Dec 29, 2013

2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力
2013年、最もホットだった"特許的"ニュースのひとつは、武田薬品と後発メーカーが争ったピオグリタゾンの併用特許の侵害事件ではないでしょうか?

今年初めに、東京地裁判決がありましたが、それに先駆けて昨年9月の大阪地裁判決では、「複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする発明は,「物の発明」ではなく,「方法の発明」そのものであるといわざるを得ない」、「本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法29条1項柱書及び69条3項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものということになる。」と言及しています。
一方で、医薬発明の審査基準では、「物」の発明として、いわゆる「組み合わせてなる医薬」を例示しています。この審査基準が作成された経緯は、本件のような併用療法に特徴のある発明をどのように保護するかが議論され、方法的発明でありながら「物」の発明として保護するという取り扱いとすることとなりました。
しかし、その議論から10年が経とうとしている今、これら判決により、審査基準の改定でお茶を濁した併用の特許性と権利行使との不整合の問題が露呈する結果となり、その取り扱いは法改正も視野に入れて再度検討される時期が来たのではないでしょうか。そもそも審査基準の改定で検討された事項の中で大きな論点だったひとつは、経時的な投与方法の発明をどのように権利保護するかということだった(方法的発明を苦肉の策として「物」という「剤」に語尾を「変形」すること(いわゆる「変形剤」クレーム)で29条柱がきの問題を回避できるとした)と記憶しています。これは組合せの薬剤発明だけの問題だけでなく、投与方法に特徴のある医薬用途発明全般に影響する問題であり、もしこのような発明について取得した特許が権利行使できないものというのであれば小手先の審査基準での対応による特許化は全く意味がありません。個人的には、治療方法の特許性を認め、医師の治療行為は特許法69条で特許権の効力が及ばないこととする法改正を再検討してほしいと願っています。

2013年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は...タリオン錠(有効成分: ベシル酸ベポタスチン(bepotastine besilate))でした。


過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 28, 2013

2013.12.19 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 知財高裁平成24年(ネ)10054

リサーチツール特許に関する争い: 知財高裁平成24年(ネ)10054

【背景】

「ヒト疾患に対するモデル動物」に関する特許権(第2664261号)を有していた原告(アンティキャンサー)が、被告(大鵬薬品)に対し、①浜松医大勤務医師らが被告の委託を受けて新規抗がん剤(TSU68)の評価実験に使用した実験用モデル動物(本訴マウス)が、原告の特許発明の技術的範囲に属するものである、②被告が上記医師らに委託して上記動物評価実験を行わせたことが、同医師らを手足として用いた被告による特許権侵害行為又は同医師らの特許権侵害行為を幇助する共同不法行為に当たる旨主張して、特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

請求項1(本件発明を構成要件に分説すると以下のとおり):
A ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物であって,
B 前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,
C 前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する
D モデル動物。

原審参照: 2012.04.27 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 東京地裁平成21年(ワ)31535

【要旨】

主 文
本件控訴を棄却する。(他略)

裁判所の判断

裁判所は、控訴人による本訴の提起が前訴の蒸し返しであること、また、控訴人が本訴マウスについて均等侵害を主張することは訴訟上の信義則に反して違法である、とまで認めることはできないと判断した上で、下記のとおり、本訴マウスの構成要件充足性及び均等侵害の成否を判断した。

本訴マウスが構成要件Bを充足するかについて
構成要件Bは,「前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,」と規定されているところ,「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」を直接定義する内容の記載は,特許請求の範囲はもとより本件明細書全体をみても存在しない。そこで,裁判所は,「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の意義を,本件明細書の個別の記載を総合的に考慮して解釈し,本訴マウスが有する腫瘍組織塊は,ヒトの器官から採取した腫瘍組織をヌードマウスの皮下で継代したものであって,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのものではないから,本訴マウスは,構成要件Bを充足しないと判断した。
本訴マウスは本件発明と均等なものであるかについて
本訴マウスは,被告が製造販売認可申請試験中の新規抗がん剤TSU68の大腸癌転移に及ぼす阻害効果等の動物評価実験目的で作成された非ヒトモデル動物。
①乙14発明と乙27発明は,肝癌患者の肝臓から採取した肝腫瘍組織片をヌードマウスの皮下で継代移植して得られた腫瘍組織塊をヌードマウスに同所移植することによってモデル動物を作成するという同一の技術分野に属するものであり,その技術分野において,本件出願の優先権主張日当時,転移過程を再現できるヒトモデル動物を作製することは共通の技術課題とされていたこと,②その技術課題に直接関するヌードマウスに肺転移が認められたとする部分について,乙14は乙27を参照文献として引用していることに照らすならば,乙14及び乙27に接した当業者であれば,乙14発明に乙27に記載された知見を適用して本訴マウスの構成とすることは,容易であるものと認められる。以上のとおりであるから,裁判所は,本訴マウスが本件出願の優先権主張日当時における公知技術から容易に推考できたものであり,均等の第4要件を満たさず,本訴マウスについて均等侵害は成立しない,と判断した。
【コメント】

大鵬薬品は、本件特許無効審判を請求した(無効2012-800093)が、特許庁は請求不成立の審決を下したため、審決取消訴訟を2013年11月12日に提起していた(平25行ケ10311)。しかし、非侵害の知財高裁の判決が出されたため、大鵬薬品にとっては一件落着といえるだろう。

参考:

Dec 27, 2013

2013.12.25 「興和 リバロ後発品 特許侵害訴訟を提起」

興和および日産化学は、2013年8月15日付で高コレステロール血症治療剤「リバロ」後発品の製造販売承認を取得し、販売を開始もしくは販売開始を表明している7社(ダイト株式会社、持田製薬、小林化工、Meiji Seika ファルマ、東和薬品、鶴原製薬、科研製薬)に対し、日産化学が保有する当該有効成分の結晶形についての特許権に基づき、12月25日付で東京地裁に特許権侵害行為の差し止めを求める訴訟を提起しました。

参考:
リバロ錠 1mg・錠2mg(一般名:ピタバスタチンカルシウム)は日産化学工業(株)が原体を合成し、興和(株)が製剤開発を行ったHMG-CoA還元酵素阻害剤である。効能又は効果は高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症。

Dec 26, 2013

2013.11.21 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10114

気血水理論に基づいて開発された栄養剤: 知財高裁平成25年(行ケ)10114

【背景】

「栄養剤,消化器剤」に関する特許出願(特願2002-293904; 特開2004-123671)の拒絶審決(不服2009-14411)取消訴訟。判断された争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする栄養剤。
審決が認定した引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおり。

引用発明の内容:
シムノールおよび/またはシムノール硫酸エステルと,大豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体を含む栄養剤,消化器剤。
一致点:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル,
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
を含むことを特徴とする,栄養剤。
相違点:
本願発明は成分Cとしてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを含まない点。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用と引用例2に記載された「津液作用」とは,共に中国伝統医学の「気血水」の概念に基づくものであり,引用例1の「水の科学」に関連する作用が「血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用」とされ,引用例2の「津液作用」が「水分の体外への分泌を司る器官を刺激し,体内水分の体外への分泌を促進させる作用」とされていることから,両者は同等の作用を有するものに対応することが明らかである。したがって,引用例2に記載された「津液改善剤」は,引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用を有する成分に相当する。
そして,引用例2には「津液作用」を有する生薬が多数列挙され,「津液改善剤」を複数用いることが記載されているから,引用例2記載の「津液改善剤」は「津液作用」(「水の科学」に関連する作用)を有する成分を複数併せて用いることが予定されているといえ,一方,引用例1にはシムノール,シムノール硫酸エステル,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体以外のその他の成分を混合してよいことが記載されている。そうであれば,引用発明の「水の科学」に関連する作用を更に増強するために,引用例2に記載された「津液改善剤」を引用発明に組み合わせることとし,引用例2において実際に作用が確認されたとするカプサイシン,シナピン及びクルクミンの3種のうちからクルクミンを選択することは,当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創意工夫を要しない。
【コメント】

現在3つの分割出願が存在。

本件発明に関連すると思われる出願の判決事例:

関連製品: 髪精丸α

2013.11.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10027

育毛剤の予測し得ない効果?: 知財高裁平成25年(行ケ)10027

【背景】

「皮膚用剤」に関する特許出願(特願2002-303878; 特開2004-182600)の拒絶審決(不服2009-14415)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする皮膚用剤。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおり。

引用発明の内容:
シムノールサルフェート(魚肝の有効成分)及びダイズイン(大豆の有効成分)を含む,生体活動改善用の組成物
一致点:
A.シムノール硫酸エステル,及びB.大豆イソフラボン配糖体を含む組成物
相違点1:
本願発明は「皮膚用剤」であるのに対し,引用発明は「生体活動改善用の組成物(美肌作用やアトピー性皮膚炎~などの皮膚疾患の改善作用含む)」である点
相違点2:
本願発明は,さらに成分C.としてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを含まない点
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)について
引用例2における津液改善剤は引用例1における補血・活血作用を有する成分に相当すると解され,また,いずれも,2種以上を組み合わせて使用することもあり得る点で共通している。そして,引用例2には,津液改善剤の例として,カプサイシン,シナピンと共に「クルクミン」が挙げられている。
以上によれば,「クルクミン(ウコンエキス)」は,引用例1において,補血・活血作用を有する生薬として例示され,実施例6でも使用され,また,引用例2に津液改善剤の例として記載されていることに照らすならば,引用例1に接した当業者が,津液作用をより向上させるために,引用発明に係る組成物に,補血・活血作用を有する成分として「クルクミン(ウコンエキス)」を付加して,相違点2に係る構成に至ることは,容易であるといえる。以上のとおり,当業者が本願発明のうち相違点2に係る構成に至るのは容易であり,この点に関する審決の判断に誤りはない。
(2) 本願発明の効果についての判断の誤り(取消事由2)について
本願明細書には,本願発明に係る皮膚用剤の効果に関し,美白,しみ,しわ~等の医薬としてすぐれた効果が得られ,また,抗癌剤による副作用,例えば,脱毛,内出血などに有効であるとの記載がある(段落【0036】)。また,本願明細書には,本願発明の実施例である実施例7の効果として,発毛促進作用のほか,美肌作用,アトピー性皮膚炎治療作用~等の効果が確認できたとの記載がある(段落【0035】)。
しかし,上記の効果の大部分は,引用例1における,津液作用を有する成分と補血・活血作用を有する成分とを含有した生体活動改善用の組成物の効果(段落【0010】【0034】)や,引用例2における,津液改善剤の効果(段落【0026】)と共通するものであり,上記生体活動改善用の組成物や津液改善剤の効果から予測し得る範囲内のものにすぎない。
したがって,本願発明が当業者が引用発明や引用例2から予測し得ない効果を有するとは認められない。
【コメント】

顕著な効果について、原告は、本願発明に係る3成分からなる皮膚用剤が2成分の場合より優れた効果を有していると主張したが、本願明細書にはその効果の違いに関する記載はなく、3成分としたことにより、2成分の場合と比べ、予測し得ない優れた効果を奏しているとは認められないとして、原告の主張は失当であると判断されている。審判請求書に添付した書面も、効果が明確に記載されていないものも多く、効果の対比もなかった。
現在分割出願が存在している。

本件発明に関連すると思われる出願の判決事例:
2013.03.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10284
こちらは拒絶審決が取り消され、差戻し審決で特許となっている。

2013.11.21 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10114
こちらは進歩性なしと判断された。

関連製品: 髪精丸α

Dec 25, 2013

2013.11.27 「ドリッテ v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10018

アミジン基を有する化合物のプロドラッグ化: 知財高裁平成25年(行ケ)10018

【背景】

「薬剤中におけるアミジン基を有する活性物質の生物学的利用率の向上」に関する特許出願(特願2009-519786、特表2009-544588)の拒絶審決(不服2010-11032)取消訴訟。争点は新規性(法29条1項3号)。

請求項1:
少なくとも1種の活性アミジン基を有する薬物の生物学的利用率を向上させるために,薬剤中の前記薬物のアミジン基を,下記式[化2](Rは,水素原子,アルキル基および/またはアリル基を表す)のN,N’-ジヒドロキシアミジン(Ⅰ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエーテル(Ⅱ),N,N’-ジヒドロキシアミジンジエーテル(Ⅲ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエステル(Ⅳ),N,N’-ジヒドロキシアミジンジエステル(Ⅴ)または4-ヒドロキシ-1,2,4-オキサジアゾリン(Ⅵ)とする薬剤の製造方法。

【要旨】

主文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
引用化合物と本願発明におけるアミジン基の構成とを対比すると,刊行物Aに記載された化合物36におけるN,N’-ジヒドロキシアミジンジメチルエーテル構造は,本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジンジエーテル(Ⅲ)」でRがメチル基である場合に相当し,化合物48及び82におけるN,N’-ジヒドロキシアミジン構造は本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジン(Ⅰ)」に相当し,また,化合物50における
N,N’-ジヒドロキシアミジンモノメチルエーテル構造は本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジンエーテル(Ⅱ)」でRがメチル基である場合に相当すると認められる。
また,刊行物Aにおけるアリール-アミジン基を有する化合物は,凝血プロセスを有効かつ選択的に制御する化合物として見いだされたものであることから,医薬製剤における有効成分であり,これは本願発明における「少なくとも1種の活性アミジン基を有する薬物」に相当すると認められる。
そして,刊行物Aに記載された技術は,医薬製剤を製造するための技術に関するものであることから,刊行物Aにおけるアミジン基を有する化合物から各種誘導体化した化合物を得る方法は,本願発明における「薬剤中の前記薬物のアミジン基を,…とする薬剤の製造方法」に相当すると認められる。
以上によれば,本願発明は刊行物Aに記載された発明を包含するものであり,本願発明と引用発明との間には相違点を見出すことができないので,本願発明は刊行物Aに記載された発明であると認められ,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
【コメント】

アミジン基を有する化合物から各種誘導化したプロドラッグ化合物についての新規性が問われた。
欧州(EP2046732)ではObservations by third partiesが提出されている。
米国(US2009270440(A1))では拒絶となり、RCEがfileされている。

Dec 22, 2013

2013.10.30 「シーエスエル v. ノボ・ノルデイスク」 知財高裁平成24年(行ケ)10443

最終比率と最終濃度: 知財高裁平成24年(行ケ)10443

【背景】

原告ら(シーエスエルおよびモナシュユニバーシティ)が有する「安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法」に関する特許(第4255515号)を無効とした審決(無効2011-800051)の取消訴訟。争点は新規性。引例との対比において下記請求項の「最終濃度」の意義が問題となった。

請求項1:
成長ホルモンと,緩衝剤と,安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって,
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に,成長ホルモンがさらされないような条件下,かつ,処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに,成長ホルモンがさらされないような条件下で,成長ホルモンを,緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり,
ここで,処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08~1.0%w/vであり,
処方物のpHが5.0~6.8である,方法。
【要旨】

主文
1 原告らの請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
当裁判所は,審決には原告らの主張する新規性判断の誤りはなく,進歩性判断の誤りの有無について判断するまでもなく,審決に取り消されるべき違法ないと判断する。その理由は次のとおりである。
原告らは,文献7に,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に際して用いられた溶離緩衝液が緩衝剤及び非イオン界面活性剤を「最終比率」で含有するとあるのは,各成分間の割合が最終的に得られる溶液における各成分間の割合と同じであることを指すのであり,これを,緩衝剤及び界面活性剤の濃度が最終的に調製される製剤の濃度すなわち「最終濃度」に等しいことであるとする審決の認定判断は誤りであると主張する。
上記「最終比率」については,①水性ヒト成長ホルモン製剤中の上記三成分間の割合(この場合,製剤中の三成分の各濃度は最終濃度に比例した濃度となる。),②上記三成分の各最終濃度,のいずれかに解釈する余地がある。しかるところ,引用発明が,非イオン界面活性剤を0.1ないし5%(w/v)含む緩衝液により水性ヒト成長ホルモン製剤の安定化を達成しようとするものであり,「〈B.製剤調製〉」の目的が,かかる効果を示すための安定性確認試験において用いる水性ヒト成長ホルモン製剤を調製することにあることに照らすと,ここにおけるゲル濾過カラム上での溶離緩衝液交換とは,緩衝液を上記濃度の非イオン界面活性剤を含む水性ヒト成長ホルモン製剤の緩衝液に交換する操作と考えるのが自然である。これに対し,引用発明の特徴や上記製剤調製の目的に照らすと,ヒト成長ホルモンとその他の三成分の量比に着目する動機はないから,上記「最終比率」を三成分間の割合と解することは不自然である。以上によれば,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に用いる溶離緩衝液は,水性ヒト成長ホルモン製剤における濃度と等しい三成分の濃度を含むものであって,上記「最終比率」とは最終濃度を意味するとともに,緩衝液交換後の希釈に用いる溶液も最終濃度の溶離緩衝液であると解するのが妥当である。よって,これと同旨の審決の引用発明の認定判断に誤りはない。
【コメント】

