Mar 5, 2012

2011.09.08 「フィット-イムン v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10296

花粉鼻でブロック: 知財高裁平成22年(行ケ)10296

【背景】

「ペトロラタムを基にした鼻用軟膏」に関する出願(特願2000-257825)の進歩性欠如を理由とした拒絶審決(不服2006-11063)に対する審決取消訴訟。

本願発明(請求項1):

DIN51 562法による8mm2/秒(100℃)以上の粘度を有することを特徴とする飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物及び任意な追加の少なくとも1つの処置用添加剤から成る,吸入アレルギー性反応の予防のための鼻用軟膏

審決は本願発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。

一致点:
飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物から成る,吸入アレルギー性反応の予防のための鼻用軟膏

相違点1:
飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物が,本願発明は,DIN51 562法による8mm2/秒(100℃)以上の粘度を有するものであるのに対し,引用発明は,室温においてゲル状の公知のものであるとする点

相違点2:
本願発明は,任意な追加の少なくとも1つの処置用添加剤を含有するのに対し,引用発明は,処置用添加剤を含有しない点

【要旨】

取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

原告は、
「優先日当時の当業者の技術常識として,引用発明の実施品であるSIMAROlineの有効性に根拠はなかった~優先日当時,SIMAROlineはむしろ身体に危害を及ぼすことが当業界で強く懸念されていた~優先日当時,引用例の記載をもってアレルギー反応を予防できる技術の開示があったとはいえない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願明細書では,従来技術として引用例を参考文献に取り上げ,本願発明の目的が,引用例に記載された鼻用軟膏からの更なる向上であると説明している。他方,本願明細書では,原告が主張するような,引用例記載の鼻用軟膏が有効でないとか,身体に危害を及ぼすおそれがあるなどの記載はされていないし,原告主張の文献をもっても,引用発明に係る鼻用軟膏の有害性が認められないことは,前記のとおりである。
すなわち,本願発明は,引用例に記載された発明に特記すべき問題点は存在しなかったことを前提に,引用例に記載されたものとは異なる,向上した特性を有する飽和炭化水素の混合物を使用することにより,鼻用軟膏としての効果を確認しようとするものであると理解することができる。
そうすると,少なくとも,本願発明に係る特許の出願人である原告自身,その優先日において,引用例の実施品が吸入アレルギー性反応に対して無効であるとか,身体に危害を及ぼすおそれがあると認識していたものとはいえない。そして,本願発明に係る特許の出願人は,本願発明の属する技術分野における当業者の代表ともいうべき者であるから,優先日当時の当業者において,引用発明に対応する製品が身体に危害を及ぼすおそれがあることが技術常識であったということはできない。」
と判断し、原告の上記主張を採用しなかった。

取消事由2(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について

裁判所は、
「引用例には,室温においてゲル状であって,その他の物性は様々である基本的に飽和炭化水素からなる混合物から成る鼻用軟膏が吸入アレルギー反応を予防に有用であることについての示唆が記載されているものと認められる。
そうすると,吸入アレルギー反応の予防に用いる鼻用軟膏の成分である室温においてゲル状の飽和炭化水素の混合物として,上記(1)のとおり優先日前に周知であったDIN51 562法で100℃で測定した場合に8mm2/秒以上の粘度を有するワセリンを使用することは,当業者であれば格別の創意を要する事項とはいえない。」
と判断した。

原告は、
「引用例には,飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することによりアレルギー性反応を予防しようという示唆がないなどとして,引用例の記載から本願発明に想到する動機付けがなく,本件審決の判断は後知恵にすぎない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「確かに,飽和炭化水素の混合物の粘度に着目するという直接の示唆は存在しない。しかし,そもそも,本願明細書にも,飽和炭化水素の混合物の粘度について,8mm2/秒という数値が特別な技術的意義を有すると認められる記載はなく,ワセリンの各種物性(密度,凝固点,粘度,コーン貫入(粘度の一種。甲42),平均炭素数,炭化水素の炭素数分布)の中で,粘度に着目することの技術的意義も記載されていないのであって,本願明細書において,粘度や,その8mm2/秒という数値についての技術的意義が開示されているということはできない。しかも,後記4のとおり,本願発明は,粘度が数値範囲で特定されていない従来技術を超えるものではなく,本願発明が飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することにより顕著な作用効果を有するということはできないものである。このように,本願明細書に,粘度に着目することの技術的意義も,粘度を8mm2/秒という数値以上のものに特定することの技術的意義も記載されていないことに照らすと,引用例に飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することによりアレルギー性反応を予防しようという直接の示唆がないとしても,本願発明の発明特定事項を根拠に,本願発明が進歩性を有するということはできない。」
と判断した。

また、被告は、
「引用発明の実施品であるSIMAROlineは,専門家からその有効性などを厳しく批判されて,ドイツで販売中止に追い込まれたが,本願発明の実施品である株式会社フマキラー社製の「花粉鼻でブロック」シリーズは,著しい商業的成功を収めている(甲30)。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「商業的成功には,製品の技術的特徴だけでなく,価格設定,宣伝,需要動向等の要因が密接に関連するものであるところ,仮に原告が主張する製品が本願発明の実施品であるとしても,その商業的成功をもって,本願発明の進歩性を基礎付けるに足りない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願明細書には従来技術として引用例を記載してあった。明細書におけるその書きぶりから、裁判所は、引用発明の認定において、その優先日当時の技術常識を判断し、結果として原告の主張を採用しなかった。明細書に従来技術として文献を取り上げる際には、その言及の仕方を慎重に検討しなければならない。

また、本判決で言及されているように、容易想到性の判断に対して発明の商業的成功を主張したとしても、それが採用されるのはたいていの場合において難しいだろう。

参考:

本願発明の実施品: 株式会社フマキラー社製の「花粉鼻でブロック」シリーズ

2 comments:

March 5, 2012 said...

浅学で恐縮ですが、従来技術に係る自社製品の欠点を、明細書の従来技術の項目で記載するのはPL法違反になる危険があると聞きますが、従来技術に係る他社製品の欠点を欠くのも、PL法抵触はならないとしても異なる観点でリスク/勇気があるように感じます。

なかなか難しいことを裁判所は判事しているように感じるのですが、いかがでしょうか?

Fubuki said...

コメントありがとうございます。
不競法2条14号くらいしか具体的には思いつきませんが、特許におけるリスクという観点では、虚偽の事実を明細書に記載することは米国ではのちのち致命的になる可能性があるかもしれませんね。