Jul 12, 2009

2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489

数値限定と実施可能要件: 知財高裁平成18年(行ケ)10489

【背景】

「フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する特許(第3183520号)について、原告(バクスター)がした特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案。
原告は、①29条1項3号、②29条2項、③29条の2、④36条4項違反を主張した。

請求項1:
麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。

【要旨】

取消事由(実施可能要件(36条4項)についての判断の誤り)について

裁判所は、

「本件発明1のような組成物の発明においては,当業者にとって,当該組成物を構成する各物質名及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当該組成物がその所期する作用効果を奏するか否かを予測することが困難であるため,当該組成物を容易に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,発明の詳細な説明に,当該組成物がその所期する作用効果を奏することを裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。~本件各発明は,ルイス酸の存在下においても分解しないセボフルランを含有する安定した麻酔薬組成物を提供するため,ルイス酸抑制剤である水を麻酔薬組成物中に含有させ,もって,ルイス酸によるセボフルランの上記分解を防止することを目的とするものであるといえる。したがって,本件各発明が所期する作用効果は,セボフルランを含有する麻酔薬組成物について,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現すること(以下「所期の作用効果」という。)であると認めるのが相当である。」

と認定した。

原告は、

「本件各発明につき,本件数値の水によっても所期の作用効果を奏するものと発明の詳細な説明の記載からは当業者が理解し得ない」

旨主張した。

「発明の詳細な説明には,本件数値(少なくとも150ppm)の水を含ませることにより所期の作用効果を奏したとの直接の記載は一切なく,実験に用いられた水の量のうち本件数値に最も近似する水の量である109ppmの水しか存在しない場合にはセボフルランの分解を抑制することができず,206ppm以上の水が存在する場合にはセボフルランの分解を抑制することができたとの記載(実施例4のうち40℃の場合)があるのみである。」

この点に関し、被告は、

「109ppmと206ppmの中間値を本件数値として採用した」

旨主張した。

しかし、裁判所は、

なぜ109ppmの約1.38倍,206ppmの約0.73倍である150ppmとなるのかにつき,これを合理的に説明する証拠が一切ない以上,被告らの「もう少し水分を増加させ(た)」数値,「やや余裕を持たせた数値」との主張は,科学的な裏付けを欠いた単なる憶測にすぎないといわざるを得ない。~発明の詳細な説明に,水の量が増えるに従ってセボフルランの分解度が減少する傾向にあることが記載されていることからすると,109ppmと206ppmとの間に,所期の作用効果を奏する数値が存在する蓋然性が高いとはいえるが,それが両者の単純な中間値(157.5ppm)付近の数値であるといえる知見は何ら存在しない。~以上によれば,発明の詳細な説明には,本件各発明について,本件数値の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載があるものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はないから,発明の詳細な説明には,本件各発明の少なくとも各一部につき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるとはいえないというべきである。」

と判断した。

また、裁判所は、審決の判断について、

「審決は,前記第2の3(4)アのとおり,「発明の詳細な説明は,保存条件に応じて含まれる水の量が決められることを当業者に明らかにしているのであるから,下限値として示された『0.015%(重量/重量)』は,あくまでルイス酸による分解を防止できる最小量の目安として示されているのであって,あらゆる条件下においてルイス酸による分解を防止できる量であると解すべきものではない」として,「甲9で水の量0.0187%のサンプルでセボフルランの分解がみられたとしても,当該サンプルでは単にルイス酸抑制剤である水が0.0187%では不足であったことが推定されるだけであって,このことにより本件各発明が当業者に実施しえないとすることはできない」と判断した。確かに,前記(2)イの発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,セボフルランがルイス酸によって分解され,有害なフッ化水素酸等の分解産物を生じるとの課題を解決するため,ルイス酸抑制剤である水を含有させることにより,所期の作用効果を奏することを目的とするものと認められる。しかしながら,発明の詳細な説明には,本件各発明は,単に,ルイス酸抑制剤としての水を含有させればよいとするものではなく,水によるその「有効な安定化量」を問題とし,これを,「約0.0150%w/wから0.14%w/w(飽和レベル)である」とする旨の記載があるのであり,前記(4)の各実施例の記載をみても,そのほとんどにおいて,含有させる水の量を問題にし,水の量の多寡によって,所期の作用効果を奏するか否かを確認しているのであるから,本件数値は,所期の作用効果を奏する有効量を意味するものと解され,これを,場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」とみることはできない。したがって,審決の上記判断は,その前提を誤るものといわざるを得ない。」

と判断した。

その余の点について判断せず。

審決を取り消す。

【コメント】

組成物発明を構成する成分に数値限定がある場合(大抵、その数値は場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」を意味するのでではなく、所期の作用効果を奏する有効量を意味するであろう)には、発明の詳細な説明に当該数値の成分を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載、またはそのように認めるに足りる証拠がなければならない。

これまでの経緯は下記参照:



本件出願の分割出願であった特許3664648についての侵害訴訟も同日に判決:




No comments: