Jul 10, 2011

2011.03.23 「アイノベックス v. アプト」 知財高裁平成22年(行ケ)10256

「物の発明」としての用途発明と新規性: 知財高裁平成22年(行ケ)10256


【背景】

被告(アプト)が有する「スーパーオキサイドアニオン分解剤」に関する特許(特許第4058072号)について、原告(アイノベックス)による無効審判請求は成り立たないとの審決(無効2009-800033号)に対する審決取消訴訟。

請求項1:
A ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,シクロデキストリン,アミノペクチン,又はメチルセルロースの存在下で
B 金属塩還元反応法により調整され,
C 顕微鏡下で観察した場合に粒径が6nm 以下の白金の微粉末からなる
D スーパーオキサイドアニオン分解剤。
本件特許発明の上記構成AないしC記載の白金の微粉末は、甲1の白金微粉末を含んでいるから公知の物質である点に当事者間に争いはなかった。甲1には、白金微粉末を体内に取り入れる方法が示されており、各種病気の症状改善に効果があること等が記載、開示されていたが、白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用は明示的形式的には記載されていなかった。審決は、甲1との相違点を上記構成Dとし、甲1記載の発明とは同一でないと判断した。

【要旨】

裁判所は、
「本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は、甲1において記載、開示されていた、白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく、新規な方法(用途)とはいえず、白金微粉末に備わった上記の性質を、構成Dとして付加したにすぎず、本件特許発明は、甲1の記載と実質的には同一のものであって、新規性を欠くことになるから、これと異なる審決の認定、判断には誤りがあると解する。」
と判断した。その理由は以下のとおり。
「一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を欠くことになる。しかし,その例外として,①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には,単に同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある点において,異論はない(特許法29条1項,2項,2条1項)。もっとも,物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点にかんがみるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。

以上に照らして,本件特許発明の新規性の有無について検討する。

~本件補正明細書の記載によれば,①スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が存在すること,②構成AないしCに該当する白金微粉末には,スーパーオキサイドアニオンを分解できる属性を有することが確認されたことが記載されている。また,特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,構成AないしCに該当する白金微粉末を,「医薬品」「健康食品」又は「化粧品」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されたのではなく,「スーパーオキサイドアニオン分解剤」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されて
いる。

他方,甲1には,構成AないしCに該当する白金微粉末は,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎などの予防又は治療に有効であると期待されていること,そのような効果を期待して,水溶液として,体内に投与する方法が示されていることが記載され,同記載によれば,そのような使用方法は,公知であることが認められる。そう
すると,甲1には,白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用が明示的形式的に記載されていないものの,従来技術(甲1)の下においても,白金微粉末を上記のような方法で用いれば,スーパーオキサイドアニオンが分解されることは明らかであり,白金微粉末によりスーパーオキサイドアニオンが分解されるという属性に基づく方法が利用されたものと合理的に理解される(甲24参照)。

以上によれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえないのであって,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構
成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち,構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない。」
これに対し、被告は、
「本件発明は,白金微粉末における,新たに発見した属性に基づいて,同微粉末を「剤」として用いるものである以上,新規性を有する」
と主張した。しかし、裁判所は、
「確かに,一般論としては,既知の物質であったとしても,その属性を発見し,新たな方法(用途)を示すことにより物の発明が成立する余地がある点は否定されないが,本件においては,新規の方法(用途)として主張する技術構成は,従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。」
と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

既知の物質に係る新たな方法(用途)について、「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かの判断について参考になる事例である。用途発明に関する特許庁の取り扱いが必ずしも整理されていないことを感じさせた審決取消判決である。

原審決では、
「審査基準においても「一般に、用途発明は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明と解される。」(「特許・実用新案 審査基準」第II部1.5.2(2)「用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」)と記載され、ある物が本来的に有している属性であったとしても、それが未知の属性であり、その属性の発見により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明は、用途発明として特許され得るものとされている。そして、その物が本来的に有している属性でなければ、発見することはできないわけであるから、見いだされた属性が、その物が本来的に有している属性であることは、用途発明の特許性を否定する根拠とはなり得ないものである。そして、本件特許発明は、要件A~Cで規定される白金微粉末の用途発明に関するものと認められるので、請求人の主張のうち「ナノサイズの白金微粒子が本来的に有している属性に過ぎない」ことという主張は、本件特許発明の特許性を否定する根拠とはならない。」
と審査基準を引用しながら、本件発明は、新たな用途への使用に適することを見出したことに基づくものである、としている。

しかし、本件発明でいう「新たな用途」とは一体何なのであろうか?

審査基準第VII部第3章医薬発明2.2(3)新規性の判断(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して(3-2-1)特定の疾病への適用(d)には下記のように記載されている。
「請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。」


ところで、米国では下記クレームで成立(US7,838,043)している。
1. A method for eliminating superoxide anion in a mammal, comprising administering to the mammal platinum fine powder having a particle size of 6 nm or less as observed under a microscope which is prepared by metal salt reduction method in the presence of at least one water-soluble polymer comprising one or more of polyvinylpyrrolidone, polyvinyl alcohol, polyacrylic acid, cyclodextrin, amylopectin, and methylcellulose.

用途の新規性が争われた事例:


参考:
 

Jul 2, 2011

2011.03.10 「アベンティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10170

LPL欠損の遺伝子治療: 知財高裁平成22年(行ケ)10170

【背景】

「組換えウイルス,製造方法および遺伝子治療での使用」に関する出願(特願平8-500419号; 特表平10-500859; WO95/33840)の拒絶審決(不服2007-020372; 進歩性違反)取消訴訟。

請求項1:

リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス

【要旨】

裁判所は、

「本件優先日当時,遺伝子治療は,遺伝病に対する原因療法として有力な手段であり,かつ,成功治験例が存在することは周知であったところ,引用例1には,遺伝病の一種であるLPL欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群について,遺伝子治療の可能性が示唆されているのであるから,引用例1に接した当業者は,当然,かかる疾患について遺伝子治療を試みるものということができる。そして,家族性高カイロミクロン血症症候群の原因であるLPLをコードする核酸配列も,本件審決が指摘するとおり~であったことからすると,引用例1に接した当業者が,家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の実現のために,引用例2及び3により開示された知見を組み合わせて,相違点の構成,すなわち「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス」の創製を着想し,具体化に向けた努力を行うことは,当業者における通常の創作能力の発現というべきである。したがって,本件補正発明は,引用例1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということができる。」

と判断した。

この点について、原告は、

「引用例1は,遺伝子治療に関する将来の可能性を示唆するにとどまり,本件優先日当時,LPL欠損症の遺伝子治療は時期尚早とされていたのであるから,引用例1の記載からは,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いようとすることを動機付けられるものではない」

等主張した。

しかし、裁判所は、

「確かに引用例1の文言自体は,「未来の遺伝子治療の可能性の基礎を与えるであろう」とするにとどまるもので,短期間において遺伝子治療に係る技術が確立することが期待できないかのように解する余地はあるものの,先に指摘したとおり,本件優先日当時,欠陥組換えウイルスを用いた遺伝子治療の研究が進められており,一部の遺伝病(血友病B,家族性高コレステロール血症,ADA欠損症)においては,人間を対象にした成功治験例が報告されていたのであるから,かかる技術水準を前提とすると,引用例1に接した当業者が,上記文言から,将来における実現に係るLPL遺伝子を使用した遺伝子治療の実現可能性を期待するものということができるから,引用例1の上記文言自体は,LPL遺伝子を遺伝子治療に用いることの阻害要因となるものではない。

~また、~本願明細書において,その製造方法及び使用方法については開示されているものの,当該ウイルスを具体的に製造できたこと及び当該ウイルスが遺伝子治療に使用するウイルスベクターとして有用であることを示す具体的な結果も記載されていない以上,本件補正発明は,LPLが関与する疾患の遺伝子治療のウイルスベクターとして使用するために,自己複製できないように改変されたウイルスにLPLをコードする核酸配列を導入するという着想を示したにすぎないものであって,同発明が,従来技術からは予測不可能な効果を有するものであるということもできない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

判決内容について特にコメントする点はない。

ところで、本件Aventisの出願は、欧州(EP0763116)にて下記クレームが成立した。
Claim 1: Defective recombinant virus comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.
しかし、Amsterdam Molecular Therapeutics等の異議申し立てがあり、下記のように補正された。
Claim 1: Defective recombinant virus, excluding phagemid CDM8, comprising a nucleic acid sequence encoding all or part of the lipoprotein lipase (LPL) or of a derivative thereof.
Amsterdam Molecular Therapeuticsは、Lipoprotein Lipase Deficiency (“LPLD”)の遺伝子治療薬Glybera® (alipogene tiparvovec; AMT-011)を欧州にて承認申請(marketing authorisation application (MAA) )していたが、2011年6月23日付でEuropean Medicines Agency(EMA)から現時点では承認できない旨の通知を受けている。Amsterdam Molecular Therapeuticsの2006年のAnnual reportによれば、上記AMT-011のFTOを確保するため、(恐らく上記欧州特許に関して)Aventisとライセンス契約をしたようである。
"Finally, in 2006 AMT continued to widen its IP portfolio significantly. Both the signing of the Aventis license as well as the Targeted Genetics License give AMT freedom-to-operate in respect of AMT’s lead product AMT-011."

このような背景からすれば、Aventisが本件日本出願も知財高裁まで争ってでも権利化を目指そうとしたことに納得できる。

参考: