Nov 29, 2009

2009.10.22 「アルコン v. 参天製薬」 知財高裁平成21年(行ケ)10216

「タフロタン」の不使用取消訴訟: 知財高裁平成21年(行ケ)10216

【背景】

不使用取消審判請求した原告(アルコン)が、請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。

本件商標
商標登録番号: 第4821347号
商標の構成: 「タフロタン」の文字及び「Taflotan」の文字を二段に横書きして成る。
指定商品: 第5類「薬剤」
設定登録日: 平成16年11月25日
審判請求登録日:平成20年6月17日

【要旨】

裁判所は下記のとおり判断した。

1. 取消事由1(法50条1項の使用の事実を認定した誤り)について

「被告は,自らの商品である本件治療剤に本件ラベルをもって「Taflotan」及び「TAFLOTAN」の商標を付し,「Taflotan」及び「タフロタン」との商標が付された本件包装箱に包装した上,これらを輸出しているところ,これらの商標から「タフロタン」の称呼が生ずることは明らかであり,これらの商標はいずれも「タフロタン」の文字と「Taflotan」の文字を二段に横書きして成る本件商標と社会通念上同一と認められる。そうすると,被告は,~本件審判請求の登録(平成20年6月17日)前3年以内に日本国内において本件商標を使用したものと認められる。」

2. 取消事由2(法50条の「使用」に「輸出」を含むとした判断の誤り)について

「不使用取消審判の場面における「使用」の概念を法2条3項各号において定義されているものと別異に理解すべき理由はない。
この点について,原告は,法2条3項2号に規定する標章の使用に当たる行為に「輸出」が加えられたのが法改正(判決注:平成18年法律第55号による改正をいう。)によるものであることから,法改正前には使用に当たらなかった輸出については,法改正後も使用に当たらないと解すべきであるとの趣旨の主張をするが,少なくとも法改正後の現在においては上記のとおりに解されるべきものであるから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件輸出行為が被告とその外国の子会社であるサンテン・オイ社との間で行われたものであることから,輸出に当たらないというべきであり,そうでなければ,脱法行為を助長するとの趣旨の主張もするが,各別の法人格である親子会社間の取引について,他の取引と別異に取り扱う理由はなく,その理は当該取引が親子会社間の輸出であっても異なるものではないところ,本件においては,本件輸出行為を認定し得るのであるから,この点の原告の主張も採用することはできない。」

請求棄却。

【コメント】

親子会社間の取引についても、「使用」は「使用」ということである。
「Tafrotan」は緑内障治療薬として欧州で販売(一般名: タフルプロスト(Tafluprost))されているが、日本での商品名は「タプロス」(Tapros)である。
ちなみに、「タプロス」(Tapros)の名称の由来は、タフルプロスト+プロスタグランジン/プロスペクト(Tafluprost+Prostaglandin/Prospect,“展望、期待”)である。

同趣旨の関連判決:
  • 2009.10.22 「アルコン v. 参天製薬」 知財高裁平成21年(行ケ)10217

    商標登録番号: 第4821348号
    商標の構成: 「Taflotan」を表示して成る。
    指定商品: 第5類「薬剤」


Nov 24, 2009

2009.09.02 「ノバルティス バクシンズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10272

バイオテクノロジー関連分野の実施可能要件: 知財高裁平成20年(行ケ)10272

【背景】

「抗HCV抗体」に関する特許出願(特願平10-93767)の拒絶審決取消訴訟。審決理由は実施可能要件違反だった。請求項1(以下本願発明という)は下記のとおり。

請求項1:

少なくとも8個のアミノ酸の連続する配列からなるポリペプチド中の部位に免疫学的に結合する,抗C型肝炎ウイルス(HCV)抗体であって,
ここで,該部位は,HCVに対する抗体によって結合され得,そして該少なくとも8個のアミノ酸の連続する配列は,以下のアミノ酸配列:
【化1】(判決注:1位のMetから457位のAlaまでの457アミノ酸からなる配列。具体的配列はここでは省略);もしくは
【化2】(判決注:2880位のProから2955位のLysまでの76アミノ酸からなる配列。具体的配列はここでは省略)
中に1または数個の欠失,挿入,または置換を有するアミノ酸配列から得られる,
抗体。

【要旨】

取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について

原告は、

「バイオテクノロジー関連の分野では,実施可能要件は,すべての実施形態を網羅的に得ることを要求していないのが現状であり,それを要求することは,出願人に酷な結果をもたらし,ひいては発明を奨励するという特許法の趣旨に反し,著しく不合理である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「確かに,バイオテクノロジー関連の分野では,発明の詳細な説明において,「欠失,挿入または置換」されたすべての実施態様が具体的に記載されていなくても,特許請求の範囲において,特定のアミノ酸配列を示し,さらに同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する形式での記載が許容される場合がある。新規かつ有用な活性のある遺伝子に関連した技術分野において,当該分野のすぐれた発明等を奨励する観点,及び,仮にそのような記載が許容されなかった場合に第三者の模倣を阻止できず,独占権としての実効性を確保できない不都合を回避する観点から,特許請求の範囲に,特定のアミノ酸配列等を示した上で,同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する記載が許容される場合があってしかるべきであるといえよう。しかし,そのような形式で特許請求の範囲の記載が許される場合であっても,そのことが,当然に発明の詳細な説明の記載については,一部の実施のみの開示によって,実施可能要件を充足するものと解すべきことを意味するものではない。すなわち,特許請求の範囲に,新規かつ有用な活性のあるポリペプチドを構成するアミノ酸の配列が包括的に記載(配列の一部の改変を許容する形式で記載)されている場合において,元のポリペプチドと同様の活性を有する改変されたポリペプチドを容易に得ることができるといえる事情が認められるときは,いわゆる実施可能要件を充足するものと解して差し支えないというべきであるが,これに対し,上記のような形式で記載された特許請求の範囲に属する技術の全体を実施することに,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や創意工夫を強いる事情のある場合には,いわゆる実施可能要件を充足しないというべきである。
本件では,特許請求の範囲の記載は,本願発明に係る抗体を得るためのポリペプチドのアミノ酸配列数が,わずかに「少なくとも8個」であり,かつ,同配列中の「1個または数個のアミノ酸が欠失,挿入または置換」を含めたものとされているが,発明の詳細な説明には,そのようなわずかな配列数で特定されたポリペプチドを基礎として,これと同様の活性を有するポリペプチドを得るための改変を含む態様が,当業者にとって,容易に実施できる程度に開示されているとはいえない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

バイオテクノロジー関連分野の実施可能要件が争われた。
特定の457もしくは76アミノ酸配列から「少なくとも8個」の配列、さらにその「少なくとも8個」の配列は「1個または数個のアミノ酸が欠失,挿入または置換」していてもよいという配列であれば、いかなる配列を用いようとも活性のある抗HCV抗体を作ることができる・・・と当業者にとって容易に理解できるように明細書に開示されてはいなかった。出願当時の技術常識も問題となったが、原告の主張は認められなかった。


同趣旨の関連判決:



Nov 16, 2009

アンプラーグに初の後発品参入

2009年11月13日、厚労省は後発品の薬価基準収載を告示。抗血小板薬アンプラーグ(ANPLAG; 有効成分: サルポグレラート塩酸塩(Sarpogrelate Hydrochloride); 効能・効果: 慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の改善; 承認年月日(錠): 1993年7月2日)にとっては初の後発品収載となった(22社44品目)。

このサルポグレラート塩酸塩に関して、田辺三菱は日本特許第3864991号を有している。
この特許は「サルポグレラート塩酸塩の結晶」に関するものであり、特願2006-046057(原出願)の出願日(2006年2月22日)と同日に分割された出願(特願2006-46063)として、早期審査請求・出願公開請求を経て同年10月13日に登録(下記請求項)。20年の存続期間満了日は2026年2月22日。後発品メーカーに対して上記権利を侵害しないよう田辺三菱が広告(2009.06.18 日刊薬業WEB)を出していたが、結果的には22社の後発品メーカーが薬価基準収載に踏み切ったことになる。原出願は審査請求期限ちかくの2009年2月20日に審査請求され、特許庁に係属中。

【請求項1】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有する、(±)2-(ジメチルアミノ)-1-{〔O-(m-メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル
水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。

【請求項2】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、(±)2-(ジメチルアミノ)-1-{〔O-(m-メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。


ところで、同明細書の背景技術の欄には、下記のように記載されている。

「(サルポグレラート塩酸塩は)特許文献1の実施例2の記載に基づき製造することができる公知化合物である。また特許文献1には上記化合物が血小板凝集阻害作用を有することが記載され、さらに特許文献2には上記化合物がセロトニン拮抗作用を有することが記載されている。しかし、これらの文献には、上記化合物に複数の結晶多形が存在するとの記載も示唆もない。」
【特許文献1】特開昭58-32847号公報
【特許文献2】特開平2-304022号公報


上記特許文献1及び2はいずれもアンプラーグをカバーするクレームを有して特許となったものであり、今回、後発品メーカーは特許文献2にあたる特許の存続期間満了(満了日2009年5月18日)を機に参入してきたと考えられる。


参考:



Nov 9, 2009

レボフロキサシン訴訟 全面終結

第一三共は、レボフロキサシン特許の存続期間延長の一部無効審決取消訴訟で敗訴(上告せず)したことを受け、同特許に基づきジェネリックメーカーを被告として提起していた侵害訴訟を取り下げた。これにより、同特許に関する第一三共とジェネリックメーカーとの一切の係争が終結した。

参考:




Nov 8, 2009

2009.07.07 「オシリス セラピューティクス v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10193

骨形成増強と骨形成の違い: 知財高裁平成20年(行ケ)10193

【背景】
「間葉幹細胞を用いる骨の再生および増強」に関する発明(特表2000-508911)を進歩性無しとした拒絶審決の審決取消訴訟。

請求項1:
骨形成増強のための組成物であって,骨形成増強を必要とする個体に分離ヒト間葉幹細胞と共に前記個体に投与され,前記分離ヒト間葉幹細胞からの骨形成を生じるのに十分な範囲で前記分離ヒト間葉幹細胞の骨形成系列への分化を支持することを特徴とする組成物。

引用発明の相違点は、
本願発明は「骨形成増強のための組成物」であって、骨形成を必要とする個体」に投与されるものであるのに対し、引用例には、ヌードマウスの皮下に移植したものが骨形成することが記載されているにとどまり、実際に形成増強を必要とする個体に投与されてはいない点
だった。

【要旨】
裁判所は、
「「増強」の語に格別の意味があるとは解されないから、「骨形成増強」と引用発明における「骨形成」とが相違する旨の原告の主張は採用することができない。~本願明細書における「骨形成」と引用発明における「骨形成」とが同様の現象を意味していることは明らかであり、これらが異なるものであるとの原告の主張を採用することはできない。」
と判断した。

原告は、
「上記摘記事項の記載が本願発明の動機付けとならないことについて,間葉幹細胞の分化がどの分化経路を進むのかは,機械的影響及び又は内因性の生物活性因子(例えば,成長因子,サイトカイン,及び/又は宿主組織により定められる局所的な微小環境条件)に依存しており,制御することは困難である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「もともと骨が存在しない皮下等の部位に比して,骨が本来存在する部位においては,間葉幹細胞の分化を骨の分化経路へと導く微小環境条件がより整っているであろうことは,当業者であれば容易に着想し得ることであり,異所性移植で骨形成がみられた材料に対して,同所性移植によって同様の骨形成することを期待することは,当業者にとって極めて自然な発想であるというべきである。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】
「骨形成」と「骨形成増強」とは違うし分化がどう進むかを予測するのは困難である、と原告は主張したが、認められなかった。当業者であれば容易に着想したであろう仮説を確認したにすぎないという結論のようである。

参考:


Nov 1, 2009

2009.10.28 「第一三共 v. ジェネリック13社」 知財高裁平成20年(行ケ)10487

レボフロキサシン(クラビット)の特許権存続期間延長登録に無効判決: 知財高裁平成20年(行ケ)10487

【背景】
第一製薬はクラビット(Cravit)(有効成分はレボフロキサシン(levofloxacin))の〈適応菌種〉レジオネラ属の効能追加承認に基づいて特許権(第2008845号)の存続期間延長登録(延長登録出願番号: 2006-700043; 延長された期間: 4年11月7日)をした。しかし、後発品メーカー13社が起した延長登録無効審判によって、2年6月5日(本件国内臨床試験開始日から本件承認了知日の前日までの期間)を超える期間の延長登録を無効とする審決(無効2007-800169)が下されたため、第一三共は審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
2009.10.28 「第一三共 v. ジェネリック13社」 知財高裁平成20年(行ケ)10486と同じ。