本願発明と引用発明との対比判断において、引用発明の「最終比率」の意義が、本願発明の「最終濃度」に想到するかどうかが問題となった。

ノボ・ノルディスク(Novo Nordisc)A/Sは、独自の遺伝子組換え技術を用いて開発したソマトロピン(somatropin)(遺伝子組換え)のリキッドタイプ製剤(ノルディトロピン®)を販売している。製剤の組成には、緩衝剤としてL-ヒスチジン、界面活性剤としてポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが含有されており、溶液及び溶解時のpHについてはpH:6.0~6.3となっている。

参考:

Dec 18, 2013

2013.10.24 「ワーナー-ランバート v. サンド」 東京地裁平成24年(ワ)5743(甲事件), 19120(乙事件)

アトルバスタチンの結晶形に関する特許権侵害訴訟: 東京地裁平成24年(ワ)5743(甲事件), 19120(乙事件)

【背景】

本件は,特許権1(特許3296564)(甲事件)及び特許権2(特許4790194)(乙事件)を有する原告(ワーナー-ランバート)が,被告(サンド)が輸入,製造及び販売する被告各製品が上記各特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止め等を求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品についての健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出及び被告各製品の廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の甲事件請求及び乙事件請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は,甲事件・乙事件を通じ,原告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 別件判決において,本件発明1は乙7発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして,本件審決を取り消す判断が示され,同判決は確定している。そうすると,特許庁は,別件判決に再審事由があることが明らかであるなど特段の事情のない限り,本件特許1を無効とする審決をするほかないこととなる。本件において上記特段の事情が存在することをうかがわせる事情はなく,また,原告もそのような事情を具体的に主張するものではない。したがって,本件特許1は,特許法123条1項2号,29条2項の定める無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対して本件特許1に基づく権利行使をすることができないものと解される。 
(2) 本件審決を取り消す旨の別件判決が最高裁判所の決定により確定しているところ,これは,本件特許1に関する判断であるから,これと異なる特許である本件特許2について,直ちに無効理由があることになるなどの直接的効果を及ぼすものではない。しかしながら,本件特許権2に係る出願は,原出願である本件特許権1に係る出願を分割してされたものである。そして,本件発明2の構成要件に記載されたアトルバスタチン水和物の結晶性形態が,本件発明1の構成要件に記載されたものと全く同一の結晶性形態を表していることは明らかである。すなわち,両発明は,これらの数値によって特定される結晶性形態のアトルバスタチン水和物に関する発明である点において全く同一であり,前者がそのアトルバスタチン水和物そのものの発明であるのに対し,後者がそのアトルバスタチン水和物に賦形剤等を混合した医薬組成物の発明である点が異なるにすぎない。そうすると,これに賦形剤等を混合して医薬組成物とすること自体に進歩性が認められるなど特段の事情のない限り,本件特許2もまた無効とされるべき筋合いであることは当然の事理というべきである。したがって,本件特許2も,特許法123条1項2号,29条2項の定める無効理由があり,無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対して本件特許2に基づく権利行使をすることができないものと解するのが相当である。
【コメント】

参照: 2012.12.05 「サンド v. ワーナー-ランバート」 知財高裁平成23年(行ケ)10445

Dec 17, 2013

2013.10.16 「沢井製薬 v. 第一三共」 知財高裁平成24年(行ケ)10419

米国カルベジロール試験の信憑性と顕著な効果: 知財高裁平成24年(行ケ)10419

【背景】

被告(第一三共)が有する「うっ血性心不全の治療へのカルバゾール化合物の利用」に関する特許(3546058)に対して原告(沢井製薬)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2007-800192)の取消訴訟。

請求項1:
利尿薬,アンギオテンシン変換酵素阻害剤および/またはジゴキシンでのバックグランド療法を受けている哺乳類における虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤の製造のための,単独でのまたは1もしくは複数の別の治療薬と組み合わせたβ-アドレナリン受容体アンタゴニストとα1-アドレナリン受容体アンタゴニストの両方である下記構造:


を有するカルベジロールの使用であって,前記治療薬がアンギオテンシン変換酵素阻害剤,利尿薬および強心配糖体から成る群より選ばれる,カルベジロールの使用。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2007-800192号事件について平成24年10月31日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断
ある文献に医薬発明が開示されているといえるためには,当該文献に記載された薬理試験が,医薬の有効成分である化学物質が問題となっている医薬用途を有することが合理的に推論できる試験であれば足り,医薬の承認の際に求められるような無作為化された大規模臨床試験である必要はない。

甲1文献記載の試験は,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全の治療に使用されることが合理的に推論できるものであるといえるから,甲1文献は,カルベジロールを虚血性のうっ血性心不全の治療に使用するという発明を完成した用途発明として開示したものということができ,また,甲1文献は,カルベジロールの効果を裏付ける文献としての意義を有しているものといえる。

審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点である,本件発明1では「虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤」であるのに対し,甲1発明では,「8週間の投与により虚血性のうっ血性心不全患者の血行動態パラメータを改善する薬剤」である点については,その構成という観点からは,当業者が容易に想到可能であったものということができる。
審決は,本件特許の優先権主張日当時,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率を低下することは知られていなかったところ,米国カルベジロール試験は,プラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたといえるので,優先権主張日当時の技術水準からみて,本件発明の効果が顕著な効果ではないということはできないと判断している。
しかし,米国カルベジロール試験は,治療期間が短いこと等により,その結果の信頼性が低いものであることは,前記説示のとおりである。したがって,米国カルベジロール試験においてプラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたからといって,本件発明に顕著な効果があるということはできない。
したがって,原告主張の取消事由2-1(甲1発明に基づく進歩性の判断の誤り),取消事由3(甲1~6発明に基づく進歩性の判断の誤り)及び取消事由4(本件発明の効果に係る判断の誤り)はいずれも理由があり,本件発明1は,甲1発明に甲4発明,甲5発明,甲6発明及び甲10発明並びに周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。したがって,本件発明1の進歩性に係る審決の判断は誤りである。
【コメント】

引用文献甲1に記載された医薬用途発明が引用発明としての適格性を備えていない旨の被告の主張を裁判所は退けた。医薬用途発明の引用適格性を「薬理試験が医薬用途を合理的に推論できる試験」かどうかで裁判所は判断した事例である。

顕著な効果を判断するに当たっては、米国カルベジロール試験が信頼できるのかどうかという問題だった。米国カルベジロール試験による申請を、FDAの諮問委員会が否決し、新たな未解決の問題に対処すべく評価項目を定めてプロスペクティブな試験をやり直すことを勧告した等の経緯から、明細書に記載された本件発明の効果である米国カルベジロール試験の結果が信憑性の低いものであることを示すものであると裁判所は判断した。従って、米国カルベジロール試験結果に基づいて本件発明に顕著な効果があると判断した審決は取り消された。

関連判決:

Dec 15, 2013

2013.10.10 「ECI v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10014

進歩性判断に後出し実験データが参酌されなかった一事例: 知財高裁平成25年(行ケ)10014

【背景】

「eMIPを有効成分とするガン治療剤」に関する特許出願(特願2007-500440)の拒絶審決(不服2010-8649)取消訴訟。争点は明確性(法36条6項2号)と進歩性(法29条2項)。

請求項1(本願発明1):
放射線照射によりガン局所に炎症を生起させた状態でeMIP を投与することを特徴とするeMIP を有効成分とするガン治療剤。
請求項2(本願発明2):
アブスコパル効果を生起させる放射線照射により炎症を生起させた状態でeMIPを投与することを特徴とするeMIP を有効成分とするガン治療剤。
【要旨】

主文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
1 取消事由2(明確性に関する判断の誤り)について
審決は,拒絶理由通知を引用し,本願発明2の「アブスコパル効果を生起させる」が,「放射線照射」を技術的に限定するものであるのか否かが不明であり,仮に技術的限定であるとしても,いかなる限定を付加するのか不明であるから,本願発明2は不明確である(特許法36条6項2号違反)旨判断した。
しかし,本願発明2の「アブスコパル効果を生起させる放射線照射」が,アブスコパル効果を生起させるような条件の下において放射線の線量を調整して照射することを意味し,「放射線照射」を技術的に限定するものであることは,請求項の文言上明らかである。
したがって,本願発明2は明確であるといえ,この点において審決の明確性に関する判断には誤りがある。

2 取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)について
(1) 容易想到性について
原告は,本願発明が,引用発明,引用文献2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではないと主張し,その根拠として,引用文献2及び3にはeMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させることが記載されていないこと,意見書記載の実験結果,及びeMIP とFlt3-L の作用の相違を挙げる。
しかしながら,引用文献2には,eMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させる作用を有すること,及びそれをガンの免疫治療に応用できることが開示されているということができ,引用文献3には,eMIP が血中に樹状細胞を動員する作用を有することが記載されているといえる。原告が審査段階で提出した意見書には,eMIPには樹状細胞の産生を増強する作用が認められないと結論付けられているが,eMIP が樹状細胞の産生を増強する作用がないことは,本願明細書には記載されておらず,本願の優先権主張当時の公知の事実であるとも認められない(むしろ,上記のとおり,引用文献2及び3からみて,eMIP は樹状細胞前駆体を血中に動員する作用を有するものとして知られていたと認められる。)。したがって,意見書に記載された実験結果を本願発明の進歩性の判断において参酌することはできない。また,ガンに対する免疫療法の開発が広く行われていたという本願の優先権主張日当時の技術水準を考慮すると,樹状細胞のみに作用する増殖因子であるFlt3-L よりも,CCR1 やCCR5 を発現する免疫系細胞に広く作用し,増殖ないし活性化させるeMIP の方が,免疫作用増強の観点から有利なものとして,当業者が容易に置換し得るものであるといえる。以上のとおり,審決の容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。
(2) 効果について
原告は,本願発明の顕著な効果として,腫瘍抑制効果が抗原非特異的であること,及び,eMIP が放射線照射の腫瘍抑制作用を増強することを主張した。
一般に,あるガン抑制作用が抗原特異的なものであるか非特異的なものであるかは,抗原性の異なるガンを用いた実験をして初めて確認できることであって,本願明細書の記載からは,本願発明のガン抑制効果が抗原非特異的なものであると推認することはできないから,本願発明の進歩性の判断において,意見書に添付した実験データ及び答弁書に添付した実験報告書に記載されたデータを参酌することはできない。また,引用文献1の著者は,Flt3-L が放射線照射による腫瘍抑制効果を増強しなかったという結果は,予想外のものであり,その原因は,用いたガンモデルにおける腫瘍サイズが,Flt3-L が樹状細胞数を増やして免疫力を増強する能力を上回ったことにあるのではないかと推測していることが理解できるのであって,Flt3-L が放射線照射による腫瘍抑制効果を増強しないとの結論を導いているとは認められない。一方,引用文献2及び3には,eMIP が,樹状細胞の血中レベルを上昇させ免疫力を増強させることでガンの免疫治療に使用できることが記載されているので,引用発明において,免疫力増強によるガン抑制作用が限定的であるFlt3-L に代えて,eMIP を採用することで,放射線照射のガン抑制効果を免疫力増強により高めることができるであろうことは,当業者が予測し得る範囲のことである。
(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。

以上より,審決の本願発明に関する明確性の判断には誤りがあるが,容易想到性についての判断には誤りがなく,結論において相当と認められるから,原告の請求は理由がない。
【コメント】

引用文献2及び3にはeMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させることが記載されていないことを意見書記載の実験結果から原告は主張したが、その主張は本願明細書に記載されておらず、むしろ、引用文献からみて作用を有するものとして知られていたと認められたため、その実験結果は本願発明の進歩性の判断において参酌されなかった。
この事例の判断を基に考えると、先行文献に記載されている内容では実は効果がないことを発見し、それを克服するために効果を示す本願発明を見出した等の主張を繰り広げたい場合には、本願発明が効果を示すことだけではなく、先行文献の内容では効果がないことを示すデータを本願明細書にしっかり記載しておくことを検討する必要がある。
しかしながら、進歩性判断において、本願発明の効果の記載ならまだしも、引用発明の効果についても出願時の明細書に記載しておかなければ、出願後に引用発明の実験データを参酌してもらう機会を与えないという判断には疑問がある。特許法にはそんな記載要件はないからである。

この事例クレームは、放射線照射との組合せという投与方法に特徴のある発明である。投与方法発明あるいは併用発明について進歩性が判断された事例として参考になるかもしれない。

参考:

Dec 11, 2013

2013.10.03 「壽製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10415

併用発明の相乗効果と顕著な効果知財高裁平成24年(行ケ)10415

【背景】

「血清コレステロール低下剤或はアテローム性硬化症の予防又は治療剤」に関する特許出願(特願2003-185171号; 特開2005-015434)の拒絶審決(不服2010-8202)取消訴訟。特許庁は、引用例1と引用例2に記載された発明に基づいて進歩性なしと審決した。

請求項1(本件補正発明):
下記化学式(56)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と,コレステロール生合成阻害剤及び/又はフィブラート系コレステロール低下剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はプラバスタチン,ロバスタチン,フルバスタチン,シムバスタチン,イタバスタチン,アトルバスタチン,セリバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチン,及びカルバスタチンからなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤であり,上記フィブラート系コレステロール低下剤はクロフィブラート,ベザフィブラート,シンフィブラート,フェノフィブラート,ゲムフィブロジル,及びAHL-157からなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤である血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との一致点:
「β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤と,コレステロール生合成阻害剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はロバスタチンである血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤」である点。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との相違点:
本件補正発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「化合物56」であるのに対し,引用発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「コンパウンドA」である点。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 相違点の判断の誤りの有無
引用例1及び2に接した当業者は,引用例1の記載から,β-ラクタム構造を有するβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤とコレステロール生合成阻害剤(HMG CoAレダクターゼ阻害剤)との組合せは,どちらか単独の薬剤を使用するよりも大きく血漿コレステロール濃度を減少させ,それぞれの減少率の和以上の血漿コレステロール濃度の減少率を示すという相乗効果を発揮し得ることを理解し,引用例2の記載から,β-ラクタム構造と加水分解に安定なC-配糖体部分とを同一分子内に有するβ-ラクタム化合物のC-配糖体は,C-配糖体を有しないβ-ラクタム化合物よりも,作用部位である小腸上皮に長時間留まることが可能であり,しかも,小腸上皮からの吸収がわずかであって,副作用が軽減されるので,優れた血清コレステロール低下作用を有すること,引用例2の表13記載の化合物56を含む13個の化合物(β-ラクタム化合物のC-配糖体)は,実際に血清コレステロール低下作用を示したことを理解するものといえるから,β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤としてコンパウンドAとコレステロール生合成阻害剤としてロバスタチンとを組み合わせた引用発明において,血清コレステロール低下作用の更なる改善を目的として,C-配糖体部分を有しないコンパウンドAに代えて,引用例2の表13記載のC-配糖体部分を有する化合物56を含む13個の化合物のそれぞれと置換することを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,引用例1及び2に接した当業者であれば,引用発明のコンパウンドAに代えて上記13個の化合物の一つである化合物56を採用することを容易に想到することができたものと認められる。

(2) 顕著な作用効果の判断の誤りの有無
発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,当該発明と引用発明とを対比して,当該発明と引用発明との構成上の相違点を確定した上で,当業者が,引用発明に他の公知発明又は周知技術とを組み合わせることによって,引用発明において相違点に係る当該発明の構成を採用することを想到することが容易であったか否かによって判断するのを原則とするが,例外的に,相違点に係る構成自体の容易想到性が認められる場合であっても,当該発明が奏する作用効果が当該発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものであるときは,その作用効果が顕著である点において当該発明は特許法の目的である産業の発展に寄与(同法1条)するものとして進歩性を認めるべきであるから,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないものと解するのが相当である。

引用例1及び2に接した当業者は,コンパウンドAとロバスタチンとを組み合わせてなる引用発明において,コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に,引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められる。
一方,本願明細書には,化合物56とロバスタチンとを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤の薬理実験の結果の記載がないことに照らせば,本願明細書の記載に基づいて,上記組合せからなる本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを認めることはできない。
すなわち,実験動物における薬理作用を比較検討するに当たっては,実験条件をそろえることが必須であるところ,本願明細書記載の実験と引用例1記載の実験とでは,被験動物の種類が異なり,投与量等の条件も異なる上,被験動物の種類により薬剤に対する応答が異なることは技術常識であるから,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の効果の顕著性を立証することはできない。
また,コレステロール生合成吸収阻害剤であるアトルバスタチンとロバスタチンとは異なる物質であり,両者がβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤との併用において同等であると認めるに足りる証拠はないから,この点において,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを立証することはできない。
以上によれば,上記の各実験結果によって本件補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。他に原告は本件補正発明の奏する作用効果の顕著性に関し縷々主張するが,上記判断に影響を及ぼすものではない。
【コメント】

本願明細書には化合物56とアトルバスタチンとの併用がそれぞれ単独の効果に比べ相乗効果があることが示されていたが、そもそも、引用例1及び2(出願人自身のPCT出願(WO02/066464))に接した当業者は、コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に、引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められるから、その相乗効果自体が予測し難い顕著なものであるとはいえないとされた。相乗効果が認められたからといって併用発明が進歩性を有するわけではない。そもそも相乗効果が予測し得るものであるならば、さらにそれを超える顕著性が求められる。

寿製薬のwebpageからの情報やネット上の文献情報(239th ACS National Meeting; March 21-25, 2010; San Francisco, CA, United States. 2010)によれば、塩野義製薬と共同開発中のコレステロール吸収阻害剤S-556971(KT6-971)はC-glycoside analogs of the ezetimibe glucuronide conjugateである。本願補正クレームで出願人が絞り込んだ化合物56が出願人にとって最も重要な化合物(すなわち開発化合物)と仮定すれば、化合物56がS-556971(KT6-971)であると予想される。



Dec 6, 2013

2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許権の存続期間の延長登録出願: 知財高裁平成24年(行ケ)10309

【背景】

原告は,「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許権の特許権者であるが,本件特許の請求項15に係る発明の実施に医薬品製造販売承認に係る処分(本件処分)を受けることが必要であったとして,5年の特許権存続期間の延長登録を求めて,特許権存続期間延長登録出願をしたが,拒絶査定を受けたため,拒絶査定不服審判を請求した。これに対し,特許庁は,本件処分の対象とされた医薬品は,451アミノ酸からなるH鎖(重鎖)を有するヒト化マウス抗体であるのに対し,本件特許の請求項15の抗体に含まれるH鎖は453アミノ酸からなるものであり,本件処分におけるオマリズマブ(遺伝子組換え)は,本件特許の請求項15に記載された抗体に該当せず,同請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないとして,請求不成立の審決をした。本件は,原告がこの審決の取消しを求めた事案である。

請求項15:
配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2010-20810号事件について平成24年4月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 本判決は,本件発明における抗体はヒト化マウス抗体であり,レシピエント抗体としてヒトのIgG1を使用したと認められるところ,特許請求の範囲の請求項15にはアミノ酸残基の置換部位がカバットらの文献に記載された番号付けに基づいて記載されていることから,本件明細書に接した当業者は,本件明細書に記載されたアミノ酸配列(配列番号8)にカバットらの番号付けを対応させると認められ,その結果,上記アミノ酸配列は,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献に記載されたヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列と齟齬することが理解できると判断した。
そして,本件特許出願時である平成4年8月当時,当業者は,それまでに判明した抗体のアミノ酸配列は,基本的には,カバットらの文献に記載されていると認識していたと認められること,レシピエント抗体として使用されたのは,一般的な抗体(本件発明では一般的なヒトIgG1)であると理解できること,当業者は,カバットらの文献に記載されたアミノ酸配列が一般的なヒトIgG1のCH1領域の配列であると理解し,本件発明で使用されたレシピエント抗体であるヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列も,これと同じであると認識すると認められることなどから,本件明細書に接した当業者は,配列番号8の125番のLys,126番のGlyは誤って挿入記載されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められると判断した。従って,審決が,本件処分の対象とされた医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)が特許請求の範囲(請求項15)の453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえない,とした判断には,少なくとも,そのことを理由とする限りにおいては,誤りがあるとして,これを取り消した。

(2) なお,請求項15については,原告は,他の構成(「残基60がアスパラギン酸で置換され」との構成)についても「アスパラギンで置換され」の誤記であるとして,併せて,誤記の訂正を目的とする訂正審判請求をしたが,同構成については,誤記であると認定することはできないとして,訂正審判請求を不成立とする審決を維持する旨の判決(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268)がされた(当裁判所に顕著な事実)ことから,同判決の判断を前提とするならば,いずれにしろ,医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)を対象として本件処分を受けることが,請求項15に係る特許発明を実施するために必要であったとはいえないことになる。しかし,審決は,453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,結論を導いていることから,再度の審理を尽くすため,主文のとおり判決することとした。
【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものとして存続期間延長登録出願されたが、請求項の構成が本件処分と合致しないため問題となった。誤記の訂正を目的とした訂正審判請求不成立の審決取消訴訟(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268)では原告が敗訴したため、本件判決の最後に言及されているように審決取消により差し戻されたとしても結局本件特許は存続期間を延長できない可能性が高い。延長できないとなると、本件特許はすでに満了(満了日は2012年8月14日)ということになる。ゾレアXolair皮下注用の処分について存続期間延長登録出願されたのは本件特許(第3457962号)のみのようである。
再審査期間は、成人は2017年1月まで、小児は2017年8月まで。

Dec 4, 2013

2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許の誤記の訂正: 知財高裁平成24年(行ケ)10268

【背景】

「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許(第3457962号)の訂正審判(訂正2011-390107号)についての審決(訂正不成立)取消訴訟。

請求項15:
配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,
残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットら
の番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。
本件訂正審判における訂正事項は以下のとおり、いずれも誤記の訂正を目的とするものであった。
  • 訂正事項1,2: 配列表の配列番号8に示すアミノ酸配列において、第125番目のLys及び126番目のGlyは、誤記により挿入されたものであるからこれを削除し、その削除に伴い配列表における配列の長さについて「453アミノ酸」と記載したものを「451アミノ酸」と訂正
  • 訂正事項3: 「アスパラギン酸」は、「アスパラギン」の誤記であるから訂正

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 訂正事項1及び2の許否に係る判断の誤り(取消事由1)について
本件明細書に接した当業者は,配列番号8のアミノ酸配列にカバットらの番号付けを対応させ,配列番号8のアミノ酸配列が,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献におけるヒトIgG1の配列と齟齬があると認識し,この2つのアミノ酸は誤って挿入されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的としたものと認められる。
そして,配列番号8のアミノ酸配列から125番のLys,126番のGlyを削除したアミノ酸配列は,当業者において,Lys,Glyの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる以上,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえないと解して差し支えない。また,配列番号8のアミノ酸配列は請求項15における発明の構成の一部であるが,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
上記訂正事項2に係る削除に伴って,配列表における配列の長さについて「453」と記載したものを「451」とする訂正も,同様に,誤記の訂正を目的としたものと認められ,明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
よって,これらの点に関する審決の判断には誤りがある。

(2) 訂正事項3の許否に係る判断の誤り(取消事由2)について
~以上のとおり,請求項15及び本件記載部分中の「残基60がアスパラギン酸で置換され」が「残基60がアスパラギンで置換され」の誤記であると認定すること
はできない。また,当業者が,技術常識に照らして,これを誤記と認識するとは認められないことから,訂正事項3に係る訂正により,請求項15に係るアミノ酸は
技術的に異なるアミノ酸となり,さらに,この訂正は,実質的に請求項15に係る特許請求の範囲を変更するものとなる。
よって,訂正事項3が許されないとした審決の判断に誤りはない。

(3) 以上のとおり,訂正事項3に関する審決の判断に誤りはないから,審決が取り消されるべきであるとする原告の主張は理由がないことになる。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものである。同日付で本件特許権の存続期間の延長登録出願(2009-700042)に関する審決取消訴訟判決が出されている(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309)。この延長登録出願が、「処分の対象とされたオマリズマブ(遺伝子組換え)は本件請求項15の発明特定事項の一部を備えていない」との理由で拒絶されたため本件訂正審判が請求されたというのが経緯である。アミノ酸配列が発明の構成の一部である場合、その配列の記載ミスや分析ミスは命取りとなる。

ゾレア(Xolair):
ゾレア皮下注用75mg及び150mgは、有効成分としてオマリズマブ(遺伝子組換え)を含有し、米国Genentech社により創薬され、スイス・Novartis AGがライセンス・インした世界初のヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤である。
オマリズマブ(遺伝子組換え)は、好塩基球及び肥満細胞の細胞膜上にある高親和性IgE受容体(FcεRI)に対するヒトIgEの結合部位(Cε3)を抗原として認識し、IgEと抗原抗体複合体を形成することによりIgEのFcεRIへの結合を阻止する。その結果、好塩基球及び肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミン等の炎症性メディエーターの放出を抑制し、I型アレルギー反応を阻止する。
オマリズマブ(遺伝子組換え)の凍結乾燥製剤であるゾレア皮下注用は、皮下注射にて、既存治療により喘息症状をコントロールできない難治の気管支喘息の治療薬として用いられる。ゾレア皮下注用は、2002年にオーストラリアで初めて承認を取得し、その後、米国、欧州など世界90ヵ国以上でアレルギー性喘息治療薬として承認されている(2013年7月末現在)。

Dec 1, 2013

2013.09.18 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10295

特許権存続期間延長登録出願に係る出張と信義則: 知財高裁平成24年(行ケ)10295

【背景】

原告が有する特許権(3677156号)の存続期間延長登録出願(2005-700093号)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は、本件処分の対象となった医薬品「パシーフカプセル30mg(一般名称:塩酸モルヒネ)」(本件対象医薬)は,本件特許発明の技術的範囲に属するものであると認めることができないから、本件出願に係る特許発明の実施に特許法67条2項に定める処分を受けることが必要であったと認めることができない、というものだった(不服2006-20940号)。

請求項1:
(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物と,
(B)薬物を含んでなる核を,(1)水不溶性物質,(2)硫酸基を有していてもよい多糖類,ヒドロキシアルキル基またはカルボキシアルキル基を有する多糖類,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールから選ばれる親水性物質および(3)酸性の解離基を有しpH依存性の膨潤を示す架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆してなる放出制御組成物とを組み合わせてなる医薬。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2006-20940号事件について平成24年7月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 本件特許の請求項1の「最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との要件につき,審決はFRGなる組成物の最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内ではないことを根拠として,本件対象医薬が上記要件を充足しないとしている。しかし,FRGの組成は,本件対象医薬に用いられた速放性組成物(本件速放性組成物)の組成とは異なっている。そして,薬剤の最高血中薬物濃度到達時間が,有効成分の含有量のみならず,結合剤の含有量や種類によって影響を受けることは技術常識であると解されるので,本件速放性組成物と組成の異なるFRGの最高血中薬物濃度到達時間を基礎とした審決の認定判断は誤りであるといわざるを得ない。被告の主張するように,原告が出願時から審決時まで一貫して本件速放性組成物がFRGであることを前提とする主張をしていたとしても,本件訴訟における原告の主張が信義則に違反するとはいえない。

(2) 本件特許の請求項1の「薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との文言は,原告の主張するように,組合せ医薬を投与した場合の速放性組成物の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきではなく,速放性組成物のみを投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきである。
もっとも,原告は,本件対象医薬を健康成人男子に投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間(速放部)の平均値±標準偏差が,0.705±0.188時間(本件使用成績)であった旨の証拠を提出しているところ,原告提出の解析結果や本件対象医薬の性質,大学教授の意見書等に照らすと,本件速放性組成物を単独で投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間が,本件使用成績0.705±0.188時間よりも遅くなることはないと認められるので,本件使用成績は,本件対象医薬が本件クレームの「(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内の速放性組成物」との要件を充足することの根拠となるものと認められ,これと反する審決の判断は誤っている。
【コメント】

原告は、出願時から審決時まで一貫して、本件請求項1の構成のひとつである「速放性組成物」が審査報告書(甲8)の7頁(1)3行目にある速放性製剤(FRG)であることを前提とする主張をしていたのだが、実はそうではなかったという主張を訴訟で行った。出願審査から審決時まで具体的にどのような主張を原告がしてきたのか判決文からは定かではないが、結局本件訴訟における原告の主張は信義則に違反するとはいえないと判断された。

ところで、特許権の延長登録制度において、未だに延長登録要件と権利行使の解釈の整合性が不安定な状況である以上、登録時の主張と権利行使時の主張に食い違いが生じる場合もありうるかもしれない。権利行使の場面も想定して、登録時の主張に気を配って対応することも必要である。

参考:

関連判決:




Nov 24, 2013

2013.08.22 「フュアエスツェー v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10348

化合物出願の新規性: 知財高裁平成24年(行ケ)10348

【背景】

「抗炎症剤,免疫調製剤及び増殖防止剤としての新規化合物」に関する特許出願(特願2003-512197、特表2004-536122)の拒絶審決取消訴訟。争点は本願化合物発明の新規性。

【要旨】

原告は、引用例の記載はその文言どおりに解釈するのが妥当であり、誤記であると断じることはできないと主張したが、裁判所は、引用例記載の構造式中の部分は誤記であると認定し、原告の請求を棄却した。

【コメント】

出願人である4SCによる下記ポスター中に記載された構造情報および米国での特許成立に関するpress releaseの情報を組み合わせれば、本願ファミリーが、炎症性腸疾患(IBD)治療薬として4SCにて開発しているDHODH(dihydroorotate dehydrogenase)阻害剤vidofludimus(4SC-101, SC12267)を保護するものであって、明細書中の実施例26の化合物がそれであることがわかる。

IPDLによれば分割出願は存在していない。もし本願ではvidofludimusの権利化が重要だったのなら、他のクレーム範囲の権利化まで欲を出さずに、その化合物だけに補正して権利を取得すべきだったのではなかろうか。

参考:

Nov 18, 2013

2013.08.09 「デュポン ニュートリション バイオサイエンシズ エイピーエス v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10350

ポリデキストロースの用途発明の表現上の相違と実質的な相違: 知財高裁平成24年(行ケ)10350

【背景】

「満腹化剤としてのバルク剤」に関する特許出願(特願2002-578889、特表2005-508845)の拒絶審決(不服2010-18740)取消訴訟。争点は新規性。

本件補正前の請求項1:
哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む組成物。
本件補正後の請求項1:
哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキストロースを含む組成物。
【要旨】

主文 原告の請求を棄却する。(他略)

原告は、
「食物摂取量を抑制する原因は,例えば食物が食べにくいものであることや,食物が対象者の嗜好性に合わないことといった,食欲の抑制以外の因子があり得ること,すなわち,「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことは当業者の技術常識であった」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことが当業者の技術常識であったとしても,当業者が上記(1)で認定した本願明細書の記載に接した場合,本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは,食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって,「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと認められる。

~したがって,本願補正発明の「哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって,食物摂取抑制有効量のポリデキストロースを含む組成物」と,引用例発明の,ポリデキストロースを10%添加した食餌が,そのかさ効果によりラットの食欲を抑制し,その摂食量を抑制するという点において一致しているから,本願補正発明は引用例に記載された発明であるといえる。」
と判断した。

原告は、
「食欲を抑制する本願補正発明の用途は,食物摂取を抑制する引用例の組成物の用途とは明確に異なるものであるから,引用例には,食欲抑制量のポリデキストロースを含む,食欲抑制のための組成物という,本願補正発明の技術的概念は開示されていない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「食物摂取は,食欲という欲求を満たす行為であるから,食欲を抑制するということは,食物摂取を抑制することにほかならない。本願補正発明は,ポリデキストロースを有効成分とする食欲抑制のための組成物であり,具体的には,ポリデキストロースが食欲を抑制し,食物摂取を抑制するものである。これは,引用例に開示されたポリデキストロースを10%添加した食餌が,そのかさ効果により,ラットの食欲を抑制し,食物摂取を抑制することと実質的に同一である。すなわち,本願補正発明と引用例発明におけるポリデキストロースの用途は,表現は相違するものの,実質的には相違しない。したがって,原告の上記主張は理由がない。」
と判断した。

【コメント】

「特許請求の範囲の減縮」についての判断も議論となったが、問題の本質は、本願発明と引用発明との用途発明における表現上の違いが実質的に相違するのかどうかという点である。
本願補正発明の「食欲抑制」が、引用発明の「食物摂取抑制」と実質的に相違するのかどうか。裁判所は、当業者の技術常識からの観点よりも、当業者が明細書の記載に接した場合にどう考えるかという観点で、両者の実質的な相違の有無を判断した。

用途発明の表現上の相違が実質的な相違といえるかどうかを判断した参考事案としては、例えば下記のような判決がある。

特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性)
1.5.2 特定の表現を有する請求項における発明の認定の具体的手法
(2) 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
例6:「成分Aを有効成分とする肌のシワ防止用化粧料」
「成分Aを有効成分とする肌の保湿用化粧料」が、角質層を軟化させ肌への水分吸収を促進するとの整肌についての属性に基づくものであり、一方、「成分Aを有効成分とする肌のシワ防止用化粧料」が、体内物質Xの生成を促進するとの肌の改善についての未知の属性に基づくものであって、両者が表現上の用途限定の点で相違するとしても、両者がともに皮膚に外用するスキンケア化粧料として用いられるものであり、また、保湿効果を有する化粧料は、保湿によって肌のシワ等を改善して肌状態を整えるものであって、肌のシワ防止のためにも使用されることが、当該分野における常識である場合には、両者の用途を区別することができるとはいえない。したがって、両者に用途限定以外の点で差異がなければ、後者は前者により新規性が否定される。

本願の欧州特許(EP1377280B)は異議申立がなされ、審決で無効となった(T0677/11)。

デュポン press release: 2013.06.27 ポリデキストロースと一日のエネルギー摂取量の減少に関する新研究

Nov 12, 2013

2013.11.11 特許庁 延長登録出願に係る閲覧等の運用の見直し

特許庁は、営業秘密の保護の重要性が高まっていることにかんがみ、特許法第67条の2第2項に規定する資料(延長の理由を記載した資料)につき、特許法186条1項に基づき閲覧等の請求があったときは、当該資料の中に営業秘密が記載されている旨の延長登録出願人からの申出を要件として、閲覧等の制限を行う運用を2009年9月1日より開始しているが運用の見直しの概要の一部を明確にする修正を行った。

2013年11月11日修正の内容
1.営業秘密の保護について
(4)申出の対象書類
申出の対象を明確にするため、申出の対象とならない書類を追記した。

2.延長登録出願人に対する特許法第186条第2項に基づく通知について
(3)申出の一部を認め、一部を認めない場合の通知
申出の一部を認め、一部を認めない場合の延長登録出願人に対する通知について、明確にするため追記した。

<概要図>



参照:
参考:

Nov 10, 2013

2013.07.24 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」 知財高裁平成24年(行ケ)10207

公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性: 知財高裁平成24年(行ケ)10207

被告らが保有する「光学活性ピペリジン誘導体の酸付加塩及びその製法」に関する特許(第4704362号)について、原告がした無効審判を請求不成立とした審決(無効2011-800097号)に対する取消訴訟。公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性が争点。

原審参照: 2012.04.23 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」特許無効審判事件 2011-800097, 2011-800098

判決内容は下記判決と同じ。

2013.07.24 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」 知財高裁平成24年(行ケ)10206

タリオン錠(有効成分: ベシル酸ベポタスチン(bepotastine besilate)): 宇部興産ならびに田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。

参考:

【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について( 2013年8月7日 )

Nov 4, 2013

2013.07.24 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」 知財高裁平成24年(行ケ)10206

公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性: 知財高裁平成24年(行ケ)10206

【背景】

被告らが保有する「光学活性ピペリジン誘導体の酸付加塩及びその製法」に関する特許(第4562229号)について、原告がした無効審判を請求不成立とした審決(無効2011-800097号)に対する取消訴訟。公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の新規性・進歩性が争点。

原審参照: 2012.04.23 「遼東化学 v. 宇部興産・田辺三菱」特許無効審判事件 2011-800097, 2011-800098

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断

1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)について

原告は、
「東京高裁平成3年判決(*1991.10.01 東京高裁平成3年(行ケ)8)及び運用指針(*特許庁の運用指針「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」(昭和50年10月特許庁策定))を根拠として,ラセミ体が開示されていれば,(R)体及び(S)体がそれぞれ開示されていると見るべきであり,特に本件化合物については,光学異性体の存在が甲2公報に明記されているのであるから,(S)体を対象とする本件特許発明が新規性を欠くことは明らかである」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「東京高裁平成3年判決は,昭和53年1月31日を優先日として特許出願された発明の新規性を否定した審決の取消しを求める審決取消訴訟において,一対の光学異性体から成るラセミ体が刊行物に記載されている場合,その一方を単独の物質として提供する発明の新規性を有するか否かが争われた事案について,光学異性体は,一般に,旋光性の方向以外の物理的化学的性質においては差異がないから,ラセミ体の開示をもって光学異性体が開示されているというべきであるとして上記発明の新規性を否定した判決であり,本件特許の優先日(平成8年12月26日)の技術常識を参酌したものでないことは明らかであるから,同判決を本件について適用すべき裁判例ということはできない。
すなわち,先に説示したとおり,本件特許の優先日における技術常識に照らせば,ある化学物質の発明について光学異性体の間で生物に対する作用が異なることを見出したことを根拠として特許出願がされた場合,ラセミ体自体は公知であるとしても,それを構成する光学異性体の間で生物に対する作用が異なることを開示した点に新規性を認めるべきであって,本件特許の優先日における判断として,ラセミ体の開示をもって光学異性体が開示されているとして新規性を否定するのは誤りである。
また,運用指針については,確かに,原告の主張する規定(「立体異性体の存在が自明でない化学物質の発明と,その立体異性体の発明とは,原則として別発明とする。(なお,ここでいう自明とは単純な光学異性体のように,不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合をいう。)」(特-13頁))があり,この規定は,不斉炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合については,立体異性体の存在が自明であるとして,ラセミ体の開示をもって光学異性体の開示があると見るべきである旨を述べているものと見る余地がなくはない。
しかし,上記のとおり,本件特許の優先日における技術常識は,昭和53年当時には未だ技術常識として確立していなかったのであるから,昭和50年当時にも技術常識として確立していなかったことは明らかである。本件特許発明の新規性の有無については,本件特許の優先日における技術常識に照らして判断すべきであり,運用指針の規定を根拠とするのは誤りである。したがって,東京高裁平成3年判決及び運用指針を根拠とする原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

また、原告は、
「本件特許の優先日当時,甲8記載の方法で使用されたカラムを使用して実際に分割に成功した例は多数存在している(甲25,35)として,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法は当業者にとって自明であったというべきであり,甲2公報には甲8記載の方法で本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しい」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲8記載の方法で使用されたカラムを使用して分割できる物質が多数存在するとしても,当該カラムを使用して本件化合物ないしこれと化学構造が類似した化合物を光学分割できる例が知られていない以上,本件特許の優先日当時において,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法は当業者にとって自明であり,甲2公報には甲8記載の方法で本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しいということはできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。」
と判断した。

2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について

裁判所は、以下のとおり判断した。
「本件特許発明1の進歩性に係る審決の判断は,本件化合物をHPLC法により光学分割する際にキラル固定相としてCHIRALCEL ODやCHIRALPAK ADを採用することは当業者が最初に検討するとした点に誤りはないものの(前記(3)),本件化合物の光学分割を行う際に当業者がジアステレオマー法をまず最初に検討するとした点及び本件化合物の光学分割に当たりヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないと判断した点に誤りがあり(前記(1),(2)),したがって,実質的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物は,本願出願時の技術常識を考慮しても,当業者が容易に得ることができなかったものであるとしたことは誤りであるけれども(前記 (4)),本件特許発明1の実質的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物は,審決が認定した甲2発明における本件化合物と比較して当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものであると認定判断した点に誤りはなく(前記(5)),結局のところ,本件特許発明は甲2発明に対して進歩性を有するものとした審決の判断は,結論において誤りはない。よって,原告主張の取消事由2は理由がない。」

【コメント】

裁判所は、公知ラセミ体を構成する一方の光学異性体の進歩性について、構成の観点からは当業者が容易に想到可能としながらも、顕著な効果を有するから進歩性を肯定できると判断した。

では、本件化合物((S)体)の効果とはどのようなものだったかというと・・・
  • ヒスタミンショック死抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルよりED50値として約43倍強い活性を示したこと
  • homologousPCA反応抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルよりED30値として約100倍以上強い作用を示したこと
  • モルモットから摘出した回腸におけるヒスタミン誘発収縮に対する薬理試験において本件化合物の(S)体がそのラセミ体に対して約7倍の活性を示したこと
  • ヒスタミンショック死抑制作用試験において本件化合物の(S)体がラセミ体に対して約3倍の生存率を示したこと

この点から、裁判所は、本件化合物の(S)体は、その(R)体と比較して、当業者が通常考えるラセミ体を構成する2種の光学異性体間の生物活性の差以上の高い活性を有するものということができると結論付けている。

しかし、審決の内容によれば、上記の比較のうち、本件化合物の(S)体とラセミ体とを比較した実験成績証明書では、ID50、IC50等によって比較されていたわけではなく1点のみでしか比較されていなかったようである。

(R)体の薬理活性が低ければ、(S)体が(R)体に比べてpotencyが強い結果になることや、用量反応曲線がシグモイドを示すことは一般的であり、薬理効果を示す閾値付近であれば、ある特定の用量での(S)体がラセミ体(つまり半分の(S)体の量)に比べて2倍以上の効果を示すこともあり得るということは当業者なら通常考えるのではないだろうか。

(例)
  • グルタミン酸 (L)うま味あり;(D)うま味なし
  • アスパルテーム (S,S)砂糖の200倍甘い;(R,R)苦い
  • ペニシリンG (+)抗菌活性あり;(-)抗菌活性なし
  • エストロン (+)女性ホルモン作用;(-)活性なし
  • ドーパ (L)抗パーキンソン病薬;(D)活性なし
  • メントール (-)体のにおい、清涼感が(+)体の約3.5倍、10倍以上
  • プロポキシフェン (+)鎮痛作用;(-)鎮咳作用
  • ナプロキセン (S)鎮痛・抗炎症作用;(R)副作用あり
  • エスゾピクロン(S体) GABAA 受容体複合体Cl−チャネルに対する結合親和性Ki=10nM;ゾピクロン(ラセミ体)Ki=25nM;(R)-ゾピクロン親和性なし
  • レボセチリジンは、もう1 つのエナンチオマーであるデキストロセチリジンと比べ、ヒトヒスタミンH1受容体に対する親和性が30倍高く、解離速度は緩徐である(解離半減時間はデキストロセチリジンの7分に対してレボセチリジンでは115分)
  • エソメプラゾールは、オメプラゾールを光学分割したS-エナンチオマー。S体はR体に比べ、肝臓での初回通過効果を受けにくく、未変化体のAUCはオメプラゾールに比べおよそ1.7倍で推移するため、より強い酸分泌抑制効果を示す。S体とR体の酸分泌抑制作用には差はない(Wikipediaより)。

裁判所はそもそも公知のラセミ体から一方の光学異性体は容易に想到可能と判断しているのだから、効果の顕著性の判断は、その一方は薬理活性が高いという前提に立って、それでも効果が顕著だといえるのかそれとも顕著とはいえないのかという議論を基に判断されるべきだったのは。

参考:

Oct 28, 2013

2013.07.11 「田辺三菱・宇部興産 v. 遼東化学」 知財高裁平成24年(行ケ)10297

ベポタスチン製剤(タリオン錠)発明の進歩性: 知財高裁平成24年(行ケ)10297

【背景】

田辺三菱・宇部興産(原告ら)が保有する「経口投与製剤」に関する特許(3909998号)に対する遼東化学(被告)の特許無効審判の請求において、特許庁が特許を無効とした審決(無効2011-800177号)に対して、原告が審決の取消しを求めた事案。争点は進歩性。

請求項1(本件発明1):
ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩に,マンニトール,白糖,乳糖及びこれらの混合物から選択される賦形剤,並びにポリエチレングリコールを配合した経口投与用固形製剤。
引用発明1:
ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩に,添加剤を配合した経口投与用医薬組成物
一致点:
ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩に,添加剤を配合した経口投与用医薬組成物
相違点1:
本件発明1の医薬組成物は「経口投与用固形製剤」であるのに対し,引用発明1の医薬組成物は,経口投与用であるが「固形製剤」であるとの記載はない点
相違点2:
本件発明1の医薬組成物は,添加剤として「マンニトール,白糖,乳糖及びこれらの混合物から選択される賦形剤,並びにポリエチレングリコール」を配合しているのに対し,引用発明1では,添加剤を具体的に特定していない点
【要旨】

主 文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
裁判所の判断(抜粋)

(1) 相違点1に係る判断について
錠剤,顆粒剤,カプセル剤等の固形製剤は,本件審決も汎用性が高いと指摘するとおり,経口で投与される薬剤の一般的な剤形であるから,引用例1に経口投与用の医薬が開示されていれば,当業者は,この医薬の剤形として,錠剤,顆粒剤,カプセル剤等の固形製剤を直ちに想定するものである。

化合物の薬理的特性を明らかにするために行われる薬理試験において,便宜上,試験物質を溶液又は懸濁液として投与したからといって,当業者が,医薬の剤形として一般的な固形製剤を想定することが妨げられるものではない。
よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 相違点2に係る判断について
引用例1は,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩が吸湿性の少ない結晶であることを見いだし,医薬品として適した性質を有することを開示しているから,引用例1の記載から,水分が医薬品の物理化学的安定性に問題を生じる原因であると理解した当業者であれば,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩を製剤化しようとする場合にも,水分がベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩の製剤の物理化学的安定性に悪影響を及ぼさないように,水分の影響を排除しようと試みるものというべきである。

そして,水分による原薬に対する悪影響を回避するために,水分含有量の低い添加剤を加えることは,当業者が通常選択する手段の1つであるというべきであるから,引用例1には,水分による原薬に対する悪影響を回避するためにこのような添加剤を加えることについて,動機付けが認められる。

また,添加剤配合後の安定性を調査する際に何らかの試行錯誤が必要となることは,むしろ当然であり,水分による悪影響を解決できる添加剤の事例が存在した場合,当業者は,この添加剤があらゆる原薬に対してその効果を発揮するものではないことを前提とした上で,当該添加剤を原薬に適用した場合に効果を発揮しないことが明らかでない限り,まず,当該公知の添加剤を水分による悪影響が予測できる原薬に使用することを試みるものというべきである。

引用例2及び3は,イミダプリル又はビソプロロールを含有する製剤に特定の添加剤を加えることによって,製剤の吸湿水分により引き起こされる原薬の加水分解を抑制し,保存安定性に優れた製剤を得られることが記載されているということができる。

