Aug 3, 2013

2013.02.28 「マクニール v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10205

ニコチンの口腔内投与製剤: 知財高裁平成24年(行ケ)10205

【背景】

「口腔内投与のためのニコチンを含む液体医薬製剤」に関する特許出願(特願2003-556064、特表2005-518392、WO2003/055486)の拒絶審決(不服2009-7293)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤
本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおり。
  • 引用発明1:ニコチンを緩衝液中に含有することを特徴とする、純ニコチンを含有するスプレーであることを特徴とする、薬剤
  • 一致点:ニコチンを含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのものであり、そして緩衝されていることを特徴とする液体医薬製剤
  • 相違点1:本願発明では緩衝によりアルカリ性化されているのに対し、引用発明1では単に緩衝されることが明らかにされるのみである点
  • 相違点2:本願発明ではニコチンがニコチン遊離塩基であるとされるのに対し、引用発明1では単にニコチンとされるのみである点

【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-7293号事件について平成24年1月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
3 相違点に係る判断の誤りについて
(1) 相違点1に係る判断の誤りについて
(略)
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。
ウ 阻害事由について
(ア) 英国特許出願公開第2030862号~は,ニコチンエアゾールに係る文献であるところ,同文献には,希塩酸の添加によりニコチンの塩基についてpH6に滴定し,酸性リン酸塩を用いると,酸性及び緩衝能により,ニコチンによるひりひりする刺激が減少することが記載されている。
(イ) 医学文献(甲11~)には,ニコチン点鼻液には,緩衝されていないpH5の2%のニコチン水溶液が用いられることが記載されている。
(ウ) 特表平7-504164号公報(甲13)は,禁煙補助組成物に係る文献であるところ,同文献には,ニコチン又はニコチン塩を,リン酸緩衝液等の溶剤に溶かし,鼻の粘膜から最適に吸収されるようにpHを約5から約6.5の間(約5.8が望ましい)に調節することが記載されている。
(エ) 特開昭59-135878号公報(甲14)は,鼻投与用喫煙代替物に係る文献であるところ,同文献には,pH7以上ではニコチン含量の10%以上が遊離塩基の形であり,このニコチンを吸収すると,強い局所感覚(灼熱感,強いくしゃみ等)がしばしば経験されるが,2ないし6のpHであれば,このような生理的反応は低減されることが記載されている。
(オ) 引用例2には,揮発性,苦くて舌を焼くような味,粘液膜上での刺激性の感覚,酸素面前での分解というニコチンの遊離塩基の有する問題が,ニコチンの塩形態,すなわち酸付加塩又は金属塩を使用することによって部分的に緩和されたことが記載されている。また,引用例3にも,スプレーによるニコチンの投与があまり快適ではない旨が記載されている。
(カ) 以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。
(略)
オ 小括
以上によると,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。よって,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである。

(2) 相違点2に係る判断の誤りについて
(略)
イ 本件審決は,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということができる以上,相違点2に係る構成も,必然的に当業者が容易に想到し得たものということができるとするが,本件審決の判断は,前記のとおり,その前提を欠くものというほかない。
したがって,本件審決の相違点2に係る判断は誤りである。

(3) 小括
よって,本願発明は,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【コメント】

阻害事由を認めた事例。本判決を受け、差戻審理の結果、特許となった(特許5264036)。

欧州では、EP1458388B1として特許となったが、Niconovum ABによりoppositionが提出され、appealまで到った(T1914/11)。日本で問題となった進歩性ではなく、欧州では記載要件の点で無効とされた点が興味深い。McNeil ABとNiconovum ABとの関係では、Niconovum社のZonnic®Mouth sprayの製造販売に対して争いがある(あった)ようである。McNeil ABもNICORETTE®QuickMistを販売している。


No comments: