Oct 28, 2012

2012.03.28 「ディーオーブイ v. 特許庁長官」 拒絶査定不服審判事件 2009-11760

公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の進歩性: 不服2009-11760

【背景】
「(+)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン、その組成物および使用」に関する出願(特願2002-565944、WO02/66427、特表2005-500983)の拒絶査定不服審判請求事件。公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の進歩性が争点。

  • 請求項1(本願発明1):
    「それぞれその対応する(-)-エナンチオマーを実質的に含まない、(+)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]へキサンまたはその製薬上許容される塩。」
  • 刊行物1(特開昭58-13568号):
    「1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]へキサン塩酸塩」の発明(引用発明)が記載。
    本願発明と引用発明を対比すると、本願発明は、(-)-エナンチオマーを実質的に含まない、(+)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]へキサンまたはその製薬上許容される塩であるのに対し、引用発明はいずれのエナンチオマーの含有量も明らかにされていない点で相違。
  • 刊行物2(社団法人日本化学会 編,光学異性体の分離〔季刊化学総説No.6〕,株式会社学会出版センター,1989年,p.2-3,5-7,9,212-213):
    光学活性体、すなわち、エナンチオマー(対掌体)に関する総説であり、当該分野における本願優先日における技術常識を示すものであると認められる。

【要旨】

本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであると判断された。

刊行物1に記載された引用発明と本願発明との相違点について、下記のように判断された。
「1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]へキサンが1対のエナンチオマーとして存在することは、その化学構造から当業者に明らかである。また、1対のエナンチオマーのそれぞれは(+)と(-)の反対符号の旋光性を示す、すなわち、光学活性なものであることは、化学の分野における技術常識である。そして、刊行物1においては、エナンチオマーを特定して記載していないことから、引用発明の化合物は、エナンチオマーの等量混合物であるラセミ体であると認められる。
~そうすると、その化学構造から1対のエナンチオマーの存在が明らかな医薬化合物である引用発明について、その各エナンチオマーを薬理効果や副作用等の観点から評価するために、刊行物2に例示されたような周知慣用の方法によってこれらを分離精製して、(+)-エナンチオマーについては、(-)-エナンチオマーを実質的に含有しないものとすることは、当業者が容易になし得たことである。」
本願発明の効果については下記のように判断された。
「上記表1及び2に記載されたKiについて、ラセミ体と(+)-エナンチオマーとで比をとると、ノルエピネフリン輸送体及びセロトニン輸送体に対するラセミ体のKiは、それぞれ、(+)-エナンチオマーのKiの1.73倍及び2.32倍であると認められる。しかし、刊行物2の摘示(2ア)の「対掌体の一方が有効な生物活性を示す場合,もう一方の異性体が単にまったく活性を示さないだけでなく,有効な対掌体に対して競合阻害(competitive inhibition)をもたらす結果,ラセミ体の生物活性が有効な対掌体に比べ1/2以下に激減してしまう場合があることは,医薬品の開発研究でしばしば体験するところである.」との記載などからみると、ラセミ体と(+)-エナンチオマーとで、1.73倍及び2.32倍程度のKi値の違いがあることは、当業者の予測を超えるものではない。」
請求人は、
(1) 米国引用文献1について特許されたときから約6又は7年後(引用文献1に係る出願日からかなり後)に、発明者であるDr.Epsteinが、その当時知られていたエナンチオマーを得るための方法を使用したが、それぞれその対応する(-)-エナンチオマーを実質的に含まない(+)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]へキサン又はその製薬上許容される塩を得ることはできなかったこと、
(2) 一方のエナンチオマーの活性が他方のエナンチオマー又はラセミ体と比較して高いのか、又は低いのか、或いは活性自体を有しないのかを予測する方法や合理的な科学的根拠は従来技術において存在せず、このような活性を予測することはできないこと、
(3) (+)-エナンチオマーが顕著に増強した薬物動態的特性を有しており、この驚くべき結果はこれまでに報告されておらず、従来技術から決して予測できるものではないこと
を主張した。

