Jun 21, 2009

2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065

除くクレームと新たな技術的事項の導入: 知財高裁平成20年(行ケ)10065

【背景】

「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」に関する被告(クレハ)の特許(第3835698号)について、原告(テイコクメディックス)が特許無効審判請求をしたところ特許庁が請求不成立の審決をしたことから原告がその取消しを求めた事案。

争点は、
①本件補正、いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの、が特17条の2第3項に違反するか(取消事由1)、
②実施可能要件又はサポート要件違反があるか(取消事由2)、
③進歩性(特許法29条2項)を有するか(取消事由3)、

であった。
除くクレームとした本件手続補正は、同一出願人(被告クレハ)がした同日出願の請求項に係る発明と同一であるので,特39条第2項の拒絶理由を回避すべく行われたものだった。

請求項1:

フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):
R=(I15-I35)/(I24-I35) (1)
〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,

ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。

(下線部分は「除く記載」に係る部分)。


【要旨】

1. 取消事由1(新規事項の追加に当たらないとした判断の誤り)について

原告は、

「請求項に「ただし,…を除く。」といった消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)が記載された本件補正は,法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」における補正ということはできない」

と主張した。

しかし裁判所は、

「「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。

~上記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許されるか否かは,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるか否かという問題であって,法の定めを超えた例外を許容するものではない。「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではないからである。したがって,「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり,「例外的」な取扱いを想定する余地はないというべきである。」

として原告の主張を採用せず。

また、原告は、

「知財高裁大合議判決のような法29条の2が問題とされた事案と異なり,出願人である被告自身が出願当初から先行技術との重複を知り又は知り得たような本件においては,いわゆる「除くクレーム」による補正により救済すべきでない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「前記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許容されるのは,例外的な「救済」といった性格のものではなく,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるからである。そうである以上,その際考慮されるべきは明細書の記載といった客観的な事情であるべきであって,出願人の認識ないしその可能性といった主観的事情により補正の可否が左右されるべきものではない。」

とした。

以上の見地に立ち、裁判所は本件事案を検討し、本件補正の適否について、

「本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。」

と判断した。

なお、裁判所は、

「本件補正は,本件補正前に係る本件特許発明の技術的事項との対比において新たな技術的事項を導入するものであるから,本件補正は許されない」

との原告主張に対する補足的判断として、

「回折強度比(R値)についても,当業者において適宜決定すべきことが予定されていたものというべきである。~当初明細書に開示された本件特許発明の上記意義に照らせば,R値に特別の限定がないことは,R値が1.4以上の場合と1.4未満の場合とを問わず,経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度においてすべてのR値が含まれることを前提とするものと理解できるのであって,本件補正も,そのような理解を前提とした場合に甲6発明との間で生ずるR値が1.4以上のものについての重複を排除するため,これを除外するという意義を有するものである。以上のような本件特許発明における回折強度比(R値)の意義ないし本件補正の意義に照らせば,回折強度比(R値)につきいかなる値を設定するかは,本件特許発明の技術的事項に対し影響を与えるものではないというべきである。」

と言及した。


2. 取消事由2(細孔容積要件に関する明細書の記載不備に当たらないとした判断の誤り)について

原告は

「本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された製造例が,「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭」であることから,上記実施例以外の細孔容積に係る球状活性炭やこれを得る方法が記載されていないことは,明細書の記載不備(法36条4項1号,同条6項1号違反)に当たる」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「発明として特定された技術事項について,その全範囲を実施例等として示すことを求めるものではないのであって(それが現実的でないことは多言を要しない),実施可能要件(法36条4項1号)への適合性という観点では,明細書の記載及び出願時における当業者の技術常識に照らし当業者において当該発明を実施することが可能か否かを検討して判断すべきものであるし,明細書のサポート要件(法36条6項1号)への適合性という観点では,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」

と言及した上で、本件事案を検討し、原告の主張を採用せず。


3. 取消事由3(進歩性があるとした判断の誤り)について

裁判所は、原告の主張を採用せず。

請求棄却。

【コメント】

補正が「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは、明細書等に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断する。
新たな技術的事項を導入するものなのかどうかを判断する一般的基準については、本判決で示されていない。本事案については、発明(経口投与用吸着剤)としての基本的性質に反しない限度においてすべてのR値が含まれていることを前提とするものと理解されたことがポイントのようである。「新たな技術的事項を導入」するかどうかの判断基準の明確化は、今後の判決の積み重ねを待ちたい。
この補正の判断基準は、EPCでの補正のプラクティスとは大きく異なる。拒絶や無効の防御として、除くクレームは大きな選択肢となりそうだ。

参考:




Jun 17, 2009

先端医療分野における特許保護の在り方について

知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会の先端医療特許検討委員会は「先端医療分野における特許保護の在り方について(報告書)」をまとめた。「新用法・用量の医薬の発明を「物」の発明として保護すべく、具体的な事例を示しつつ、審査基準を改訂すべきである。」とまとめている。本委員会における提言を踏まえ、審査基準において具体的にどのように改訂するかについては、今後特許庁において詳細に検討が行われる。パブリックコメントの結果も興味深い。

参照:



過去記事:




Jun 11, 2009

2009.06.05 「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」

厚生労働省は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」を各都道府県衛生主管部(局)長宛に通知した(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号/薬食審査発第0605014号)。併せて、平成6年10月4日付け薬審第762号審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」の一部も改正。

以下はその抜粋。

1.後発医薬品の薬事法上の承認審査にあたっては次のとおり取り扱うこと。なお、以下について、特許の存否は承認予定日で判断するものであること。

(1)先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと。

(2)先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、「効能・効果等」という。) に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとすること。この場合、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと。

(3)なお、効能・効果等の開発に伴い、既に製造販売の承認を与えられている医薬品と明らかに異なる効能・効果等が認められた医薬品等については、原則として、4年間の再審査期間を付すこと等とされているので、申し添える。

2.後発医薬品の薬価収載に当たり、特許に関する懸念がある品目については、従来、事前に当事者間で調整を行い、安定供給が可能であると思われる品目についてのみ収載手続きをとるよう求めているところ(「後発医薬品の薬価基準への収載等について(平成21年1月15日付け医政経発第0115001号)」参照)、上記1.に係わらず、本件について引き続き遺漏ないよう対応すること。

3.その他



なお、同日付で、厚生労働省医薬食品局審査管理課は「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査に係る医薬品特許の取扱いについて」(案)に関する意見募集に対して寄せられたパブリックコメントについて結果を公示した。

参照:



関連:



Jun 10, 2009

2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10459

特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10459

【背景】

「長期徐放型マイクロカプセル」に関する特許(第2653255号)の特許権者である原告(武田薬品)が、リュープリンSR注射用キット11.25(有効成分: 酢酸リュープロレリン)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700082)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2007-29494号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

審決の理由は、
「本件処分の対象となった医薬品である「リュープリンSR注射用キット11.25」の「有効成分」は「酢酸リュープロレリン」、「効能・効果」は「閉経前乳癌」であるところ、「酢酸リュープロレリン」を「閉経前乳癌」に使用する医薬品である「リュープリン注射用3.75」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認(「先行処分」)されていることからすれば、有効成分(物)、効能・効果(用途)が同じ医薬品が既に承認を受け、安全性、有効性の点でその禁止が解除されていたものであって、本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
というものだった。

原告は、この審決に対して、
(1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
(2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
(3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。


【要旨】

2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458と同様の判決内容。

審決を取り消す。


参考:


Jun 8, 2009

2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460

特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10460

【背景】

徐放性モルヒネ製剤に関する特許(第3134187号)の特許権者である原告(武田薬品)が、パシーフカプセル30mg(有効成分: 塩酸モルヒネ)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700090)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2006-20937号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

審決の理由は、
「本件処分の対象となった医薬品である「パシーフカプセル30mg」の「有効成分」は「塩酸モルヒネ」、「効能・効果」は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であるところ、「塩酸モルヒネ」を「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に使用する医薬品である「オプソ内服液5mg・10mg」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認され(「先行処分」)、販売開始されていることからすれば、「塩酸モルヒネ」を「有効成分(物)」とし、同一の「効能・効果(用途)」を有する医薬品は本件処分以前に既に承認されていたものであって、該医薬品の有効成分、効能・効果以外の剤形などの変更の必要上新たに処分を受ける必要が生じたとしても本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
というものだった。

原告は、この審決に対して、
(1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
(2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
(3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。

【要旨】

2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458
と同様の判決内容。
審決を取り消す。


Jun 1, 2009

2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458

特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈: 知財高裁平成20年(行ケ)10458

【背景】

徐放性モルヒネ製剤に関する特許(第3677156号)の特許権者である原告(武田薬品)が、パシーフカプセル30mg(有効成分: 塩酸モルヒネ)の承認処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2005-700093)をしたが、拒絶査定・拒絶審決(不服2006-20940号)を受けたので審決取消訴訟を提起した。

審決の理由は、
「本件処分の対象となった医薬品である「パシーフカプセル30mg」の「有効成分」は「塩酸モルヒネ」、「効能・効果」は「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であるところ、「塩酸モルヒネ」を「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」に使用する医薬品である「オプソ内服液5mg・10mg」(「先行医薬品」)が本件処分の前に承認され(「先行処分」)、販売開始されていることからすれば、「塩酸モルヒネ」を「有効成分(物)」とし、同一の「効能・効果(用途)」を有する医薬品は本件処分以前に既に承認されていたものであって、該医薬品の有効成分、効能・効果以外の剤形などの変更の必要上新たに処分を受ける必要が生じたとしても本件発明の実施に特67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は同法67条の3第1項1号の規定により拒絶すべきである」
というものだった。

原告は、この審決に対して、
(1)特67条の3第1項1号の文言の解釈に当たり,同法68条の2の規定を参酌した誤り
(2)特67条の3第1項1号の解釈・適用の誤り
(3)特68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」についての解釈の誤り
を主張、さらに原告の主張の正当性を裏付ける学識経験者(特許権の存続期間の延長制度の創設に携わった面々)等の論文及び意見等を提出した。

【要旨】

裁判所は、
「先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点(特68条の2)は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点(特67条の3第1項1号)と,常に直接的に関係する事項であるとはいえない。むしろ,本件を含む,特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては,拒絶すべきとの査定(審決)の根拠法規である特67条の3第1項1号の要件適合性を検討することが必須である。」
として、まず特67条の3第1項1号の観点から検討した。

1. 特67条の3第1項1号該当性の誤り

裁判所は、

「特許法67条の3第1項1号は,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が,延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,

①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと,又は,
②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

を論証する必要があるということになる(なお,特許法67条の2第1項4号及び同条2項の規定に照らし,「政令で定める処分」の存在及びその内容については,出願人が主張,立証すべきものと解される。)。換言すれば,審決において,そのような要件に該当する事実がある旨を論証しない限り,同号所定の延長登録の出願を拒絶すべきとの判断をすることはできないというべきである。」

との一般原則を示し、上記観点から本件事案を検討し、

「審決は,その「4-1 医薬品における『物』と『用途』の解釈」の項における説示の当否にかかわらず,本件先行処分の存在を理由として,本件発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから,本件出願は特許法67条の3第1項1号により拒絶すべきであると判断した点に誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響することは明らかである。」

と判断した。


2. 先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲についての誤り

裁判所は、

「「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合,「政令で定める処分」の対象となった「物」とは,当該承認により与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するものというべきである。なお,薬事法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」とは,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではない。
以上のとおり,特許発明が医薬品に係るものである場合には,その技術的範囲に含まれる実施態様のうち,薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施,及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ,延長された特許権の効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,技術的範囲の通常の理解に照らして,当然であるといえる。)。」

と判断した。

被告(特許庁)は、

「医薬品については,特許法68条の2にいう「物」が「有効成分」,「用途」が「効能・効果」を意味するものとして立法されたことは明らかである」

と主張した。しかし、裁判所は、

「文理解釈上の根拠はなく,また,その合理性もない。~被告の指摘に係る~資料ないし文献は~いずれも立法府の見解を示すものとはいえない。」

として、被告主張を採用しなかった。

さらに、裁判所は、

「仮に,特許法68条の2の「物」を「有効成分」と解釈するとしたならば,薬事法所定の承認を受けた医薬品を技術的範囲に含まない請求項に係る発明についてまで,存続期間の延長登録の効果を及ぼすことになり,そのような結果は,特許権者に不当な利益を与え,本来の存続期間の満了後に特許発明を実施しようとする者に著しい不利益を課すことになり,存続期間の延長登録の制度の趣旨に反する,不公平な結果を招く。」

と言及、特68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)にいう「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」であるとしてした審決の判断には誤りがあると結論した。

審決を取り消す。

【コメント】

本判決の要点は下記のとおり。

(1)特67条の3第1項1号で定める「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められない」との拒絶するためには、
  • ①「政令で定める処分」を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと、又は
  • ②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

を審査官が論証する必要があるとされ(もはや言及するまでもなく、この点に特68条の2を参酌する理由はないだろう)、新剤型医薬品の承認に基づいて製剤特許の存続期間延長登録が認められ得ることになった。

(2)一方、特68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)の「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、薬事法所定の承認である場合、医薬品の「有効成分」を意味するのではなく、医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味するとされ、延長された特許権の効力は、医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての特許発明の実施(及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての特許発明の実施)についてのみ及ぶとされた。


ここで、存続期間が延長された場合の特許権の効力について、「パシーフカプセル30mg」を具体例に考えてみる。「パシーフカプセル30mg」の添付文書によると、「成分」は下記のとおりである。

  • 有効成分: モルヒネ塩酸塩水和物
  • 添加物: 結晶セルロース、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドンK30、マクロゴール6000、酒石酸、ヒプロメロース、タルク、エチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、セタノール

仮に、「成分」において一部の添加物が異なる「パシーフカプセル30mg」の後発品が承認されたとすると、厳密に言えば、該後発品の「成分」は先発品である「パシーフカプセル30mg」と同一ではない。しかし、判決で言及されているように、「もとより、その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然」であろうから、このような場合であっても、上記存続期間が延長された特許権が存在する限り、後発品の製造・販売行為はやはり侵害(均等?)と判断されるであろうと考えられる。

本件にて審決の判断に誤りがあったと裁判所が判断したことにより、知財高裁平成18年(行ケ)10311など本件と同様の事案について特許庁の主張を支持してきた各判決についても同様の誤りがあるということになり、本判決によって事実上判例の変更がされたといえる。知財高裁平成18年(行ケ)10311で下された判決内容に対して腑に落ちなかった問題点が、今回検討されており、本判決は非常に説得力のある結論を導いたと個人的には感じている。

ところで、製剤技術に関する特許権の存続期間延長登録制度について検討してきた産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループの議論は収束していない。今回の判決がワーキンググループにとってタイミングが良いのか悪いのか、もし議論を再開するのであれば、本判決で示されたことを前提に論点の整理及び仕切り直しが必要だろう。


参考:


2009.05.27 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10478

処分の対象が「特許発明の構成要件として明確に特定され」ていることが必要?: 知財高裁平成20年(行ケ)10478

「有核顆粒およびその製造法」に関する特許(第2120237号)の特許権者である原告(武田薬品)が、タケプロンOD錠15(有効成分: ランソプラゾール)の製造承認事項の一変に係る処分に基づき、本件特許につき特許権の存続期間の延長登録の出願(延長登録出願2006-700072)をしたが、拒絶査定/拒絶審決を受けたので審決取消訴訟を提起した。判決内容は下記判決とほぼ同じ。

参照: