Dec 31, 2011

2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

特許権の存続期間の延長の問題
2011年、医薬メーカーにとって最もホットだった"特許的"ニュースは、特許権の存続期間の延長問題だったのではないでしょうか?

「物」の発明における「物」の構成ではない記載
下記判決では、「物」の発明において、必ずしもその「物」の構成と言うことができない(かもしれない)クレームの記載が、特許性の判断にどのように影響するか、考えさせられました。

Dec 28, 2011

2011.12.28 「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂

「特許権の存続期間の延長」の審査基準が改訂されました。改訂後の審査基準は、2011年12月28日に係属中の延長登録出願及びそれ以降に行われた延長登録出願について、2011年12月28日以降の審査に適用されます。改訂審査基準の公表まで止まっていた延長登録出願の審査も再開したとのことです。

2011.12.28 特許庁調整課審査基準室:



Dec 20, 2011

2011.06.29 「アベンテイス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10330

プラスミドDNAの精製方法: 知財高裁平成22年(行ケ)10330

【背景】

「固定化させたオリゴヌクレオチドと三重らせんを形成させることによるDNA精製」に関する出願(特願2008-267538; 特開2009-045070)の進歩性違反を理由とする拒絶審決(不服2009-25085号)に対する取消訴訟。

請求項30(本願発明):
他の構成成分と混ざっているプラスミドDNAを含む溶液を,前記DNAに存在する特定のホモプリン/ホモピリミジン配列とのハイブリダイゼーションにより三重らせんを形成することが可能なオリゴヌクレオチドが共有結合したクロマトグラフィー用支持体に通す少なくとも一つの段階を含み,前記オリゴヌクレオチドが10から30の間の長さを有することを特徴とする,プラスミドDNAの精製方法。

【要旨】

裁判所は、

「本願発明は,オリゴヌクレオチドが結合した支持体が,オリゴヌクレオチドを共有結合させたクロマトグラフィー用支持体であり,該支持体にプラスミドDNAを含む溶液を通して接触させるのに対し,引用発明は,オリゴヌクレオチドを結合した支持体が,オリゴヌクレオチドをビオチン-ストレプトアビジンの親和性結合により結合させた磁性ビーズであり,プラスミドDNAを含む溶液にビーズを混合して接触させる点で異なっている。しかし,~本願優先日当時,遺伝子治療等において,DNA精製の効率化という課題が存在していたことが認められ,~オリゴヌクレオチドと支持体を共有結合により固定化するという手段が周知技術であったことが認められる。そうすると,DNA精製の効率化のため,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明における,オリゴヌクレオチドを結合した支持体について,ビオチン-ストレプトアビジンの親和性結合により結合させた磁性ビーズであるとの構成に替えて,オリゴヌクレオチドを共有結合により固定させる構成とすることは,容易に着想できたといえる。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

欧米では成立。しかも、それぞれ本願発明よりも広い範囲で成立している。
  • EP 797682B1; claim 30
  • US 6,287,762B1; claim 1



Dec 17, 2011

2011.12.15 「サノフィ・アベンティス アレグラ®特許無効審決取消訴訟」

サノフィ・アベンティスのpress releaseによると、同社は、アレルギー性疾患治療剤「アレグラ®」(一般名:フェキソフェナジン塩酸塩; Fexofenadine Hydrochloride)に関する特許(第3041954号及び第3037697号)の無効審決を不服とし、2011年12月15日付けで審決取消訴訟を提起したとのことです。

各特許についての無効審決の請求人は高田製薬と沢井製薬。特許庁は各々下記理由で無効審決を下しました。

特許第3041954号
  • 無効2010-800207(請求人: 高田製薬)進歩性欠如
  • 無効2010-800220(請求人: 沢井製薬)進歩性欠如・実施可能要件違反

特許第3037697号(上記出願の分割)
  • 無効2010-800206(請求人: 高田製薬)新規性欠如・進歩性欠如
  • 無効2010-800215(請求人: 沢井製薬)新規性欠如・進歩性欠如


参考:


Dec 13, 2011

2011.06.14 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10158

固定された医薬的組合せ組成物とは?: 知財高裁平成22年(行ケ)10158

【背景】

「バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組合わせ」に関する出願(特願2000-558803号、特表2002-520274号、WO2000/002543)について下記本件補正は補正要件を充足せず却下した上で本願発明と引用発明に相違する点はないとした拒絶審決(不服2005-23932号)の取消訴訟。

本件補正後の請求項7:
(i)バルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)アムロジピンまたはその薬学的に許容される塩を,
医薬的に許容される担体とともに含む,医薬的組合せ組成物。

審決での補正却下の原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態については何ら限定するものではない本件補正後の請求項7が、「医薬的組合せ組成物」の形態が「固定された」ものに限定される本件補正前の請求項12~14のいずれかを減縮するものとはいえないというものだった。

【要旨】

裁判所は、

「本件補正を一体のものとして扱った審決に誤りはないことは既に判断したとおりである。また,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をする特許庁の実務を支持できることも前記のとおりである。したがって,本件補正前の請求項12についてのみ特許要件の判断をした上で,これに新規性がないことを理由に請求不成立とした審決に,原告主張の判断遺脱はない。」

と裁判所は判断した。

また、本件補正前の請求項12と引用発明との相違点については具体的には下記のように検討された。

本願発明12:
(i)AT1レセプターアンタゴニストバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と,
(ii)カルシウムチャンネルブロッカーである遊離形または塩形のを,
医薬的に許容される坦体(ママ)とともに含む,固定された医薬的組合せ組成物。

引用例には、バルサルタンとニフェジピンの投与方法に関し、
①2種の薬剤の懸濁液を別個に用意し、2回に分けて連続して注入投与したのか、
②2種の薬剤を同一の懸濁液に溶解し、一度に注入投与したのか
は記載されていなかった。

原告は、引用発明は上記①の単なる併用実験であると認定されるべきであると主張したが、裁判所は、いずれの方法であっても引用例に記載された実験の目的を達成する上では相違がないこと等からすれば、引用例の記載された発明として上記②の方法は排除され,①の方法に限られるとすることはできないというべきであると判断した。

また、本願発明12における「固定された」の意義について、裁判所は、

「~「医薬的組合せ組成物」を「固定された」なる一義的に明らかでない用語で特定しようとするときのその「固定された」とは,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)に固定されていることを意味するものということはできても,これを超えて,2種の医薬が別個に存在したとして,これを2回に分けて逐次投与するのか,それとも,2種の医薬を混合して1回で投与するのかの限定が規定されたものと解することはできない。」

と判断した。

そして、本願発明12と引用発明の対比判断において、裁判所は、

「引用発明は,バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーを医薬的に許容される担体とともに含み,前記(4)で認定した意味にとどまる趣旨での固定された医薬的組合せ組成物である。
そうすると,本願発明12と引用発明は,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカー(引用発明においてはニフェジピン)を医薬的に許容される坦体(引用発明においてはCMC-Na)とともに含む医薬的組合せ組成物であって,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)が固定された(引用発明においてはバルサルタンをラットの体重1kg 当たり3mg 及びニフェジピンをラットの体重1kg 当たり1mg 含有するよう固定され,かつ,バルサルタンとニフェジピンの配合比が3:1に固定された)医薬的組合せ組成物で一致し,両者に相違点はない。
したがって,本願発明12と引用発明が同一であるとした審決の判断に誤りはない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本件補正の「バルサルタン(Valsartan)とアムロジピン(Amlodipine)」の組み合わせ組成物は、日本では、エックスフォージ®配合錠(EXFORGE® Combination Tablets)として2010 年1月20日に製造販売承認され、原告(ノバルティス)が販売している。エックスフォージ配合錠は、世界で降圧剤として広範に使用されている、アンジオテンシンⅡ受容体サブタイプ1に作用する選択的AT1受容体ブロッカーであるバルサルタンと持続性Ca拮抗薬であるアムロジピンの配合剤である。また、エックスフォージに利尿剤を加えた3剤の配合剤であるエックスフォージHCTが米国では既に上市されている。

補正却下のそもそもの原因は、「医薬的組合せ組成物」の形態を「固定された」ものに限定していた請求項から、「固定された」という限定を除いた本件補正をしたことにあった。この「固定された」との限定を補正せずに残しておけば、補正却下されず、引用発明との相違点を勝負できたと想像できる(それでも認められるかどうかは難しい気がするが。)。

バルサルタン関連:


Dec 4, 2011

2011.06.09 「千寿 v. 参天」 知財高裁平成22年(行ケ)10322

併用の進歩性: 知財高裁平成22年(行ケ)10322

【背景】

被告(参天製薬)が保有する「Rhoキナーゼ阻害剤とβ遮断薬からなる緑内障治療剤」に関する特許(第4314433号)に対して、原告(千寿製薬)は無効審判(無効2009-800243号)を請求したが請求は成り立たないとした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
Rhoキナーゼ阻害剤とβ遮断薬との組み合わせからなる緑内障治療剤であって,
該Rhoキナーゼ阻害剤が(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドであり,
該β遮断薬がチモロールである,
緑内障治療剤

【要旨】

取消事由1(引用発明1に基づく容易想到性の判断の誤り)について

引用例1には、カルシウムアンタゴニストと眼圧を下降させる化合物との組合せが記載されており、好ましいカルシウムアンタゴニストとして220の化合物が列記されているところ、その中の1つにHA1077が記載されていた。また、眼圧を下降させる化合物についても、縮瞳薬、交感神経作用薬、β-ブロッカー、炭酸脱水酵素インヒビターが含まれると記載されており、チモロール等多数の化合物が列記されていた。

原告は、

「HA 1077がカルシウムアンタゴニストであり,かつ,Rhoキナーゼ阻害剤であることは技術常識であったとして,引用例1におけるHA 1077の記載から,当業者はRhoキナーゼ阻害剤が記載されているに等しいものと認識することができた」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「特許法29条2項により,同条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,同条1項3号に記載された発明について,まず刊行物に記載された事項から認定すべきである。引用例1には,緑内障治療にカルシウムアンタゴニスト活性を有する薬剤と眼圧を下降させる薬剤の併用が開示されているのみで,Rhoキナーゼ阻害活性と緑内障治療についての開示は一切存在しないことに照らすと,引用例1の記載に接した当業者は,たとえ,そこに記載された具体例の1つであるHA1077が,たまたまRhoキナーゼ阻害活性をも有するとしても,そのことをもって,引用例1に,Rhoキナーゼ阻害活性を有する薬剤と眼圧を下降させる薬剤を併用する緑内障治療が記載されているとまでは認識することができないというべきである。
なお,特許出願時における技術常識を参酌することにより当業者が刊行物に記載されている事項から導き出せる事項は,同条1項3号に掲げる刊行物に記載されているに等しい事項ということができるが,刊行物に記載されたある性質を有する物質の中に,たまたまそれとは別のもう一つの性質を有するものが記載されていたと
しても,直ちに当該刊行物に当該別の性質に係る物質が記載されているということはできず,このことは,むしろ,容易想到性の判断において斟酌されるべき事項である。」

と判断し、原告の上記主張は採用しなかった。

また、置換容易性の判断においても、裁判所は、

「引用例1に記載されたカルシウムアンタゴニストの具体例の1つであるHA 1077が,カルシウムアンタゴニストであるのと同時にRhoキナーゼ阻害剤であることは,周知であった(甲12~14)。しかし,引用例1には,220種類ものカルシウムアンタゴニストが記載されているが,カルシウムアンタゴニストとRhoキナーゼ阻害剤とは,薬物が作用する生体内の分子が異なることからすると,引用例1に記載のほとんどのカルシウムアンタゴニストが,同時にRhoキナーゼ阻害剤としての性格を常に有するものではない。そうすると,引用例1に,カルシウムアンタゴニストの1例としてHA 1077が記載されているとしても,β遮断薬と組み合わせる薬剤として,カルシウムアンタゴニストに換えて,Rhoキナーゼ阻害剤とすることは,容易とはいえない。」

と判断した。

また、原告は、

「引用例1に記載されたカルシウムアンタゴニストがRhoキナーゼ阻害剤と一致することを主張しているのではなく,両者が共通して有する血管拡張作用という人体に対して奏する作用機序の同等性を根拠として,当業者であればカルシウムアンタゴニストをRhoキナーゼ阻害剤に置換することを容易に試み得た」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例1では,カルシウムアンタゴニストが有する血管拡張作用に加え,虚血状態下で起こるカルシウム過負荷の有害な影響からの細胞保護作用も期待して,カルシウムアンタゴニストを緑内障治療に使用するものであるから,血管拡張作用の共通性のみをもって,カルシウムアンタゴニストをRhoキナーゼ阻害剤に置換するということはできない。」

と判断した。

また、原告は、甲29を提出し、

「カルシウムアンタゴニストの薬理的性質が主房水流出能にあることは優先権主張日当時当業者に明らかであったので,引用例1におけるHA 1077を,カルシウムアンタゴニストと同じ薬理活性を示すRhoキナーゼ阻害剤に置換することは当業者が容易に想到できた」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例1では,従来の眼圧を下降させることによる治療とは異なる視点でカルシウムアンタゴニストを使用していることは明らかである。そうすると,~カルシウムアンタゴニストに主房水流出路の流出能増大を惹起し,眼圧を下降させる作用があるとしても,これとは異なる技術思想でカルシウムアンタゴニストの使用を開示する引用例1に接した当業者が,カルシウムアンタゴニストとRhoキナーゼ阻害剤の薬理活性の共通性を根拠に,置換することが可能であるとは考え難い。」

と判断し、原告の上記主張も採用しなかった。

取消事由2(引用発明2に基づく容易想到性の判断の誤り)について

本件発明1と引用発明2との相違点は、本件発明1が,β遮断薬であるチモロールとRhoキナーゼ阻害剤である((R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドとの組合せからなるのに対し,引用発明2はRhoキナーゼ阻害剤である((R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドからなる単剤である点である。

裁判所は、

「Rhoキナーゼ阻害剤に,経シュレム管流出路からの房水流出の促進作用とは異なる,他の薬理活性(作用機序)を有する別の眼圧降下薬を併用しようとすること自体は,当業者が想到し得たということができる。
しかしながら~併用する薬剤には,非選択的β遮断薬であるチモロールのほか,α2アドレナリン作動薬や炭酸脱水酵素阻害薬が存在し,また,β1選択性のβ遮断薬やαβ遮断薬も存在する。また,薬剤を併用した場合の効果は各薬剤の薬理作用から必ずしも理論どおりとなるものではなく~緑内障治療における薬剤併用の効果は,個々の具体的な薬剤のレベルでは各薬剤の薬理作用から類推した結果と実験の結果が一致しない場合もある。加えて,優先権主張日前に,Rhoキナーゼ阻害剤と他の眼圧降下薬を併用し緑内障の治療に使用する先行技術を認めるに足りる証拠はないから,Rhoキナーゼ阻害剤について,これを他の眼圧降下薬と併用した場合の効果を,先行技術から類推することはできない状況にあった。
そうすると,Rhoキナーゼ阻害剤である(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドに,組み合わせる薬剤としてβ遮断薬であるチモロールを選択したことは,この組合せによる緑内障治療剤が,各薬剤の単独使用時と比較して眼圧下降作用が増強されることを確認したことに照らし,容易に想到することができたとはいえない。
~(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドと併用する薬剤は,眼圧降下の作用機序に基づきある程度その数が絞られたとはいえ,依然,数多くあり,これらの薬剤について,その効果を実際に確認しなければ併用における効果は不明であるところ,この数多くの薬剤の中から,示唆もなくチモロールを選択することには困難がある。緑内障治療に係る眼圧降下薬の併用療法による効果は症例に実際に適用して判定する以外に方法はないとの指摘に対して,進歩性を判断するに際し考慮すべきは,併用による効果は実際に確認しなければ分からないということで十分であり,症例,すなわち,緑内障の患者やモデル動物に投薬しその効果を判定しなければならないというものではない。そして,本件明細書では,健常なウサギにより,併用療法と単独療法を対比して眼圧降下薬の効果を確認しているから,原告が主張する誤りはない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

薬剤の組み合わせ(併用)に関する出願について、進歩性を検討するのに参考になる事件。

本特許クレームの併用薬のうちの一つである「チモロール」はチモプトールXE点眼液として参天、MSDの他、後発品も販売されている。一方、Rhoキナーゼ阻害剤である「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」は、千寿が開発中のY-39983である。

千寿のhomepageで確認してみると、2011年4月1日現在の開発品状況一覧には、田辺三菱製薬より導入されたY-39983(開発コード: SNJ-1656)が日本でPhase II進行中であり、米国ではNovartis社が開発中とある。そして、千寿のhomepageに示されている発表論文のうち、たとえばInvest Ophthalmol Vis Sci. 2007;48:3216-3222には、Y-39983の構造式が記載されており、「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」がY-39983であることがわかる。

参天でRhoキナーゼ阻害剤の開発を行っているかどうか参天のhomepageで確認してみると、2006年5年9日にDE-104を宇部興産と共同開発する旨のプレスリリースがされているが、2010年11月2日の平成23年3月期 第2四半期決算短信によれば、「ROCK阻害剤のDE-104は、米国における臨床試験(第Ⅰ相/前期第Ⅱ相試験)の成績等を検討した結果、新薬として所期の達成基準を満たすことが困難であると判断したため、点眼剤の開発を中止しました。」とあり、これらのpublic available informationからは参天がRhoキナーゼ阻害剤を開発している状況は見えない。

本事件で問題となった発明は米国でも成立している(特許番号7,972,612)。

IPDLのテキスト検索で、請求の範囲に「(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミド」が存在する出願がないか検索してみると、本件の特許(4314433)及びその分割出願(特開2009-029828)以外にも、参天の下記出願が見つかる。
  • 特許4482726(特開2004-107335)
    出願人: 参天製薬
    発明の名称: Rho阻害剤とプロスタグランジン類からなる緑内障治療剤
    請求項1: Rhoキナーゼ阻害剤とプロスタグランジン類との組み合わせからなる緑内障治療剤であって、該Rho キナーゼ阻害剤が(R)-(+)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)-4-(1-アミノエチル)ベンズアミドであり、該プロスタグランジン類がラタノプロストである緑内障治療剤。

    ラタノプロストは、ファイザーの先発品(キサラタン(Xalatan)点眼液)の他、後発品(千寿含む)が既に参入している。出願人である参天はラタノプロストを含有する製品は販売していない。上記出願については無効審判は請求されていない。


本事件特許及び上記の特許は、緑内障治療薬分野で千寿と競合している参天が、千寿によるY-39983の開発を牽制する目的で出願、特許を取得したと思われる。Y-39983のように開発化合物の構造情報が公になってしまうと、本事件のように、競合他社に試験され、新たな発明を出願され、将来の開発に制約を受けるリスクがあるかもしれないことに注意しなければならない。Y-39983は、試薬としても販売されている。有効成分が試薬販売されればさらに上述のリスクは助長されることになるだろう。特に、併用療法が主流となり、類似薬の存在によりその組み合わせが多様化・混沌としてきた分野では、自社特許取得だけでなく、他社特許成立阻止にどれだけ注意を払うかが重要になるといえるだろう。