Mar 24, 2012

2011.07.07 「Hexal v. Bayer」 EPO審決 T0007/07

臨床試験の実施は新規性を失わせるか: EPO審決 T0007/07

Yasmin®, Yasminelle® and YAZ®に関してバイエル社が保有する経口投与形態医薬組成物の欧州特許EP1214076について、優先日前に実施したYasmin®の臨床試験を原因として新規性を否定したEPO審決に対して、バイエル社はpetition for reviewを提出し、拡大審判部(Enlarged board of appeals)がCase R18/11として検討している(European Patent Register All documents: EP1214076)。

Claim 1:
    A pharmaceutical composition in an oral dosage form comprising, as a first active agent drospirenone in an amount corresponding to a daily dosage, on administration of the composition, of from about 2 mg to 4 mg, and as a second active agent, ethinylestradiol in an amount corresponding to a daily dosage of from about 0.01 mg to 0.05 mg, together with one or more pharmaceutically acceptable carriers or excipients, wherein said drospirenone is in micronized form.


米国

上記欧州特許のファミリーである米国特許6,787,531については、Yasmin®の後発品をANDA申請したBarr社との特許侵害訴訟において、米国ニュージャージー州連邦地方裁判所(2008.03.03 Case No.05-CV-2308)は、「臨床試験の実施を原因として新規性は失われる」というBarr社の主張は認められないとの判断を下した。但し、特許は自明であるから無効であると判断され、その判断はCAFCでも維持された(2009.08.05 BAYER SCHERING PHARMA v. BARR CAFC Case No.2008-1282)。

Claim 1:
    A pharmaceutical composition comprising from about 2 mg to about 4 mg of micronized drospirenone particles, about 0.01 mg to about 0.05 mg of α-ethinylestradiol, and one or more pharmaceutically acceptable carriers, the composition being in an oral dose form exposed to the gastric environment upon dissolution, and the composition being effective for oral contraception in a human female.


日本

審査経過によれば、ドロスピレノン及び/又はエチニルエストラジオールが超微粉砕されたものである点で引用発明と相違するが薬物を微粉化する技術文献の存在からすれば当業者が容易に発明できるという理由で特29条2項により拒絶理由を受けたが、最終的には特許成立している(特許4354667)。存続期間満了日は2020年8月31日。

請求項1:
    第1の活性剤として、組成物の投与の際、1mg~4mgの1日投与量に対応する量の超微粉砕されたドロスピレノンと、第2の活性剤として、0.01mg~0.05mgの1日投与量に応答する量のエチニルエストラジオールと、1以上の医薬的に許容できる担体又は賦形剤とを含んで成る、経口投与形での医薬組成物。

これまでに、臨床試験の実施が新規性を失わせるかどうかについて取り上げた判決は下記のとおり。

参考:
    バイエル社は有効成分として、合成黄体ホルモンであるドロスピレノン(Drospirenone(DRSP))と、合成卵胞ホルモンであるエチニルエストラジオールベータデクス(Ethinylestradiol Betadex(EE))を含有する配合剤(DRSP 3mg/EE 0.030mg)を経口避妊剤(販売名Yasmin)として開発し、海外で承認を得た。その後、副作用のリスク軽減を期待してEE含量を0.020mgまで低減したDRSP 3mg/EE 0.020mg 配合剤(販売名YAZ)の臨床開発が開始され、日本では2010年7月に「月経困難症治療剤」(販売名ヤーズ配合錠(YAZ))として承認された。

Mar 19, 2012

2011.10.11 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10050

性質の記載は「物」を限定しない: 知財高裁平成23年(行ケ)10050

【背景】

「抗骨粗鬆活性を有する組成物」に関する出願(特願2001-242097号、特開2003-55238号)の拒絶審決(不服2007-23664号)取消訴訟。争点は進歩性。

・請求項1: 「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物」
・引用発明: 「水溶性キトサンおよびカルシウム塩を有効成分とするカルシウム吸収促進性組成物」

審決は、引用例Aに記載された引用発明と本願発明との一致点及び相違点について下記のとおり認定した。

・一致点: 「カルシウム,キトサンを配合した組成物」
・相違点1: 本願発明は,「抗骨粗鬆症活性を有する組成物」であるのに対し,引用発明は,「カルシウム吸収促進性組成物」である点。
・相違点2: 本願発明は,プロポリスを配合するのに対し,引用発明は,これを配合していない点。

審決は、本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」なる記載は、組成物の有する活性を単に記載したものであり、「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するとは認められないから、相違点1は実質的な相違点とはいえない、また、相違点2については、引用例Bの記載からみて、引用発明において、プロポリスを配合することは当業者が容易になしえることである、と判断した。

【要旨】

1. 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

裁判所は、

「本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。」

と判断した。

2. 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)につい

原告は、

「本願発明におけるプロポリスは,骨形成の阻害要因の一つである活性酸素を除去し骨形成の根本を改善するのに対し,引用発明のプロポリスは,カルシウムの骨への吸収を高めるにすぎず,両者はその役割・作用を大きく異にする」

と主張した。しかし、裁判所は、

「本願明細書において,原告が主張する,プロポリスが活性酸素を除去したことにより骨内カルシウムの劣化が抑制される際の具体的な機序に関する記載はなく,その実施例,試験例においても,具体的に測定されているのは,被験者の骨密度や,ラットの骨密度,体重であって,活性酸素の除去に関しては何ら測定されていないから,原告の本願発明に係る上記主張は,明細書の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。
なお,~引用発明において,カルシウムの吸収効率を更に高め,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させる観点から,技術分野や解決課題の共通する引用例Bに開示された,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得る旨の技術的事項を適用して,引用発明にプロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることといえる。」

と判断した。

3. 取消事由3(作用効果の判断の誤り)について

裁判所は、

「引用発明に,カルシウムの吸収効率を更に高めるためにプロポリスを配合するという引用例Bに開示された技術事項を適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることは,前記2のとおりであり,その結果,カルシウムとキトサンにプロポリスを配合した組成物が,本願発明と同様の平均骨密度の増加という作用効果を奏するであろうことも,当業者が容易に予測し得ることと認められる。
本願明細書における上記実験では,「カルシウム」,「キトサン」及び「プロポリス」をそれぞれ単独で投与したものと,「3種混合物」を投与したものとを比較したのみであり,前記引用例の組合せからは予想し得ない顕著な作用効果を示すものではない。また,その実験結果も,3種混合物を投与したものの平均骨密度の増加率が,各成分単独の増加率より大きいとするものであって,同等の単位数量に基づいて比較したものでなく,他にどのような飼料が与えられていたかも明らかにされていないから,本願発明が,いわゆる相加的効果でなく,当業者が予測できないような相乗的効果を有することを立証するものではない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

「物」の性質の記載は、「物」を限定したり、「物」の用途を限定するものではないとされ、従って、そのような「物」の性質の記載は、引用発明との実質的な相違点とは認められないと判断された。
本件では、「抗骨粗鬆活性を有する組成物」との記載を「抗骨粗鬆症剤」といった用途クレームにしておけば、この点を相違点として進歩性の議論をできたかもしれない。用途発明をクレームする場合において、記載がその「物」の用途限定を付したものであるかどうか、性質・作用・特性を記載したにすぎないものになっていないかどうか注意する必要がある。

参考:


Mar 12, 2012

2011.12.05 「フリバンセリン事件」特許庁審決 不服2006-027319号事件

フリバンセリン事件の差戻し審決: 特許庁審決 不服2006-027319号事件

【背景】

「性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用」に関する出願(特願2003-537639; 特表2005-506370)の拒絶審決取消訴訟において、知財高裁は、特36条6項1号(サポート要件)を満たしていないとした拒絶審決を取消した(2010.01.28 「ベーリンガー インゲルハイム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10033)。特許庁審判部は、差戻し審理の結果、下記のとおり審決した。

