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2012.06.06 「ジヤンセン v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10061

審判請求書却下決定の運用と違法性: 知財高裁平成24年(行ケ)10061

【背景】

「てんかんおよび関連疾患を治療するためのスルファメートおよびスルファミド誘導体」に関する出願(特願2007-516789, 特表2008-503488, WO2006/007436)の拒絶査定不服審判(不服2011-14228)における審判請求書却下決定に対する取消請求事件。原告は、取消事由として、本件決定の違法性を主張した。手続きの経緯は下記のとおり。

  • 原告は、平成23年2月21日付で本件拒絶査定を受けた。
  • 原告は、同年7月4日、本件事務所を代理人として、本件拒絶査定に対して本件審判を請求したが、その際、本件請求書の請求の理由欄には、「詳細な理由は追って補充する。」とのみ記載した。
  • 特許庁は、本件請求書を受理してこれに不服2011-14228号との事件番号を付し、特許庁長官により指定された本件審判長は、同年7月19日、特許法133条1項に基づき、本件事務所に対して本件指令書を発送したが、そこには次の記載があった。

    「この審判請求手続について,方式上の不備がありますので,この指令の発送の日から30日以内に,下記事項を補正した手続補正書(方式)を提出しなければなりません。
    上記期間内に手続の補正をしないときは,特許法第133条第3項の規定により審判請求書を却下することになります。

    1.審判請求書の【請求の理由】の欄。
    (注)請求の理由が正確に記載されていません。」

  • 本件事務所は、同年8月18日、特許庁長官に対して手続補正について期間の猶予を求める上申書(本件上申書)を提出した。そこには、「上申の内容」として次の記載があった。

    「本件請求人は,当該請求の理由を記載するのに必要な実験データ等の入手等に手間取っているので,上記指定期間内には十分な請求の理由を記載できないと連絡して参りました。

    したがって,上記書面の提出期間について数ヶ月のご猶予を与えて戴きたく,ここに上申いたします。」

  • 特許庁内部では、「審判事務機械処理便覧」という文書により運用がなされているところ、本件審判の担当審判書記官は、原告又は本件事務所に対して、手続補正書が提出されていない旨の通知(却下処分前通知)を郵送し、あるいは電話で手続続行の意思の有無を確認するなどしなかった。
  • 本件審判長は、同年9月30日、審判長が指定した期間内に原告が命令された補正をしないので、特許法133条3項により本件請求書を却下する決定をし(本件決定)、その謄本は、同年10月24日、本件事務所に送達された。

【要旨】

主 文

1 原告の請求を棄却する。(他略)

(判決文抜粋)

~審判長は,特許法131条1項に違反する請求書について,同法133条1項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合,いかなる時期に同条3項に基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており,当該決定は,具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り,違法と評価されるというべきである。

~特許庁内部では,「審判事務機械処理便覧」という文書により,特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に先立って,請求人からの上申書等の有無や却下処分前通知書の発送を確認することとされているものの,当該文書は,前記2(2)イに認定のとおり,あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではない。したがって,上記文書は,請求人から上申書等の提出があれば却下決定をしてはならないという趣旨を含むものとはいえない。

~仮にそのような運用の積み重ねによって原告が本件請求書の取扱いについて何らかの期待を抱いたとしても,そのような期待は,特許法の規定を離れて特許庁による事実上の便益の供与の上に安住するものであって,法律上保護に値するものではない。

~そして,本件決定に先立ってこれらの運用を経ていないとしても,そのことは,本件決定がその時期についての裁量権を逸脱又は濫用したとするに足りるものではないから,本件決定について平等原則違反が問題となる余地はない。

~前記2(2)イに認定のとおり,却下処分前通知について記載した「審判事務機械処理便覧」という文書は,あくまでも事務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではないし,請求人に対する電話による意思確認も,特許法に根拠を有する手続ではない。したがって,審判長は,請求書の却下決定をするに先立って,請求人に対して却下処分前通知又は意思確認の手続をする義務を負うものではない。

【コメント】

特許法に根拠を有しない運用や慣習に頼って、定められた手続期間を徒過するのは危険である。

本願は化合物発明に関するもののようであり、分割出願もされていないようである。

この出願が開発中の医薬品の有効成分を保護する重要なものであったとしたら大変な失敗である。

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