Jul 27, 2009

PCT経由の米国特許に与えられるべきPTAのB delay

日本たばこ(Japan Tobacco)が、PCT経由の抗体に関する米国特許に与えられるべきPTA(patent term adjustment)のB delayについてUSPTOの算定方法に誤りがある(約2年分も!)ことを指摘したようです。PCT経由で米国出願して特許を取得した場合、USPTOによるPTAの算定が妥当なものかどうか念のため確認する必要があるでしょう。

参考:



Jul 23, 2009

2009.07.16 「第5回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

2009年7月16日、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会 第5回特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループが開催されました。

今後のWGの進め方(案)によれば・・・やはり仕切り直しになったようです。

「平成21年5月29日に言い渡された平成20年(行ケ)第10458~10460号事件判決は、過去の東京高等裁判所或いは知的財産高等裁判所の判断(例えば、平成17年(行ケ)第10345号事件判決や平成18年(行ケ)第10311号事件判決)と異なるものであり、現在、最高裁判所に対し、上告受理申立てが行われている。
最高裁判所の判断によっては、これまで延長制度の対象とされていなかった「ドラッグデリバリーシステムのように革新的な製剤技術を用いた剤型のみが異なる革新的医薬の処分」が、対象とされる可能性がある。そのため、現時点では、本WGで検討すべき課題が定まらず、議論を進める状況にない。
そこで、本WGでは、最高裁判所の判断を待って、その内容を踏まえて論点整理をした後、医薬品分野の延長制度についての審議を再開することとする。」


ところで、参考資料として「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日医政経発第0605001号 薬食審査発第0605014号)」が配布されています。延長制度の対象に限らず、権利行使の場面でも、バランスよく整合性のとれた実現可能な制度設計がされることを期待します。


配布資料はこちら


参考:



Jul 12, 2009

2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489

数値限定と実施可能要件: 知財高裁平成18年(行ケ)10489

【背景】

「フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する特許(第3183520号)について、原告(バクスター)がした特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案。
原告は、①29条1項3号、②29条2項、③29条の2、④36条4項違反を主張した。

請求項1:
麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。

【要旨】

取消事由(実施可能要件(36条4項)についての判断の誤り)について

裁判所は、

「本件発明1のような組成物の発明においては,当業者にとって,当該組成物を構成する各物質名及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当該組成物がその所期する作用効果を奏するか否かを予測することが困難であるため,当該組成物を容易に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,発明の詳細な説明に,当該組成物がその所期する作用効果を奏することを裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。~本件各発明は,ルイス酸の存在下においても分解しないセボフルランを含有する安定した麻酔薬組成物を提供するため,ルイス酸抑制剤である水を麻酔薬組成物中に含有させ,もって,ルイス酸によるセボフルランの上記分解を防止することを目的とするものであるといえる。したがって,本件各発明が所期する作用効果は,セボフルランを含有する麻酔薬組成物について,セボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し,安定した麻酔薬組成物を実現すること(以下「所期の作用効果」という。)であると認めるのが相当である。」

と認定した。

原告は、

「本件各発明につき,本件数値の水によっても所期の作用効果を奏するものと発明の詳細な説明の記載からは当業者が理解し得ない」

旨主張した。

「発明の詳細な説明には,本件数値(少なくとも150ppm)の水を含ませることにより所期の作用効果を奏したとの直接の記載は一切なく,実験に用いられた水の量のうち本件数値に最も近似する水の量である109ppmの水しか存在しない場合にはセボフルランの分解を抑制することができず,206ppm以上の水が存在する場合にはセボフルランの分解を抑制することができたとの記載(実施例4のうち40℃の場合)があるのみである。」

この点に関し、被告は、

「109ppmと206ppmの中間値を本件数値として採用した」

旨主張した。

しかし、裁判所は、

なぜ109ppmの約1.38倍,206ppmの約0.73倍である150ppmとなるのかにつき,これを合理的に説明する証拠が一切ない以上,被告らの「もう少し水分を増加させ(た)」数値,「やや余裕を持たせた数値」との主張は,科学的な裏付けを欠いた単なる憶測にすぎないといわざるを得ない。~発明の詳細な説明に,水の量が増えるに従ってセボフルランの分解度が減少する傾向にあることが記載されていることからすると,109ppmと206ppmとの間に,所期の作用効果を奏する数値が存在する蓋然性が高いとはいえるが,それが両者の単純な中間値(157.5ppm)付近の数値であるといえる知見は何ら存在しない。~以上によれば,発明の詳細な説明には,本件各発明について,本件数値の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載があるものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はないから,発明の詳細な説明には,本件各発明の少なくとも各一部につき,当業者がその実施をすることができる程度の記載があるとはいえないというべきである。」

と判断した。

また、裁判所は、審決の判断について、

「審決は,前記第2の3(4)アのとおり,「発明の詳細な説明は,保存条件に応じて含まれる水の量が決められることを当業者に明らかにしているのであるから,下限値として示された『0.015%(重量/重量)』は,あくまでルイス酸による分解を防止できる最小量の目安として示されているのであって,あらゆる条件下においてルイス酸による分解を防止できる量であると解すべきものではない」として,「甲9で水の量0.0187%のサンプルでセボフルランの分解がみられたとしても,当該サンプルでは単にルイス酸抑制剤である水が0.0187%では不足であったことが推定されるだけであって,このことにより本件各発明が当業者に実施しえないとすることはできない」と判断した。確かに,前記(2)イの発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,セボフルランがルイス酸によって分解され,有害なフッ化水素酸等の分解産物を生じるとの課題を解決するため,ルイス酸抑制剤である水を含有させることにより,所期の作用効果を奏することを目的とするものと認められる。しかしながら,発明の詳細な説明には,本件各発明は,単に,ルイス酸抑制剤としての水を含有させればよいとするものではなく,水によるその「有効な安定化量」を問題とし,これを,「約0.0150%w/wから0.14%w/w(飽和レベル)である」とする旨の記載があるのであり,前記(4)の各実施例の記載をみても,そのほとんどにおいて,含有させる水の量を問題にし,水の量の多寡によって,所期の作用効果を奏するか否かを確認しているのであるから,本件数値は,所期の作用効果を奏する有効量を意味するものと解され,これを,場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」とみることはできない。したがって,審決の上記判断は,その前提を誤るものといわざるを得ない。」

と判断した。

その余の点について判断せず。

審決を取り消す。

【コメント】

組成物発明を構成する成分に数値限定がある場合(大抵、その数値は場合によっては所期の作用効果を奏しないこともあるという意味での単なる「目安」を意味するのでではなく、所期の作用効果を奏する有効量を意味するであろう)には、発明の詳細な説明に当該数値の成分を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載、またはそのように認めるに足りる証拠がなければならない。

これまでの経緯は下記参照:



本件出願の分割出願であった特許3664648についての侵害訴訟も同日に判決:




Jul 1, 2009

2009.03.31 「マイラン製薬 v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10358

補正「新たな技術的事項」の導入とは?: 知財高裁平成20年(行ケ)10358

【背景】

「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」に関する被告(クレハ)の特許(第3835698号)について、原告(マイラン製薬)が特許無効審判請求をしたところ特許庁が請求不成立の審決をしたことから原告がその取消しを求めた事案。
争点は、本件補正、いわゆる「除くクレーム」を内容とするもの、が特17条の2第3項に違反するか等であった。

除くクレームとした本件手続補正は、同一出願人(被告クレハ)がした同日出願の請求項に係る発明と同一であるので,特39条第2項の拒絶理由を回避すべく行われたものだった。

請求項1:

フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式(1):
R=(I15-I35)/(I24-I35) (1)
〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,

ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。

(下線部分は「除く記載」に係る部分)。

【要旨】

裁判所は、

「「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。
特許庁審査官が審査する際の審査基準には,上記にいう「除くクレーム」について,下記のように定めている(甲6)が,その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる(ただし,本文6行目「例外的に」とする部分を除く)。」

と言及し、以上の見地に立って、本件事案について検討した。

「本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。」

請求棄却。

【コメント】

補正が「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されるには、当業者を基準として、明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものである必要がある(参考:2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563)。

本判決について、本件補正が「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由は曖昧ではないか。裁判所は、別件特許と同一となる部分を特許請求の範囲から除くという「目的」を重視しているように感じるが、補正の「目的」と補正の「結果」はそもそも同じものなのか、異なりうるものなのか。「新たな技術的事項」を導入するものなのかどうかについての本判決における裁判所の検討は不十分に思う。
本件補正に関して、「新たな技術的事項」を導入するものではないと結論付ける理由については、同特許を扱った同日判決の2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065の判決文のほうが、まだわかりやすい。


参考: