Jun 30, 2010

2010.06.29 「クレストールANDA訴訟地裁判決、アストラゼネカ・塩野義が勝訴」

クレストール(Crestor)(一般名:ロスバスタチンカルシウム(Rosuvastatin Calcium))の米国特許(RE 37,314)について特許権者である塩野義と導出先であるAstraZenecaが共同で後発品メーカー数社と争っていたANDA訴訟で、2010年6月29日、地裁は後発品メーカーの侵害であると判決しました。Orange Bookによれば、RE37,314特許存続期間は2016年1月8日まで。  

参考:

Jun 28, 2010

2010.02.09 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10053

進歩性引例の「周知技術」として許容される用い方: 知財高裁平成21年(行ケ)10053

【背景】

「抗脂血及び抗肥満剤」に関する出願(特願平4-194472; 特開平05-339159)の拒絶審決取消訴訟。審決理由は進歩性無し。

請求項1:
抗脂血性の有効成分が,ストレプトコッカス・サリバリウスによって生成されるか,又は前記ストレプトコッカス・サリバリウスが産生する酵素によって生成されるレバンからなる,抗肥満剤。

引用文献には、
「ラットにストレプトコッカス・サリバリウスのレバン生成酵素(FTase)を添加した餌を与えたところ、FTase投与により血清TGの有意な上昇抑制と脂肪組織重量の増加抑制が認められた(引用発明)」
ことが記載されていた。

従って、本願発明と引用発明とは、有効成分として「ストレプトコッカス・サリバリウスが産生するレバン生成酵素(FTase)を利用する薬剤」である点で一致するが、下記の点で相違する。

・有効成分が、本願発明ではレバンであるのに対して、引用発明ではレバン生成酵素(FTase)自体である点(相違点1)

・薬剤が、本願発明では抗肥満剤であるのに対して、引用発明では血清TG の上昇抑制及び脂肪組織重量増加抑制剤である点(相違点2)

【要旨】

裁判所は、

「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用があるという事実は,本願発明の容易想到性の有無を判断する上で,重要な要素となるものであって,審決では本願発明が容易想到であることの根拠とされていなかった乙2ないし4を,本訴において「レバンに血中コレステロール上昇抑制作用がある」ことの主要な根拠として用いることは,容易想到性の判断の過程で補助的に用いる場合などに当たらず,「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されないというべきである。
したがって,本件においては,基本的に,引用文献の記載自体から,本願発明が容易想到であるかを検討すべきであり,乙2ないし4については,後記(4)のとおり,あくまで補助的に用いることができるにすぎない。」

とした上で、

「上記技術常識を前提とすると,引用文献上の「蔗糖が,FTase 存在下で,レバン(及びブドウ糖)に分解された結果,血清TG の有意な上昇抑制効果があった」旨の上記記載につき,原告が主張するように,「FTase が蔗糖の果糖部分から非消化性のレバンを生成するので,その分だけ吸収されるべき果糖が少なくなることで,蔗糖の過剰摂取の軽減に寄与する旨」(「可能性A」)の解釈はあり得るが,同時に,ショ糖からレバンが生成され,結果的に血清TG の有意な上昇抑制効果がみられた以上,当業者が,レバン自体にも血清TG の上昇抑制効果があるのではないかと考えるのは,何ら困難ではないというべきである。この点につき,原告は,引用文献の上記記載からは「可能性A」のように読むのが通常であると主張するが,原告主張の解釈と,「レバン自体に血清TG の上昇抑制効果がある」旨の解釈は,両立し得るものであって,後者の解釈の成立を阻害する事由を認めるに足りる証拠はなく(前記(2)のとおり,レバンが血中コレステロール上昇抑制作用を一定程度有することが周知であったことからすれば,コレステロールとTG の違いがあるにせよ,上記の阻害事由は見い出せない。),原告の上記主張は採用できない。」

と判断した。

また、裁判所は、

「原告は,本願発明の出願に当たり,動物を対象として,レバンや部分加水分解レバンを検体として用いて,血清コレステロール値,大動脈の脂質沈着面積比,血清トリグリセリド値,精巣近傍の脂肪組織重量の測定を行いながら,特許請求の範囲においては,TG とコレステロールとを分けることなく,レバンにつき単に「抗脂血性」を有するとして,「抗肥満剤」として特許出願しており,本願発明は,血中において,TG とコレステロールの上位概念である脂質の状態を改善し,ひいては肥満を防止することを目的とするものと解される。以上からすれば,引用文献上の記載から導かれる解釈(レバンに,血清TG の上昇抑制効果がある旨)を前提に,「レバンには,TG やコレステロールを含む血中の脂質成分の上昇抑制をもたらす作用がある」旨の本願発明は容易想到であったというべきである。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

容易想到性の有無を判断する上で重要な要素となる事実であって、審決では根拠とされていなかった引例を、訴訟において主要な根拠として用いることは、「周知技術」として許容される用い方を超えるものとして許されない。


Jun 21, 2010

2010.03.30 「ナイアダイン v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10158

親油性LogP値の差が0.5~1.5の補助エステル: 知財高裁平成21年(行ケ)10158

【背景】

「局所微量栄養素送達システムおよびその用途」に関する出願(特願2001-575962; 特表2004-519413)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は記載要件(実施可能要件及びサポート要件等)違反であった。

請求項1(本願発明1):

栄養素をヒトに伝達するための組成物の製造方法であって,前記組成物は,炭素原子数12~16のアルキル側鎖を持つニコチン酸アルキルエステル型の前記栄養素と,前記ヒトの皮膚細胞への前記栄養素の送達を促進するのに十分な量の補助エステルとを,前記補助エステルが,前記ニコチン酸エステルに対して,親油性LogP値が小さく,その差がLogP値において0.5~1.5であり,前記ニコチン酸アルキルエステル型の栄養素と前記補助エステルを混合する工程を含む,組成物の製造方法。」


請求項11(本願発明2):

栄養素をヒトに伝達するのに役立つ外用投与に適した剤形の組成物であって,
(ⅰ)炭素原子数12~16のアルキル側鎖を持つニコチンアルキルエステル型の前記栄養素,および
(ⅱ)補助エステルとを含み,前記補助エステルが,前記ニコチン酸エステルに対して,親油性LogP値が小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5である,組成物。」

【要旨】

裁判所は、

「本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十分な記載がされていないと解される。~本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
本願発明1及び2について,特許法36条4項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由は理由がない。原告は,同項の違反について,その他縷々主張するが,いずれも理由がない。

したがって,審決のその余の判断の当否について検討するまでもなく,本件審判請求が成り立たないとした審決の判断に取り消すべき違法はない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

実施可能要件違反とされた事例。審決では種々の理由でサポート要件違反であるとも判断されていたが、判決ではサポート要件違反かどうかは判断されなかった。

Jun 13, 2010

2010.01.28 「エナーテック v. Y」 知財高裁平成21年(行ケ)10175

審査基準以上に補正できる範囲を許容?: 知財高裁平成21年(行ケ)10175

【背景】

特許権者である原告が保有する「高断熱・高気密住宅における深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム」に関する特許(第3552217号)の無効審決取消訴訟。
審決では、「高断熱・高気密住宅」との構成を「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃の高断熱・高気密住宅」との構成とした補正は、新規事項の追加であると判断するものだった。
本件出願当初明細書には熱損失係数についての記載はなかった。

【要旨】

被告は、

「原告は、審判答弁書(甲27)において,上記数値範囲が好適である旨の技術的意義を主張しており,このような新たな技術的意義を有する数値範囲を追加することは,新規事項の追加に当たる。」

と主張した。

しかし、裁判所は、本件補正は、新規事項の追加ではないと判断した。その理由を以下に抜粋する。

「本件当初出願に係る特許請求の範囲(請求項1)においては,「高断熱・高気密住宅において」(構成A)と記載されていた。前記アの認定によれば,同構成は,本件発明の解決課題及び解決機序と関係する技術的事項とはいい難く,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。」

「「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃の高断熱・高気密住宅」との構成について,本件発明全体における意義を検討すると,形式的には,数値を含む事項によって限定されてはいるものの,熱損失係数の計算精度は高いものとはいえないと指摘されていること等に照らすならば,同構成は,補正前と同様に,本件発明の解決課題及び解決機序に関係する技術的事項を含むとはいいがたく,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。」

「本件補正の適否についてみてみると,仮に本件補正を許したとしても,先に述べた特許法17条の2第3項の趣旨,すなわち,①出願当初から発明の開示を十分ならしめ,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性の確保,②出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が被る不測の不利益の防止,という趣旨に反するということはできない。
そうすると,本件補正は,本件発明の解決課題及び解決手段に寄与する技術的事項には当たらない事項について,その範囲を明らかにするために補足した程度にすぎない場合というべきであるから,結局のところ,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入していない場合とみるべきであり,本件補正は不適法とはいえない。」

「もっとも,原告は,無効審判手続及び本訴において,①本件発明が最も効果を奏するのは,熱損失係数1.0~2.5kcal/㎡・h・℃の高断熱高気密住宅においてであること,②熱損失係数が2.5kcal/㎡・h・℃以上になると,住宅内から損失してしまう熱量が大きすぎて,蓄熱層を高温にしなければ,その損失分を補充することはできなくなること,③熱損失係数が1.0kcal/㎡・h・℃以下になると,断熱性が高くなり,暖房効果はあるものの,冷房負荷が大きいという問題が生じるし,断熱性が高ければ,本件発明を用いる必要性がない等と述べている。しかし,前記のとおり「熱損失係数」が計算精度の高いものではないことに照らせば,原告がこのように述べたからといって,直ちに,「熱損失係数1.0~2.5kcal/㎡・h・℃」との値が,本件発明の課題解決の機序との関係において,客観的な技術的意義を有するものと解することはできない。」

さらに、裁判所は、

「仮に,「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃」が,本件発明に関する技術的意義を有するといえるとしても,本件補正は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない。」

と判断した。その理由を下記に抜粋する。

「仮に,本件補正によって付加された事項が技術的内容を含んでいると解したとしても,本件出願当初明細書には「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃」における数値が明示されているわけではないが,本件発明の課題解決の対象である「高断熱・高気密住宅」をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて,当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては,その付加された事項の内容は,本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないといえる。したがって,本件補正は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない。」

審決を取り消す。

【コメント】

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」審査基準改定案に対して、東京医薬品工業協会 知的財産研究会 特許部会が下記とおりのパブリックコメント(see here)を寄せた。その中で、本事案が取り上げられている。

意見及び理由:
知財高裁大合議判決(知財高判平20.5.30、平成18年(行ケ)第10563号)を受け、「現行の審査基準に基づく審査実務を変更せず、大合議判決との整合性をとる」との観点で、審査基準を改訂することについては異論ございません。
しかしながら、産業構造審議会知的財産政策部会 特許制度小委員会 審査基準専門委員会では検討されていなかった、平成22年1月28日に言渡された判決(知財高判平22.1.28、平成21年(行ケ)第10175号)において、「大合議判決基準」が前提として挙げられたうえ、「本件出願当初明細書には「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m2・h・℃」における数値が明示されているわけではないが、本件発明の課題解決の対象である「高断熱・高気密住宅」をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて、当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては、その付加された事項の内容は、本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないものといえる。したがって、本件補正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない」との内容の判決が出されています。この判決は、現行の審査基準以上に、補正のできる範囲を許容しているように感じられます。
今回の審査基準改訂案は、現行の審査基準に基づく審査実務を変更しないという前提での改訂と理解しておりますが、前述の平成21年(行ケ)第10175号事件の判決を例に挙げましたように「大合議判決基準」の表現が曖昧であることゆえの弊害(例えば、補正の予測不可能性)が生じるのではないかと危惧しております。


本判決による新規事項追加の判断手法を整理すると、
追加事項に単に技術的意義(技術的内容)があることだけをもって新規事項の追加であると判断するのではなく、「発明の解決課題及び解決機序との関係で格別な意味を持つ技術的事項」が含まれるのかどうかで判断するとしている。

2010年6月1日、特許庁は、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準を改訂(see here)したばかりだが、"新たな技術的事項の導入"とは何なのか、どのように判断するのかについて、本判決を考慮して改定審査基準が検討された様子はない。本判決に続いて今後の判決及び審査がどのようになっていくか気になるところである。補正の予測不可能性という混乱を引き起こすことにならないよう知財高裁での判決間の整合性及び審査基準等の特許庁での運用に矛盾が起きないようにしてほしい。

Jun 1, 2010

「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準の改訂について

2010年6月1日、特許庁は、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準を改訂しました。審査基準専門委員会において結論されたように、今回の審査基準改訂により現行の審査基準に基づく審査実務は変更されません。改訂審査基準は、2010年6月1日以降の審査に適用されます。
東薬工知的財産研究会特許部会など計6件のパブリックコメントが寄せられました。

2010.06.01 特許庁: