Apr 1, 2009

2008.12.15 「ニプロファーマ v. 富田製薬」 知財高裁平成20年(行ケ)10144

重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤: 知財高裁平成20年(行ケ)10144

【背景】
被告(富田製薬)が特許権者である「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」に関する特許(第2769592号)の請求項9及び10について、無効審判請求不成立の審決に不服の原告(ニプロファーマ)が審決取消訴訟を提起した。

争点は、
①実施可能要件及びサポート要件違反の有無、
②特開平2-311419号公報(甲2文献)に記載された発明との関係で新規性及び進歩性を有するか、
である。

請求項9:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

請求項10:
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

【要旨】

1. 実施可能要件及びサポート要件違反の有無について

原告は、
「本件特許明細書記載の方法によっても本件各特許発明の構成を有する造粒物は得られない」
と主張したが、裁判所は、
「本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件各特許発明の目的,構成及び効果が記載されると共に,かかる構成を有する造粒物を形成する方法が当業者が容易に実施できる程度に記載されているということができる。」
と判断した。

具体的には、
原告は、
「本件実施例3において酢酸ナトリウムを添加した混合物に特異な粘りが生じ粒子同士が付着し始めた後にブドウ糖が添加されていることを根拠として,コーティング層はブドウ糖が添加される前に既に形成されている,あるいはブドウ糖がコーティング層に含まれるとしても複数の塩化ナトリウム粒子が結合した造粒物の表面をコーティングしているものにすぎない」
と主張。
しかし、裁判所は、
「ブドウ糖が添加される以前に付着した塩化ナトリウム粒子が一部に存在するとしても,製造された造粒物を全体としてみれば,ブドウ糖を含むコーティング層を介して複数の塩化ナトリウム粒子が結合しているということができる。」
とした。

また、原告は、
「本件実施例3記載の方法に基づいて行われた甲1実験の結果,本件実施例3記載の方法によっては本件各特許発明の造粒物は得られないことが判明した」
と主張。
しかし、裁判所は、
「甲1実験においては各原料の分量につき,本件実施例3に記載された分量の約800分の1としており,添加する水の量も同様に約800分の1としていることが認められ,水の絶対量が少なくなった状態で本件実施例3と同様の条件下での加熱が行われたために,本件実施例3における造粒の進行に比べて乾燥が早く進行し,ブドウ糖が添加された段階では既に水分が失われ,酢酸ナトリウムは粘りを有する状態ではなかったと推測される。したがって,甲1実験の結果をもって原告主張のように本件実施例3記載の方法に基づき本件各特許発明の造粒物が得られないことの根拠とすることはできない。」
とした。

裁判所は、被告が提出した甲8実験の報告書について、
「甲8実験により得られた上記結果は,発明の詳細な説明の記載と矛盾するものではなく,これを裏付けるのに十分なものといえる。そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された方法では本件各特許発明の造粒物を得られないという原告の主張は採用することができない。」
と判断した。

2. 新規性・進歩性について

裁判所は、
「甲2文献に記載の造粒方法は,~塩化ナトリウム粒子及びブドウ糖粒子を核として,これらの粒子に塩化ナトリウム以外の電解質化合物によるコーティング層を形成する点で,ブドウ糖をコーティング層に含ませる本件特許発明9とは発想が異なるものである。したがって,本件特許発明9は甲2文献に記載された発明と同一であるということはできず,またこの発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものであるともいえない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
2006.07.31 「富田製薬 v. ニプロ」 知財高裁平成17年(行ケ)10736及び2008.05.15 「ニプロ v. 富田製薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10347では、請求項9及び10の進歩性が争われ、ニプロの無効請求は棄却されたが、本事件では記載要件を争点にニプロが再攻撃した事案。本件も富田製薬に軍配。

ニプロと富田製薬との間で争われていた一連の特許係争は、富田製薬の本件特許の一部クレームが無効とされ、"ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含む"という構成で限定された剤クレームしか特許として生き残らなかったため、ニプロの透析液粉末製剤「リンパック」が特許発明の技術的範囲外となったことで、一旦終結した。

ニプロの「リンパック」の構成は以下の製剤の組合せからなる。「リンパック」は、わざわざA-1剤とA-2剤(ブドウ糖)を分離した製剤である。

A-1剤: 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸(pH調整剤)。
A-2剤: ブドウ糖。
B剤: 炭酸水素ナトリウム。

これに対し、富田製薬・扶桑薬品販売の人工腎臓用粉末型透析用剤「キドライムT-30」の構成は以下の組み合わせ。ブドウ糖が他成分と混合済みの製剤である。

A剤: 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、、氷酢酸(pH調整剤)、ブドウ糖。
B剤: 炭酸水素ナトリウム。

但し、ニプロの「リンパック透析剤TA1」、「リンパック透析剤TA3」は、ブドウ糖が他成分と混合済みの製剤である。

本件で無効とされなかった請求項9及び10の存在は、ニプロにとって、使い勝手のよいブドウ糖混合済製剤への改良品のfreedom to operateに対して一定の障害となって残ることになると思われる。

参考:




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