Apr 24, 2011

2010.12.22 「エティファーム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10062

特許権存続期間延長登録出願において、禁止が解除された「物」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要があるのか?: 知財高裁平成21年(行ケ)10062

【背景】

「急速崩壊性多粒子状錠剤」に関する特許(特許2820319号; 20年の存続期間満了日は2012.7.21)に基づく存続期間延長登録出願(2006-700077号; 延長を求める期間は3年9月10日)をした。本件出願は,本件特許の専用実施権者である武田薬品が受けた錠剤「タケプロンOD錠15」(有効成分: ランソプラゾール(lansoprazole))に関する薬事法上の承認(非びらん性胃食道逆流炎)に基づくものであったが、下記本件請求項1のとおり、請求項には有効成分であるランソプラゾールが特定の構成要件として明示されておらず、明細書中にもランソプラゾールについての明示的な記載はなかった。

請求項1:
投与前に水中に分散させることなく経口投与する錠剤であって,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質と,賦形剤混合物とを含む材料を圧縮して得られ,前記賦形剤混合物がカルボキシメチルセルロース又は錠剤の全重量に対して13.3%以下の不溶網状PVPを含む少なくとも1つの崩壊剤,及び,澱粉,加工澱粉,あるいは微結晶セルロースから選択され,水と接触して高粘度を生じない少なくとも1つの膨張剤を含み,発泡剤及び遊離の有機酸を含まず,口中で唾液の存在下で咀嚼無しに60秒より短い時間で崩壊する急速崩壊性多粒子錠剤。
審決の理由は、医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには、少なくともその処分によって特定される「物」、すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するので、本件出願は特67条の3第1項1号の規定に該当する、というものだった。

【要旨】

裁判所は、
「「特許発明の実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったと認められるためには,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに「特許発明の実施」に当たる行為の部分が存することが必要である。そして,「政令で定める処分」が,例えば,薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合に,上記要件を充足するためには,薬事法14条所定の当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為に,当該特許発明の実施に当たる部分がなければならないと解される。」
と特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について判示した後、特68条の2の解釈についても言及したうえで、
「このように,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められるのであるから,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から,存続期間の延長登録出願が適法であるためには,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」についてみれば,それらが客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」を基準とし,「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず,また,それで足りるということができる。すなわち,存続期間の延長登録出願に際し,「政令で定める処分」を前提として,その対象となった「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,上記の手法に基づいて認識できるような場合には,当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に,「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるからである。そして,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明が,様々な上位概念で記載され,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広い場合であっても,当該「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足りるのであり,上記の禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が,特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない。審決は,「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。」
と判断した。

そして、さらに、
「特許権の存続期間延長制度の対象となる特許発明は,前記2のとおり,その条文上の記載から明らかなように,「特許を受けている発明」(特許法2条2項)全般であり,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明という特定の特許発明に限定して存続期間の延長を認めるべき合理的根拠はない。」
とも言及し、特許発明の実施に処分を受けることが必要かどうかを、「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という限定的観点で判断した審決を否定した。

審決を取り消す。

【コメント】

特67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について、裁判所は、2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10459; 2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460で示された基準:
「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば,物の発明にあっては,その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。
と同様の考えを示した。

裁判所は、禁止が解除された行為に「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるかどうかは、当該特許発明に含まれるものであることが「特許請求の範囲」、「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足り、禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない、と判示した。

特許請求の範囲又は明細書における処分対象物(有効成分あるいは医薬品)の記載の程度に関して判断された判決は下記が参考になるかもしれない。


原告が主張の中で引用した判決:


その他のランソプラゾールに関する判決:


Apr 17, 2011

2011.03.22 「沢井製薬 v. 武田薬品」 特許無効審判事件 2010-800087, 2010-800088

アクトス(ACTOS)併用の進歩性判断における効果の格別顕著性: 無効2010-800087及び無効2010-800088

沢井製薬が請求した、武田薬品が有する「ピオグリタゾンと他の糖尿病薬との併用」に関する特許(特許3148973及び特許3973280)の無効審判(無効2010-800087及び無効2010-800088)について、特許庁は一部クレームについては無効としたが、他のクレームについての無効請求は成り立たないとした。各特許における特許庁の判断の要旨は下記の通り。

【特許3148973】

「ピオグリタゾンと、アカルボース、ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについて、特許庁は、請求人が提出した刊行物(甲第1~4号証)は、
①いずれも将来的な糖尿病治療を前提とするものと認められる。
②ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ボグリボース又はミグリトールとを併用については単にそのことが記載又は示唆されているにとどまる。
③当該併用により実際に糖尿病治療が行われたことや,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことについて何ら記載するものではない。
④いずれもピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ミグリトール又はボグリボースとの併用に係る医薬につき,当業者が直ちにその有用性を理解することができるように発明として記載されていると言うことはできない。
という理由から、ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース、ボグリボース又はミグリトールとの組み合わせに係る薬理効果の実証を伴わないこれら記載のみからでは、これら刊行物(甲第1~4号証)において本件発明が記載されているとは認められないと判断した。

一方、進歩性判断については、
「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース,ミグリトール又はボグリボースとを併用することにより実際に糖尿病治療が行われたことや,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことについては何ら記載はなされていなくとも,~ピオグリタゾンとアカルボースとの組み合わせ,又は,ピオグリタゾンとボグリボースとの組み合わせとする動機付けを,当業者に与えるに足るものであると言うことはできる」
として、本件発明に係る糖尿病治療薬の構成自体は、これら刊行物(甲第1~4号証)の記載から当業者が容易に想到することができたと言うべきであると判断した。

しかしながら、本件発明の効果について、
①その作用機序の組み合わせが全く試みられていないという状況の下では,実際の効果は現実に使用してみなければ分からないという認識が,当業者には一般的であると認められる。
②糖尿病に対する薬剤の併用治療に関し,本件特許の優先権主張の日前において,異なる作用機序の薬剤を併用して用いれば例外なく,相加的又は相乗的な効果が必ずもたらされることを当業者が認識していたという事実を認めるに足る根拠は全く見出せない。
③請求人が提出した甲第1~4号証に記載された技術的事項は上記のとおりいずれも,併用すれば効果の高い治療が可能となるかもしれない,という単なる期待の域を出ないものであり、相加的又は相乗的な効果をもたらすかもしれないという期待があることを単に記載するにとどまり,いずれの証拠も異なる作用機序に基づく糖尿病治療薬の併用は相加的又は相乗的な効果を必ずもたらすことを裏付けるものでは何らない。
④その併用により相加的又は相乗的な効果が奏されるか否かは,本件特許の優先権主張の日前において,当業者をしても実際に試験を行って逐一その確認をしてみないことには直ちに予測し得るものではない,という技術水準にあったと認められる。
⑤本件特許明細書の実験例1において示される併用効果が相加効果又は相乗効果のいずれであるのかまでは直ちには判断し得ないとしても,ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとの併用による本件発明1の効果は,甲第1~4号証における記載からは当業者が予測できない格別顕著なものであると言うべきである。
とし、本件発明に係る糖尿病治療薬は、これら刊行物の記載から当業者が容易に想到することができたとは認められないと判断した。

【特許3973280】

「ピオグリタゾンと、グリメピリドとを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについて、特許庁は、上記特許3148973と同様の判断により、無効請求は成り立たないと判断した。一方、「ピオグリタゾンと、ビグアナイド剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬」に関するクレームについては、実施可能要件及びサポート要件に違反してなされたものであると判断し、それらクレームについては無効とした。

【コメント】

明細書に薬理試験結果が示されていた併用は、①塩酸ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースとの組み合わせ(実験例1)、および②塩酸ピオグリタゾンとSU剤であるグリベンクラミドとの組み合わせ(実験例2)、のみであったため、ピオグリタゾンとビグアナイド剤との併用クレームを実施可能要件違反及びサポート要件違反と判断した特許庁の判断は妥当に思えるが、進歩性の判断、特に効果が顕著であるかどうかの判断が果たして妥当なものなのかどうか・・・。特許庁の判断は、「動機付けはあっても、試験してみなければ効果があるのかどうか分からないものについて試験をした結果、一定の効果が認められれば、効果の程度にかかわらず、効果につき格別顕著性がある」と言っているように思えのだが。そして、本件明細書に記載されていた併用投与による効果を示す試験結果は、それぞれの単独投与と比較したものだけであり、他の組み合わせと比較したものではないという点も、これまでの下記判決と整合するのかどうか気になるところである。



本件は、進歩性判断について、ぜひ知財高裁に出訴して再検討されるべきだろう。なお、特許3148973は存続期間延長登録されており(出願番号2002-700098、2002-700099)、存続期間満了日は2017年11月15日となっている(20年目は2016年6月18日)。一方、特許3973280は存続期間延長登録出願(出願番号2010-700127、2010-700128)されたがこちらはいずれも拒絶査定(発送日2011年2月15日)、その他、分割出願(特開2007-191494)も拒絶査定となっている(発送日2011年2月1日)。

アクトス(ACTOS; 有効成分:塩酸ピオグリタゾン(Pioglitazone Hydrochloride))の効能効果は下記のとおり。
2型糖尿病
ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性が推定される場合に限る。
1.①食事療法、運動療法のみ②食事療法、運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用③食事療法、運動療法に加えてα-グルコシダーゼ阻害剤を使用④食事療法、運動療法に加えてビグアナイド系薬剤を使用
2.食事療法、運動療法に加えてインスリン製剤を使用


メタクト配合錠LD/メタクト配合錠HD(有効成分: ピオグリタゾン塩酸塩(Pioglitazone Hydrochloride)およびメトホルミン塩酸塩(Metformin Hydrochloride))は昨年7月から日本で販売開始されている。

参考(追記):

Apr 8, 2011

2011.04.06 USPTO proposed new PTA and PTE rules

2011年4月6日、USPTOはPTA(patent term adjustment)及びPTE(patent term extension)に関する規則改正案を発表しました。パブリックコメントは5月6日まで募集しています。

参考: