Feb 24, 2012

2011.11.22 「サンド v. ワーナー-ランバート」特許庁審決 無効2010-800235号事件

アトルバスタチンの結晶多形特許: 特許庁審決 無効2010-800235号事件

【背景】

「結晶性のアトルバスタチン」に関する特許(特許3296564)の無効審判(無効2010-800235)。無効審判請求人(サンド)は、特許法29条2項(進歩性)及び36条4項(実施可能要件)を満たさないとして本件特許の無効を主張した。

【要旨】

特許庁審判部は本件審判の請求は成り立たないと判断した。

1.進歩性の判断

引用発明(甲第1号証(特開平3-58967号公報)発明)との相違点は、本件特許発明が、結晶形態を特定するためのX-線粉末回折パターン(本件請求項1)や13C核磁気共鳴スペクトル(本件請求項2)で特定される結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物であるのに対し、引用発明(甲第1号証)のアトルバスタチンはそのような特定がない点であった。

審判部は、
「たとえ,~可能であったとしても,甲第1号証において何らの結晶も得られていないという前提の下では,そのことを根拠に本件特許発明の進歩性を否定することはできないものである。~結晶化方法が,それ自体,たとえ本件優先権主張の日前において周知の結晶化手法といえるものであったとしても,本件特許発明,すなわちアトルバスタチン結晶Iにより奏される~「粒子特性に基づく濾過性及び乾燥性の改善」並びに「長期間安定」といった効果は当業者が予期し得ない格別の効果といえるから,~結晶化方法自体が周知であったことを根拠として,本件特許発明が当業者にとって容易になし得たものであるとすることはできず,請求人の主張は採用できないものである。」
と判断した。

2.実施可能要件の判断

請求人は、
「本件特許明細書の実施例に開示される方法は~「結晶性形態Iのアトルバスタチン」そのものを種晶として使用する製造方法のみであるのに,原料となる「結晶性形態Iのアトルバスタチン」をどのようにして最初に製造するかについて本件明細書には具体的に記載されておらず,「結晶性形態Iのアトルバスタチン」を製造するための原料となる「結晶性形態Iのアトルバスタチン」種晶を得るために当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条4項に違反している」
と主張した。

しかし、審判部は、
「結晶Iの種晶あるいは結晶材料を使用する実施例1の方法Aや方法Bの記載のみに基づいては,当業者が実施例を追試し,結晶Iを製造することができないことは明らかである。しかしながら,特許発明が実施可能に記載されているか否かは,実施例の形式によって記載されているかではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載全体から技術常識を参酌して,特許発明を当業者が容易に実施できるか否かによって判断される。そこで,本件特許明細書の記載について検討すると,~本件明細書には,実施例の形式ではないが,「方法1」~「方法3」の3通りの結晶Iの製造方法が記載されている。そして,これらの方法は,その記載に沿った方法で結晶Iが得られるのであれば,当業者にとって何ら困難を伴うものとはいえないから,本件特許明細書の記載は当業者が容易に発明を実施できるように記載されているといえ,特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものといえる。」
と判断した。

【コメント】

リピトール®の有効成分であるアトルバスタチンの結晶多形特許。
結晶多形の発明における下記問題点が検討されており、特許庁審判部の考え方として参考になる。
・進歩性(周知の結晶化手法により得られた新規結晶多形の動機付けと効果の判断)
・実施可能要件(種晶の具体的取得方法が明示されていない場合の判断)

IPDLの経過情報によれば、2011年12月28日に知財高裁に出訴されたようである(出訴事件番号: 平23行ケ10445)。

上記の問題点に関連する事件として下記判決が存在する。

2007.07.04 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10271

2006.02.16 「イナルコ v. 森永乳業(結晶ラクチュロース三水和物事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10205


