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2011.02.01 「大塚製薬工場 v. 味の素」 知財高裁平成22年(行ケ)10133

副作用の懸念という阻害要因: 知財高裁平成22年(行ケ)10133

【背景】

味の素(被告)が有する「2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤」に関する特許権(特許第4120018号)について無効審判請求不成立とした審決(無効2008-800110号事件及び無効2008-800256号事件)の取消訴訟。

輸液におけるアミノ酸を安定化するための抗酸化剤として亜硫酸塩を配合すると、その亜硝酸塩がビタミンB1の安定性に悪影響を及ぼすという背景があり、輸液混合前後の亜硫酸塩濃度に関する発明の構成と引用例との相違点は容易に発明できたものといえるかどうか(進歩性)、が主な争点となった。

請求項1:

A 連通可能な隔離手段により2室に区画された可撓性容器の第1室にグルコース及びビタミンとしてビタミンB1のみを含有する輸液が収容され,第2室にアミノ酸を含有する輸液が収容され,その第1室及び第2室に収容されている輸液の一方又は両方に電解質が配合された輸液入り容器において,
B 第1室の輸液にビタミンB1として塩酸チアミン又は硝酸チアミン1.25~15.0mg/Lを含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,
C 且つ第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し, メンブランフィルターで濾過して充填し,
D 更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lであり,
E 混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特徴とする2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤。

【要旨】

裁判所は、本件発明と特開平8-709号公報(甲4)記載の発明との対比において本件発明の構成C(相違点4)、D及びE(相違点6)は容易に発明できたものとはいえないとした審決の判断に誤りがあると判断した。

なお、審決は

「甲4記載の発明における抗酸化剤は,第2室に収容される輸液の安定性を考慮したにすぎないから,混合後の輸液におけるビタミンB1の安定性のために亜硫酸塩の濃度を調整することは導き出すことができない」

と判断し、被告もこれと同様の主張をしたが、裁判所は、

「~混合後の亜硫酸塩の濃度に関する構成は,甲4の記載に基づいて,当業者が第2室のアミノ酸輸液を適切に安定化した結果,同時に満足されるものであるから,ビタミンB1の安定性を目的とする混合後の亜硫酸塩の濃度調整の示唆までは必要ない。」

と判断した。

また、審決は、

「当業者が,ビタミンB1の分解が亜硫酸塩の濃度に依存することを知った場合には,亜硫酸塩の添加は避けようとするのが自然であり,これを添加しようとすることの動機付けが存在しない」

と判断し、被告もこれと類似する主張をしたが、裁判所は、

「アミノ酸輸液に安定性保持のために亜硫酸塩を抗酸化剤として添加することは,従来から広く行われていたことであり~,抗酸化剤を添加しない場合,アミノ酸輸液の医薬製品としての安定性は十分でないと考える方が当業者にとって一般的であったと認められる。」

と判断した。

また、被告は、

「亜硫酸塩の添加については,喘息等の問題点が指摘されていた」

と主張したが、裁判所は、

「医薬品や食品添加剤等において使用されるような成分について,その成分の有効性と同時に何らかの副作用が指摘されるのは一般的なことである。そのような場合,当業者は,当該成分を使用するか否かについて,その有効性と副作用の両面から検討すると考えられる。すなわち,有効性が十分に高く,一方,指摘される副作用について,当該成分の使用割合や使用方法などの手段を検討することによってある程度低減できる場合や,副作用の発生頻度が非常に低い場合などは,有効性の方が重視されると考えられる。したがって,単に問題点が指摘されているからといって,当該成分が使用されないとはいえない。実際,亜硫酸塩の輸液への添加が本件出願当時から現在においても禁止されていないことからすれば,被告の指摘する副作用は,本件出願当時の当業者において,それほど重要視しなければならなかった問題点とは認められない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

ある成分の副作用という点を阻害要因として、その成分を用いることについて当業者が容易に想到できたものとは認められないと主張する場合には、単に問題が指摘されている程度なのか、それとも使用が禁止されているほどのものなのか、当業者にとってどれほど重要視されるべき問題なのかを検討する必要があるだろう。

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