しかし、Dr.Epsteinが具体的にどのような方法を使用した結果であるのかデクラレーションの記載を精査しても明らかでなく、また、その分離可能性を検討した時点は、引用文献1に係る出願日からかなり後とはいっても、本願優先日の16年以上も前であり、請求人の主張は、前提とする技術常識のレベルを殊更に引き下げることによって本願発明の容易想到性を否定しようとするものであって、妥当性を欠くものである、と判断された。
また、請求人が主張する(+)-エナンチオマーが体内動態において優れた特性を示すものであるという点については、本願明細書には何ら記載されていないから、本願明細書に記載された効果について説明するものではないと判断され、請求人の反論については認められなかった。

【コメント】

公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の進歩性について参考となる審決である。
2004年、Merck & Co.とDOV Pharmaceuticalは、DOV 21,947(EB-1010、amitifadine)についてのライセンス契約を締結したが、2006には解消。その後、DOVを買収したEuthymicsが抗うつ薬として開発を継続しているようである。

Oct 20, 2012

2012.05.07 「沢井製薬 v. ワーナー・ランバート」知財高裁平成23年(行ケ)10091

アトルバスタチンの安定化製剤特許: 知財高裁平成23年(行ケ)10091

【背景】
ワーナー・ランバート(被告)が保有する「安定な経口用のCI-981製剤およびその製法」に関する特許(3254219)に対して、沢井製薬(原告)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2009-800236)の取消訴訟。

請求項1:
混合物中に,活性成分として,〔R-(R*,R*)〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸半-カルシウム塩および,少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物。
(以下、「〔R-(R*,R*)〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸」を「CI-981」という。)

審判請求の中で、原告は、無効理由のひとつとして、「本件発明は特開平2-6406号公報(甲1),特開平3-58967号公報(甲2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた」と主張したが、審決は、(ア)甲1記載の発明におけるプラバスタチンに代えて、甲2記載のCI-981半カルシウム塩を使用することを当業者が容易に想到し得たとすることはできない、(イ)甲2を主引用例としても、本件発明1の進歩性は否定できない、と判断した。なお、審決は、本件発明1と甲2発明との対比をしていない。

【要旨】

主文
特許庁が無効2009-800236号事件について平成23年2月8日にした審決を取り消す。(他略)

裁判所は、下記のとおり判断し、原告主張の取消事由2(甲2に記載された技術内容の認定誤りによる容易想到性判断の誤り)は理由があるとした。
「~甲2の特許請求の範囲の請求項6には,本件発明1のCI-981半カルシウム塩に相当する化合物~が記載されている。 ~そしてCI-981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることが記載されている。
そうすると,審決が判断の前提としたように,CI-981半カルシウム塩がラクトン体に比べて有利な化合物であり,そのことは本件発明において見出された,と評価することはできないのであり,本件発明1は,単に「最も好ましい態様」としてCI-981半カルシウム塩を安定化するものと認めるべきである。 したがって,甲1発明との相違点判断の前提として審決がした開環ヒドロキシカルボン酸の形態におけるCI-981半カルシウム塩についての認定は,本件発明1においても,また甲2に記載された技術的事項においても,硬直にすぎるということができる。この形態において本件発明1と甲2に記載された技術的事項は実質的に相違するものではなく,この技術的事項を,甲1発明との相違点に関する本件発明1の構成を適用することの可否について前提とした審決の認定は誤りであって,甲1発明との相違点の容易想到性判断の前提において,結論に影響する認定の誤りがあるというべきである。」
【コメント】

審決はなぜ、甲2にCI-981が記載されていることを認定しておきながら、しっかり対比しなかったのか。
2つの引用例を組み合わせる論理付けを検討する際に、発明の特徴部にあたる部分が記載されている引用発明と、発明の基本構成にあたる部分が記載されている他方の引用発明の、どちらを主引用例とし、どちらを副引用例として互いを組み合わせるか、その組み合わせ手法が論理付けに与える影響に注意する必要がある。

CI-981とはAtorvastatinのこと。米国ワーナー・ランバート社(現:米国ファイザー社)により新規に合成されたHMG-CoA還元酵素阻害作用を有する化合物。アトルバスタチンカルシウム水和物(Atorvastatin Calcium Hydrate)の製剤であるリピトール®錠として、日本では山之内製薬(現:アステラス製薬)とワーナー・ランバート(現:ファイザー)が共同開発し、2000年に承認された。高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症に対し優れた有用性が認められている。製剤中の添加物として、本件特許発明の特徴である「塩基性の安定化金属塩添加剤」に相当する沈降炭酸カルシウムが含まれている。

本件無効審判請求人である沢井製薬は2011年7月にリピトールの後発品としての製造販売承認を取得し同年11月から販売している。

参考:

Oct 14, 2012

2012.10.05 「サノフィ アレグラ®後発医薬品に対する侵害訴訟提起」

サノフィのプレスリリースによると、同社は、アレルギー性疾患治療剤「アレグラ®」(一般名:フェキソフェナジン塩酸塩; Fexofenadine Hydrochloride)の後発医薬品について、本年8月15日に製造販売承認を取得したエルメッドエーザイ、小林化工、大正薬品工業の3社に対し、10月5日、特許第3041954号及び特許第3037697号の専用実施権に基づき、侵害差止を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したとのことです。
一方、エルメッドエーザイのプレスリリースによると、同社は、2012年9月19日付けで両特許の無効審判の請求をしたとのことです。

参考:

ところで、過去の報道によれば、同特許の有効・無効を争っていたサノフィと沢井製薬及び高田製薬との間では和解が成立(2012年7月)したとのこと。沢井製薬及び高田製薬による無効審判請求は取り下げられました。

参考:

2012年2月15日に、日医工サノフィ・アベンティス株式会社が、すでに後発品(いわゆるオーソライズドジェネリック(AG))の承認を受けたり、2012年7月2日に、サノフィ・アベンティスが、スイッチOTC(アレグラFX、アレグラα、アレグラフレッシュ、アレグラファイン)として一般用医薬品の承認を受けたりしていますが、沢井製薬及び高田薬品との争いも和解となったためか、まだいずれも発売はされていないようです。今後の上記3社との侵害訴訟の成り行き次第ということになるのかもしれません。

参考:

Oct 9, 2012

2012.04.27 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 東京地裁平成21年(ワ)31535

リサーチツール特許に関する争い: 東京地裁平成21年(ワ)31535

【背景】

「ヒト疾患に対するモデル動物」に関する特許権(第2664261号)を有していた原告(アンティキャンサー)が、被告(大鵬薬品)に対し、①浜松医大勤務医師らが被告の委託を受けて新規抗がん剤(TSU68)の評価実験に使用した実験用モデル動物(本訴マウス)が、原告の特許発明の技術的範囲に属するものである、②被告が上記医師らに委託して上記動物評価実験を行わせたことが、同医師らを手足として用いた被告による特許権侵害行為又は同医師らの特許権侵害行為を幇助する共同不法行為に当たる旨主張して、特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

原告は、別件訴訟(前訴)において、平成11年に、被告、武田薬品及び日本新薬の委託を受けて国が浜松医大において行った実験で使用した「メタマウス(前訴マウス)」は、本件発明の技術的範囲に属するものであるから、国及び被告に対し、前訴マウスの使用の差止め等を求める訴訟を提起した。しかし、控訴審(東京高裁平成14年(ネ)675)で、前訴マウスは構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」を充足しないと判断され、原告控訴は棄却され、上告棄却(不受理)、判決は確定していた。

主な争点:
(1) 本件訴えの提起が、前訴の蒸し返しであって、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するか、その結果、本件訴えは、不適法といえるか(争点1)。
(2) 本訴マウスが本件発明の技術的範囲に属するか(争点2)。
(3) 原告による本件発明に係る本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点3)。

請求項1(本件発明を構成要件に分説すると以下のとおり):
A ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物であって,
B 前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,
C 前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する
D モデル動物。

【要旨】

主文
1 原告の請求を棄却する。(他略)

裁判所は、下記のとおり、本訴マウスが本件発明の技術範囲に属するとの原告の主張は理由がないと判断した。
「前訴と本訴は,訴訟物を異にし,差止め又は損害賠償の対象とされた被告の侵害行為等が異なり,しかも,本訴は前訴と異なる争点をも含むものであるから,原告による本訴の提起が,前訴の蒸し返しであって,訴権の濫用に当たり,違法であるとまで認めることはできない。
しかし,本訴において,前訴における争点と同一の争点である構成要件Bの解釈について前訴と同様の主張をすること及び前訴で主張することができた均等侵害の主張をする点においては,前訴の蒸し返しであり,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。
~以上によれば,本件発明の構成要件Bの「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」については,前訴の各判決が認定判断したとおり,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのものをいい,ヌードマウスの皮下で継代した腫瘍組織塊を含まないと解すべきである。
しかるところ,本訴マウスが有する腫瘍組織塊は,ヌードマウスでの皮下継代を経たものであって,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのものではないから,本訴マウスは,構成要件Bを充足しない。
また,原告の均等侵害の主張は,訴訟上の信義則に反し,審理の対象とすべきでないことは,上記のとおりである。」
裁判所は、念のため、原告が主張する均等侵害の成否について判断したが、均等論の第4要件を満たさないとして原告の均等侵害の主張を認めなかった。

さらに裁判所は、念のため、争点3についても判断しており、仮に原告が主張するように本訴マウスが本件発明の技術範囲に属するとした場合であっても、本件特許には被告主張の無効理由(サポート要件違反及び進歩性欠如)があり、特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから、特104条の3第1項の規定により、本件発明に係る本件特許権を行使することはできないと言及した。

【コメント】

大鵬薬品から委託を受けて浜松医大勤務医師らが試験していたのは新規抗がん剤TSU68(Orantinib)。
2012年6月末時点での「大塚グループ 開発品目一覧表」によれば、PIIIの開発段階にある。

リーサーチツール特許についての問題に関しての参考:




Oct 1, 2012

2012.04.23 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」特許無効審判事件 2011-800097, 2011-800098

公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性: 無効2011-800097, 2011-800098

「光学活性ピペリジン誘導体の酸付加塩及びその製法」に関する特許(特許第4562229及び特許第4704362)の特許無効審判請求事件。公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性が争点。

特許庁審判部は、引用文献にその異性体を実際に単離できたことを示す記載がないことや、その異性体の取得に困難性があったことなどから、これら特許発明の新規性・進歩性を支持する結論を導いた。

これら特許は、田辺三菱が販売している「タリオン®錠5㎎」、「タリオン®錠10㎎」、「タリオン®OD錠5㎎」、「タリオン®OD錠10㎎」の有効成分であるベポタスチンベシル酸塩(bepotastine besilate)の医薬用途特許および同有効成分の物質特許。いずれも特許権の存続期間満了日は2017年12月19日。

タリオン錠は宇部興産ならびに田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において、2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン錠(普通錠)が承認され、その後、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認、タリオンOD錠は2007年3月に承認されている。

8月にタリオンの後発品が製造承認されている。12月の後発品追補収載はどうなるか。IPDLの経過情報によれば、本件は知財高裁に出訴されたようである(平成24年(行ケ)10206及び平成24年(行ケ)10207)。知財高裁の判断が気になるところである。

参考: