Dec 23, 2009

2009.12.03 「イミュネックス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10092

エンブレル(エタネルセプト)の特許権存続期間延長: 知財高裁平成21年(行ケ)10092

【背景】

関節リウマチを用途とするエンブレル(Enbrel、一般名: エタネルセプト(Etanercept)、完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤: ヒトIgG1のFc領域と分子量75kDaのヒト腫瘍壊死因子II型受容体(TNFR-II)の細胞外ドメインのサブユニット二量体からなる糖蛋白質)の医薬品承認処分に伴ってなされた「腫瘍壊死因子-αおよび-βレセプター」に関する特許権(特許第2960039号)の存続期間延長登録出願(2005-700041号)の拒絶審決取消訴訟。

請求項1:
以下の(a),(b)または(c)から選択される哺乳類組換えTNF-Rタンパク質であって,哺乳動物由来の他のタンパク質を実質的に含まない前記哺乳類組換えTNF-Rタンパク質:
(a)以下のアミノ酸配列:
【化1】(省略)
を有するタンパク質;
(b)以下のアミノ酸配列:
【化2】(省略)
を有するタンパク質;および
(c)(a)または(b)のアミノ酸配列から1つまたはそれ以上のアミノ酸残基が削除,追加もしくは置換によって変化したアミノ酸配列を有し,かつ,TNF結合活性を有するタンパク質。


特許庁は、「エタネルセプト」のヒトIgG1のFc領域に対応するポリペプチドが請求項1に明示的に記載されていない点(相違点2)を挙げ、「TNF-Rタンパク質」という用語の意義を明細書の記載から検討した結果、本件発明(請求項1)を限定的に解釈し、「エタネルセプト」が本件発明に含まれないと判断、本件発明の実施に本件処分が必要であったとは認められない(特許法67条の3第1項1号)、と審決を下した。

【要旨】

裁判所は、

「本件特許請求の範囲「請求項1」~では,「TNF-Rタンパク質」について,審決が上記で判断しているような~限定する文言はない。~また~審決が引用する~記載は,その記載内容からすると,例示であることは明らかである。」

「さらに,本件特許明細書~には,「TNF-Rの1価形態および多価形態は両方とも本発明の組成物および方法において有用である。」,「別の多価形態は,例えば,TNF-Rを臨床的に許容しうる担体分子…の通常のカップリング技術を使って化学的にカップリングすることにより構築できる。」~「免疫グロブリン分子重鎖および軽鎖のいずれか一方または両方の可変部ドメインの代わりにTNF-R配列を有しかつ未修飾不変部ドメインを有する組換えキメラ抗体分子を作ることができる。」~と記載されているから,本件発明には,臨床的に許容しうる担体分子を含むTNF-Rタンパク質の二量体も含まれ,その担体分子として免疫グロブリン分子の未修飾不変部ドメインも含まれる。

~甲9によれば~ヒトIgG のFc領域は,免疫グロブリン分子1の未修飾不変部ドメインに含まれるものであって,二量体を形成する役割を担い,臨床的に許容しうる担体分子であることが広く知られていたと認められることからすると,当業者は,「エタネルセプト」について,前述した相違点2において本件発明と相違するものと理解するとは解されない。

~そうすると,審決の上記判断は是認することができず,「エタネルセプト」は,相違点2において本件発明と相違するものということはできない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

本件では、承認処分対象物が請求の範囲に含まれるかどうかの認定が問題となった。特67条の3第1項1号の条件として、承認処分の対象物が、明細書中に明示的に記載されているかどうかは問題ではなく、特許発明(請求の範囲)に含まれているかどうかが重要である。

本件は分割出願であって、その親出願である特許2721745号(こちらはTNF-Rタンパク質の生産方法)の特許権存続期間延長登録出願についても、本件と同様の問題で拒絶審決となったが、本件と同様の趣旨で審決取り消し判決となった(2009.12.03 「イミュネックス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10093)。エンブレルの承認に伴って上記2特許以外に特2728968号(20年満了日は2010年9月12日)が特許権存続期間延長登録出願された(2005-700033)ようだが、現在拒絶査定不服審判(不服2009-016295)に係属中のようである。

本件特許権の満了日(2010年9月5日)は存続期間延長により2015年9月5日までとなる。エンブレルの承認日が2005年1月19日だっただけに、regulatory exclusivity(再審査期間)よりも短命だった本特許権が存続期間を延長できたことによりエンブレル後発品参入に対して一定の価値を持つことになる。一方、後発品メーカーにとっては、バイオシミラー(generic biologics)が認められるかどうかといった問題もあるわけだが。


参考:



Dec 13, 2009

2009.10.28 「ノボゲン v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10377

副作用の懸念と阻害要因: 知財高裁平成20年(行ケ)10377

【背景】

「フィト-エストロゲン、類似体の健康補助剤製造のための使用方法」に関する出願の拒絶審決取消訴訟。
審決は、「本願発明は文献A8〔甲4〕に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断した。

請求項1:
ゲニステイン,ダイドゼイン,ビオカニンA,ホルモノネチン及びこれらのグリコシドからなる群から選択される2種又はそれ以上の天然に存在するフィト-エストロゲンの健康補助量からなる,月経前症候,閉経期症候,及び/又は,良性乳疾患,の予防もしくは治療のために使用される健康補助剤。

【要旨】

裁判所は、
「当業者が,文献A8〔甲4〕に記載された製造方法により得られるイソフラボン化合物を,更年期障害,すなわち本願発明にいう閉経期症候の予防,治療に適用することに格別の創意を要するものとはいえない。」
と判断した。

原告は、

「体内に存在するエストロゲンとは構造が異なり,体外に存在する化合物を予防ないし治療薬として用いる場合は,当業者であれば副作用の可能性を懸念することが当然であるところ,本願発明の優先日当時において,副作用の問題が顕在化していた「ゲニステイン,ダイドゼイン」を用いることは,当業者にとって容易に想到し得るものでない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「体内に存在する成分の低下や欠乏に由来する症状を改善するために,その成分を補給しようとする場合,体外に存在する同様の成分を補充しようとするのは,通常の考え方であるから,体外に存在する化合物の補充であるとの一事をもって,容易想到性を欠くとすることはできない。」

として、原告の主張を採用しなかった。

また、原告は、

「イソフラボンは人体に潜在的に有害な影響を有する物質であることが当業者に認識されていたのであるから,当業者がイソフラボンをヒトに対して健康補助剤として用いることには阻害要因がある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「上記の各文献の記載によれば,本願発明で用いるゲニステイン,ダイドゼイン,及び,ホルモノネチンは,本件出願当時,既にヒトに対する有用な生理作用を有するものとして当業者に知られていたということができる。」

と認定し、

「本願発明で用いるフィトエストロゲンは,動物において,不妊や乳腺炎や肝機能障害との関係が知られ,人間への同様の影響が指摘されていたものである一方,用量を適切に考慮すれば癌にも奏功するなど,人間の種々の疾患に対して有用な生理作用を奏するものとして使用し得るという知見があったものと認められる。また,本願発明で用いるフィトエストロゲンは,文献A8〔甲4〕の記載からみて,大豆に含まれている成分であり,本件出願前からヒトが日常的に摂取してきたものである。これらの事情を総合すれば,本件出願当時,本願発明で用いるフィトエストロゲンは,大量に摂取した場合はさておき,大豆から日常的に摂取する程度の量を摂取する限りにおいては,当業者は,人体に対して悪影響を与えるものと理解していないと解するのが自然である。」

と判断して、原告が主張するような阻害要因が存在したとすることはできないと判断した。

また、原告は、

「①当業者は,人間以外の動物においてフィトエストロゲンの摂取による副作用が観察された場合,人間がフィトエストロゲンを摂取した場合にも同様の副作用が生じるであろうことを合理的に予測する,②前臨床試験は,人間における毒性を予測するために一定範囲の哺乳類に対し薬物を投与する試験(毒性試験又は安全性試験)であることが知られている,こと等の事実から,審決が容易想到であるとした判断には誤りがある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「動物実験の結果からヒトへの投与の有効性を検討することは,合理的な手順であるといえるとしても,本願発明で用いるフィトエストロゲンは,前記認定のとおり既にヒトに対する医薬としての有用性が知られているものであるから,原告の上記主張は採用の限りでない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

出願人は副作用の懸念という阻害要因を中心に反論を試みたが認められなかった。ある用量のもとで人体に対して悪影響があるかもしれなかったとはいえ、すでに医薬としての有用性が知られていた以上、動機づけを覆すほどの阻害要因があったとは言いにくいだろう。

Dec 6, 2009

2009.11.19 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10097

特許発明を実施することができなかったのは厚労省側の事情: 知財高裁平成21年(行ケ)10097

【背景】

原告(ノバルティス)が、「シクロスポリン含有医薬組成物」に関する特許第1996397号(出願日: 1989年9月14日; 登録日: 2005年12月8日)の存続期間延長登録出願(2005-700042)についての拒絶審決(不服2008-20590号)に対して取消を求めた事案。

  • 処分の対象となった物: シクロスポリン
  • 処分の対象となった物について特定された用途: 膵移植における拒絶反応抑制
  • 販売商品名: ネオーラル25㎎カプセル


経緯:
  • 2000年3月21日に心移植、肺移植、膵移植及び小腸移植における拒絶反応の抑制を対象として一部変更承認の申請が行われた(「1回目の承認申請」)。
  • 2001年6月20日に心移植についてのみ承認が与えられた。
  • 2002年11月27日肺移植についての効能効果を追加する一部変更承認を申請し、2003年1月31日承認を受けた。
  • 2004年12月1日に膵移植についての承認申請(「本件承認申請」)が行われ、2005年1月26日に承認(本件処分)を受けた。


原告は、1回目の承認申請をした2000年3月12日から承認処分を受けた2005年1月26日の前日(2005年1月25日)までの「4年10月4日」の存続期間延長を求めた。
しかし、特許庁は、
  • 本件承認申請は2005年1月26日になされた本件承認処分は再度の申請である2004年12月1日になされたものに基づくこと、及び
  • 2004年12月1日より前の期間は本件承認処分を受けるために必要な審査資料を用意するに要した期間とは認められないこと
を理由として、本願において処分を受けることが必要であるために特許発明を実施することができなかった期間は2004年12月1日から承認がなされた2005年1月25日までの「1月24日」であり、延長を求める期間はその特許発明を実施することができなかった期間を超えているから本願は特67条の3第1項3号の規定に該当するとし、拒絶審決を下した。

【要旨】

裁判所は、

「膵臓移植に関し,平成12年3月21日に本件承認処分の申請を行い,その後取下書を提出することなく,平成17年1月26日に承認処分を受けており,その間~膵臓移植に関し断念すべき客観的事情は認められないのであるから,厚生労働省担当官が膵移植につき承認を当面行わないと告知した~日から同省担当官が電話連絡した~日までの間は,承認権者たる厚生労働省が保険診療との調整を理由に承認を保留していたにすぎないと認めるのが相当であり,その間は特許権者たる原告が特許発明を実施することができないことも明らかであるから,この期間を期間計算から除外するのは相当でないというべきである。~被告は,前記~3年6月余の期間は,保健医療と調整のための待機期間であって安全性確保のために必要とされる期間ではない等とも主張するようであるが,保健医療との調整を要するという事情は承認権者たる厚生労働省側の事情であって,特許権者たる原告が本件承認処分を受けていないため本件特許発明を実施できないことに変わりはないから,上記3年6月余を前記期間計算から除外することも相当でない。~そうすると,本件においては~「4年10月4日」の期間につき延長登録を認めるのが相当であり~「1月24日」とした審決は事実認定を誤った違法なものというほかない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

「1回目の承認申請」において、医薬部会としても膵臓への有効性を評価するなど科学的な審査はされている。さらに、ネオーラルについて審査を一時中断したのは、追加効能の薬価適応について保険局との調整がつかなかったという厚生労働省側の事情である。審決が取り消されたのは妥当な判断だろう。

本事件や現在最高裁に上告されている武田事件にしても、特67条の3第1項1号又は同3号について特許権者と特許庁とで解釈が異なっていたという背景がある。存続期間延長登録出願の審査において、審査官の恣意を排除して客観的且つ公正な審査を行ってもらうためにも、また延長された特許権の有効性についての法的安定性を確保するためにも、特67条の3第1項1号及び同3号をもっと具体的に限定列挙するといった法改正が必要ではないか。付焼刃の審査基準の改定ではもう対応しきれない。

本特許はシクロスポリンのマイクロエマルジョン製剤に関するものであり、存続期間は2014年7月まで延長されることとなる。しかし、いくつかのジェネリックは既に参入している。


本判決と同趣旨の判決:



参考:



Dec 2, 2009

2009.10.08 「大阪大学 v. バイオメディクス」 大阪地裁(本訴)平成19年(ワ)8449/(反訴)平成19年(ワ)14328

抗体の発明者適格: 大阪地裁(本訴)平成19年(ワ)8449/(反訴)平成19年(ワ)14328

【背景】

原告(大阪大学)と被告(バイオメディクス)との共同研究(後に被告が共同研究通知を通知)の成果から出願された「抗CD20モノクローナル抗体」に関する被告出願は、別途原告出願に対して先願の地位を有しないことの確認を原告が請求するとともに、該被告出願について原告は特許を受ける権利の共有持分を有することの確認等を請求した。

【要旨】

先願たる地位の不存在確認請求に関しては確認の利益がなく不適法とされたが、特許を受ける権利の共有持分に係る確認請求は共有持分3分の2の限度において理由があるとされた。以下、本件発明の発明者及び寄与の割合(争点(3))について裁判所の判断の一部を抜粋する。

「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(同法70条1項)。したがって,発明者(共同発明者)とは,特許請求の範囲の記載から認められる技術的思想について,その創作行為に現実に加担した者ということになる。また,現実に加担することが必要であるから,具体的着想を示さずに,当該創作行為について,単なるアイデアや研究テーマを与えたり,補助,助言,資金の提供,命令を下すなどの行為をしたのみでは,発明者ということはできない。

裁判所は、上記のとおり発明者(共同発明者)の適格性の一般原則について言及し、本件について下記のように検討した。

1. 技術的思想の創作行為部分
  • マウス抗体
    本件発明に係る一連の創作過程は本件マウス抗体の取得により始まるものであり,本件マウス抗体は,本件発明に係る技術的思想の実現に不可欠なものといえる。したがって,本件マウス抗体の作製は,本件発明の創作行為の中核部分と認められる。

  • キメラ抗体
    キメラ化の作業そのものは,被告出願3当時,既にルーティン作業の1つであったと考えられる。したがって,本件マウス抗体をキメラ化した抗体の作製だけでは,本件発明の創作行為とは認められない。

  • ヒト化抗体
    ヒト化抗体は,キメラ抗体と同様,そのオリジナルはマウス抗体である。しかしながら,ヒト化の作業は,本件でもわざわざMにデザインを依頼しているように,高度な技術が必要なものであったといえる。したがって,実際にデザイン・作製がされ,実施例となった1K1791のヒト化抗体の作製は,本件発明の創作行為の中核部分と認められる。


  • 以上のとおりであるから,本件において発明者性を検討すべき創作行為は,本件マウス抗体(キメラ化候補抗体)の作製と,マウス抗体1K1791のヒト化抗体の作製であるということになる。


2. 創作行為への現実的な加担
  • マウス抗体について
    本件のような抗体発明においては,上記のような抗体の取得に向けた作業の方向性の示唆,有望な抗体を選抜するための測定方法の工夫や,選抜基準の設定などが重要となってくるのであり,これらの行為の方が,創作行為への現実的な加担といえる行為としては,直接的な貢献であるとはいえ幸運によるところが大きい抗体の取得そのもの(これがGにより行われたことは争いがない。)よりも,貢献度が高いというべきである。

  • ヒト化抗体について
    ヒト化抗体は,マウス抗体の遺伝子を組み換えたものであるから,当該マウス抗体の取得及び選抜と,前記イ(イ)のとおり高度な技術が要求されるデザインは,創作行為といえる。他方,ヒト化抗体の作製作業(遺伝子組換作業)そのものは,デザインを実現する作業であって,創作行為とは認めがたい。


3. 本件共同研究の過程において各人が果たした役割

  • マウス抗体について

    (ア) 抗体作製
    Bの指摘に基づき,抗原としてCD20/CHO細胞を用いられるようになって以降,本件マウス抗体を含む,CD20結合性を有するマウス抗体が多く得られるようになったものである。したがって,Bの示唆した作業の方向性は,本件発明に寄与したといえる。~確かに,多種多様な抗原での免疫を試みることは,免疫作業にあたり一般的に行われるであろう範囲の工夫といえるし,CD20/CHO細胞の使用自体も,とりたてて目新しいものではない。しかしながら,本件では,上記のとおりCD20/CHO細胞の使用が貢献したことは明白であり,これを現実的な加担として評価できるのであって,工夫の程度は,貢献の割合において考慮すべき事情というべきである。

    Gは,具体的な免疫条件の下で作業を行い,本件マウス抗体を取得したのであり,これは直接的な貢献といえる。~しかしながら,免疫条件の選択・組み合わせについて試行錯誤を試みることは,免疫作業にあたり一般的に行われるであろう範囲の工夫といえるから,Gの寄与のみを大きく評価することはできない。

    CによるCD20/CHO細胞の作製は,Bの発案を定型的な作業により実現したに過ぎないといえ,創作性のある行為とは認められない。

    (イ) スクリーニング
    (Gによる)Cell ELISAによるスクリーニングは,公知の方法によるものであって,一般的には,創作行為であるとはいいがたい。

    (ウ) 本件マウス抗体の選抜
    本件発明の中核部分を構成するマウス抗体は本件マウス抗体のみであるから,その選抜は創作行為であるといえる。~蛍光遠心法による結合親和性の測定は,本件共同研究にあたってBが新たに開発・提案したものであるし,RI標識法による解離定数測定が不奏効であった本件においては,これに替わる解離定数測定方法として,重要な工夫であったといえる。


  • ヒト化抗体について

    (ア) ヒト化する抗体の選抜
    ヒト化する抗体の選抜についても,キメラ化候補抗体の選抜と同様,Bの開発した蛍光遠心法による結合親和性測定が寄与したということができる。

    (イ) デザイン
    ヒト化のデザインについては,普遍的なデザインが存在するわけではなく,適切なデザインを行うために試行錯誤が必要な,創作性を要する作業であったと考えられる。

    (ウ) 測定
    ヒト化抗体については,マウス抗体段階では測定できないCDC活性やADCC活性を測定することが重要であるが,作製された抗体を既知の方法で測定することは,誰が行っても同じ結果が得られる定型的な作業に過ぎないといえる。

    本件発明に係るB,G,M の寄与を,本件発明全体に占める貢献度の割合として算定すれば,本件発明に係る特許を受ける権利の共有持分は,原告が3分の2,被告が3分の1と認める。


【コメント】

抗CD20抗体医薬品であるリツキサンの問題点を克服するヒト化抗体の開発を試みていた共同研究であり、共同研究中止後の発明の取扱いがこじれた事案。
寄与の割合の算出はさておき、抗体発明の発明者(共同発明者)適格について、具体的に検討しているので参考になる。本件は抗体の発明ではあるものの、本件で検討された内容は有効成分が化合物である発明の発明者適格についてもかなり参考にできるのではないだろうか。

Wikipedia: Rituximab

Nov 29, 2009

2009.10.22 「アルコン v. 参天製薬」 知財高裁平成21年(行ケ)10216

「タフロタン」の不使用取消訴訟: 知財高裁平成21年(行ケ)10216

【背景】

不使用取消審判請求した原告(アルコン)が、請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。

本件商標
商標登録番号: 第4821347号
商標の構成: 「タフロタン」の文字及び「Taflotan」の文字を二段に横書きして成る。
指定商品: 第5類「薬剤」
設定登録日: 平成16年11月25日
審判請求登録日:平成20年6月17日

【要旨】

裁判所は下記のとおり判断した。

1. 取消事由1(法50条1項の使用の事実を認定した誤り)について

「被告は,自らの商品である本件治療剤に本件ラベルをもって「Taflotan」及び「TAFLOTAN」の商標を付し,「Taflotan」及び「タフロタン」との商標が付された本件包装箱に包装した上,これらを輸出しているところ,これらの商標から「タフロタン」の称呼が生ずることは明らかであり,これらの商標はいずれも「タフロタン」の文字と「Taflotan」の文字を二段に横書きして成る本件商標と社会通念上同一と認められる。そうすると,被告は,~本件審判請求の登録(平成20年6月17日)前3年以内に日本国内において本件商標を使用したものと認められる。」

2. 取消事由2(法50条の「使用」に「輸出」を含むとした判断の誤り)について

「不使用取消審判の場面における「使用」の概念を法2条3項各号において定義されているものと別異に理解すべき理由はない。
この点について,原告は,法2条3項2号に規定する標章の使用に当たる行為に「輸出」が加えられたのが法改正(判決注:平成18年法律第55号による改正をいう。)によるものであることから,法改正前には使用に当たらなかった輸出については,法改正後も使用に当たらないと解すべきであるとの趣旨の主張をするが,少なくとも法改正後の現在においては上記のとおりに解されるべきものであるから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件輸出行為が被告とその外国の子会社であるサンテン・オイ社との間で行われたものであることから,輸出に当たらないというべきであり,そうでなければ,脱法行為を助長するとの趣旨の主張もするが,各別の法人格である親子会社間の取引について,他の取引と別異に取り扱う理由はなく,その理は当該取引が親子会社間の輸出であっても異なるものではないところ,本件においては,本件輸出行為を認定し得るのであるから,この点の原告の主張も採用することはできない。」

請求棄却。

【コメント】

親子会社間の取引についても、「使用」は「使用」ということである。
「Tafrotan」は緑内障治療薬として欧州で販売(一般名: タフルプロスト(Tafluprost))されているが、日本での商品名は「タプロス」(Tapros)である。
ちなみに、「タプロス」(Tapros)の名称の由来は、タフルプロスト+プロスタグランジン/プロスペクト(Tafluprost+Prostaglandin/Prospect,“展望、期待”)である。

同趣旨の関連判決:
  • 2009.10.22 「アルコン v. 参天製薬」 知財高裁平成21年(行ケ)10217

    商標登録番号: 第4821348号
    商標の構成: 「Taflotan」を表示して成る。
    指定商品: 第5類「薬剤」


Nov 24, 2009

2009.09.02 「ノバルティス バクシンズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10272

バイオテクノロジー関連分野の実施可能要件: 知財高裁平成20年(行ケ)10272

【背景】

「抗HCV抗体」に関する特許出願(特願平10-93767)の拒絶審決取消訴訟。審決理由は実施可能要件違反だった。請求項1(以下本願発明という)は下記のとおり。

請求項1:

少なくとも8個のアミノ酸の連続する配列からなるポリペプチド中の部位に免疫学的に結合する,抗C型肝炎ウイルス(HCV)抗体であって,
ここで,該部位は,HCVに対する抗体によって結合され得,そして該少なくとも8個のアミノ酸の連続する配列は,以下のアミノ酸配列:
【化1】(判決注:1位のMetから457位のAlaまでの457アミノ酸からなる配列。具体的配列はここでは省略);もしくは
【化2】(判決注:2880位のProから2955位のLysまでの76アミノ酸からなる配列。具体的配列はここでは省略)
中に1または数個の欠失,挿入,または置換を有するアミノ酸配列から得られる,
抗体。

【要旨】

取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について

原告は、

「バイオテクノロジー関連の分野では,実施可能要件は,すべての実施形態を網羅的に得ることを要求していないのが現状であり,それを要求することは,出願人に酷な結果をもたらし,ひいては発明を奨励するという特許法の趣旨に反し,著しく不合理である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「確かに,バイオテクノロジー関連の分野では,発明の詳細な説明において,「欠失,挿入または置換」されたすべての実施態様が具体的に記載されていなくても,特許請求の範囲において,特定のアミノ酸配列を示し,さらに同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する形式での記載が許容される場合がある。新規かつ有用な活性のある遺伝子に関連した技術分野において,当該分野のすぐれた発明等を奨励する観点,及び,仮にそのような記載が許容されなかった場合に第三者の模倣を阻止できず,独占権としての実効性を確保できない不都合を回避する観点から,特許請求の範囲に,特定のアミノ酸配列等を示した上で,同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する記載が許容される場合があってしかるべきであるといえよう。しかし,そのような形式で特許請求の範囲の記載が許される場合であっても,そのことが,当然に発明の詳細な説明の記載については,一部の実施のみの開示によって,実施可能要件を充足するものと解すべきことを意味するものではない。すなわち,特許請求の範囲に,新規かつ有用な活性のあるポリペプチドを構成するアミノ酸の配列が包括的に記載(配列の一部の改変を許容する形式で記載)されている場合において,元のポリペプチドと同様の活性を有する改変されたポリペプチドを容易に得ることができるといえる事情が認められるときは,いわゆる実施可能要件を充足するものと解して差し支えないというべきであるが,これに対し,上記のような形式で記載された特許請求の範囲に属する技術の全体を実施することに,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や創意工夫を強いる事情のある場合には,いわゆる実施可能要件を充足しないというべきである。
本件では,特許請求の範囲の記載は,本願発明に係る抗体を得るためのポリペプチドのアミノ酸配列数が,わずかに「少なくとも8個」であり,かつ,同配列中の「1個または数個のアミノ酸が欠失,挿入または置換」を含めたものとされているが,発明の詳細な説明には,そのようなわずかな配列数で特定されたポリペプチドを基礎として,これと同様の活性を有するポリペプチドを得るための改変を含む態様が,当業者にとって,容易に実施できる程度に開示されているとはいえない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

バイオテクノロジー関連分野の実施可能要件が争われた。
特定の457もしくは76アミノ酸配列から「少なくとも8個」の配列、さらにその「少なくとも8個」の配列は「1個または数個のアミノ酸が欠失,挿入または置換」していてもよいという配列であれば、いかなる配列を用いようとも活性のある抗HCV抗体を作ることができる・・・と当業者にとって容易に理解できるように明細書に開示されてはいなかった。出願当時の技術常識も問題となったが、原告の主張は認められなかった。


同趣旨の関連判決:



Nov 16, 2009

アンプラーグに初の後発品参入

2009年11月13日、厚労省は後発品の薬価基準収載を告示。抗血小板薬アンプラーグ(ANPLAG; 有効成分: サルポグレラート塩酸塩(Sarpogrelate Hydrochloride); 効能・効果: 慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の改善; 承認年月日(錠): 1993年7月2日)にとっては初の後発品収載となった(22社44品目)。

このサルポグレラート塩酸塩に関して、田辺三菱は日本特許第3864991号を有している。
この特許は「サルポグレラート塩酸塩の結晶」に関するものであり、特願2006-046057(原出願)の出願日(2006年2月22日)と同日に分割された出願(特願2006-46063)として、早期審査請求・出願公開請求を経て同年10月13日に登録(下記請求項)。20年の存続期間満了日は2026年2月22日。後発品メーカーに対して上記権利を侵害しないよう田辺三菱が広告(2009.06.18 日刊薬業WEB)を出していたが、結果的には22社の後発品メーカーが薬価基準収載に踏み切ったことになる。原出願は審査請求期限ちかくの2009年2月20日に審査請求され、特許庁に係属中。

【請求項1】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有する、(±)2-(ジメチルアミノ)-1-{〔O-(m-メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル
水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。

【請求項2】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、(±)2-(ジメチルアミノ)-1-{〔O-(m-メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。


ところで、同明細書の背景技術の欄には、下記のように記載されている。

「(サルポグレラート塩酸塩は)特許文献1の実施例2の記載に基づき製造することができる公知化合物である。また特許文献1には上記化合物が血小板凝集阻害作用を有することが記載され、さらに特許文献2には上記化合物がセロトニン拮抗作用を有することが記載されている。しかし、これらの文献には、上記化合物に複数の結晶多形が存在するとの記載も示唆もない。」
【特許文献1】特開昭58-32847号公報
【特許文献2】特開平2-304022号公報


上記特許文献1及び2はいずれもアンプラーグをカバーするクレームを有して特許となったものであり、今回、後発品メーカーは特許文献2にあたる特許の存続期間満了(満了日2009年5月18日)を機に参入してきたと考えられる。


参考:



Nov 9, 2009

レボフロキサシン訴訟 全面終結

第一三共は、レボフロキサシン特許の存続期間延長の一部無効審決取消訴訟で敗訴(上告せず)したことを受け、同特許に基づきジェネリックメーカーを被告として提起していた侵害訴訟を取り下げた。これにより、同特許に関する第一三共とジェネリックメーカーとの一切の係争が終結した。

参考:




Nov 8, 2009

2009.07.07 「オシリス セラピューティクス v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10193

骨形成増強と骨形成の違い: 知財高裁平成20年(行ケ)10193

【背景】
「間葉幹細胞を用いる骨の再生および増強」に関する発明(特表2000-508911)を進歩性無しとした拒絶審決の審決取消訴訟。

請求項1:
骨形成増強のための組成物であって,骨形成増強を必要とする個体に分離ヒト間葉幹細胞と共に前記個体に投与され,前記分離ヒト間葉幹細胞からの骨形成を生じるのに十分な範囲で前記分離ヒト間葉幹細胞の骨形成系列への分化を支持することを特徴とする組成物。

引用発明の相違点は、
本願発明は「骨形成増強のための組成物」であって、骨形成を必要とする個体」に投与されるものであるのに対し、引用例には、ヌードマウスの皮下に移植したものが骨形成することが記載されているにとどまり、実際に形成増強を必要とする個体に投与されてはいない点
だった。

【要旨】
裁判所は、
「「増強」の語に格別の意味があるとは解されないから、「骨形成増強」と引用発明における「骨形成」とが相違する旨の原告の主張は採用することができない。~本願明細書における「骨形成」と引用発明における「骨形成」とが同様の現象を意味していることは明らかであり、これらが異なるものであるとの原告の主張を採用することはできない。」
と判断した。

原告は、
「上記摘記事項の記載が本願発明の動機付けとならないことについて,間葉幹細胞の分化がどの分化経路を進むのかは,機械的影響及び又は内因性の生物活性因子(例えば,成長因子,サイトカイン,及び/又は宿主組織により定められる局所的な微小環境条件)に依存しており,制御することは困難である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「もともと骨が存在しない皮下等の部位に比して,骨が本来存在する部位においては,間葉幹細胞の分化を骨の分化経路へと導く微小環境条件がより整っているであろうことは,当業者であれば容易に着想し得ることであり,異所性移植で骨形成がみられた材料に対して,同所性移植によって同様の骨形成することを期待することは,当業者にとって極めて自然な発想であるというべきである。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
「骨形成」と「骨形成増強」とは違うし分化がどう進むかを予測するのは困難である、と原告は主張したが、認められなかった。当業者であれば容易に着想したであろう仮説を確認したにすぎないという結論のようである。

参考:


Nov 1, 2009

2009.10.28 「第一三共 v. ジェネリック13社」 知財高裁平成20年(行ケ)10487

レボフロキサシン(クラビット)の特許権存続期間延長登録に無効判決: 知財高裁平成20年(行ケ)10487

【背景】
第一製薬はクラビット(Cravit)(有効成分はレボフロキサシン(levofloxacin))の〈適応菌種〉レジオネラ属の効能追加承認に基づいて特許権(第2008845号)の存続期間延長登録(延長登録出願番号: 2006-700043; 延長された期間: 4年11月7日)をした。しかし、後発品メーカー13社が起した延長登録無効審判によって、2年6月5日(本件国内臨床試験開始日から本件承認了知日の前日までの期間)を超える期間の延長登録を無効とする審決(無効2007-800169)が下されたため、第一三共は審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
2009.10.28 「第一三共 v. ジェネリック13社」 知財高裁平成20年(行ケ)10486と同じ。

Oct 28, 2009

2009.10.28 「第一三共 v. ジェネリック13社」 知財高裁平成20年(行ケ)10486

レボフロキサシン(クラビット)の特許権存続期間延長登録に無効判決: 知財高裁平成20年(行ケ)10486

【背景】

第一製薬はクラビット(Cravit)(有効成分はレボフロキサシン(levofloxacin))の〈適応菌種〉レジオネラ属の効能追加承認に基づいて特許権(1659502)の存続期間延長登録(延長登録出願番号: 2006-700042; 延長された期間: 4年11月7日)をした。しかし、後発品メーカー13社が起した延長登録無効審判によって、2年6月5日(本件国内臨床試験開始日から本件承認了知日の前日までの期間)を超える期間の延長登録を無効とする審決(無効2007-800168)が下されたため、第一三共は審決取消訴訟を提起した。


過去記事参照:



【要旨】

2. 取消事由2(本件米国臨床試験の実施期間を延長期間に算入しなかった誤り)について

特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨について、裁判所は、下記のように言及した。

「特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明を実施することができなかったすべての期間(ただし,5年の限度以内である。)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった期間,すなわち,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象としている。」

そして、本件の「特許発明の実施をすることができない期間」該当性に関して、裁判所は、

「①米国の効能追加承認においては米国初回臨床試験の10症例の成績のみでレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認がされており,本件米国臨床試験は必要とされなかったのであるから,その後に申請される日本での同様のレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認においても,米国初回臨床試験のデータのみがあれば足り,本件米国臨床試験は必ずしも必要とはされなかったであろうと合理的に推認することができ,

②本剤と同じフルオロキノロン系薬の1つであるメシル酸パズフロキサシンのレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加に関する上記審査において,本件承認申請と極めて類似した状況の下で効能追加の承認がされたことからすると,メシル酸パズフロキサシンの6症例を上回る10症例に係る臨床試験データを有する米国初回臨床試験があれば,本件米国臨床試験データがなくとも,日本での本剤の効能追加の承認がされたであろうと合理的に推認することができる。」

と判断した。

原告は、

「メシル酸パズフロキサシン(甲10)は,経口剤よりも即効性の高いレジオネラ肺炎に対する国内唯一の注射剤であって,致命的な疾患であるレジオネラ肺炎について医療上の緊急性から極めて例外的に承認されたにすぎず,既にレジオネラ肺炎に対する効能が承認済みの他の経口抗菌剤が存在する状況の下では,経口剤である本剤の承認申請については,メシル酸パズフロキサシンと同様の審査がされて承認されたであろうとはいえない」

と主張した。

しかし裁判所は、

「致命的な疾患であるレジオネラ肺炎を適応とする点では本剤もメシル酸パズフロキサシンも同じであるから,原告の上記主張は前記の合理的推認を覆すに足りない。」

と判断した。


3. 取消事由3(日本の承認に向けた活動再開日から本件国内臨床薬理試験開始日までの期間を延長期間に算入しなかった誤り)について

裁判所は、

「前記2で説示したとおり,本件米国臨床試験に係る期間は,特許法67条2項にいう「政令で定めるものを受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間」には当たらないから,同期間に該当することを前提として,本件米国臨床試験を一時中断した後に再開した日を,同期間の再開日に該当するものということはできない。」

と判断した。

原告は、

「実際の治験計画届の提出前には,医薬当局と新たな臨床試験が必要かどうか,どのような枠組みで承認申請をするかなどの協議をしたり,臨床試験を実施してくれる医師を探して依頼したりする作業期間が必要であり,これらの準備作業をした平成14年12月19日以降の期間は,実質的にみても,「政令に定めるものを受けることが必要であるため,その特許発明の実施をすることができない期間」の起算日(承認を受けるのに必要な試験を開始した日)に該当するというべきである」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「準備がいつどのように開始され,継続されるのかは第三者にとって必ずしも明確ではない。したがって,仮に,不明確な準備作業の開始日をもって「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」(最高裁判所平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日第二小法廷判決参照)に該当するとするならば,延長登録期間の客観的な確定を困難にさせ,予見可能性を担保することができなくなる。したがって,臨床試験を実施することが治験計画届や治験を実施する医療機関との契約書等により客観的に明確になった日をもって,「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」であるとして,「政令に定めるものを受けることが必要であるため,その特許発明の実施をすることができない期間」の進行が開始するものとするのが相当である。
これを本件についてみると,本件国内臨床薬理試験の治験届が提出された日である平成15年8月29日をもって,「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」に当たるものと認めるのが相当であり,本件において,この認定を左右するに足りる証拠はない。したがって,これと結論を同じくする審決の判断は正当であり,この点に係る原告の上記主張は理由がない。」

と判断した。

請求棄却。


【コメント】

本判決が意味するところは、「特許発明の実施をすることができない期間」に該当するというためには、海外臨床試験・国内臨床試験のいずれを問わず、承認を受けることが必要なために費やされた期間だったことを合理的に説明できなければならないこと、及び、その期間の開始日(及び終了日)を客観的に示すことができなければならない、ということだろう。

ところで、第一三共は本件特許権存続期間延長登録に基づいて侵害訴訟を提起している。



その他の関連記事:



Oct 27, 2009

「医薬発明」審査基準の改訂

JPOは、「産業上利用することができる発明」及び「医薬発明」の審査基準を改訂した。改訂審査基準は2009年11月1日以降に審査される出願に適用する。改訂審査基準のポイントのひとつは、医薬発明において、特定の用法・用量で特定の疾病に適用するという医薬用途が公知の医薬と相違する場合には、新規性を認めるという点である。

参考:



過去記事:



Oct 24, 2009

アステラス 排尿障害改善剤「Flomax®」(タムスロシン塩酸塩)のANDA訴訟でImpax社と和解

アステラスは排尿障害改善剤「Flomax®」(タムスロシン塩酸塩)のANDA訴訟でImpax社と和解した。この和解により、本件訴訟は終結。和解契約に基づき、Impaxは小児試験に基づく独占販売期間満了(2010年4月)前の2010年3月2日以降に後発品を発売することができる。

参考:

過去記事:

Oct 16, 2009

バイエル社と大洋薬品、「グルコバイ錠」特許訴訟で和解

バイエル薬品が「グルコバイ錠」(一般名:アカルボース)の組成物特許の有効性をめぐり、特許権者であるドイツ・バイエル社と、大洋薬品との間で行われていた訴訟に関し、10月1日、両社は知的財産高等裁判所において和解合意に至った。これにより、「グルコバイ錠」の特許に関連した大洋薬品との一連の係争は解決した。なお、大洋薬品は、アカルボース含有製剤として、アカルボース錠50mg/100mg「タイヨー」を2007年7月に、アカルボースOD錠50mg/100mg「タイヨー」を2009年5月にそれぞれ販売を開始している。


参考:


関連記事:


Oct 3, 2009

AIPPI: Selection Inventions – The Inventive Step Requirement, Other Patentability Criteria and Scope of Protection

AIPPIの執行委員会が2009年10月10日からブエノスアイレスで開かれます。議題209(選択発明について)に注目。各国の意見が集約されており、参考になります。

AIPPI Forum & ExCo 2009 in Buenos Aires:


Sep 25, 2009

Thailand Accedes to PCT

タイのPCT加盟が2009年12月24日で発効。2009年12月24日以降にされたPCT出願では、自動的にタイ(country code: TH)が指定されることになる。PCT加盟国は142ヵ国になった。

WIPO website: 2009.09.24 Thailand Accedes to PCT

Sep 15, 2009

2009.06.29 「グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテアノニム v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10397

子宮頸がん予防ワクチンの進歩性: 知財高裁平成20年(行ケ)10397

【背景】

「新規組成物」に関する発明(特願2003-296403)の拒絶審決取消訴訟。出願人は審判請求をするとともに手続き補正書を提出したが、本願補正発明は特29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして、補正却下した上で、審判請求は成り立たないとの審決を下した。

補正後の請求項1:
HPV16 L1 VLP,HPV18 L1 VLP,水酸化アルミニウム,及び3D-MPLを含む,HPV感染及び/又は疾患の予防ワクチン
(以下「本願補正発明」という。)

(1) 引用発明の内容
同時に免疫されて,HAI力価を作り出す,HPV-6b,HPV-11,HPV-16,及びHPV-18に由来する4つのVLP調製物。
(2) 一致点
HPV16 VLP及びHPV18 VLPが同時に投与される,HPV感染及び/又は疾患の予防ワクチンである点。
(3) 相違点
ア相違点1
本願補正発明は,抗原としてHPV16 L1 VLP,HPV18 L1 VLPを含むのに対し,引用発明は,HPV16 VLP,HPV18 VLPを含む点。
イ相違点2
本願補正発明は,ワクチン中に,HPV16 L1 VLPとHPV18 L1 VLPとを含むのに対し,引用発明は,HPV16 VLPとHPV18 VLPを同時に投与するものであるが,それらがワクチン中に一緒に含まれているものであるかどうか記載されていない点。
ウ相違点3
本願補正発明は,水酸化アルミニウム及び3D-MPLを含むのに対し,引用発明はそれらを含まない点。

【要旨】

裁判所は、

「引用例1には,L1 VLPsでの免疫化は,高い力価の中和抗体の産生を刺激することや,L1 HPV-16VLPでの免疫は,L1+L2 HPV-16VLPでの免疫と同様に高いHAI力価を誘導することが記載されている。そうすると,引用発明であるHPV感染及び/又は疾患の予防ワクチンに使用するHPV16 VLP,HPV18 VLPとして,HPV16 L1 VLP,HPV18 L1 VLPをそれぞれ採用し,多価ワクチンとなるようにその両者を一緒に含むHPV感染及び/又は疾患の予防ワクチンとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。」

と判断した。

原告は

「100種以上という多数の遺伝子型が存在するHPVの抗原の中から,HPV16 VLPとHPV18 VLPの組合せのみを選択して,HPV感染/及び疾患の予防ワクチンの抗原として使用することが容易であったとはいえない」

と主張した。

しかし、裁判所は

「本願補正発明は,「HPV16 L1 VLP,HPV18L1 VLP・・を含む,HPV感染及び/又は疾患の予防ワクチン。」であり,抗原としてHPV16 VLPとHPV18 VLPのみを選択したとはいえない。また,抗原としてHPV16 VLPとHPV18 VLPを選択する点では本願補正発明と引用発明とで相違はなく(この点は当事者間に争いがない。),前記のとおりハイリスク生殖器HPV型として引用例1に記載されていることであるから,本願補正発明は,多数の遺伝子型から特に上記抗原を選択したというわけではない。」

として原告主張を採用せず。

また、原告は、

「本願補正発明に係るワクチン開発及びアジュバント選択が技術的に困難であるから,本願補正発明を容易に想到し得ない」

旨主張した。

しかし、裁判所は、

「L1 VLP自体は本願出願前から存する従来技術であるから,仮にその製造上の技術的困難性があったとしても,そのことは,本願補正発明の相違点3に係る構成を採用することの困難性を意味するものではない。また~3D-MPL及び水酸化アルミニウムは,アジュバントとして優れたものであることが引用例2に記載されており,しかも,適用できるワクチンとしてHPVも記載されているのであるから,HPVワクチンのアジュバントとして3D-MPL及び水酸化アルミニウムを選択することが当業者にとって困難であったということはできない。」

として原告主張を採用せず。

さらに原告は、

「審決が甲7の結果を参酌せず,本願補正発明の顕著な作用効果を看過した」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例2の記載によれば,アジュバントとして3D-MPL及び水酸化アルミニウムを用いることが記載され,しかもその併用により体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両者に対して改善効果を奏するとされるのであるから,たとえ甲7から本願補正発明においてアジュバントとして水酸化アルミニウム単独を用いる場合に比較して優れたものであることがいえるとしても,それをもって,本願補正発明が引用例1,2の記載から当業者が予測し得ない顕著な作用効果を奏し得たということはできない。」

として原告主張を採用せず。

請求棄却。

【コメント】

出願人は、アジュバントとして水酸化アルミニウム単独を用いる場合に比較して3D-MPL及び水酸化アルミニウムを併用することに顕著な効果がある旨主張したが、そもそも単独使用より併用使用が優れていることは当業者が予測できることであったため、その主張は認められなかった。本願は分割出願であり、原出願(特願2001-521339)は特許庁に係属中のようである。

参考:


Sep 9, 2009

2009.05.28 韓国大法院 投与方法に特徴のある医薬組成物の特許性を判断

韓国大法院は、ビスホスホネートを含有する骨多孔症治療用製薬組成物に関する発明について進歩性を否定した原審の判断を支持したようです(2009.5.28.言渡し2007フ2926判決)。

Kim&Chan website: 医薬組成物の進歩性判断時、投与方法は対象外


参考記事: 2007.10.18 「メルク v. ユーロドラッグ」 知財高裁平成18年(行ケ)10378

Sep 2, 2009

2009.09.01 延長登録出願に係る閲覧制限の運用開始

特許庁は、営業秘密の保護の重要性が高まっていることにかんがみ、特許法第67条の2第2項に規定する資料(延長の理由を記載した資料)につき、特許法第186条第1項に基づき閲覧等の請求があったときは、当該資料の中に営業秘密が記載されている旨の延長登録出願人からの申出を要件として、閲覧等の制限を行う運用を平成21年9月1日より開始しました。
今回の運用変更後も、延長登録出願人の判断で書類の黒塗りをし、提出しても構わないが、黒塗りによって審査に必要な情報が得られない場合には、拒絶理由の対象となることがあるとのこと。


閲覧等に係る手続の流れについて

<概要図>



2009.08.31 JPO websiteより:



Sep 1, 2009

2009.05.21 「リリー アイコス v. P1」 大阪地裁平成20年(ワ)6081

インターネットを利用した偽造「シアリス錠」の販売: 大阪地裁平成20年(ワ)6081

被告によるインターネットを利用した模造シアリスの販売が、原告の保有する本件商標権(「CIALIS」(4457616, 4964112), 「シアリス」(4850513)等)を侵害するとして被告に対し損害賠償を請求した事案。

2009.06.26 日本イーライリリー press release: シアリス商標権侵害訴訟に対する大阪地裁の判決について


関連:


Aug 20, 2009

2009.08.18 「フロモックス(Flomox): 塩野義、沢井製薬を提訴」

塩野義は、「フロモックス®(Flomox®)」(一般名:セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物(Cefcapene Pivoxil Hydrochloride Hydrate))の特許権に基づき、後発品販売を開始した沢井製薬に対して、大阪地裁に特許権侵害訴訟を提起し、同時に仮処分命令申立てを行いました。「フロモックス®」の物質特許は2008年10月23日に満了、結晶特許(特許番号:2960790号)の存続期間満了日は2011年3月25日となっているとのことです。

塩野義プレスリリース:



過去関連記事:




Aug 19, 2009

2009.04.27 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10353

明細書に具体的に記載されていない効果: 知財高裁平成20年(行ケ)10353


【背景】

「チアゾリジンジオンおよびスルホニルウレアを用いる糖尿病の治療」に関する出願(WO98/57649; 特表2001-523270)が進歩性無しを理由に拒絶とされた審決取消訴訟。

請求項1:

糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物であって,2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)またはその医薬上許容される塩;およびグリベンクラミド,グリピジド,グリクラジド,グリメピリド,トラザミド,トルブタミドまたはレパグリニドから選択されるインスリン分泌促進物質,および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。

(1) 引用発明の内容
ピオグリタゾンとグリベンクラミドとを組み合わせてなる,糖尿病時の血糖値の上昇を抑制する医薬。

(2) 一致点
糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物であって,インスリン感受性増強剤とインスリン分泌促進物質としてのグリベンクラミドを含む医薬組成物である点。

(3) 相違点
相違点1
本願発明は医薬上許容される担体を含むのに対し,引用発明は医薬上許容される担体を含むことが特定されていない点。

相違点2
本願発明では,インスリン感受性増強剤が2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)であるのに対し,引用発明では,インスリン感受性増強剤がピオグリタゾンであり,その含有量が特定されていない点。

【要旨】

1. 相違点2についての容易想到性の判断の誤りについて

原告は、

「①引用例は,本願発明が規定する,化合物(I)またはその医薬上許容される塩と,グリベンクラミドをはじめとする特定のインスリン分泌促進剤という特定かつ具体的な組合せを教示ないし示唆するものではない,②引用例の表2の動物実験データは良好なものなので,当業者がピオグリタゾンと異なるインスリン感受性増強剤を用いる動機付けは存在しない」

などと主張した。

しかし、裁判所は、

「本願発明に用いるロシグリタゾンは,前記引用例の記載において,好適なインスリン感受性増強剤として例示された10数個程度の化合物のうちの一つであり,これを上記ピオグリタゾンに代えて上記グリベンクラミドと組み合わせることに格別の困難は認められない。」

と判断した。

また、原告は、

「本願発明の化合物(I)の最適用量の決定は,数多くの臨床データを積み重ね,これらを十分に精査し,副作用の危険性をも考慮してなされたものであり,そこで用いられた手法は通常のものであったとしても,臨床試験に着手してから結論に至るまでには,多大な労力,費用,時間が費やされたのであるから,当業者が適宜定め得るとはいえない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願発明の化合物(I)すなわちロシグリタゾンの最適用量の決定に多大な労力,費用,時間が費やされたとしても,通常想定されることであり,ロシグリタゾンの用量を決定したことに,当業者が格別の創意を要したものとはいえない。そして,「2ないし8mg」という用量も,医薬化合物の用量として当業者が想定し得る通常のものといえるから,当業者が容易になし得たものである。なお,原告は,上記用量の根拠として臨床実験データ(甲5の1,2)を提出しているが,上記用量を決定するために通常行なわれる実験にすぎず,上記判断を左右するものではない。」

と判断した。


2. 本願発明の顕著な作用効果の看過について

本願明細書には以下の記載がある。

ア「今回,驚くべきことに,インスリン分泌促進物質と組み合わされた化合物(Ⅰ)が血糖制御に対して特に有効な効果を発揮することが示された。それゆえ,かかる組合せは糖尿病,特にⅡ型糖尿病および糖尿病関連症状の治療に特に有用である。その治療を行う場合も最小限の副作用しか生じないことが示されている。」(6頁12~16行)
イ「本発明治療により提供される血糖制御に対する特に有益な効果は,個々の有効成分の合計に関して期待される対照効果に対する相乗効果であることが示される。慣用的方法,例えば,絶食時の血漿グルコースまたは糖鎖付加ヘモグロビン(HbA1c)のごとき典型的に使用される血糖制御指数により血糖制御を特徴づけてもよい。」(10頁8~13行)

特許庁は、

「同効果は,本願明細書に具体的に記載されていない効果であり,これをもって本願発明の進歩性の根拠とすることはできない」

と主張した。

しかし、裁判所は、以上の記載から、

「本願発明におけるインスリン分泌促進物質と組み合わされた化合物(Ⅰ)が血糖制御に対して有効であるという作用効果を奏することが認められる。」

と認定し、本願発明の上記作用効果が、引用発明から予測されない顕著な作用効果といえるか否かについて検討した。

原告は、
甲6(スルホニルウレア(グリピシド))とロシグリタゾンを併用投与した試験)及び甲7(スルホニルウレアとピオグリタゾンを併用投与した試験)等に示された結果を総合すると、

「本願発明には,長期間にわたって血糖値をうまく制御することができ,患者が低血糖症に陥ることがなく,しかも血圧の適度な低下もみられることは明らかであり,このような効果は,引用発明からは予測もできない顕著な作用効果を奏するものといえる。」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「甲7の実験ではスルホニルウレアの物質を特定しておらず,それがグリベンクラミドとピオグリタゾンとの併用投与の場合(引用発明)であるということはできない。~HbA1cの改善の割合はむしろ後者の方が高くなっている。~甲6の実験と甲7の実験とを対比した場合,少なくとも治験の対象となる患者の病状や投与量の増加割合といった試験条件が異なるものである」
ことから、本願発明の血糖制御の作用効果は,引用発明から予測できない顕著な作用効果ということはできないと判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願発明の化合物IはRosiglitazone(ロシグリタゾン)。インスリン抵抗性改善型2型糖尿病治療薬「マレイン酸ロシグリタゾン」として海外で販売(製品名: Avandia)。
「作用効果に関して薬理データ等の具体的記載が明細書には存在しないから進歩性の根拠とならない」という特許庁の主張について、裁判所は、触れることなく、明細書中の「血糖制御に対して特に有効な効果を発揮することが示された~個々の有効成分の合計に関して期待される対照効果に対する相乗効果であることが示される。」等の定性的な記載に基づいて「血糖制御に対して有効であるという作用効果を奏することが認められる」とし、血糖制御の作用効果に関して出願後に提出された具体的な証拠資料を参酌したうえで、進歩性の判断をした(進歩性は結局否定されたが)。医薬発明の"進歩性"判断に、明細書に具体的な薬理データを要求する(定性的な記載はダメとする)特許庁の主張、言わば"進歩性主張のための明細書記載要件"について、そのような要件は特許法29条2項には規定されていない(薬理データは実施可能要件で要求されるかもしれないが、進歩性判断とは関係ない)という立場のもと、裁判所は本事案を判断した、と理解したい。

関連:



参考:

  • 審査基準 第II部第2章 新規性・進歩性 2.5論理づけの具体例 (3)引用発明と比較した有利な効果

    (抜粋)

    引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。

    ②意見書等で主張された効果の参酌
    明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。



Aug 6, 2009

2009.08.06 特許庁 「医薬発明」の改訂審査基準(案)に対する意見募集について

特許庁が「産業上利用することができる発明」の改訂審査基準(案)及び「医薬発明」の改訂審査基準(案)に対する意見募集をしています。意見募集期限は9月5日。これに伴い、関連する出願については審査への着手を改訂審査基準の最終版の公表まで待つこととしています。

  • 「医薬発明」の改訂審査基準(案)


  • 「医薬発明」の現行審査基準



  • 参照:


    過去関連:


    Aug 1, 2009

    2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(ネ)10075

    作用効果無関係の抗弁: 知財高裁平成18年(ネ)10075

    【背景】
    「フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する特許権(特許第3664648号)を共有する被控訴人(アボット及びセントラル硝子)らが、控訴人(バクスター)製品の生産方法は本件特許発明の技術的範囲に属すると主張して、控訴人製品の販売等の差止めを求めた事案。
    原判決は、本件特許発明が物を生産する方法の発明に該当するとした上、控訴人方法の各構成がそれぞれ本件特許発明の各構成要件を充足するものと認め、他方、本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断し、結局、被控訴人らの請求はいずれも理由があるものとしてこれを認容した。
    そこで、控訴人は、差止請求の可否を争うとともに、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとの各抗弁を追加提出するなどした。

    請求項1:

    「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,
    内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,
    一定量のセボフルランを供する工程,
    該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び
    該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程
    を含んでなることを特徴とする方法。」

    控訴人方法の構成d(エポキシフェノリックレジンのラッカー)が本件特許発明の構成である「ルイス酸抑制剤」に該当するかどうかが問題となった。

    【要旨】
    1 争点2-3(構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制効果を有するか)について

    裁判所は、

    「構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」の技術的意義について~本件特許発明においては,ルイス酸抑制剤により容器由来ルイス酸を中和することを手段として,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との作用効果を実現するものであるから,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止が容器由来ルイス酸の中和と関係なく実現される場合には,ルイス酸抑制剤が,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすとはいえず,そのような場合におけるルイス酸抑制剤は,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しないものと解するのが相当である。換言すれば,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当するためには,当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められることを要すると解すべきである。そして,本件特許発明の上記目的及び上記アの本件明細書の各記載によれば,本件特許発明は,ルイス酸抑制剤による容器内壁の被覆後,容器内壁とセボフルランとが接触することを当然の前提にしているものと解される。したがって,容器由来ルイス酸とセボフルランとが接触するものと認められない場合~には,容器由来ルイス酸とセボフルランとの接触があるものとは認め難く,それ故,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止とルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないものと解するのが相当である。

    ~上記~によれば,構成dにおいては,EPRにルイス酸抑制剤としての作用効果があると仮定してみても,ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないから,構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」が構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に該当するということはできない。

    ~以上のとおりであるから,その余の各争点について判断するまでもなく,被控訴人らの請求は,いずれも理由がない。」

    と判断した。

    原判決を取り消す。

    【コメント】

    裁判所は、本件クレームの構成要件であるルイス酸抑制剤に該当したとしても、当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められなければ、本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しない、と判断した。本判決文で示された「作用効果に当業者の認識を踏まえた因果関係がないとして特許発明の技術的範囲に属しない」とするロジックに基づく抗弁を、勝手ながら以下「作用効果無関係の抗弁」と呼ぶ。

    「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制作用を有する点は、地裁判決では認定された点であった。確かに、特許請求の範囲の記載に基づけば、被疑侵害行為は本件発明の技術的範囲に属するようであるし、結果的にはセボフルランの分解防止という効果も実現するという点で一致している。しかし、その分解防止のメカニズムが異なるのである。知財高裁は、その中和作用と分解防止効果との因果関係を問題視して技術的範囲を狭く解釈した。

    役立つのか役立たないのか不明な、いわゆる「作用効果不奏功の抗弁」という反論ロジックは、効果を奏しないと主張する点がポイントだが、「作用効果無関係の抗弁」というロジックは、作用効果はあっても因果関係が無いと主張する点がポイントである。しかし、そもそもどんな因果関係を証明すればいいのか、どうすれば因果関係が無いことを証明できるのか・・・この判決ロジックが侵害・非侵害の判断を逆に予測しにくいものにしてしまってはいないか気になるところである。

    例えば、本事案の「ルイス酸抑制剤」を「胃酸抑制剤」に置き換えて下記の事例(分野は異なり、同列に議論できる事例ではないかもしれないが・・・)を考えるとどうなるだろうか。被疑侵害者は、「作用効果無関係の抗弁」により侵害を免れることができるだろうか。一方、特許権者にしてみれば、どんな因果関係を証明すれば被疑侵害品を特許発明にいう「胃酸抑制剤」に該当するといえるだろうか。


  • 特許クレーム:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び胃酸抑制剤を含有する胃潰瘍防止剤」

    明細書には、
    「抗ピロリ菌化合物(I)と胃酸を中和する胃酸抑制剤とを含有する薬剤が、胃潰瘍を防止する相乗効果を実現する。胃酸抑制剤は胃酸を中和する化合物であればよい。」
    と記載されていた。



  • 被疑侵害品1:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び胃酸分泌抑制剤を含有する胃潰瘍防止剤」
    該胃酸分泌抑制剤は、直接胃酸の分泌を抑制する作用メカニズムによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該胃酸分泌抑制剤は、その化学構造から理論上、酸を中和する。「胃酸の分泌抑制」は広い意味での「胃酸の抑制」という概念に含まれるようにも解釈されるかもしれない。



  • 被疑侵害品2:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び抗不安薬を含有する胃潰瘍防止剤」
    該抗不安薬は、中枢神経系に作用して間接的に胃酸の分泌を抑制する作用メカニズムによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該抗不安薬は、その化学構造から理論上、酸を中和する。さらに「胃酸の分泌抑制」は広い意味での「胃酸の抑制」という概念に含まれるようにも解釈されるかもしれない。



  • 被疑侵害品3:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び担体を含有する胃潰瘍防止剤」
    該担体は、代謝されやすい抗ピロリ菌化合物(I)の血中濃度維持に寄与することによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該医薬上許容可能な担体は、その化学構造から理論上、酸を中和する。




  • 参考:

  • 原判決: 2006.09.28 「アボット・セントラル硝子 v. バクスター」 東京地裁平成17年(ワ)10524



  • 本件出願の親出願であった特許第3183520号についての審決取消訴訟も同日に判決: 2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489



  • Jul 27, 2009

    PCT経由の米国特許に与えられるべきPTAのB delay

    日本たばこ(Japan Tobacco)が、PCT経由の抗体に関する米国特許に与えられるべきPTA(patent term adjustment)のB delayについてUSPTOの算定方法に誤りがある(約2年分も!)ことを指摘したようです。PCT経由で米国出願して特許を取得した場合、USPTOによるPTAの算定が妥当なものかどうか念のため確認する必要があるでしょう。

    参考:



    Jul 23, 2009

    2009.07.16 「第5回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

    2009年7月16日、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第5回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループが開催されました。

    今後のWGの進め方(案)によれば・・・やはり仕切り直しになったようです。

    「平成21年5月29日に言い渡された平成20年(行ケ)第10458~10460号事件判決は、過去の東京高等裁判所或いは知的財産高等裁判所の判断(例えば、平成17年(行ケ)第10345号事件判決や平成18年(行ケ)第10311号事件判決)と異なるものであり、現在、最高裁判所に対し、上告受理申立てが行われている。
    最高裁判所の判断によっては、これまで延長制度の対象とされていなかった「ドラッグデリバリーシステムのように革新的な製剤技術を用いた剤型のみが異なる革新的医薬の処分」が、対象とされる可能性がある。そのため、現時点では、本WGで検討すべき課題が定まらず、議論を進める状況にない。
    そこで、本WGでは、最高裁判所の判断を待って、その内容を踏まえて論点整理をした後、医薬品分野の延長制度についての審議を再開することとする。」


    ところで、参考資料として「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日医政経発第0605001号 薬食審査発第0605014号)」が配布されています。延長制度の対象に限らず、権利行使の場面でも、バランスよく整合性のとれた実現可能な制度設計がされることを期待します。


    配布資料はこちら


    参考:



    Jul 12, 2009

    2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489

    数値限定と実施可能要件: 知財高裁平成18年(行ケ)10489

    【背景】

    「フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する特許(第3183520号)について、原告(バクスター)がした特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案。
    原告は、①29条1項3号、②29条2項、③29条の2、④36条4項違反を主張した。

    請求項1:
    麻酔薬組成物であって,
    一定量のセボフルラン;及び
    少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むことを特徴とする,
    前記麻酔薬組成物。

    【要旨】

    取消事由(実施可能要件(36条4項)についての判断の誤り)について

    裁判所は、

    「本件発明1のような組成物の発明においては,当業者にとって,当該組成物を構成する各物質名及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当該組成物がその所期する作用効果を奏するか否かを予測することが困難であるため,当該組成物を容易に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,発明の詳細な説明に,当該組成物がその所期する作用効果を奏することを裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。~本件各発明は,ルイス酸の存在下においても分解しないセボフルランを含有する安定した麻酔薬組成物を提供するため,ルイス酸抑制剤である水を麻酔薬組成物中に含有させ,もって,ルイス酸によるセボフルランの上記分解を防止することを目的とするものであるといえる。したがって,本件各発明が所期する作用効果は,セボフルランを含有する麻酔薬組成物について,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現すること(以下「所期の作用効果」という。)であると認めるのが相当である。」

    と認定した。

    原告は、

    「本件各発明につき,本件数値の水によっても所期の作用効果を奏するものと発明の詳細な説明の記載からは当業者が理解し得ない」

    旨主張した。

    「発明の詳細な説明には,本件数値(少なくとも150ppm)の水を含ませることにより所期の作用効果を奏したとの直接の記載は一切なく,実験に用いられた水の量のうち本件数値に最も近似する水の量である109ppmの水しか存在しない場合にはセボフルランの分解を抑制することができず,206ppm以上の水が存在する場合にはセボフルランの分解を抑制することができたとの記載(実施例4のうち40℃の場合)があるのみである。」

    この点に関し、被告は、

    「109ppmと206ppmの中間値を本件数値として採用した」

    旨主張した。

    しかし、裁判所は、

    なぜ109ppmの約1.38倍,206ppmの約0.73倍である150ppmとなるのかにつき,これを合理的に説明する証拠が一切ない以上,被告らの「もう少し水分を増加させ(た)」数値,「やや余裕を持たせた数値」との主張は,科学的な裏付けを欠いた単なる憶測にすぎないといわざるを得ない。~発明の詳細な説明に,水の量が増えるに従ってセボフルランの分解度が減少する傾向にあることが記載されていることからすると,109ppmと206ppmとの間に,所期の作用効果を奏する数値が存在する蓋然性が高いとはいえるが,それが両者の単純な中間値(157.5ppm)付近の数値であるといえる知見は何ら存在しない。~以上によれば,発明の詳細な説明には,本件各発明について,本件数値の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載があるものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はないから,発明の詳細な説明には,本件各発明の少なくとも各一部につき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるとはいえないというべきである。」

    と判断した。

    また、裁判所は、審決の判断について、

    「審決は,前記第2の3(4)アのとおり,「発明の詳細な説明は,保存条件に応じて含まれる水の量が決められることを当業者に明らかにしているのであるから,下限値として示された『0.015%(重量/重量)』は,あくまでルイス酸による分解を防止できる最小量の目安として示されているのであって,あらゆる条件下においてルイス酸による分解を防止できる量であると解すべきものではない」として,「甲9で水の量0.0187%のサンプルでセボフルランの分解がみられたとしても,当該サンプルでは単にルイス酸抑制剤である水が0.0187%では不足であったことが推定されるだけであって,このことにより本件各発明が当業者に実施しえないとすることはできない」と判断した。確かに,前記(2)イの発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,セボフルランがルイス酸によって分解され,有害なフッ化水素酸等の分解産物を生じるとの課題を解決するため,ルイス酸抑制剤である水を含有させることにより,所期の作用効果を奏することを目的とするものと認められる。しかしながら,発明の詳細な説明には,本件各発明は,単に,ルイス酸抑制剤としての水を含有させればよいとするものではなく,水によるその「有効な安定化量」を問題とし,これを,「約0.0150%w/wから0.14%w/w(飽和レベル)である」とする旨の記載があるのであり,前記(4)の各実施例の記載をみても,そのほとんどにおいて,含有させる水の量を問題にし,水の量の多寡によって,所期の作用効果を奏するか否かを確認しているのであるから,本件数値は,所期の作用効果を奏する有効量を意味するものと解され,これを,場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」とみることはできない。したがって,審決の上記判断は,その前提を誤るものといわざるを得ない。」

    と判断した。

    その余の点について判断せず。

    審決を取り消す。

    【コメント】

    組成物発明を構成する成分に数値限定がある場合(大抵、その数値は場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」を意味するのでではなく、所期の作用効果を奏する有効量を意味するであろう)には、発明の詳細な説明に当該数値の成分を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載、またはそのように認めるに足りる証拠がなければならない。

    これまでの経緯は下記参照:



    本件出願の分割出願であった特許3664648についての侵害訴訟も同日に判決:




    Jul 1, 2009

    2009.03.31 「マイラン製薬 v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10358

    補正「新たな技術的事項」の導入とは?: 知財高裁平成20年(行ケ)10358

    【背景】

    「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」に関する被告(クレハ)の特許(第3835698号)について、原告(マイラン製薬)が特許無効審判請求をしたところ特許庁が請求不成立の審決をしたことから原告がその取消しを求めた事案。
    争点は、本件補正、いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの、が特17条の2第3項に違反するか等であった。

    除くクレームとした本件手続補正は、同一出願人(被告クレハ)がした同日出願の請求項に係る発明と同一であるので,特39条第2項の拒絶理由を回避すべく行われたものだった。

    請求項1:

    フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):
    R=(I15-I35)/(I24-I35) (1)
    〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
    で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,

    ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。

    (下線部分は「除く記載」に係る部分)。

    【要旨】

    裁判所は、

    「「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。
    特許庁審査官が審査する際の審査基準には,上記にいう「除くクレーム」について,下記のように定めている(甲6)が,その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる(ただし,本文6行目「例外的に」とする部分を除く)。」

    と言及し、以上の見地に立って、本件事案について検討した。

    「本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。」

    請求棄却。

    【コメント】

    補正が「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されるには、当業者を基準として、明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものである必要がある(参考:2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563)。

    本判決について、本件補正が「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由は曖昧ではないか。裁判所は、別件特許と同一となる部分を特許請求の範囲から除くという「目的」を重視しているように感じるが、補正の「目的」と補正の「結果」はそもそも同じものなのか、異なりうるものなのか。「新たな技術的事項」を導入するものなのかどうかについての本判決における裁判所の検討は不十分に思う。
    本件補正に関して、「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由については、同特許を扱った同日判決の2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065の判決文のほうが、まだわかりやすい。


    参考:



    Jun 21, 2009

    2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065

    除くクレームと新たな技術的事項の導入: 知財高裁平成20年(行ケ)10065

    【背景】

    「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」に関する被告(クレハ)の特許(第3835698号)について、原告(テイコクメディックス)が特許無効審判請求をしたところ特許庁が請求不成立の審決をしたことから原告がその取消しを求めた事案。

    争点は、
    ①本件補正、いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの、が特17条の2第3項に違反するか(取消事由1)、
    ②実施可能要件又はサポート要件違反があるか(取消事由2)、
    ③進歩性(特許法29条2項)を有するか(取消事由3)、

    であった。
    除くクレームとした本件手続補正は、同一出願人(被告クレハ)がした同日出願の請求項に係る発明と同一であるので,特39条第2項の拒絶理由を回避すべく行われたものだった。

    請求項1:

    フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):
    R=(I15-I35)/(I24-I35) (1)
    〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
    で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,

    ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。

    (下線部分は「除く記載」に係る部分)。


    【要旨】

    1. 取消事由1(新規事項の追加に当たらないとした判断の誤り)について

    原告は、

    「請求項に「ただし,…を除く。」といった消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)が記載された本件補正は,法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」における補正ということはできない」

    と主張した。

    しかし裁判所は、

    「「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。

    ~上記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許されるか否かは,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるか否かという問題であって,法の定めを超えた例外を許容するものではない。「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではないからである。したがって,「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり,「例外的」な取扱いを想定する余地はないというべきである。」

    として原告の主張を採用せず。

    また、原告は、

    「知財高裁大合議判決のような法29条の2が問題とされた事案と異なり,出願人である被告自身が出願当初から先行技術との重複を知り又は知り得たような本件においては,いわゆる「除くクレーム」による補正により救済すべきでない」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「前記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許容されるのは,例外的な「救済」といった性格のものではなく,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるからである。そうである以上,その際考慮されるべきは明細書の記載といった客観的な事情であるべきであって,出願人の認識ないしその可能性といった主観的事情により補正の可否が左右されるべきものではない。」

    とした。

    以上の見地に立ち、裁判所は本件事案を検討し、本件補正の適否について、

    「本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。」

    と判断した。

    なお、裁判所は、

    「本件補正は,本件補正前に係る本件特許発明の技術的事項との対比において新たな技術的事項を導入するものであるから,本件補正は許されない」

    との原告主張に対する補足的判断として、

    「回折強度比(R値)についても,当業者において適宜決定すべきことが予定されていたものというべきである。~当初明細書に開示された本件特許発明の上記意義に照らせば,R値に特別の限定がないことは,R値が1.4以上の場合と1.4未満の場合とを問わず,経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度においてすべてのR値が含まれることを前提とするものと理解できるのであって,本件補正も,そのような理解を前提とした場合に甲6発明との間で生ずるR値が1.4以上のものについての重複を排除するため,これを除外するという意義を有するものである。以上のような本件特許発明における回折強度比(R値)の意義ないし本件補正の意義に照らせば,回折強度比(R値)につきいかなる値を設定するかは,本件特許発明の技術的事項に対し影響を与えるものではないというべきである。」

    と言及した。


    2. 取消事由2(細孔容積要件に関する明細書の記載不備に当たらないとした判断の誤り)について

    原告は

    「本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された製造例が,「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」であることから,上記実施例以外の細孔容積に係る球状活性炭やこれを得る方法が記載されていないことは,明細書の記載不備(法36条4項1号,同条6項1号違反)に当たる」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「発明として特定された技術事項について,その全範囲を実施例等として示すことを求めるものではないのであって(それが現実的でないことは多言を要しない),実施可能要件(法36条4項1号)への適合性という観点では,明細書の記載及び出願時における当業者の技術常識に照らし当業者において当該発明を実施することが可能か否かを検討して判断すべきものであるし,明細書のサポート要件(法36条6項1号)への適合性という観点では,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」

