本訴請求の当否を判断するには,相当対価額について実体審理をする必要がある。」
と結論した。

原判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。

【コメント】
職務発明対価の支払時期については特許法に規定はないため、勤務規則等に支払時期に関する条項がある場合には、その支払時期が対価支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。本件のように、その支払時期が明確でないときは、社内規定の内容から導くことになるようである。

Dec 24, 2008

2008.10.28 「参天製薬 v. 千寿製薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10331

開口点眼容器: 知財高裁平成19年(行ケ)10331

【背景】
被告(千寿製薬)は、「開口点眼容器及びそれの製造方法」に関する本件特許(第3694446号)について無効審判を請求、特許権者である原告(参天製薬)は訂正請求したが、訂正後の請求項1ないし9はいずれも進歩性なしであるとされ無効審決。本件はその審決取消訴訟。

【要旨】
原告は、本件発明1と甲1発明Aとの一致点の認定の誤り及び相違点看過、さらに各相違点についての判断に誤りがある旨主張したが、
裁判所は、
審決の認定に誤り及び相違点看過はないし、判断にも誤りはない、
と判断した(同様に本件発明2ないし9についての判断も)。

また、原告は、
「審決は,甲9以外に甲27及び28を裏付けとして周知技術を認定しているが,これらは審決において指摘された刊行物であり,原告に意見を述べる等の機会を与えなかった違法がある」
旨も主張した。
しかし裁判所は、
「本件審判手続及び審決は,申立人が申し立てなかった新たな無効理由に基づいて判断したものとはいえず,また,実質的に意見を述べる機会を付与しなかったものともいえない。したがって,本件審判手続において特許法134条2項,同153条2項等の規定に反する手続があったものと認めることはできず,原告の主張は理由がない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
進歩性判断において特筆すべき点はないが、おもしろいのは、
本件における原告の訴訟活動及び争点設定に関して、裁判所は、
「本件において,原告が,争点を整理し,絞り込みをすることなく,漫然と,審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して,取消訴訟における争点としたことは,民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない。」
との意見を述べた。
そこまで言うか?
よほど原告の主張がひどかったのだろうか。

Dec 23, 2008

2008.10.06 「ユーロスクリーン v. 小野薬品」 大阪地裁平成18年(ワ)7760

ケモカイン受容体88C(CCR5)の機能: 大阪地裁平成18年(ワ)7760

【背景】
原告は、被告のスクリーニング行為などがケモカイン受容体88C(CCR5)に関する本件特許権(第3288384号)を侵害するとして、被告に対し、特100条1項又は2項等に基づき、ケモカイン受容体CCR5のDNA、DNAベクター、トランスフェクトされた細胞及びポリペプチド、並びにこれらを使用して得られた記録媒体及びONO4128その他の一切の化合物の、生産、使用、譲渡等の差止、補償金の支払、損害賠償の支払等を請求した。

【要旨】
裁判所は、
「本件基礎出願1の明細書には,ケモカイン受容体88C(CCR5)と結合するケモカイン(リガンド)についての記載がなく,88Cの機能が開示されていないこととなり,産業上の利用可能性ないし実施可能性要件を欠き,また,最初の出願に係る出願書類の全体により本件各発明が明らかにされているということもできない。したがって,本件特許は,本件基礎出願1に基づく優先権を享受することができない。~アイコスは,前記本件基礎出願1の後である~本件基礎出願2の明細書において,CCR5のリガンドとしてRANTES,MIP-1α,MIP-1βを特定している。しかし、本件基礎出願2の出願日(平成8年6月7日)に先立ち,上記リガンドについての文献~が存する。~そうすると,本件各発明は,上記文献に開示されているか,もしくは,これから容易に想到することができるというべきである。以上によると,本件特許は,本件基礎出願2の優先権を主張できたとしても,本件各発明に係る特許は,いずれも新規性もしくは進歩性を欠如することとなり,特許無効審判により無効にされるべきであると認められるから(特許法123条1項2号,29条),特許法104条の3により,原告は,被告に対し本件各発明に係る特許権を行使することができない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
原告が主張する機能は、本件ケモカイン受容体88C(CCR5)に期待される機能ではあるが、期待に過ぎないとされた。リガンドの必要な受容体であるからには、そのリガンドが何なのかを明細書中に明らかにすることが、受容体蛋白関連発明における産業上の利用可能性ないし実施可能性要件を満たすボーダーラインのようである。優先権が主張できるかどうかが将来問題になる可能性を念頭に、基礎出願段階から明細書の記載ぶりには注意しなければならない。

参考:


Dec 21, 2008

2007.08.08 「ファリスバイオテック v. 日本スキャンティボディ」 知財高裁平成18年(行ケ)10406

hPTH(1-37)配列由来のペプチド: 知財高裁平成18年(行ケ)10406

【背景】
原告(ファリスバイオテック )は、「hPTH(1-37)配列由来のペプチド」を発明の名称とする特許第3457004号の特許権者であり、29条2項違反等により無効とする審決が下されたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
裁判所は、
取消事由4(相違点の判断の誤り)についての
(1) 相違点(a)の判断の誤りについて
「原告は,本件発明1と引用例発明とは,生物活性を有するhPTHのみを診断するか否かという点において,大きく相違する旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
本件明細書の請求項1には,「生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための」と記載されているが,「生物活性を有する」ことは「hPTH(1-37)」が本質的に有する性質であるから,請求項1には「hPTH(1-37)」が診断できることが規定されているにすぎず,hPTH(1-37)をhPTH(3-37)と区別して診断できること(すなわち,hPTH(1-37)を検出するが,hPTH(3-37)は検出しないこと)は,本件発明1の要件として規定されていない。したがって,1,2位のアミノ酸を欠失したhPTHを検出するものであるか否かは,本件発明1とは無関係の事項というべきである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「hPTHのN-末端の最初のアミノ酸に結合し,2個のアミノ酸,即ち,hPTHのアミノ酸配列の1番目のセリンと2番目のバリンが欠失すると親和性の実質的な消失が生じる」「該抗体又は抗体フラグメント」が実質的に開示されているともいえない。そうすると,診断対象について,本件発明1と引用例発明とが実質的に相違しないとした審決の判断に誤りはない(なお,原告も,本件発明1と引用例発明とは,hPTH(1-37)の検出を試みる発明であるという限りにおいては,相違はないことを認めている。)。」
と判断した。
また、
(2) 相違点(b)に関する容易想到性の判断の誤りについての
オ 効果について
「原告の主張は,本件発明1により製造される抗体が,1,2位のアミノ酸を備え生物活性を有するhPTH(1-37)のみと反応し,これらのアミノ酸を欠くhPTHとは反応しないものであることを前提とするものであるが,前記のとおり,本件発明1は,製造される抗体が,1,2位のアミノ酸を欠くhPTHとは反応しないことを要件とするものではないから,原告の主張はその前提において誤りがあり,失当というべきである。なお,仮に,本件発明1が上記事項を要件とするものであったとしても,前記1のとおり,1,2位を欠くhPTHとは反応しない抗体については,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されていないから,本件発明1が原告主張のとおりの効果を奏するものとは認められない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
原告は、製造される抗体が「1,2位のアミノ酸を欠くhPTHとは反応しない」ことを構成要件としたうえで、そのようなことを示すデータを揃えておくべきだった。

参考:


Dec 18, 2008

2007.07.11 「Daiichi Sankyo v. Apotex」 CAFC Docket No.06-1564

FLOXIN OTIC事件(the level of ordinary skill in the art): CAFC Docket No.06-1564

【背景】
第一三共が販売するニューキノロン系抗菌耳科用製剤であるオフロキサシン(ofloxacin、商標名:FLOXIN OTIC、日本ではTARIVID、タリビッド)について、ジェネリックメーカーであるApotex社がFDAにANDA申請(パラグタフIV)したことに対し、特許権者である第一三共が侵害訴訟を提起した。Apotex社は、該特許(US5,401,741)は自明であり、特許は無効である等を主張した。地裁は特許は有効であると判断、Apotex社は控訴した。

Claim 1:
1. A method for treating otopathy which comprises the topical otic administration of an amount of ofloxacin or a salt thereof effective to treat otopathy in a pharmaceutically acceptable carrier to the area affected with otopathy.

【要旨】
地裁は、"the ordinary person skilled in the art"は小児科医又は開業医であろうと結論づけることによって発明は自明ではなく、特許は有効と判断したが、CAFCは、それを否定し、特許は無効であると結論した。

Accordingly, the level of ordinary skill in the art of the ’741 patent is that of a person engaged in developing pharmaceutical formulations and treatment methods for the ear or a specialist in ear treatments such as an otologist, otolaryngologist, or otorhinolaryngologist who also has training in pharmaceutical formulations. Thus, the district court clearly erred in finding otherwise.
We now turn to the question of whether the invention of the ’741 patent would have been obvious to one of ordinary skill in the art at the time of the invention. The district court’s error in determining the level of ordinary skill in the art of the ’741 patent tainted its obviousness analysis. In view of the correct level of skill in the art and the evidence of record, we conclude that as a matter of law the ’741 patent is invalid as obvious.

【コメント】
進歩性判断におけるGraham factorのひとつである"the level of ordinary skill in the art"が争点となったKSR判決後の事案。Orange bookによれば、本特許による特許保護期間は、2012年3月27日までだったようである。

本米国特許のファミリーである日欧出願も特許となっている。日欧での各国事情等を考えながら審査経過を比較検討することは興味深い。

欧州:
EP0337328B
Claim:
Use of ofloxacin or a salt thereof for preparing a topical preparation in otopathy, the use of S-(-)-ofloxacin being excluded.

日本:
特許第2573351号
【請求項1】式

で表されるオフロキサシンまたはその塩を有効成分とする局所投与用の中耳炎用液剤


参考:


Dec 14, 2008

2007.07.05 「イミュネックス v. 国」 東京地裁平成19年(行ウ)56

年金の追納期限徒過: 東京地裁平成19年(行ウ)56

【背景】
原告が「後期段階炎症反応の治療用組成物」に関する特許権(特許第3122139)の第5年分の特許料納付期限の追納期限の経過後に第5年分の追納手続を行ったのに対し、特許庁長官が前記納付書について手続却下処分を行ったことについて、前記追納期限の徒過につき原告の責めに帰することができない理由(特112条の2第1項)があるとして、前記却下処分の取消を求めた事案である。

【要旨】
裁判所は、
「特許法112条の2第1項にいう「その責めに帰することができない理由」は,~天災地変や本人の重篤のような客観的理由により手続をすることができない場合のほか,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期間内に納付をすることができなかった場合を意味すると解するのが相当である。」
との一般原則を示した上で、本件について、
「C事務所は,本件特許権の年金管理を善良な管理者としての注意義務を尽くして遂行すべきところ,原告にかかる通知を行わなかったことについて過失があることは明らかである。~本来自らなすべき特許権の管理を,自らの責任と判断において,当該外部組織に委託して行わせたのであるから,当該外部組織の過失は,特許権者側の事情として,原告の過失と同視するのが相当であって,原告の主張は採用できない。」
と判断し、原告の主張を認めなかった。
請求棄却。

【コメント】
年金支払いや審査対応等の期限管理を怠ると致命的な結果になりかねない。
本特許は、内容からすると、関節リウマチ治療薬であるエンブレル(ENBREL、一般名:エタネルセプト、完全ヒト型可溶性TNFα / LTα レセプター製剤、Immunex社(現Amgen社)が、Wyeth社と共同で開発した。)の新規用途(喘息等の遅発型アレルギー反応抑制剤)の発明をカバーする特許だったようである。本特許が後発品参入阻止に有効に働いていたとしたら・・・ゾッとする事件である。

参考:


Dec 7, 2008

2007.07.04 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10271

結晶多形発明と進歩性: 知財高裁平成18年(行ケ)10271

【背景】
原告は、「タキキニン受容体拮抗薬~メチルモルホリンの多形結晶」とする発明(特願平11-507368、特表2000-513383、WO1999/001444)について拒絶査定不服審判を請求したが、請求は成り立たない旨の審決をされたため、審決取消訴訟を提起した。審決の理由は、引用発明(WO/1995/023798、出願人はMerck)に基づいて当業者が容易に発明を受けることができないものであるから、進歩性無しとするものであった。

請求項1:

化合物2-(R)-(1-(R)-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)エトキシ)-3-(S)-(4-フルオロ)フェニル-4-(3-(5-オキソ-1H,4H-1,2,4-トリアゾロ)メチルモルホリンの多形結晶であって,12.0,15.3,16.6,17.0,17.6,19.4,20.0,21.9,23.6,23.8及び24.8゜(2シータ)に主要な反射を有するX線粉末回折パターンを特徴とする,Ⅰ形と称される多形結晶。

引用発明との一致点は、

2-(R)-(1-(R)-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)エトキシ)-3-(S)-(4-フルオロ)フェニル-4-(3-(5-オキソ-1H,4H-1,2,4-トリアゾロ)メチルモルホリンの結晶

であり、

相違点は、本願発明は「I形と称される多形結晶」の発明であるのに対し、引用発明には多形結晶について特定されていない点(II型結晶である点)であった。

【要旨】
1. 取消事由1(相違点についての容易想到性判断の誤り)について

「本願発明の『Ⅰ形と称される多形結晶』を得ることは,当業者が,容易に想到し得ることである。」とした審決に対し、原告は、本願発明のⅠ形結晶について、製造方法の観点のみから容易に想到し得ると判断したものであり、誤りである旨主張した。
しかし、裁判所は、
「医薬化合物である引用発明において,結晶多形の存在を検討することは,通常,行う程度のことであっただけでなく,引用例に示唆されている再結晶化の際の溶媒の種類等も考慮すると,本願発明のⅠ形結晶は,結晶多形の存在を検討するに当たって,当業者がごく普通に試みるような方法,条件によって,得ることができるもの」
と判断し、原告の主張を認めなかった。

2. 取消事由2(顕著な物性の看過)について

原告は、本願発明のⅠ形結晶は、溶解度比等の点で引用発明に比べ顕著な効果を奏する旨主張した。
しかし、裁判所は、
「結晶多形において,相互の溶解度が異なることは,予想外のものではなく,結晶多形がそのような性質を有するからこそ,医薬化合物の製剤設計においては,結晶多形の存在を考慮すべきであるとされているのであり,結晶多形において,溶解度が異なることが,直ちに,予想外の顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。~また~文献の記載によれば~Ⅰ形結晶とⅡ形結晶の1.4という溶解度比が,結晶多形において,予想外の顕著な効果と認められるものではない。」
と判断し、原告の主張を認めなかった。

請求棄却。

【コメント】
新規結晶が公知結晶に対して進歩性を有するか否かが争われた事案。
新規結晶の発明を出願するに当たり、「結晶多形の存在を検討するに当たって,当業者がごく普通に試みるような方法,条件によって,得ることができるもの」である場合には(ほとんどの場合そうかもしれないが)、予期できない効果等を主張できるように明細書にその根拠となるデータを十分記載しておかなければならないだろう。I型結晶は顕著な効果を奏するとの原告主張の根拠は、II型結晶に対してI型結晶の溶解度が1.4倍であったというもの。この点が顕著な効果といえるものかどうかという点は議論があるかもしれないが、裁判所は顕著な効果を奏するとはいえないと判断した。

2-(R)-(1-(R)-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)エトキシ)-3-(S)-(4-フルオロ)フェニル-4-(3-(5-オキソ-1H,4H-1,2,4-トリアゾロ)メチルモルホリンは、ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗作用を有する制吐剤としてMerck社が開発し、2003年にFDAで承認された医薬品である(一般名:Aprepitant、商品名:EMEND)。日本国内では小野薬品がMerckから導入し、申請中(イメンドカプセル(ONO-7436/MK-0869))。

ライフサイクルパテントとして重要な結晶多形発明を出願するにあたり、下記のとおり欧米とは異なる結論となった本事件をもとに、日米欧での進歩性判断の違いを考察することは非常に重要だろう。米国ではKSR最高裁判決後、結晶多形検討自体の"obvious to try"の適用が結晶多形発明の進歩性判断にどのような影響を与えるかは興味深いところである。

参考:
  • 米国:
    特許として成立(US6096742)しており、その特許はAprepitantをカバーする特許としてOrange bookに収載されている(存続期間がJuly 01, 2018までのライフサイクルパテント)。

    1. A polymorphic form of the compound 2-(R)-(1-(R)-(3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl)ethoxy)-3-(S)-(4-fluoro)pheny l-4-(3-(5-oxo-1H,4H-1,2,4-triazolo)methylmorpholine characterized by an X-ray powder diffraction pattern with key reflections at approximately: 12.0, 15.3, 16.6, 17.0, 17.6, 19.4, 20.0, 21.9, 23.6, 23.8, and 24.8.degree. (2 theta) which is substantially free of a polymorphic form of the compound 2-(R)-(1-(R)-(3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl)ethoxy)-3-(S)-(4-fluoro)-phen yl-4-(3-(5-oxo-1H,4H-1,2,4-triazolo)methylmorpholine characterized by an X-ray powder diffraction pattern with key reflections at approximately: 12.6, 16.7, 17.1, 17.2, 18.0, 20.1, 20.6, 21.1, 22.8, 23.9, and 24.8.degree. (2 theta).


  • 欧州:
    特許(EP0994867B)として成立。2006年12月18日付の応答書のなかで、日本での審査応答と同様に溶解度の差を主張することによって、ISRでA文献として挙げられたWO1995/16679からの進歩性拒絶理由を解消することに成功している。

    1. A polymorphic form of the compound 2-(R)-(1 -(R)-(3,5-bis(trifluoromethyl)-phenyl)ethoxy)-3-(S)-(4-fluoro)phenyl-4-(3-(5-oxo-1H,4H-1,2,4-triazolo)methylmorpholine designated Form I characterized by an X-ray powder diffraction pattern with key reflections at approximately: 12.0, 15.3, 16.6, 17.0, 17.6, 19.4, 20.0,21.9,23.6,23.8, and 24.8° (2 theta).


  • Wikipedia: Aprepitant


  • 2007.10.10 「USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness」


Dec 3, 2008

2008.10.30 「第1回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

2008年10月30日、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第1回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループが開催されました。

審議内容は下記3点
(1) 延長制度の対象分野となる条件について
(2) カルタヘナ法に基づく審査について
(3) 延長制度の対象分野の拡大に関するアンケートの実施について

議事録はこちら

第2回ワーキング・グループを12月24日に開催する予定。

Dec 1, 2008

「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年11月の検索ワード/フレーズ/コメント

「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.

2008年11月中に「医薬系"特許的"判例」ブログにアクセスされた検索ワード/フレーズのランキング及びコメントです。

検索ワード
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検索フレーズ
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  • 10位: アシクロビル事件


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