Apr 16, 2012

2011.10.31 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10189

薬事法違反の引用適格性: 知財高裁平成23年(行ケ)10189

【背景】

「牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法」に関する出願(特願2007-218907; 特開2009-51757)の拒絶審決(不服2008-6063)取消訴訟。争点は進歩性の有無又は引用例が引用文献としての適格性を有するかであった。

請求項1:
顆粒状の塩化マグネシウムを,牛,鶏,豚の生物に食品として投与し,
この牛,鶏,豚の生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とした牛,鶏,豚の生物の細胞を治癒する塩化マグネシウムを利用する方法において,
この牛,鶏,豚の生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し,
この塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が牛,鶏,豚の生物の細胞に吸収され,牛,鶏,豚の生物の細胞の活性化に対する塩化マグネシウムを利用する方法。

引用例:
X著「病気を治す機能性食品 塩化マグネシウム」中日出版社平成19年2月28日発行,79頁~127頁,135頁~147頁(記載発明を「引用発明」という。)

審決の内容:
本願発明は前記引用例(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特29条2項により特許を受けることができない、というものである。
審決が認定した引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点1、2は、次のとおり。

引用発明の内容:
「塩化マグネシウムをヒトが食事として摂取するとともに,塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うことからなるヒトの体調を維持する方法」

一致点:
本願発明と引用発明は,共に「塩化マグネシウムを生物に食品として投与することからなる塩化マグネシウムを利用する方法」である点で一致する。

相違点1:
本願発明が顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に投与するものであるのに対して,引用発明には塩化マグネシウムの形状についての記載はなく,また塩化マグネシウムをヒトに投与するものである点。

相違点2:
本願発明が「生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とし」,「生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し」,「塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が生物の細胞に吸収され,当該生物の細胞の活性化に対する」塩化マグネシウムを利用する方法であるのに対して,引用発明では塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うとされている点。

【要旨】

ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

裁判所は、

「引用例で使用される塩化マグネシウムは固体形状が維持されているものと認められる。~そして,固体形状の塩化マグネシウムは,その結晶の大きさによって粉末状と顆粒状(粒状)に分けることができるので,経口摂取可能な固体形状の塩化マグネシウムは,粉末状又は顆粒状(粒状)という2種類の形状しかない。そうしてみると,引用発明において,塩化マグネシウムの形状を顆粒状(粒状)のものとすることは,当業者であれば容易に行うことができるものであって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。~審決は~引用発明において投与対象を変更することの容易想到性につき,家畜にあってもその健康維持が当然に望まれている点,及び,引用例には家畜に塩化マグネシウムを投与する方法も記載されており,塩化マグネシウムが家畜にも適用可能な成分である点を根拠に,引用発明において,人間の代わりに牛,鶏,豚等の生物を投与対象とすることは当業者が容易になし得ると判断しているところ,その容易想到性の判断に誤りはない。」

と判断した。

イ 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について

裁判所は、

「原告は,相違点2の判断の誤りについても,相違点1の判断の誤りと同様の主張をするにとどまるところ,前記アのとおり,これらの主張はいずれも理由がない。
そして,審決は,本件出願手続において提出された書類を参照した上で,相違点2につき,「引用発明は,相違点2に係る作用・結果を発揮しているといえ,相違点2については実質的な相違点であるとは認められない」
と判断しているところ,同判断に誤りがあるとは認められない。」

と判断した。

ウ 取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について

原告は、

「①刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,②A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,③引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する。したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

1.作用・効果に関する事項について

「引用発明は相違点2に係る作用・結果を発揮しているといえ、相違点2については実質的な相違点であるとは認められない」と特許庁は審決し、その判断に誤りはないと知財高裁は判断した。
特許請求の範囲に係る「作用効果に関する事項」は、発明を物の観点から特定するものではなく、新規性・進歩性判断において、引用発明との実質的な相違点には当たらないとする判断は、下記最近の知財高裁判決でも示されている。

参考判決:

2.引用文献の適格性について

裁判所は、本件において、引用例が引用刊行物としての適格性を欠くかどうかの判断に当たり、
①刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断したこと
②専門家(A教授)が引用例の内容をでたらめと判断したこと
③引用例が絶版となったこと
という事実が認められたとしても、当該刊行物が出版されたという事実のみで引用例は頒布された刊行物に該当するのに十分であり、引用例が引用刊行物としての適格性を欠くという原告主張を採用しなかった。

原告は塩化マグネシウム粉末を「ガンに効く」と販売したとして薬事法違反で起訴され、実刑判決を受けた。原告が著者である刊行物「病気を治す機能性食品 塩化マグネシウム」(引用例)は、刑事裁判において全くでたらめな内容の本であると判断されたそうである。



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