Jul 29, 2012

2012.02.29 「ジャンスー サイノーケム v. フレクシス」 知財高裁平成23年(行ケ)10108

「調節された量」の解釈: 知財高裁平成23年(行ケ)10108

【背景】

フレクシス(被告)が保有する「4-アミノジフェニルアミン(4-ADPA)の製造法」に関する特許(3167029)に対して、ジャンスー(原告)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2010-800009)の取消訴訟。争点は、①明確性要件(取消事由1)、②新規性(取消事由2)、③進歩性(取消事由3)。

本件発明1:
1種以上の4-ADPA中間体を製造する方法において,
(イ)アニリンおよびニトロベンゼンを適当な溶媒系中で反応するように接触させ,
そして
(ロ)アニリンおよびニトロベンゼンを制限された区域中適当な温度でまた1種以上の4-ADPA中間体を生ずるように調節された量のプロトン性物質および適当な塩基の存在下に反応させる,
という諸工程からなる上記方法
本件審決が認定した本件発明1と引用発明との相違点は次のとおり。
相違点1:
工程(イ)において、本件発明1は、「アニリン及びニトロベンゼンを適当な溶媒系中で反応するように接触させ」るのに対して、引用発明は、それらを適当な溶媒系中で反応するように接触させるかどうか明らかでない点

相違点2:
工程(ロ)において、本件発明1は、「アニリン及びニトロベンゼンを…1種以上の4-ADPA中間体を生ずるように調節された量のプロトン性物質…の存在下に反応させる」のに対して、引用発明は、それらをそのように反応させるかどうか明らかでない点
【要旨】

主文
1. 特許庁が無効2010-800009号事件について平成22年11月24日にした審決を取り消す。(他略)

裁判所は下記のとおり判断した。

1. 取消事由1(明確性の要件に係る判断の誤り)について
~本件審決は,本件発明1~における水などのプロトン性物質の量に関して,~ゼロではなく,有意な量が必要であるとする。しかしながら,本件明細書では,「調節された量」について,アニリンを溶媒として用いた場合に,プロトン性物質として水が使用される場合は,上限値が4%であることは記載されているが,下限値がゼロであってはならないとの記載はなく,むしろ,無水条件下で行うことができるかもしれないことが記載されているのである。しかも,実施例において,反応系に水は添加されていない。むしろ,無水条件化の方が,収量が最大となることが示されているものである。
~以上からすると,「調節された量のプロトン性物質」には,プロトン性物質として水を使用した場合であるが,無水条件が含まれるのであるから,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものといわざるを得ない。したがって,「調節された量のプロトン性物質」について,「4-ADPA中間体の選択性を維持するために必要な程度に有意な量」として,「アニリンとニトロベンの反応に関与できる状態」で反応物中に存在している必要があるとした本件審決の判断は,無水条件を含まないという趣旨であるならば,誤りであるというほかない。もっとも,「調節された量のプロトン性物質」について,上記のとおり,プロトン性物質が存在しない状態が含まれるものと解し得る以上,「調節された量のプロトン性物質」の意義それ自体が不明確であるというわけではなく,明確性の要件に違反するということはできない。
2. 取消事由2(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について
~本件発明1の「調節された量のプロトン性物質」には,プロトン性物質として水を使用した場合,無水条件が含まれることは,前記1(1)のとおりである。~したがって,相違点2は,以上認定の限度において,実質的な相違点ということはできない。~引用例には,~反応を溶媒中で行うことについて,明記されていないが,引用発明には,僅かではあっても過剰のアニリンを反応液中に含んでおり,過剰のアニリンが溶媒として機能することは否定できないし,そもそも化学反応において,必要に応じて,適宜,溶媒を用いることは,当業界における常套手段の付加にすぎないことが明らかである。したがって,相違点1も,実質的な相違点ということはできない。
~以上からすると,相違点1及び2はいずれも実質的な相違点ということはできず,本件発明1は,プロトン性物質として水を用いる場合に,無水条件を含むものであるから,この構成を採用する点において,引用発明と同一の発明であるというほかなく,新規性を有しないものというべきである。
なお,被告は,引用発明で収集される4-ADPA中間体は「副生成物」であり,4-ADPA中間体の収量及び収率は小さいから,引用例には本件発明1の技術思想が開示されていないと主張する。
しかしながら,引用例に本件発明1の前記認定の構成が開示されている以上,この点において,本件発明1の新規性が否定されることは明らかである。被告の主張は失当である。
3.取消事由3(本件発明2ないし26の新規性ないし進歩性に係る判断の誤り)について
前記2のとおり,本件発明1についての新規性に係る判断が誤りである以上,本件発明2ないし26の新規性及び進歩性に係る本件審決の前記結論を直ちに是認することはできない。
【コメント】

製造方法の発明において、特許請求の範囲中の「調節された量のプロトン性物質~の存在下に反応させる」について、プロトン性物質の「調節された量」がゼロを含むのかどうか問題となった。
判決の結果から振り返ると、出願人は「調節された量」のような修飾語をクレームに含めるべきではなかった、または明細書中への定義に注意すべきだったと考えられる。
しかし、クレームや明細書を素直に読むと、「調節された量」がゼロを含むと解釈できるとはどうも考えにくいように個人的には思える。
明細書には、確かに、プロトン性物質である水を添加していない状況でも反応が可能であるかのような記載があるが、「反応物中に存在するプロトン性物質の量は重要である」等の記載があり、特許請求の範囲が「プロトン性物質~の存在下」と記載されているのである。明細書の記載からしても、当業者なら、「ゼロ」を含まないという意味で特許請求の範囲が設定されていることを読み取るのではなかろうか。「調節された量」がゼロ(すなわち非存在下)をも含む意味として、特許請求の範囲を広く解釈した判断は少々揚げ足取り的な判断だったように感じてならない。

欧米でも「a controlled amount of protic material」という文言を含むクレームとして特許が成立している。

EP0590053(B3)
US5117063(A)
US5453541(A)
US5608111(A)

欧州では成立特許に対して異議申立がなされ、新規性及び進歩性の欠如を理由として無効とされたが、特許権者は審判を請求して争い、結局、特許維持の判断がなされた(T0829/00)。異議申立、審判でも「a controlled amount of protic material」の表現の解釈が議論されている。

米国でも、「controlled amount」の解釈が争点となって争われたが(2007.12.21 「Sinorgchem v. ITC & Flexsys America」CAFC No.2006-1633)、知財高裁が下したゼロを含むかどうかという問題が争点だったのではなく、明細書の記載に基づいて範囲を狭く解釈するかどうかという問題であった(CAFCはクレームを狭く解釈することによって非侵害と判断し、原審を破棄し差し戻した)。

欧米で争われた観点と解釈が、知財高裁と異なっている点は、非常に興味深い。

Jul 23, 2012

2012.02.17 「X v. 三菱化学」 東京地裁平成21年(ワ)17204

アンプラーグ関連職務発明の相当対価の額: 東京地裁平成21年(ワ)17204

【背景】

被告(三菱化学)の元従業員である原告が、アンプラーグ(一般名: 塩酸サルポグレラート)に関する特許発明1(物質発明、特許第1466481号)及び特許発明2(用途発明、特許第1835237号)の職務発明に係る特許を受ける権利について、特35条(平成16年法改正前のもの)に基づき、被告に対して相当対価の支払を求めた事案。争点は、相当対価の額(争点1)及び消滅時効の成否(争点2)。
2008年10月29日、知財高裁は、原告の本件各発明に係る相当対価支払請求債権は時効消滅しておらず、本訴請求の当否を判断するには相当対価額について実体審理をする必要があるとして原判決を取り消し、東京地裁に差し戻す旨の判決をした(2008.10.29 「X v. 三菱化学」 知財高裁平成20年(ネ)10039)。本件訴訟はこの差戻審である。

