Dec 28, 2010

2010.10.28 「ノース・キャロライナ・ステイト・ユニヴァーシティ v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10050

公知タンパク質をコードするDNAの進歩性: 知財高裁平成22年(行ケ)10050

【背景】

「バチルス・リチェニフォルミス(Bacillus Licheniformis)PWD-1 のケラチナーゼをコードしているDNA」に関する出願(平成8年特許願第500873号、WO95/33056、特表平10-500863)の拒絶審決(不服2006-10472)取消訴訟。

請求項1:
「配列番号1のDNA配列を持ち,ケラチナーゼをコードしている単離DNA分子。」

特許庁は、「引用例」に記載された事項及び周知技術に基づいて進歩性なしと審決した。引用例に記載された事項は、精製された該ケラチナーゼが記載されているに過ぎず、該ケラチナーゼをコードしているDNA分子については記載されていなかった。

【要旨】

裁判所は、

「本願優先権主張日当時,有用なタンパク質が単離・精製された場合に,該タンパク質をコードするDNA分子を取得しようとすることは,当業者にとって自然の解決課題であり,タンパク質が単離・精製された場合,そのN末端領域や中間部分のアミノ酸配列を決定し,当該配列情報に基づいてプローブやプライマーを設計し,由来生物のcDNAライブラリーから当該タンパク質をコードするDNA分子を単離し,当該遺伝子の塩基配列を解読することが当業者の周知技術であったことは,当事者間において争いがない。
そして,~引用例には,ケラチナーゼの精製において単一のタンパク質が得られたこと,上記ケラチナーゼが各種プロテアーゼに比べてケラチンをより分解することが開示されていることが認められる。そうすると,当業者にとって,実用性の予測が可能であったか否かはともかく,より分解能力の高いケラチナーゼを得るべく,Bacillus Licheniformis PWD-1 株由来のケラチナーゼをコードするDNA分子を取得しようとする動機付けがあったと認められる。
(中略)
したがって,引用例記載のケラチナーゼに,前記周知技術を適用することにより,Bacillus Licheniformis PWD-1 株由来のケラチナーゼをコードするDNA分子を得ることは,当業者が容易になし得たといえる。
(中略)
ケラチナーゼをコードするDNA分子をクローニングすれば,該ケラチナーゼが高収率で得られることは,その当然の結果にすぎず,そのような作用効果が認められるからといって,顕著な作用であるとはいえない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

現在の周知技術を考えれば、公知タンパク質をコードするDNAの発明について進歩性を認めてもらうのは非常に難しいだろう。

参考:

特許・実用新案審査基準 第Ⅶ部 第2章 生物関連発明には下記のように記載されている。
1.3.3 進歩性
(1) 遺伝子
②タンパク質Aは公知であるが、そのアミノ酸配列は公知ではない場合、タンパク質Aをコードする遺伝子に係る発明は、タンパク質Aのアミノ酸配列を出願時に当業者が容易に決定することができた場合には進歩性を有しない。ただし、該遺伝子が、特定の塩基配列で記載されており、かつ、タンパク質Aをコードする他の塩基配列を有する遺伝子に比較して、当業者が予測できない有利な効果を奏する場合には、進歩性を有する。


Dec 22, 2010

2010.10.12 「ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10029

細胞の入手可能性と引用発明適格性: 知財高裁平成22年(行ケ)10029

【背景】

「抗ガングリオシド抗体を産生するヒトのBリンパ芽腫細胞系」に関する出願(PCT/US94/1469、WO94/19457、特願平6-519027、特表平8-507209)の拒絶審決(不服2005-8566)取消訴訟。

請求項1:
L612として同定され,アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にATCC受入番号CRL10724として寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系。

特許庁は、本願優先日(1993.2.26)前に頒布された引用例1(Journal of the National Cancer Institute (1990),Vol.82, No.22,p.1757-1760)に「L612を分泌するヒトB細胞系」と、引用例2(Journal of Immunological Methods (1990),Vol.134, No.1,p.121-128)に「L612を分泌する細胞系」と各記載されているから、引用例1及び2に記載されたL612細胞系は第三者から分譲を請求された場合には分譲され得る状態にあったと推定できると認定判断し、新規性及び進歩性なしと審決した。これに対し、原告はA博士の宣誓供述書の提出等により上記の認定判断を争った。

【要旨】

裁判所は、

「引用例1及び2には,ATCCの寄託番号などL612細胞系の内容を特定するに足る記載はなく,また,そもそも細胞系を言葉や化学式などで完全に表現することはできず,引用例1及び2にもそのような記載はないものと認められる。したがって,引用例1及び2に記載された事項のみによっては,引用例1及び2にL612細胞系の発明が記載されているということができない。しかし,L612細胞系が,本願優先日前に,引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあれば,L612細胞系の内容が裏付けられ,引用例1及び2にL612細胞系の発明が記載されているということができるものと認められ,この点につき当事者間に争いがない。そうすると,本訴における争点は,L612細胞系が,本願優先日前に引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあったか否かに集約されるものである。
(中略)
本願優先日前,A 博士(及び共同研究者)は,L612細胞系につき,第三者から分譲を要求されても,同要求に応じる意思はなかったものと認められ,その結果,L612細胞系は,第三者にとって入手可能ではなかったことになり,「引用例1,2に記載されるL612細胞系は,第三者から分譲を請求された場合には,分譲され得る状態にあったものと推定することができる」とした審決の認定判断は誤りであって,同誤りが審決の結論に影響を及ぼすおそれがあることは明らかである。」

と判断した。

また、裁判所は、進歩性適用の有無についても新規性についての判断と同様の理由により審決は違法であると判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

分譲以外に入手手段がないような細胞株に関して、引用文献中にその細胞を使用した旨の記載があるからといって、果たして引用発明という観点でその発明が記載されているということができるのかどうかが争われた。引用文献の著者でもあり本願の発明者でもある細胞株を所有するA博士が「第三者からのL612細胞系の分譲の要求に応じない」と宣誓供述しており、細胞は入手可能な状態ではなかったという結論に。審決は取り消されたが、論文発表前にしっかり出願しておけばこのような問題は生じなかったともいえる。
本件出願に対応する欧州出願(EP0687295B)でも本件で問題となった引用文献がD3及びD4として引用され新規性の拒絶理由が発せられた。しかし、出願人は、「L612として同定され」という部分をクレームから削除し、ATCC accession numberにのみによって細胞を定義することによって拒絶理由を回避することに成功している。米国でも本件発明である細胞株は特許になっている(US5,419,904)。


Dec 20, 2010

2010.09.22 「バイエル v. 国」 知財高裁平成22年(行コ)10002

シプロキサン注特許の年金未納: 知財高裁平成22年(行コ)10002

【背景】

原告が「1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-キノリン-3-カルボン酸の注入溶液」に関する特許権(第1981005号; 公告番号:特公平7-14879; 公開番号: 特開昭62-99326)の第13年分の特許料の追納期間の経過後に特許料納付手続をしたところ、特許庁長官が手続却下の処分(「本件却下処分」)をしたため、原告が被告に対し、追納期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて特112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があるとして、本件却下処分の取消しを求めた事案。

本件特許権の存続期間は20年を経過する日である平成18年10月23日までであったが、平成13年12月19日付けで,延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録がされ、本件特許権の存続期間は平成23年9月27日まで延長されていた。

【要旨】

裁判所は、下記の通り原判決の判示内容を修正しつつも同じ結論を下した。

(2) 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」
特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である。
(中略)
なお,原判決は,天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が「万全の注意」を払っても,なお追納期間内に特許料を納付することができなかったような場合を意味すると判示するが,特許法112条の2の規定の文言の通常有する意味に照らし,そのような場合に限らず,通常の注意力を有する当事者が「通常期待される注意」を尽くしても,なお追納期間内に特許料を納付することができなかったような場合を意味するものと解するべきである。

(3) 受託者の過失
特許権者又は雇用関係にある被用者に過失がある場合と,特許権者が委託した外部組織たる第三者に過失がある場合とで,特許権の回復の成否が異なるいわれはなく,いかなる方法で特許料を納付するか自らの判断で選択した以上,委託を受けた第三者に過失がある場合には,特許権者側の事情として,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないというほかない。

(4) 本件における「その責めに帰することができない理由」の有無
控訴人は,本件特許料等の納付等の手続をCPAに委託し,CPAにおいて担当者の病気休暇等の事情もあって業務が滞った結果,本件特許料等の追納期限を経過したものであり,CPAに従業員欠勤の際の業務停滞防止体制の不備という過失があることは,控訴人の自認するところである。
そうすると,本件において本件特許料等の納付ができなかったことは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合に当たるということはできない。
よって,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったということはできない。

控訴棄却。

【コメント】

2010.03.24 「バイエル v. 国」 東京地裁平成21年(行ウ)517参照。

ところで現在、特許庁は、「産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)に対する意見募集を行っている(受付締切日は2011年01月04日)。この報告書案中の「IV.ユーザーの利便性向上」の項では、特許法条約(PLT)との整合性に向け、特許料等の追納期間(112条の2)についての緩和を検討している。

Dec 5, 2010

2010.08.31 「レ ラボラトワール セルヴィエ v. 特許庁長官」知財高裁平成22年(行ケ)10001

医薬組成物の引用発明の認定: 知財高裁平成22年(行ケ)10001

【背景】

「固形の熱成形し得る放出制御医薬組成物」に関する出願(特願2000-193043)について、本願発明は周知技術を勘案し引用例Aの記載に基づいて進歩性なしとした拒絶審決(不服2005-21463)の取消を求めた訴訟。

請求項1(本願発明):
固形の放出制御医薬組成物であって,少なくとも1の活性成分,ならびに少量の第四級アンモニウム基を有する,アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマーの熱成形し得る混合物を含み,活性成分の放出が,使用するポリメタクリラートの特性,活性成分に対するその量,及び該組成物の製造に用いる技術によってのみ制御されることを特徴とする医薬組成物。

【要旨】

1. 取消事由1(引用発明等の認定誤り)について

原告は、
「引用例Aには,医薬製剤として,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)と共に遅延化剤(疎水性可融性担体)としてステアリン酸を用いた3成分系のみが開示され,2成分系の具体例は開示されていないにもかかわらず,審決は,引用例Aには,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)からなる2成分系の製剤についても記載されているとした点で,引用発明の認定を誤(った)」
と主張した。

また、原告は、
「化学物質発明は,その構造から有用性を予測することが困難な技術分野に属するから,特定された用途ないし性質に関する有用性が明細書に裏付けられていなければ,当業者が発明を把握することができない。」
とも主張した。

これに対し、特許庁は、
「構造及び用途・性質が公知の化学物質を組み合わせた組成物発明の明細書において,公知の化学物質からなる組成物の有用性が,当業者において把握できる程度に,合理的な説明がされていれば,先行技術となり得る。本件において,引用例Aには,3成分系の持続放出性医薬製剤のみならず,2成分系の持続放出性医薬製剤についても当業者が把握することのできる発明として記載されているといえる。審決における引用発明の認定に誤りはない。」
と反論した。

裁判所は、
「確かに,引用例Aには,オピオイド鎮痛剤及びアクリルポリマー(Eudragit RSPO)とともに,疎水性可融性担体(ステアリン酸等)を用いた製剤のみが実施例として挙げられ,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)からなる2成分系の製剤に係る具体的な実施例の記載はない。
しかし,~アクリルポリマーの「遅延化剤」として機能を発揮するためには,溶融押出し可能であるか,押出しに必要な程度軟化することは必要であるが,他の成分を使用する必要性がないことも合理的に理解することができる。」
と判断した。

また、原告は、
「引用例Aにおいて「遅延化剤」とされているのは「疎水性可融性担体」であるところ,~遅延化剤(疎水性可融性担体)を含まない医薬製剤が持続放出性を奏すると把握できるものではない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用例Aには,「遅延化剤」として機能する成分として「疎水性可融性担体」成分のみならず,アクリルポリマー等の「疎水性材料(疎水性物質)」が示されるとともに,疎水性可融性担体は「任意」又は「好ましくは」添加し得る成分として記載されていることからすれば,引用例Aには疎水性可融性担体を含まず治療活性薬とアクリルポリマーの2成分からなる持続放出性医薬製剤に係る技術が,開示されているものといえる。~したがって,当業者であれば,引用例Aに具体的な実施例の記載がなくても,その持続放出性という機能が示されていることを合理的に理解することができるといえる。
以上によれば,引用例Aには,オピオイド鎮痛剤等の治療活性薬とアクリルポリマーの2成分からなる持続放出性医薬製剤が,アクリルポリマーの遅延化作用により薬物を持続的に放出することが可能であるという有用性,すなわち用途及び性質について,当業者が理解できるように合理的に記載されていることが認められる。」
と判断した。

2. 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について

原告は、
「本願発明は,活性成分をその投与都合に合わせて,数分間ないし20時間を超える期間にわたり放出するよう制御する医薬組成物を提供する課題について,これを可塑剤や遅延剤を添加せずに活性成分の放出を使用するポリメタクリラートの特性,活性成分に対するその量,及び該組成物の製造に用いる技術のみによって解決したとの構成は,引用発明に基づいて容易に到達することができない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願発明のうち治療活性薬の放出の制御方法には限定がなく,引用例Aの発明における「持続放出」と,実質的に相違するものではない。のみならず,引用例Aには,疎水性可融性担体を使用せず,遅延化剤としてアクリルポリマーを用いる2成分系の持続放出性医薬製剤に係る発明が記載されている上~本願発明の相違点2に係る構成は,引用例Aに,実質的に開示されているといえる。さらに,遅延化剤としてアクリルポリマーを用いる2成分による方法は,3成分を用いる方法に比べて使用する成分数が少ないのであるから,活性成分と相互作用し得る賦形剤の使用を回避するとともに,簡単かつ経済的な方法で固形の放出制御医薬組成物を得られるという本願発明の効果は,引用例Aに記載された2成分系の持続放出性医薬製剤を選択した結果,当然に得られた効果にすぎないというべきである。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

引用発明の認定についての議論が興味深い。原告は、実施例主義の立場(「化学物質発明は,その構造から有用性を予測することが困難な技術分野に属するから,特定された用途ないし性質に関する有用性が明細書に裏付けられていなければ,当業者が発明を把握することができない。」)をとり、引用発明の適格性を中心に争った。しかし、特許庁は、「公知の化学物質からなる組成物の有用性が,当業者において把握できる程度に,合理的な説明がされていれば,先行技術となり得る。」として、化学物質発明の場合と本件組成物発明の場合とでは引用発明の適格性の判断は異なるとの立場で反論しており、裁判所は、その特許庁の考えに沿った結論を出した。公知の化学物質を組み合わせた組成物発明の場合には、引用例に具体的な実施例の記載がなくても、その記載内容から組成物の有用性が合理的に理解することができるのならば、先行技術として開示されていると判断されるようである。

Nov 28, 2010

2010.08.31 「X v. 和光純薬」 知財高裁平成22年(ネ)10010/平成22年(ネ)10027

ビリルビンの測定方法の職務発明対価請求事件: 知財高裁平成22年(ネ)10010/平成22年(ネ)10027

【背景】
被控訴人(被告:和光純薬)の従業員であった控訴人(原告:X)が、被告の特許(特許第2666632号)に係る「ビリルビンの測定方法」に関する発明が原告を発明者とする職務発明であり、その特許を受ける権利を被告に譲渡した旨主張し、被告に対して上記譲渡に係る相当の対価の支払を求めた訴訟。
原判決(2009.12.25 東京地裁平成19年(ワ)31700)は、本件発明の一部は原告の職務発明であると認定し、243万6624円の支払を命じる限度で原告の請求を一部認容した。
そこで、原告は、1億円の支払を求めて控訴を提起し、被告は、原判決中被告敗訴部分を取り消し、原告の請求を棄却することを求めて附帯控訴を提起した。

【要旨】
裁判所は、原告の発明者該当性(争点1)及び相当の対価の額(争点2)ともに、一部付加したほかは原判決のとおり、「原告の請求は、被告に対し、243万6624円及びこれに対する平成19年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、その限度で原告の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がない」と判断した。本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも棄却。

【補足】
本件試薬(バナジン酸を酸化剤に用いた化学酸化法による総ビリルビン測定試薬である「総ビリルビンE-HRワコー」及び「総ビリルビンE-HAテストワコー」,同直接ビリルビン測定試薬である「直接ビリルビンE-HRワコー」及び「直接ビリルビンE-HAテストワコー」)の売上高のうち、その排他的、独占的な販売に基づく超過売上高に係る分はいくらであるか、その超過売上高に係る分を第三者に許諾した場合に得られる想定実施料(超過売上高に係る分に想定実施料率を乗じた額)はいくらであるかを認定し、本件試薬の販売による独占の利益を算定するのが相当であるとして、下記計算式により相当の対価額が算出された。

  • 68億1840(売上高) x 0.4(超過売上高の割合) = 27億2736万円(超過売上高に係る分)


  • 27億2736万円(超過売上高に係る分) x 0.03(仮想実施料率) = 8182万0800円(被告が受けるべき利益の額)


  • 8182万0800円(被告が受けるべき利益の額) x (1 - 0.9(被告の貢献度)) x 0.3(原告の寄与割合) = 245万4624円(相当の対価の額)


  • 被告から本件発明についての補償金として合計1万8000円の支払を受けているから、被告が原告に支払うべき上記相当の対価の不足額は、243万6624円。


Nov 21, 2010

パリエット(ラベプラゾールナトリウム)後発品初収載

2010年11月の薬価追補収載において、初めての後発品参入となったプロトンポンプ阻害剤ラベプラゾールナトリウム(Sodium Rabeprazole; 先発品はエーザイが製造販売するパリエット(Pariet)錠)。いわゆる「虫食い申請」のため、先発品で認められている「効能又は効果」の一部は承認されていません。

OrangebookにリストされているUS Patent No. 5045552を頼りにINPADOC patent familyの日本出願情報を得て、IPDLを見ていくと下記情報が得られる。

ラベプラゾールナトリウム化合物特許:
  • 特許番号1953321(1995.07.28)
  • 特許権存続期間延長登録出願(平09-700058)
    延長登録日: 1998.04.08
    延長の期間: 2年2月15日(つまり2010年1月に満了)
    特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
    (1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
    薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認
    (2)処分を特定する番号
    承認番号 20900AMZ00601000
    (3)処分の対象となった物
    ラベプラゾールナトリウム
    (4)処分の対象となった物について特定された用途
    医薬品の製造原料
  • 特許権存続期間延長登録出願(平09-700059)
    延長登録日: 1998.07.08
    延長の期間: 2年2月15日(つまり2010年1月に満了)
    特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
    (1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
    薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認
    (2)処分を特定する番号
    承認番号 20900AMZ00603000号
    (3)処分の対象となった物
    ラベプラゾールナトリウム
    (4)処分の対象となった物について特定された用途
    胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群
  • 特許権存続期間延長登録出願(2007-700025)
    延長登録日: 2007.12.19
    延長の期間: 5年(つまり満了日は2012.11.13)
    特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
    (1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
    薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認についての同条第7項に規定する医薬品製造承認事項一部変更承認
    (2)処分を特定する番号
    承認番号 20900AMZ00603000号
    (3)処分の対象となった物
    ラベプラゾールナトリウム
    (4)処分の対象となった物について特定された用途
    胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助


インタビューフォームからの情報によると再審査期間は下記の通り。
  • パリエット錠10mg
    (1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison 症候群
    再審査期間:6 年間(1997 年10 月14 日~2003 年10 月13 日:終了)
    (2)再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法
    再審査期間:4 年間(2003 年7 月17 日~2007 年7 月16 日:終了)
    (3)胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
    再審査期間:4 年間(2007 年1 月26 日~2011 年1 月25 日)
  • パリエット錠20mg
    胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison 症候群
    再審査期間:6 年間(1997 年10 月14 日~2003 年10 月13 日:終了)


エーザイの最近の動き(プレスリリース):


参考:


Nov 4, 2010

2010.08.19 「メルク v. 日本薬品工業」 知財高裁平成21年(行ケ)10180

フォサマックの錠剤特許: 知財高裁平成21年(行ケ)10180

【背景】

原告(メルク)が有する「4―アミノ―1―ヒドロキシブチリデン―1,1-ビスホスホン酸又はその塩の製造方法及び前記酸の特定の塩」に関する特許(特許第1931325号)を無効とした審決(無効2008-800062号)に対して原告が取消しを求めた事案。

  • 請求項6:
    4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸モノナトリウム塩トリハイドレートを有効成分として含む,骨吸収を伴う疾病の治療及び予防のための固体状医薬組成物。
  • 請求項7:
    錠剤である請求項6記載の固体状医薬組成物。


審決は、本件発明6及び7はいずれも甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものであると判断した。

  • 本件発明6及び7と甲7発明との一致点:
    「4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸モノナトリウム塩トリハイドレートを有効成分として含む,骨吸収を伴う疾病の治療及び予防のための医薬組成物。」
    で一致する。
  • 本件発明6及び7と甲7発明との相違点:
    医薬組成物の態様について、本件発明6が「固体状医薬組成物」、本件発明7が「錠剤」と特定しているのに対し、甲7発明では、そのような特定はなされておらず、注射液やカプセル剤が示されているに止まる点。


【要旨】

裁判所は、

「甲7文献が,特許法29条2項適用の前提となる29条1項3号記載の「刊行物」に該当するかどうかがまず問題となる。」

と指摘したうえで、下記のとおり「刊行物に記載された発明」、特に、化学物質発明についての一般的な判断基準を示した。

「ところで,特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に‥‥頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。
特に,当該物が,新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというためには,一般に,当該物質の構成が開示されていることに止まらず,その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして,刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。」

上記一般的な考え方に基づき、裁判所は本件について下記のように判断した。

「(2)本件については,上記のとおり,本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること,甲7文献には,本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの,その製造方法について記載も示唆もされていないところ,前記1(2) の記載内容を検討しても,甲7文献には製造方法を理解し得る程度の記載があるとはいえないから,上記(1) の判断基準に従い,甲7文献が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当するというためには,甲7文献に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいて本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるということになる。
この点,審決は~甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,甲5及び甲12ないし甲14の各文献に記載されている特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができるものと判断したと解される。
(3)そうすると,本件においては,本件出願当時,甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができるような技術常識が存在したか否かが問題となるが,次のとおり,本件においては,本件出願当時,そのような技術常識が存在したと認めることはできないというべきである。」

裁判所は、

特許出願時の技術常識として引用された甲5、甲12、甲14の各文献について、

「一般的な化学辞典であるなど、その記載内容が当業者の技術常識であることをうかがわせるものではないことを考慮すれば、~本件優先日当時の技術常識に属する事項であるとすることはできないというべきである。」、または、「特定の化合物の水和物の製造方法が記載されているにとどまるものであり、~これらの記載から、別途の特定の有機化合物について、当業者が思考や試行錯誤等の創作能力の発揮により、その具体的な製造条件に到達し得るとはいえても、有機化合物において、具体的な製造条件を捨象して、一律に、「結晶水は,加熱あるいは乾燥の条件を強くすることにより,順次離脱する」ことが技術常識であるとの結論を導き出すことはできないというべきである。」

として、本件においては、本件出願当時、そのような技術常識が存在したと認めることはできない判断した。

また、被告の提出した実験証明書についても、裁判所は、

「甲6実験証明書と甲10実験証明書の記載は,本件優先日以後に行われた実験結果にすぎず~甲5及び甲12ないし甲14の各文献の内容を知った上での試行錯誤の結果にすぎないものというべきである。したがって,甲6実験証明書と甲10実験証明書記載は,甲12文献記載の「順次離脱」が有機化合物の水和塩結晶における本件優先日当時の技術常識であるか否かの判断を左右するものではないというべきである。」

として技術常識の判断を左右するものではないとした。

審決を取り消す。

【コメント】

特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」であるためには、特に、それが新規の化学物質である場合には、当該物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要する。

そして、刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要である。

新規性を否定するかもしれない文献があったとしても、その文献に当該物質の製造方法が理解しうる程度の記載があるかどうか、引例適格性を注意深く検討する必要がある。これは進歩性の引用文献についても同じことが言えそうである。

原告はその主張の中で、下記判決を引用したが、本判決自体もこれら過去の判決例に沿うものとなっている。



4-アミノ-1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ビスホスホン酸モノナトリウム塩トリハイドレートは日本ではMSDが販売しているフォサマック®錠(Fosamac® Tablets)(帝人ファーマはボナロン®錠(Bonalon® tablet))の有効成分である(一般名: アレンドロン酸ナトリウム水和物、alendronate sodium hydrate)。1日1回の5mg錠(フォサマック®錠5)は2001年6月20日に製造販売承認され、再審査期間も2007年6月19日に終了している。フォサマック®錠5の製造承認年月日(2001年6月20日)をもとに存続期間延長登録出願の有無をIPDLで探ってみると下記3件の特許権が見つかる。

  • 医薬用途特許1589937(特公平02-013645):
    存続期間延長登録出願番号2001-700093: +5年
    = 本権利消滅日: 2008.4.13
  • 本件特許(錠剤/製法)1931325(特公平06-062651):
    存続期間延長登録出願番号2001-700094: +5年
    = 存続期間満了日: 2015.6.11
  • 製法特許2106424(特公平07-119229):
    存続期間延長登録出願番号2001-700095: +4年7月13日
    = 存続期間満了日: 2016.2.1


一方、フォサマック®錠5の後発品は既に下記の通り上市している。

  • アレンドロン酸錠5mg「タイヨー」薬価収載2009年5月 大洋薬品
  • アレンドロン酸錠5mg「DK」薬価収載2009年5月 日本ケミファ/大興製薬
  • アレンドロン酸錠5mg「SN」薬価収載2009年5月 科研製薬/シオノケミカル
  • アレンドロン酸錠5mg「マイラン」 薬価収載2010年5月 マイラン製薬


おそらく、医薬用途特許1589937の存続期間満了、又は本件特許の無効審決を待って後発品が参入してきたと考えられるが、無効審決が取り消された本判決に従えば、フォサマック®錠を保護する本件特許が2015年6月11日まで存続することになり、後発品メーカーの販売行為は特許侵害のおそれが生じることになる。しかしながら、メルク(MSD/帝人ファーマ)にとってみれば、週1回錠(フォサマック®錠35mg、2006年7月26日製造販売承認)が主流となった現在においては、1日1回の5mg錠の後発品参入はそれほど大きな打撃ではないのかもしれない。

参考:



Oct 20, 2010

2010.10.20 「フロモックス(Flomox): 塩野義、沢井製薬と和解」

「フロモックス®(Flomox®)」(一般名:セフカペンピボキシル塩酸塩水和物(Cefcapene Pivoxil Hydrochloride Hydrate))の後発品販売を開始した沢井製薬と塩野義との間で争われていた特許侵害訴訟は両社間で和解が成立することによって決着しました。和解内容は不明ですが、沢井製薬による後発品の製造販売は継続され、税関で保留となっている原薬の輸入差止申立は取下げられるとのことです。

参考:



Oct 18, 2010

アンプラーグ製剤特許が成立

2010年8月23日付けで、抗血小板薬アンプラーグ(ANPLAG; 有効成分: サルポグレラート塩酸塩(Sarpogrelate Hydrochloride)の錠剤に関する、田辺三菱の日本特許第4567640号(特願2006-205560; 出願日2006年7月28日; 特開2007-56011)が設定登録されました。

この特許は「小型化塩酸サルポグレラート経口投与製剤」に関するものであり、後発品メーカーに対して上記権利を侵害しないよう田辺三菱が謹告(日刊薬業WEB: 2010.09.28 【謹告】サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグⓇ)に関する特許権について)を出しています。アンプラーグについては、すでに昨年22社の後発品メーカーが薬価基準収載に踏み切っていますが、本件特許は製剤に関するものですので、後発品に対する抑止力としては…。

【請求項1】
塩酸サルポグレラート、及び製剤の崩壊を促す特徴を有する添加物としてカルボキシメチルセルロースを含有する錠剤であって、錠剤あたりの塩酸サルポグレラートの含量が40~95重量%である錠剤。
【請求項2】
塩酸サルポグレラート、カルボキシメチルセルロース、及び結晶セルロースを含有する請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
水溶性コーティング及び/又は遮光コーティングが施された請求項1または2に記載の錠剤。
【請求項4】
錠剤中に含まれる塩酸サルポグレラートの80重量%以上が15分以内に溶出する溶出挙動を示す請求項1~3のいずれかに記載の錠剤。


アンプラーグのインタビューフォームの記載によると、
  • アンプラーグ錠50mg: 1錠(重量90mg)中サルポグレラート塩酸塩50mg含有。
  • アンプラーグ錠100mg: 1錠(重量178mg)中サルポグレラート塩酸塩を100mg含有。
  • 添加物としてカルメロース、セルロース等を含むフィルムコーティング錠。
  • 溶出性: 「局外規」サルポグレラート塩酸塩錠の溶出試験による。すなわち,試験液に水900mL を用い,「日局」溶出試験法のパドル法により,毎分50 回転で試験を行うとき,錠50mg は15 分間の溶出率が80%以上,錠100mg は30 分間の溶出率が80%以上である。


一方、後発品として例えば下記のようなものが販売されているようです。
  • サルポグレラート塩酸塩錠100mg「KRM」
  • サルポグレラート塩酸塩錠100mg「TYK」
  • サルポグレラート塩酸塩錠100mg「JG」
  • サルポグレラート塩酸塩錠100mg「サワイ」
  • サルポグレラート塩酸塩錠100mg「オーハラ」


参考:


Oct 11, 2010

アリセプト特許権存続期間延長登録 無効審決取消訴訟

エーザイの販売するアリセプトの特許権(特許2578475)に基づく下記存続期間延長登録に対して後発品メーカー(沢井製薬・シオノケミカル・大正薬品工業・大洋薬品工業・東和薬品・日医工・日本薬品工業・陽進堂)が無効審判を請求(2008年11月)していましたが、いずれも無効審判請求は成り立たないとされたため、2009年12月24日に知財高裁に出訴しているようです。

