May 30, 2010

2010.03.24 「バイエル v. 国」 東京地裁平成21年(行ウ)517

シプロキサン注特許の年金未納: 東京地裁平成21年(行ウ)517

【背景】

原告が「1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-4-オキソ-7-(1-ピペラジニル)-キノリン-3-カルボン酸の注入溶液」に関する特許権(第1981005号; 公告番号:特公平7-14879; 公開番号: 特開昭62-99326)の第13年分の特許料の追納期間の経過後に特許料納付手続をしたところ、特許庁長官が手続却下の処分(「本件却下処分」)をしたため、原告が被告に対し、追納期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて特112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」があるとして、本件却下処分の取消しを求めた事案。

本件特許権の存続期間は20年を経過する日である平成18年10月23日までであったが、平成13年12月19日付けで,延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録がされ、本件特許権の存続期間は平成23年9月27日まで延長されていた。

【要旨】

裁判所は、

「法112条の2 第2項1所定の「その責めに帰することができない理由」とは~天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当である。」

との一般解釈を示し、本件においては、

「特許権者である原告が委託したCPAの過失により,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったものであるとしても,本人である原告がその責任を負うべきは当然であって,原告に法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があるといえないことは,明らかである。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本件特許(第1981005号)は、シプロキサン注(シプロフロキサシン(ciprofloxacin)を有効成分とする点滴静注用注射剤)の製造販売承認取得(2000年9月22日)に基づいて、延長登録出願番号2000-700176により延長の期間を4年11月4日とする存続期間の延長登録(延長登録の年月日は2001年12月19日)がされていた。
シプロキサン注の製造販売承認取得(2000年9月22日)に基づいて、本件特許の他に、特許1515648(公告昭63-056224; 物質特許)、特許1652228(公告平03-014811; 用途特許)及び特許1851316(公告平05-059893; 製剤特許)がそれぞれ延長登録されたが、これら延長された特許存続期間よりも本件特許で延長されたことによる存続期間のほうが一番長くなるはずだった(2012年9月27日)。

本件特許で問題になった追納期間満了日は2007年8月22日であり、シプロキサン注のジェネリックは2009年から販売された。本件特許は製剤特許ではあるもののジェネリック対策として有効なものであったとすれば、今回の年金未払いによる特許権消滅が、シプロキサン注のジェネリック参入を予想より約3年早めてしまったのかもしれないと想像する。特許権存続期間延長登録(出願)をした場合には、20年間の満了後も特許料を続けて納付するように年金管理を確実にしておかなければならない。

特許料の納付受託者の過失を委託した特許権者自身の過失と同視する考え方は、次のとおり、幾多の裁判例において異論なく確認されている。なお、③及び④は、CPAが年金納付管理を担当した事案でCPA担当者の過失が認定された事例である。

① 東京地裁平成14年6月27日判決(平成13年(行ウ)第285号

② 東京地裁平成16年9月30日判決(平成16年(行ウ)第118号

③ 東京高裁平成16年8月4日判決(平成16年(行コ)第176号

④ 東京地裁平成18年9月27日判決(平成18年(行ウ)第186号): 2006.09.27 「バイエル v. 国」 東京地裁平成18年(行ウ)186

⑤ 東京地裁平成19年7月5日判決(平成19年(行ウ)第56号): 2007.07.05 「イミュネックス v. 国」 東京地裁平成19年(行ウ)56

May 23, 2010

2010.03.17 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10207

喘息治療薬吸入器: 知財高裁平成21年(行ケ)10207

【背景】

「呼子付喘息治療薬吸入器」に関する出願(特願2003-121760; 特開2004-195191)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は、本願発明は引用発明1に引用発明2及び周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである、としたものである。

本件補正発明:

微細粉末状薬剤が分包されたロタディスクを穴を覆うように載せディスクカバーで覆った本体と,
前記ディスクカバーの針部でロタディスクを突き刺し微細粉末状薬剤を吸入する際の吸入経路であり,空気を取り入れるための左右小孔が空けられ,微細粉末状薬剤を拡散するための格子が設けられたマウスピースと,
前記左右小孔のいずれかに取り付けた吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正するための空気の流れで音を発する呼子とからなり,
十分に微細粉末状薬剤を吸入できたときだけ音が発生するようにしたことを特徴とする呼子付喘息治療薬吸入器

本件補正発明には、空気の流れで音を発する呼子、が設けられているのに対し、引用発明1には設けられていなかった。

【要旨】

裁判所は、
「この種の薬剤吸入装置において,必要,かつ,十分な量の薬剤を吸入することができるようにすることは一般的な課題であると認められるところ~引用発明2には~これを解決するために音響学的な笛等を利用するという技術思想が開示されているばかりでなく~吸入装置の空気用バイパスに指示装置を結合させて所望の空気流割合において使用する例についても開示されているということができるのである。そうすると~引用発明1に接した当業者~が,同じく吸入装置の発明である引用発明2に接した場合,引用例2に開示された上記のような技術思想を引用発明1に適用し,~引用発明2の技術思想を引用発明1において実現しようとすることは容易であるといわなければならない。」
と判断した。

原告は、本件補正発明の効果が顕著であるとも主張したが、裁判所は、引用発明1と引用発明2の効果を組み合わせた以上のものではないとして、原告の主張を退けた。

請求棄却。

【コメント】

特にコメントなし。参考までに本願発明と引例は下記の通り。

本願発明(下図は呼子付喘息治療薬吸入器。1a: 本体; 1b: ディスクカバー; 2: マウスピース; 3: 呼子; 4: ロタディスク)




引用例1(特開昭62-41668号)はグラクソ社が出願した喘息治療薬吸入器。




引用例2(特開昭49-124893号)は、十分な作動が確保できているかどうかを確認するために使用者が吸気によって所望の空気流を発生された場合に笛やプロペラによる音が発生し、これを聞き取ることができるようにした指示装置と組み合わせた吸入装置の発明である(下図41が笛)。




May 16, 2010

2010.04.15 「塩野義製薬 v. 伊藤忠ケミカル/沢井製薬」 大阪地裁平成21年(ワ)2208・平成21年(ワ)12412

フロモックス結晶特許の侵害訴訟: 大阪地裁平成21年(ワ)2208

【背景】

塩野義が保有する「フロモックス(Flomox)」(一般名:セフカペンピボキシル塩酸塩水和物)の結晶に関する特許権(特許2960790号)侵害差止請求事件。特許請求の範囲には、X線回折測定の結果現れた30のピークの回折角と強度が示されていたが、実はそのうち2つのピークは結晶自体のものではなく、白金ホルダー由来のピークだった。

【要旨】

裁判所は、

「被告製品1(物質)自体は,そのX線回折像に,本件2ピークに対応するピークを有していない。したがって,前記(1)の文言解釈を前提にすれば,被告製品1は,他の28ピークの回折角や強度について判断するまでもなく,本件発明の構成要件Aを充足しないこととなる。~当業者であれば,構成要件Aに記載された本件2ピークが,本件エステル塩酸塩一水和物結晶のピークではないと容易に気づいて,特許請求の範囲から本件2ピークを除外して理解するのが通常であるとはいい難い。」

と判断し、被告製品は本件発明に係る技術範囲に属さないと結論した。

さらに裁判所は、本件特許は進歩性欠如の無効理由があり、特許無効審判において無効にされるべきものであるから本件特許権を行使することはできないとも判断した。

【コメント】

結晶形の発明におけるクレームの表現の仕方、明細書の書き方を考えさせられる事件。進歩性判断における裁判所の認定には疑問があるが、本件発明の技術的範囲の議論は塩野義にとっては非常に苦しい状況のようである。塩野義は知財高裁に控訴しているのでその判断を待ちたい。

参考:


May 10, 2010

2010.02.02 「QLT/ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10384

治療行為を反復すること: 知財高裁平成20年(行ケ)10384

【背景】

「眼の光力学的治療による視力の改善」に関する出願の拒絶審決取消訴訟。審決理由は進歩性無し。

請求項1:

人の視力を改善するための反復ホトダイナミックセラピーに使用される組成物であって,薬理学的に容認可能な賦形剤と光活性化合物を含有し,前記光活性化合物が,グリーンポルフィリン,ヘマトポルフィリン誘導体,クロリン,フロリン又はプルプリンである組成物

【要旨】

原告らは、
  • 各引用例についての審決の引用には都合のよい箇所のみを拾い集めた結果、重大な事実誤認と判断の誤りに陥っている
  • 各引用例は、すべて単回の治療であって、反復使用される組成物については記載されていない
  • 周辺組織への損傷という副作用があるから、反復使用すればするほどかえって視力低下を招くこともあったというのが本願出願時の実情であった
等主張した。

しかしながら、裁判所は、
  • 審決の認定は実質的に影響を与えるものではなく、
  • 治療行為を反復することに重大な阻害事由があるなど特段の事情がない限り、治療を再度実施することは普通に行われることであるから、引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断に誤りはなく、
  • 治療行為を「反復」することに重大な阻害事由はなく、
  • 予測できない効果が奏されたとも認められない

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

裁判所は治療行為を反復する点について下記のように言及した。
「治療に関する事項は治療者である医師等が検討するものであり,研究段階や臨床試験も含め,治療者が人の疾病に対する治療行為を考えるとき,例えば,ある治療行為について一応の治療効果はあったものの,なお効果が十分でないと判断された場合や,一度十分な治療効果があったものの疾病が再発した場合には,その治療に大きな副作用があるなど,治療行為を反復することに重大な阻害事由があるなど特段の事情がない限り,治療者が同じ治療を再度実施することは普通に行われていることであると考えられる。」

単回の治療が知られていたら、その治療行為を反復することは当業者が容易に想到し得るだろう。


参考: QLT Inc.

May 1, 2010

アクトス・アクトプラスメットの米国における特許侵害訴訟和解状況

現時点の和解状況によれば、米国におけるアクトス後発品およびアクトプラスメット後発品の参入時期は、それぞれ2012年8月17日および2012年12月14日と予想されます。

参考: