Aug 20, 2009

2009.08.18 「フロモックス(Flomox): 塩野義、沢井製薬を提訴」

塩野義は、「フロモックス®(Flomox®)」(一般名:セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物(Cefcapene Pivoxil Hydrochloride Hydrate))の特許権に基づき、後発品販売を開始した沢井製薬に対して、大阪地裁に特許権侵害訴訟を提起し、同時に仮処分命令申立てを行いました。「フロモックス®」の物質特許は2008年10月23日に満了、結晶特許(特許番号:2960790号)の存続期間満了日は2011年3月25日となっているとのことです。

塩野義プレスリリース:



過去関連記事:




Aug 19, 2009

2009.04.27 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10353

明細書に具体的に記載されていない効果: 知財高裁平成20年(行ケ)10353


【背景】

「チアゾリジンジオンおよびスルホニルウレアを用いる糖尿病の治療」に関する出願(WO98/57649; 特表2001-523270)が進歩性無しを理由に拒絶とされた審決取消訴訟。

請求項1:

糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物であって,2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)またはその医薬上許容される塩;およびグリベンクラミド,グリピジド,グリクラジド,グリメピリド,トラザミド,トルブタミドまたはレパグリニドから選択されるインスリン分泌促進物質,および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。

(1) 引用発明の内容
ピオグリタゾンとグリベンクラミドとを組み合わせてなる,糖尿病時の血糖値の上昇を抑制する医薬。

(2) 一致点
糖尿病および糖尿病関連症状の治療に用いられる医薬組成物であって,インスリン感受性増強剤とインスリン分泌促進物質としてのグリベンクラミドを含む医薬組成物である点。

(3) 相違点
相違点1
本願発明は医薬上許容される担体を含むのに対し,引用発明は医薬上許容される担体を含むことが特定されていない点。

相違点2
本願発明では,インスリン感受性増強剤が2ないし8mgの5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(化合物I)であるのに対し,引用発明では,インスリン感受性増強剤がピオグリタゾンであり,その含有量が特定されていない点。

【要旨】

1. 相違点2についての容易想到性の判断の誤りについて

原告は、

「①引用例は,本願発明が規定する,化合物(I)またはその医薬上許容される塩と,グリベンクラミドをはじめとする特定のインスリン分泌促進剤という特定かつ具体的な組合せを教示ないし示唆するものではない,②引用例の表2の動物実験データは良好なものなので,当業者がピオグリタゾンと異なるインスリン感受性増強剤を用いる動機付けは存在しない」

などと主張した。

しかし、裁判所は、

「本願発明に用いるロシグリタゾンは,前記引用例の記載において,好適なインスリン感受性増強剤として例示された10数個程度の化合物のうちの一つであり,これを上記ピオグリタゾンに代えて上記グリベンクラミドと組み合わせることに格別の困難は認められない。」

と判断した。

また、原告は、

「本願発明の化合物(I)の最適用量の決定は,数多くの臨床データを積み重ね,これらを十分に精査し,副作用の危険性をも考慮してなされたものであり,そこで用いられた手法は通常のものであったとしても,臨床試験に着手してから結論に至るまでには,多大な労力,費用,時間が費やされたのであるから,当業者が適宜定め得るとはいえない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願発明の化合物(I)すなわちロシグリタゾンの最適用量の決定に多大な労力,費用,時間が費やされたとしても,通常想定されることであり,ロシグリタゾンの用量を決定したことに,当業者が格別の創意を要したものとはいえない。そして,「2ないし8mg」という用量も,医薬化合物の用量として当業者が想定し得る通常のものといえるから,当業者が容易になし得たものである。なお,原告は,上記用量の根拠として臨床実験データ(甲5の1,2)を提出しているが,上記用量を決定するために通常行なわれる実験にすぎず,上記判断を左右するものではない。」

と判断した。


2. 本願発明の顕著な作用効果の看過について

本願明細書には以下の記載がある。

ア「今回,驚くべきことに,インスリン分泌促進物質と組み合わされた化合物(Ⅰ)が血糖制御に対して特に有効な効果を発揮することが示された。それゆえ,かかる組合せは糖尿病,特にⅡ型糖尿病および糖尿病関連症状の治療に特に有用である。その治療を行う場合も最小限の副作用しか生じないことが示されている。」(6頁12~16行)
イ「本発明治療により提供される血糖制御に対する特に有益な効果は,個々の有効成分の合計に関して期待される対照効果に対する相乗効果であることが示される。慣用的方法,例えば,絶食時の血漿グルコースまたは糖鎖付加ヘモグロビン(HbA1c)のごとき典型的に使用される血糖制御指数により血糖制御を特徴づけてもよい。」(10頁8~13行)

特許庁は、

「同効果は,本願明細書に具体的に記載されていない効果であり,これをもって本願発明の進歩性の根拠とすることはできない」

と主張した。

しかし、裁判所は、以上の記載から、

「本願発明におけるインスリン分泌促進物質と組み合わされた化合物(Ⅰ)が血糖制御に対して有効であるという作用効果を奏することが認められる。」

と認定し、本願発明の上記作用効果が、引用発明から予測されない顕著な作用効果といえるか否かについて検討した。

原告は、
甲6(スルホニルウレア(グリピシド))とロシグリタゾンを併用投与した試験)及び甲7(スルホニルウレアとピオグリタゾンを併用投与した試験)等に示された結果を総合すると、

「本願発明には,長期間にわたって血糖値をうまく制御することができ,患者が低血糖症に陥ることがなく,しかも血圧の適度な低下もみられることは明らかであり,このような効果は,引用発明からは予測もできない顕著な作用効果を奏するものといえる。」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「甲7の実験ではスルホニルウレアの物質を特定しておらず,それがグリベンクラミドとピオグリタゾンとの併用投与の場合(引用発明)であるということはできない。~HbA1cの改善の割合はむしろ後者の方が高くなっている。~甲6の実験と甲7の実験とを対比した場合,少なくとも治験の対象となる患者の病状や投与量の増加割合といった試験条件が異なるものである」
ことから、本願発明の血糖制御の作用効果は,引用発明から予測できない顕著な作用効果ということはできないと判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願発明の化合物IはRosiglitazone(ロシグリタゾン)。インスリン抵抗性改善型2型糖尿病治療薬「マレイン酸ロシグリタゾン」として海外で販売(製品名: Avandia)。
「作用効果に関して薬理データ等の具体的記載が明細書には存在しないから進歩性の根拠とならない」という特許庁の主張について、裁判所は、触れることなく、明細書中の「血糖制御に対して特に有効な効果を発揮することが示された~個々の有効成分の合計に関して期待される対照効果に対する相乗効果であることが示される。」等の定性的な記載に基づいて「血糖制御に対して有効であるという作用効果を奏することが認められる」とし、血糖制御の作用効果に関して出願後に提出された具体的な証拠資料を参酌したうえで、進歩性の判断をした(進歩性は結局否定されたが)。医薬発明の"進歩性"判断に、明細書に具体的な薬理データを要求する(定性的な記載はダメとする)特許庁の主張、言わば"進歩性主張のための明細書記載要件"について、そのような要件は特許法29条2項には規定されていない(薬理データは実施可能要件で要求されるかもしれないが、進歩性判断とは関係ない)という立場のもと、裁判所は本事案を判断した、と理解したい。

関連:



参考:

  • 審査基準 第II部第2章 新規性・進歩性 2.5論理づけの具体例 (3)引用発明と比較した有利な効果

    (抜粋)

    引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。

    ②意見書等で主張された効果の参酌
    明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。



Aug 6, 2009

2009.08.06 特許庁 「医薬発明」の改訂審査基準(案)に対する意見募集について

特許庁が「産業上利用することができる発明」の改訂審査基準(案)及び「医薬発明」の改訂審査基準(案)に対する意見募集をしています。意見募集期限は9月5日。これに伴い、関連する出願については審査への着手を改訂審査基準の最終版の公表まで待つこととしています。

  • 「医薬発明」の改訂審査基準(案)


  • 「医薬発明」の現行審査基準



  • 参照:


    過去関連:


    Aug 1, 2009

    2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(ネ)10075

    作用効果無関係の抗弁: 知財高裁平成18年(ネ)10075

    【背景】
    「フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する特許権(特許第3664648号)を共有する被控訴人(アボット及びセントラル硝子)らが、控訴人(バクスター)製品の生産方法は本件特許発明の技術的範囲に属すると主張して、控訴人製品の販売等の差止めを求めた事案。
    原判決は、本件特許発明が物を生産する方法の発明に該当するとした上、控訴人方法の各構成がそれぞれ本件特許発明の各構成要件を充足するものと認め、他方、本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断し、結局、被控訴人らの請求はいずれも理由があるものとしてこれを認容した。
    そこで、控訴人は、差止請求の可否を争うとともに、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとの各抗弁を追加提出するなどした。

    請求項1:

    「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,
    内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,
    一定量のセボフルランを供する工程,
    該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び
    該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程
    を含んでなることを特徴とする方法。」

    控訴人方法の構成d(エポキシフェノリックレジンのラッカー)が本件特許発明の構成である「ルイス酸抑制剤」に該当するかどうかが問題となった。

    【要旨】
    1 争点2-3(構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制効果を有するか)について

    裁判所は、

    「構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」の技術的意義について~本件特許発明においては,ルイス酸抑制剤により容器由来ルイス酸を中和することを手段として,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との作用効果を実現するものであるから,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止が容器由来ルイス酸の中和と関係なく実現される場合には,ルイス酸抑制剤が,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすとはいえず,そのような場合におけるルイス酸抑制剤は,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しないものと解するのが相当である。換言すれば,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当するためには,当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められることを要すると解すべきである。そして,本件特許発明の上記目的及び上記アの本件明細書の各記載によれば,本件特許発明は,ルイス酸抑制剤による容器内壁の被覆後,容器内壁とセボフルランとが接触することを当然の前提にしているものと解される。したがって,容器由来ルイス酸とセボフルランとが接触するものと認められない場合~には,容器由来ルイス酸とセボフルランとの接触があるものとは認め難く,それ故,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止とルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないものと解するのが相当である。

    ~上記~によれば,構成dにおいては,EPRにルイス酸抑制剤としての作用効果があると仮定してみても,ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないから,構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」が構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に該当するということはできない。

    ~以上のとおりであるから,その余の各争点について判断するまでもなく,被控訴人らの請求は,いずれも理由がない。」

    と判断した。

    原判決を取り消す。

    【コメント】

    裁判所は、本件クレームの構成要件であるルイス酸抑制剤に該当したとしても、当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められなければ、本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しない、と判断した。本判決文で示された「作用効果に当業者の認識を踏まえた因果関係がないとして特許発明の技術的範囲に属しない」とするロジックに基づく抗弁を、勝手ながら以下「作用効果無関係の抗弁」と呼ぶ。

    「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制作用を有する点は、地裁判決では認定された点であった。確かに、特許請求の範囲の記載に基づけば、被疑侵害行為は本件発明の技術的範囲に属するようであるし、結果的にはセボフルランの分解防止という効果も実現するという点で一致している。しかし、その分解防止のメカニズムが異なるのである。知財高裁は、その中和作用と分解防止効果との因果関係を問題視して技術的範囲を狭く解釈した。

    役立つのか役立たないのか不明な、いわゆる「作用効果不奏功の抗弁」という反論ロジックは、効果を奏しないと主張する点がポイントだが、「作用効果無関係の抗弁」というロジックは、作用効果はあっても因果関係が無いと主張する点がポイントである。しかし、そもそもどんな因果関係を証明すればいいのか、どうすれば因果関係が無いことを証明できるのか・・・この判決ロジックが侵害・非侵害の判断を逆に予測しにくいものにしてしまってはいないか気になるところである。

    例えば、本事案の「ルイス酸抑制剤」を「胃酸抑制剤」に置き換えて下記の事例(分野は異なり、同列に議論できる事例ではないかもしれないが・・・)を考えるとどうなるだろうか。被疑侵害者は、「作用効果無関係の抗弁」により侵害を免れることができるだろうか。一方、特許権者にしてみれば、どんな因果関係を証明すれば被疑侵害品を特許発明にいう「胃酸抑制剤」に該当するといえるだろうか。


  • 特許クレーム:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び胃酸抑制剤を含有する胃潰瘍防止剤」

    明細書には、
    「抗ピロリ菌化合物(I)と胃酸を中和する胃酸抑制剤とを含有する薬剤が、胃潰瘍を防止する相乗効果を実現する。胃酸抑制剤は胃酸を中和する化合物であればよい。」
    と記載されていた。



  • 被疑侵害品1:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び胃酸分泌抑制剤を含有する胃潰瘍防止剤」
    該胃酸分泌抑制剤は、直接胃酸の分泌を抑制する作用メカニズムによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該胃酸分泌抑制剤は、その化学構造から理論上、酸を中和する。「胃酸の分泌抑制」は広い意味での「胃酸の抑制」という概念に含まれるようにも解釈されるかもしれない。



  • 被疑侵害品2:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び抗不安薬を含有する胃潰瘍防止剤」
    該抗不安薬は、中枢神経系に作用して間接的に胃酸の分泌を抑制する作用メカニズムによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該抗不安薬は、その化学構造から理論上、酸を中和する。さらに「胃酸の分泌抑制」は広い意味での「胃酸の抑制」という概念に含まれるようにも解釈されるかもしれない。



  • 被疑侵害品3:
    「抗ピロリ菌化合物(I)及び担体を含有する胃潰瘍防止剤」
    該担体は、代謝されやすい抗ピロリ菌化合物(I)の血中濃度維持に寄与することによって胃潰瘍を防止する効果を実現するものだった。
    但し、該医薬上許容可能な担体は、その化学構造から理論上、酸を中和する。




  • 参考:

  • 原判決: 2006.09.28 「アボット・セントラル硝子 v. バクスター」 東京地裁平成17年(ワ)10524



  • 本件出願の親出願であった特許第3183520号についての審決取消訴訟も同日に判決: 2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489