【要旨】

主文
1 被告は,原告に対し,5900万円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

裁判所は、各争点について、下記のとおり判断した。

1. 相当対価の額(争点1)

(1) 被告(三菱化学)による自己実施期間(平成5年10月7日(販売日)~平成11年9月30日)について
1) 基礎となる売上高:
被告によるアンプラーグの売上高は565億3720万円(争いのない事実)。

2) 超過売上高(競業他社に本件各発明の実施を禁止することによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上高):
本件特許権2の存続期間満了直後に、サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)について、23の製薬会社から計46品目の薬価追加収載の申請、承認されており、被告は、本件各特許権の存在により競合他社によるサルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)の製造販売を抑止し、市場を独占することができたと認められることからすると、超過売上高は上記売上高の40%と認めるのが相当である、と裁判所は判断した。
また、超過売上高の算定において薬事法上の再審査制度による事実上の独占力を考慮すべきであると被告は主張したが、再審査期間中であっても他者が承認申請に必要な試験を自力で行って資料をそろえて申請することは禁じられていないから、薬事法上の再審査制度に排他的効力は認められず、他者の参入を妨げているのは特許権であるとし、被告の主張を斥けた。

3) 仮想実施料率
裁判所は、総合的に考慮した結果、被告の自己実施期間における仮想実施料率は5%と認めるのが相当であると判断した。
(2) 三菱ウェルファーマ等による実施期間(平成11年10月1日(独占的実施許諾契約に基づく販売開始)~平成21年5月18日(本件特許2満了日))について
1) 基礎となる売上高:
原告は、被告と三菱ウェルファーマ等は少なくともアンプラーグに関する事業については実質的に一体であり、アンプラーグの売上げ及び利益については一体とみるべきであり、平成11年10月1日以降は三菱ウェルファーマ等のアンプラーグの売上高を相当対価を算出するための基礎とすべきであると主張した。しかしながら、裁判所は、それぞれは別個の独立した法人であるから直ちにこれらの会社の売上げ及び利益を一体のものであるということはできない等の理由から原告の上記主張を斥けた。
(3) アンプラーグ関連特許における各特許発明等の寄与割合
被告は、アンプラーグに関連する特許権である806号特許(製法特許)及び991号特許(結晶形特許)も特許権である以上、排他的効力を有すると主張した。しかし、裁判所は、本件特許権2の存続期間が満了した直後に後発品申請がされたこと等からすると806号特許及び991号特許は第三者の実施行為を禁止する独占的排他的効力を有するものということはできず、これらの特許について寄与割合を考慮することは相当ではない、と判断した。

裁判所は、本件発明1は物質発明であるから、用途の限定(セロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制剤)を伴う本件発明2より技術的範囲が広いことも併せ考慮すると、本件特許1が60%、本件特許2が40%であると認めるのが相当である、と判断した。つまり、相当対価の算定に係るアンプラーグの販売期間における各特許権の寄与割合は、平成5年10月7日(販売日)から平成18年4月10日(存続期間満了日)までは本件特許権1:本件特許権2=60:40であり、本件特許権1の存続期間満了後である平成18年4月11日から平成21年5月18日(特許権2の満了日)までは本件特許権2が100%である。

(4) 共同発明者間における原告の寄与割合
裁判所は、原告の本件特許1に係る共同発明者としての貢献割合は50%、本件発明2に係る共同発明者としての貢献割合は10%と認めるのが相当である、と判断した。

(5) 被告の貢献度
裁判所は、本件各発明における被告の貢献度は95%、発明者の貢献度は5%と認めるのが相当である、と判断した。

2. 消滅時効の成否(争点2)

