Jul 13, 2013

2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10177

共通する成分が主成分か不純物かは、容易想到性判断に影響を与えるか: 知財高裁平成24年(行ケ)10177

【背景】

被告(昭和電工)が有している「洗浄剤組成物」に関する特許権(特許4114820号)について、原告(アクゾノーベル)がした無効審判請求(無効2009-800152)を不成立とした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
(3) 容易想到性の判断
ア 本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分から構成され,かつ,グリコール酸ナトリウムは主成分である3成分の一つである。これに対し,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物は,上記3成分の一つである水酸化ナトリウムを含まない点で,その構成成分が異なるのみならず,グリコール酸ナトリウムはグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を得る際に,二次的反応により生成される不純物であり,金属イオン封鎖剤の封鎖力を高める効果を奏しない不要な成分であると解されていた点で,その技術的意義において,相違する。

イ また,本件発明1は,前記のとおり,3成分を主成分とした洗浄剤組成物である。そして,本件明細書の表1によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,従来品であるEDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏すること,グリコール酸ナトリウムの配合によりその洗浄効果が高まっていることが認められる。これに対し,引用発明1bにおける金属イオン封鎖剤組成物は,グルタミン酸二酢酸塩類とグリコール酸ナトリウムを含み,水酸化ナトリウムを含まないものであるが,甲1文献のFig1及び2によると,この金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力はTPPよりは優れているものの,EDTA四ナトリウム塩よりは劣る。
以上によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分とすることにより,その相乗効果によって,EDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏するといえる。

ウ 以上によれば,主成分として,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物は,それぞれの相乗効果により優れた洗浄性能を有するところ,甲1文献にはこの点について,何らの示唆もない。また,甲2ないし6にも,この点について何の示唆もない。したがって,洗浄剤組成物が上記3成分を主成分とし,それによって,洗浄効果を高める効果がある点では,当業者が予測し得ない効果であると認められ,本件発明1は,甲1文献や甲2ないし6から,当業者が容易に想到し得ないものといえる。
のみならず,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムについて,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物と理解され,金属イオン封鎖剤の金属イオン封鎖力を高める観点からは不要ないし好ましくない成分である旨記載されていた。そうすると,甲1文献に接した当業者は,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩の収率を高めることを目的として,グリコール酸ナトリウムの生成を抑制しようとする動機付けはあっても,グリコール酸ナトリウムを洗浄剤組成物の必須要素として活用することに想到することはないということができる。

エ この点に対し,原告は,グルタミン酸二酢酸塩とグリコール酸ナトリウムを含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1を含む洗浄剤組成物は既に知られており,グルタミン酸二酢酸塩にグリコール酸ナトリウムを組み合わせると洗浄効果が上がることを後に確認しても,その効果は,公知の洗浄剤組成物において既に内在しているものであることから,効果の点から本件発明1の進歩性を認めるのは不合理であると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。
甲1文献には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩60重量%,グリコール酸ナトリウム12重量%を含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1は開示されているが,OS1を含む洗浄剤組成物に水酸化ナトリウムが含まれることは開示されていない。
本件発明1(水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分とする洗浄剤組成物)は,本件特許の優先日前に公知ではなく,本件発明1における前記効果が甲1文献等公知の洗浄剤組成物から予測できたものとすることはできない点は,前記のとおりである。
以上のとおり,本件発明1の洗浄剤組成物は,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物と異なる成分により構成されるものであるが,加えて,本件は,当業者の間では,従来,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物であると認識されていたことに対して,本件発明1では,逆に,グリコール酸ナトリウムを組み合わせることが,洗浄効果を上げるに当たって有益である旨を確認して,必須の構成としたものであり,その点は,本件発明1の進歩性を認める上で,参酌されるべき一つの要素となり得るといえる。
したがって,原告の主張は採用の限りでない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件発明1の効果は格別のものであり,本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではないなどとして,本件発明1の容易想到性を否定した審決の判断に,誤りはない。
【コメント】

本願発明と引用発明とで共通する成分が、本願発明では主成分として位置づけられるているのに対し、引用発明では不純物として扱われていた場合、容易想到性の判断にどのように影響するか考える事例としては興味深い。
本件では、本願発明は引用発明と対比して異なる成分(水酸化ナトリウム)から構成される場合であったため、両発明に共通する部分である「グリコール酸ナトリウム」が、単なる不純物にすぎないか否かは、発明の課題解決の上で、重要な技術的意義を有し、容易想到性の判断に影響を与える余地があったといえる(対比: 2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10221知財高裁)。

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