Jan 14, 2009

2008.11.20 「バイエルクロップサイエンス v. エンシステックス」 知財高裁平成20年(行ケ)10068

イエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤: 知財高裁平成20年(行ケ)10068

【背景】
バイエルクロップサイエンス(原告)が有する「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許3162450号)について、エンシステックス(被告)から無効審判請求がなされ、その中で特許庁が訂正を認めた上、本件訂正発明1,2についての特許を無効とする旨の審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案。争点は、本件訂正発明1及び2が、特開昭61-267575号公報(甲2)に記載された発明との関係で進歩性を有するかである。

本件訂正発明1:
1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン("イミダクロプリド"と呼ぶ)を有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。

甲2発明における「殺虫剤」と本件訂正発明1とは、「イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤。」である点で一致、2つの相違点のうちのひとつが下記点。

相違点2:
対象となる害虫が,本件訂正発明1ではイエシロアリ又はヤマトシロアリであるのに対し,甲2発明では特定されていない点。

【要旨】

相違点2について:

原告は、引例である甲2について、
「イミダクロプリドの殺虫残効性については上記5種の害虫に対する関係についてすら確認しておらず,木材等をヤマトシロアリ又はイエシロアリの侵食から保護するためのイミダクロプリドの木材における有利な「残効性」についても,確認はもとより一片の記載すらもされていない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲2には,イミダクロプリドが具体例として例示される上記ニトロイミノ誘導体が強力な殺虫作用を現すこと,同ニトロイミノ誘導体が広範な種々の害虫の防除のために使用できること,その害虫類の具体例として,ヤマトシロアリ,イエシロアリが挙げられること,が記載されていると認めることができる。~甲2には,同化合物について,~木材及び土壌において,短期間に分解・揮発等により自然に消滅することのない性質を有する化合物であることが示されている。そして,このような性質は,殺虫対象となる昆虫によって左右されるものではないから,甲2の上記記載に接した当業者が,当該記載は,殺虫対象が衛生害虫,貯蔵物に対する害虫であるときに限られる旨理解するとみるのは合理的でなく,むしろ,同記載に係る残効性が発揮されるのは,甲2記載の殺虫対象全般に対してである旨理解するとみるのが合理的である。~イミダクロプリドの殺虫残効性について生物試験の実施例の記載がないことを考慮してもなお,甲2において~具体例であるイミダクロプリドが,ヤマトシロアリ,イエシロアリに対して木材及び土壌における優れた残効性を有することが記載されているというべきである。そうすると,甲2において,イミダクロプリドが上記残効性を有することが記載されていないことを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。」
と判断した。

また、原告は、
「化学構造が類似する他のニトロイミノ系化合物と対比しても,本件特許のイミダクロプリドが格別顕著なシロアリ殺虫活性を具有している」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「一般に,化合物発明やその用途発明において,発明の対象とされる化合物や有効成分同士の間に効果の点で優劣の差があるのは当然であり,それらの中で,実施例の化合物や有効成分のうちのどれかが最も優れた効果を有することは,当業者が当然に予測することである。しかるに,イミダクロプリドは,甲2において,すべての生物試験に供される3つの有効成分たる化合物No.1~3の一つ,化合物No.3として記載されているから,かかるイミダクロプリドが,化合物No.1,2を初めとする他の甲2記載の化合物と比較してイエシロアリに対し甲11に記載されたような優れた効果を有するとしても,それは当業者が容易に予測することというほかない。」
従って、
「本件訂正発明1は選択発明として成立し進歩性を有するとの原告の主張を採用することはできない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
原告は、引例には効果確認の記載がない点及び本件発明は選択発明である点を主張した。しかし、引例には、有効成分の害虫防除剤用途だけでなく、イエシロアリ・ヤマトシロアリの具体例が挙げられている以上積極的な動機付けはあるとされても仕方ないだろう。しかも、用途を裏付ける効果が示されているのはイエシロアリだけで、ヤマトシロアリそのものに対する用途を裏付ける効果は明細書中に示されていなかった。
化学分野における発明の進歩性判断に、引例における具体的な効果を示すデータの記載の有無がどのように影響するのか参考になる事案である。


参考:

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