原告は、平成19年5月18日、本件各発明に係る相当対価の一部として150万円の支払を請求する本件訴えを提起したが、平成21年8月17日付け訴え変更申立書により請求を追加的に変更し、請求金額を2億0535万9500円に増額した(その後2億4281万1239円に減縮)。

この請求の追加的変更に対して、被告は、
「原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断ぜずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅した」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「数量的に可分な債権の一部につき一部であることを明示して訴えを提起した場合に,当該訴訟手続においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,いわゆる裁判上の催告として,当該残部の請求債権の消滅時効の進行を中断する効力を有するものと解すべきであり,当該訴訟継続中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効を確定的に中断すると解するのが相当である。
本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を「150万円」として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」として,本件訴訟手続において,残部について権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,裁判上の催告により,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に中断し,その後,本件訴訟係属中に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきであるから,被告の主張には理由がない。」
と判断した。

【コメント】

相当対価の額の算定について、裁判所が判断した下記の点が興味深い。

1. 薬事法上の再審査制度に排他的効力は認められず、他者の参入を妨げているのは特許権であるとした点。

2. 各特許発明等の寄与割合を検討するに当たり、本件特許権2(用途特許)の存続期間が満了した直後に後発品申請がされたこと等から、本件製法特許及び結晶形特許は独占的排他的効力を有するものということはできず、これらの特許について寄与割合を考慮することは相当ではないと判断した点。

3. 物質特許と用途特許の寄与割合を検討するに当たり、物質特許が60%、用途特許が40%であると認めるのが相当である、と判断した点。

ところで、原告は、別件訴訟(2008.05.14 「X v. 三菱化学」 知財高裁平成19年(ネ)10008)の原告でもあった。

参考:


Jul 15, 2012

2012.02.08 「オルガノサイエンス・CHIRACOL v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10115

化合物の引用発明の適格性: 知財高裁平成23年(行ケ)10115

【背景】

「シクロヘキサン化合物及び該化合物を含有した液晶組成物」に関する出願(特願2010-162348)の拒絶審決(不服2011-1277号)取消訴訟。争点は、本願発明化合物の新規性。引用例に本願発明が記載されているといえるかどうか(引用発明としての適格性を有するかどうか)が問題となった。

【要旨】

裁判所は、発明の新規性について、

「特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。
しかるところ,本願発明が引用発明を包含するものであることそれ自体は争いがなく,本願発明は,前記(1)アに記載のとおり,特定の新規な化合物をその特許請求の対象とするものであるから,引用例に本願発明が記載されているといえるためには,引用例の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌することにより,当業者が,本願発明に包含される引用発明を製造することができたといえなければならない。」

と述べた上で、本願発明の新規性について、

「~引用例に記載された引用発明を合成しようとすれば,当業者は,~を使用することにより,引用発明を得ることができると認識するものといえる。そして,このことは,前記(3)ウに記載のとおり,引用例には引用発明の誘電異方性及び光学異方性の値が明記されており,したがって引用発明の発明者が引用発明を現実に製造していたことによっても裏付けられる。」

と判断した。

これに対し、原告らは、

「前記スキームで引用発明を合成する場合にグリニャール試薬として用いられる~B物質~の入手方法が明らかではなく,また,乙3の記載によっても,そこに記載のB物質を分離精製が困難である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「乙3の刊行年月日及びその記載内容に照らすと,純粋なB物質の入手方法は,本件出願日当時,当業者に周知であったものと認められる。~以上によれば,引用例に接した当業者は,引用例の記載(スキーム3)に基づき,そこに実施例14として記載されている引用発明を製造することができたものといえるから,引用発明を包含する本願発明は,本件出願日前に頒布された刊行物である引用例に記載されているというべきであり,本願発明には新規性が認められないといわざるを得ない(特許法29条1項3号)。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

化合物発明の新規性判断において、引用例に本願発明が記載されているといえるためには、引用例の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌することにより、当業者が、本願発明に包含される引用発明を製造することができたといえなければならない。
このような考え方は、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について、特に化学物質発明について取り扱った過去の判例の考え方とも合致していると思われる。すなわち、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」であるためには、当該物質の構成が開示されていることに止まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があることを要する。そして十分であろう。


特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性)によれば、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について下記のように記されている。
1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
(3) 刊行物に記載された発明
②また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用発明」とすることができない。
したがって、例えば、刊行物に化学物質名又は化学構造式によりその化学物質が示されている場合において、当業者が本願出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「引用発明」とはならない(なお、これは、当該刊行物が当該化学物質を選択肢の一部とするマーカッシュ形式の請求項を有する特許文献であるとした場合に、その請求項が第36条第4項第1号の実施可能要件を満たさないことを意味しない)。
参考:



Jul 7, 2012

2012.01.30 「メルク v. ミスターマックス」 知財高裁平成23年(行ケ)10190

メルクとメルクス: 知財高裁平成23年(行ケ)10190

【背景】

ミスターマックス(被告)が保有する下記商標登録に対して、メルク(原告)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2010-890055)の取消訴訟。争点は、①本件商標と引用商標の類否(商標法4条1項11号)、②本件商標が原告の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれの有無(同項15号)、③本件商標は原告の著明な略称を含むか(同項8号)、であった。

本件商標



登録第5281405号
指定役務:
第35類に属する商標登録原簿記載の役務



【要旨】

裁判所は、下記のとおり判断した。

1 取消事由1(商標の類否の認定判断の誤り)について

「本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れることのない非類似の商標というべきであるとして,本件商標は11号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。」

2 取消事由2(周知性の認定判断の誤り),取消事由3(混同のおそれの認定判断の誤り)について

「前記のとおり,本件商標と原告及びそのグループ企業が商標権者である引用商標は類似しない商標である。すなわち,引用商標3,5と本件商標中の片仮名文字「メルクス」の部分は,「メルク」の部分が共通するものではあっても,両者は4文字(4音),3文字(3音)という短い文字数・音から成るものであり,「ス」文字及び音の有無が外観及び証拠全体に与える影響は大きく,両商標は全体の語調・語感が異なるものであって,需要者は商標そのものをもって,両者を区別することができるというべきであって,他に両商標間に誤認混同を生じる事由は認められない。
そうすると,本件商標が~本件商標の指定役務として登録されているもののうち原告の業務と重複ないし関連するに使用された場合に,本件商標から原告又はそのグループ企業が想起されることはないと解するのが相当である。本件商標は,原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれは認められないというべきであり,このことは,原告商標が医薬品や化学製品の需要者のみならず,一般消費者の間において周知・著名であったとしても左右されるものではない。
よって,本件商標は15号に該当しないとした審決はその結論において誤りはない。」


「他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要する。
かかる見地から見るに,本件商標の片仮名文字部分「メルクス」は需要者に一体として看取されると見るのが相当であり,「メルク」を独立して看取することはできないことは前記のとおりである。そうすると,「メルク」,「MERCK」,「Merck」が原告の名称の略称として,医薬品や化学製品の需要者のみならず,一般消費者の間において周知・著名であるとしても(その点において審決の認定には誤りがある),本件商標はそれを含む商標ではないとして8号に該当しないとした審決はその結論において誤りはない。」

請求棄却。

【コメント】


取消事由1(商標の類否の認定判断の誤り)について、原告が4条1項11号該当について主張した引用商標は左記のとおり(指定商品・役務は省略)。
メルクとメルクス。語尾の「ス」の有無を大きな差異と考えるか、些細な差異と考えるか。裁判所は、本件のような4文字ないし3文字の文字数からなる商標における類比判断としては、その差異は影響大と判断したようである。

株式会社ミスターマックスのウェブページ: http://www.mrmax.co.jp/

本件商標は、被告の営業に係るショッピングセンター及びそこでの商品の小売(総合小売)において提供される役務を表示する商標として使用されている。


Jul 1, 2012

2012.01.26 「田岡化学工業 v. 大阪ガスケミカル」 大阪地裁平成22年(ワ)9102

先使用による通常実施権を認めた事例: 大阪地裁平成22年(ワ)9102

【背景】

「フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法」に関する特許(4140975号)を保有する原告(田岡化学工業)が、被告(大阪ガスケミカル)に対し、被告行為が本件特許権を侵害するものであるとして差止・損害賠償を求めた事案。

請求項1(本件特許発明1):
ヘテロポリ酸の存在下,フルオレノンと2-フェノキシエタノールとを反応させた後,得られた反応混合物から50℃未満で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させることにより9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの粗精製物を得,次いで,純度が85%以上の該粗精製物を芳香族炭化水素溶媒,ケトン溶媒およびエステル溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒に溶解させた後に50℃以上で9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの析出を開始させる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体の製造方法。

請求項7(本件特許発明2):
示差走査熱分析による融解吸熱最大が160~166℃である9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。

9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下「BPEF」という。)

【要旨】

裁判所は、まず、争点3(被告は、本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について検討し、その結果、本件特許発明1に係る本件特許権の侵害(争点1)を認めることもできないとの結論を下した。

争点3(被告は、本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について

「(3) 先使用の成否
上記(1)のとおり,大阪ガスは,遅くとも平成11年3月からは本件特許発明2の技術的範囲に属する被告製品を製造していたこと,その後も,大阪ガス及びその事業を承継した被告は,複数の譲渡先に対し,反復,継続して被告製品を譲渡してきたこと,本件特許の優先日前に,被告らが委託するなどして製造した被告製品の数量は少なくとも合計約40トンを超えており,譲渡した数量も少なくとも約25トンを超えることが認められる。
これらのことからすれば,被告は,本件特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に当たると優に認めることができる。
なお,原告は,被告がこれまで本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFも製造していたことからすれば,被告において本件特許の優先日前には本件特許発明2に係る発明を完成していなかったし,事業又は事業の準備の程度には至っていなかったなどと主張する。しかしながら,大阪ガス又は被告が,本件特許発明2の技術的範囲に属しないBPEFを,被告製品と平行して製造・販売していたとしても,そのことのみをもって,被告が本件特許発明2に係る発明を完成していなかったとか,被告製品について本件特許発明2に係る発明を反復実施することができなかったなどと推認するべき事情は見当たらない。むしろ,上記(1)のような被告製品の製造数量や譲渡数量からすれば,被告らは,本件特許発明2について反復・継続して実施してきたものというほかない。
また,大阪ガスが本件特許の優先日より約8年も以前から被告製品を製造してきたことなどからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであること,被告は,大阪ガスから被告製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。」

争点1(被告製品は,本件特許発明1の方法により生産した物であるか)について

「仮に,被告製品について特許法104条に基づく推定が及ぶとすると,上記1で検討したところによれば,被告は,本件特許発明1に係る本件特許権についても,先使用による通常実施権(特許法79条)を有することになるというべきである。
逆に,この推定が及ばないとすると,本件では,他に,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であることに関する主張立証はないから,被告製品が本件特許発明1の方法により生産した物であるとは認めることができない。
そうすると,いずれにしても,被告の行為について,本件特許発明1に係る本件特許権の侵害が成立するとは認めることができない。」

請求棄却。

【コメント】

裁判所は、被告の先使用権を認め、本件発明2は特許無効審判により無効とされるべきものであるかという争点(争点2)について判断しなかった。この争点2は、化学物質としての優先権の主張の適否、第三者譲渡による公然実施の有無等に関して争うものであり、裁判所が判断していたら興味深い内容になっていたかもしれない。

参考:

(先使用による通常実施権)
第79条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

(生産方法の推定)
第104条 物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。