Jul 1, 2009

2009.03.31 「マイラン製薬 v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10358

補正「新たな技術的事項」の導入とは?: 知財高裁平成20年(行ケ)10358

【背景】

「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」に関する被告(クレハ)の特許(第3835698号)について、原告(マイラン製薬)が特許無効審判請求をしたところ特許庁が請求不成立の審決をしたことから原告がその取消しを求めた事案。
争点は、本件補正、いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの、が特17条の2第3項に違反するか等であった。

除くクレームとした本件手続補正は、同一出願人(被告クレハ)がした同日出願の請求項に係る発明と同一であるので,特39条第2項の拒絶理由を回避すべく行われたものだった。

請求項1:

フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):
R=(I15-I35)/(I24-I35) (1)
〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,

ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。

(下線部分は「除く記載」に係る部分)。

【要旨】

裁判所は、

「「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。
特許庁審査官が審査する際の審査基準には,上記にいう「除くクレーム」について,下記のように定めている(甲6)が,その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる(ただし,本文6行目「例外的に」とする部分を除く)。」

と言及し、以上の見地に立って、本件事案について検討した。

「本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。」

請求棄却。

【コメント】

補正が「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されるには、当業者を基準として、明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものである必要がある(参考:2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563)。

本判決について、本件補正が「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由は曖昧ではないか。裁判所は、別件特許と同一となる部分を特許請求の範囲から除くという「目的」を重視しているように感じるが、補正の「目的」と補正の「結果」はそもそも同じものなのか、異なりうるものなのか。「新たな技術的事項」を導入するものなのかどうかについての本判決における裁判所の検討は不十分に思う。
本件補正に関して、「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由については、同特許を扱った同日判決の2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065の判決文のほうが、まだわかりやすい。


参考:



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