Jul 1, 2012

2012.01.26 「田岡化学工業 v. 大阪ガスケミカル」 大阪地裁平成22年(ワ)9102

先使用による通常実施権を認めた事例: 大阪地裁平成22年(ワ)9102

【背景】

「フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法」に関する特許(4140975号)を保有する原告(田岡化学工業)が、被告(大阪ガスケミカル)に対し、被告行為が本件特許権を侵害するものであるとして差止・損害賠償を求めた事案。

請求項1(本件特許発明1):
ヘテロポリ酸の存在下,フルオレノンと2-フェノキシエタノールとを反応させた後,得られた反応混合物から50℃未満で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させることにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物を得,次いで,純度が85%以上の該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒,ケトン溶媒およびエステル溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒に溶解させた後に50℃以上で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。

請求項7(本件特許発明2):
示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。

9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下「BPEF」という。)

【要旨】

裁判所は、まず、争点3(被告は、本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について検討し、その結果、本件特許発明1に係る本件特許権の侵害(争点1)を認めることもできないとの結論を下した。

争点3(被告は、本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について

「(3) 先使用の成否
上記(1)のとおり,大阪ガスは,遅くとも平成11年3月からは本件特許発明2の技術的範囲に属する被告製品を製造していたこと,その後も,大阪ガス及びその事業を承継した被告は,複数の譲渡先に対し,反復,継続して被告製品を譲渡してきたこと,本件特許の優先日前に,被告らが委託するなどして製造した被告製品の数量は少なくとも合計約40トンを超えており,譲渡した数量も少なくとも約25トンを超えることが認められる。
これらのことからすれば,被告は,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に当たると優に認めることができる。
なお,原告は,被告がこれまで本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFも製造していたことからすれば,被告において本件特許の優先日前には本件特許発明2に係る発明を完成していなかったし,事業又は事業の準備の程度には至っていなかったなどと主張する。しかしながら,大阪ガス又は被告が,本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFを,被告製品と平行して製造・販売していたとしても,そのことのみをもって,被告が本件特許発明2に係る発明を完成していなかったとか,被告製品について本件特許発明2に係る発明を反復実施することができなかったなどと推認するべき事情は見当たらない。むしろ,上記(1)のような被告製品の製造数量や譲渡数量からすれば,被告らは,本件特許発明2について反復・継続して実施してきたものというほかない。
また,大阪ガスが本件特許の優先日より約8年も以前から被告製品を製造してきたことなどからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであること,被告は,大阪ガスから被告製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。」

争点1(被告製品は,本件特許発明1の方法により生産した物であるか)について

「仮に,被告製品について特許法104条に基づく推定が及ぶとすると,上記1で検討したところによれば,被告は,本件特許発明1に係る本件特許権についても,先使用による通常実施権(特許法79条)を有することになるというべきである。
逆に,この推定が及ばないとすると,本件では,他に,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であることに関する主張立証はないから,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であるとは認めることができない。
そうすると,いずれにしても,被告の行為について,本件特許発明1に係る本件特許権の侵害が成立するとは認めることができない。」

請求棄却。

【コメント】

裁判所は、被告の先使用権を認め、本件発明2は特許無効審判により無効とされるべきものであるかという争点(争点2)について判断しなかった。この争点2は、化学物質としての優先権の主張の適否、第三者譲渡による公然実施の有無等に関して争うものであり、裁判所が判断していたら興味深い内容になっていたかもしれない。

参考:

(先使用による通常実施権)
第79条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

(生産方法の推定)
第104条 物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

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