当業者が引用発明1に引用発明2又は3を適用することについては,引用発明1ないし3が原薬の安定性に対する水分による悪影響の回避という共通の課題を有する以上,当該悪影響の詳細や作用機序が明らかではなかったとしても,十分動機付けが存在するものと認めることができる。
(3) 本件発明の効果について
引用例1ないし3には,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩に,マンニトール,及び/又は乳糖並びにポリエチレングリコールを組み合わせた添加剤を使用して製剤化することによって,原薬であるベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩の安定性が損なわれる可能性があることを示唆する記載はないから,上記製剤化によって得られた製剤も,引用発明2及び3と同様に,安定性を有しているものと推測される。
したがって,本件発明が,引用例1ないし3からは予測し得ない効果を奏するものということはできない。

原告らは,引用例1には,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩が単独で存在する場合の安定性しか開示されていないところ,原薬の状態では安定であっても,製剤化により原薬が不安定になる場合もあるから,原薬の安定性から製剤化された際の安定性を予測することはできない,医薬品の開発では,一般に,原薬としては安定な化合物を選択するが,添加剤とともに製剤化した場合に安定性の問題が生じ得るため,医薬製剤における安定性については,異なる処方による製剤と比較する必要があるから,引用例1の記載に基づき,本件発明の効果が予測し得たということはできないなどと主張する。

しかしながら,製剤化により原薬が不安定になる場合があり得るとしても,その頻度は不明であるし,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸に上記各添加剤を配合して固形製剤を製造した場合,原薬が不安定になるという合理的な根拠は示されていないから,原薬が不安定になる場合があり得るという抽象的な可能性のみに基づいて,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩の安定性が損なわれるということはできない。同様に,医薬品の製造において,異なる処方による製剤と比較する必要があることをもって,上記製剤化において,ベポタスチンのベンゼンスルホン酸塩の安定性が損なわれると直ちにいうことはできない。
【コメント】

(1) 相違点1に係る判断について

本件発明1が「固形製剤」である点を原告らは主張はしたものの、審決の判断を崩せなかった(おそらく駄目元での主張だろう)。従属クレームでも、「錠剤」、さらには「フィルムコーティング層を有する」、「コーティング層の皮膜率」などで限定してはいたが、それらも周知慣用の技術であり、このような技術を用いることに格別の創意工夫を要するものではないと判断された。実際、本件明細書には、それらに限定したことによってさらに何らかの効果を示す試験結果の記載はなかった。

(2) 相違点2に係る判断について

当業者であれば課題を解決しようと試みるだろうといえる記載が主引例にあって、副引例にも共通の課題とその解決手段が記載されている場合には、主引例に記載された課題解決のために当業者が通常選択する手段の1つとして副引例の技術手段を試みるということについて、十分動機付けが存在する。裁判所は、動機付けについて、「当該技術手段を適用した場合に効果を発揮しないことが明らかでない限りは」との留保を加えているが、これはいわゆる阻害要因の存在如何によっては動機付けは成立しない場合もあるということだろう。

しかし、本件判決文からすると、引例を組み合わせる動機付けを否定するための阻害要因の主張が認められるハードルは高そうである。「化学構造が異なれば,性質等も異なる」とか、「他の原薬では失敗した」との主張だけでは足りない。当業者において本願発明にとっての課題解決にその技術手段を試みることが困難であると合理的に推測することが可能であるなどの事情が存在することを主張する必要がある。

(3) 本件発明の効果について

発明の効果に関して明細書に記載されているのは、下記のような文言のみであり、比較例の記載は一切ないため、本件発明がどの程度に顕著な効果を有するのかは把握することはできないものだった。
本発明の経口投与用固形製剤を、40℃、瓶密栓(乾燥剤なし)で、6カ月間保存し、ベポタスチン対掌体の増加量をキラルな高速液体クロマトグラフィー法(充填剤:信和化工ULTRON ES-OVM)で測定した結果、本発明の製剤中でのベポタスチン対掌体の増加量は、いずれも0.4%以下であった。この結果より、本発明の固形製剤においては、ベポタスチンのラセミ化はごくわずかであり、ベポタスチンが安定に長期間保存され、変性しないことが確認された(【0028】)。

また、本発明の経口投与用固形製剤のうち、錠剤については製造時の摩損率を打錠時の原料と打錠後の錠剤の重量差から算出したところ、1%未満であり、スティッキング、キャッピング等の打錠障害の発生率が低いことと併せ、本発明の固形製剤は、良好な製造効率で調製することができることも確認された(【0029】)。

本発明の経口投与用固形製剤は、ベポタスチンのラセミ化がごくわずかであり、ベポタスタチンが安定に長期間保存され、変性せず、更に良好な製造効率で調製することができるという効果を有する(【0046】)。
たとえ他の添加剤と比較して安定性が優れていると主張したとしても、裁判所は、そもそも製剤化によって得られた製剤は引用発明2及び3と同様に安定性を有しているものと推測されるとしており、本件発明が予測し得ない効果を奏するものと主張するのはかなり難しいといえるだろう。各添加剤の配合比率等を限定することで、他の比率に比べて顕著な効果を示すといった逃げ道があれば、従属クレームで何とか踏ん張ることができたのかもしれない。

参考:

タリオン錠の組成中の添加物は、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、タルク、ヒプロメロース、マクロゴール、D-マンニトールである。

タリオン錠(有効成分: ベシル酸ベポタスチン(bepotastine besilate)): 宇部興産ならびに田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。

Oct 20, 2013

2013.04.11 「X v. 花王」 知財高裁平成24年(行ケ)10299

実施可能要件・サポート要件を満たす明細書記載とは知財高裁平成24年(行ケ)10299

【背景】

被告(花王)の「液体調味料の製造方法」に関する特許(第4767719)に対する原告(X)の無効審判の請求(無効2011-800233)について、特許庁が同請求は成り立たないとした審決には、訂正要件の認定の誤り(取消事由1)、実施可能要件に係る認定判断の誤り(取消事由2)及びサポート要件に係る認定判断の誤り(取消事由3)があると主張して、原告がその取消を求めた事案。

請求項1(本件発明1):
工程(A):生醤油を含む調味液と,コーヒー豆抽出物,及びアンジオテンシン変換阻害活性を有するペプチドから選ばれる少なくとも1種の血圧降下作用を有する物質とを混合する工程と,
工程(B):工程(A)の後に生醤油を含む調味液と,コーヒー豆抽出物,及びアンジオテンシン変換阻害活性を有するペプチドから選ばれる少なくとも1種の血圧降下作用を有する物質との混合物をその中心温度が60~90℃になるように加熱処理する工程
を行うことを含む液体調味料の製造方法
請求項9(本件発明1):
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法で製造した液体調味料
原告は、取消事由2(実施可能要件に係る認定判断の誤り)について、下記の主張をした。
本件発明が実施可能要件を満たすためには,血圧降下作用を有する物質を液体調味料に配合した場合の風味変化を改善し,かつ,血圧降下作用等の薬理作用を高いレベルで発揮する液体調味料を製造できることが必要である。
ところで,審査基準によれば,一般に,化学物質のように物の構造や名称からその物をどのように作り,どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明については,当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには,通常,1つ以上の代表的な実施例が必要であるし,医薬等のように物の性質等を利用した用途発明においては,通常,用途を裏付ける実施例が必要である。そして,本件発明は,これを実施するに当たって,ACE阻害ペプチドが多岐にわたり,その由来や配合量等によって液体調味料の風味に大きな変化をもたらす可能性があること,ACE阻害活性を示すからといって必ずしも血圧降下作用を示すとは限らないこと(甲29)及び風味変化と血圧降下作用は血圧降下作用を有する物質の配合量とは相反関係にあること,を考慮しなければならない。したがって,本件発明においても,化学分野や医薬分野の発明と同様に,ACE阻害ペプチドを配合した液体調味料の実施例の記載が必須であることは,明らかである。
しかるに,本件明細書は,上記実施例がないから,実際にACE阻害ペプチドを 一定量配合した液体調味料が風味の改善と血圧降下作用の発揮という相反する作用効果を適切に発揮させるために当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要求させるものである。
よって,本件明細書が実施可能要件を満たさず,これに反する本件審決の判断が誤りであることは,明らかである。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2011-800233号事件について平成24年7月13日にした審決のうち,請求項1ないし5及び9に係る部分をいずれも取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その2を被告の,その余を原告の各負担とする。
裁判所の判断(抜粋)

1.取消事由2(実施可能要件に係る認定判断の誤り)について

(1) 実施可能要件について
特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載したもの」でなければならないと規定している。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条4項1号が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提 を欠くことになるからであると解される。
そして,方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明については,明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。また,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(同項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。
(2) 本件発明の実施可能要件の適否について
本件発明1ないし8は,いずれも方法の発明であるが,その特許請求の範囲の記載にある「生醤油」,「コーヒー豆抽出物」,「アンジオテンシン阻害活性を有するペプチド」(ACE阻害ペプチド。)及び「液体調味料」については,いずれも本件明細書に具体的にその意義,製造方法又は入手方法が記載されている。また,本件発明1ないし8の方法は,上記「生醤油」を含む調味料と,「コーヒー豆抽出物」及び「アンジオテンシン阻害活性を有するペプチド」(ACE阻害ペプチド)から選ばれる少なくとも1種の原材料(本件発明1~5)あるいは専ら「コーヒー豆抽出物」(本件発明6~8)を混合し,特定の温度(及び時間)で加熱処理し,あるいは混合しながら同様に加熱処理し,更にその後に充填工程を行うというものであるが,これらの具体的手法は,液体調味料の加熱処理方法や,加熱処理が充填工程の前に行われることを含めて,いずれも本件明細書に記載されている。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載があるといえる。
また,本件発明9は,本件発明1ないし8のいずれかの方法により製造した液体調味料という物の発明であるが,以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載がある以上,当業者は,本件発明9を製造することができるものといえる。
(3) 原告の主張について
本件明細書に本件発明1ないし8の使用を可能とする具体的な記載があり,かつ,当業者が本件発明9を製造することができる以上,本件発明は,実施可能であるということができるのであって,原告の上記主張は,サポート要件に関するものとして考慮する余地はあるものの,実施可能要件との関係では,その根拠を欠くものというべきである。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,本件発明は,特許法36条4項1号の実施可能要件に適合するものであって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
2.取消事由3(サポート要件に係る認定判断の誤り)について

(1) サポート要件について
特許法36条6項1号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したもの」でなければならない旨が規定されている。
特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を 奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,あるいは,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 本件発明のサポート要件の適否について
イ 本件発明は,前記1 に説示のとおり,醤油を含む液体調味料に,ACE阻害ペプチド又はクロロゲン酸類を有効成分とするコーヒー豆抽出物等の血圧降下作用を有する物質を多量に配合すると,血圧降下には有利に働くものの,風味に変化が生じ,その結果,液体調味料の継続摂取が困難になるという課題(より具体的には,血圧降下作用を有する物質を液体調味料に配合した場合に,風味変化を改善するという課題)を解決するため,液体調味料の加熱処理を行う前に血圧降下作用を有する物質であるACE阻害ペプチド(本件発明1~5,9)又はコーヒー豆抽出物(本件発明1~9)を混合し,次いで加熱処理を行うか,あるいはこれらの物質を混合しながら液体調味料を加熱処理するなどの手段を採用することで,これにより,血圧降下作用を有する物質を日常的に摂取する食品である液体調味料に配合した場合の風味変化を改善し,風味の一体感付与を図り,メニューによる風味の振れが少なくて継続的な摂取が容易な,血圧降下作用等の薬理作用を高いレベルで発揮する液体調味料(本件発明9)及びその簡単な製造方法(本件発明1~8)を実現するという作用効果を有するものである。
したがって,本件発明においては,血圧降下作用を有する物質が混合され,上記のように加熱処理された液体調味料の風味変化が改善されるのであれば,その課題が解決されたものとみて差し支えないといえる。

ウ そこで,本件明細書について,その発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を上記のとおり解決できると認識できるものであるか否かを検討すると,そこには,前記1 (1)キ( ア) に記載のとおり,前記イに記載の物質のうちコーヒー豆抽出物を本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混合して加熱処理した場合(本件発明1~9)に,液体調味料の風味変化を改善し,もって本件発明の課題を解決できることが実施例をもって記載されているから,この場合に本件発明の課題を解決することができることが示されているといえる。
なお,血圧降下作用を有する物質としてコーヒー豆抽出物を使用した場合の本件発明1ないし9は,上記課題を解決するものであり,かつ,当該課題を解決する手段である混合及び加熱処理の工程もごく簡単なものである以上,その帰結として,風味の一体感付与を図り,メニューによる風味の振れが少なくて継続的な摂取が容易な液体調味料(本件発明9)及びその簡単な製造方法(本件発明1~8)を実現するという作用効果についても,本件明細書の発明の詳細な説明には開示があるということができる。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,血圧降下作用を有する物質がコーヒー豆抽出物である場合の本件発明1ないし8の方法により製造された液体調味料(本件発明9)が血圧降下作用を有するか否かについての具体的な記載が見当たらない。しかしながら~コーヒー豆抽出物が血圧降下作用を有することは,本件優先日当時に当業者に周知の事項であったものと認められるほか,本件明細書には,前記1(1) キ (ア) に記載のとおり,コーヒー豆抽出物の有効成分であるクロロゲン酸類の液体調味料における含有量が加熱処理によっても変化しないことが記載されていることを併せ考えると,コーヒー豆抽出物を液体調味料と混合して加熱処理をした場合に,コーヒー豆抽出物の有効成分であるクロロゲン酸類は,その活性を失わず,加熱処理後も血圧降下作用を示すものと認められる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,加熱処理等にもかかわらずコーヒー豆抽出物が血圧降下作用の薬理作用を高いレベルで発揮する液体調味料(本件発明9)及びその製造方法(本件発明1~8)を実現するという作用効果について開示があるということができるから,仮に,風味の一体感付与を図り,メニューによる風味の振れが少なくて継続的な摂取が容易な,血圧降下作用等の薬理作用を高いレベルで発揮する液体調味料及びその簡単な製造方法を実現することが本件発明の解決すべき課題であるとしても,血圧降下作用を有する物質としてコーヒー豆抽出物を使用した場合の本件発明1ないし9(特に,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用する本件発明6ないし8)については,本件明細書の発明の詳細な説明に当該課題を解決することができることが示されているといえる。

エ 他方,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記イに記載の物質のうちACE阻害ペプチドを本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混合して加熱処理した場合の実施例の記載がない
~しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明に列記された上記血圧降下作用を有する物質の間には,その化学構造に何らかの共通性を見いだすことができず,その風味にも共通性が見当たらないばかりか,発明の詳細な説明において実施例について記載のあるクロロゲン酸類及びγ-アミノ酪酸は,いずれもACE阻害ペプチドと共通する化学構造を有するものではなく,また,ACE阻害ペプチドと共通する風味を有するものでもないことに加え,上記血圧降下作用を有する物質の風味とその血圧降下作用に関連性がないこともまた,技術常識に照らして明らかである。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に,コーヒー豆抽出物及びγ-アミノ酪酸を本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混合して加熱処理した場合の実施例があり,それにより液体調味料の風味変化を改善し,本件発明の解決すべき課題を解決できることが示されているとしても,これらは,ACE阻害ペプチドを本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混合し加熱処理した場合に,液体調味料の風味変化の改善という本件発明の解決すべき課題を解決できることを示したことにはならない。
その他,本件明細書の発明の詳細な説明には,ACE阻害ペプチドを本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混同して加熱処理をした場合に,上記課題が解決されたことを示す記載はない以上,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は,血圧降下作用を有する物質としてACE阻害ペプチドを使用した場合を包含する本件発明1ないし5及び9が,液体調味料の風味変化の改善という課題を解決できると認識することができるとはいえず,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らして本件発明の課題を解決できると認識できることを認めるに足りる証拠もない。
(3) 原告の主張について
原告は,本件発明が血圧降下作用を有する物質の混合による風味変化の改善と,血圧降下作用の発揮という相反する課題を同時に解決しようとするものであることから,コーヒー豆抽出物についての適切な配合量の上限値及び下限値が存在するはずであるところ,このような配合量の限定がない本件発明は発明の課題が解決できることを当業者が認識できないものであって,サポート要件に違反すると主張する。
しかしながら,本件発明の課題は,前記1 アに説示のとおり,具体的には,血圧降下作用を有する物質を液体調味料に配合した場合に,風味変化を改善するというものであり,液体調味料に配合するコーヒー豆抽出物の量については,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば,配合するコーヒー豆抽出物の量が少なければ血圧降下作用が限定される一方,その量が多ければ風味変化の改善が限定されることを理解することができるから,風味変化の改善等を図るためにその配合量を調整することが容易に可能である。したがって,本件発明(特に本件発明6~8)の特許請求の範囲の記載に配合量の上限値及び下限値の記載がないからといって,本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が,本件発明6ないし8がその解決すべき課題を解決できるものと認識できないとみることはできない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
(4) 被告の主張について
ウ 被告は,本件発明1ないし5及び9がサポート要件を満たす根拠として,ACE阻害ペプチドを添加して加熱処理した液体調味料の風味が改善されたことを示す本件出願後に行われた試験結果の報告書(甲17)が,本件明細書に記載された技術的内容を確認し,かつ,裏付けるものであると主張する。
しかしながら,前記 エに説示のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,その他にACE阻害ペプチドを本件発明における血圧降下作用を有する物質として液体調味料に混同して加熱処理をした場合に,上記課題が解決されたことを示す記載はなく,また,このことを示す技術常識も見当たらない以上,サポート要件の適否の判断に当たって,本件出願後にされた試験の結果を参酌することはできない。
よって,被告の上記主張は,採用することができない。
(5) 小括
以上によれば,血圧降下作用を有する物質として専らコーヒー豆抽出物を使用した本件発明6ないし8は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件を満たすものといえる一方,血圧降下作用を有する物質として,コーヒー豆抽出物に加えてACE阻害ペプチドを使用する場合を包含する本件発明1ないし5及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるが,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものではなく,また,当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいえないから,サポート要件を満たすものとはいえない。
よって,本件発明6ないし8に関する本件審決の判断に誤りはないものの,本件発明1ないし5及び9に関する本件審決の判断には,誤りがあり,取消しを免れない。
【コメント】

本事案における「コーヒー豆抽出物」を使用した製造方法の発明と「ACE阻害ペプチド」を使用した製造方法の発明の明細書の記載を比較しながら、製造方法の発明の実施可能要件とサポート要件をまとめてみた。
  • 製造方法の発明の実施可能要件について
  • 「コーヒー豆抽出物」および「ACE阻害ペプチド」のいずれも本件明細書に具体的にその意義、製造方法又は入手方法が記載されており、それぞれを使用した製造方法の具体的手法は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明にはに記載されていたことから、これに接した当業者が本件製造方法の発明の使用を可能とする具体的な記載がある以上、当業者は本件発明を製造することができるものといえると判断された。

    「コーヒー豆抽出物」を使用した製造方法の発明については実施例の記載があったが、「ACE阻害ペプチド」を使用した製造方法の発明については実施例の記載はなかったが、実施可能要件の判断においては実施例の記載の有無は裁判所の判断では問題とされていない。

    ここから言えることは、製造方法の発明の実施可能要件を満たすためには、原料が入手でき、当業者が製造できるように記載されていればよいという極めてシンプルな条件である。実際に製造できたとか実際に製造物が効果を示したなどという実施例は必ずしも必要とされない。
  • 製造方法の発明のサポート要件について
  • サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、
    ①特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、

    ②発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、あるいは、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か
    を検討して判断すべきとされている。

    「コーヒー豆抽出物」を使用した製造方法の発明と「ACE阻害ペプチド」を使用した製造方法の発明のいずれも、上記①の検討において、「発明の詳細な説明に記載された発明」であると判断された。しかし、「コーヒー豆抽出物」を使用した製造方法の発明については実施例の記載があったが、「ACE阻害ペプチド」を使用した製造方法の発明については実施例の記載はなかったため、この違いが、上記②の検討における「課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か」で判断が分かれ、「ACE阻害ペプチド」を使用した製造方法の発明についてはサポート要件を満たさないと判断された。

    本事案では、「ACE阻害ペプチド」が加熱処理しても課題解決できるのかという疑問点や、「ACE阻害ペプチド」の種類も多岐にわたり共通して課題解決できる技術常識もなかったという事情もあるが、本事案での判決で言えることは、サポート要件を満たすためには、上記①②を満たすことがポイントであり、特に、上記②「課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か」の判断においては、実施例が極めて重要な役割を果たすということである。本事案では、上記①を満たしても上記②を満たしていないために、後出しデータの参酌も認められなかった。

    いわゆる「フリバンセリン事件」では、医薬用途発明について、実施可能要件とサポート要件を特許庁が同視した判断を否定した事件であるが、このときはサポート要件は否定されず、むしろ実施可能要件が否定された。「フリバンセリン事件」では、サポート要件を満たすかどうか事案の当てはめを詳細に検討したわけではなかったので、実施例の有無がサポート要件にどのように影響すべきだったのか明らかではないが、「当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か」という観点を検討する際に、実施例の存在は大きく影響することは間違いない。

参考:




Oct 14, 2013

2013.04.18 「三菱化学 v. Y」 知財高裁平成24年(ネ)10028, 10045

アンプラーグ関連職務発明対価請求事件、消滅時効の進行の中断: 知財高裁平成24年(ネ)10028, 10045

【背景】

原審参照: 2012.02.17 「X v. 三菱化学」 東京地裁平成21年(ワ)17204

【要旨】

主 文
1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,5900万円及びこれに対する平成19年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,全審級を通じて,4分の1を控訴人兼附帯被控訴人の負担とし,その余を被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。
4 この判決は,1(1)に限り,仮に執行することができる。
裁判所の判断
1 相当対価の額について

相当対価の額については原判決の認定判断を支持する。

2 消滅時効の成否について

数量的に可分な債権の一部につき訴えを提起したとしても,当該訴訟においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,当該残部の債権についても消滅時効の進行が中断する。当該訴訟係属中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効が確定的に中断する。
被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えの提起があった場合に,訴えの提起による消滅時効中断の効力は,その一部の範囲についてのみ生じ残部に及ばない旨を判示したものであって,原告が訴状において残部について権利を行使する意思を明示していた本件とは事案を異にする。
被告が指摘する他の最高裁判所判決も,上記判断と抵触するものとはいえない。

3 遅延損害金の始期について

本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は期限の定めのないものと認めざるを得ず,本件各発明が実施された日から5年を経過した日が消滅時効の起算点であるとしても,その翌日からの遅延損害金の発生は認めることができず,催告のあった日の翌日から発生する。
【コメント】

原告が債権の一部につき訴えを提起する際、訴状においてその残部について権利を行使する意思を明示しておけば、残部についても消滅時効の進行を中断させることができるということを示した判決。裁判所は、本事案は原告がその意思を明示していたという点で、過去の最高裁判決の判断と抵触しないとしている。

参考: 昭和34年02月20日 最高裁 昭和31年(オ)388(民集13巻2号209頁)

Oct 7, 2013

2013.04.11 「セルジーン v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10124

レナリドミドとデキサメタゾンの組合せ医薬: 知財高裁平成24年(行ケ)10124

【背景】

「癌および他の疾患を治療および管理するための免疫調節性化合物を用いた方法および組成物」に関する特許出願(特願2004-505051、特表2005-530784、WO2003/097052)の拒絶審決(不服2009-7935号)取消訴訟。
争点は進歩性。

本件補正発明:
治療上有効な量の化合物3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオンまたはその製薬上許容される塩,溶媒和物もしくは立体異性体,および治療上有効な量のデキサメタゾンを含む多発性骨髄腫の治療のための組合せ医薬であって,該化合物は多発性骨髄腫を有する患者に1~150mg/日の量で周期的に経口投与され,該デキサメタゾンは該患者に周期的に経口投与される,上記組合せ医薬
本件審決が認定した引用発明並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおり。

引用発明:
IMiD1,IMiD2あるいはIMiD3のいずれかであるサリドマイドアナログ及びデキサメタゾンを含むヒト多発性骨髄腫細胞の増殖の抑制のための組合せ
一致点:
サリドマイドアナログ及びデキサメタゾンを含むヒトの多発性骨髄腫の抑制のための組合せである点
相違点1:
本件補正発明の組合せにおいては,デキサメタゾンと組み合わされるサリドマイドアナログが「3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール2-イル)-ピペリジン-2,6-ジオン)又はその製薬上許容される塩,溶媒和物もしくは立体異性体」(本願化合物)であるのに対し,引用発明においては,「IMiD1,IMiD2あるいはIMiD3のいずれか」である点
相違点2:
本件補正発明の「組合せ」には,本願化合物及びデキサメタゾンがそれぞれ「治療上有効な量」含まれ,また,「多発性骨髄腫の患者」に投与される「多発性骨髄腫の治療のための組合せ医薬」であるのに対し,引用発明の「組合せ」は,「ヒト多発性骨髄腫細胞」に対して投与される「多発性骨髄腫の抑制のための組合せ」であって,本願化合物及びデキサメタゾンがそれぞれ「治療上有効な量」含まれる点の特定がなされていない点
相違点3:
本件補正発明においては,本願化合物が「1~150mg/日の量で周期的に経口投与され」,また,「デキサメタゾン」が「周期的に経口投与さ れる」のに対し,引用発明においては,これらの点の特定がなされていない点
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
裁判所の判断(抜粋)

(1) 相違点1について
原告は,仮に,引用例に記載されたIMiD1ないし3のうちの1つは,本願化合物に相当することが認識できるとした場合も,実際には,これら3種の化合物のうち,いずれが本願化合物であるかが特定できない場合には,当業者は,引用発明から本件補正発明に到達する試みをしたはずであるとはいえず,引用例には,IMiD1ないし3の3種の化合物のうちのいずれが本願化合物であるかについての示唆はないから,引用発明の記載に基づいて,当業者が本願化合物を容易に選択し得たとはいえないと主張する。
しかし,引用例には,IMiD1ないし3のそれぞれをデキサメタゾンと組み合わせた結果が個別に記載されているのであるから,当業者は,引用例の記載から,本願化合物を含む上記3種の化学構造式のサリドマイドアナログのそれぞれとデキサメタゾンとの組合せが,多発性骨髄腫の抑制のために有用であると理解することができる。
したがって,本願化合物とデキサメタゾンとを組み合わせた多発性骨髄腫の抑制のための組合せ自体が引用例に記載されていることは明らかであり,引用例に,IMiD1ないし3の3種の化合物のうちのいずれが本願化合物であるかについての特定や示唆がなくても,当業者であれば,本願化合物を容易に選択し得たものということができる。
(2) 相違点2について
引用発明のIMiD1ないし3の3種のいずれかとデキサメタゾンとからなる組合せについてのインビトロ試験は,多発性骨髄腫の患者に投与する多発性骨髄腫の治療のための組合せ医薬とすることを念頭において行われたものであることは明らかであるから,インビトロ試験に用いられたそれぞれの組合せを,多発性骨髄腫の患者に投与する多発性骨髄腫の治療のための組合せ医薬とすることは当業者が容易に行い得ることである。そして,その際に,それぞれの医薬成分を治療上有効な量含むものとすることも,当業者が当然に行うことであるというべきである。
(3) 相違点3について
医薬の投与に際し,毒性や副作用等が問題とならない範囲において所望の治療効果が得られるように必要な投与量や投与周期を設定することは当業者が通常行うことであるし,引用例においては,本願化合物と化学構造の類似したサリドマイドを多発性骨髄腫の治療のために患者に1日当たり100~800mg の範囲(平均400mg)で投与したことも具体的に記載されているのであるから,IMiDsの薬理作用がサリドマイドよりも優れることを示す試験結果も考慮して,引用発明における組合せを多発性骨髄腫の患者に治療のために「経口」投与剤とする際に,本願化合物の投与量を本件補正発明で規定する範囲で周期的に投与するものとし,また,デキサメタゾンを周期的に投与するものとすることは当業者が容易になし得ることである。
(4) 作用効果について
原告は,甲15等は,本件補正発明により達成された予想外の結果を確認するものであると主張する。しかし,甲15等に示される効果は,いずれも本願明細書の記載から推論できる範囲を超えたもの,あるいは本件補正発明の効果であるとは直ちには認めることのできないものであるから,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものであり,これを採用することはできない。
原告は,レナリドミドを有効成分として含有する Revlimid の商業的成功は,本件補正発明の進歩性を裏付けるものである旨主張する。しかし,医薬の商業的成功は,製品の技術的特徴だけでなく,価格設定,宣伝,需要動向等の要因が密接に関連するものであり,原告が挙げる Revlimid の売上げが多大なものであるとしても,それが本件補正発明が進歩性を有することを裏付けるものということはできない。
【コメント】

原告が提出した甲15等に基づく作用効果についての原告主張を裁判所は採用しなかった。進歩性を主張するための、いわゆる後出しデータの参酌が許されるかどうかのラインについて、裁判所の判決内容はクリアではなかった。
ところで、審決は、その作用効果についての原告の主張を下記のように判断している。
請求人の主張する実施例6.5.6(段落【0209】)には、「再発したまたは不応性の多発性骨髄腫の治療」として、「メルファラン(50mg、静脈内、本発明の免疫調節性化合物(約1~150mg、経口、毎日)、およびデキサメタゾン(40mg/日、経口、1~4日目)を併用して4サイクルまで4~6週間ごとに治療を施した。本発明の免疫調節性化合物を毎日およびデキサメタゾンを毎月投与することよりなる維持療法を、疾患進行の間、継続させた。」ことが記載され、「メルファランおよびデキサメタゾンと組み合わせて本発明の免疫調節性化合物を用いた療法は、非常に活性が高く、一般的には、他の方法では予後不良である極度の前治療の施された多発性骨髄腫患者で許容されるものであった。」と記載されている。
ここで、上記段落には、「本発明の免疫調節性化合物」が具体的にどのような化学構造を有しているのか記載されていないところ、「本発明の免疫調節性化合物」に関しては、本願明細書の段落【0027】~【0052】に詳述され、代表的な化合物に関し、段落【0031】に一般式I(化学式は省略する)の化合物が、段落【0035】に一般式II(化学式は省略する)の化合物が、段落【0049】に一般式III(化学式は省略する)の化合物がそれぞれ記載されているように、「本発明の免疫調節性化合物」には、多くの化合物群が包含されている。
してみると、実施例6.5.6において多発性骨髄腫の治療のために患者に投与されている免疫調整性化合物が、(現在の請求項1に特定された)本願化合物を当然に意味するものとは認められない。そして、当該段落の記載が本願化合物を使用した組合せ医薬による治療結果を示すものであると直ちには認めることもできないから、本願補正発明の効果は本願明細書の記載からは明らかとはいえない。
また、仮に、実施例6.5.6において多発性骨髄腫の治療のために患者に具体的に投与されている免疫調整性化合物が本願化合物であるとしても、上記実施例においては、組合せ医薬を使用した場合の効果に関して、「非常に活性が高く」、「極度の前治療の施された多発性骨髄腫患者で許容されるものであった。」と、定性的に記載されているに過ぎず、従来からの療法に比べて組合せ医薬が具体的にどの程度優れているのかを当業者は理解できないところ、本願化合物とデキサメタゾンを含む組合せ医薬が再発したあるいは不応性の患者に対し有効である点の効果が引用例から予測される範囲内のものであることは本願補正発明の効果についての検討においてすでに述べたとおりであるから本願補正発明の効果は格別なものとはいえない。

参考:

本件には分割出願が多数存在している。
  • 特願2006-288966(特開2007-008966)拒絶査定不服審判(決定却下): 肺癌または強皮症用途
  • 特願2009-116363(特開2009-191072)拒絶査定不服審判(係属中):非ホジキンリンパ腫(NHL)用途
  • 特願2012-273326(特開2013-049734)出願審査請求済み: 非ホジキンリンパ腫(NHL)用途
  • 特願2009-116367(特開2009-173683)拒絶査定不服審判(係属中):多発性骨髄腫用途
  • 特願2013-038222(特開2013-126999)出願審査請求済み: 多発性骨髄腫用途
抗造血器悪性腫瘍剤のレブラミド®カプセル(Revlimid®Capsules)(一般名:レナリドミド水和物(lenalidomide)は、米国Celgene Corporationが創製した免疫調節薬(IMiDs)。セルジーン(株)が製造販売している。同社は、再発又は難治性の多発性骨髄腫に対して、レナリドミドとの併用で用いる経口デキサメタゾン4mg製剤(レナデックス®錠4mg)についての製造販売承認申請もレナリドミドと同時期に行い、2010年6月に承認を取得している。

Sep 29, 2013

2013.03.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10284

引用発明の1成分にことさら着目することの動機づけ: 知財高裁平成24年(行ケ)10284

【背景】

「強筋肉剤,抗炎症剤」に関する特許出願(特願2002-303877、特開2004-182599)の拒絶審決取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤
審決が認定した引用例1に記載された発明(引用発明)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおり。
  • 引用発明の内容:
    「シムノールサルフェート及びダイズインを含む組成物であって,環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物。」
  • 一致点:
    両発明は「A.シムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボン配糖体,のA,およびBの成分を含むことを特徴とする組成物」である点。
  • 相違点1:
    本願発明が成分「C.」として「クルクミン」を含有するのに対し,引用発明はこれを含まない点。
  • 相違点2:
    本願発明が「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」との特定がなされているのに対し,引用発明が「環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物」である点。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-13517号事件について平成24年6月18日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所は、取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について、
「引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,~いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。」
と判断した。

これに対し、被告は、
「ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。
したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。」
と判断した。

【コメント】

そもそも本願発明と引用発明とはその課題も用途も相違しており(相違点2)、引用発明から出発して、引用発明の1成分にことさら着目することの動機づけはなく、従って、他の引用発明と組み合わせる動機付けもなく、本願用途発明に容易に想到することはできないと判断された。機械的に安易な引用発明どうしの組合せまたは後知恵的な組合せは排除されるべきである。引用発明から出発して、引用発明の課題から、他の引用発明を組み合わせて本願発明に到ることができるかどうか、という裁判所のロジックは、欧州のProblem-Solution approachに類似しており、わかりやすい。

本件は、差し戻され、再度拒絶理由通知が出されたようであり、今後の推移がどうなるか興味深い。

Sep 22, 2013

2013.03.25 「本州化学工業 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10245

製造方法の進歩性判断: 知財高裁平成24年(行ケ)10245

【背景】

「1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法」に関する特許出願(特願2002-526737, WO02/22536)の拒絶審決(不服2009-22810)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
(a)フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを,酸触媒の存在下に,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのフェノールアダクト結晶を含むスラリー中で反応させる反応工程と,

(b)反応終了後,得られたスラリー状の反応混合物をアルカリにてpH5~8の範囲に中和すると共に,加温して,反応混合物を溶液とする中和工程と,

(c)上記溶液を冷却し,得られた1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのフェノールアダクト結晶を濾過する一次晶析濾過工程と,

(d)上記一次晶析濾過工程で得られたアダクト結晶を晶析溶媒に加温溶解した後,冷却して,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの結晶を濾過する二次晶析濾過工程と,

(e)上記二次晶析濾過工程で得られた,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを含む濾液の少なくとも一部を上記反応工程に循環する濾液循環工程と

を含むことを特徴とする1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法。
審決では、引用発明と本願発明とは上記(a)から(e)工程を含むことを特徴とする1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法という点が一致し、一方、相違点は4つ認定された。本判決では主に相違点4についての判断が問題となった。

相違点4:
濾液循環工程において,濾液の少なくとも一部が,本願発明においては,「1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを含む」状態で「反応工程に循環」されるのに対し,引用発明においては,そのような特定がなされていない点。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-22810号事件について平成24年5月18日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
審決は,相違点4について,周知例4~6の記載からみて,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンやアセトン等のカルボニル化合物を反応させてビスフェノール類を製造する技術において,分離された濾液を製造目的化合物であるビスフェノール類を含んだ状態で上記「反応」を行う工程に「循環」させることが周知であることを前提として,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると判断する。
この点,確かに,上記周知例4ないし6,乙2によれば,一般に,化学物質の製造工程において,目的物質を主に含む画分以外の画分にも目的物質や製造反応に有用な物質が含まれる場合には,それをそのまま,あるいは適切な処理をした後に製造工程で再利用して無駄を減らすことは周知の技術思想であって,実際,フェノールとカルボニル化合物からビスフェノール類を製造する場合においても,さまざまな具体的製造方法において,途中工程で得られた有用物質を含む画分が再利用されているものと認められる。
しかし,ある製造方法のある工程で得られた,有用物質を含む画分を,製造方法のどの工程で再利用するかは,製造方法や画分の種類に応じて異なるものと認められる。この点,引用発明においては,再結晶濾液を再利用できる工程として,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる前反応及び後反応のみならず,中和後の結晶化工程や再結晶工程が想定されるところ,審決には,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させるという構成に至る理由が示されていない(なお,乙2を参照してもこの点が明らかになるとはいえない。)。
これに対し,被告は,周知例4~6が引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であることから,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると主張する。
しかし,目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても,具体的な製造方法が異なれば,再利用すべき画分も,その再利用方法も異なり,それぞれの場合に応じた検討が必要となるから,被告の上記主張は採用することができない。
以上のとおり,引用発明に周知例4~6に示されるような周知技術を適用することにより,相違点4に係る構成に容易に想到できたとはいえず,審決の相違点4に係る容易想到性判断には誤りがある。
【コメント】

引用発明が記載された刊行物1(特開2000-128820号公報、出願日1998年10月20日、優先権主張なし)は、本件原告が出願人である出願であり、2000年5月9日に公開された。それから約4ヵ月後の2000年9月11日に優先権の主張を伴わないPCT出願である本件出願を出願人はしたわけである。
刊行物1出願は、日本(JP3774789(B2))のほか、その日本出願を基礎にパリ優先権を主張して出願された欧州(EP0995737(B1))および米国(US6284931(B1))で特許が成立している。
一方、本件出願(特願2002-526737, WO02/22536)も、欧州(EP1318135(B1))および米国(US6673975(B1))で特許が成立している。国際調査報告で刊行物1はA文献として挙げられたが、EPOもUSPTOも何の拒絶理由を与えることなく特許を与えたようである。

本件裁判所の判断について、「目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても、具体的な製造方法が異なれば、それぞれの場合に応じた検討が必要である。」という裁判所の言及は理解できる。しかし、一方で、引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であるという点から、引用発明に周知例4~6に示されるような周知技術を適用するという特許庁のロジックにも一定の理由があるように思える。
一体、どこまでの「検討」が求められるのか。「それぞれの場合に応じた検討が必要となる」という理由だけで被告の主張は採用することができないとするのではなく、具体的にどの点が足りなかったのか裁判所には示してほしかった。

Sep 14, 2013

2013.03.27 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10354

非外傷性の皮膚の陥没: 知財高裁平成24年(行ケ)10354

【背景】

「老齢関連の軟組織の欠陥の増強と修復」に関する特許出願(特願2001-534337、特表2003-517858、WO01/32129)の拒絶審決(不服2009-005175)取消訴訟。争点は進歩性。

本願発明:
生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に,患者の組織の欠陥補修や増殖のための医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細胞を使用する方法であって,前記欠陥は,括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され,前記方法は,生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物を,欠陥の場所の内部又はそれに接近した場所における組織の中に挿入する,ことを特徴とする方法。
審決が認定した本願発明と引用発明の相違点は、本願発明では,「欠陥」が「括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され」るのに対し、引用例発明では、これらに相当するものが「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,又は光線性頬しわ」である点、であった。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
裁判所の判断(抜粋)
引用例には,引用例発明における治療の対象である「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,及び光線性頬しわ」という欠損以外に,「非外傷性の皮膚の陥没」に対しても,下部隣接組織内に懸濁物(すなわち,自己の皮膚繊維芽細胞)を注入して修復できることが記載されている(特許請求の範囲第1,2,5項)。ここで,技術常識及び「陥没」の語義(乙3)からして,「非外傷性の皮膚の陥没」は,皮膚に外傷はなく,表皮,真皮,皮下組織のうち少なくともいずれかに欠陥がある状態やその部位の皮膚が薄くなっていることを意味すると,当業者には理解できるから,本願発明における補修の対象である「真皮欠損,皮下欠損」,「皮欠損,皮膚薄弱化」に該当するということができる。そうすると,引用例には,本願発明における補修の対象となる欠陥についても記載されているといえるから,「本願発明における真皮欠陥,皮下欠陥,皮欠陥,又は皮膚薄弱化のいずれかに該当する『非外傷性の皮膚の陥没』を改善するため,しわ,陥没瘢痕,及び口唇の発育不全にかえて,『非外傷性の皮膚の陥没』に対して引用例発明を用いてみることは,当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして,引用例発明はしわ等に対して治療効果を示すことを明らかにしており,非外傷性の皮膚の陥没に対しても同様に効果を示すことが期待できるものといえるところ,本願発明が引用例発明からみて格別優れた作用を示すことは明らかにされていない。」とした審決の相違点に関する判断にも誤りは認められない。
したがって,いずれにしても,原告の上記主張は失当である。
【コメント】

医療関連の発明なので取り上げたが、特に参考になる点はなさそう。

出願人が同じ最近の判決:

2013.03.25 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10324

Sep 9, 2013

2013.03.25 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10324

免疫原性の問題を解決するために培養技術を置換するという動機付け: 知財高裁平成24年(行ケ)10324

【背景】

「真皮,皮下,および声帯組織欠損の増大および修復」に関する特許出願(平成10年特許願第539578号、特表2001-509064、WO98/40027)の拒絶審決取消訴訟。争点は進歩性。

本願発明:
患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該医療組成物は該患者の欠損に導入するためのものであり,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,非自己由来血清に暴露されることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,方法。
審決が認定した本願発明と引用発明の相違点は、本願発明では、「非自己由来血清に暴露させることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす」と特定されているのに対して、引用発明では「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」としている点、であった。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 本判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
裁判所の判断(抜粋)
当裁判所は,以下のとおり,本願発明の相違点に係る構成は容易に想到することができるとした審決の判断に誤りはないと解する。
引用刊行物Aには,非ヒト血清(ウシ胎児血清)中で継代した後に行われる無血清培地中での培養は,「存在すれば被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こすであろう,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去する」目的であることが明示されている。
すなわち,引用発明において,無血清培地中で細胞をインキュベートする目的は,被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こす危険性のある,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去することにある。したがって,免疫原性の問題を解決するために,本願発明が採用する「非自己由来血清に暴露させることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす」との方法を採用することに,何らの阻害要因はないものというべきである。
以上のとおり,「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」との技術を,免疫原性の問題を回避し得る乙1ないし乙3に記載の技術に置換することは,当業者が容易になし得たことと認めるのが相当である。
【コメント】

医療関連の発明なので取り上げたが、特に参考になる点はなさそう。

出願人が同じ最近の判決:

2013.03.27 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10354

Sep 2, 2013

2013.03.19 「メリアル v. フジタ製薬」 知財高裁平成24年(行ケ)10037

発明が未完成かどうか: 知財高裁平成24年(行ケ)10037

【背景】

原告が保有する「ペット寄生虫の治療・予防用組成物」に関する特許(第3765891号)を無効とした審決の取消訴訟。争点は、訂正後の請求項1ないし34に係る発明の特許法29条1項柱書該当性の有無及び実施可能要件違反の有無。

請求項1(訂正発明1):
(下線を付した部分は本件の争点となる構成要件の部分であり「構成要件1F(2)」と称する。)
下記の(a)~(d)から成り,
式(I)の化合物は1~20%(w/v)の割合で存在し,
結晶化阻害剤は1~20%(w/v)の割合で存在し且つ(c)で定義した溶媒中に式(I)の化合物を10%(W/V),結晶化阻害剤を10%添加した溶液Aの0.3ml をガラススライドに付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,
有機溶媒(c)は組成物全体を100%にする比率で加えられ,
有機共溶媒(d)は(d)/(c)の重量比(w/w)が1/15~1/2となる割合で存在し,有機共溶媒(d)は水および/または溶媒 c)と混和性がある,
動物の身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散する,直ちに使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療または予防するための組成物:
(以下(a)、(b)、(c)及び(d)は省略)
【要旨】

主 文
特許庁が無効2010-800061号事件について平成23年9月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。

裁判所の判断(抜粋)
1 取消事由1(特許法29条1項柱書該当性の判断の誤り)について

訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,当業者は構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の目的,技術的性格に従って,①ガラススライドの大きさ,②温度・湿度の調節及びこれに伴う空気の流れの制御方法,③相対湿度を適宜選択することができ,試験条件いかんで試験結果が一定しないわけではないから,訂正発明1ないし34が未完成の発明であるとはいえない。したがって,甲第5,第6号証の試験結果を根拠に,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験結果が一定しないなどとして,訂正発明1ないし34が未完成の発明であり,特許法29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」に当たらないとした審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由1は理由がある。

2 取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について

前記1で認定したとおり,当業者は,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や特許請求の範囲の記載及び技術常識に基づいて,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験を実施し,殺虫活性物質(a),結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c)から成る溶液Aのうちから上記構成要件を充足するものを選別することができるから,訂正発明1ないし34に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を実施可能な程度に明確かつ十分なものである。したがって,これに反する審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。
【コメント】

特許庁審決では、構成要件1F(2)に記載された試験方法では、異なる結果が得られる場合があるから、訂正発明1はその技術内容がその目的とする技術的効果を得ることができないものであり、発明としては未完成のものであると判断した。

しかし、裁判所は、結局、当業者が、明細書の記載や技術常識に基づいて、構成要件1F(2)に記載された試験の目的や技術的性格に従って試験条件を適宜選択すれば、一定の試験結果が得られないとはいえない、と判断した。

発明が完成しているかどうか、実施可能要件を満たすかどうかの判断において、特許庁のロジックは、異なる結果が得られる場合があるかどうかという観点のみであるのに対して、裁判所のロジックは、適宜選択すれば一定の結果が得られるかどうかという観点も加味しており、このロジックの違いが結論に大きく影響した。


Aug 25, 2013

2013.03.18 「タカラバイオ v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10252

引用発明の物が本来有していていた作用・効果についての出願後の知見は進歩性判断に参酌できるか: 知財高裁平成24年(行ケ)10252

【背景】

「耐熱性リボヌクレアーゼH」に関する特許出願(特願2006-167465、特開2006-288400)の拒絶審決(不服2009-17666号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1(本願補正発明):
下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有することを特徴とするポリペプチド:
(a)配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(c)配列表の配列番号46に示される塩基配列を有する核酸にコードされるポリペプチド。

審決は、引用文献3にRNase HIIPkの発明が記載されているとし、本願補正発明との一致点及び相違点は以下のとおりであると認定した。
  • 一致点: 両者は、耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有するポリペプチドである点。
  • 相違点: 本願補正発明のポリペプチドが、配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するものであるのに対し、引用文献3の図1に記載されるRNase HIIPkのアミノ酸配列の70%弱は、本願補正発明のものと一致しているものの、その余の配列は相違している点。

【要旨】

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断

1 取消事由2(顕著な作用効果の看過(その1))について

原告は、
「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができるという基質切断特異性の点で,本願補正発明のポリペプチドが引用文献3に記載された発明と比べて格別な違いがないとした審決の判断は,その顕著な作用効果を看過した誤りがある」

「本願補正発明のTli RNase HIIは,本願明細書の実施例1ないし実施例7に記載される様々な耐熱性RNase HIIのアミノ酸配列の間で保存されている部分をもとにしてオリゴヌクレオチドプライマーを合成し,遺伝子をクローニングして得られたものであり,これらの耐熱性RNase HIIが共通の性質を有すると推認できること,~当業者は,当該実施例において見出された耐熱性RNase HIIにおける「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうち,RNA鎖を含む鎖を切断する」という基質切断特異性に関し,~69%前後のアミノ酸配列相同性を有する耐熱性RNase HIIであれば,当該特性を有していると予測することができ,本願明細書の上記記載から,本願補正発明のTli RNase HIIも,基質切断特異性を有すると推認できる」
と主張した。しかし、裁判所は、
「2つのポリペプチドの間のアミノ酸配列相同性が65%であることは,全体のアミノ酸配列の3分の1以上が異なることでもあり,一般的には,このような場合に両者の構造上の差異が小さいとは言い難く,両者のアミノ酸配列相同性が65%であるというだけでは,両者が同じ活性を有しているか否かは不明と考えざるを得ない(当業者が,両者のアミノ酸配列相同性が65%であれば同じ活性を有していると解し得ることを認めるに足りる証拠はない。)。~仮に,基質切断特異性を有する可能性が示唆されるとしても,上記のとおり~アミノ酸配列相同性が65%であるというだけでは,両者が同じ活性を有しているか否かは不明であるから,このような場合,実験等による確認なくしては,基質切断特異性の有無は不明というほかなく,本願補正発明が基質切断特異性を有しているとまでは認められない。加えて,原告主張のように,本願出願時までに基質切断特異性を有する耐熱性RNaseHは報告されておらず,そのようなものは存在しないであろうという技術常識があるならば,なおさらである。以上のとおり,本願明細書の記載から,本願補正発明が,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断するという基質切断特異性を有していることが推認されるとはいえない。」
と判断した。

2 取消事由1(引用文献3に記載された発明の認定の誤り)について

原告は、
「本願明細書の記載に基づいて引用文献3に記載された発明の酵素の基質切断特異性を推認できるとした審決の判断は誤りである,本願の出願後に公表された文献である甲2に基づいて引用文献3に記載された発明の酵素の基質切断特異性を推認できるとした審決の認定は誤りである」
と主張した。裁判所は、
「一般に,発明の進歩性の判断は,審査を行う時点ではなく,出願日(優先権主張がなされている場合は優先権主張日)を基準になされるものであるから(特許法29条2項),発明の進歩性の有無を判断するにあたって参酌することができる知見は,出願前までのものであって,このことは,発明の構成の容易想到性判断のみならず,発明の効果の顕著性の判断に関しても同様である。また,特許出願された発明に関する明細書に記載された知識に基づいて出願前の発明ないし技術常識を認定することは,後知恵に基づいて特許出願された発明の進歩性を判断することになりかねず,同項の趣旨に反するものであり,許されない。
本件において,審決が,本願明細書の記載に基づいて,「引用文献3に記載されるRNase HIIPkも同様に,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができると推認することができ」とし,あるいは,本願出願後の文献である甲2に基づいて,「本願補正発明のポリペプチドが,引用文献3に記載されるRNase HIIPkと比べて,格別な違いはない」とした判断手法は,誤りである。」
と、審決の判断手法が誤りであるとしたが、
「上記1のとおり,「本願補正発明が基質切断特異性を有する」との効果が認められないので,このことを考慮すると,上記の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,原告の取消事由1の主張も理由がない。」
と判断した。

3 取消事由3(顕著な作用効果の看過(その2))について

原告は、「甲9に記載された実験データを参酌すべきである」と主張したが、裁判所は、「本願補正発明について,~を示すという効果が本願明細書に開示されているとはいえないから,その効果について示す上記実験データは本願明細書の記載から当業者が推認できる範囲を超えるものであって,参酌することはできないというべきである」と判断した。

【コメント】

1.本件では、顕著な作用効果は明細書から推認できないとされ、審判中に提出された実験データも参酌することはできないと判断された。引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、明細書にどこまで記載されていなければならないか、を考える上で参考になる一事例かもしれない。

そもそも本願補正発明についての進歩性判断で出願人が主張した効果である基質特異性を有していることが明細書には開示されていなかったわけであり、実施可能要件の問題も潜在していたのではないかと思われるが争点にはならなかった。本願補正発明(配列番号47のアミノ酸配列を有するポリペプチド)について、米国では特許(US 7,422,888)となっている。米国の審査で最後まで問題になったのは進歩性よりも実施可能要件だった。
Claim 2. An isolated and purified polypeptide, comprising the amino acid sequence of SEQ ID NO:47 and having thermostable ribonuclease H activity.
2.取消事由1(引用文献3に記載された発明の認定の誤り)について、裁判所は、特許庁の判断手法は後知恵に基づいて進歩性を判断することになりかねず、同項の趣旨に反するものであり許されないと判断している。一方、特許庁の主張は下記のとおりであった。
 引用文献3に記載された発明であるRNase HIIPkは,引用文献3に記載されたその構造(化学構造であるアミノ酸配列)により特定できるものであり,その構造を有するものが本来有している作用・効果については,物の発明である引用発明を特定する事項として認定する必要はない。言い換えれば,物の作用・効果を物の発明を特定する事項として認定したところで,それはその物であれば当然に有する作用・効果であるから,物の発明として何ら相違することにはならない。
また,引用文献3に記載されたRNase HIIPkが「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断する」という基質切断特異性を有するか否かは引用文献3において具体的に確認はされていないが,基質切断特異性は,RNase HIIPkが本来的に有している性質である(甲2)。原告が主張する本願補正発明の基質切断特異性に係る効果は,引用文献3に記載された発明の物が本来有していた効果と同様の効果を単に発見したに過ぎないものである。
そして,引用文献3に記載された発明の物が本来どのような作用・効果を奏するものであったのかの認定において,出願後の知見や文献を考慮することは認められるべきである。なぜならば,一般に,技術的貢献のない発明に対しては保護を与えないという進歩性の要件の趣旨からみて,効果の顕著性により進歩性を認めるのは,引用発明との構成の相違により新たな効果が奏される場合に限られるべきであり,そうでなければ,引用発明の物が本来有していた作用・効果を後に発見したことにより,後に出願された発明が進歩性を有することになり不合理な結果となるからである。

上記特許庁の主張に対し、「発明の進歩性の有無を判断において、出願前の発明ないし技術常識を認定するにあたって参酌することができる知見は、出願前までのものであって、このことは、発明の構成の容易想到性判断のみならず、発明の効果の顕著性の判断に関しても同様である」というのが今回知財高裁が示した規範である。

特許庁の上記出張はなんだか筋が通っていない。上記特許庁の主張の1段落目、2段落目、3段落目がそれぞれかみ合っていない。進歩性の判断は、あくまでも出願前の引用発明から本願発明が思いつくのかどうかが原則だから、出願後の知見を参酌することはやはり勇み足であろう。引用発明の物が本来有していた作用・効果を後に発見したことにより、後に出願された発明が、発明の構成として相違しないにもかかわらず、特許されるのは確かに不合理である。しかし、それは効果の相違がどうであれ、構成の相違に関わる新規性の問題であり、進歩性の問題ではない。

Aug 18, 2013

2013.03.13 「X v. Y」 知財高裁平成24年(行ケ)10059

共同出願違反かどうか: 知財高裁平成24年(行ケ)10059

【背景】
被告(Y)が保有する「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」に関する特許第3277180号に対する無効審判請求について、「本件審判の請求は,成り立たない。」との特許庁の審決に対する審決取消訴訟。争点は共同出願違反(特許法38条)かどうか。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
1 共同発明者性の認定について
ある特許発明の共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。

ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である。
特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。
したがって,本件においては,審判請求人である原告が,自らが共同発明者であること,すなわち,本件発明1~6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて,主張立証責任を負担するものというべきである。
【コメント】

医薬関連の事案ではないが、共同発明者となるための要件を再確認する意味で取り上げた。特許法には発明者、ましてや共同発明者の定義は明記されていない。従って、発明者または共同発明者に該当するのかしないのかは、過去の判決例や学説に依拠せざるを得ない。

参考:

本件原審である特許庁審決でも、共同発明者の解釈について下記観点から、本件各発明の特徴的部分は何であるか検討され、そして請求人が本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したといえるか否かについて検討された。
共同発明者とは、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、複数の者がともに発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した場合における複数の者をいう(例えば、知財高裁平成19年(行ケ)第10278号)。
そして、上記で引用された知財高裁平成19年(行ケ)第10278号によれば、「本件各発明の内容」及び「本件各発明に関与した者の関与の程度」を総合考慮して、共同発明者の一人に該当するか否かを考察するとされている。
発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより,発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。

Aug 12, 2013

2013.02.28 「武田薬品 v. 後発品メーカー」 東京地裁平成23年(ワ)19435, 19436

組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力: 東京地裁平成23年(ワ)19435, 19436

【背景】

「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる医薬」に関する特許権(特許第3148973号)及び「ピオグリタゾンとビグアナイド剤とを組み合わせてなる医薬」に関する特許権(特許第3973280号)を有する原告(武田薬品)が、被告(後発品メーカー)に対し、原告製品であるアクトスの後発品の販売差止め等を求めた事件。アクトスの添付文書には、上記薬剤と組み合わせて使用する場合に関して【効能・効果】欄及び【用法用量】欄に記載があり、被告後発品の添付文書にも同様に記載があった。
本事件での注目すべき争点は、原告の「組み合わせてなる医薬」に関する特許権の効力が、組み合わせて処方されることが想定される被告製品(アクトスの後発品)の製造・販売にまで及ぶかどうかである。
なお、大阪地裁でも本判決と同様の結論に到る判決が出されている(2012.09.27 「武田薬品 v. 沢井製薬」 大阪地裁平成23年(ワ)7576, 7578)。

【要旨】

主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断(抜粋)
1 争点1(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を侵害するか否か)について

(1) 争点1-1(被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
被告らは,被告ら各製剤を製造販売しているが,さらに進んで,これと本件各併用薬とを組み合わせてなる医薬を生産等したことを認めるに足りる証拠はない。~医師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように使用するかについては,その裁量によって決するものであり,また,薬剤師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように調剤するかについては,医師の処方せんによらなければならないものであるし,さらに,患者が被告ら各製剤と本件各併用薬とを服用するのは,医師や薬剤師の指示や指導に従って行うに過ぎないから,これらをもって,被告らが医師,薬剤師,患者の行為を道具として利用したとか,これを支配したということはできない。

(2) 争点1-2(被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
教唆をする者は,自らが発明を実施するわけではないし,前記(1)に判示したところに照らせば,被告らが,医師や薬剤師等の医療関係者を教唆したということもできない。

(3) したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,本件各特許権を侵害しない。

2 争点2(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法101条2号に掲げる行為に該当するか否か)について

特許法101条2号における「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念で,発明の構成要素以外にも,物の生産に用いられる道具,原料なども含まれ得るが,発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,これに当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるようなもの,言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものが,これに該当すると解するのが相当である。そうであるから,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
(中略)
これによると,本件各発明が,個々の薬剤の単独使用における従来技術の問題点を解決するための方法として新たに開示したのは,ピオグリタゾンと本件各併用薬との特定の組合せであると認められる(ピオグリタゾンや本件各併用薬は,それ自体,本件各発明の国内優先権主張日より前から既に存在して2型糖尿病に用いられていたのであり,本件各発明がピオグリタゾンや本件各併用薬自体の構成や成分等を新たに開示したということができないのは当然である。)。そうすると,ピオグリタゾン製剤である被告ら各製剤は,それ自体では,従来技術の問題点を解決するための方法として,本件各発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものに当たるということはできないから,本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められない。
(中略)
本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬という,いずれも既存の物質を組み合わせた新たな糖尿病予防・治療薬の発明であり,このような既存の部材の新たな組合せに係る発明において,当該発明に係る組合せではなく,単剤としてや,既存の組合せに用いる場合にまで,既存の部材が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当すると解するとすれば,当該発明に係る特許権の及ぶ範囲を不当に拡張する結果をもたらすとの非難を免れない。このような組合せに係る特許製品の発明においては,既存の部材自体は,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものに過ぎず,既存の部材が当該発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情がない限り,既存の部材は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しないと解するのが相当である。被告ら各製剤の添付文書には,前記前提事実のとおり,【効能・効果】,【用法・用量】欄に,~についての記載はあるが,本件各併用薬との併用投与を推奨するような記載や被告ら各製剤が本件各併用薬との組合せのためのものであるとの趣旨の記載はないから,添付文書の記載内容をもって,被告ら各製剤が本件各発明のためのものとして製造販売等されているということはできず,その他,特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
(中略)
ピオグリタゾン自体は,本件各発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものであり,これが本件各発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情があることは認められないから,被告ら各製剤は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるということはできない。
(中略)
したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,特許法101条2号に掲げる行為に該当しない。

【コメント】

東京地裁では、特許法101条2号に関して「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるかどうかのみを判断したが、大阪地裁では、他の観点でも判断しており、組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力を考える上で非常に参考になる。

参考:

Aug 3, 2013

2013.02.28 「マクニール v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10205

ニコチンの口腔内投与製剤: 知財高裁平成24年(行ケ)10205

【背景】

「口腔内投与のためのニコチンを含む液体医薬製剤」に関する特許出願(特願2003-556064、特表2005-518392、WO2003/055486)の拒絶審決(不服2009-7293)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤
本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおり。
  • 引用発明1:ニコチンを緩衝液中に含有することを特徴とする、純ニコチンを含有するスプレーであることを特徴とする、薬剤
  • 一致点:ニコチンを含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのものであり、そして緩衝されていることを特徴とする液体医薬製剤
  • 相違点1:本願発明では緩衝によりアルカリ性化されているのに対し、引用発明1では単に緩衝されることが明らかにされるのみである点
  • 相違点2:本願発明ではニコチンがニコチン遊離塩基であるとされるのに対し、引用発明1では単にニコチンとされるのみである点

【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-7293号事件について平成24年1月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
3 相違点に係る判断の誤りについて
(1) 相違点1に係る判断の誤りについて
(略)
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。
ウ 阻害事由について
(ア) 英国特許出願公開第2030862号~は,ニコチンエアゾールに係る文献であるところ,同文献には,希塩酸の添加によりニコチンの塩基についてpH6に滴定し,酸性リン酸塩を用いると,酸性及び緩衝能により,ニコチンによるひりひりする刺激が減少することが記載されている。
(イ) 医学文献(甲11~)には,ニコチン点鼻液には,緩衝されていないpH5の2%のニコチン水溶液が用いられることが記載されている。
(ウ) 特表平7-504164号公報(甲13)は,禁煙補助組成物に係る文献であるところ,同文献には,ニコチン又はニコチン塩を,リン酸緩衝液等の溶剤に溶かし,鼻の粘膜から最適に吸収されるようにpHを約5から約6.5の間(約5.8が望ましい)に調節することが記載されている。
(エ) 特開昭59-135878号公報(甲14)は,鼻投与用喫煙代替物に係る文献であるところ,同文献には,pH7以上ではニコチン含量の10%以上が遊離塩基の形であり,このニコチンを吸収すると,強い局所感覚(灼熱感,強いくしゃみ等)がしばしば経験されるが,2ないし6のpHであれば,このような生理的反応は低減されることが記載されている。
(オ) 引用例2には,揮発性,苦くて舌を焼くような味,粘液膜上での刺激性の感覚,酸素面前での分解というニコチンの遊離塩基の有する問題が,ニコチンの塩形態,すなわち酸付加塩又は金属塩を使用することによって部分的に緩和されたことが記載されている。また,引用例3にも,スプレーによるニコチンの投与があまり快適ではない旨が記載されている。
(カ) 以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。
(略)
オ 小括
以上によると,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。よって,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである。

(2) 相違点2に係る判断の誤りについて
(略)
イ 本件審決は,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということができる以上,相違点2に係る構成も,必然的に当業者が容易に想到し得たものということができるとするが,本件審決の判断は,前記のとおり,その前提を欠くものというほかない。
したがって,本件審決の相違点2に係る判断は誤りである。

(3) 小括
よって,本願発明は,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【コメント】

阻害事由を認めた事例。本判決を受け、差戻審理の結果、特許となった(特許5264036)。

欧州では、EP1458388B1として特許となったが、Niconovum ABによりoppositionが提出され、appealまで到った(T1914/11)。日本で問題となった進歩性ではなく、欧州では記載要件の点で無効とされた点が興味深い。McNeil ABとNiconovum ABとの関係では、Niconovum社のZonnic®Mouth sprayの製造販売に対して争いがある(あった)ようである。McNeil ABもNICORETTE®QuickMistを販売している。