Mar 14, 2010

2010.01.20 「三和酒類・大麦発酵研究所 v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10134

疾病への効果に関する医薬用途発明のサポート要件を満たすには?: 知財高裁平成21年(行ケ)10134

【背景】

「抗酸化作用を有する組成物からなる抗酸化剤」に関する発明(特願2003-27902; 特開2004-238453)について、新請求項の補正は新規事項を追加するものであり、また、明細書のサポート要件違反等により独立特許要件を欠くとしてこれを却下し、その結果進歩性なしとした拒絶審決に対する審決取消訴訟。

補正前請求項1:
    大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,~の成分組成を有する組成物からなる抗酸化剤。

補正後新請求項1(下線部分が補正箇所である。):
    大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,~の成分組成を有する組成物からなる活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤。

【要旨】

1. 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 新規事項の追加に係る判断について

裁判所は、明細書の記載から、
「本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。」
と判断した。

被告は、
「当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加がある」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではない」
とし、本件審決の判断は誤りであると判断した。

(2) 記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断について

裁判所は、
「特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」
と判示し、
「当業者が~本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを認識することができるもの~であるということができる。」
と判断した。

この点に関し,本件審決は
「本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する~効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はない」
と説示した。

しかしながら、裁判所は、
「新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。」
と判断した。

また、本件審決は、
「疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要することが当業者に自明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載はないから,新請求項1について,本願明細書の発明の詳細な説明はサポート要件を満たすということができない」
とも説示した。

しかしながら、裁判所は、
「医薬についての用途発明において,疾病の予防に対する効果の有無を論ずる場合,たとえ生体に対する薬理的又は臨床的な検証の記載又は示唆がないとしても,生体を用いない実験において,どのような化合物等をどのような実験方法において適用し,どのような結果が得られたのか,その適用方法が特許請求の範囲の記載における医薬の用途とどのような関連性があるのかが明らかにされているならば,公開された発明について権利を請求するものとして,特許法36条6項1号に適合するものということができる」
と判示し、
「本願明細書の実施例1や図1の記載,本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であることなどの記載によると,同号で求められる要件を満たしているものということができる。」
と判断した。

(3) 進歩性がないとの判断について

裁判所は、
「引用発明1は,防錆剤や食品等の酸化防止剤についての発明であり,活性酸素によって誘発される生活習慣病について記載又は示唆するところはなく,また,引用発明2~4についても同様であるから,引用発明によっては,活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるという物性を有するヒドロキシラジカル消去剤に当業者が容易に想到することができたものということはできない。」
と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

1. 有効性が不明かどうかが新規事項追加の判断に影響する?

医薬発明に係る疾病に対する有効性が不明かどうかの問題は、記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって、新規事項の追加の有無の問題ではない。

参考:


2. 疾病への効果に関する医薬用途発明のサポート要件を満たすには?

この事件で争点となったサポート要件の適否についての判決文について、特許庁の主張もそれを否定する裁判所のコメントも実施可能要件と混同して論じているように感じてならない(2010.01.28 「ベーリンガー インゲルハイム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10033の判決文を読んでしまったからかもしれない)。


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