Dec 4, 2013

2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許の誤記の訂正: 知財高裁平成24年(行ケ)10268

【背景】

「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許(第3457962号)の訂正審判(訂正2011-390107号)についての審決(訂正不成立)取消訴訟。

請求項15:
配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,
残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットら
の番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。
本件訂正審判における訂正事項は以下のとおり、いずれも誤記の訂正を目的とするものであった。
  • 訂正事項1,2: 配列表の配列番号8に示すアミノ酸配列において、第125番目のLys及び126番目のGlyは、誤記により挿入されたものであるからこれを削除し、その削除に伴い配列表における配列の長さについて「453アミノ酸」と記載したものを「451アミノ酸」と訂正
  • 訂正事項3: 「アスパラギン酸」は、「アスパラギン」の誤記であるから訂正

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 訂正事項1及び2の許否に係る判断の誤り(取消事由1)について
本件明細書に接した当業者は,配列番号8のアミノ酸配列にカバットらの番号付けを対応させ,配列番号8のアミノ酸配列が,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献におけるヒトIgG1の配列と齟齬があると認識し,この2つのアミノ酸は誤って挿入されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的としたものと認められる。
そして,配列番号8のアミノ酸配列から125番のLys,126番のGlyを削除したアミノ酸配列は,当業者において,Lys,Glyの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる以上,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえないと解して差し支えない。また,配列番号8のアミノ酸配列は請求項15における発明の構成の一部であるが,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
上記訂正事項2に係る削除に伴って,配列表における配列の長さについて「453」と記載したものを「451」とする訂正も,同様に,誤記の訂正を目的としたものと認められ,明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
よって,これらの点に関する審決の判断には誤りがある。

(2) 訂正事項3の許否に係る判断の誤り(取消事由2)について
~以上のとおり,請求項15及び本件記載部分中の「残基60がアスパラギン酸で置換され」が「残基60がアスパラギンで置換され」の誤記であると認定すること
はできない。また,当業者が,技術常識に照らして,これを誤記と認識するとは認められないことから,訂正事項3に係る訂正により,請求項15に係るアミノ酸は
技術的に異なるアミノ酸となり,さらに,この訂正は,実質的に請求項15に係る特許請求の範囲を変更するものとなる。
よって,訂正事項3が許されないとした審決の判断に誤りはない。

(3) 以上のとおり,訂正事項3に関する審決の判断に誤りはないから,審決が取り消されるべきであるとする原告の主張は理由がないことになる。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものである。同日付で本件特許権の存続期間の延長登録出願(2009-700042)に関する審決取消訴訟判決が出されている(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309)。この延長登録出願が、「処分の対象とされたオマリズマブ(遺伝子組換え)は本件請求項15の発明特定事項の一部を備えていない」との理由で拒絶されたため本件訂正審判が請求されたというのが経緯である。アミノ酸配列が発明の構成の一部である場合、その配列の記載ミスや分析ミスは命取りとなる。

ゾレア(Xolair):
ゾレア皮下注用75mg及び150mgは、有効成分としてオマリズマブ(遺伝子組換え)を含有し、米国Genentech社により創薬され、スイス・Novartis AGがライセンス・インした世界初のヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤である。
オマリズマブ(遺伝子組換え)は、好塩基球及び肥満細胞の細胞膜上にある高親和性IgE受容体(FcεRI)に対するヒトIgEの結合部位(Cε3)を抗原として認識し、IgEと抗原抗体複合体を形成することによりIgEのFcεRIへの結合を阻止する。その結果、好塩基球及び肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミン等の炎症性メディエーターの放出を抑制し、I型アレルギー反応を阻止する。
オマリズマブ(遺伝子組換え)の凍結乾燥製剤であるゾレア皮下注用は、皮下注射にて、既存治療により喘息症状をコントロールできない難治の気管支喘息の治療薬として用いられる。ゾレア皮下注用は、2002年にオーストラリアで初めて承認を取得し、その後、米国、欧州など世界90ヵ国以上でアレルギー性喘息治療薬として承認されている(2013年7月末現在)。

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