【要旨】

特許庁審判部は、

「本願明細書の発明の詳細な説明の(a)~(f)の記載は、フリバンセリンの性欲障害治療用薬剤としての有用性について一般的な記載及び製剤及び投与量、製剤例に関する記載であり、フリバンセリンが性欲強化特性を有すること、ひいては、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることを裏付ける記載は全くない。
特に、薬理試験系が不明であるということは、そもそも請求人がいかなる作用を確認した結果、フリバンセリンが、性欲強化活性を有すると結論づけたのか自体が不明であるということであり、また、性欲強化活性の内容が分からなければ、性欲障害の治療に利用できるかどうかも分からないのであるから、フリバンセリンが性欲障害の治療に有効であると理解できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは到底いえない。
さらに、薬理試験結果についても何ら具体的に開示されておらず、本願発明の詳細な説明の記載から、フリバンセリンが、性欲障害治療用という医薬用途に有効であることは確認できない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明における、上記摘記事項(a)~(f)の記載は、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることの裏付けとなるものと認めることはできないものである。
以上、本願明細書の発明の詳細な説明は、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることが、当業者が理解できるように記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。」

と判断した。

本願は、第36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
本件審判の請求は、成り立たない。

【コメント】

第一次審決では、特許明細書には、フリバンセリン類の性欲障害治療用薬剤としての「有用性を裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度」の記載がされていないことのみを理由として特36条6項1号(サポート要件)を満たしていないとした。しかし、知財高裁は、審決には理由不備の違法があるとして、審決を取り消した。差戻し審理となった本件審決では、特36条6項1号(サポート要件)ではなく、特36条4項1号(実施可能要件)を満たさないと判断された。

参考:

2010.01.28 「ベーリンガー インゲルハイム v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10033


Mar 5, 2012

2011.09.08 「フィット-イムン v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10296

花粉鼻でブロック: 知財高裁平成22年(行ケ)10296

【背景】

「ペトロラタムを基にした鼻用軟膏」に関する出願(特願2000-257825)の進歩性欠如を理由とした拒絶審決(不服2006-11063)に対する審決取消訴訟。

本願発明(請求項1):

DIN51 562法による8mm2/秒(100℃)以上の粘度を有することを特徴とする飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物及び任意な追加の少なくとも1つの処置用添加剤から成る,吸入アレルギー性反応の予防のための鼻用軟膏

審決は本願発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。

一致点:
飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物から成る,吸入アレルギー性反応の予防のための鼻用軟膏

相違点1:
飽和炭化水素の少なくとも1つの混合物が,本願発明は,DIN51 562法による8mm2/秒(100℃)以上の粘度を有するものであるのに対し,引用発明は,室温においてゲル状の公知のものであるとする点

相違点2:
本願発明は,任意な追加の少なくとも1つの処置用添加剤を含有するのに対し,引用発明は,処置用添加剤を含有しない点

【要旨】

取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

原告は、
「優先日当時の当業者の技術常識として,引用発明の実施品であるSIMAROlineの有効性に根拠はなかった~優先日当時,SIMAROlineはむしろ身体に危害を及ぼすことが当業界で強く懸念されていた~優先日当時,引用例の記載をもってアレルギー反応を予防できる技術の開示があったとはいえない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願明細書では,従来技術として引用例を参考文献に取り上げ,本願発明の目的が,引用例に記載された鼻用軟膏からの更なる向上であると説明している。他方,本願明細書では,原告が主張するような,引用例記載の鼻用軟膏が有効でないとか,身体に危害を及ぼすおそれがあるなどの記載はされていないし,原告主張の文献をもっても,引用発明に係る鼻用軟膏の有害性が認められないことは,前記のとおりである。
すなわち,本願発明は,引用例に記載された発明に特記すべき問題点は存在しなかったことを前提に,引用例に記載されたものとは異なる,向上した特性を有する飽和炭化水素の混合物を使用することにより,鼻用軟膏としての効果を確認しようとするものであると理解することができる。
そうすると,少なくとも,本願発明に係る特許の出願人である原告自身,その優先日において,引用例の実施品が吸入アレルギー性反応に対して無効であるとか,身体に危害を及ぼすおそれがあると認識していたものとはいえない。そして,本願発明に係る特許の出願人は,本願発明の属する技術分野における当業者の代表ともいうべき者であるから,優先日当時の当業者において,引用発明に対応する製品が身体に危害を及ぼすおそれがあることが技術常識であったということはできない。」
と判断し、原告の上記主張を採用しなかった。

取消事由2(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について

裁判所は、
「引用例には,室温においてゲル状であって,その他の物性は様々である基本的に飽和炭化水素からなる混合物から成る鼻用軟膏が吸入アレルギー反応を予防に有用であることについての示唆が記載されているものと認められる。
そうすると,吸入アレルギー反応の予防に用いる鼻用軟膏の成分である室温においてゲル状の飽和炭化水素の混合物として,上記(1)のとおり優先日前に周知であったDIN51 562法で100℃で測定した場合に8mm2/秒以上の粘度を有するワセリンを使用することは,当業者であれば格別の創意を要する事項とはいえない。」
と判断した。

原告は、
「引用例には,飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することによりアレルギー性反応を予防しようという示唆がないなどとして,引用例の記載から本願発明に想到する動機付けがなく,本件審決の判断は後知恵にすぎない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「確かに,飽和炭化水素の混合物の粘度に着目するという直接の示唆は存在しない。しかし,そもそも,本願明細書にも,飽和炭化水素の混合物の粘度について,8mm2/秒という数値が特別な技術的意義を有すると認められる記載はなく,ワセリンの各種物性(密度,凝固点,粘度,コーン貫入(粘度の一種。甲42),平均炭素数,炭化水素の炭素数分布)の中で,粘度に着目することの技術的意義も記載されていないのであって,本願明細書において,粘度や,その8mm2/秒という数値についての技術的意義が開示されているということはできない。しかも,後記4のとおり,本願発明は,粘度が数値範囲で特定されていない従来技術を超えるものではなく,本願発明が飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することにより顕著な作用効果を有するということはできないものである。このように,本願明細書に,粘度に着目することの技術的意義も,粘度を8mm2/秒という数値以上のものに特定することの技術的意義も記載されていないことに照らすと,引用例に飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することによりアレルギー性反応を予防しようという直接の示唆がないとしても,本願発明の発明特定事項を根拠に,本願発明が進歩性を有するということはできない。」
と判断した。

また、被告は、
「引用発明の実施品であるSIMAROlineは,専門家からその有効性などを厳しく批判されて,ドイツで販売中止に追い込まれたが,本願発明の実施品である株式会社フマキラー社製の「花粉鼻でブロック」シリーズは,著しい商業的成功を収めている(甲30)。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「商業的成功には,製品の技術的特徴だけでなく,価格設定,宣伝,需要動向等の要因が密接に関連するものであるところ,仮に原告が主張する製品が本願発明の実施品であるとしても,その商業的成功をもって,本願発明の進歩性を基礎付けるに足りない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願明細書には従来技術として引用例を記載してあった。明細書におけるその書きぶりから、裁判所は、引用発明の認定において、その優先日当時の技術常識を判断し、結果として原告の主張を採用しなかった。明細書に従来技術として文献を取り上げる際には、その言及の仕方を慎重に検討しなければならない。

また、本判決で言及されているように、容易想到性の判断に対して発明の商業的成功を主張したとしても、それが採用されるのはたいていの場合において難しいだろう。

参考:

本願発明の実施品: 株式会社フマキラー社製の「花粉鼻でブロック」シリーズ

Mar 1, 2012

ファイザー、リピトールの後発品に対して特許侵害訴訟を提起

ファイザー株式会社のプレスリリースによると、「リピトール®錠」(一般名:アトルバスタチンカルシウム水和物)の後発品の製造販売をしているサンド株式会社に対して、ワーナーランバート社が保有するアトルバスタチンカルシウム水和物の結晶形に関する特許を侵害するとして、同製品の製造販売、輸入の差止等を求める訴訟が2012年2月29日付けで東京地裁に提起されたとのことです。

参考:

・ファイザープレスリリース: 2012.03.01 高コレステロール血症治療薬「リピトール®錠」後発品に対する特許侵害訴訟の提起について

2011.11.22 「サンド v. ワーナー-ランバート」特許庁審決 無効2010-800235号事件