Apr 18, 2012

2012.04.18 「クレハとマイラン・扶桑 クレメジン特許侵害訴訟の和解成立」

クレハとマイラン製薬及び扶桑薬品とが争っていたクレメジンの後発品に関する特許権侵害訴訟において、2012年4月18日付けで和解が成立しました。

クレハのプレスリリースによれば和解内容の骨子は、以下のとおり。

和解の主な内容

(1) マイラン製薬らは、「メルクメジン細粒」、「メルクメジンカプセル 200 ㎎」及び「動物用メルクメジン細粒」が本特許権に係る特許発明の技術的範囲に属することを認め、今後、本特許権及び当社の保有する経口投与用吸着剤に関するその他数件の特許権が有効に存続する限り、これらの製品を製造せず、かつ販売しない。

(2) マイラン製薬らは、解決金として、金10億円(消費税込み)をクレハに支払う。

(3) マイラン製薬らは、今後、本特許権及びクレハの保有する経口投与用吸着剤に関するその他数件の特許権が有効に存続する限り、和解条項に定める製品条件に適合するもの以外の経口投与用吸着剤を「球形吸着炭細粒『マイラン』」、「球形吸着炭カプセル 200mg『マイラン』」又は「動物用マイメジン細粒」として製造・販売等をすることをしない。

(4) マイラン製薬株式会社は、本特許権についての審決取消訴訟を取り下げ、クレハは、これに同意する。

(5) マイラン製薬らは、今後、本特許権及び経口投与用吸着剤に関するその他数件の特許権の有効性を争わない。

(6) クレハは、マイラン製薬らが和解条項の定めに反しない限り、「球形吸着炭細粒『マイラン』」、「球形吸着炭カプセル 200 mg『マイラン』」又は「動物用マイメジン細粒」の製造・販売等について、本特許権及び経口投与用吸着剤に関するその他数件の特許権を行使しない。

参考:


Apr 16, 2012

2011.10.31 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10189

薬事法違反の引用適格性: 知財高裁平成23年(行ケ)10189

【背景】

「牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法」に関する出願(特願2007-218907; 特開2009-51757)の拒絶審決(不服2008-6063)取消訴訟。争点は進歩性の有無又は引用例が引用文献としての適格性を有するかであった。

請求項1:
顆粒状の塩化マグネシウムを,牛,鶏,豚の生物に食品として投与し,
この牛,鶏,豚の生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とした牛,鶏,豚の生物の細胞を治癒する塩化マグネシウムを利用する方法において,
この牛,鶏,豚の生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し,
この塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が牛,鶏,豚の生物の細胞に吸収され,牛,鶏,豚の生物の細胞の活性化に対する塩化マグネシウムを利用する方法。

引用例:
X著「病気を治す機能性食品 塩化マグネシウム」中日出版社平成19年2月28日発行,79頁~127頁,135頁~147頁(記載発明を「引用発明」という。)

審決の内容:
本願発明は前記引用例(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特29条2項により特許を受けることができない、というものである。
審決が認定した引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点1、2は、次のとおり。

引用発明の内容:
「塩化マグネシウムをヒトが食事として摂取するとともに,塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うことからなるヒトの体調を維持する方法」

一致点:
本願発明と引用発明は,共に「塩化マグネシウムを生物に食品として投与することからなる塩化マグネシウムを利用する方法」である点で一致する。

相違点1:
本願発明が顆粒状の塩化マグネシウムを牛,鶏,豚の生物に投与するものであるのに対して,引用発明には塩化マグネシウムの形状についての記載はなく,また塩化マグネシウムをヒトに投与するものである点。

相違点2:
本願発明が「生物の内部及び/又は外部からの膿の排出及び/又は析出により細胞を治癒する構成とし」,「生物の細胞に対して,一定の組成を維持する前記塩化マグネシウムの特性を利用し」,「塩化マグネシウムを食品として投与によって体を温めながら血液を動かし細胞の活性化を確保するとともに,蛋白が生物の細胞に吸収され,当該生物の細胞の活性化に対する」塩化マグネシウムを利用する方法であるのに対して,引用発明では塩化マグネシウムを散布したのちに体を温め,また適度な運動を行うとされている点。

【要旨】

ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

裁判所は、

「引用例で使用される塩化マグネシウムは固体形状が維持されているものと認められる。~そして,固体形状の塩化マグネシウムは,その結晶の大きさによって粉末状と顆粒状(粒状)に分けることができるので,経口摂取可能な固体形状の塩化マグネシウムは,粉末状又は顆粒状(粒状)という2種類の形状しかない。そうしてみると,引用発明において,塩化マグネシウムの形状を顆粒状(粒状)のものとすることは,当業者であれば容易に行うことができるものであって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。~審決は~引用発明において投与対象を変更することの容易想到性につき,家畜にあってもその健康維持が当然に望まれている点,及び,引用例には家畜に塩化マグネシウムを投与する方法も記載されており,塩化マグネシウムが家畜にも適用可能な成分である点を根拠に,引用発明において,人間の代わりに牛,鶏,豚等の生物を投与対象とすることは当業者が容易になし得ると判断しているところ,その容易想到性の判断に誤りはない。」

と判断した。

イ 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について

裁判所は、

「原告は,相違点2の判断の誤りについても,相違点1の判断の誤りと同様の主張をするにとどまるところ,前記アのとおり,これらの主張はいずれも理由がない。
そして,審決は,本件出願手続において提出された書類を参照した上で,相違点2につき,「引用発明は,相違点2に係る作用・結果を発揮しているといえ,相違点2については実質的な相違点であるとは認められない」
と判断しているところ,同判断に誤りがあるとは認められない。」

と判断した。

ウ 取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について

原告は、

「①刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,②A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,③引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でない」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する。したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

1.作用・効果に関する事項について

「引用発明は相違点2に係る作用・結果を発揮しているといえ、相違点2については実質的な相違点であるとは認められない」と特許庁は審決し、その判断に誤りはないと知財高裁は判断した。
特許請求の範囲に係る「作用効果に関する事項」は、発明を物の観点から特定するものではなく、新規性・進歩性判断において、引用発明との実質的な相違点には当たらないとする判断は、下記最近の知財高裁判決でも示されている。

参考判決:

2.引用文献の適格性について

裁判所は、本件において、引用例が引用刊行物としての適格性を欠くかどうかの判断に当たり、
①刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断したこと
②専門家(A教授)が引用例の内容をでたらめと判断したこと
③引用例が絶版となったこと
という事実が認められたとしても、当該刊行物が出版されたという事実のみで引用例は頒布された刊行物に該当するのに十分であり、引用例が引用刊行物としての適格性を欠くという原告主張を採用しなかった。

原告は塩化マグネシウム粉末を「ガンに効く」と販売したとして薬事法違反で起訴され、実刑判決を受けた。原告が著者である刊行物「病気を治す機能性食品 塩化マグネシウム」(引用例)は、刑事裁判において全くでたらめな内容の本であると判断されたそうである。



Apr 8, 2012

2011.10.24 「トール v. ローム」 知財高裁平成22年(行ケ)10245

「含まない」との構成要件と新規性の考え方: 知財高裁平成22年(行ケ)10245

【背景】

原告(トール)が保有する「相乗作用を有する生物致死性組成物」に関する特許(第3992433号)の無効審決(無効2008-800291号事件)取消訴訟。

請求項1(本件発明1):
「少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み,活性な殺菌剤のひとつがMITである,病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成物において,より活性な殺菌剤としてBITを含み,CMITを含まないことを特徴とする生物致死性組成物。」

MIT: 2-メチルイソチアゾリン-3-オン
BIT: 1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オン
CMIT: 5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン

本件発明では「CMITを含まない」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない一応の相違点について、審決が、本件発明は甲1発明であるとして特29条1項3号に該当する(新規性を欠く)とした判断が争点となった。

【要旨】

裁判所は下記のとおり判断した。

「本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「CMIT(5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン)を含まない」との技術的構成により限定される旨の記載がされているのに対し,甲1には,CMITが含有されたことによる問題点(解決課題)及び解決手段等の言及は一切なく,したがって「CMITを含まない」との技術的構成によって限定するという技術思想に関する記載又は示唆は何らされていないにもかかわらず,審決が,本件発明1は甲1発明1であるとして,特許法29条1項3号に該当する(新規性を欠く)とした判断には,少なくとも,新規性を欠くとした判断の論理及び結論に誤りがあると解する。
その理由は,以下のとおりである。

特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明であることが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが同項の趣旨である。
当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,公知発明が,当該発明の特許請求の範囲に記載された構成要件のすべてを充足する発明である場合には,当該発明は特許を受けることができないのはいうまでもない(当該発明は新規性を有しない。)。これに対して,公知発明が,当該発明の特許請求の範囲に記載された構成要件の一部しか充足しない発明である場合には,当該発明は特許を受けることができる(当該発明は新規性を有する。)。ただし,後者の場合には,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。
上記の観点から,新規性を否定した審決の当否を検討する。

~「CMITを含まない」との構成要件によって,その技術的範囲に限定を加えた趣旨については,発明の詳細な説明欄の記載によれば,~産業排水規制の観点から,その使用が望まれない等の欠点があったため,そのような課題に対する解決方法として,~「CMITを含まない」との限定をすることにより,課題解決に至った趣旨の説明がされている。上記のとおりであるから,「CMITを含まない」との構成要件を付加することにより,その技術的範囲を限定した趣旨は明確であり,また,特許請求の範囲に記載された「CMITを含まない」との文言の意義も不明瞭な点はない。

~甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるMITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない。甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。

~すなわち,①甲1発明には,上記のとおり,CMITが含まれたことによって生じる問題点に関する指摘は,全くされていないこと,②のみならず,甲1発明では,CMITが~記載されていること,③本件優先日において,当業者が利用可能なMITとしては,CMITとの混合物しか市販されていなかったこと,④甲1の表2に示される実施例として用いられたMITにCMITが含まれるか否かを,原告において追試により確認した結果によれば,実施例は,純粋なMITからなるものではなく,むしろMITにCMITが含まれたものであると推測されること,⑤~本件発明の出願日(優先日)当時においても,一般に,上記明細書に記述されていたとおりの認識がされていたと推認されること等の諸事実を総合すれば,当業者であれば,甲1発明において使用されるMITは,当然にCMITを含有するものであり,製造コストをかけて,CMITを除去するような化合物を使用することはないと認識していたものと解するのが合理的である。
そうすると,甲1には,MIT及びBITからなる実施例が示されていたとしてもなお,同実施例の記載から直ちに,「CMITを含まない」との構成要件を充足する発明が記載,開示されていると認定することはできない。

~以上のとおり,甲1には,CMITが含有されたことによる問題点(解決課題)及び解決手段等の言及は一切なく,したがって「CMITを含まない」との技術的構成によって限定するという技術思想に関する記載又は示唆は何らされていないから,審決が,本件発明1は,甲1発明1であるとして,特許法29条1項3号に該当する(新規性を欠く)と判断した点は,その限りにおいて誤りがある。」

審決のうち、「請求項1~7,18に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。

【コメント】

「(ある成分)を含まない」との技術的構成により限定されるクレームの新規性を判断する際に審決の論理及び結論に誤りがあったとした判決。公知組成物中に不純物・夾雑物が含まれることによって生じる課題を解決した発明を表現する際に、「それら成分(不純物・夾雑物)を含まない」との技術的構成によって公知組成物を限定するクレームの特許性を検討する際に役に立つ事案と考えられる。通常、ある成分(不純物・夾雑物)を含まないという技術思想は製造方法を工夫することによって解決されるケースが多いだろうから、製造方法の発明として出願される場合が多いかもしれないが、本件のような「(ある成分)を含まない物」のクレームで出願してみることも検討に値するだろう。本判決によって審決が取り消された請求項1~7、18に係る発明についての差戻し審理では、本件審判の請求は成り立たないと審決した(特許庁審決: 2012年1月31日)。この差戻し審理では、新規性に関する無効理由だけでなく、進歩性に関する無効理由についても請求は成り立たないとして結論を下している。

米国及び欧州においても下記クレームにて特許となった。

  • 米国特許番号6,361,788
    Claim 1. A biocide composition comprising at least two active biocidal substances, selected from the group consisting of 2-methylisothiazolin-3-one and 1,2-benzisothiazolin-3-one, said biocide composition being free of any 5-chloro-2-methylisothiazolin-3-one.

  • 欧州特許番号EP1005271B1
    Claim 1. Biocide composition as an additive to materials which can attacked, by harmful micro-organisms, wherein the biocide composition contains at least two biocidal active agents, of which one is a 2-methylisothiazolin-3-one, characterised in that the biocide composition contains a further biocidal active substance 1,2-benzisothiazolin-3-one with the exception of biocide compositions with a content of 5-chloro-2-methylisothiazolin-3-one.

不純物又は純度に関する発明について争われた判決はこちら