Dec 5, 2010

2010.08.31 「レ ラボラトワール セルヴィエ v. 特許庁長官」知財高裁平成22年(行ケ)10001

医薬組成物の引用発明の認定: 知財高裁平成22年(行ケ)10001

【背景】

「固形の熱成形し得る放出制御医薬組成物」に関する出願(特願2000-193043)について、本願発明は周知技術を勘案し引用例Aの記載に基づいて進歩性なしとした拒絶審決(不服2005-21463)の取消を求めた訴訟。

請求項1(本願発明):
固形の放出制御医薬組成物であって,少なくとも1の活性成分,ならびに少量の第四級アンモニウム基を有する,アクリル酸及びメタクリル酸エステルの十分に重合させたコポリマーからなるアンモニウムメタクリラートのコポリマーであるポリメタクリラート類の群から選択される1又はそれ以上のポリマーの熱成形し得る混合物を含み,活性成分の放出が,使用するポリメタクリラートの特性,活性成分に対するその量,及び該組成物の製造に用いる技術によってのみ制御されることを特徴とする医薬組成物。

【要旨】

1. 取消事由1(引用発明等の認定誤り)について

原告は、
「引用例Aには,医薬製剤として,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)と共に遅延化剤(疎水性可融性担体)としてステアリン酸を用いた3成分系のみが開示され,2成分系の具体例は開示されていないにもかかわらず,審決は,引用例Aには,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)からなる2成分系の製剤についても記載されているとした点で,引用発明の認定を誤(った)」
と主張した。

また、原告は、
「化学物質発明は,その構造から有用性を予測することが困難な技術分野に属するから,特定された用途ないし性質に関する有用性が明細書に裏付けられていなければ,当業者が発明を把握することができない。」
とも主張した。

これに対し、特許庁は、
「構造及び用途・性質が公知の化学物質を組み合わせた組成物発明の明細書において,公知の化学物質からなる組成物の有用性が,当業者において把握できる程度に,合理的な説明がされていれば,先行技術となり得る。本件において,引用例Aには,3成分系の持続放出性医薬製剤のみならず,2成分系の持続放出性医薬製剤についても当業者が把握することのできる発明として記載されているといえる。審決における引用発明の認定に誤りはない。」
と反論した。

裁判所は、
「確かに,引用例Aには,オピオイド鎮痛剤及びアクリルポリマー(Eudragit RSPO)とともに,疎水性可融性担体(ステアリン酸等)を用いた製剤のみが実施例として挙げられ,治療活性薬及び疎水性物質(アクリルポリマー)からなる2成分系の製剤に係る具体的な実施例の記載はない。
しかし,~アクリルポリマーの「遅延化剤」として機能を発揮するためには,溶融押出し可能であるか,押出しに必要な程度軟化することは必要であるが,他の成分を使用する必要性がないことも合理的に理解することができる。」
と判断した。

また、原告は、
「引用例Aにおいて「遅延化剤」とされているのは「疎水性可融性担体」であるところ,~遅延化剤(疎水性可融性担体)を含まない医薬製剤が持続放出性を奏すると把握できるものではない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用例Aには,「遅延化剤」として機能する成分として「疎水性可融性担体」成分のみならず,アクリルポリマー等の「疎水性材料(疎水性物質)」が示されるとともに,疎水性可融性担体は「任意」又は「好ましくは」添加し得る成分として記載されていることからすれば,引用例Aには疎水性可融性担体を含まず治療活性薬とアクリルポリマーの2成分からなる持続放出性医薬製剤に係る技術が,開示されているものといえる。~したがって,当業者であれば,引用例Aに具体的な実施例の記載がなくても,その持続放出性という機能が示されていることを合理的に理解することができるといえる。
以上によれば,引用例Aには,オピオイド鎮痛剤等の治療活性薬とアクリルポリマーの2成分からなる持続放出性医薬製剤が,アクリルポリマーの遅延化作用により薬物を持続的に放出することが可能であるという有用性,すなわち用途及び性質について,当業者が理解できるように合理的に記載されていることが認められる。」
と判断した。

2. 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について

原告は、
「本願発明は,活性成分をその投与都合に合わせて,数分間ないし20時間を超える期間にわたり放出するよう制御する医薬組成物を提供する課題について,これを可塑剤や遅延剤を添加せずに活性成分の放出を使用するポリメタクリラートの特性,活性成分に対するその量,及び該組成物の製造に用いる技術のみによって解決したとの構成は,引用発明に基づいて容易に到達することができない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願発明のうち治療活性薬の放出の制御方法には限定がなく,引用例Aの発明における「持続放出」と,実質的に相違するものではない。のみならず,引用例Aには,疎水性可融性担体を使用せず,遅延化剤としてアクリルポリマーを用いる2成分系の持続放出性医薬製剤に係る発明が記載されている上~本願発明の相違点2に係る構成は,引用例Aに,実質的に開示されているといえる。さらに,遅延化剤としてアクリルポリマーを用いる2成分による方法は,3成分を用いる方法に比べて使用する成分数が少ないのであるから,活性成分と相互作用し得る賦形剤の使用を回避するとともに,簡単かつ経済的な方法で固形の放出制御医薬組成物を得られるという本願発明の効果は,引用例Aに記載された2成分系の持続放出性医薬製剤を選択した結果,当然に得られた効果にすぎないというべきである。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

引用発明の認定についての議論が興味深い。原告は、実施例主義の立場(「化学物質発明は,その構造から有用性を予測することが困難な技術分野に属するから,特定された用途ないし性質に関する有用性が明細書に裏付けられていなければ,当業者が発明を把握することができない。」)をとり、引用発明の適格性を中心に争った。しかし、特許庁は、「公知の化学物質からなる組成物の有用性が,当業者において把握できる程度に,合理的な説明がされていれば,先行技術となり得る。」として、化学物質発明の場合と本件組成物発明の場合とでは引用発明の適格性の判断は異なるとの立場で反論しており、裁判所は、その特許庁の考えに沿った結論を出した。公知の化学物質を組み合わせた組成物発明の場合には、引用例に具体的な実施例の記載がなくても、その記載内容から組成物の有用性が合理的に理解することができるのならば、先行技術として開示されていると判断されるようである。

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