    と言及した上で、本件事案を検討し、原告の主張を採用せず。


    3. 取消事由3(進歩性があるとした判断の誤り)について

    裁判所は、原告の主張を採用せず。

    請求棄却。

    【コメント】

    補正が「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは、明細書等に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断する。
    新たな技術的事項を導入するものなのかどうかを判断する一般的基準については、本判決で示されていない。本事案については、発明(経口投与用吸着剤)としての基本的性質に反しない限度においてすべてのR値が含まれていることを前提とするものと理解されたことがポイントのようである。「新たな技術的事項を導入」するかどうかの判断基準の明確化は、今後の判決の積み重ねを待ちたい。
    この補正の判断基準は、EPCでの補正のプラクティスとは大きく異なる。拒絶や無効の防御として、除くクレームは大きな選択肢となりそうだ。

    参考:




    Jun 17, 2009

    先端医療分野における特許保護の在り方について

    知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会の先端医療特許検討委員会は「先端医療分野における特許保護の在り方について(報告書)」をまとめた。「新用法・用量の医薬の発明を「物」の発明として保護すべく、具体的な事例を示しつつ、審査基準を改訂すべきである。」とまとめている。本委員会における提言を踏まえ、審査基準において具体的にどのように改訂するかについては、今後特許庁において詳細に検討が行われる。パブリックコメントの結果も興味深い。

    参照:



    過去記事:




    Jun 11, 2009

    2009.06.05 「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」

    厚生労働省は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」を各都道府県衛生主管部(局)長宛に通知した(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号/薬食審査発第0605014号)。併せて、平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」の一部も改正。

    以下はその抜粋。

    1.後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては次のとおり取り扱うこと。なお、以下について、特許の存否は承認予定日で判断するものであること。

    (1)先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと。

    (2)先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。

    (3)なお、効能・効果等の開発に伴い、既に製造販売の承認を与えられている医薬品と明らかに異なる効能・効果等が認められた医薬品等については、原則として、4年間の再審査期間を付すこと等とされているので、申し添える。

    2.後発医薬品の薬価収載に当たり、特許に関する懸念がある品目については、従来、事前に当事者間で調整を行い、安定供給が可能であると思われる品目についてのみ収載手続きをとるよう求めているところ(「後発医薬品の薬価基準への収載等について(平成21年1月15日付け医政経発第0115001号)」参照)、上記1.に係わらず、本件について引き続き遺漏ないよう対応すること。

    3.その他



    なお、同日付で、厚生労働省医薬食品局審査管理課は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る医薬品特許の取扱いについて」(案)に関する意見募集に対して寄せられたパブリックコメントについて結果を公示した。

    参照:



    関連:



    Jun 10, 2009

    2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10459

    特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10459

    【背景】

    「長期徐放型マイクロカプセル」に関する特許(第2653255号)の特許権者である原告(武田薬品)が、リュープリンSR注射用キット11.25(有効成分: 酢酸リュープロレリン)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700082)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2007-29494号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

    審決の理由は、
    「本件処分の対象となった医薬品である「リュープリンSR注射用キット11.25」の「有効成分」は「酢酸リュープロレリン」、「効能・効果」は「閉経前乳癌」であるところ、「酢酸リュープロレリン」を「閉経前乳癌」に使用する医薬品である「リュープリン注射用3.75」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認(「先行処分」)されていることからすれば、有効成分(物)、効能・効果(用途)が同じ医薬品が既に承認を受け、安全性、有効性の点でその禁止が解除されていたものであって、本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
    というものだった。

    原告は、この審決に対して、
    (1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
    (2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
    (3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
    を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。


    【要旨】

    2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458と同様の判決内容。

    審決を取り消す。


    参考:


    Jun 8, 2009

    2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460

    特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10460

    【背景】

    徐放性モルヒネ製剤に関する特許(第3134187号)の特許権者である原告(武田薬品)が、パシーフカプセル30mg(有効成分: 塩酸モルヒネ)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700090)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2006-20937号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

    審決の理由は、
    「本件処分の対象となった医薬品である「パシーフカプセル30mg」の「有効成分」は「塩酸モルヒネ」、「効能・効果」は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であるところ、「塩酸モルヒネ」を「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に使用する医薬品である「オプソ内服液5mg・10mg」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認され(「先行処分」)、販売開始されていることからすれば、「塩酸モルヒネ」を「有効成分(物)」とし、同一の「効能・効果(用途)」を有する医薬品は本件処分以前に既に承認されていたものであって、該医薬品の有効成分、効能・効果以外の剤形などの変更の必要上新たに処分を受ける必要が生じたとしても本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
    というものだった。

    原告は、この審決に対して、
    (1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
    (2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
    (3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
    を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。

    【要旨】

    2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458
    と同様の判決内容。
    審決を取り消す。


    Jun 1, 2009

    2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458

    特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10458

    【背景】

    徐放性モルヒネ製剤に関する特許(第3677156号)の特許権者である原告(武田薬品)が、パシーフカプセル30mg(有効成分: 塩酸モルヒネ)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700093)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2006-20940号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

    審決の理由は、
    「本件処分の対象となった医薬品である「パシーフカプセル30mg」の「有効成分」は「塩酸モルヒネ」、「効能・効果」は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であるところ、「塩酸モルヒネ」を「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に使用する医薬品である「オプソ内服液5mg・10mg」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認され(「先行処分」)、販売開始されていることからすれば、「塩酸モルヒネ」を「有効成分(物)」とし、同一の「効能・効果(用途)」を有する医薬品は本件処分以前に既に承認されていたものであって、該医薬品の有効成分、効能・効果以外の剤形などの変更の必要上新たに処分を受ける必要が生じたとしても本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
    というものだった。

    原告は、この審決に対して、
    (1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
    (2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
    (3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
    を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。

    【要旨】

    裁判所は、
    「先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点(特68条の2)は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点(特67条の3第1項1号)と,常に直接的に関係する事項であるとはいえない。むしろ,本件を含む,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては,拒絶すべきとの査定(審決)の根拠法規である特67条の3第1項1号の要件適合性を検討することが必須である。」
    として、まず特67条の3第1項1号の観点から検討した。

    1. 特67条の3第1項1号該当性の誤り

    裁判所は、

    「特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,

    ①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,
    ②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

    を論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。」

    との一般原則を示し、上記観点から本件事案を検討し、

    「審決は,その「4-1 医薬品における『物』と『用途』の解釈」の項における説示の当否にかかわらず,本件先行処分の存在を理由として,本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号により拒絶すべきであると判断した点に誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響することは明らかである。」

    と判断した。


    2. 先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲についての誤り

    裁判所は、

    「「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合,「政令で定める処分」の対象となった「物」とは,当該承認により与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するものというべきである。なお,薬事法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」とは,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではない。
    以上のとおり,特許発明が医薬品に係るものである場合には,その技術的範囲に含まれる実施態様のうち,薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施,及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ,延長された特許権の効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,技術的範囲の通常の理解に照らして,当然であるといえる。)。」

    と判断した。

    被告(特許庁)は、

    「医薬品については,特許法68条の2にいう「物」が「有効成分」,「用途」が「効能・効果」を意味するものとして立法されたことは明らかである」

    と主張した。しかし、裁判所は、

    「文理解釈上の根拠はなく,また,その合理性もない。~被告の指摘に係る~資料ないし文献は~いずれも立法府の見解を示すものとはいえない。」

    として、被告主張を採用しなかった。

    さらに、裁判所は、

    「仮に,特許法68条の2の「物」を「有効成分」と解釈するとしたならば,薬事法所定の承認を受けた医薬品を技術的範囲に含まない請求項に係る発明についてまで,存続期間の延長登録の効果を及ぼすことになり,そのような結果は,特許権者に不当な利益を与え,本来の存続期間の満了後に特許発明を実施しようとする者に著しい不利益を課すことになり,存続期間の延長登録の制度の趣旨に反する,不公平な結果を招く。」

    と言及、特68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」であるとしてした審決の判断には誤りがあると結論した。

    審決を取り消す。

    【コメント】

    本判決の要点は下記のとおり。

    (1)特67条の3第1項1号で定める「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない」との拒絶するためには、
    • ①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと、又は
    • ②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

    を審査官が論証する必要があるとされ(もはや言及するまでもなく、この点に特68条の2を参酌する理由はないだろう)、新剤型医薬品の承認に基づいて製剤特許の存続期間延長登録が認められ得ることになった。

    (2)一方、特68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)の「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、薬事法所定の承認である場合、医薬品の「有効成分」を意味するのではなく、医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するとされ、延長された特許権の効力は、医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての特許発明の実施(及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての特許発明の実施)についてのみ及ぶとされた。


    ここで、存続期間が延長された場合の特許権の効力について、「パシーフカプセル30mg」を具体例に考えてみる。「パシーフカプセル30mg」の添付文書によると、「成分」は下記のとおりである。

    • 有効成分: モルヒネ塩酸塩水和物
    • 添加物: 結晶セルロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドンK30、マクロゴール6000、酒石酸、ヒプロメロース、タルク、エチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、セタノール

    仮に、「成分」において一部の添加物が異なる「パシーフカプセル30mg」の後発品が承認されたとすると、厳密に言えば、該後発品の「成分」は先発品である「パシーフカプセル30mg」と同一ではない。しかし、判決で言及されているように、「もとより、その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然」であろうから、このような場合であっても、上記存続期間が延長された特許権が存在する限り、後発品の製造・販売行為はやはり侵害(均等?)と判断されるであろうと考えられる。

    本件にて審決の判断に誤りがあったと裁判所が判断したことにより、知財高裁平成18年(行ケ)10311など本件と同様の事案について特許庁の主張を支持してきた各判決についても同様の誤りがあるということになり、本判決によって事実上判例の変更がされたといえる。知財高裁平成18年(行ケ)10311で下された判決内容に対して腑に落ちなかった問題点が、今回検討されており、本判決は非常に説得力のある結論を導いたと個人的には感じている。

    ところで、製剤技術に関する特許権の存続期間延長登録制度について検討してきた産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループの議論は収束していない。今回の判決がワーキンググループにとってタイミングが良いのか悪いのか、もし議論を再開するのであれば、本判決で示されたことを前提に論点の整理及び仕切り直しが必要だろう。


    参考:


    2009.05.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10478

    処分の対象が「特許発明の構成要件として明確に特定され」ていることが必要?: 知財高裁平成20年(行ケ)10478

    「有核顆粒およびその製造法」に関する特許(第2120237号)の特許権者である原告(武田薬品)が、タケプロンOD錠15(有効成分: ランソプラゾール)の製造承認事項の一変に係る処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2006-700072)をしたが、拒絶査定/拒絶審決を受けたので審決取消訴訟を提起した。判決内容は下記判決とほぼ同じ。

    参照:


    May 31, 2009

    2009.05.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10477

    処分の対象が「特許発明の構成要件として明確に特定され」ていることが必要?: 知財高裁平成20年(行ケ)10477

    「有核顆粒およびその製造法」に関する特許(第2138026号)の特許権者である原告(武田薬品)が、タケプロンOD錠15(有効成分: ランソプラゾール)の製造承認事項の一変に係る処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2006-700069)をしたが、拒絶査定/拒絶審決を受けたので審決取消訴訟を提起した。判決内容は下記判決と同じ。

    参照:


    May 28, 2009

    2009.05.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10476

    処分の対象が「特許発明の構成要件として明確に特定され」ていることが必要?: 知財高裁平成20年(行ケ)10476

    【背景】

    「有核顆粒およびその製造法」に関する特許(第2138026号)の特許権者である原告(武田薬品)が、タケプロンカプセル15(有効成分: ランソプラゾール)の製造承認事項の一変に係る処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2006-700068)をしたが、拒絶査定を受けたので不服審判を請求した。

    しかし特許庁は、本件処分が本件特許に係る特許発明の実施に必要な処分であったか否かを判断するに当たり、"設定登録時"の特許請求の範囲の記載に基づくのではなく、"公告時"発明の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の内容を認定、さらに、「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには少なくともその処分によって特定される『物』すなわち『有効成分』が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである」とも説示し、本件出願は特67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきであるとの理由で審判の請求は成り立たないとの審決をした(不服2007-34782号)。

    原告は、これらの点について、本件特許に係る特許発明の内容の認定を誤った違法(取消事由1)及び特許法の解釈・適用を誤った違法(取消事由2)があるから、取り消されるべきであるとして審決取消訴訟を提起した。

    【要旨】

    取消事由1(本件特許に係る特許発明の内容の認定の誤り)について

    裁判所は、

    「特67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と規定する。同号にいう「特許発明」とは,「特許法を受けている発明」(特2条2項)を意味するというべきであるから,本件出願について同号の規定する拒絶理由の有無を判断するに当たり,本件特許に係る特許発明の内容は,出願公告時の特許請求の範囲の記載ではなく,設定登録時の特許請求の範囲の記載に基づいて,確定されるべきであることは当然である。~審決は,本件処分が本件特許に係る特許発明の実施に必要な処分であったか否かを判断するに当たり,設定登録時の特許請求の範囲の記載に基づくのではなく,公告時発明の特許請求の範囲の記載に基づいて,特許発明の内容を認定した点において,誤りがあるというべきである。」

    と判断した。

    被告(特許庁)は、

    「特許権の存続期間の延長登録の出願の審査及び審判は,その出願時に出願人が提出した資料に基づいて行われるのであるから,本件出願の願書に添付された本件公告公報の特許請求の範囲の記載に基づいてした審決の認定,判断に,違法はない」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「そもそも,特許原簿のように特許庁に備えられているものまで,「証明するため必要な資料」に該当すると解することには疑問があるのみならず,そのことによって,審査,審判を担当する特許庁審査官,特許庁審判官が,特許原簿など特許庁に備えられている資料との照合を省略することが正当化される理由はない。」

    と特許庁の主張を退け、結論として、審決は本件特許に係る特許発明の内容の認定を誤ったものであり、この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるとして、原告主張の取消事由1は理由があるとし、取消事由2について検討するまでもなく、審決は取消しを免れないと判断した。

    また、裁判所は、事案にかんがみ、再開されるべき審判手続における審理に資するよう、特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について下記のとおり見解を付言した。

    「特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)についてのみ及ぶとする制度の下においては,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対し,不測の不利益を与えないという観点からの考慮が必要であることはいうまでもない。
    しかし,そのような観点から,「政令で定める処分」の対象となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,客観的な要素によって特定され,かつ,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載及び技術常識に基づいて,十分に認識,理解できることが必要となるとはいい得ても,特許請求の範囲によって明確に記載されていることが必要となるとはいえない。
    したがって,「政令で定める処分の対象」となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,特許請求の範囲に明確に記載されていないという理由で,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶することは,許されないものというべきである。」

    審決を取り消す。

    【コメント】

    特許発明の内容は、"出願公告時"の特許請求の範囲の記載ではなく、"設定登録時"の特許請求の範囲の記載に基づいて確定されるべきであることは当然。特許原簿のように特許庁に備えられているものまで「証明するため必要な資料」として提出しろという特許庁のお役所的スタンスに対して、武田薬品は、出願公告後に補正された資料を審査・審判において特許庁に提出すれば済んだかもしれないのに、御上に逆らって、裁判にまでもつれ込んだというストーリーは面白い。

    なお、「特許請求の範囲に処分の対象の記載がないときは当業者といえども延長された特許権の効力が及ぶ範囲を予見することは困難であって~存続期間満了後に特許発明を実施しようとする第三者に不足の不利益を及ぼす不都合が生じる」から、特67条の3第1項1号の該当性を「処分の対象となった物、又は物と用途が、特許請求の範囲に特定されているか否か」によって判断すべきであると特許庁は主張した。しかし、この特許庁の論理はおかしい。「特許請求の範囲に処分の対象の記載がない」場合には、特許権の効力が及ぶ範囲を予見することは困難なのか?

    判決文を見る限り、全ての点において特許庁しっかりしてくれと言いたくなる事案である。

    May 20, 2009

    1976.12.21 「5-ニトロ安息香酸エステル製法事件」 東京高裁昭和48年(行ケ)20

    製造中間体の有用性: 東京高裁昭和48年(行ケ)20

    【背景】
    「2―アルコキシ―4―アルカノイルアミノ―5―ニトロ安息香酸エステルの製法」に関する特許出願の進歩性判断において、中間体の製造方法のクレームの有用性が問題となった。
    特許庁は、ニトロ基の導入位置に関して進歩性を欠くとする理由の他に、
    「本願発明の目的物質が医薬物質製造の中間体として使用できることは認められるが、その有用性はあくまで最終目的物質である医薬物質が得られたときにはじめて実現される有用性であるから、最終目的物質である医薬物質に至るまでの一連の工程について特許を請求するのであればともかく、中間体製造までの段階に止つている本願発明において、該有用性をもつて本願発明が格別の進歩性あるものと判断すべきいわれはない。」
    との理由で、本願発明を拒絶する審決を下した。

    【要旨】
    裁判所は、
    ニトロ基の導入位置は3-位および5-位に限られるとした特許庁の判断は合理的根拠を欠くと判断し、さらに、
    「新規物質を得る製法発明において、特許要件としての目的物質の有用性につき、目的物質がそれ自体有用な医薬物質である場合と、目的物質が有用な医薬を製造するための中間体である場合とを、特に区別して評価すべき合理的根拠はないというべきである。けだし、有用性に関する特許要件は、目的物質が新規であるというだけで何らの有用性をもたないところの製法発明、換言すれば無用の新規物質を得るにすぎない製法発明を特許付与の対象から排除することを趣旨とするものであり、かつそれにとどまるものと解されるからである。」
    と判断した。
    審決を取消す。

    【コメント】
    最終目的物である医薬物質が有用であれば、その中間体にも有用性がある。

    May 17, 2009

    2009.03.25 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10261

    キシリトール調合物: 知財高裁平成20年(行ケ)10261

    【背景】
    「上気道状態を治療するためのキシリトール調合物」に関する特許出願(特願2000-537427)の拒絶審決取消訴訟。

    請求項1:
    鼻の鬱血,再発性副鼻洞感染,又はバクテリアに伴う鼻の感染又は炎症を治療又は防止するために,それを必要としている人に対して鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であって,キシリトールを水溶液の状態で含有しており,キシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されている調合物。

    進歩性なしの審決において、

    引用発明との一致点は、再発性副鼻洞感染又はバクテリアに伴う鼻の感染を治療又は防止するためにそれを必要としている人に対して投与するためのキシリトールを水溶液の状態で含有している調合物である点であり、相違点は下記のとおりと認定された。

    相違点1:
    本願発明が鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であるのに対し,引用発明は経口投与用溶液製剤である点

    相違点2:
    本願発明がキシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されているのに対し,引用発明は水溶液1mlあたり400mgのキシリトールを含有する点

    【要旨】
    (1) 引用例2の記載内容の認定の誤りについて

    裁判所は、
    「引用例2~における「鼻の中に投与されることができる。」との記載部分は,エアロゾル粒子を,抗炎症剤及び/又は抗感染剤を感染部位である「気道下部」に直接的に投与するために,通過経路の入り口に当たる鼻孔から「鼻の中」に向けて投与されることができるという意味に理解すべきであり,鼻自体が感染部位であることを前提として,鼻を治療する目的等で,鼻に抗炎症剤及び/又は抗感染剤を投与するという意味に理解することはできない。」
    として審決の認定は誤りであると判断した。

    これに対して被告(特許庁)は、
    「当業者であれば,引用例2~の記載は,「気道下部」のみならず,「上気道」を含めて感染性の呼吸性疾患について述べたものと理解することができる」
    主張した。

    しかし裁判所は、
    「引用例2は,前記のとおり感染部位を「気道下部」とする疾患の治療方法を提供しようとするものであることを,繰り返し述べている記載態様に照らすならば,被告引用に係る上記記載部分は,感染部位を「気道下部」とする疾患に関する記述であると解するのが自然である。」
    として、特許庁の主張を採用しなかった。

    (2) 引用発明と引用発明2との組合せの容易想到性について

    裁判所は、特許法29条2項が定める要件を充足することについての判断過程についての一般原則を示した(2009.01.28 知財高裁平成20年(行ケ)10096参照)。

    「特許法29条2項が定める~要件である,当業者が先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたとの点は,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものであるから,先行技術の内容を的確に認定することが必要であることはいうまでもない。また,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであることが通常であるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の有無の判断においては,事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために,当該発明が目的とする「課題」の把握又は先行技術の内容の把握に当たって,その中に無意識的に当該発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要であるというべきである」

    これらの点を踏まえ、本件について裁判所は、

    「引用発明~と引用発明2~とは,解決課題,解決に至る機序,投与量等に共通性はなく,相違するから,それらを組み合わせる合理的理由を見いだすことはできないし,そもそも,エアロゾルの形態のままでは吸気しながら鼻へ投与すると,有効成分(キシリトール)が感染部位とは異なる気道下部にまで到達することがあるため,感染部位である鼻内への局所投与の実現は,困難であるというべきである。以上のとおりであり,引用例1に接した当業者は,~引用例2を適用することによって,~本願発明の構成(相違点1の構成)に容易に想到できたと解することはできない。
    この点について,成分や用途に係る医薬品等に係る発明が存在する場合に,その投与量の軽減化,安全性の向上等を図ることは,当業者であれば,当然に目標とすべき解決課題といえるであろうし,そのための手段として格別の技術的要素を伴うことなく,課題を解決することができる場合もあり得よう。しかし,そのような事情があるからといって,審決が,本願発明の相違点1の構成は,引用例2の記載内容から容易であるとの理由を示して結論を導いている場合に,その理由付けに誤りがある以上,上記のような事情が存在することから直ちに審決のした判断を是認することは許されない。」

    と判断した。

    審決を取り消す。

    【コメント】
    そもそも引例の記載内容の認定に誤りがあり、結果、引用発明同士を組み合わせる合理的理由は見出せないとされた事案。
    裁判所は、特29条2項における容易想到性の判断手法について、2009.01.28 知財高裁平成20年(行ケ)10096を参照して同様のセリフを判示している。
    引用発明同士の組合せ容易想到性の有無を判断するには、「課題」及び「解決手段(発明の特徴点)」を的確に把握することが必要不可欠であること、発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうではなく、したはずであるという示唆等の存在することが必要であること、といった裁判所のメッセージは、EPOのproblem-solution approachやcould-would approachに非常に近い印象。

    May 13, 2009

    2009.01.27 「惠民製藥 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10166

    発明の要旨の認定と特許請求の範囲の用語の意義の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10166

    【背景】
    「直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法」に関する特許出願(特願2001-310741)の拒絶審決取消訴訟。

    請求項1:

    A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5~約99重量%及び/または薬学的活性成分0~約99重量%,
    B)結合剤約1~約99重量%,及び
    必要に応じて,
    C)崩壊剤0~約10重量%
    の全部または一部を使用した混合物を含み,
    初期水分を約0.1~20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1~20%含む条件下において,約30℃~約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。

    審決では、引例記載の造粒方法は本願発明の熱粘着式造粒方法と一致しており、両者の唯一の相違点は引例が「直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するため」のものであるか否か明確でない点であるとされ、本願発明の進歩性が否定された。

    【要旨】

    (1) 本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定ついて

    被告(特許庁)は、

    「本願発明に関して特許請求の範囲の記載に何ら不明確な点はなく,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから,審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはない」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは,あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって,上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然であるから,被告の上記主張は採用することができない。」

    と判断した。

    (2) 以上を前提として,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものであるかについて

    裁判所は、

    「引用発明は,従来の湿式造粒法における欠点を克服し,多量の水分を含有させずに粒状物を製造するという点では本願発明と共通の目的を有するものの,その目的を達成するための手段として低融点物質を加熱して溶融させるという方法を採用している点で,本願発明とは異なる方法によるものである。したがって,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものとした審決の判断は誤りである。」

    と判断した。

    これに対して被告は、

    「引用例(甲1)の実施例にはトウモロコシデンプンを15重量部添加することが記載され,薬剤製造過程で使用されるトウモロコシデンプンの水分含有量が通常10%程度であることに照らせば,引用発明の諸材料中には本願発明における初期水分「約0.1~20%」の範囲内である1.5%程度の水分が含有されている」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「仮に,引用発明の諸材料中に1%を超える水分が含まれ,これを密閉系で加熱することによって容器内で水分が凝結することがあるとしても,引用例(甲1)には凝結した水分が結合剤に吸収されて粘性を生じさせるという記載はなく,低融点物質を溶融させて造粒を行うことが上記のとおり記載されているのである。そうすると,引用発明の諸材料中に通常含まれる水分が粒状物の製造に寄与するか,仮に寄与するとしてどのような役割を果たすのかについては,引用例には教示も示唆もされていないといわざるを得ない。したがって,引用発明の諸材料中に本願発明における「約0.1~20%」の範囲内の水分が含まれているとしても,それを根拠として引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するということはできない。
    以上のとおり,審決は,本願発明と引用発明がいずれも「熱粘着式造粒方法」であるとした点で一致点の認定を誤ると共に,この点に係る相違点を看過したものであるところ,引用例(甲1)に「熱粘着式造粒方法」に関する教示も示唆もみられないことは,上記のとおりである。したがって,本願発明が引用発明との関係で進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。」

    と判断した。

    審決を取り消す。

    【コメント】
    本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であると決めつけた審決はやはり取り消されるべきものだろう。

    裁判所は、「特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明を参酌することが許されないのは発明の要旨認定との関係において」のことであるというリパーゼ判決と同様の考え方を示しながら、一方、特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するに当たっては明細書等を参酌することは当然であるとした。
    本判決の結論に賛成。しかし、結論の導き方についてであるが・・・特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するために明細書等を参酌することができるのは、発明の要旨認定作業の中で、且つ、リパーゼ判決において例示された「技術的意義が一義的に明確に理解することができない」等の「特段の事情」の場合に限り、許されるものなのだと私自身rigidな理解をしていた。どうも裁判所のニュアンスでは、特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するために明細書等を参酌するのは当然の作業であって、「発明の要旨認定」とは別のようである。とにかく特許請求の範囲の用語の解釈に疑義が生じないように気を配り、どうしても一義的に明確に理解できないのであれば明細書にきっちり説明しておくことが重要であることに変わりはない。

    参考:
    1991.03.08 「リパーゼ事件」 最高裁昭和62年(行ツ)3

    「特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」

    May 10, 2009

    2009.04.28 「先端医療分野における特許保護の在り方について(案)」に関する意見募集

    知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会の先端医療特許検討委員会が取りまとめた「先端医療分野における特許保護の在り方について(案)」についてのパブリックコメントを募集中。期間は5月17日(日)まで。特に、用法・用量に特徴のある発明についての特許保護の今後の在り方として、「新用法・用量の医薬の発明を「物」の発明として保護すべく、審査基準を改訂すべきである。」とまとめています。詳細はこちら

    用法・用量に特徴のある発明について特許保護の対象としないとする特許法上の規定はない。一定の条件(患者群または適用部位が引用発明と異ならなければならない)を満たさない限り用法・用量に特徴のある発明について特許保護の対象としない現在の取り扱いが、あくまで審査基準という特許庁の運用規定に基づいているという点、及び、用法・用量に特徴のある発明について特許保護の対象としないという判決が存在するのかしないのかという点は明記してほしいところです。

    参考:
    • 特許・実用新案審査基準 第VII部 第3章 医薬発明


    審査基準「医薬発明」に引用されている判決:


    用法・用量に特徴のある発明についての最近の判決:

    Apr 22, 2009

    2009.04.22 第一三共 新用法・用量クラビット製剤承認

    2009年4月22日、第一三共は、広範囲経口抗菌製剤「クラビット®錠250mg・錠500mg・細粒10%」(一般名: レボフロキサシン水和物)の製造販売承認を取得した。クラビット 500mg 1日1回投与法は、従来の100mg 1日3回投与法と比較して最高血中濃度を上げることにより、殺菌作用が増強されると共に耐性菌の出現を抑制することが期待できるとのこと。クラビット製剤はこれまで1錠又は細粒1g中当たり有効成分(レボフロキサシン水和物)が100mgの製剤しかなく、しかも用法・用量は、通常、成人に対して、レボフロキサシン水和物として1回100mgを1日2~3回経口投与とされていた。



    今回の承認による後発品との差別化が「クラビット」のライフサイクル延命化に功を奏するか、今後の「クラビット」の売れ行きに注目したい。しかし、とにかくまず注目すべきは現在争われている訴訟の行方である。



    Apr 21, 2009

    知的財産戦略本部 先端医療特許検討委員会

    首相官邸 知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会の先端医療特許検討委員会(第6回)の資料。



    用法・用量等に特徴のある発明についての論点は下記のとおり。
    ①から④の答えは自明のことでもはや議論してもあまり意味のないことでしょう。⑤及び⑥についてもっと議論を深めるべきと思いますが・・・。次回は2009年4月24日開催。

    ①国民一般の生活水準の向上や公衆衛生・医療水準の向上に伴い、患者や医師からは、効能・効果が同じであっても、より副作用や身体への負担が少なく、快適な生活の継続に支障とならない医薬の開発が一層求められているのではないか。

    ②専門家の予測を超える効果を示す新用法・用量の医薬の発明を特許対象とし企業に開発インセンティブを付与することにより、このような医薬の開発が促進されるのではないか。それとも、このような医薬は特許がなくても盛んに開発されるのか。

    ③新用法・用量に関する研究開発が世界的に見て活発化していった場合に、我が国において新用法・用量のみに特徴がある医薬を特許保護していないことが当該医薬の我が国市場への投入の阻害要因となるおそれはないか。

    ④新用法・用量の医薬を特許対象とした場合、患者が負担する医療費に影響を及ぼすのか。

    ⑤専門家の予測を超える効果を示す新用法・用量の医薬の発明を特許対象とする場合、医薬における用法・用量の一体性等に照らし、「物」の発明として保護すべきではないか。また、「方法」の発明として保護することは、患者が使用する発明となるので産業上利用することができる発明とは認めがたい等の問題があり、困難ではないか。

    ⑥専門家の予測を超える効果を示す新用法・用量の医薬を「物」として特許対象とした場合、医師の処方は特許権の侵害とならず、医師の裁量、患者の選択等に負の影響を及ぼすことにならないのではないか。この場合、現行の用途発明と同様に、医療のフリーアクセス等の現行の医療制度には負の影響を及ぼさないのではないか。

    Apr 19, 2009

    2008.12.25 「バイエルクロップサイエンス v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10302

    木材及び木質合板類浸み込用: 知財高裁平成20年(行ケ)10302

    【背景】
    「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許第3162459号)に関し、原告が訂正審判請求したところ、特許庁が請求不成立との審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案。争点は、本件訂正が、独立特許要件を満たしているか(すなわち特開昭61-267575号公報(「刊行物1」)に記載された発明との関係で進歩性を有するか。)であった。

    本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲は,次のとおりである(本件訂正発明。下線部は訂正部分。)。

    【請求項1】
    1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための木材及び木質合板類浸み込用害虫防除剤。

    • 1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン: 一般名 「イミダクロプリド」


    【要旨】
    取消事由3(相違点3(害虫防除剤を「木材及び木質合板類浸み込用」と規定したこと)の判断の誤り)について

    原告は、
    「刊行物1(甲8)の「極めて卓越した殺虫作用」又は「強力な殺虫作用」は,実施例5~7の「散布」による殺虫効果にしかすぎず,本件訂正発明の「浸み込用」は,「散布」とはほど遠い害虫防除剤の適用形態である」
    と主張した。

    しかし、裁判所は、
    「害虫防除剤の適用形態が「散布」であっても「浸み込用」であっても,害虫は,害虫防除剤の有効成分に接触して殺虫されるものであることに変わりはない。そして,害虫防除剤を「散布」するか「浸み込用」とするかは,同剤が害虫に接触する過程の違いにすぎず,殺虫作用自体は,害虫防除剤の有効成分の性質によるものというべきである。そうすると,このような害虫防除剤の適用形態の違いによって,害虫防除剤の殺虫作用に違いが出ることを直ちに導くことはできない。」
    として原告の主張を採用せず。

    また、原告は、
    「害虫の種類に応じて害虫防除剤の適用方法を変えるのは当然のことであるが,刊行物1(甲8)の記載からイミダクロプリドがシロアリに対して殺虫作用を有することが知られていたとすることはできないから,イミダクロプリドを木材等の内部に浸み込ませてシロアリの侵襲を防除する方法は当業者が容易になし得るとすることはできない」
    と主張した。

    しかし、裁判所は、
    「原告の上記主張は,刊行物1(甲8)にイミダクロプリドがシロアリに対して殺虫作用を有することが記載されているといえないことを前提とするものであるから,前記2(2)の説示に照らし,採用することができない。」
    とし、よって取消事由3は理由がないと判断した。

    請求棄却。

    【コメント】
    原告は、新たな修飾語「浸み込み用」をクレームに付け加えたが、裁判所は、適用形態の違いによって結局作用に違いが出ることを導くことはできないと判断した。本件は医薬発明のケースではないが、適用形態の違い(治療の態様)により特定しようとする医薬発明の考え方にとっても参考になる(?)かもしれない。
    その他の原告の主張に対する裁判所の判断は下記判決内容とほぼ同様。

    参照:
    2008.11.20 「バイエルクロップサイエンス v. エンシステックス」 知財高裁平成20年(行ケ)10068

    Apr 13, 2009

    2009.04.09 「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る医薬品特許の取扱いについて」に関する意見募集について

    厚生労働省医薬食品局審査管理課がパブリックコメントを募集中(「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る医薬品特許の取扱いについて」に関する意見募集について)。「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」を通知することを予定しており、最終的な決定に際してパブリックコメントを参考にするとのこと。募集期間は2009年5月11日まで。
    以下はその抜粋。(2)の文章は不明確だし、それだけですべての取り扱いをカバーしているようには思えないのだが・・・


    「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る
    医薬品特許の取扱いについて」に関する意見募集について


    平成21年4月9日
    厚生労働省医薬食品局審査管理課


    <中略>

    医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る
    医薬品特許の取扱いについて


    後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては次のとおり取り扱うこと。

    (1)先発医薬品に有効成分に係る物質特許が存在する場合((2)の場合は除く。)には、後発医薬品を承認しないこと。この場合の特許の存否は、承認予定日で判断するものであること。

    (2)先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在する場合等については、後発医薬品を承認すること。この場合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。

    (3)なお、効能・効果等の開発に伴い、既に製造販売の承認を与えられている医薬品と明らかに異なる効能・効果等が認められた医薬品については、原則として、4年間の再審査期間を付すこととされているので、申し添える。


    Apr 12, 2009

    2009.04.09 「Daiichi Sankyo Files Patent Infringement Actions against 11 Generics Companies for CRAVIT® TABLETS and FINE GRANULES」

    第一三共は、レボフロキサシン水和物製剤(「クラビットⓇ錠」、「クラビットⓇ細粒」)の物質特許第2008845号および用途特許第1659502号の延長登録に基づき、同製剤の後発品の製造・販売の差止を求めて、後発品の製造販売承認を取得した計11社に対し、特許侵害差止訴訟を提起した。今回の提訴は2009年3月23日の後発品企業13社に対する提訴(参照: 2009.03.23 「Daiichi Sankyo Files Patent Infringement Actions against 13 Generics Companies for CRAVIT® TABLTETS and FINE GRANULES」)に続くもの。

    第一三共ニュースリリース:


    Apr 5, 2009

    2008.12.16 「訴訟記録閲覧等制限申立事件 申立人 萬有製薬」 知財高裁平成20年(行タ)10007

    独メルクと米メルクの合意: 知財高裁平成20年(行タ)10007

    【背景】
    基本事件(知財高裁平成20年(行ケ)10308)の訴訟記録中、別紙記録目録記載の部分について、基本事件原告(メルク・コマンデイトゲゼルシヤフト・アウフ・アクチエン)の親会社であるE.Merck(現在の名称:Merck KGaA,独メルク)と申立人(萬有製薬)の親会社であるMerck & Co., Inc.(米メルク)との合意の内容が記載されていた。申立人は、本件合意は申立人の保有する営業秘密に該当することを理由として、当該記載部分について閲覧制限の申立てをした。閲覧制限を申立てた部分には、基本事件訴訟中に証拠として提出された本件合意に係る契約書及び合意に係る書簡が含まれていた。

    なお、基本事件原告は、疎明資料として下記(1)ないし(5)を提出した。
    (1) 基本事件原告の日本子会社であるメルク株式会社のウェブサイト(www.merck.co.jp/japan/about/content_history.html)をプリントアウトした書面
    (2) インターネット上の百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%AF)をプリントアウトした書面
    (3) 米メルクのオーストラリア子会社のウェブサイト(www.msd-australia.com.au/page.asp?e_page=376739&3570=376571§ion=376565&subsection=377267&article=376571)をプリントアウトした書面
    (4) WIPOのウェブサイト(www.wipo.int/amc/en/domains/decisions/html/2003/d2003-0203.html)に公開されたWIPO仲裁調停センターの2003年5月27日付け裁定をプリントアウトした書面
    (5) 基本事件原告の商標統括担当者作成に係る平成20年11月10日付け陳述書

    【要旨】
    裁判所は、上記疎明資料(1)~(4)について誰でもアクセス可能であること、また本件合意に係る契約書に守秘義務条項が存在していないこと、及び本件合意に係る書簡には秘密として保持すべき旨の記載は見当たらない、等から、本件合意の内容は申立人の保有に係る営業秘密であると認めることはできない、と判断した。

    申立却下。

    【コメント】
    萬有製薬にしてみれば、その合意内容が周知であろうがなかろうが、建前として、親会社に関わる"契約書"を閲覧可能にさせるわけにはいかなかった・・・のかもしれない。

    参考:


    Apr 1, 2009

    2008.12.15 「ニプロファーマ v. 富田製薬」 知財高裁平成20年(行ケ)10144

    重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤: 知財高裁平成20年(行ケ)10144

    【背景】
    被告(富田製薬)が特許権者である「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」に関する特許(第2769592号)の請求項9及び10について、無効審判請求不成立の審決に不服の原告(ニプロファーマ)が審決取消訴訟を提起した。

    争点は、
    ①実施可能要件及びサポート要件違反の有無、
    ②特開平2-311419号公報(甲2文献)に記載された発明との関係で新規性及び進歩性を有するか、
    である。

    請求項9:
    塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

    請求項10:
    さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

    【要旨】

    1. 実施可能要件及びサポート要件違反の有無について

    原告は、
    「本件特許明細書記載の方法によっても本件各特許発明の構成を有する造粒物は得られない」
    と主張したが、裁判所は、
    「本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件各特許発明の目的,構成及び効果が記載されると共に,かかる構成を有する造粒物を形成する方法が当業者が容易に実施できる程度に記載されているということができる。」
    と判断した。

    具体的には、
    原告は、
    「本件実施例3において酢酸ナトリウムを添加した混合物に特異な粘りが生じ粒子同士が付着し始めた後にブドウ糖が添加されていることを根拠として,コーティング層はブドウ糖が添加される前に既に形成されている,あるいはブドウ糖がコーティング層に含まれるとしても複数の塩化ナトリウム粒子が結合した造粒物の表面をコーティングしているものにすぎない」
    と主張。
    しかし、裁判所は、
    「ブドウ糖が添加される以前に付着した塩化ナトリウム粒子が一部に存在するとしても,製造された造粒物を全体としてみれば,ブドウ糖を含むコーティング層を介して複数の塩化ナトリウム粒子が結合しているということができる。」
    とした。

    また、原告は、
    「本件実施例3記載の方法に基づいて行われた甲1実験の結果,本件実施例3記載の方法によっては本件各特許発明の造粒物は得られないことが判明した」
    と主張。
    しかし、裁判所は、
    「甲1実験においては各原料の分量につき,本件実施例3に記載された分量の約800分の1としており,添加する水の量も同様に約800分の1としていることが認められ,水の絶対量が少なくなった状態で本件実施例3と同様の条件下での加熱が行われたために,本件実施例3における造粒の進行に比べて乾燥が早く進行し,ブドウ糖が添加された段階では既に水分が失われ,酢酸ナトリウムは粘りを有する状態ではなかったと推測される。したがって,甲1実験の結果をもって原告主張のように本件実施例3記載の方法に基づき本件各特許発明の造粒物が得られないことの根拠とすることはできない。」
    とした。

    裁判所は、被告が提出した甲8実験の報告書について、
    「甲8実験により得られた上記結果は,発明の詳細な説明の記載と矛盾するものではなく,これを裏付けるのに十分なものといえる。そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された方法では本件各特許発明の造粒物を得られないという原告の主張は採用することができない。」
    と判断した。

    2. 新規性・進歩性について

    裁判所は、
    「甲2文献に記載の造粒方法は,~塩化ナトリウム粒子及びブドウ糖粒子を核として,これらの粒子に塩化ナトリウム以外の電解質化合物によるコーティング層を形成する点で,ブドウ糖をコーティング層に含ませる本件特許発明9とは発想が異なるものである。したがって,本件特許発明9は甲2文献に記載された発明と同一であるということはできず,またこの発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものであるともいえない。」
    と判断した。

    請求棄却。

    【コメント】
    2006.07.31 「富田製薬 v. ニプロ」 知財高裁平成17年(行ケ)10736及び2008.05.15 「ニプロ v. 富田製薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10347では、請求項9及び10の進歩性が争われ、ニプロの無効請求は棄却されたが、本事件では記載要件を争点にニプロが再攻撃した事案。本件も富田製薬に軍配。

    ニプロと富田製薬との間で争われていた一連の特許係争は、富田製薬の本件特許の一部クレームが無効とされ、"ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含む"という構成で限定された剤クレームしか特許として生き残らなかったため、ニプロの透析液粉末製剤「リンパック」が特許発明の技術的範囲外となったことで、一旦終結した。

    ニプロの「リンパック」の構成は以下の製剤の組合せからなる。「リンパック」は、わざわざA-1剤とA-2剤(ブドウ糖)を分離した製剤である。

    A-1剤: 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸(pH調整剤)。
    A-2剤: ブドウ糖。
    B剤: 炭酸水素ナトリウム。

    これに対し、富田製薬・扶桑薬品販売の人工腎臓用粉末型透析用剤「キドライムT-30」の構成は以下の組み合わせ。ブドウ糖が他成分と混合済みの製剤である。

    A剤: 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、、氷酢酸(pH調整剤)、ブドウ糖。
    B剤: 炭酸水素ナトリウム。

    但し、ニプロの「リンパック透析剤TA1」、「リンパック透析剤TA3」は、ブドウ糖が他成分と混合済みの製剤である。

    本件で無効とされなかった請求項9及び10の存在は、ニプロにとって、使い勝手のよいブドウ糖混合済製剤への改良品のfreedom to operateに対して一定の障害となって残ることになると思われる。

    参考: