Oct 1, 2011

2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)361

小児適用の追加承認処分と特許法67条の3第1項1号: 東京高裁平成10年(行ケ)361

【背景】

原告は、塩酸オンダンセトロンを有効成分とし、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快を効能・効果とする医薬について承認を受けた(「前回承認」)。その後、原告は、上記と同じ有効成分、効能・効果の医薬について、「今回承認」を受けた。前回承認と今回承認とは、前者が適用対象を成人に限るとしていたのに対して、後者が小児をも適用対象としている点で相違していた。原告は、今回承認を理由として特許権(特許第1663594号)の存続期間延長登録出願(平成8年特許権存続期間延長登録願第700022号)をしたが、特67条の3第1項1号に該当することを理由に特許庁から拒絶審決(平成9年審判第15350号)を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

本件発明の特許請求の範囲:

1. 活性成分として、1、2、3、9-テトラヒドロ-9-メチル-3-[(2-メチル-1H-イミダゾル-1-イル)メチル]-4H-カルバゾル-4-オン又はその生理学的に許容される塩又は溶媒和物を含むことを特徴とする、吐気及び嘔吐の軽減及び/又は胃内容物排出の促進のためにヒト及び獣医学で用いるための薬剤組成物。

【要旨】

1. 取消事由1 (承認の必要性についての判断の誤り)について

裁判所は、

「特許法68条の2~の規定は、前記の特許権の存続期間延長登録の制度の趣旨、立法の経緯及び条文の文言に照らし、存続期間が延長された後の特許権の効力につき、一方では、処分と無関係な範囲には及ぼさないこととすると同時に、他方では、期間延長後の特許権者の権利主張の実効性を確保するため、処分単位で認めることとしないで、その処分において特定の用途が定められている場合には、処分の対象となった物につき、その処分において定められた特定の用途について実施する場合全般にまで拡大して及ぼしたものであることが明らかである。これを前提とした場合、特許法68条の2のみならず、特許法67条及び67条の3にいう「特許発明の実施」の文言についても、具体的な処分の対象そのもの(品目)を単位としてではなく、処分の対象となった「物」と、その処分において定められた特定の「用途」によって特定される範囲のものすべてを単位として解釈するのが自然かつ合理的であるものというべきである。~上記解釈によれば、特許発明の延長登録が認められるためには、同じ「物」と「用途」によって特定される範囲において既に別の処分を受け特許発明の実施をすることができるようになっていないことが必要であり、逆に、同じ「物」を同じ「用途」に使用する以上、その使用形態、用法等の変更のため重ねて政令で定める処分が必要とされる場合であっても、そのことを理由に特許期間の登録延長を認めることはできないものというべきである。

~本件において、特許法68条の2の規定にいう「物」に該当するのが、薬事法14条1項に係る処分の対象となる、有効成分によって特定される医薬品であることは明らかであり、~「用途」とは、「物」(有効成分によって特定される医薬品)自体の特定の性質を専ら利用することを意味するもの、換言すれば、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものと解するのが合理的である。以上によれば、最初に薬事法14条1項による処分を受けて、所定の有効成分、効能・効果を有する医薬品について製造承認を得た特許権者は、その有効成分、効能・効果を有する医薬品に関して、特定の品目に限ってであれ、特許発明を実施することができるようになっていたのであるから、同じ有効成分、効能・効果の範囲内で、剤型、用法、用量等の変更の必要上、再度処分を受ける必要が生じたとしても、特許期間の登録延長を認めることはできないというべきである。

~原告は、前回承認において、塩酸オンダンセトロンを有効成分とし、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快を効能・効果とする医薬品について承認を受けていたのであるから、原告は、塩酸オンダンセトロンを有効成分とする医薬品で、かつ、抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快という用途のものについて、本件発明に係る特許権を実施していたことになり、有効成分が同じであり、その効能・効果も同じである以上、適用対象に小児を追加して前回承認とは異なる品目で承認を受ける必要があったとしても、本件延長登録出願をもって、延長登録の要件を満たすものということはできない。」

と判断した。

2. 取消事由2 (「用途」についての解釈の誤り)について

原告は、

「本件においては、前回承認は成人用であり、今回承認は小児用をも含むようにしたものであるから、明らかに用途が異なっている。審決は、特許法68条の2の「用途」の解釈を誤った結果、本件延長登録出願を拒絶したものであって誤っているから、取り消されるべきである。」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「前記1(3)認定のとおり、特許法68条の2にいう「用途」とは、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものであって、成人用か小児用かは、同じ効能・効果の医薬品について適用対象を異にしているに過ぎないから、原告の取消事由2も理由がない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

前投稿(第6回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ議事録)でも言及したが、特許庁が提示した事務局案2の拠り所として引用した過去の判決。特67条の3第1項という延長登録出願の拒絶理由を規定した法文の文言解釈に、直接、権利の効力に関する規定である特68条の2を持ち出してきて解釈してきた過去の判決である。この点は、まさに、近年、知財高裁における 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460等の判決によって、延長登録出願の登録要件について詳細に再検討された。

本判決は、特67条の3の規定の解釈をほとんどすることなく、判決文中の判断における検討のほとんどを特68条の2の規定の解釈に割いていおり、また、それだけを検討しているに過ぎない。特68条の2の「物」の解釈において、「医薬品」であることは明らかとしつつも、いつのまにか「有効成分」に摩り替わり、さらに、いつのまにか医薬品の異同ではなく、有効成分の異同を特67条の3の延長登録の要件として判断するという、今振り返って読むとかなり強引な結論の導き方をしているように感じられる。

本判決文中で、裁判所は、特68条の2の規定にいう「用途」の意義については特許法に定義があるわけではないので解釈の問題となり得ることは明らかである、と言及したが、結論として、「用途」とは、当該医薬品の効能・効果によって特定される使いみちを意味するものと解するのが合理的であると判断し、「成人用」、「小児用」といった使い道が、「用途」であるかどうかという検討をすることなく、門前払いとしている。

しかし、投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量が特定された、特定の疾病への適用、を意味する「医薬用途」を提供する「物」の発明(医薬用途発明)が審査基準によっても明示的に認められるなど、現在の医薬「用途」の一般的解釈は、本判決が解釈したような「効能・効果」という狭い解釈とは異なるものとなってきているのは明らかである。「成人用」、「小児用」という使い道が、「用途」であるのかどうかは詳細に検討されなければならないだろう。
「医薬用途」とは、(i)特定の疾病への適用、又は、(ii)投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法又は用量(以下、「用法又は用量」という。)が特定された、特定の疾病への適用、を意味する。
つまり、上記(ii)のような用法・用量で特定された、特定の疾病への適用も用途である。少なくとも審査基準上で医薬用途発明として認めている「用途(用法用量による特定も含む)」の概念と、現在検討されている特許権延長登録出願の事務局案2の「用途(効能・効果)」の概念はどのように整合させられるだろうか。

本事件と同趣旨の判決:

  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)362(特許第1720916号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700023号)


  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)363(特許第1663594号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700024号)


  • 2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)364(特許第1720916号)(平成8年特許権存続期間延長登録願第700025号)


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