本件特許の存続期間満了日は2016年7月8日。

リピトール®は、米国ワーナー・ランバート社(現:米国ファイザー社)により新規に合成されたHMG-CoA還元酵素阻害作用を有するアトルバスタチンカルシウム水和物(Atorvastatin Calcium Hydrate)の製剤。日本では山之内製薬(現:アステラス製薬)とワーナー・ランバート(現:ファイザー)が共同開発し、2000年承認された。高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症に対し優れた有用性が認められている。

[構造式]



本件無効審判請求人であるサンドは2011年7月に後発品としての製造販売承認を取得し同年11月から販売している。

参考:

Feb 19, 2012

2011.12.22 「アルミラル v. 沢井製薬・メディサ新薬・ニプロファーマ・全星薬品工業」 大阪地裁平成22年(ワ)12227

エバスチンの微細粉粒化: 大阪地裁平成22年(ワ)12227

【背景】
アルミラル(原告)は、沢井製薬・メディサ新薬・ニプロファーマ・全星薬品工業(被告)のエバスチン含有製剤の販売行為が、原告が保有するエバスチン製剤に関する特許権(特許3518601)を侵害するものであるとして、本件特許権に基づき被告らに対し、被告ら各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めた。

請求項1(本件特許発明1):

式(Ⅱ)‥‥に対応する化合物を含有し;式(Ⅱ)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする,改良された溶解特性を持つ固体医薬組成物。

被告ら各製品が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかという争点のほか、本件特許権には無効理由(新規性欠如、進歩性欠如、実施可能要件違反、サポート要件違反等)があり特許無効審判により無効とされるべきものであるかという争点についても当事者から主張されたが、裁判所は、被告ら各製品が本件特許発明1の構成要件「微細粉粒化されていることを特徴とする」を充足するかどうかを検討し結論を下した。

【要旨】

原告は、

「「微細粉粒」とは,一般には,極めて細かい粉又は「つぶ」をいい,本件各特許発明では,通常のエバスチン粉粒(例えば,本件明細書に記載された平均サイズ=140µm のエバスチン粉粒)と比べて,小さな粉又は「つぶ」をいう。したがって,構成要件1-Bの「微細粉粒化されていること」とは,微細粉粒の状態にあることをいう。」

と主張した。そして、被告ら製品に含有されるエバスチンの具体的な状態についての分析結果を提出するとともに、被告ら各製品はエバスチンが微細粉粒化された状態となっていると主張した。

これに対し、被告は、

「被告ら各製品は,以下の図に記載したとおり,エバスチンの粗結晶化化合物(エバスチン粗結晶原薬)を有機溶媒に溶解させ,溶解状態にある薬物溶液のまま賦形剤等を加えて,製剤化したものである。


上記製法は,~難水溶性薬物を物理的に粉砕して微細な粒子にするという本件各特許発明とは全く異なるものである。
このように,本件各特許発明と被告ら各製品の製法は,溶解性の悪い化合物の溶解特性を改善するという技術的課題が共通するものの,その解決手段において全く系統・系譜を異にする(技術的思想を異にする)別個の技術手段である。
したがって,被告ら各製品は,エバスチンの粗結晶化化合物を物理的に粉砕して微細な粒子にしたもの,すなわち微細粉粒化されたものではない。

~そもそも,被告ら各製品に含有されるエバスチンは,上記イの製法を採用することにより,賦形剤等と絡まって渾然一体となっており,エバスチンの粒子径や粒子数を観念することはできないし,その実測寸法等を云々できるようなものではない。」

と主張した。

裁判所は、

「本件特許発明1の構成要件1-B「式(Ⅱ)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする,」とは,式(Ⅱ)の化合物,すなわち「エバスチンを(ある状態よりも)大きさが極めて細かい状態の『粉(こな)』又は『粒(つぶ)』に変化させていることを特徴とする,」ものと解される。
~しかし,上記3のとおり,本件各報告書の分析結果,すなわちドメインサイズの分析結果が,被告製品1及び5に含有されるエバスチン粒子の状態,数,大きさなどを示すものであるとは認めることができない。他に,被告ら各製品に含有されるエバスチンの状態を示す証拠はなく,その結果,上記エバスチンが上記構成要件1-B~を充足することを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告ら各製品が本件各特許発明の各技術的範囲に属するということはできない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

有機溶媒に溶解させた状態にある薬物溶液のまま賦形剤等を加えて製剤化した被告ら製剤について、有効成分粒子の状態を立証するのは困難だった。
また、「微細粉粒化されていること」について、裁判所は、「どの程度微細なものであれば,これを充足するのか又何を基準として粒子の大きさを特定するのかなどの問題があると指摘したが、この点についての判断は留保した。仮に、被告ら各製品が、本件特許発明1の技術的範囲に属したとしても、本件請求項1には記載要件違反という無効理由があり特許無効審判により無効とされるべきものであるという判断が下されていた可能性がある。

本事件は、控訴期限までに原告側からの控訴がなく、被告側の勝訴が確定した。

  • 沢井製薬プレスリリース: 2012.02.13 エバスチン製剤の特許訴訟に関する勝訴確定のお知らせ




  • エバステル®は、アルミラル(Almirall)社により開発されたアレルギー性疾患治療剤で、有効成分はヒスタミンH1受容体拮抗剤としての作用機序を持つエバスチン(Ebastine)。日本国内では大日本製薬株式会社(現:大日本住友製薬株式会社)が開発し、1996年にエバステル錠として承認、同年6月から販売され、その後、本剤の口腔内崩壊錠であるエバステルOD錠が2005年2月に承認され、同年7月から販売されている。

    日本では、2008年に後発品が参入している。大日本住友製薬株式会社のアニュアルレポートによれば、エバステルの国内売上高は、2007年度において114億円、2008年度において111億円、2009年度において106億円、2010年度において92億円、2011年度において86億円であり、年々減少している。

    Feb 10, 2012

    2011.07.28 「テバ v. 東理」 東京地裁平成20年(ワ)16895

    プラバスタチンナトリウムのプロダクト・バイ・プロセス・クレーム: 東京地裁平成20年(ワ)16895

    【背景】
    「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」に関する特許権(特許第3737801号。国際出願PCT/US01/31230、国際公開WO02/030415、特表2004-510817)を有する原告(テバ)が、被告(東理)による被告製品の輸入及び販売行為は上記特許権を侵害すると主張して、被告製品の輸入・販売の差止め等を求めた事案。協和発酵キリンがした無効審判請求事件(無効2008-800055)において原告は請求項1を訂正した。

    請求項1(訂正請求に係る訂正部分を下線で示す。):
    「次の段階:
    a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
    b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
    c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
    d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
    e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
    を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」

    【要旨】

    裁判所は、
    「本件訂正は,特許法所定の訂正要件を充たすものであるものの,訂正後の請求項1に係る特許について無効理由(乙5公報(WO00/17182)を主引例とする容易想到性)があるといえる。また,本件訂正は,プラバスタチンナトリウムに混入されるプラバスタチンラクトン及びエピプラバの量を限定するものであるから,上記3に説示したところに照らすと,本件訂正前の請求項1に係る特許についても,訂正後の請求項1に係る特許と同様の無効理由(乙5公報を主引例とする容易想到性)があることは明らかである。したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであると認められるから,原告は,被告に対して本件特許権を行使することはできない(特許法104条の3)。」
    と判断した。

    請求棄却。

    【コメント】

    本事案で問題となった特許(特許第3737801号)については、別事件で下記知財高裁判決でも争われた。


    なお、プラバスタチンナトリウムの先発品メバロチン®(Mevalotin)を販売していた三共(第一三共)は、本事案で問題となった特許とほぼ同じ内容であって、製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の特許出願(特願2001-237749)をしたが、特許庁からWO00/46175公報を引用文献として進歩性の拒絶理由通知を受けている。このWO00/46175公報は上記の知財高裁大合議判決2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043において特許発明の進歩性を否定した引用文献となった。

