May 13, 2009

2009.01.27 「惠民製藥 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10166

発明の要旨の認定と特許請求の範囲の用語の意義の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10166

【背景】
「直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法」に関する特許出願(特願2001-310741)の拒絶審決取消訴訟。

請求項1:

A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5~約99重量%及び/または薬学的活性成分0~約99重量%,
B)結合剤約1~約99重量%,及び
必要に応じて,
C)崩壊剤0~約10重量%
の全部または一部を使用した混合物を含み,
初期水分を約0.1~20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1~20%含む条件下において,約30℃~約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。

審決では、引例記載の造粒方法は本願発明の熱粘着式造粒方法と一致しており、両者の唯一の相違点は引例が「直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するため」のものであるか否か明確でない点であるとされ、本願発明の進歩性が否定された。

【要旨】

(1) 本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定ついて

被告(特許庁)は、

「本願発明に関して特許請求の範囲の記載に何ら不明確な点はなく,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから,審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは,あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって,上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然であるから,被告の上記主張は採用することができない。」

と判断した。

(2) 以上を前提として,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものであるかについて

裁判所は、

「引用発明は,従来の湿式造粒法における欠点を克服し,多量の水分を含有させずに粒状物を製造するという点では本願発明と共通の目的を有するものの,その目的を達成するための手段として低融点物質を加熱して溶融させるという方法を採用している点で,本願発明とは異なる方法によるものである。したがって,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものとした審決の判断は誤りである。」

と判断した。

これに対して被告は、

「引用例(甲1)の実施例にはトウモロコシデンプンを15重量部添加することが記載され,薬剤製造過程で使用されるトウモロコシデンプンの水分含有量が通常10%程度であることに照らせば,引用発明の諸材料中には本願発明における初期水分「約0.1~20%」の範囲内である1.5%程度の水分が含有されている」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「仮に,引用発明の諸材料中に1%を超える水分が含まれ,これを密閉系で加熱することによって容器内で水分が凝結することがあるとしても,引用例(甲1)には凝結した水分が結合剤に吸収されて粘性を生じさせるという記載はなく,低融点物質を溶融させて造粒を行うことが上記のとおり記載されているのである。そうすると,引用発明の諸材料中に通常含まれる水分が粒状物の製造に寄与するか,仮に寄与するとしてどのような役割を果たすのかについては,引用例には教示も示唆もされていないといわざるを得ない。したがって,引用発明の諸材料中に本願発明における「約0.1~20%」の範囲内の水分が含まれているとしても,それを根拠として引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するということはできない。
以上のとおり,審決は,本願発明と引用発明がいずれも「熱粘着式造粒方法」であるとした点で一致点の認定を誤ると共に,この点に係る相違点を看過したものであるところ,引用例(甲1)に「熱粘着式造粒方法」に関する教示も示唆もみられないことは,上記のとおりである。したがって,本願発明が引用発明との関係で進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】
本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であると決めつけた審決はやはり取り消されるべきものだろう。

裁判所は、「特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明を参酌することが許されないのは発明の要旨認定との関係において」のことであるというリパーゼ判決と同様の考え方を示しながら、一方、特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するに当たっては明細書等を参酌することは当然であるとした。
本判決の結論に賛成。しかし、結論の導き方についてであるが・・・特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するために明細書等を参酌することができるのは、発明の要旨認定作業の中で、且つ、リパーゼ判決において例示された「技術的意義が一義的に明確に理解することができない」等の「特段の事情」の場合に限り、許されるものなのだと私自身rigidな理解をしていた。どうも裁判所のニュアンスでは、特許出願に係る特許請求の範囲に記載された「用語の意義を解釈」するために明細書等を参酌するのは当然の作業であって、「発明の要旨認定」とは別のようである。とにかく特許請求の範囲の用語の解釈に疑義が生じないように気を配り、どうしても一義的に明確に理解できないのであれば明細書にきっちり説明しておくことが重要であることに変わりはない。

参考:
1991.03.08 「リパーゼ事件」 最高裁昭和62年(行ツ)3

「特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」

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