  • 延長登録出願番号2007-700112の無効審判(無効2008-800239)
  • 延長登録出願番号2007-700116の無効審判(無効2008-800243)
  • 延長登録出願番号2007-700113の無効審判(無効2008-800240)
  • 延長登録出願番号2007-700117の無効審判(無効2008-800244)
  • 延長登録出願番号2007-700114の無効審判(無効2008-800241)
  • 延長登録出願番号2007-700111の無効審判(無効2008-800238)
  • 延長登録出願番号2007-700115の無効審判(無効2008-800242)


【審決の要旨】

先の用途である「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件延長登録の理由となった処分の対象となった物について特定された用途である「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(但し、軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を除く。)」(実質的には「高度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」)は、実質的に同一であるとはいえないので、両者が実質的に同一であることを前提とする、本件延長登録は、本件特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない場合の出願に対してされたものであるとの請求人の主張は理由がない。

【コメント】

先の用途に基づく特許2578475(出願日:1988年6月22日)の特許権存続期間延長登録出願(平11-700114; 平11-700113)での延長の期間は2年11月17日であるため、存続期間満了は2011年6月となる。一方、本件追加用途に基づく同特許権の存続期間延長登録出願での延長の期間は5年であるため存続期間満了日は2013年6月22日となる。

過去記事:



Sep 21, 2010

2010.07.15 「P&G v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10238

進歩性と追加実験結果の参酌: 知財高裁平成21年(行ケ)10238

【背景】

「日焼け止め剤組成物」に関する出願(特願2000-561967号)の拒絶審決取消訴訟。
出願人は、進歩性なしと判断した審決に対して、(1)審判請求理由補充書の実験結果を参酌することができないとした判断の誤り、(2)参酌しても顕著な効果がないとした判断の誤りがあると主張した。

請求項1:
「日焼け止め剤としての使用に好適な組成物であって:
a)安全で且つ有効な量の,UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め剤活性種;
b)安全で且つ有効な量の安定剤であって,次式,【化1】(省略)である前記安定剤;
c)0.1~4重量%の,2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸であるUVB日焼け止め剤活性種;及び
d)皮膚への適用に好適なキャリア;
を含み,前記UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め剤活性種に対する前記安定剤のモル比が0.8未満で,前記組成物がベンジリデンカンファー誘導体を実質的に含まない前記組成物。」

【要旨】

裁判所は、出願後に補充した実験結果等を参酌することが許されるか否かの一般的判断について、下記のとおり言及した。

「特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり,当初明細書に,「発明の効果」について,何らの記載がないにもかかわらず,出願人において,出願後に実験結果等を提出して,主張又は立証することは,先願主義を採用し,発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので,特段の事情のない限りは,許されないというべきである。
また,出願に係る発明の効果は,現行特許法上,明細書の記載要件とはされていないものの,出願に係る発明が従来技術と比較して,進歩性を有するか否かを判断する上で,重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは,解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から,出願に係る発明が,公知技術を基礎として,容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ,上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは,「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのような点を考慮すると,本願当初明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について,進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので,特段の事情のない限り許されないというべきである。
他方,進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから,当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。」

そして、裁判所は、上記観点から本件を下記のとおり検討した。

「本願当初明細書(甲3,段落【0011】)には,本願発明の作用効果について,「本発明の組成物~が優れた安定性(特に光安定性),有効性,及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)を~提供することが見出されている。」との記載がある。~さらに,「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」は,並列的に記載された様々な「UV-Bフィルター」の中の1つとして公知のものである(甲2の1~9)。以上の記載に照らせば,本願当初明細書に接した当業者は,「UV-Bフィルター」として「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」を選択した本願発明の効果について,広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性を,より一層向上させる効果を有する発明であると認識するのが自然であるといえる。
~確かに,出願当初明細書には,本件【参考資料1】実験の結果で示されたSPF値及びPPD値において,従来品と比較して,SPF値については約3ないし10倍と格段に高く,PPD値についても約1.1ないし2倍と高いこと等の格別の効果が明記されているわけではない。しかし,本件においては,本願当初明細書に接した当業者において,本願発明について,広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより一層向上させる効果を有する発明であると認識することができる場合であるといえるから,進歩性の判断の前提として,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許され,また,参酌したとしても,出願人と第三者との公平を害する場合であるということはできない。」

これに対し、被告は、

「本願当初明細書によっては,どの程度のSPF値やPPD値を有するかについて推測し得ない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「被告の主張を前提とすると,本願当初明細書に,効果が定性的に記載されている場合や,数値が明示的に記載されていない場合,発明の効果が記載されていると推測できないこととなり,後に提出した実験結果を参酌することができないこととなる。このような結果は,出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと,審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば,出願人に過度な負担を強いることになり,実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ,前記公平の理念にもとる」

として、被告主張を採用することはできないとした。

以上のとおり、裁判所は、

「本件においては,本願当初明細書に接した当業者において,本願発明について,広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより一層向上させる効果を有する発明であると認識することができる場合であるといえるから,進歩性の判断の前提として,出願の後に補充した実験結果等を参酌したとしても,出願人と第三者との公平を害する場合であるということはできない。本件【参考資料1】実験の結果を参酌すべきでないとした審決の判断は,誤りである。」

と判断した。

そして、裁判所は、「本件【参考資料1】実験結果を参酌しても顕著な作用効果はない」とした審決の判断も誤りであると判断した。

審決取消。

【コメント】

進歩性の判断において、当初明細書に当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には、記載の範囲を超えない限り、出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり、許されるか否かは公平の観点に立って判断すべきであると判示された。

「当初明細書に効果が定性的に記載されているだけの場合や、数値が明示的に記載されていない場合は、後に提出した実験結果を参酌することができない」という特許庁の考え方に対して、裁判所は、「出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと等に照らすならば,出願人に過度な負担を強いることになり,実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ,公平の理念にもとる」として否定した。

つまり、進歩性判断において、出願後に補充した実験結果等を参酌することが許される場合とは、当初明細書にその「発明の効果」を当業者に認識できる程度に記載してあればよく、それは定性的記載で足り、定量的記載までは要しないという結論である。

現行の審査基準では、「明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるとき」は、出願後の実験結果等を参酌する旨規定しているが、定量的記載までは明示的に要求していない。本判決に従えば、明細書に、「発明の効果が認識できる程度の記載」または「これを推論できる記載」がありさえすれば出願後の実験結果等は参酌されることになる。

但し、「許されるか否かは公平の観点に立って判断」とのことであるから、公平でなければ、いくら定性的な記載が明細書にあったとしても後出しデータは認められないこともあるということになる。出願人が出願当時には将来どのような引用発明と比較検討されるのか知り得ていたのならば、後出しデータは公平でないとされるのかもしれない。すなわち、出願人自らした先願が明らかに引用発明として挙げられるべきものである場合がそれに該当するかもしれない。


  • 審査基準 第II部第2章 新規性・進歩性 2.5論理づけの具体例 (3)引用発明と比較した有利な効果

    (抜粋)
    (3) 引用発明と比較した有利な効果
    引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。

    ②意見書等で主張された効果の参酌
    明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。
    (参考:東京高判平10.10.27(平成9(行ケ)198))


進歩性判断で出願後に提出した実験結果等の採否が問題となった最近の主な判決例を下記に挙げた。"進歩性のための明細書記載要件"または"進歩性のための出願後実験結果等の参酌条件"が、今後どのような流れとなっていくのか注目である。

  • 2009.04.27 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10353
    「作用効果に関して薬理データ等の具体的記載が明細書には存在しないから進歩性の根拠とならない」という特許庁の主張について、裁判所は、明細書中の定性的な記載に基づいて作用効果を奏することを認め、その作用効果に関して出願後に提出された証拠資料を参酌したうえで、進歩性の判断をした(進歩性は結局否定されたが)。
  • 2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219
    比較実験データを提出したが、「本願補正明細書には,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではない」という理由で原告の主張は採用されなかった。
  • 2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389
    試験成績書でデータを示しても、明細書には格別顕著な効果を奏するものであることをうかがわせる記載は無いことから、出願人の主張は、明細書の記載に基づかないものである、とされ、進歩性なしと判断された。


参考:



Sep 12, 2010

2010.09.09 「第一三共 オルメサルタン米国特許侵害訴訟で勝訴」

第一三共とマイラン社とが争っていた高血圧症治療剤BenicarⓇ、Benicar HCTⓇ及びAZORⓇに関するANDA訴訟において、2010年9月9日、CAFCは、第一三共のオルメサルタンメドキソミル(olmesartan medoxomil)特許が有効であると認めた地裁判決を支持しました。

マイラン社は、「DuPont社の(1)'902特許及び(2)'069特許に記載されたangiotensin receptor blockerの存在、(3)プロドラッグとしてmedoxomilを採用することの周知性の点から、オルメサルタンメドキソミル米国物質特許(米国特許番号5,616,599)のクレーム13は自明である」と主張していました。


Sep 2, 2010

2010.09.01 「武田薬品 合成研究部門で実験ノートを完全電子化」

2010年9月1日の富士通プレスリリースによると、武田薬品の合成研究部門において電子実験ノートシステムの運用が開始されたとのことです。

参考:

Aug 23, 2010

2010.05.10 「アステラス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10170

リーチ・スルー・クレームの応用?: 知財高裁平成21年(行ケ)10170

【背景】

「坑血小板剤スクリーニング方法」に関する出願(特願2003-353705号)の拒絶審決取消訴訟。争点は実施可能要件(特36条4項)を満たしているか否かであった。

請求項1(要約):
「ADP受容体P2TACアンタゴニスト等を検出する工程(A)(B)(C)」と「製剤化工程」を含む、抗血小板用医薬組成物の製造方法。

【要旨】

裁判所は、

「本願請求項1(本願発明)の場合,「製造される物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる「抗血小板用医薬組成物」であるから,当業者がかかる医薬組成物を製造するためには,明細書の記載から有効成分たる化合物が何であるかを理解・把握する必要があり,その際は,有効成分たる化合物を化学構造の観点から化合物自体として把握する必要があるというべきである。すなわち,本願発明の製造方法において製剤化工程を行うためには,その前提として,抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握する必要があるというべきである。」

と判示し、かかる見地から、本願発明について裁判所は、

「本願明細書(甲3)は,実施例で検出が行われた個別の2つの物質に関してADP受容体P2TACアンタゴニスト活性が確認された旨の記載があるに止まるものであり,どのような化学構造や物性の化合物が有効成分となるかについての具体的な記載はない。したがって,当業者は,本願明細書の記載からある化学構造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することはできない。そして,本願発明の特許請求の範囲全体を実施するためには,特定されていない無数の化合物を無作為に製造し,特許請求の範囲に記載された検出方法を適用して試験化合物からADP受容体P2TACリガンド,アンタゴニスト又はアゴニストが検出されるかどうかを確かめ,ADP受容体P2TACアンタゴニストたる化合物を見つけ出さなければならないが,このことは当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきである。すなわち,本願明細書の記載からは,スクリーニング工程を経てアンタゴニストとなる化合物が発見された場合に限り,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識できるということが示唆されているのみであり,このことは特定の医薬組成物を認識しうることの単なる期待を示しているにすぎないのであるから,アンタゴニストとなる化合物を発見し,その化合物を用いた抗血小板用医薬組成物を認識するまでにはなお当業者に過度の負担を強いるものである」

さらに、

「前記のとおり,本願発明の場合,「製造する物」は有効成分である化合物と製剤化に必要な汎用の成分とからなる抗血小板用医薬組成物であるから,当業者は明細書の記載自体から抗血小板用医薬組成物における有効成分となるものを化合物自体として特定して把握することができること,いいかえれば,明細書の記載自体からある化学構造の化合物を含む組成物が本願発明に該当するかどうかを認識・判断することができなければならないというべきである。そうすると,当業者がスクリーニング工程を含む検出過程を経なければ有効成分となる化合物を把握することができないという点において,候補化合物の多寡,スクリーニング対象となる化合物群ないしライブラリーの入手のしやすさ,検出に要する時間の長短,スクリーニング操作が簡便であるかなどにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない,即ち本願における発明の詳細な説明は実施可能要件(旧36条4項)を充足していないと認めるのが相当である。」

と結論付けた。

請求棄却。

【コメント】

本願発明の(A)~(C)の検出方法自体は特許となっており(特許第3519078号)、一般的に単純方法であるスクリーニング方法クレーム自体は特許性は認められうる。しかし、スクリーニング方法で得らるだろう結果物の「物のクレーム」、いわゆるリーチ・スルー・クレームは実施可能要件を満たさない等により拒絶されるべきものであるとされている。本事件において問題となった発明は、リーチ・スルー・クレームの「製造方法クレーム」バージョンであった。

アステラスの果敢な挑戦の背景には、スクリーニング方法特許では、同じ創薬ターゲットの医薬品を開発する競合会社に対する牽制効果が弱く、何とかしてその効果の強いクレームを取得したいという点にある(と思われる)。

Aug 9, 2010

2010.03.31 「テバ v. 協和発酵キリン」 東京地裁平成19年(ワ)35324

プロダクト・バイ・プロセス クレームの技術的範囲とは?: 東京地裁平成19年(ワ)35324

【背景】

「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物」に関する特許権(特許第3737801号)を保有する原告(テバ社)が、被告(協和発酵キリン)製品(プラバスタチンNa塩錠10mg KH)の製造・販売行為は特許権を侵害するとして、被告製品の製造・販売の停止並びに在庫品の廃棄を求めた事案。いわゆるプロダクト・バイ・プロセス クレームで記載された本件発明の技術的範囲につき製造方法を考慮すべきかどうかが裁判所で判断された。

請求項1:
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。

【要旨】

裁判所は、

「特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づき定めなければならない(特許法70条1項)ことから,物の発明について,特許請求の範囲に,当該物の製造方法を記載しなくても物として特定することが可能であるにもかかわらず,あえて物の製造方法が記載されている場合には,当該製造方法の記載を除外して当該特許発明の技術的範囲を解釈することは相当でないと解される。他方で,一定の化学物質等のように,物の構成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。

したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく, 当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」

と判示したうえで、本件においては、

「本件特許の請求項1は,~物の特定のために製造方法を記載する必要がないにもかかわらず,あえて製造方法の記載がされていること,そのような特許請求の範囲の記載となるに至った出願の経緯~からすれば,本件特許においては,特許発明の技術的範囲が,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定されないとする特段の事情があるとは認められない(むしろ,特許発明の技術的範囲を当該製造方法によって製造された物に限定すべき積極的な事情があるということができる。)。したがって,本件発明1の技術的範囲は,本件特許の請求項1に記載された製造方法によって製造された物に限定して解釈すべきである」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

関連出願での事件(2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781)では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、プロダクトそのものとして特許性(同一性説)の判断がなされた。
一方、本事件では、同一性説に基づく特許無効の抗弁もされたが、裁判所はその判断をする前に、特段の事情がない限り特許権の効力がクレームの製法に限定され(限定説)、そもそも被告製品は原告特許発明の技術的範囲に属さないという判断を下した。

第三者にとっては、「特段の事情」がある場合には、プロダクト・バイ・プロセス クレームで記載された特許発明の技術的範囲が"広く"解釈(同一性説)されてしまうことになるから、侵害の有無を判断するに当たり「特段の事情」があったのかどうかを注意深く検討する必要がある。本判決によれば「特段の事情」が権利解釈の重要なポイントになるのであるから、「特段の事情」という意義がはっきりしなければ、権利範囲の不安定化を引き起こす懸念がある。

本判決は、プロダクト・バイ・プロセス クレームの効力をプロダクトそのものとして判断する場合があり得る救済条件として「特段の事情」、例えば、「物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない」場合、を示した。しかし、特許権者側にとっては、依然、厳しい条件のように思われる。なぜなら、「構成」が不明な「物」は、「製造方法」以外にも、あらゆる分析方法を実行してみれば「物理化学的特性」等によって特定することができるかもしれない、すなわち、「製造方法で物を特定せざるを得ない」との主張は悪魔の証明のようなものだからである。そして、「製造方法」以外で「物」を特定する手段が存在しないというのであれば、訴訟において、被疑侵害品が「当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一である」なんてことをどうやって認めることができるだろうか?

一般的に、特許権者側の立場からすれば、特許性は「同一説」に基づいて審査を経たにもかかわらず、権利行使の場面では「限定説」に基づいて判断されては納得がいかないだろう。原告が主張した、「特許発明の要旨認定及び特許発明の権利範囲~の両者が整合するのが当然である」という点については、個人的には賛成であり、両者とも「同一説」か「限定説」かに統一させるべきであるように思う。プロダクト・バイ・プロセス・クレームで記載された特許発明の技術的範囲についての解釈は、過去判決で統一されておらず、知財高裁での判断、今後の判例の蓄積を待ちたい。

参考:


Jul 25, 2010

2010.03.30 「太陽化学 v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10144

ストレス状態~平常状態~リラックス状態: 知財高裁平成21年(行ケ)10144

【背景】

「テアニン含有組成物」に関する出願(特願平7-184923; 特開平9-12454)の拒絶審決取消訴訟。拒絶査定不服審判(不服2006-6371号)において、
  • 補正後の請求項1に係る発明が、引用例1発明(テアニンを有効成分とする抗ストレス剤)と引用例2発明(α波を増強させてストレスを解消してリラックス状態にするα波増強剤)に基づいて当業者が容易に発明する事ができたから特29条2項

  • 補正後の請求項2に係る発明が、先願発明(特開平8-73350)と同一であると認められるから特29条の2

の規定により、それぞれ独立特許要件を満たさないことによって補正却下された結果、補正前の請求項1及び2に係る発明は特29条2項または特29条の2の規定に違反するとされた。

補正後の請求項1(下線が補正部分):

テアニンを含有することを特徴とする,α波の出現時間の累計を平常時に比べ10パーセント以上増加させるための,α波出現増強剤。

補正後の請求項2(下線が補正部分):

テアニンを含有することを特徴とする,学習能率向上剤。(脳代謝又は脳機能の障害及びこれらに起因する症状,並びに神経障害の治療・改善・予防作用を除く。)

【要旨】

裁判所は、審決には、(1)引用例2発明の認定の誤り(取消事由1)、(2)容易想到性判断の誤り(取消事由2)、(3)補正発明2と先願発明との同一性の認定判断の誤り(取消事由3)があると判断した。その理由は以下のとおり。

(1)引用例2発明の認定の誤り(取消事由1)について

裁判所は、

「引用例2発明は,マラクジャ果汁を含有する増強剤等により,脳のα波を増強させ,人の精神状態をリラックスさせる発明であり,そこにストレスの解消,低減という語が用いられているとしても,それは,単に,リラックスした状態を表すために用いられているにすぎないのであって,引用例2がストレスの解消,低減に係る技術を開示していると認定することはできない。

上記のとおり,引用例2の「ストレスを予防又は軽減」との記述は,その技術的な裏付けがなく,単に,リラックス状態への移行を述べたにすぎないと理解するのが合理的であり,また,実施例を含めた引用例2全体の記載からみても,引用例2に,ストレスを予防,軽減する技術が開示されていると判断することはできない。

審決は,引用例1発明及び引用例2発明の「ストレス」の意義についての誤った理解を前提として,両者の解決課題が共通であり,引用例1発明には引用例2発明を適用する示唆があると判断した点において,審決の上記認定の誤りは,結論に影響を及ぼす誤りであるというべきである。」

と判断した。

(2)容易想到性判断の誤り(取消事由2)について

裁判所は、

「前記(1)の記載によれば,自律神経系の作用と中枢神経系の作用は区別して認識されるのが技術常識であり,証拠を総合するも,自律神経系に作用する食品等が,当然に中枢神経系にも作用するという技術的知見があることを認めることはできない。
そうすると,自律神経系に作用する引用例1発明は中枢神経系に作用する引用例2発明とは技術分野を異にする発明であることから,当業者は,引用例1発明に引用例2発明を適用することは考えないというべきであって,両発明を組み合わせることには阻害要因があるというべきである。」

と判断した。

この点,被告は、

「抗ストレス作用を「自律神経系の活動を反映する血管,心拍数などの心臓血管系の反応の点からみた作用」としてとらえるか,あるいは「中枢神経系の活動を反映する脳波からみた作用」としてとらえるかは,ストレスの程度やリラックスの程度を確認するための指標として何に着目するかという差異にすぎず,引用例1と引用例2の技術が質的に異なることを意味しないから,阻害要因とならない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「前記のとおり,自律神経系に作用するか,中枢神経系に作用するかは,基本的な作用機序に係るものであり,単なる測定のための指標にすぎないとの証拠はなく,したがって,被告の主張は採用することができない。
以上のとおり,阻害事由を看過して,当業者が引用例1発明に引用例2発明を適用することにより,容易に補正発明1に想到することができるとした審決の判断には誤りがある。」

と判断した。

さらに、被告は、

「ストレスの解消・軽減を課題とする発明は,必然的にリラックス状態になるか,又はリラックス状態に近づけることも課題としていることが,本願出願当時の技術常識である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「ストレス状態,リラックス状態,その中間状態という3つの状態が存在することが認められ,この知見によっては,ストレスの予防・軽減が直ちにリラックス状態に導くものとすることはできない。~審決は,補正発明1における引用例1発明との相違点に関する構成について,引用例1発明に,引用例2発明を適用する示唆がないにもかかわらず,引用例2発明を適用した点に誤りがある。」

と判断した。


(3)補正発明2と先願発明との同一性の認定判断の誤り(取消事由3)について

裁判所は、

「先願発明は,先願明細書に記載された,その構成,産業上の利用分野,目的,効果のいずれによっても,脳機能改善剤等を提供する発明であることが明白である。これに対し,補正発明2は,特許請求の範囲において「(脳代謝又は脳機能の障害及びこれらに起因する症状,並びに神経障害の治療・改善・予防作用を除く。)」とされている。~前記によれば,先願発明と補正発明2は発明としての同一性がないというべきであって,これを同一とした審決の判断は誤りである。」

と判断した。

これに対し、被告は、

「先願明細書の~「記憶や学習」についての記載は,脳や神経における障害の有無とは関係のない一般的な記憶や学習に関する記載である」

旨等を主張した。

しかし、裁判所は、

「この記載部分は,先願出願当時の従来技術について述べたものにすぎず,先願発明の範囲を画するものとして記載したものとはいえない。~脳機能改善としての効果を示すとされていることに照らすならば,記憶,学習に関する一般的な発明について記載されたものとはいえない。
以上のとおり,補正発明2において「脳代謝又は脳機能の障害及びこれらに起因する症状,並びに神経障害の治療・改善・予防作用を除」いたとしても,補正発明2と先願発明の相違点は解消されないとする被告の主張は採用することができない。先願発明と補正発明2を同一の発明であるとして特許法29条の2を適用した審決の判断には誤りがある。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

1. ストレス状態~平常状態~リラックス状態

裁判所は、
  • ストレス状態~平常状態~リラックス状態という3つの状態の存在が認定されたことによって、引用例1発明には、ストレス状態から平常状態にすることが開示されているのに対し、引用例2には、平常状態からリラックス状態を導くことが開示されている点で、両者の解決課題は共通ではない。

  • 引用例1発明は、自律神経系に対する作用効果を有するのに対し、引用例2発明は、中枢神経系に対する作用効果を有するという点(基本的な作用機序)で、両者は技術分野を異にする。

と判断した。

これらの裁判所の進歩性判断において、当業者が引用発明に他の引用発明を適用できるかどうかの動機付けを判断するポイントは、審査基準でも規定されているとおりである(①技術分野の関連性、②課題の共通性、③作用・機能の共通性、④引用発明の内容中の示唆)。今回の進歩性判断の分かれ目は、ストレス状態とリラックス状態との間に中間(平常)状態があると認定され、しかもこの中間状態がストレス状態とリラックス状態が混在した状態であるということを特許庁が証明しきれなかったことのように思う。

参考:


ところで、進歩性の判断で、今回の判決で注目したいのは、裁判所が考えた「阻害事由(要因)」とは何かである。これまでの実務上では、「阻害事由(要因)」とは、たぶん、動機づけを妨げる又は阻害する(積極的に否定する)ものであり、単なる消極的理由は、「阻害事由(要因)」として採用されない、と理解していたが・・・
本判決では、取消事由2について阻害事由(要因)の存在を認めたが、これは単に引例どうしが技術分野を異にすることから組み合わせる動機付けがないというだけのようであり、動機づけを積極的に否定するようなもの(例えば、自律神経系に作用する引例1と中枢神経系に作用する引例2を組み合わせると悪影響が生ずる等)ではなかった。本判決文からは、動機付けがないことがすなわち阻害事由(要因)が存在すると読み取れるが、「阻害事由(要因)」のコトバの使い方が、他の判決と整合しているのか?そうであれば「阻害事由(要因)」というコトバの意義は広く考える必要がある?

参考:
  • 特許・実用新案審査基準 第II部 第1章 新規性・進歩性
    2.8 進歩性の判断における留意事項
    (1) 刊行物中に請求項に係る発明に容易に想到することを妨げるほどの記載があれば、引用発明としての適格性を欠く。しかし、課題が異なる等、一見論理づけを妨げるような記載があっても、技術分野の関連性や作用、機能の共通性等、他の観点から論理づけが可能な場合には、引用発明としての適格性を有している。


2. 特29条の2の他の出願の当初明細書(先願明細書)に記載された(医薬)発明の認定について

特29条の2の拒絶理由を解消するために、先願明細書に記載された発明を除いたクレームが果たして除ききれているのかどうかが問題となった。確かに「記憶・学習に効果がある」旨の記載が先願明細書にあったが、その記載が脳障害の治療等のみに関わるものだったのか、それ以外の一般的な記憶・学習の向上まで開示されていたといえるのかが問題となった。判決では、発明の効果の記載に照らすことによって先願明細書の記載を認定し、一般的な記憶・学習について記載されたものとはいえないと判断した。
特29条の2の他の出願の当初明細書(先願明細書)に記載された(医薬)発明を認定するに当たり、先願明細書に記載された文言をそのまま「記載された発明」として認定するのではなく、先願明細書の効果等に照らして何が記載されていたのかを判断したという点で、本判決は今後の実務に参考になるかもしれない。

参考:



Jul 19, 2010

2010.02.24 「アルカフロイ(脱退原告 バイエル) v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10399

フルダラ即開放性錠剤: 知財高裁平成21年(行ケ)10399

【背景】
「活性成分の即開放性を有する高純度配合物の経口フルダラ」に関する脱退原告がした出願(WO 2003/053418; 特表2005-519043号)の拒絶審決取消訴訟。
本願発明と引用例1発明とは、「活性成分フルダラ(fludara)10mgを含んで成る即開放性錠剤配合物」との点で一致していたが、本願発明では、5種の配合物質が特定されているのに対し、引用例1発明ではそのような言及がない点(相違点1)について相違しており、この相違点1についての容易想到性の判断が争点となった。

請求項1:

50 ~ 100mg のラクトース一水和物,
0.1 ~ 5mg のコロイド状二酸化珪素,
40 ~ 100mg の微晶性セルロース(avicel),
1~ 10mg のクロスカラメロース- Na(ナトリウムカルボキシメチ
ルセルロース),及び
0.5 ~ 10mgのステアリン酸マグネシウムと共に,
99.19 %以上の純度での活性成分フルダラ(fludara)1 ~ 70mg を含
んで成る即開放性錠剤配合物であって,前記フルダラ中の汚染物が次
のような%を越えない:
(中略)
ことを特徴とする配合物。


【要旨】

裁判所は、

「引用例3(甲3)に記載された「即開放性錠剤」,及び引用例4(甲4)の【請求項32】に記載の「非徐放性医薬錠剤組成物」は,いずれも,本願発明の即開放性錠剤配合物に相当するものである。
そして,上記(ア),(イ)によれば,引用例3,4には,いずれも本願発明に含まれる5種の配合物質~が即開放性錠剤に製剤化するための成分として配合されていることが明らかである。
そうすると,本願発明の有効成分(活性成分)である純度99.19 %以上のフルダラは既に公知であるところ,即開放性錠剤に製剤化するための成分として公知となっている5種の配合物質を配合することは,医薬の有効成分の製剤化を企図する当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって,通常の創作能力の発揮であるということができる。そうすると,引用例1(甲1)から公知のリン酸フルダラビン即ち本願発明にいう活性成分フルダラ(fludara)の即開放性錠剤において,同じく即開放性錠剤に製剤化するための成分として配合することが引用例3(甲3)・引用例4(甲4)により公知となっている上記5種の配合物質を採用して配合することに当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
以上の検討によれば,本願発明と引用例1発明との相違点1につき,容易想到とした審決の判断に誤りはないというべきである。」

と判断した。

当事者参加人は、

「本願発明は,引用例1発明との相違点1にかかる発明特定事項を採用することによって,フルダラは非常に不安定な物質であり錠剤の設計に当たっては錠剤配合物質の選択において特別の考慮が必要である,との欠点が克服できたものであり,これは本願明細書の段落【0006】~【0012】に記載されており,平成18年10月13日付け上申書(甲8)の記載の測定データを参酌すれば明らかである」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願明細書において,引用例1発明との相違点1にかかる特定事項である5つの配合物質を採用することにより不安定な物質であるフルダラの錠剤の設計に当たっての欠点が克服できた旨の記載を見出すことはできない。また,本願明細書の段落【0012】の記載も,5つの配合物質について好ましい配合量を示しているが,その配合量がいかなる意味で好ましく,どのような意義を有するものであるかについては何らの記載がない。本願明細書において,唯一5つの配合物質の配合量を示す実施例である段落【0019】の記載も,上記2(1)イ摘記のとおり,一例としての数値を挙げるのみでありこれによる効果の記載もない。そうすると,相違点1に係る上記5種の配合物質を同時に含むフルダラの錠剤配合物が,そのすべてを規定量含むことで貯蔵安定性に優れるという顕著な作用効果を奏するものであることも,本願明細書には何ら記載されていないものであるから,かかる効果は引用例3~5を参酌しても予測し得るものではないとの当事者参加人の主張も本願明細書に基づくものとはいえない。」

と判断した。

また当事者参加人は、

「相違点1に係る5種の配合物質のうち1種でも欠ければフルダラの十分な安定性が得られないことは,~上申書(甲8)記載の実験結果から明らかである」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「その構成及び作用効果に関する主張は本願明細書の記載に基づくものではないことにつき既に検討したとおりであるから,上記上申書(甲8)を参酌する根拠を欠くものである。当事者参加人の上記主張は採用することができない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

引用例発明との相違点に係る上記5種の配合物質を含むことにより本願発明が安定性に優れた効果を奏する点について、本願明細書には全く記載されていなかった。従って、当事者参加人の効果の主張及び上申書記載の実験結果も本願明細書に基づくものとはいえず、参酌する根拠を欠くとされてしまった。

この出願、米国及び欧州では上記5種の配合物質について数値限定することなく特許になっているところが驚きである(US7,148,207B2; EP1455760B1)。

参考:

Jul 11, 2010

ラタノプロスト(Latanoprost)後発品初収載

2010年5月の後発医薬品等薬価追補収載について、今回後発品が初めて収載されたもののうち、最も品目数で多かったのが緑内障治療薬ラタノプロスト(Latanoprost: 先発品はファイザーのキサラタン(Xalatan)点眼液)でした(22品目)。ラタノプロストの化合物特許(特許第2721414号)は2009年9月6日に満了しましたが、ファイザーは、このキサラタン点眼液と併用されることの多いチモロールとの配合剤(ザラカム(Xalacom)配合点眼液)の製造販売承認を2010年1月20日に取得、4月から販売を開始しています。
ファイザーは、ラタノプロスト単剤の後発品参入に対して、チモロールとの配合剤を市場に投入することで、ラタノプロストの製品延命化(?)を試みているようですが、チモロールとの配合点眼剤としては、他に、ラタノプロストと同じプロスタグランジンF2α誘導体であるトラボプロスト(Travoprost)とチモロールとの配合剤(デュオトラバ(DuoTrav)配合点眼液)、ドルゾラミドとチモロールとの配合剤(コソプト(Cosopt)配合点眼液)が、ともに2010年4月に製造販売承認され、同6月から販売されています(トラボプロスト及びドルゾラミドの後発品はまだ参入していない)。
パブリックデータベースからこれら配合剤を保護する特許がどの程度存在するのか正確に把握することはできませんが、このように、併用療法が主流となり、類似薬の存在によりその組み合わせも多様化して混沌としてきた分野では、配合剤の製品自体の優位性も重要ですが、それを支える特許の重要性も益々高まるといえるのではないでしょうか?

参考:


ラタノプロストに関連する判決:


Jul 5, 2010

2010.06.28 「アステラス VESIcare特許侵害訴訟でテバと和解」

2010年6月28日、アステラスは、テバと、米国で係争中の過活動膀胱治療剤「VESIcare®」(一般名: コハク酸ソリフェナシン、日本製品名「ベシケア®」)の物質特許(米国特許番号:6,017,927)に関する特許侵害訴訟について、同意判決により終結させる和解契約を締結しました。和解契約に基づき、テバは、アステラスが小児試験に基づく独占販売期間を取得しない場合、2018年10月に後発品を発売することができるとのことです。

ところで、日本の物質特許(特許第3014457号)は特許権存続期間延長登録(延長登録出願番号: 2006-700045, 2006-700046)により5年間の延長期間が認められたため、存続期間満了日は2020年12月27日。

参考:


Jun 30, 2010

2010.06.29 「クレストールANDA訴訟地裁判決、アストラゼネカ・塩野義が勝訴」

クレストール(Crestor)(一般名:ロスバスタチンカルシウム(Rosuvastatin Calcium))の米国特許(RE 37,314)について特許権者である塩野義と導出先であるAstraZenecaが共同で後発品メーカー数社と争っていたANDA訴訟で、2010年6月29日、地裁は後発品メーカーの侵害であると判決しました。Orange Bookによれば、RE37,314特許存続期間は2016年1月8日まで。  

参考:

Jun 28, 2010

2010.02.09 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10053

進歩性引例の「周知技術」として許容される用い方: 知財高裁平成21年(行ケ)10053

【背景】

「抗脂血及び抗肥満剤」に関する出願(特願平4-194472; 特開平05-339159)の拒絶審決取消訴訟。審決理由は進歩性無し。

請求項1:
抗脂血性の有効成分が,ストレプトコッカス・サリバリウスによって生成されるか,又は前記ストレプトコッカス・サリバリウスが産生する酵素によって生成されるレバンからなる,抗肥満剤。

引用文献には、
「ラットにストレプトコッカス・サリバリウスのレバン生成酵素(FTase)を添加した餌を与えたところ、FTase投与により血清TGの有意な上昇抑制と脂肪組織重量の増加抑制が認められた(引用発明)」
ことが記載されていた。

従って、本願発明と引用発明とは、有効成分として「ストレプトコッカス・サリバリウスが産生するレバン生成酵素(FTase)を利用する薬剤」である点で一致するが、下記の点で相違する。

・有効成分が、本願発明ではレバンであるのに対して、引用発明ではレバン生成酵素(FTase)自体である点(相違点1)

・薬剤が、本願発明では抗肥満剤であるのに対して、引用発明では血清TG の上昇抑制及び脂肪組織重量増加抑制剤である点(相違点2)

【要旨】

裁判所は、

「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用があるという事実は,本願発明の容易想到性の有無を判断する上で,重要な要素となるものであって,審決では本願発明が容易想到であることの根拠とされていなかった乙2ないし4を,本訴において「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用がある」ことの主要な根拠として用いることは,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合などに当たらず,「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されないというべきである。
したがって,本件においては,基本的に,引用文献の記載自体から,本願発明が容易想到であるかを検討すべきであり,乙2ないし4については,後記(4)のとおり,あくまで補助的に用いることができるにすぎない。」

とした上で、

「上記技術常識を前提とすると,引用文献上の「蔗糖が,FTase 存在下で,レバン(及びブドウ糖)に分解された結果,血清TG の有意な上昇抑制効果があった」旨の上記記載につき,原告が主張するように,「FTase が蔗糖の果糖部分から非消化性のレバンを生成するので,その分だけ吸収されるべき果糖が少なくなることで,蔗糖の過剰摂取の軽減に寄与する旨」(「可能性A」)の解釈はあり得るが,同時に,ショ糖からレバンが生成され,結果的に血清TG の有意な上昇抑制効果がみられた以上,当業者が,レバン自体にも血清TG の上昇抑制効果があるのではないかと考えるのは,何ら困難ではないというべきである。この点につき,原告は,引用文献の上記記載からは「可能性A」のように読むのが通常であると主張するが,原告主張の解釈と,「レバン自体に血清TG の上昇抑制効果がある」旨の解釈は,両立し得るものであって,後者の解釈の成立を阻害する事由を認めるに足りる証拠はなく(前記(2)のとおり,レバンが血中コレステロール上昇抑制作用を一定程度有することが周知であったことからすれば,コレステロールとTG の違いがあるにせよ,上記の阻害事由は見い出せない。),原告の上記主張は採用できない。」

と判断した。

また、裁判所は、

「原告は,本願発明の出願に当たり,動物を対象として,レバンや部分加水分解レバンを検体として用いて,血清コレステロール値,大動脈の脂質沈着面積比,血清トリグリセリド値,精巣近傍の脂肪組織重量の測定を行いながら,特許請求の範囲においては,TG とコレステロールとを分けることなく,レバンにつき単に「抗脂血性」を有するとして,「抗肥満剤」として特許出願しており,本願発明は,血中において,TG とコレステロールの上位概念である脂質の状態を改善し,ひいては肥満を防止することを目的とするものと解される。以上からすれば,引用文献上の記載から導かれる解釈(レバンに,血清TG の上昇抑制効果がある旨)を前提に,「レバンには,TG やコレステロールを含む血中の脂質成分の上昇抑制をもたらす作用がある」旨の本願発明は容易想到であったというべきである。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

容易想到性の有無を判断する上で重要な要素となる事実であって、審決では根拠とされていなかった引例を、訴訟において主要な根拠として用いることは、「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されない。


Jun 21, 2010

2010.03.30 「ナイアダイン v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10158

親油性LogP値の差が0.5~1.5の補助エステル: 知財高裁平成21年(行ケ)10158

【背景】

「局所微量栄養素送達システムおよびその用途」に関する出願(特願2001-575962; 特表2004-519413)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は記載要件(実施可能要件及びサポート要件等)違反であった。

請求項1(本願発明1):

栄養素をヒトに伝達するための組成物の製造方法であって,前記組成物は,炭素原子数12~16のアルキル側鎖を持つニコチン酸アルキルエステル型の前記栄養素と,前記ヒトの皮膚細胞への前記栄養素の送達を促進するのに十分な量の補助エステルとを,前記補助エステルが,前記ニコチン酸エステルに対して,親油性LogP値が小さく,その差がLogP値において0.5~1.5であり,前記ニコチン酸アルキルエステル型の栄養素と前記補助エステルを混合する工程を含む,組成物の製造方法。」


請求項11(本願発明2):

栄養素をヒトに伝達するのに役立つ外用投与に適した剤形の組成物であって,
(ⅰ)炭素原子数12~16のアルキル側鎖を持つニコチンアルキルエステル型の前記栄養素,および
(ⅱ)補助エステルとを含み,前記補助エステルが,前記ニコチン酸エステルに対して,親油性LogP値が小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5である,組成物。」

【要旨】

裁判所は、

「本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十分な記載がされていないと解される。~本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
本願発明1及び2について,特許法36条4項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由は理由がない。原告は,同項の違反について,その他縷々主張するが,いずれも理由がない。

したがって,審決のその余の判断の当否について検討するまでもなく,本件審判請求が成り立たないとした審決の判断に取り消すべき違法はない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

実施可能要件違反とされた事例。審決では種々の理由でサポート要件違反であるとも判断されていたが、判決ではサポート要件違反かどうかは判断されなかった。

Jun 13, 2010

2010.01.28 「エナーテック v. Y」 知財高裁平成21年(行ケ)10175

審査基準以上に補正できる範囲を許容?: 知財高裁平成21年(行ケ)10175

【背景】

特許権者である原告が保有する「高断熱・高気密住宅における深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム」に関する特許(第3552217号)の無効審決取消訴訟。
審決では、「高断熱・高気密住宅」との構成を「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃の高断熱・高気密住宅」との構成とした補正は、新規事項の追加であると判断するものだった。
本件出願当初明細書には熱損失係数についての記載はなかった。

【要旨】

被告は、

「原告は、審判答弁書(甲27)において,上記数値範囲が好適である旨の技術的意義を主張しており,このような新たな技術的意義を有する数値範囲を追加することは,新規事項の追加に当たる。」

と主張した。

しかし、裁判所は、本件補正は、新規事項の追加ではないと判断した。その理由を以下に抜粋する。

「本件当初出願に係る特許請求の範囲(請求項1)においては,「高断熱・高気密住宅において」(構成A)と記載されていた。前記アの認定によれば,同構成は,本件発明の解決課題及び解決機序と関係する技術的事項とはいい難く,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。」

「「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃の高断熱・高気密住宅」との構成について,本件発明全体における意義を検討すると,形式的には,数値を含む事項によって限定されてはいるものの,熱損失係数の計算精度は高いものとはいえないと指摘されていること等に照らすならば,同構成は,補正前と同様に,本件発明の解決課題及び解決機序に関係する技術的事項を含むとはいいがたく,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。」

「本件補正の適否についてみてみると,仮に本件補正を許したとしても,先に述べた特許法17条の2第3項の趣旨,すなわち,①出願当初から発明の開示を十分ならしめ,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性の確保,②出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が被る不測の不利益の防止,という趣旨に反するということはできない。
そうすると,本件補正は,本件発明の解決課題及び解決手段に寄与する技術的事項には当たらない事項について,その範囲を明らかにするために補足した程度にすぎない場合というべきであるから,結局のところ,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入していない場合とみるべきであり,本件補正は不適法とはいえない。」

「もっとも,原告は,無効審判手続及び本訴において,①本件発明が最も効果を奏するのは,熱損失係数1.0~2.5kcal/㎡・h・℃の高断熱高気密住宅においてであること,②熱損失係数が2.5kcal/㎡・h・℃以上になると,住宅内から損失してしまう熱量が大きすぎて,蓄熱層を高温にしなければ,その損失分を補充することはできなくなること,③熱損失係数が1.0kcal/㎡・h・℃以下になると,断熱性が高くなり,暖房効果はあるものの,冷房負荷が大きいという問題が生じるし,断熱性が高ければ,本件発明を用いる必要性がない等と述べている。しかし,前記のとおり「熱損失係数」が計算精度の高いものではないことに照らせば,原告がこのように述べたからといって,直ちに,「熱損失係数1.0~2.5kcal/㎡・h・℃」との値が,本件発明の課題解決の機序との関係において,客観的な技術的意義を有するものと解することはできない。」

さらに、裁判所は、

「仮に,「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃」が,本件発明に関する技術的意義を有するといえるとしても,本件補正は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない。」

と判断した。その理由を下記に抜粋する。

「仮に,本件補正によって付加された事項が技術的内容を含んでいると解したとしても,本件出願当初明細書には「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃」における数値が明示されているわけではないが,本件発明の課題解決の対象である「高断熱・高気密住宅」をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて,当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては,その付加された事項の内容は,本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないといえる。したがって,本件補正は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない。」

審決を取り消す。

【コメント】

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」審査基準改定案に対して、東京医薬品工業協会 知的財産研究会 特許部会が下記とおりのパブリックコメント(see here)を寄せた。その中で、本事案が取り上げられている。

意見及び理由:
知財高裁大合議判決(知財高判平20.5.30、平成18年(行ケ)第10563号)を受け、「現行の審査基準に基づく審査実務を変更せず、大合議判決との整合性をとる」との観点で、審査基準を改訂することについては異論ございません。
しかしながら、産業構造審議会知的財産政策部会 特許制度小委員会 審査基準専門委員会では検討されていなかった、平成22年1月28日に言渡された判決(知財高判平22.1.28、平成21年(行ケ)第10175号)において、「大合議判決基準」が前提として挙げられたうえ、「本件出願当初明細書には「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m2・h・℃」における数値が明示されているわけではないが、本件発明の課題解決の対象である「高断熱・高気密住宅」をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて、当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては、その付加された事項の内容は、本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないものといえる。したがって、本件補正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない」との内容の判決が出されています。この判決は、現行の審査基準以上に、補正のできる範囲を許容しているように感じられます。
今回の審査基準改訂案は、現行の審査基準に基づく審査実務を変更しないという前提での改訂と理解しておりますが、前述の平成21年(行ケ)第10175号事件の判決を例に挙げましたように「大合議判決基準」の表現が曖昧であることゆえの弊害(例えば、補正の予測不可能性)が生じるのではないかと危惧しております。


本判決による新規事項追加の判断手法を整理すると、
追加事項に単に技術的意義(技術的内容)があることだけをもって新規事項の追加であると判断するのではなく、「発明の解決課題及び解決機序との関係で格別な意味を持つ技術的事項」が含まれるのかどうかで判断するとしている。

2010年6月1日、特許庁は、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準を改訂(see here)したばかりだが、"新たな技術的事項の導入"とは何なのか、どのように判断するのかについて、本判決を考慮して改定審査基準が検討された様子はない。本判決に続いて今後の判決及び審査がどのようになっていくか気になるところである。補正の予測不可能性という混乱を引き起こすことにならないよう知財高裁での判決間の整合性及び審査基準等の特許庁での運用に矛盾が起きないようにしてほしい。

Jun 1, 2010

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準の改訂について

2010年6月1日、特許庁は、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準を改訂しました。審査基準専門委員会において結論されたように、今回の審査基準改訂により現行の審査基準に基づく審査実務は変更されません。改訂審査基準は、2010年6月1日以降の審査に適用されます。
東薬工知的財産研究会特許部会など計6件のパブリックコメントが寄せられました。

2010.06.01 特許庁:

May 30, 2010

2010.03.24 「バイエル v. 国」 東京地裁平成21年(行ウ)517

シプロキサン注特許の年金未納: 東京地裁平成21年(行ウ)517

【背景】

原告が「1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-キノリン-3-カルボン酸の注入溶液」に関する特許権(第1981005号; 公告番号:特公平7-14879; 公開番号: 特開昭62-99326)の第13年分の特許料の追納期間の経過後に特許料納付手続をしたところ、特許庁長官が手続却下の処分(「本件却下処分」)をしたため、原告が被告に対し、追納期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて特112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があるとして、本件却下処分の取消しを求めた事案。

本件特許権の存続期間は20年を経過する日である平成18年10月23日までであったが、平成13年12月19日付けで,延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録がされ、本件特許権の存続期間は平成23年9月27日まで延長されていた。

【要旨】

裁判所は、

「法112条の2 第2項1所定の「その責めに帰することができない理由」とは~天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当である。」

との一般解釈を示し、本件においては、

「特許権者である原告が委託したCPAの過失により,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったものであるとしても,本人である原告がその責任を負うべきは当然であって,原告に法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があるといえないことは,明らかである。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本件特許(第1981005号)は、シプロキサン注(シプロフロキサシン(ciprofloxacin)を有効成分とする点滴静注用注射剤)の製造販売承認取得(2000年9月22日)に基づいて、延長登録出願番号2000-700176により延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録(延長登録の年月日は2001年12月19日)がされていた。
シプロキサン注の製造販売承認取得(2000年9月22日)に基づいて、本件特許の他に、特許1515648(公告昭63-056224; 物質特許)、特許1652228(公告平03-014811; 用途特許)及び特許1851316(公告平05-059893; 製剤特許)がそれぞれ延長登録されたが、これら延長された特許存続期間よりも本件特許で延長されたことによる存続期間のほうが一番長くなるはずだった(2012年9月27日)。

本件特許で問題になった追納期間満了日は2007年8月22日であり、シプロキサン注のジェネリックは2009年から販売された。本件特許は製剤特許ではあるもののジェネリック対策として有効なものであったとすれば、今回の年金未払いによる特許権消滅が、シプロキサン注のジェネリック参入を予想より約3年早めてしまったのかもしれないと想像する。特許権存続期間延長登録(出願)をした場合には、20年間の満了後も特許料を続けて納付するように年金管理を確実にしておかなければならない。

特許料の納付受託者の過失を委託した特許権者自身の過失と同視する考え方は、次のとおり、幾多の裁判例において異論なく確認されている。なお、③及び④は、CPAが年金納付管理を担当した事案でCPA担当者の過失が認定された事例である。

① 東京地裁平成14年6月27日判決(平成13年(行ウ)第285号

② 東京地裁平成16年9月30日判決(平成16年(行ウ)第118号

③ 東京高裁平成16年8月4日判決(平成16年(行コ)第176号

④ 東京地裁平成18年9月27日判決(平成18年(行ウ)第186号): 2006.09.27 「バイエル v. 国」 東京地裁平成18年(行ウ)186

⑤ 東京地裁平成19年7月5日判決(平成19年(行ウ)第56号): 2007.07.05 「イミュネックス v. 国」 東京地裁平成19年(行ウ)56

May 23, 2010

2010.03.17 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10207

喘息治療薬吸入器: 知財高裁平成21年(行ケ)10207

【背景】

「呼子付喘息治療薬吸入器」に関する出願(特願2003-121760; 特開2004-195191)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は、本願発明は引用発明1に引用発明2及び周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである、としたものである。

本件補正発明:

微細粉末状薬剤が分包されたロタディスクを穴を覆うように載せディスクカバーで覆った本体と,
前記ディスクカバーの針部でロタディスクを突き刺し微細粉末状薬剤を吸入する際の吸入経路であり,空気を取り入れるための左右小孔が空けられ,微細粉末状薬剤を拡散するための格子が設けられたマウスピースと,
前記左右小孔のいずれかに取り付けた吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正するための空気の流れで音を発する呼子とからなり,
十分に微細粉末状薬剤を吸入できたときだけ音が発生するようにしたことを特徴とする呼子付喘息治療薬吸入器

本件補正発明には、空気の流れで音を発する呼子、が設けられているのに対し、引用発明1には設けられていなかった。

【要旨】

裁判所は、
「この種の薬剤吸入装置において,必要,かつ,十分な量の薬剤を吸入することができるようにすることは一般的な課題であると認められるところ~引用発明2には~これを解決するために音響学的な笛等を利用するという技術思想が開示されているばかりでなく~吸入装置の空気用バイパスに指示装置を結合させて所望の空気流割合において使用する例についても開示されているということができるのである。そうすると~引用発明1に接した当業者~が,同じく吸入装置の発明である引用発明2に接した場合,引用例2に開示された上記のような技術思想を引用発明1に適用し,~引用発明2の技術思想を引用発明1において実現しようとすることは容易であるといわなければならない。」
と判断した。

原告は、本件補正発明の効果が顕著であるとも主張したが、裁判所は、引用発明1と引用発明2の効果を組み合わせた以上のものではないとして、原告の主張を退けた。

請求棄却。

【コメント】

特にコメントなし。参考までに本願発明と引例は下記の通り。

本願発明(下図は呼子付喘息治療薬吸入器。1a: 本体; 1b: ディスクカバー; 2: マウスピース; 3: 呼子; 4: ロタディスク)




引用例1(特開昭62-41668号)はグラクソ社が出願した喘息治療薬吸入器。




引用例2(特開昭49-124893号)は、十分な作動が確保できているかどうかを確認するために使用者が吸気によって所望の空気流を発生された場合に笛やプロペラによる音が発生し、これを聞き取ることができるようにした指示装置と組み合わせた吸入装置の発明である(下図41が笛)。




May 16, 2010

2010.04.15 「塩野義製薬 v. 伊藤忠ケミカル/沢井製薬」 大阪地裁平成21年(ワ)2208・平成21年(ワ)12412

フロモックス結晶特許の侵害訴訟: 大阪地裁平成21年(ワ)2208

【背景】

塩野義が保有する「フロモックス(Flomox)」(一般名:セフカペンピボキシル塩酸塩水和物)の結晶に関する特許権(特許2960790号)侵害差止請求事件。特許請求の範囲には、X線回折測定の結果現れた30のピークの回折角と強度が示されていたが、実はそのうち2つのピークは結晶自体のものではなく、白金ホルダー由来のピークだった。

【要旨】

裁判所は、

「被告製品1(物質)自体は,そのX線回折像に,本件2ピークに対応するピークを有していない。したがって,前記(1)の文言解釈を前提にすれば,被告製品1は,他の28ピークの回折角や強度について判断するまでもなく,本件発明の構成要件Aを充足しないこととなる。~当業者であれば,構成要件Aに記載された本件2ピークが,本件エステル塩酸塩一水和物結晶のピークではないと容易に気づいて,特許請求の範囲から本件2ピークを除外して理解するのが通常であるとはいい難い。」

と判断し、被告製品は本件発明に係る技術範囲に属さないと結論した。

さらに裁判所は、本件特許は進歩性欠如の無効理由があり、特許無効審判において無効にされるべきものであるから本件特許権を行使することはできないとも判断した。

【コメント】

結晶形の発明におけるクレームの表現の仕方、明細書の書き方を考えさせられる事件。進歩性判断における裁判所の認定には疑問があるが、本件発明の技術的範囲の議論は塩野義にとっては非常に苦しい状況のようである。塩野義は知財高裁に控訴しているのでその判断を待ちたい。

参考:


May 10, 2010

2010.02.02 「QLT/ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10384

治療行為を反復すること: 知財高裁平成20年(行ケ)10384

【背景】

「眼の光力学的治療による視力の改善」に関する出願の拒絶審決取消訴訟。審決理由は進歩性無し。

請求項1:

人の視力を改善するための反復ホトダイナミックセラピーに使用される組成物であって,薬理学的に容認可能な賦形剤と光活性化合物を含有し,前記光活性化合物が,グリーンポルフィリン,ヘマトポルフィリン誘導体,クロリン,フロリン又はプルプリンである組成物

【要旨】

原告らは、
  • 各引用例についての審決の引用には都合のよい箇所のみを拾い集めた結果、重大な事実誤認と判断の誤りに陥っている
  • 各引用例は、すべて単回の治療であって、反復使用される組成物については記載されていない
  • 周辺組織への損傷という副作用があるから、反復使用すればするほどかえって視力低下を招くこともあったというのが本願出願時の実情であった
等主張した。

しかしながら、裁判所は、
  • 審決の認定は実質的に影響を与えるものではなく、
  • 治療行為を反復することに重大な阻害事由があるなど特段の事情がない限り、治療を再度実施することは普通に行われることであるから、引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断に誤りはなく、
  • 治療行為を「反復」することに重大な阻害事由はなく、
  • 予測できない効果が奏されたとも認められない

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

裁判所は治療行為を反復する点について下記のように言及した。
「治療に関する事項は治療者である医師等が検討するものであり,研究段階や臨床試験も含め,治療者が人の疾病に対する治療行為を考えるとき,例えば,ある治療行為について一応の治療効果はあったものの,なお効果が十分でないと判断された場合や,一度十分な治療効果があったものの疾病が再発した場合には,その治療に大きな副作用があるなど,治療行為を反復することに重大な阻害事由があるなど特段の事情がない限り,治療者が同じ治療を再度実施することは普通に行われていることであると考えられる。」

単回の治療が知られていたら、その治療行為を反復することは当業者が容易に想到し得るだろう。


参考: QLT Inc.

May 1, 2010

アクトス・アクトプラスメットの米国における特許侵害訴訟和解状況

現時点の和解状況によれば、米国におけるアクトス後発品およびアクトプラスメット後発品の参入時期は、それぞれ2012年8月17日および2012年12月14日と予想されます。

参考:


Apr 26, 2010

2010.04.22 「湧永製薬 v. 大日本住友」 ライセンス契約の解除に伴う訴訟

湧永製薬と大日本住友製薬との間で争っていたニューキノロン化合物のライセンス契約の解除に伴う訴訟について、湧永製薬が最高裁に上告していましたが、2010年4月22日付けで上告棄却の決定があったとのことです。これにより、大阪高等裁判所の判決(大日本住友製薬勝訴)が確定しました。

参考:


Apr 16, 2010

2010.04.15 「フロモックス(Flomox): 大阪地裁、塩野義の請求棄却」

「フロモックス®(Flomox®)」(一般名:セフカペンピボキシル塩酸塩水和物(Cefcapene Pivoxil Hydrochloride Hydrate))の後発品販売を開始した沢井製薬と塩野義との間で争われている特許侵害訴訟で、大阪地裁は、塩野義の請求を棄却しました。塩野義が保有する「フロモックス®」の結晶特許(特許番号:2960790号)の存続期間満了日は2011年3月25日。

沢井製薬プレスリリース:


過去関連記事:


Apr 12, 2010

2010.01.28 「ベーリンガー インゲルハイム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10033

医薬用途発明のサポート要件(特36条6項1号)とは?: 知財高裁平成21年(行ケ)10033

【背景】

「性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用」に関する出願(特願2003-537639; 特表2005-506370)の拒絶審決取消訴訟。審決は、特許明細書には、フリバンセリン類の性欲障害治療用薬剤としての「有用性を裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度」の記載がされていないことのみを理由として特36条6項1号(サポート要件)を満たしていないとした。

請求の範囲(本願発明):
場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩形態にあってもよいフリバンセリンの,性欲障害治療用薬剤を製造するための使用。

【要旨】

裁判所は、

「法36条6項1号は,前記のとおり,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比して,「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲を超えるような広範な範囲にまで独占権を付与することを防止する趣旨で設けられた規定である。そうすると,「発明の詳細な説明」の記載内容に関する解釈の手法は,同規定の趣旨に照らして,「特許請求の範囲」が「発明の詳細な説明」に記載された技術的事項の範囲のものであるか否かを判断するのに,必要かつ合目的的な解釈手法によるべきであって,特段の事情のない限りは,「発明の詳細な説明」において実施例等で記載・開示された技術的事項を形式的に理解することで足りるというべきである。」

との一般原則を判示した上で、本件については、

「審決は,発明の詳細な説明の記載によって理解される技術的事項の範囲を,特許請求の範囲との対比において,検討したのではなく,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載」があるか否かのみを検討して,そのような記載がないことを理由として,法36条6項1号の要件充足性がないとしたものであって,本願の特許請求の範囲の記載が,どのような理由により,発明の詳細な説明で記載された技術的事項の範囲を超えているかの具体的な検討をすることなく,同条6項1号所定の要件を満たさないとした点において,理由不備の違法があるというべきである。また,本件においては,「特許請求の範囲」が特異な形式で記載され,法36条6項1号の要件を充足しないと解さない限り,産業の発展を阻害するおそれが生じるなど特段の事情は存在しない。

~なるほど,本願明細書の発明の詳細な説明においては,「フリバンセリンが,性欲強化特性を有する」等の技術的事項が確かであること等の論証過程に関する具体的な記載はされていない。
しかし,発明の詳細な説明に記載された技術的事項が確かであること等の論証過程に解する具体的な記載を欠くとの点については,専ら,法36条4項1号の趣旨に照らして,その要件の充足を判断すれば足りるのであって,法36条6項1号所定の要件の充足の有無の前提として判断すべきでないことは,前記説示のとおりである(なお,発明の詳細な説明に記載された技術的事項が確かであるか否か等に関する具体的な論証過程が開示されていない場合において,法36条4項1号所定の要件を充足しているか否かの判断をするに際しても,たとえ具体的な記載がなくとも,出願時において,当業者が,発明の解決課題,解決手段等技術的意義を理解し,発明を実施できるか否かにつき,一切の事情を総合考慮して,結論を導くべき筋合いである。)。~審決には,本願に係る特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号の要件を満たしていないとした点に,理由不備の違法がある。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

実施可能要件とは何か、サポート要件とは何か、そもそもの法の趣旨とその判断手法を確認した判決である。
裁判所は当たり前の判断をしたのであって、実施可能要件とサポート要件の判断手法を混同した特許庁は、審査基準を再度確認すべきだろう。たとえ、実施可能要件を満たさないことによって結論が同じ拒絶になるとしても、実施可能要件とサポート要件はそもそも異なるものであり、それぞれの法律の趣旨に従ってしっかり記載要件を判断していただきたい。

特許・実用新案審査基準 第VII部第3章 医薬発明には、特36条6項1号違反となる例として、以下の場合を挙げているが、本判決によれば事例(1)はまさに判断手法としては適切でないことになるだろう。
(1) 請求項においては成分Aを有効成分として含有する制吐剤が特許請求されているが、発明の詳細な説明には、成分Aが制吐作用を有することを裏付ける薬理試験方法、薬理データ等についての記載がなく、しかも、成分Aが制吐剤として有効であることが出願時の技術常識からも推認できない場合(第I部第1章2.2.1.1例9参照)、
(2) 請求項においては、所望の性質により定義された化合物を有効成分とする特定用途の治療剤として、包括的に特許請求されているが、発明の詳細な説明では、請求項に含まれるごくわずかな具体的な化合物についてのみ特定用途の治療剤としての有用性が確認されているにすぎず、これを超えて請求項に包含される化合物一般について、その治療剤としての有用性を出願時の技術常識からみて当業者が推認できない場合(第Ⅰ部第1章 2.2.1.1例7参照)。
(参考:東京高判平15.12.26(平成15(行ケ)104)、知財高判平19.3.1(平成17(行ケ)10818))

ここで上記参考として挙げられているうちのひとつである東京高判平15.12.26(平成15(行ケ)104)は、上記事例(2)の参考であり、事例(1)の参考には当たらない。もう一方の参考として挙げられている知財高判平19.3.1(平成17(行ケ)10818)は、上記事例(1)の参考に当たるものであり、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付け(つまり有用性を示す薬理データ)を欠いているとしてサポート要件違反と判断した判決であるが、サポート要件を実施可能要件の"裏返し"として混同した判断手法を採用したものである。


参考:
  • 医薬用途発明の記載要件として明細書に根拠データは必要か?...こちら
  • Wikipedia: フリバンセリン (Flibanserin)


Apr 4, 2010

2010.01.27 「三笠製薬 v. 久光製薬」 知財高裁平成21年(行ケ)10209

貼り薬の意匠: 知財高裁平成21年(行ケ)10209

【背景】

意匠に係る物品を「貼り薬」とする原告(久光)の意匠登録第1322072号について、原告(三笠)が無効審判請求をしたところ請求不成立の審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案。原告は、引用意匠(原告が意匠権者である意匠登録第1189179号)との類比判断の誤り(取消事由1)及び創作容易性判断の誤り(取消事由2)を主張した。

本件意匠登録第1322072号:




引用意匠(意匠登録第1189179号):


【要旨】

1. 取消事由1(類比判断の誤り)の有無について

裁判所は、

「本件登録意匠は,上記のような2色の色分けを採用することにより,上記背割線の形状を際立たせるとともに,機能的にも中央分離帯部と左右の剥離シート部の両部分を明瞭に見分けることを可能とするものであるのに対し,引用意匠の剥離シートは透明であるため,透明シートの切断線の視認性は相対的に低いものとなっているから,本件登録意匠における上記差異点は,全体として背割線を含む形状における共通性を凌駕する影響を美感に与えるものである。
そうすると,本件登録意匠と引用意匠は,上記共通点を考慮に入れたとしても,全体としては両意匠に係る物品「貼り薬」の需要者である使用者に与える印象が大きく異なるというべきであるから,本件登録意匠と引用意匠が類似するということはできない。」

と判断した。

2. 取消事由2(創作容易性判断の誤り)の有無について

裁判所は、

「左右の剥離シートの中央分離帯部に接する上下全長に帯状部を設け,その帯状部を中央分離帯部よりも明色とした態様が本件登録意匠の出願前に公然知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,左右の剥離シートの中央分離帯部に接する上下全長に帯状部を設けることや,その配色をどのように施すかについては創意工夫を要するものというべきであるから,本件登録意匠は,公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものとは認められない。」

と判断したが、これに対し原告は、

「医療用の物品に係る意匠の創作をする当業者(その意匠の属する分野における通常の知識を有する者)にとっては,引用意匠に日本国内に公然知られた色彩を結合して,容易に本件登録意匠の創作をすることができた」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本件登録意匠は単に色彩の結合(配色)のみで構成されるものでないことは前記2に説示したとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

物品名を「貼り薬」で意匠公報テキスト検索してみると、いろいろな剥離シートの背割線の形状のものを見ることができる。物品名を「貼り薬」で意匠公知資料テキスト検索してみると、三笠製薬のスミルテープ(公知資料番号HJ2002389200)がヒット。一方、参考までに、久光の貼付薬ラインナップのなかに下記のものがある。


Mar 20, 2010

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準改訂案に対する意見募集

特許庁は、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準の改訂案に対するパブリックコメントを募集すると発表しました(こちら)。

2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563の判決において、補正が許される範囲について一般的な定義が示され、その後の知財高裁の判決でも一貫してその定義が引用され判示がなされていることを受けたものです。

締め切りは2010年4月16日。

Mar 14, 2010

2010.01.20 「三和酒類・大麦発酵研究所 v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10134

疾病への効果に関する医薬用途発明のサポート要件を満たすには?: 知財高裁平成21年(行ケ)10134

【背景】

「抗酸化作用を有する組成物からなる抗酸化剤」に関する発明(特願2003-27902; 特開2004-238453)について、新請求項の補正は新規事項を追加するものであり、また、明細書のサポート要件違反等により独立特許要件を欠くとしてこれを却下し、その結果進歩性なしとした拒絶審決に対する審決取消訴訟。

補正前請求項1:
    大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,~の成分組成を有する組成物からなる抗酸化剤。

補正後新請求項1(下線部分が補正箇所である。):
    大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,~の成分組成を有する組成物からなる活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤。

【要旨】

1. 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 新規事項の追加に係る判断について

裁判所は、明細書の記載から、
「本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。」
と判断した。

被告は、
「当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加がある」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではない」
とし、本件審決の判断は誤りであると判断した。

(2) 記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断について

裁判所は、
「特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」
と判示し、
「当業者が~本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを認識することができるもの~であるということができる。」
と判断した。

この点に関し,本件審決は
「本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する~効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はない」
と説示した。

しかしながら、裁判所は、
「新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。」
と判断した。

また、本件審決は、
「疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要することが当業者に自明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載はないから,新請求項1について,本願明細書の発明の詳細な説明はサポート要件を満たすということができない」
とも説示した。

しかしながら、裁判所は、
「医薬についての用途発明において,疾病の予防に対する効果の有無を論ずる場合,たとえ生体に対する薬理的又は臨床的な検証の記載又は示唆がないとしても,生体を用いない実験において,どのような化合物等をどのような実験方法において適用し,どのような結果が得られたのか,その適用方法が特許請求の範囲の記載における医薬の用途とどのような関連性があるのかが明らかにされているならば,公開された発明について権利を請求するものとして,特許法36条6項1号に適合するものということができる」
と判示し、
「本願明細書の実施例1や図1の記載,本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であることなどの記載によると,同号で求められる要件を満たしているものということができる。」
と判断した。

(3) 進歩性がないとの判断について

裁判所は、
「引用発明1は,防錆剤や食品等の酸化防止剤についての発明であり,活性酸素によって誘発される生活習慣病について記載又は示唆するところはなく,また,引用発明2~4についても同様であるから,引用発明によっては,活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるという物性を有するヒドロキシラジカル消去剤に当業者が容易に想到することができたものということはできない。」
と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

1. 有効性が不明かどうかが新規事項追加の判断に影響する?

医薬発明に係る疾病に対する有効性が不明かどうかの問題は、記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって、新規事項の追加の有無の問題ではない。

参考:


2. 疾病への効果に関する医薬用途発明のサポート要件を満たすには?

この事件で争点となったサポート要件の適否についての判決文について、特許庁の主張もそれを否定する裁判所のコメントも実施可能要件と混同して論じているように感じてならない(2010.01.28 「ベーリンガー インゲルハイム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10033の判決文を読んでしまったからかもしれない)。


Mar 8, 2010

2010.01.19 「バクスター v. アボット/セントラル硝子」 知財高裁平成20年(行ケ)10276

「ルイス酸」抑制剤で「被覆」するセボフルランの貯蔵方法: 知財高裁平成20年(行ケ)10276

【背景】

「フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する被告ら(アボット及びセントラル硝子)が共有する特許(特許第3664648号)について、原告(バクスター)が、
  • 無効2006-80264号事件(「第1審判請求事件」)においては、本件発明が特36条4項、同条6項1号、同条6項2号又は同法29条1項柱書きに違反しているとして;
  • 無効2006-80265号事件(「第2審判請求事件」)においては、本件発明が特29条1項3号若しくは同条2項に違反しているとして;
  • 無効2007-800195号事件(「第3審判請求事件」)においては、本件発明が分割要件に反して分割出願されたものであるから特44条1項に違反しているとして;
それぞれ無効とされるべきであるとの理由で無効審判請求をしたところ、本件各審判請求事件が併合され、いずれも請求不成立の審決を受けたことから、同審決の取消しを求めた事案である。

本件発明1(請求項1):

一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,
内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,
一定量のセボフルランを供する工程,
該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び
該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程
を含んでなることを特徴とする方法。

【要旨】

1. 取消事由1(分割要件についての判断の誤り)について

裁判所は、下記のとおり、本件第3審判請求に対する審決は取消しを免れないと判断した。

「本件発明1の構成要件(D)の「被覆」は,前記(1) の明細書の記載を考慮すれば,あくまでも容器内壁が「フルオロエーテル組成物」によって被覆状態になったということを意味する。
ところで,「被覆」という用語は,一般的な技術用語として捉えると,本件発明の実施例3及び7のような,液状物質で一時的に覆われた「被覆」状態だけでなく,塗料を塗布し,乾燥ないし硬化して恒常的な塗膜とした「被覆」や,予め形成されたシートを貼り付けた「被覆」も包含するものと認められるところ,本件発明では,本件明細書中に「被覆」の具体的な説明や定義もないから,「ルイス酸抑制剤」から形成される「被覆」には,上述のような広範な「被覆」が包含されることとなる。
ところが~原出願明細書等に「被覆」という用語が記載されている箇所は,実施例3に関する段落【0040】及び実施例7に関する段落【0056】だけである。
~したがって,原出願明細書等に,「水飽和セボフルランを入れて,ボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に,ルイス酸抑制剤の量に応じて,適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない。
以上のとおり,原出願明細書等には,構成要件(D),すなわち,「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」は記載されておらず,その記載から自明であるともいえないから,分割要件を満足するとした審決の判断は誤りである。」

2. 取消事由3(実施可能要件に関する判断の誤り)について

裁判所は、本件明細書の発明の詳細な説明は、下記イ及びウの点で、特36条4項違反であるから、本件第1審判請求に対する審決は取消しを免れないと判断した。

イ 「ルイス酸」「ルイス酸抑制剤」の非限定について

「当業者は,本件特許の優先日当時,セボフルランのルイス酸による分解については何ら技術的知識を有していなかったのであるから,セボフルランが晒されるさまざまな化合物のうち,いかなる化合物がセボフルランを分解する化合物であるかについても,当然知識を有していなかったものと認められる。
これに対して,本件明細書には,セボフルランを分解する「ルイス酸」の範囲の具体的な定義はなく,セボフルランを分解する化合物や成分として本件明細書に具体的に記載されているのは,酸化アルミニウム,ガラス,Si-OHのみである。
ところが,上記認定のとおり,「ルイス酸」とは,G.N.ルイスによって提唱された酸・塩基の概念であるが,特定の酸を指すものではなく広範な化合物を含む概念であり,自然界においてさまざまな形で存在し,化合物によってはルイス酸とルイス塩基のいずれの性質をも有する場合もあり,上記認定の文献,意見書及び法廷証言にみられるとおり,ルイス酸及びルイス塩基の種類・範囲,その作用及び反応の形態についてはさまざまな見解があり,現時点においてもその外延は確定していないといわざるを得ない。したがって,本件明細書の記載を参考にしても,そこに記載された上記のわずかな化合物や成分に関する記載から,当業者が,貯蔵方法や使用される容器など特定の条件下において,セボフルランを分解する「ルイス酸」の範囲を想定することは極めて困難であるといわざるを得ない。
~確かに,本件明細書の段落【0007】には,セボフルランのSi-OHによる分解メカニズムが記載されているが,このような分解メカニズムが理解できたとしても,そもそも,どのようなルイス酸化合物がこのような分解を生じさせるかについては,当業者は具体的に理解することはできない。
以上のとおり,本件発明における「ルイス酸」の概念は極めて不明確であるといわざるを得ず,「ルイス酸」の概念が不明確である以上,その「ルイス酸」の空軌道に電子を供与する「ルイス酸抑制剤」なる概念もまた不明確であるといわざるを得ない。したがって,本件発明を実施しようとする当業者は,貯蔵中のセボフルランの貯蔵状況に応じたあらゆる事態を想定した実験をしない限り,本件発明を実施することは容易ではないと認められる。そうである以上,本件明細書には,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に「ルイス酸」及び「ルイス酸抑制剤」が記載されていると認めることはできない。」

ウ 「被覆工程」の不存在について

「かかる被覆を,実際のセボフルランの製造・貯蔵環境に置き換えて本件発明を実施しようとした場合に,対象としなければならないルイス酸の種類及び量が不明な状況において,任意のセボフルランの分解を抑制するために,どの種類の量のルイス酸抑制剤をどのくらいの量,どのように被覆すればいいのかという点に関し手がかりとなる指標は本件明細書に全く開示されていないといわざるを得ない。
~本件明細書には,被告らが主張するような,「ルイス酸抑制剤の量に応じて,『被覆』の具体的方法を適宜変更することによって,本件発明における『被覆』を行うことができる,といった基本的指針」が記載されているとは認められず,本件明細書の記載から,本件発明の「被覆工程」が「洗浄又はすすぎ洗い」という態様を越えて,その上位概念である「被覆」を理解することはできないから,当業者は本件明細書の記載から,本件発明の「被覆工程」を実施することができないといわざるを得ない。したがって,被告らの主張は失当である。」

3. 一方、取消事由7(新規性に関する判断の誤り)及び取消事由8(進歩性に関する判断の誤り)について、裁判所は、新規性及び進歩性があるとした審決の判断に誤りがあるとはいえず、第2審判請求事件に関する原告の主張は理由が無いと判断した。

4. 結論

無効2006-80264号事件(「第1審判請求事件」)及び無効2007-800195号事件(「第3審判請求事件」)について審決を取り消す。
無効2006-80265号事件(「第2審判請求事件」)については請求棄却。

【コメント】

本発明は実施可能要件違反であると判断されたが、さらに裁判所が、分割要件を満たさないと判断したことで、その出願日は分割出願の日である2000年11月16日となり、結果的には、それに先立つ原出願の国際公開公報(WO98/32430; 公開日は1998年7月30日)に基づき本件発明は新規性もないことになる。本件で「被覆」や「ルイス酸」といった用語の意義が問題となったように、当たり前のように見えるコトバであっても、クレームに記載する際には、その用語の意義を注意深く吟味してクレーム・明細書を作成又は補正する必要がある。

セボフルランは1968年に米国トラベノール社(Travenol Laboratories、現米国バクスター(Baxter)社)によって合成された。丸石製薬がトラベノール社より開発権を取得し、日本並びに海外における開発に着手、1990年に「セボフレン」の販売名で世界に先駆けて日本で製造承認申請を行い販売開始。1992年には米国アボットが日本など一部の国を除く全世界の開発権を取得、その開発過程で、本件特許発明を創作したのであろう。セボフルランの合成に成功したバクスターは開発権を手放したにもかかわらず、セボフルランが吸入麻酔剤として成功すると後発品を販売しようとした。しかし、開発権を取得し、本件特許も取得していたアボットが特許権侵害を理由に差止訴訟を提起した。本事件はその特許無効の争いである。本件特許に関連した日本出願ファミリーは下記の通り。

  • 親出願
    特願平10-532168/特表2000-510159/特許3183520
    無効審判2005-080139(平17.5.6): 2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489にて無効。
    無効審判2006-080095(平18.5.22): 審判請求取下
    無効審判2007-800138(平19.7.20): 係属中
    (審判請求人はいずれもバクスター)
  • 分割(1世代)
    特願2000-349024/特開2001-187729/特許3664648(本件特許)
    無効審判2006-080264(平18.12.15): 本判決にて無効。
    無効審判2006-080265(平18.12.15): 本判決にて無効請求不成立を維持。
    無効審判2007-800195(平19.9.14): 本判決にて無効。
    差止訴訟(2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(ネ)10075)において差止認められず。
  • 分割(2世代)
    特願2005-109476/特開2005-279283: 出願却下処分
  • 分割(3世代)
    特願2005-374621/特開2006-143742: 出願却下処分
  • 分割(3世代)
    特願2005-374622/特開2006-137769: 出願却下処分



Mar 2, 2010

2009.11.19 「日本新薬 v. Y」 知財高裁平成20年(行ケ)10255

スクリュー軸上にパドル: 知財高裁平成20年(行ケ)10255

【背景】

「固体分散体の製造方法」に関する原告(日本新薬)特許(特許第2527107号)についての無効審決(無効2007-800016号)に対する審決取消訴訟。理由は進歩性違反。

請求項1:

高分子担体中に薬物が溶解又は分散している固体分散体を製造するにあたって,スクリュー軸上にパドルを有する2軸型エクストルーダーを用いることを特徴とする当該固体分散体の製造方法。

審決が認定した引用発明との相違点:
本件発明では、「スクリュー軸上にパドルを有する」のに対し、引用発明では、そのように特定していない点。

【要約】

原告は、引用発明に係る認定の誤り(取消事由1)及び相違点を看過した判断の誤り(取消事由2)を主張したが、裁判所は、いずれも理由がないとした。

本件相違点についての判断の当否(取消事由3)について、裁判所は、

「2軸スクリュー押出機(2軸型エクストルーダー)を用いて高分子担体と有効物質とを混合し,有効物質が分子分散状に存在する固体分散体を製造するに際し,2軸スクリュー押出機による混合機能を高めることは,当該技術の内容に照らし,本件優先日当時の当業者にとって自明の課題であったということができる。
そして,刊行物1及び2によると,混合機能を高めるため,2軸スクリュー押出機のスクリュー軸上にパドルを設けることは,本件優先日当時の当業者にとって周知の技術であったものと認めることができる。
そうすると,上記自明の課題を解決するため,引用発明に上記周知の技術を適用して本件相違点に係る構成を採用することは,本件優先日当時の当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当であるから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。」

と判断、その他の原告主張もことごとく否定され、取消事由3は理由がないとされた。

請求棄却。

【コメント】

特許権の設定登録がされた後、3件の特許異議の申立(平成9年異議第70779号)があったが特許請求の範囲の減縮を目的として、主に「スクリュー軸上にパドルを有する」という構成要件を付加する訂正請求が認められ、本件特許は維持されたという経緯がある。


Feb 21, 2010

2010.02.19 EPO拡大審判部審決 G2/08 (dosage regime)

投与方法(dosage regimen)にだけ特徴があるクレームの特許性について、EPO拡大審判部(Enlarged Board of Appeal)が審理していましたが、2010年2月19日に審決が公表されました(G02/08)。審判部はSwiss-type claimの意義にも言及しています。

問題となったのはAbbottの下記Swiss-type claim(一部省略)で、下線部(dosage regimen)以外の「高脂血症に対してニコチン酸徐放性製剤を経口投与する」ことは既に知られていました。

The use of nicotinic acid ... for the manufacture of a sustained release medicament for use in the treatment by oral administration once per day prior to sleep, of hyperlipidaemia..."

審理に付された各問題と、それに対するEPO拡大審判部の判断は下記の通り。

  • Question 1:
    Where it is already known to use a particular medicament to treat a particular illness, can this known medicament be patented under the provisions of Articles 53(c) and 54(5) EPC 2000 for use in a different, new and inventive treatment by therapy of the same illness?

    Answer:
    Where it is already known to use a medicament to treat an illness, Article 54(5) EPC does not exclude that this medicament be patented for use in a different treatment by therapy of the same illness.


  • Question 2:
    If the answer to question 1 is yes, is such patenting also possible where the only novel feature of the treatment is a new and inventive dosage regime?

    Answer:
    Such patenting is also not excluded where a dosage regime is the only feature claimed which is not comprised in the state of the art.


  • Question 3:
    Are any special considerations applicable when interpreting and applying Articles 53(c) and 54(5) EPC 2000?

    Answer:
    Where the subject matter of a claim is rendered novel only by a new therapeutic use of a medicament, such claim may no longer have the format of a so called Swiss-type claim as instituted by decision G 5/83.

    A time-limit of three months after publication of the present decision in the Official Journal of the European Patent Office is set in order that future applicants comply with this new situation.


Feb 9, 2010

2009.11.11 「保土谷化学工業 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10483

特29条の2の先願発明となるべき化学物質発明: 知財高裁平成20年(行ケ)10483

【背景】

「ヘキサアミン化合物」に関する特許出願(特願平6-155470号)の拒絶審決(不服2007-11283号)取消訴訟。争点は、本願発明が先願明細書(特開平8-48656号公報)に記載された発明(下記「先願発明」)と同一であり、特29条の2の規定により特許を受けることができないかであった。

【化37】
で表される化合物において
R57, R66, R75及びR84が-N(Ph)(Ph-CH3)である化合物(「先願発明」)

先願明細書におけるR57, R66, R75及びR84が-N(Ph)2である化合物(化合物No.II-10)の記載も争われたが、本願クレーム範囲から但し書きにより除かれているので特29条の2で直接問題となったわけではない)。

【要旨】

裁判所は、

「いわゆる化学物質の発明は,新規で,有用,すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから,その成立性が肯定されるためには,化学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。
そして,化学物質の発明の成立のために必要な有用性があるというためには,用途発明で必要とされるような用途についての厳密な有用性が証明されることまでは必要としないが,一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。
なお,被告は,有機EL素子用化合物のような,単に化合物の物理化学的性質を利用する技術分野の化合物については,医薬,農薬,バイオ関連技術のような特殊な技術分野の場合と異なり,当業者が容易に作ることができる上,その有用性も推認できる可能性が高い旨主張する。しかし,このような「化学物質の用途,分野によって,その製造可能性や有用性が推認できる程度が異なる」旨の主張を前提としてもなお,本件で化学物質発明が問題となっている事実に変わりはなく,当業者がその製造可能性及び(有機EL素子用化合物としての)有用性を認識できる程度の開示が必要であることに変わりはない。」

と判示し、本件について下記のとおり検討した。

(1) 化合物No.II-10について

裁判所は、

「化合物No.II-10 については,先願明細書等の【請求項9】【化5】に一般式が記載されるとともに,【0104】【化37】に一般式が,【0105】【化38】に具体的な構造が,それぞれ示されている。~先願明細書等には,化合物No.II-10 それ自体の製造方法や,これを用いた実施例の記載はないが,化合物No.II-10 を製造する道筋は示されているといえる。また,同化合物の有機EL素子としての有用性についても,同化合物が,その構造上,実施例とされた化合物No.II-1 と,相当程度類似していること~等からすれば,実施例の記載から,当業者に同化合物の有用性が認識できるものといえ,同化合物を用いた具体的な実施例の記載がないことは,上記結論に影響を及ぼすものではないというべきである。」

と判断した。

つまり、裁判所は、化合物No.II-10については、構造、製造可能性及び有用性が先願明細書に開示されていると判断した(この点、本願クレーム範囲から化合物No.II-10は但し書きにより除かれているので、特29条の2の理由には直接関係は無い)。

(2) 「先願発明」化合物について

裁判所は、

「「先願発明」の化合物については,先願明細書等の【化5】,【化16】で示された一般式に,抽象的には包含されるとしても,先願明細書等において,その構造につき具体的に記載されてはいない。~ある化合物が明細書等において開示されているというためには,たとえ表の中であっても,具体的な構造(「先願発明」の化合物に関しては,メチル基を置換基として有する具体的構造)が特定して開示される必要があるというべきである。」

と判断した。

被告(特許庁長官)は、

「同族列に所属する一連の化合物は,化学的性質が極めてよく似ていて,すべての化合物に共通の官能基に基づく同一の反応を示すから,化合物No.II-10 と『先願発明』の化合物も実質的に同視できる」

等主張した。

しかし、裁判所は、

「化学大辞典(乙3)において,同族列として脂肪族飽和炭化水素のメタン,エタンや,芳香族炭化水素のベンゼン,トルエン,飽和脂肪酸のギ酸,酢酸などを例示しているが,これらの分子量の小さな化合物相互の関係と,本件での化合物No.II-10 と「先願発明」化合物のような分子量の大きな化合物相互の関係について,同一に扱ってよいかは不明というべきである。
また,前記1(3) エ,オからすれば,乙4,5で開示された,それぞれ同族列の関係にある各化合物の化学的性質(有機EL素子としての性質を含む。)が類似していることが認められるが,これが直ちに,化合物No.II-10 と「先願発明」化合物の関係にも適用できるか明らかではない上,特許法29条2項の進歩性を判断する場合であれば格別,同法29条の2第1項により先願発明との同一性を判断するに当たっては,化合物双方が同族列の関係にあることをもって,一方の化合物の記載により他方の化合物が「記載されているに等しい」と解するのは相当ではない(前述のとおり,一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識するところであるからである。)。
~前述のとおり,特許法29条の2第1項による先願発明との同一性の判断は,同法29条2項の進歩性の判断とは異なるから,上記のような「公知技術」を安易に参酌して先願明細書等の記載を補充するのは相当ではなく,メチル基の有無を捨象して化合物No.II-10 と「先願発明」化合物を同視し,「先願発明」化合物が先願明細書等に実質的に記載されていたとみることは相当ではない。」

と述べ、従って、「先願発明」化合物は先願明細書等に記載されておらず、また、記載されていたに等しいともいえないから、「先願発明」の化合物が先願明細書等に記載されていたに等しいとして特29条の2を適用した審決は誤りである、と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

医薬に関する事案ではないが、特29条の2の先願発明となる化学物質発明の成立性についてが争点となった点で興味深い。
本事案では、化合物No.II-10が明細書に記載されていると判断され、一方、本件「先願発明」化合物は明細書に記載されていないと判断された。この違いを検討する事は、特29条の2の「他の出願の当初明細書に記載された発明(先願発明)」となるべき化学物質発明の成立性を考える上で参考になる。

裁判所は、冒頭、化学物質発明が成立するためには有用性が必要であるとの要件を判示した。これは、「特許性」を有すべき化学物質発明の成立性を判断する上で判示されてきた過去の判決と一致する。

(参照)
記載要件/引例適格/データは必要か

しかし、本判決の冒頭部分が、特29条の2の「他の出願の当初明細書に記載された発明(先願発明)」となるべき化学物質発明の成立性のことまでも射程としているなら検討が必要そうである。

判示された冒頭部分を要約すると・・・

特29条の2の「他の出願の当初明細書に記載された発明(先願発明)」となるべき化学物質発明の成立性に必要なのは、
  • 化学物質そのものの特定、

  • 化学物質そのものの製造可能性、且つ

  • 化学物質の有用性(実際に試験を行い、その試験結果から、当業者にその有用性が認識できるように)

が明細書に開示されていることである。

一方、特許性を否定するという点では同じ立場になるであろう「新規性を否定する引用発明(特29条1項3号)」となるべき化学物質発明の成立性に必要とされるのは、「記載要件/引例適格/データは必要か」で取り上げてきた判決で示されているように、
  • 化学物質そのものの特定、及び

  • 化学物質そのものの製造可能性

が記載されていることのみであり、化学物質の有用性の記載は必ずしも必要とされていない。

このことからすると、「特29条の2の他の出願の当初明細書に記載された発明(先願発明)」となるべき化学物質発明の成立性の要件を、裁判所は、"先公知"としてではなく"拡大された先願"という立場でとらえているのかもしれないが、本判決の要件を厳密に特29条の2に適用すれば、例えば、先願明細書に化学物質の構造・製造は記載されていても有用性が(実際に試験を行い、その試験結果から、当業者にその有用性が認識できるように)記載されていない場合(そんな事はまず無いだろうが、遺伝子関連発明ならあり得るかもしれない)には、その化学物質は特29条の2の先願発明にはなりえないという問題が起こりうる。ちなみに現在の審査基準においては、特29条の2の引用発明の認定は新規性の引用発明の認定とほぼ同じ内容であり、有用性の有無については触れられていない(下記に抜粋)。特29条の2の先願発明の存在を理由とする拒絶理由・無効の主張を検討する場合には、本判決も考慮してその発明の成立性を十分検討する必要があるだろう。本事案において、裁判所は、具体的構造が特定されていないことをもって先願発明の成立性を否定したため、先願発明の有用性の有無の検討には至らなかった。今後の判決の蓄積を待ちたい。

参考:

  • 特許・実用新案審査基準 第II部 特許要件 第3章 特許法第29条の2

    (抜粋)
    3.2 他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案の認定

    (1) 「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」とは、「他の出願の当初明細書等に記載されている事項(注1)」及び「他の出願の当初明細書等に記載されているに等しい事項」(他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が他の出願の当初明細書等に記載されている事項から導き出せる事項)から当業者が把握できる発明又は考案をいう。
    したがって、他の出願の当初明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができない発明又は考案は「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」とはいえず、「引用発明」とすることができない。例えば、ある記載事項が他の出願の当初明細書等にマーカッシュ形式で記載された選択肢の一部であるときは、当該選択肢中のいずれか一のみを発明を特定するための事項とした発明を当業者が把握することができるか検討する必要がある。

    (注 1)他の出願の当初明細書等に記載された事項は、その後の補正により削除されても、第 29条の2の規定の適用には影響がない。

    (2) また、ある発明又は考案が、当業者が当該他の出願の当初明細書等の記載及び他の出願の出願時における技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できることが明らかであるように当該他の出願の当初明細書等に記載されていないときは、当該発明又は考案を「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」とすることができない。
    したがって、例えば、他の出願の当初明細書等に化学物質名又は化学構造式により化学物質が示されている場合において、当業者が当該他の出願の出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「他の出願の当初明細書等に記載された発明」とはならない(なお、これは、当該化学物質が当該他の出願の請求項の選択肢の一部として含まれる場合に、その請求項が第 36条第 4項の実施可能要件を満たさないことを意味しない)。