Jun 28, 2010

2010.02.09 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10053

進歩性引例の「周知技術」として許容される用い方: 知財高裁平成21年(行ケ)10053

【背景】

「抗脂血及び抗肥満剤」に関する出願(特願平4-194472; 特開平05-339159)の拒絶審決取消訴訟。審決理由は進歩性無し。

請求項1:
抗脂血性の有効成分が,ストレプトコッカス・サリバリウスによって生成されるか,又は前記ストレプトコッカス・サリバリウスが産生する酵素によって生成されるレバンからなる,抗肥満剤。

引用文献には、
「ラットにストレプトコッカス・サリバリウスのレバン生成酵素(FTase)を添加した餌を与えたところ、FTase投与により血清TGの有意な上昇抑制と脂肪組織重量の増加抑制が認められた(引用発明)」
ことが記載されていた。

従って、本願発明と引用発明とは、有効成分として「ストレプトコッカス・サリバリウスが産生するレバン生成酵素(FTase)を利用する薬剤」である点で一致するが、下記の点で相違する。

・有効成分が、本願発明ではレバンであるのに対して、引用発明ではレバン生成酵素(FTase)自体である点(相違点1)

・薬剤が、本願発明では抗肥満剤であるのに対して、引用発明では血清TG の上昇抑制及び脂肪組織重量増加抑制剤である点(相違点2)

【要旨】

裁判所は、

「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用があるという事実は,本願発明の容易想到性の有無を判断する上で,重要な要素となるものであって,審決では本願発明が容易想到であることの根拠とされていなかった乙2ないし4を,本訴において「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用がある」ことの主要な根拠として用いることは,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合などに当たらず,「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されないというべきである。
したがって,本件においては,基本的に,引用文献の記載自体から,本願発明が容易想到であるかを検討すべきであり,乙2ないし4については,後記(4)のとおり,あくまで補助的に用いることができるにすぎない。」

とした上で、

「上記技術常識を前提とすると,引用文献上の「蔗糖が,FTase 存在下で,レバン(及びブドウ糖)に分解された結果,血清TG の有意な上昇抑制効果があった」旨の上記記載につき,原告が主張するように,「FTase が蔗糖の果糖部分から非消化性のレバンを生成するので,その分だけ吸収されるべき果糖が少なくなることで,蔗糖の過剰摂取の軽減に寄与する旨」(「可能性A」)の解釈はあり得るが,同時に,ショ糖からレバンが生成され,結果的に血清TG の有意な上昇抑制効果がみられた以上,当業者が,レバン自体にも血清TG の上昇抑制効果があるのではないかと考えるのは,何ら困難ではないというべきである。この点につき,原告は,引用文献の上記記載からは「可能性A」のように読むのが通常であると主張するが,原告主張の解釈と,「レバン自体に血清TG の上昇抑制効果がある」旨の解釈は,両立し得るものであって,後者の解釈の成立を阻害する事由を認めるに足りる証拠はなく(前記(2)のとおり,レバンが血中コレステロール上昇抑制作用を一定程度有することが周知であったことからすれば,コレステロールとTG の違いがあるにせよ,上記の阻害事由は見い出せない。),原告の上記主張は採用できない。」

と判断した。

また、裁判所は、

「原告は,本願発明の出願に当たり,動物を対象として,レバンや部分加水分解レバンを検体として用いて,血清コレステロール値,大動脈の脂質沈着面積比,血清トリグリセリド値,精巣近傍の脂肪組織重量の測定を行いながら,特許請求の範囲においては,TG とコレステロールとを分けることなく,レバンにつき単に「抗脂血性」を有するとして,「抗肥満剤」として特許出願しており,本願発明は,血中において,TG とコレステロールの上位概念である脂質の状態を改善し,ひいては肥満を防止することを目的とするものと解される。以上からすれば,引用文献上の記載から導かれる解釈(レバンに,血清TG の上昇抑制効果がある旨)を前提に,「レバンには,TG やコレステロールを含む血中の脂質成分の上昇抑制をもたらす作用がある」旨の本願発明は容易想到であったというべきである。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

容易想到性の有無を判断する上で重要な要素となる事実であって、審決では根拠とされていなかった引例を、訴訟において主要な根拠として用いることは、「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されない。


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