    また、上記三共の特許出願は特許となったが(特許第3463875号)、その後、本事案で問題となった特許の出願明細書に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとして無効となった(2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781)。上記知財高裁大合議判決において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定の判断が示されたが、この事件(2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781)においては、当時、知財高裁はプロダクト・バイ・プロセス・クレームを「物同一説」により判断していた。


    テバのプラバスタチンナトリウムに関する特許をめぐる争いは、先発メーカだけでなく後発品メーカーも巻き込んだ事件となったが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての特許発明の技術的範囲及び発明の要旨の認定の判断の考え方が知財高裁大合議判決によって示されたことで、以後収束すると考えられる。


    Feb 6, 2012

    2012.01.27 「協和発酵キリン v. テバ」 知財高裁平成21年(行ケ)10284

    プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定方法: 知財高裁平成21年(行ケ)10284

    【背景】

    被告(テバ)を特許権者とする「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」に関する特許(特許第3737801)について、原告(協和発酵キリン)が特許無効審判請求をし、特許庁が被告の訂正を認めた上で請求不成立の審決(無効2008-800055)をしたことから、原告がその取り消しを求めた事案。争点は、①上記訂正の可否、②新規性欠如(特許法29条1項2号及び3号)、③進歩性欠如(特許法29条2項)、④記載要件(実施可能要件及びサポート要件)違反(特許法36条4項及び同条6項1号)。
    なお、テバ社は協和発酵キリンを相手方(被告)として、本件特許に基づき、協和発酵キリンの販売する「プラバスタチンNa塩錠10mg・KH」が上記特許権を侵害するとして特許権侵害差止訴訟を提起した。その控訴審判決も同日付で言渡されている(2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043)。

    本件訂正後の請求項1(本件訂正発明1):

    次の段階:
    a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
    b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
    c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
    d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
    e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
    を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。

    【要旨】

    (1)本件訂正の可否(取消事由1)について

    裁判所は、下記のとおり、本件訂正を認めた審決の判断に誤りはないと判断した。

    「(ア) 本件訂正①は,上記のとおり,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満から0.2重量%未満へ,エピプラバの混入量が0.2重量%未満から0.1重量%未満へ,それぞれ限定するものであるが,「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満である」という数値限定が「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」に数値上含まれていることは明らかである。
    そして,上記の限定に関して,本件訂正前明細書~には~本件訂正で限定する数値が記載されている。また,本件訂正前明細書の実施例には,~得られたプラバスタチンナトリウムの純度が約99.8%の例1,3が記載されており,これらの例では,本件訂正によって限定されたプラバスタチンラクトンとエピプラバの混入量の要件が達成されている蓋然性が高いと考えられる。すなわち,本件訂正で限定されたプラバスタチンナトリウムは,本件訂正前明細書に実質的に記載されていると認められる。
    したがって,本件訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことも明らかである。
    (イ) また,本件訂正②は,脱字を記載するものであり,誤記の訂正を目的とするものであることは明らかである。」

    (2)新規性の欠如(取消事由2)及び進歩性の欠如(取消事由3)について

    原告は、

    「「甲2文献及び甲2サンプルは,甲3に記載されているとおり,本件特許の優先日前にビオガル社を介して訴外製薬会社に,秘密事由であるとの契約・説明等がなく配布された」から公知性はそれだけで肯定される」

    等主張した。

    裁判所は、

    「確かに原告主張のとおり,被告の前身であるビオガル社が後発医薬メーカーに配布した甲2文献及び同サンプルに関し,同メーカーとビオガル社との間で明示の秘密保持契約を交わしたことはないものの,甲2文献には前記のとおり,「Sample for Experimental purposes only」(試験目的使用のみのサンプル)との表示があり,現にこれを受け取ったB社等においても基本特許の特許期間満了前である事情等もあって,これを第三者に開示したことはなかったのであるから,甲2文献及びそのサンプルの後発医薬メーカーへの配布をもって特許法29条1項2号の「公然実施」ないし3号の「配布された刊行物」に該当すると解することは相当でないというべきである。(エ) そうすると,「甲第2号証は,本件特許の優先日以前に頒布された刊行物にはあたらない」とした審決の判断に誤りはない。」

    と判断した。

    なお、裁判所は、本件特許無効審判請求における発明の要旨の認定方法を以下のように判示した。

    「特許法における上記の規定,特に,特許公報の公示機能を考慮すると,無効審判事由の有無の前提となる発明の要旨の認定においては,特許請求の範囲の記載の全てが基準になるのが原則であるというべきである。
    したがって,本件のように「物の発明」に係る「特許請求の範囲」にその物の製造方法が記載されている場合,当該発明の要旨の認定は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。
    もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される。そして,そのような事情が存在する場合の発明の要旨の認定は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。
    ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもあるが,前述の観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになる。そして,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の要旨の認定は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。この場合,特許無効審判手続を主宰する審判官としては,発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在すると認めることができたときは真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うが,全証拠によるも上記事情があると認めるに足りないときは,これを上記にいう不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。」

    以上の見地に立って、原告主張の取消事由について、裁判所は、

    「当該発明の対象となる物を,製造方法によることなく,その構造や特性により直接的に特定することが出願時において不可能,困難であるとの事情が存在するとは認められないから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定は,特許公報に記載された特許請求の範囲に基づいてその記載どおりに行われるべき」

    であるとし、本件訂正発明1と各引用発明が実質的に同一とはいえないことは明らかであり、当業者が容易に訂正発明1に想到できたということはできないと判断した。

    (3)記載要件(サポート要件及び実施可能要件)違反の有無(取消事由4)について

    原告は、

    「本件明細書には「単離されうる。」との記載があるだけで,プラバスタチンナトリウムの不純物であるプラバスタチンラクトンやエピプラバを実際に測定した数値は何ら記載されていない~また、~数値要件を満たすプラバスタチンナトリウムが得られたか否かを確認するための具体的な測定方法すら明細書に開示されていない」

    と主張した。

    しかし、裁判所は、

    「例1及び例3には,プラバスタチンナトリウムが約99.8%の純度で得られたことが記載されており,~これらの例におけるプラバスタチンラクトンとエピプラバの混入量は「プラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満」という要件を満たしているということができる。~本件明細書に不純物の測定方法が具体的に記載されていなくとも,当業者はこのような一般的な方法によって不純物の混入量を測定することができると考えられるから,原告の上記主張は採用することができない。したがって,本件明細書の実施例においてプラバスタチンラクトンやエピプラバの含有量が直接測定されていなくても,本件明細書には上記数値を満たすプラバスタチンナトリウムが記載されており,また,それを得る手段も具体的に記載されていると認められる。~以上のとおり,本件明細書にはプラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満でかつエピプラバの混入量が0.1重量%未満であったことが記載されていると認められるから,特許法36条6項1号の要件を満たしており,この点に関する審決の判断に誤りはない。 」

    と判断した。同様に、実施可能要件も満たしいているものと認められると判断した。

    請求棄却。

    【コメント】

    裁判所は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定方法について判示し、本事案を処理した。
    つまり、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合、その発明の要旨は、クレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定される。

    本事案においては、特許は有効と判断されたが、同特許権についての侵害差止請求控訴事件において、同日付で言渡された知財高裁大合議判決(2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043)においては、被告製品は発明の技術的範囲には属しないこと、さらに、本事案では引用例として提出されていない乙30文献(WO00/46175)との関係で特許無効審判により無効にされるべきであることは明らかであるとも判断し、特許権侵害を認めなかった。

    同大合議判決においては、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許発明の技術的範囲の認定方法も、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合、その技術的範囲は、クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される、ということが判示された。

    参考: