Mar 7, 2011

2010.12.22 「伏見製作所/X v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10163

出願当時の技術水準を出願後の刊行物により認定: 知財高裁平成22年(行ケ)10163

【背景】

「経管栄養剤」に関する出願(特願2003-003526)に係る発明が引用例1及び2に記載された発明に基づいて進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:

胃瘻に配置された管状材を通して、数分間で200ml~400ml が加圧供給される栄養剤であって、該栄養剤は、その粘度が、1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下の粘体であって、管状材を通過する前後において、粘体の状態が維持されるように調製されていることを特徴とする経管栄養剤。

本願発明と引用発明(引用例1に記載された発明: 胃瘻から注入した半固形状食品®テルミールソフト)との一致点及び相違点:

  • 一致点:胃瘻に配置された管状材を通して,供給される経管栄養剤

  • 相違点1:本願発明では,「粘度が,1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下の粘体であって」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点

  • 相違点2:本願発明では,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている経管栄養剤」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない経管栄養剤である点

  • 相違点3:本願発明では,「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点


【要旨】

*取消事由2及び4(相違点1及び3についての判断の誤り)を以下に取り上げた。

取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について、裁判所は、
「~これを,特許を受けようとする発明が物の発明である場合についてみると,特許を受けようとする発明と対比される同条1項3号にいう刊行物の記載としては,その物の構成が,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば,必ずしも,当該刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はなく,それをもって足りるというべきである。」
と、特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について説示したうえで、本件について下記のように判示した。
「~引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「®テルミールソフト」が記載されていることが認められる。また,「®テルミールソフト」は,本件出願前から~テルモ株式会社により販売され,容易に入手可能であったものと認められる(甲6,弁論の全趣旨)。そうすると,刊行物である引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「®テルミールソフト」の発明が記載されているということができる。
そして,本願出願後に頒布されたものであることに争いのない刊行物D(甲17)には,「®テルミールソフト」が20℃で20000ミリパスカル秒の粘度であることが記載されている。この事実に弁論の全趣旨を総合すれば,本願出願時においても,同一商品名で販売されていた「®テルミールソフト」が,本願発明の粘度範囲である1000~60000ミリパスカル秒の範囲にあったものと推認できる。」
と認定した。

これに対し、原告らは、
「本件審決が,本願出願後に頒布された刊行物D(甲17)に基づいて,引用例1記載の「®テルミールソフト」の粘度を認定したことは誤りである」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「発明の進歩性の有無を判断するに当たり,上記出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し,これにより上記進歩性の有無を判断しても,そのこと自体は,特許法29条2項の規定に反するものではない(最高裁昭和51年(行ツ)第9号同年4月30日第二小法廷判決・判例タイムズ360号148頁参照)。よって,本願発明の進歩性の有無を判断するにあたって,引用発明である「®テルミールソフト」が持つ粘度を認定するために,本願出願後に頒布された刊行物Dを参酌したことは,特許法29条2項に反するものではない。以上のとおり,引用発明に係る「®テルミールソフト」は,本願発明の粘度範囲である1000~60000ミリパスカル秒の範囲にあったものと推認できるから,相違点1について,実質的に相違するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。

取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について、裁判所は下記の通り判断した。
(1) 本願発明の相違点3に係る構成について
~本願発明の相違点3に係る発明特定事項である「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」点については,単に本願発明である経管栄養剤の使用態様を説明するだけのものであり,経管栄養剤という物の発明である本願発明が有する特有の性状を示すものと解することはできない。本願明細書~の記載を勘案しても,本願発明の上記発明特定事項の意義を見いだすことができないし,「数分間で200ml~400ml」という数値の臨界的意義を見いだすこともできない。そもそも,~一定時間貯留されるとの効果は,「粘度が,1000ミリパスカル秒以上~60000ミリパスカル秒以下」であることから奏する効果であり,「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」ことと関係があるとはいい難い。そうすると,相違点3に係る本願発明の構成には,そもそも技術的意義を認めることはできないといわなければならない。

(2) 相違点3の容易想到性について
上記(1)のとおり,本願発明の相違点3に係る構成には,何ら技術的意義を認めることができない以上,引用発明に係る「®テルミールソフト」において,経管栄養剤という物の発明の解決課題とは無関係である,胃瘻から注入する際の使用態様について,上記相違点3に係る構成のように「数分間で200ml~400ml が加圧供給される」とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといわざるを得ない。

(3) 本件審決の判断について
上記(2)のとおり,引用発明から相違点3に係る本願発明の構成(数分間で200ml~400ml が加圧供給される)に至ることは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず,引用例2に記載されている事実等とは無関係であって,引用例2を組み合わせるまでもないことである。本件審決の上記判断は,措辞必ずしも適切とはいえないが,当業者が容易に想到し得たという結論において誤りがあるとはいえない。
請求棄却。

【コメント】

特29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について、当業者が、刊行物の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば、必ずしも、刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はない。

そして、出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し、これにより進歩性の有無を判断しても、そのこと自体は特29条2項の規定に反するものではない(1976.04.30 昭和51(行ツ)9)。

取消事由4(相違点3についての判断の誤りについて)の争いは、医薬発明の用法に関する発明特定事項について技術的意義が見出されず、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないとされた典型例ともいえる。用法・用量に特徴のある医薬発明の進歩性を検討する際には参考になるかもしれない。


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